(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自動車の車両長さ方向に延び、前記車両長さ方向における両端部が、前記車両長さ方向から見た場合に互いに異なる位置となるようにオフセットした衝撃吸収部材であって、
フランジ部で互いに結合されたハット形状の、アウター部材およびインナー部材を備え、
前記アウター部材および前記インナー部材の、前記車両長さ方向に対する垂直な切断面の重心から前記インナー部材の頂部までのオフセット方向の長さGinと、該切断面の重心から前記アウター部材の頂部までのオフセット方向の長さGoutとの比(Gin/Gout)を重心比と定義したとき、
前記両端部のうち、前記車両長さ方向から見た位置が車外側にオフセットした端部側から、車内側にオフセットした端部側に向かって前記重心比が大きくなる、自動車の衝撃吸収部材。
自動車の車両長さ方向に延び、前記車両長さ方向における両端部が、前記車両長さ方向から見た場合に互いに異なる位置となるようにオフセットした衝撃吸収部材であって、
フランジ部で互いに結合されたハット形状の、アウター部材およびインナー部材を備え、
前記アウター部材および前記インナー部材の、前記車両長さ方向に対する垂直な切断面において、前記インナー部材のハット高Hinと、前記アウター部材のハット高Houtとの比(Hin/Hout)をハット高比と定義したとき、
前記両端部のうち、前記車両長さ方向から見た位置が車外側にオフセットした端部側から、車内側にオフセットした端部側に向かって前記ハット高比が大きくなる、自動車の衝撃吸収部材。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<第1の実施形態>
第1の実施形態で例示する衝撃吸収部材は、
図3のような形状を有するフロントサイドメンバー(レフト側)の衝撃吸収部材である。
図12に示すように第1の実施形態における衝撃吸収部材1は、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し、車両幅方向Wの車外側に変位W
0だけオフセットした形状となっている。なお、
図12ではフロントレフト側の衝撃吸収部材1を例示しているが、フロントライト側の衝撃吸収部材としては、例えばフロントレフト側の衝撃吸収部材1を車両長さ方向Lから見て左右反転した形状のものが適用される。
【0025】
衝撃吸収部材1はアウター部材2とインナー部材3からなる。
図13〜
図15に示すようにアウター部材2とインナー部材3の両部材は、車両長さ方向Lに対し垂直な切断面の形状が、いわゆるハット形状を有しており、鉛直方向Vに突出するフランジ部2a、3aが形成されている。アウター部材2とインナー部材3は、互いのフランジ部2a、3aの面同士が合わされて結合される。これにより衝撃吸収部材1は車両長さ方向Lから見て閉断面形状となる。また、
図12に示すようにアウター部材2とインナー部材3は、フランジ部2a、3aが突出する方向(第1の実施形態では鉛直方向V)から見たときに、アウター部材2とインナー部材3の結合面Jが直線状となるように形成されている。以降の説明では、アウター部材2とインナー部材3の結合面(ここでは、フランジ部2aとフランジ部3aとの結合面)を単に“結合面J”と称する場合もある。なお、アウター部材2のフランジ部2aとインナー部材3のフランジ部3aの結合方法としては通常スポット溶接が用いられるが、レーザー溶接やアーク溶接、シーム溶接等の他の結合方法を用いても良い。
【0026】
図13に示すように衝突側端部Eの車両長さ方向Lから見た断面においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
out(ハット高H
outとも称す)が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
in(ハット高H
inとも称す)よりも長くなっている。
図13〜
図15に示すように、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
outは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて短くなっている。一方で、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
inは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて長くなっている。そして、
図15に示すように非衝突側端部E’においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
out’が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
in’よりも短くなっている。なお、“アウター部材の頂部”とは車両長さ方向Lから見て、アウター部材2の、フランジ突出方向(例えば第1の実施形態では鉛直方向V)に対する垂直な方向(例えば第1の実施形態では車両幅方向W)におけるフランジ部2aから最も遠い部位のことを指す。同様に“インナー部材の頂部”とは車両長さ方向Lから見て、インナー部材3の、フランジ突出方向に対する垂直な方向におけるフランジ部3aから最も遠い部位のことを指す。
【0027】
本一例の場合、インナー部材3のハット高H
inと、アウター部材2のハット高H
outとの比(以下、ハット高比H
in/H
outと称す)は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かうに従い漸増する。衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かう方向に対するハット高比H
in/H
outの増加率は任意に設定できる。例えば、ハット高H
in、H
outの和を一定、ハット高比H
in/H
outの増加率を一定にする。この場合、フランジが突出する方向から見たフランジの形状(結合面J)は、直線となり、シンプルな形状のアウター部材2及びインナー部材3により衝撃吸収部材1を形成できる。なお、“ハット高比H
in/H
outの増加率”は、衝突側端部Eにおけるハット高比H
in/H
outをA、非衝突側端部E’におけるハット高比H
in/H
outをB、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さをL1としたときに、(B−A)/L1で算出される。ハット高比(H
in/H
out)の増加率は0.033以上であることが好ましい。これにより衝撃吸収部材1の衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0028】
このような形状の衝撃吸収部材1の場合、車両長さ方向Lに垂直な切断面の、非衝突側端部E’における重心Gは、衝突側端部Eにおける重心G
0に対し、車両幅方向Wにおける衝撃吸収部材1内のフランジ部2a、3aの位置の変化に伴い、車両幅方向Wの車外側に移動することになる。
図13〜
図15に示すように衝撃吸収部材1の重心Gの位置は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、衝突側端部Eの重心G
0の位置から車両幅方向Wの車外側に移動していく。なお、
図14および
図15においては、
図13に示す衝突側端部Eにおける重心G
0の位置を点線で示している。
【0029】
第1の実施形態の衝撃吸収部材1には、前面衝突時において
図12に示すような、鉛直方向Vの車内側から見て反時計回りの曲げモーメントMが生じる。一方、第1の実施形態の衝撃吸収部材1は、前述の通り、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて重心の位置が車両幅方向Wの車外側に移動していくような形状を有している。これにより、曲げモーメントMが、車両長さ方向Lに対して一定であると仮定した場合、
図16に示す応力分布図のように曲げモーメントMによって衝突側端部Eで発生する衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車内側の引張応力は、非衝突側端部E’で発生する引張応力に比べて小さくなる。即ち、
図8〜
図10のような衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心の位置が変わらず、
図11のような応力分布となる従来の衝撃吸収部材51に比べて、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車内側の引張応力が小さくなる。これにより衝突側端部Eにおける車両幅方向Wの車内側が座屈しにくい状況が改善され、軸圧潰変形が誘発されやすくなる。さらに、曲げモーメントMによって非衝突側端部E’で発生する衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車外側の圧縮応力は、衝突側端部Eで発生する圧縮応力に比べて小さくなる。これにより非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車外側は、非衝突側端部E’における従来の衝撃吸収部材51の車両幅方向Wの車外側よりも圧縮されにくい状況になり、非衝突側端部E’における曲げ変形が抑制されやすくなる。なお、
図16中の1点鎖線は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に至る、車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心を結んだ中立軸Nである。
【0030】
以上の通り、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第1の実施形態では車両幅方向W)の車外側に位置する場合、第1の実施形態のように車両長さ方向Lに垂直な切断面における重心の位置が、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両幅方向Wの車外側に移動するような構成の衝撃吸収部材1であれば、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。換言すると、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車内側の引張応力と、非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車外側の圧縮応力の差を小さくすることで、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。
【0031】
なお、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し車両幅方向Wの車外側に位置する場合の、衝突側端部Eにおけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
outと、非衝突側端部E’におけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
out’は、W
out≧W
out’×2.8を満たすことが好ましい。これにより、衝突側端部Eの車両幅方向Wの車内側における車両長さ方向Lの引張応力と非衝突側端部E’の車両幅方向Wの車外側における車両長さ方向Lの圧縮応力の差を十分に小さくすることができ、W
out<W
out’×2.8となる場合に比べて衝撃吸収性能を向上させることができる。また、W
outとW
out’のより好ましい関係は、W
out≧W
out’×3である。
【0032】
また、W
out’は、W
out’≧8mmを満たすことが好ましい。これにより、アウター部材2の曲げ剛性,強度を大きくすることができる。その結果、W
out’<8mmの場合に比べて非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。W
out’のより好ましい範囲は、W
out’≧10mmである。
【0033】
そして、W
out≧W
out’×3を満たし、かつ、W
out’≧10mmを満たす衝撃吸収部材1であれば衝撃吸収性能を更に向上させることができる。
【0034】
また、衝撃吸収性能の向上の観点からは、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1が300mm≦L1≦650mmの範囲であって、かつ、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の車両幅方向Wのオフセット量W
0とL1の比が0.017≦W
0/L1≦0.087を満たすことが好ましい。L1<300mm、またはW
0/L1<0.017の範囲では非衝突側端部E’を曲げるモーメントを抑える効果が小さく、非衝突側端部E’の曲げ変形抑制効果が小さい。また、650mm<L1、または0.087<W
0/L1の範囲では、衝突側端部Eを曲げるモーメントが過大であり、曲げ変形の抑制効果が小さくなる。なお、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1のより好ましい数値範囲は400mm≦L1≦600mmである。また、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の車両幅方向Wのオフセット量W
0とL1の比のより好ましい数値範囲は0.035≦W
0/L1≦0.070である。
【0035】
<第2の実施形態>
第2の実施形態の衝撃吸収部材も第1の実施形態と同様にフロントサイドメンバー(レフト側)の衝撃吸収部材である。また、
図17〜
図20に示すように第2の実施形態の衝撃吸収部材1は、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し、車両幅方向Wの車外側に変位W
0だけオフセットしているという点で第1の実施形態と同様である。一方、第2の実施形態では、衝撃吸収部材1の形状が第1の実施形態のものとは異なっている。具体的に説明すると、
図12〜
図15に示す第1の実施形態ではインナー部材3が矩形断面部材にフランジ部3aが形成されるようなハット形状であったところ、第2の実施形態では、インナー部材3が多角形断面部材にフランジ部3aが形成されるようなハット形状となっている。
【0036】
図18〜
図20に示すように第2の実施形態の衝撃吸収部材1も第1の実施形態と同様、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、アウター部材2の車両幅方向長さが短くなり、インナー部材3の車両幅方向長さが長くなっている。
【0037】
このため、第2の実施形態の衝撃吸収部材1の場合も、非衝突側端部E’における重心が、衝突側端部Eにおける重心に対し、車両幅方向Wにおける衝撃吸収部材1内のフランジ部2a、3aの位置の変化に伴い、車両幅方向Wの車外側に移動する。これにより、
図18〜
図20にも示すように衝撃吸収部材1の重心Gの位置は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、衝突側端部Eの重心G
0の位置から車両幅方向Wの車外側に移動していく。なお、
図19および
図20においては、
図18に示す衝突側端部Eにおける重心G
0の位置を点線で示している。
【0038】
衝突側端部Eの重心と非衝突側端部E’の重心がこのような位置関係となることで、曲げモーメントMが、車両長さ方向Lに対して一定であると仮定した場合、
図21に示す応力分布図のように曲げモーメントMによって衝突側端部Eで発生する車両幅方向Wの車内側の引張応力は、非衝突側端部E’で発生する引張応力に比べて小さくなる。さらに、曲げモーメントMによって非衝突側端部E’で発生する車両幅方向Wの車外側の圧縮応力は、衝突側端部Eで発生する圧縮応力に比べて小さくなる。したがって、第2の実施形態の衝撃吸収部材1も第1の実施形態と同様に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制しつつ、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができる。これにより、衝撃吸収性能を高めることが可能となる。なお、
図21中の1点鎖線は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に至る、車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心を結んだ中立軸Nである。
【0039】
以上の通り、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第2の実施形態では車両幅方向W)の車外側に位置する場合、第2の実施形態のように車両長さ方向Lに垂直な切断面における重心の位置が、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両幅方向Wの車外側に移動するような構成の衝撃吸収部材1であれば、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。換言すると、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車内側の引張応力と、非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車外側の圧縮応力の差を小さくすることで、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。
【0040】
<第3の実施形態>
第3の実施形態で例示する衝撃吸収部材は、
図22のような形状を有するフロントサイドメンバー(レフト側)の衝撃吸収部材である。
図23に示すように第3の実施形態における衝撃吸収部材1は、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し、車両幅方向Wの車内側に変位W
0だけオフセットした形状となっている。なお、
図23ではフロントレフト側の衝撃吸収部材1を例示しているが、フロントライト側の衝撃吸収部材としては、例えばフロントレフト側の衝撃吸収部材1を車両長さ方向Lから見て左右反転した形状のものが適用される。
【0041】
衝撃吸収部材1はアウター部材2とインナー部材3からなる。
図24〜
図26に示すようにアウター部材2とインナー部材3の両部材は、第1の実施形態と同様に車両長さ方向Lに対し垂直な切断面の形状が、いわゆるハット形状を有しており、鉛直方向Vに突出するフランジ部2a、3aが形成されている。アウター部材2とインナー部材3は、互いのフランジ部2a、3aの面同士が合わされて結合される。また、
図23に示すようにアウター部材2とインナー部材3は、フランジ部2a、3aが突出する方向(第2の実施形態では鉛直方向V)から見たときに結合面Jが直線状となるように形成されている。
【0042】
図24に示すように、第3の実施形態では、衝突側端部Eの車両長さ方向Lから見た断面において、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
out(ハット高H
outとも称す)が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
in(ハット高H
inとも称す)よりも短くなっている。
図24〜
図26に示すようにアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて長くなっている。一方で、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて短くなっている。そして、
図26に示すように非衝突側端部E’においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
out’が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
in’よりも長くなっている。
【0043】
第3の実施形態の場合、前面衝突時に衝撃吸収部材1に生じる曲げモーメントMは、
図12に示す第1の実施形態の衝撃吸収部材1に生じる曲げモーメントMとは逆回りのモーメントである。このため、第3の実施形態の衝撃吸収部材1は第1の実施形態の場合と異なり、車両幅方向Wの車内側に曲がっていく。
【0044】
一方、第3の実施形態の場合、非衝突側端部E’における重心は、衝突側端部Eにおける重心に対し、車両幅方向Wにおける衝撃吸収部材1内のフランジ部2a、3aの位置の変化に伴い、車両幅方向Wの車内側に移動することになる。このため、
図24〜
図26にも示すように衝撃吸収部材1の重心Gの位置は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、衝突側端部Eの重心G
0の位置から車両幅方向Wの車内側に移動していく。なお、
図25および
図26においては、
図24に示す衝突側端部Eにおける重心G
0の位置を点線で示している。
【0045】
衝突側端部Eの重心と非衝突側端部E’の重心がこのような位置関係となることで、曲げモーメントMが、車両長さ方向Lに対して一定であると仮定した場合、
図27に示す応力分布図のように曲げモーメントMによって衝突側端部Eで車両幅方向Wの車外側に発生する引張応力は、非衝突側端部E’で発生する引張応力に比べて小さくなる。さらに、曲げモーメントMによって非衝突側端部E’で車両幅方向Wの車内側に発生する圧縮応力は、衝突側端部Eで発生する圧縮応力に比べて小さくなる。
【0046】
その結果、
図8〜
図10のような衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心の位置が変わらず、
図11のような応力分布となる従来の衝撃吸収部材に比べて、非衝突側端部E’における曲げ変形の誘発を抑制することが可能になると共に、衝突側端部Eにおける車両幅方向Wの車外側が座屈しにくい状況も改善することができる。即ち、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第3の実施形態では車両幅方向W)の車内側に位置する場合、第3の実施形態のような衝撃吸収部材1であれば、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制しつつ、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができる。これにより、衝撃吸収性能を高めることが可能となる。なお、
図27中の1点鎖線は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に至る、車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心を結んだ中立軸Nである。
【0047】
以上の通り、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第3の実施形態では車両幅方向W)の車内側に位置する場合、第3の実施形態のように車両長さ方向Lに垂直な切断面における重心の位置が、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両幅方向Wの車内側に移動するような構成の衝撃吸収部材1であれば、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。換言すると、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車外側の引張応力と、非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の車両幅方向Wの車内側の圧縮応力の差を小さくすることで、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。
【0048】
なお、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し車両幅方向Wの車内側に位置する場合の、衝突側端部Eにおけるインナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
inと、非衝突側端部E’におけるインナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの車両幅方向長さW
in’は、W
in≧W
in’×2.8を満たすことが好ましい。これにより、衝突側端部Eの車両幅方向Wの車外側における車両長さ方向Lの引張応力と非衝突側端部E’の車両幅方向Wの車内側における車両長さ方向Lの圧縮応力の差を十分に小さくすることができ、W
in<W
in’×2.8の場合に比べて衝撃吸収性能を向上させることができる。また、W
inとW
in’のより好ましい関係は、W
in≧W
in’×3 である。
【0049】
また、W
in’は、W
in’≧8mmを満たすことが好ましい。これにより、インナー部材3の曲げ剛性,強度を大きくすることができる。その結果、W
in’<8mmの場合に比べて非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。W
in’のより好ましい範囲は、W
in’≧10mmである。
【0050】
そして、W
in≧W
in’×3を満たし、かつ、W
in’≧10mmを満たす衝撃吸収部材1であれば衝撃吸収性能を更に向上させることができる。
【0051】
また、衝撃吸収性能の向上の観点からは、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1が300mm≦L1≦650mmの範囲であって、かつ、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の車両幅方向Wのオフセット量W
0とL1の比が0.017≦W
0/L1≦0.087を満たすことが好ましい。L1<300mm、またはW
0/L1<0.017の範囲では非衝突側端部E’を曲げるモーメントを抑える効果が小さく、非衝突側端部E’の曲げ変形抑制効果が小さい。また、650mm<L1、または0.087<W
0/L1の範囲では、衝突側端部Eを曲げるモーメントが過大であり、曲げ変形の抑制効果が小さくなる。なお、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1のより好ましい数値範囲は400mm≦L1≦600mmである。また、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の車両幅方向Wのオフセット量W
0とL1の比のより好ましい数値範囲は0.035≦W
0/L1≦0.070である。
【0052】
<第4の実施形態>
第1〜第3の実施形態ではフロントサイドメンバーの衝撃吸収部材を例に挙げて本発明の実施形態について説明したが、第4の実施形態ではリアサイドメンバーの衝撃吸収部材を例に挙げて本発明の実施形態について説明する。第4の実施形態で例示する衝撃吸収部材は、
図4のような形状を有するリアサイドメンバー(レフト側)の衝撃吸収部材である。
図28に示すように第4の実施形態における衝撃吸収部材1は、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し、鉛直方向Vの車内側に変位V
0だけオフセットした形状となっている。なお、
図28ではリアレフト側の衝撃吸収部材1を例示しているが、リアライト側の衝撃吸収部材としては例えばリアレフト側の衝撃吸収部材1を車両長さ方向Lから見て左右反転した形状のものが適用される。
【0053】
衝撃吸収部材1はアウター部材2とインナー部材3からなる。
図29〜
図31に示すようにアウター部材2とインナー部材3の両部材は、車両長さ方向Lに対し垂直な切断面の形状が、いわゆるハット形状を有しており、車両幅方向Wに突出するフランジ部2a、3aが形成されている。アウター部材2とインナー部材3は、互いのフランジ部2a、3aの面同士が合わされて結合される。これにより衝撃吸収部材1は車両長さ方向Lから見て閉断面形状となる。また、アウター部材2とインナー部材3は、
図28に示すようにフランジ部2a、3aが突出する方向(第4の実施形態では車両幅方向W)から見たときに結合面Jが直線状となるように形成されている。
【0054】
図29に示すように衝突側端部Eの車両長さ方向Lから見た断面においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
out(ハット高H
outとも称す)が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
in(ハット高H
inとも称す)よりも短くなっている。
図29〜
図31に示すように、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて長くなっている。一方で、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて短くなっている。そして、
図31に示すように非衝突側端部E’においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
out’が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
in’よりも長くなっている。
【0055】
このような形状の衝撃吸収部材1の場合、非衝突側端部E’における重心は、衝突側端部Eにおける重心に対し、鉛直方向Vにおける衝撃吸収部材1内のフランジ部2a、3aの位置の変化に伴い、鉛直方向Vの車内側に移動することになる。このため、
図29〜
図31にも示すように衝撃吸収部材1の重心Gの位置は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、衝突側端部Eの重心G
0の位置から鉛直方向Vの車内側に移動していく。なお、
図30および
図31においては、
図29に示す衝突側端部Eにおける重心G
0の位置を点線で示している。
【0056】
第4の実施形態の衝撃吸収部材1には、後面衝突時において
図28に示すような、車両幅方向Wの車外側から見て反時計回りの曲げモーメントMが生じる。一方で、第4の実施形態の衝撃吸収部材1は、前述の通り、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて重心の位置が鉛直方向Vの車内側に移動していくような形状を有している。これにより、曲げモーメントMが、車両長さ方向Lに対して一定であると仮定した場合、
図32に示す応力分布図のように曲げモーメントMによって衝突側端部Eで発生する衝撃吸収部材1の鉛直方向Vの車外側の引張応力は、非衝突側端部E’で発生する引張応力に比べて小さくなる。これに加え、曲げモーメントMによって非衝突側端部E’で発生する鉛直方向Vの車内側の圧縮応力は、衝突側端部Eで発生する圧縮応力に比べて小さくなる。
【0057】
その結果、
図8〜
図10のような衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心の位置が変わらず、
図11のような応力分布となる従来の衝撃吸収部材に比べて、非衝突側端部E’における曲げ変形の誘発を抑制することが可能になると共に、衝突側端部Eにおける鉛直方向Vの車外側が座屈しにくい状況を改善することができる。即ち、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第4の実施形態では鉛直方向V)の車内側に位置する場合、第4の実施形態のような衝撃吸収部材1であれば、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制しつつ、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができる。これにより、衝撃吸収性能を高めることが可能となる。なお、
図32中の1点鎖線は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に至る、車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心を結んだ中立軸Nである。
【0058】
以上の通り、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第4の実施形態では鉛直方向V)の車内側に位置する場合、第4の実施形態のように車両長さ方向Lに垂直な切断面における重心の位置が、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて鉛直方向Vの車内側に移動するような構成の衝撃吸収部材1であれば、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。換言すると、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の鉛直方向Vの車外側の引張応力と、非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の鉛直方向Vの車内側の圧縮応力の差を小さくすることで、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。
【0059】
なお、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し鉛直方向Vの車内側に位置する場合の、衝突側端部Eにおけるインナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
inと、非衝突側端部E’におけるインナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
in’は、V
in≧V
in’×2.8を満たすことが好ましい。これにより、衝突側端部Eの鉛直方向Vの車外側における車両長さ方向Lの引張応力と非衝突側端部E’の鉛直方向Vの車内側における車両長さ方向Lの圧縮応力の差を十分に小さくすることができ、V
in<V
in’×2.8の場合に比べて衝撃吸収性能を向上させることができる。また、V
inとV
in’のより好ましい関係は、V
in≧V
in’×3である。
【0060】
また、V
in’は、V
in’≧8mmを満たすことが好ましい。これにより、インナー部材3の曲げ剛性,強度を大きくすることができる。その結果、V
in’<8mmの場合に比べて非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。V
in’のより好ましい範囲は、V
in’≧10mmである。
【0061】
そして、V
in≧V
in’×3を満たし、かつ、V
in’≧10mmを満たす衝撃吸収部材1であれば衝撃吸収性能を更に向上させることができる。
【0062】
また、衝撃吸収性能の向上の観点からは、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1が300mm≦L1≦650mmの範囲であって、かつ、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の鉛直方向Vのオフセット量V
0とL1の比が0.017≦V
0/L1≦0.087を満たすことが好ましい。L1<300mm、またはV
0/L1<0.017の範囲では非衝突側端部E’を曲げるモーメントを抑える効果が小さく、非衝突側端部E’の曲げ変形抑制効果が小さい。また、650mm<L1、または0.087<V
0/L1の範囲では、衝突側端部Eを曲げるモーメントが過大であり、曲げ変形の抑制効果が小さくなる。なお、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1のより好ましい数値範囲は400mm≦L1≦600mmである。また、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の鉛直方向Vのオフセット量V
0とL1の比のより好ましい数値範囲は0.035≦V
0/L1≦0.070である。
【0063】
<第5の実施形態>
第5の実施形態の衝撃吸収部材も第4の実施形態と同様にリアサイドメンバー(レフト側)の衝撃吸収部材である。ただし、第5の実施形態の衝撃吸収部材は、衝突側端部Eと非衝突側端部E’との位置関係が第4の実施形態の衝撃吸収部材と逆になっている。即ち、第5の実施形態の衝撃吸収部材は、
図33に示すように衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し、鉛直方向Vの車外側に変位V
0だけオフセットした形状となっている。
【0064】
衝撃吸収部材1はアウター部材2とインナー部材3からなる。
図34〜
図36に示すようにアウター部材2とインナー部材3の両部材は、第4の実施形態と同様に車両長さ方向Lに対し垂直な切断面の形状が、いわゆるハット形状を有しており、車両幅方向Wに突出するフランジ部2a、3aが形成されている。アウター部材2とインナー部材3は、互いのフランジ部2a、3aの面同士が合わされて結合される。また、
図33に示すようにアウター部材2とインナー部材3は、フランジ部2a、3aが突出する方向(第5の実施形態では車両幅方向W)から見たときに結合面Jが直線状となるように形成されている。
【0065】
図34に示すように第5の実施形態では、衝突側端部Eの車両長さ方向Lから見た断面において、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
out(ハット高H
outとも称す)が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
in(ハット高H
inとも称す)よりも長くなっている。
図34〜
図36に示すように、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて短くなっている。一方で、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さは、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれて長くなっている。そして、
図36に示すように非衝突側端部E’においては、アウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
out’が、インナー部材3の頂部3bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
in’よりも短くなっている。
【0066】
第5の実施形態の場合、後面衝突時に衝撃吸収部材1に生じる曲げモーメントMは、
図28に示す第4の実施形態の衝撃吸収部材1に生じる曲げモーメントMとは逆回りのモーメントである。このため、第5の実施形態の衝撃吸収部材1は第4の実施形態の場合と異なり、鉛直方向Vの車外側に曲がっていく。
【0067】
一方、第5の実施形態の衝撃吸収部材1の場合、非衝突側端部E’における重心は、衝突側端部Eにおける重心に対し、鉛直方向Vにおける衝撃吸収部材1内のフランジ部2a、3aの位置の変化に伴い、鉛直方向Vの車外側に移動することになる。このため、
図34〜
図36にも示すように衝撃吸収部材1の重心Gの位置は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に近づくにつれ、衝突側端部Eの重心G
0の位置から鉛直方向Vの車外側に移動していく。なお、
図35および
図36においては、
図34に示す衝突側端部Eにおける重心G
0の位置を点線で示している。
【0068】
衝突側端部Eの重心と非衝突側端部E’の重心がこのような位置関係となることで、曲げモーメントMが、車両長さ方向Lに対して一定であると仮定した場合、
図37に示す応力分布図のように曲げモーメントMによって衝突側端部Eで発生する鉛直方向Vの車内側の引張応力は、非衝突側端部E’で発生する引張応力に比べて小さくなる。一方で、曲げモーメントMによって非衝突側端部E’で発生する鉛直方向Vの車外側の圧縮応力は、衝突側端部E側で発生する圧縮応力に比べて小さくなる。なお、
図37中の1点鎖線は、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に至る、車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心を結んだ中立軸Nである。
【0069】
その結果、
図8〜
図10のような衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて車両長さ方向Lに垂直な切断面の重心の位置が変わらず、
図11のような応力分布となる従来の衝撃吸収部材に比べて、非衝突側端部E’における曲げ変形の誘発を抑制することが可能になると共に、衝突側端部Eにおける鉛直方向Vの車外側が座屈しにくい状況を改善することができる。即ち、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対してオフセット方向(第5の実施形態では鉛直方向V)の車外側に位置する場合、第5の実施形態のような衝撃吸収部材1であれば、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制しつつ、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができる。これにより、衝撃吸収性能を高めることが可能となる。
【0070】
以上の通り、衝撃吸収部材1の衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向(第5の実施形態では鉛直方向V)の車外側に位置する場合、第5の実施形態のように車両長さ方向Lに垂直な切断面における重心の位置が、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて鉛直方向Vの車外側に移動するような構成の衝撃吸収部材1であれば、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。換言すると、衝突側端部Eにおける衝撃吸収部材1の鉛直方向Vの車内側の引張応力と、非衝突側端部E’における衝撃吸収部材1の鉛直方向Vの車外側の圧縮応力の差を小さくすることで、衝突側端部Eの軸圧潰変形を安定的に発生させることができると共に、非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができる。
【0071】
なお、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し鉛直方向Vの車外側に位置する場合の、衝突側端部Eにおけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
outと、非衝突側端部E’におけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの鉛直方向長さV
out’は、V
out≧V
out’×2.8を満たすことが好ましい。これにより、衝突側端部Eの鉛直方向Vの車内側における車両長さ方向Lの引張応力と非衝突側端部E’の鉛直方向Vの車外側における車両長さ方向Lの圧縮応力の差を十分に小さくすることができ、V
out<V
out’×2.8となる場合に比べて衝撃吸収性能を向上させることができる。また、V
outとV
out’のより好ましい関係は、V
out≧V
out’×3である。
【0072】
また、V
out’は、V
out’≧8mmを満たすことが好ましい。これにより、アウター部材2の曲げ剛性,強度を大きくすることができる。その結果、V
out’<8mmの場合に比べて非衝突側端部E’の曲げ変形を抑制することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。V
out’のより好ましい範囲は、V
out’≧10mmである。
【0073】
そして、V
out≧V
out’×3を満たし、かつ、V
out’≧10mmを満たす衝撃吸収部材1であれば衝撃吸収性能を更に向上させることができる。
【0074】
また、衝撃吸収性能の向上の観点からは、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1が300mm≦L1≦650mmの範囲であって、かつ、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の鉛直方向Vのオフセット量V
0とL1の比が0.017≦V
0/L1≦0.087を満たすことが好ましい。L1<300mm、またはV
0/L1<0.017の範囲では非衝突側端部E’を曲げるモーメントを抑える効果が小さく、非衝突側端部E’の曲げ変形抑制効果が小さい。また、650mm<L1、または0.087<V
0/L1の範囲では、衝突側端部Eを曲げるモーメントが過大であり、曲げ変形の抑制効果が小さくなる。なお、衝撃吸収部材1の車両長さ方向Lの長さL1のより好ましい数値範囲は400mm≦L1≦600mmである。また、衝突側端部Eと非衝突側端部E’の鉛直方向Vのオフセット量V
0とL1の比のより好ましい数値範囲は0.035≦V
0/L1≦0.070である。
【0075】
第1〜第5の実施形態における衝撃吸収部材の説明は以上の通りであるが、衝撃吸収部材の形状は第1〜第5の実施形態で説明したものに限定されない。
【0076】
例えば第1〜第5の実施形態では、アウター部材2のフランジ部2aおよびインナー部材3のフランジ部3aが、衝撃吸収部材1の閉断面の外側に突出するように形成されていたが、フランジ部2a、3aが閉断面の内側に突出するように形成されていても良い。また、アウター部材2およびインナー部材3は、フランジ突出方向から見た結合面Jの少なくとも一部が曲線状となるように形成されていても良い。即ち、第1〜第5の実施形態では、ハット高比(H
in+H
out)の増加率が一定である場合について例示したが、フランジ突出方向から見たフランジ部2a、3aの形状は直線状のものに限定されず、曲線状のものであっても良い。また直線状の部分と曲線状の部分を有するものであっても良い。このようにフランジ突出方向から見たフランジ部2a、3aの形状に曲線状の部分がある場合には、ハット高比(H
in+H
out)の増加率が平均で0.033以上であれば良い。ただし、途中で変曲点があるような結合面を有するものは、衝撃荷重の入力時にその変曲点で衝撃吸収部材が折れるおそれがあるため、好ましくない。また、例えば衝突側端部Eおよび非衝突側端部E’の車両幅方向Wのサイズや鉛直方向Vのサイズは互いに異なっていても良い。さらに、第1〜第5の実施形態の衝撃吸収部材1は、アウター部材2の頂部2bやインナー部材3の頂部3bが平面状の形状であったが、曲面部を有する形状であっても良い。
【0077】
このように、衝撃吸収部材の形状としては様々なものが考えられるが、衝撃吸収性能を向上させるためには、衝突側端部Eおよび非衝突側端部E’のオフセット状態に応じ、衝突側端部Eから非衝突側端部E’にかけて重心の位置が適切な方向に移動していることが重要となる。ここで、アウター部材2およびインナー部材3の、車両長さ方向Lに対する垂直な切断面において、その切断面の重心Gからインナー部材3の頂部3bまでのオフセット方向の長さG
inと、その切断面の重心Gからアウター部材2の頂部2bまでのオフセット方向の長さG
outとの比(G
in/G
out)を“重心比”と定義する。
【0078】
第1の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置しており、
図13〜
図15に示すように衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が大きくなっている。第2の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置しており、
図18〜
図20に示すように衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が大きくなっている。第3の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車内側”に位置しており、
図24〜
図26に示すように衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が小さくなっている。第4の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車内側”に位置しており、
図29〜
図31に示すように衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が小さくなっている。第5の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置しており、
図34〜
図36に示すように衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が大きくなっている。
【0079】
即ち、衝撃吸収部材1の衝撃吸収性能を向上させるためには、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置する場合には、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が大きくなっていくように衝撃吸収部材1が構成されていれば良い。一方で、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車内側”に位置する場合には、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって重心比(G
in/G
out)が小さくなっていくように衝撃吸収部材1が構成されていれば良い。
【0080】
換言すると、自動車の車両長さ方向Lに延び、車両長さ方向Lにおける両端部が、車両長さ方向Lから見た場合に互いに異なる位置となるようにオフセットした衝撃吸収部材1の衝撃吸収性能を向上させるためには、アウター部材2およびインナー部材3の、車両長さ方向Lに対する垂直な切断面の重心からインナー部材3の頂部3bまでのオフセット方向の長さG
inと、該切断面の重心からアウター部材2の頂部2bまでのオフセット方向の長さG
outとの比(G
in/G
out)を重心比と定義したとき、車両長さ方向Lにおける両端部のうち、車両長さ方向Lから見た位置が車外側にオフセットした端部側から、車内側にオフセットした端部側に向かって上記重心比が大きくなっていれば良い。
【0081】
また、前述のインナー部材3のハット高H
inと、アウター部材3のハット高H
outとの比(H
in/H
out)をハット高比と定義したとすると、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置している第1の実施形態の場合、
図13〜
図15に示すようにハット高比(H
in/H
out)が衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって車外側に移動していく。第2の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置しており、
図18〜
図20に示すようにハット高比(H
in/H
out)が衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって車外側に移動していく。第3の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車内側”に位置しており、
図24〜
図26に示すようにハット高比(H
in/H
out)が衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって車内側に移動していく。第4の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車内側”に位置しており、
図29〜
図31に示すようにハット高比(H
in/H
out)が衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって車内側に移動していく。第5の実施形態の場合、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対しオフセット方向の“車外側”に位置しており、
図34〜
図36に示すようにハット高比(H
in/H
out)が衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって車外側に移動していく。
【0082】
換言すると、自動車の車両長さ方向Lに延び、車両長さ方向Lにおける両端部が、車両長さ方向Lから見た場合に互いに異なる位置となるようにオフセットした衝撃吸収部材1の衝撃吸収性能を向上させるためには、アウター部材2およびインナー部材3の、車両長さ方向Lに対する垂直な切断面において、インナー部材3のハット高H
inと、アウター部材2のハット高H
outとの比(H
in/H
out)をハット高比と定義したとき、車両長さ方向Lにおける両端部のうち、車両長さ方向Lから見た位置が車外側にオフセットした端部側から、車内側にオフセットした端部側に向かって上記ハット高比が大きくなっていれば良い。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範疇に属するものと了解される。
【実施例】
【0084】
本発明の効果を検証するための実施例として、
図38および
図39に示すような本発明に係る衝撃吸収部材のモデルを作成し、衝撃吸収部材の衝突側端部に衝撃荷重を負荷するシミュレーションを実施した。
【0085】
実施例のモデルは、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し車両幅方向Wの車外側に位置している。衝突側端部Eにおけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向Wの長さW
outは31mmであり、非衝突側端部E’におけるアウター部材2の頂部2bから結合面Jまでの車両幅方向Wの長さW
out’は10mmである。即ち、W
out/W
out’は3.1である。車両幅方向Wへのオフセット量W
0は42.0mmであり、衝撃吸収部材の車両長さ方向の長さL1は600mmである。即ち、W
0/L1が0.070である。なお、実施例においてはW
in/W
out=0.65、W
in’/W
out’=4.12であり、衝突側端部Eから非衝突側端部E’に向かって漸増するW
in/W
outの増加率((4.12−0.65)/600)は0.058である。また、衝突側端部Eにおける重心比(G
in/G
out)は0.93であり、非衝突側端部E’における重心比(G
in/G
out)は1.19である。W
in/W
outの増加率と同様に計算すると、重心比(G
in/G
out)の増加率は0.0004である。平面視におけるアウター部材2の頂部2bと車両長さ方向Lとのなす角は86度であり、平面視における結合面Jと車両長さ方向Lとのなす角は88度である。
【0086】
また、比較例として
図40および
図41に示すような従来の衝撃吸収部材のモデルを作成し、衝撃吸収部材の衝突側端部に衝撃荷重を負荷するシミュレーションを実施した。
【0087】
比較例のモデルは、実施例と同様、衝突側端部Eが非衝突側端部E’に対し車両幅方向Wの車外側に位置している。衝突側端部Eにおけるアウター部材52の頂部52bから結合面Jまでの車両幅方向Wの長さW
outは10mmであり、非衝突側端部E’におけるアウター部材52の頂部52bから結合面Jまでの車両幅方向Wの長さW
out’は10mmである。即ち、W
out/W
out’は1.0である。衝撃吸収部材の車両長さ方向の長さL1は600mmである。なお、比較例におけるW
in/W
outの増加率および重心比(G
in/G
out)の増加率は共に0である。平面視におけるアウター部材52の頂部52bと車両長さ方向Lとのなす角は86度であり、平面視における結合面Jと車両長さ方向Lとのなす角も同様に86度である。
【0088】
なお、実施例の衝撃吸収部材、比較例の衝撃吸収部材ともに、アウター部材およびインナー部材が590MPa級の板厚1.2mmのハイテン材であることを想定して物性値が設定されている。
【0089】
解析条件は
図42に示す通りであり、前面衝突(剛体壁衝突ともいう)を想定してシミュレーションを実施した。具体的には、車両長さ方向Lの前方から衝突側端部Eに当てた剛体壁を約28km/hの一定速度で移動させていき、非衝突側端部E’を完全拘束状態とした。なお、
図42で図示されたモデルは比較例のモデルであるが、実施例のモデルを用いたシミュレーションも同一の解析条件で実施している。
【0090】
シミュレーション後の実施例における衝撃吸収部材の変形状態を
図43に示す。また、シミュレーション後の比較例における衝撃吸収部材の変形状態を
図44に示す。
図43に示すように実施例の衝撃吸収部材では、非衝突側端部において曲げ変形が発生しておらず、衝突側端部において蛇腹状の軸圧潰変形をしていることがわかる。一方、
図44に示すように比較例の衝撃吸収部材では、非衝突側端部近傍において曲げ変形が発生し折れ曲がっていることがわかる。以上より、本発明に係る衝撃吸収部材は非衝突側端部の曲げ変形を抑制し、衝突側端部に蛇腹状の軸圧潰変形を安定的に発生させる効果があることがわかる。
【0091】
ここで、本シミュレーションにおける剛体壁の変位と入力荷重との関係を
図45に示す。なお、
図45の縦軸の“荷重比”とは、実施例および比較例のそれぞれの入力荷重値を比較例の最大入力荷重値で除して規格化したものである。
図45に示すように実施例の衝撃吸収部材は、安定的に荷重が入力されており、剛体壁の変位と共に継続的に軸圧潰変形が発生していることがわかる。一方、比較例の衝撃吸収部材は途中で曲げ変形が発生してしまい、それ以降の入力荷重が小さくなっている。
【0092】
次に、剛体壁の変位量に対する入力荷重の積分値を衝撃吸収部材のエネルギー吸収量として、
図46に剛体壁の変位とエネルギー吸収量との関係を示す。なお、
図46の縦軸の“吸収エネルギー比”とは、実施例および比較例のそれぞれのエネルギー吸収量を、剛体壁の変位が150mmのときの比較例のエネルギー吸収量で除して規格化したものである。
図46によれば、実施例の衝撃吸収部材が比較例の衝撃吸収部材に比べてエネルギー吸収量が高いことがわかる。即ち、本発明に係る衝撃吸収部材は、非衝突側端部における曲げ変形を抑制し、衝突側端部において蛇腹状の軸圧潰変形を安定的に発生させる効果があり、これにより衝撃吸収性能が向上することがわかる。
自動車の車両長さ方向に延び、車両長さ方向における両端部が、車両長さ方向から見た場合に互いに異なる位置となる衝突側端部と非衝突側端部を有する衝撃吸収部材において、衝突時に衝突側端部に発生する引張応力が抑制され、かつ、非衝突側端部に発生する圧縮応力が抑制されるように、衝突側端部と非衝突側端部の位置関係に応じて、衝突側端部の重心の位置と非衝突側端部の重心の位置が互いに異なるように、衝撃吸収部材のアウター部材とインナー部材を成形する。