特許第6183598号(P6183598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000002
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000003
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000004
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000005
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000006
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000007
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000008
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000009
  • 特許6183598-磁石用合金製造装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183598
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】磁石用合金製造装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20170814BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170814BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20170814BHJP
   F27D 3/14 20060101ALI20170814BHJP
   H01F 1/04 20060101ALI20170814BHJP
   C22C 1/04 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   C22C1/02 501E
   H01F41/02 G
   B22D11/06 360B
   B22D11/06 380Z
   F27D3/14 A
   H01F1/04
   C22C1/02 503H
   !C22C1/04 J
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-163154(P2013-163154)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-30903(P2015-30903A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】杉山 岳文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿穂
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−154788(JP,A)
【文献】 特開2000−079449(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0230013(US,A1)
【文献】 特開平08−277403(JP,A)
【文献】 特開平02−179803(JP,A)
【文献】 特開平05−154641(JP,A)
【文献】 特開2006−341268(JP,A)
【文献】 実開昭63−101147(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02,1/04
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石用合金を製造するための合金製造装置であって、
基材金属を溶解し貯留する第1の溶解炉と、
前記磁石用合金を調製するための第2の溶解炉と、
前記第1の溶解炉から取り出された溶湯の一部を前記第2の溶解炉に移送するための移送手段と、
保持した添加金属を前記第2の溶解炉に導く添加装置と、を含むことを特徴とする合金製造装置。
【請求項2】
前記移送手段は、樋状容器であって、前記添加金属を導く経路の外から移動して来て、一端部を前記第1の溶解炉の近傍に配置させるとともに他端部を前記第2の溶解炉の直上に配置させ、前記第1の溶解炉から取り出された溶湯の一部がこの上を移動して前記第2の溶解炉に流し込まれるようにすることを特徴とする請求項1記載の合金製造装置。
【請求項3】
前記第1の溶解炉及び前記第2の溶解炉はそれぞれ独立した第1室及び第2室の内部に配置され、前記第1室及び前記第2室の間には開閉自在にシャッタを設け、前記移送手段はその前記一端部を開いた前記シャッタの内部を通過させて前記第1の溶解炉の近傍に配置させるよう移動可能であることを特徴とする請求項記載の合金製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石用合金を製造するための合金製造装置に関し、特に、蒸発しやすい合金成分を含む磁石用合金の製造に適した合金製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
NdやSmなどの希土類元素を含む希土類磁石は、従来のフェライト磁石などと比較して、残留磁束密度や保持力に優れた高性能磁石として知られている。かかる希土類磁石の製造方法として、例えば、急冷凝固片を加圧焼結しバルク化する方法がある。詳細には、希土類元素を含む所定の成分組成の磁石用合金を溶解し、溶湯を水冷された回転ロール上に吹き付けて急冷凝固片を得る。これを粉砕してから加圧焼結するとバルク状の希土類磁石となるのである。単なる合金凝固片ではなく、急冷凝固片を加圧焼結することで、磁石の金属組織を微細化して磁気特性を高め得る。
【0003】
例えば、特許文献1では、タンディッシュを含む単ロール法による希土類磁石用の急冷凝固片を得るための製造装置が開示されている。真空又は不活性ガス雰囲気の密閉空間内に、希土類元素を含む希土類磁石用合金を溶解させる誘導加熱式溶解炉と、溶湯を受けてこれを下流側の冷却ロールの表面へと注ぐためのタンディッシュと、高速で前方へ回転しこの上に注がれる溶湯を急冷するための冷却ロールとが収容されている。誘導式加熱炉は回転可能に支持されており、回転させて溶湯をタンディッシュに送ると、溶湯が冷却ロールの上に注がれる。冷却ロールの下流側の表面にはこれに接してスクレーパが設けられており、急冷凝固片が冷却ロールから剥離されて回収される。
【0004】
また、特許文献2では、溶解炉からの溶湯を受けてタンディッシュへこれを流すための角筒状ラウンダを設けた単ロール法による希土類磁石用の急冷凝固片製造装置が開示されている。溶解炉及びタンディッシュはそれぞれ溶解室及び鋳造室の別室に設けられており、これらの間には仕切弁が設けられている。鋳造室側のラウンダは、仕切弁を開動作し溶解室側へ移動し、その端部に溶解炉からの溶湯を受ける。溶湯は底部の傾斜したラウンダに沿って流れ、反対側の端部からタンディッシュに流れこむ。その後、ラウンダは再び、鋳造室側に移動し仕切弁が閉動作する。溶解室及び鋳造室を開閉自在の仕切弁で区切ることで、鋳造室における操業状態に影響を受けず、溶解炉の補修等が可能となる。
【0005】
ところで、より強力な希土類磁石を得るためには、磁石用合金の成分組成を正確に制御しつつ溶解し、不純物を巻き込むことなく成分組成を維持した凝固片を得ることが要求される。
【0006】
例えば、特許文献3では、単ロール法による希土類磁石用の急冷凝固片製造装置において、冷却ロールの配置される室内の希ガス雰囲気圧とノズルの吐出圧とを調整して磁気特性の良好なSm−Fe−N系磁石を安定して製造できることを開示している。Smは、Nd−Fe−B系希土類磁石に用いられるNdなどと比べて蒸気圧が高く、合金溶湯が凝固する前に蒸発しやすく、ノズルから吐出され冷却ロール表面に到達するまでに蒸発し、またパドルからも蒸発してしまうこと、そのために製造される急冷合金の組成変動が生じることを述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−79449号公報
【特許文献2】特開2004−154788号公報
【特許文献3】特開2000−124017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
希土類磁石の製造装置において、1バッチで溶解する磁石用合金の量を増やすことで、生産効率を高め、製造コストを抑制できる。その一方で、大型の溶解炉が必要となって、装置を大型化させてしまう。そこで、生産効率の高い小型の製造装置が求められている。
【0009】
ここで、高性能な希土類磁石を安定して製造するためには、磁石用合金の成分組成を正確に制御できることが要求される。特に、Smのような蒸気圧の高い元素は蒸発しやすいため、磁石用合金の成分組成の正確な制御が難しい。
【0010】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、蒸発しやすい合金成分を含む磁石用合金であってもその成分組成を正確に制御でき、しかも生産効率の高い小型の磁石用合金製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による磁石用合金を製造するための合金製造装置は、基材金属を溶解し貯留する第1の溶解炉と、前記磁石用合金を調製するための第2の溶解炉と、前記第1の溶解炉から取り出された溶湯の一部を前記第2の溶解炉に移送するための移送手段と、保持した添加金属を前記第2の溶解炉に導く添加装置と、を含むことを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、タンディッシュなどに供給するための調製された合金を長時間に亘って貯留せず、蒸発しやすい合金成分を含む磁石用合金であっても成分組成を正確に制御できるのである。また、バッチ式ではなく、連続式の第2の溶解炉によって磁石用合金を調製できて、小型の装置でありながら、高い生産効率を与えるのである。
【0013】
上記した発明において、前記移送手段は、樋状容器であって、前記添加金属を導く経路の外から移動して来て、一端部を前記第1の溶解炉の近傍に配置させるとともに他端部を前記第2の溶解炉の直上に配置させ、前記第1の溶解炉から取り出された溶湯の一部がこの上を移動して前記第2の溶解炉に流し込まれるようにすることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、基材金属を溶解し貯留する第1の溶解炉の大きさを確保しつつ、合金製造装置全体の大きさをコンパクトにできるのである。
【0014】
上記した発明において、前記第1の溶解炉及び前記第2の溶解炉はそれぞれ独立した第1室及び第2室の内部に配置され、前記第1室及び前記第2室の間には開閉自在にシャッタを設け、前記移送手段はその前記一端部を開いた前記シャッタの内部を通過させて前記溶解炉の近傍に配置させるよう移動可能であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、第2の溶解炉の雰囲気を変化させることなく、順次、磁石用合金を調製でき、安定して多量の磁石用合金を製造できるから、コストを大幅に低減できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による合金製造装置のブロック図である。
図2】第1溶解炉、第2溶解炉、タンディッシュにおけるタイムテーブルを示す図である。
図3】本発明による合金製造装置の1工程におけるブロック図である。
図4】本発明による合金製造装置の1工程におけるブロック図である。
図5】本発明による合金製造装置の1工程におけるブロック図である。
図6】本発明による合金製造装置の1工程におけるブロック図である。
図7】本発明による合金製造装置の1工程におけるブロック図である。
図8】本発明による他の合金製造装置のブロック図である。
図9】第1溶解炉、第2溶解炉、タンディッシュにおけるタイムテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の1つの実施例である希土類磁石用合金の製造装置について、図1を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、磁石用合金製造装置10は、その内部空間を真空又は不活性ガス雰囲気に雰囲気及びその圧力を制御可能な、第1室11及び第2室12を備える。第1室11は側方に仕切弁としての開閉自在のシャッタ15を有し、これを介して側方から第2室12に接続されている。第1室11はその内部に誘導加熱により金属を溶解可能な誘導加熱炉である第1溶解炉1を収容している。
【0018】
第2室12はその内部に第2溶解炉2、樋4、タンディッシュ5、冷却ロール6、及び、鋳片回収装置7を収容し、その外部上側には仕切弁16を介して添加装置3を接続させている。第2溶解炉2は、第1溶解炉と同じく誘導加熱により金属を溶解する誘導加熱炉であるが、第1溶解炉1よりも溶解容量の小さな小型炉である。第2溶解炉2は、第1溶解炉1の溶湯の一部を移送、受湯し保持するが、小型炉であるため、調整した磁石用合金の溶湯を長時間貯留することなく全量を出湯し得る。詳細は後述する。
【0019】
添加装置3は昇降可能に取り付けられたバケット31を含み、その下部の仕切弁16から第2室12内にバケット31を下降させて差し入れると、バケット31の内部に保持した添加金属を落下させて第2溶解炉2に投入可能である。添加装置3により添加金属を第2溶解炉2に導くことで、第2溶解炉で磁石用合金の成分調整が可能となる。なお、添加装置3は、その内部を第2室12の内部と同じ雰囲気に制御し、これにより仕切弁16を開放させたときに第2溶解炉2の雰囲気を変化させないようにできる。
【0020】
樋4は、その一端部である注入側端部41に受けた溶湯を、他端部である排出側端部42へと導き、排出側端部42の底に設けられた排出口43からその下方に排出させる樋状容器である。すなわち、樋4は注入側端部41から排出側端部42に向けて下方に傾斜した底部を有する。
【0021】
樋4は、図示しないアクチュエータにより初期位置から水平に移動可能であって、第1溶解炉1から取り出された溶湯を第2溶解炉に移送させるための移送手段となる。つまり、樋4は、通常時、バケット31の下降経路を含めた添加装置3から添加金属を導く経路、すなわち添加金属の落下経路に干渉しない初期位置に配置されている。一方、シャッタ15を開動作させるとともに図示しないアクチュエータを作動させ、樋4を移動させる。樋4の注入側端部41は、開放させたシャッタ15の内部を通過し、第1室11の内部へ進入し、第1溶解炉1の近傍に位置しこの移送位置で停止する(図6参照)。このとき、樋4の排出側端部42の排出口43は第2溶解炉2の真上に位置する。移送位置では、樋4の注入側端部41に第1溶解炉1から出湯された溶湯を注ぎ、これを排出口43から排出させて第2溶解炉2に流し込むことができるのである。このように、樋4は初期位置と移送位置との間で移動可能とされ、また添加装置3の動作に干渉することなく、全体の配置をコンパクトにしている。
【0022】
タンディッシュ5は、耐火物製のるつぼであり、抵抗加熱によって内部に貯留した溶湯を加熱できる。また、タンディッシュ5は、第2溶解炉2から出湯された溶湯を受け得るように配置され、第2溶解炉2から溶湯の全量を出湯させてもこれを貯留できる容量、少なくとも第2溶解炉2と同等程度の容量を有する。タンディッシュ5は、貯留した溶湯を整流させ、底部の出湯口51から冷却ロール6の表面へ注湯させ得る。
【0023】
冷却ロール6は、銅合金等の高い熱伝導率の金属からなる冷却表面を有する水冷式回転ロールであって、図示しない駆動装置によってその回転を制御される。回転させた冷却ロール6の表面に溶湯を注ぐことで、溶湯が回転方向に導かれつつ急冷凝固され所定厚さの帯状の金属薄片を得られるのである。
【0024】
鋳片回収装置7は、冷却ロール6によって得られた薄片を回収するための装置であり、スクレーパ71と衝突板72と回収容器73とを含む。スクレーパ71はブレード状の先端部を冷却ロール6の表面に近接させるように配置され、急冷された帯状の薄片を冷却ロール6から剥離させる。衝突板72は、スクレーパ71によって剥離した薄片を破砕しつつ回収容器73内に落下させるための板状体であり、薄片を衝突させる主面を略鉛直に配置しスクレーパ71に向けて取り付けられている。回収容器73は、冷却ロール6から剥離された薄片を回収するための盆状容器であり、衝突板72の下側に配置されている。
【0025】
ところで、上記した磁石用合金製造装置10は、希土類磁石用合金、特に、Smなどの蒸気圧の高い金属元素を含む希土類磁石用合金の製造に適している。ここで、蒸気圧の高い金属は、合金溶解工程後の凝固工程に供するまでの溶湯としての貯留時間が長いと、蒸発して合金の成分組成を変動させてしまう。そこで、蒸気圧の高い金属を追加添加するなどの成分組成の再調整が必要となって、生産効率を低下させてしまう。一方、成分組成の変動を防止するよう、合金溶解工程の溶湯量を少なくし凝固工程までの貯留時間を短くするなら、1バッチあたりの磁石用合金の生産量が低下する。故に、合金溶解工程を繰り返すことになって、やはり生産効率を低下させてしまうのである。
【0026】
これに対し、磁石用合金製造装置10によれば、樋4を介して大型の第1溶解炉1から小型の第2溶解炉2へ母合金(基材)溶湯を移送した上で、添加装置3により蒸気圧の高い金属を添加し成分組成を調製すると、直ちに、凝固装置である冷却ロール6にこれを供給できる。つまり、蒸気圧の高い金属を含む合金の第2溶解炉2内での貯留時間を短縮し、磁石用合金としての成分組成を変動させることなく、合金薄片を得られるのである。また、小型の第2溶解炉2からの1バッチあたりの磁石用合金の供給量は少ないものの、樋4を介して母合金溶湯を逐次移送させることにより、高い生産効率で合金薄片を得られる。更に、第2溶解炉2を小型化するとともに、樋4を移動可能とすることで、磁石用合金製造装置10全体の大きさをコンパクトにし得るのである。なお、更なる詳細については後述する。
【0027】
続いて、磁石用合金製造装置10の動作について、Sm−Fe−Zr−Co系磁石のための合金の製造を例に、図2に沿って、図3乃至図7を併せて参照しつつ説明する。
【0028】
ここで、Sm−Fe−Zr−Co系磁石は、FeにSm、Zr、Coを与えた合金によって製造される。このうち、Smは上記したように、蒸気圧の高い元素であり、Zrは高温で溶解炉の炉壁などと反応して酸化物に変化しやすい元素である。つまり、所定の成分組成に調整された磁石用合金の溶湯であっても、長時間貯留すると、Sm及びZrの成分が変化してしまう。そこで、Sm及びZrを含む溶湯を第2溶解炉2に長時間貯留しないよう、第2溶解炉2の容量を小さく、しかも第2溶解炉2からの出湯に合わせてSm及びZrの添加を行う。
【0029】
図2に併せて図3を参照すると、まず、第1溶解炉1及び第2溶解炉2において初装溶解を行う(S1)。詳細には、それぞれの溶解炉において所定量のFe及びCoを溶解させる。なお、必要に応じて真空精錬を行う。ここで、溶湯は、磁石用合金として成分調整前の母合金(基材)溶湯であって、上記したようなSm及びZrを含有していない。一方、初装溶解の間に、第2溶解炉2に追装する所定量のSm及びZrを添加金属39として添加装置3内のバケット31に保持させる。
【0030】
続いて、図4を参照すると、第2溶解炉2においてSm及びZrの追装溶解を行う(S2)。詳細には、まず、第2室12の内部及び添加装置3の内部を不活性ガス雰囲気で満たし圧力制御する。次いで、仕切弁16を開いてバケット31を降下させ、第2溶解炉2の上部から添加金属39を落下させて、母合金溶湯にSm及びZrを添加する。添加を完了したら、バケット31を上昇させて元の位置に戻し、仕切弁16を閉塞する。これにより、磁石用合金として成分調整された溶湯が第2溶解炉2内に得られる。
【0031】
次いで、図5を参照すると、第2溶解炉2を傾動させて内部の溶湯の全量を出湯し、タンディッシュ5に注ぐ(S3)。上記したように、第2溶解炉2は小型炉であるため、磁石用合金として成分調整された溶湯を長時間貯留することなくタンディッシュ5にその全量を出湯できる。受湯したタンディッシュ5は、出湯口51から冷却ロール6の表面への注湯を開始する。冷却ロール6は、予め回転させておき、受けた溶湯を回転方向に伸展させつつ急冷させ、帯状の薄片を形成していく。かかる薄片は、冷却ロール6の回転により、スクレーパ71の先端部に到達して冷却ロール6の表面から剥離され、その慣性力により飛翔して衝突板72に衝突する。衝突板72に衝突した薄片はその衝撃により粉砕されつつ回収容器73内に落下する。すなわち、ストリップキャスト法によって、所定の成分組成の希土類磁石用の急冷薄片を得られるのである。出湯の終わった第2溶解炉2はその傾きを元に戻される。
【0032】
続いて、図6を参照すると、第2溶解炉2において母合金溶湯の受湯を行う(S4)。詳細には、第1室11の内部を第2室12の内部と同様に不活性ガス雰囲気に圧力制御した上で、シャッタ15を開く。これにより第2室12の内部の雰囲気は変化しない。樋4はその初期位置から注入側端部41を開放されたシャッタ15の内部を通過させて移送位置まで移動する。ここで、第1溶解炉1を傾動させ、母合金溶湯の一部を出湯する。かかる溶湯は樋4の注入端部41に注がれ、樋4の底部の傾斜によって排出側端部42側に導かれ、排出口43から第2溶解炉2に流し込まれる。所定量の溶湯を第2溶解炉2に移送させたら、第1溶解炉の傾きを元に戻すとともに、樋4を初期位置に戻し、シャッタ15を閉鎖させる。なお、最初の追装溶解(S2)の後、ここまでの間に、添加装置3のバケット31内に次回に追装する所定量のSm及びZrを添加金属39として保持させておく。
【0033】
続いて、図7を参照すると、上記したS2と同様に、第2溶解炉2において添加金属の追装溶解を行う(S5)。すなわち、添加装置3により添加金属39を第2溶解炉2の母合金溶湯に落下させ、Sm及びZrを添加するのである。かかる追装溶解により、第2溶解炉2では、磁石用合金として成分調整された溶湯を再度得られる。なお、タンディッシュ5は、最初の受湯からここまでの間、溶湯を貯留しつつ冷却ロール6への注湯を継続させている。
【0034】
再び図5を参照すると、第2溶解炉2を傾動させて溶湯の全量を出湯しタンディッシュ5に注ぐ(S6)。このとき、タンディッシュ5は、冷却ロール6への注湯を継続させつつ新たに調整された合金を受湯し、合金を出湯口51から冷却ロール6の表面へ連続して注湯できる。
【0035】
以後、第2溶解炉2において、母合金溶湯の受湯(S7)、添加金属の追装溶解(S8)、溶湯の全量出湯(S9)を同様に繰り返す。かかる繰り返しは、第1溶解炉1に保持された母合金溶湯が尽きるまで可能である。つまり、小型の第2溶解炉2を連続式の溶解炉として用いることができ、所定の成分組成の希土類磁石用の急冷薄片を連続して得ることができるのである。
【0036】
以上、本実施例によれば、第1溶解炉1から母合金溶湯の一部を第2溶解炉2へ移送し、第2溶解炉2において磁石用合金の成分調整を行って、直ちに、タンディッシュ5へこれを与える。これにより、成分調整された溶湯を長時間に亘って貯留することがない。そのため、蒸発しやすいSmや反応性の高いZrなどの元素を含む溶湯であっても、その成分組成を正確に制御できる。なお、Sm以外にも、時間とともに溶湯中での成分を変化させやすい元素、例えば、Mn、Zn、Mg、Ca、Liなどを添加金属39として添加する合金の製造においても同様に使用できる。
【0037】
また、初期位置から移送位置まで移動する樋4によって、母合金溶湯の移送手段をコンパクトにできて、第1溶解炉1の大きさを確保しつつ磁石用合金製造装置10の全体の大きさをコンパクトにできる。一方で、上記したように、第1溶解炉1から母合金溶湯の一部を逐次、小型の第2溶解炉2へ移送し連続式の溶解炉として使用することで、コンパクトながら高い生産効率を得られる。
【0038】
さらに、第2室12とは別室として与えられる第1室11の内部に第1溶解炉1を設けこれらの間にシャッタ15を与えたので、第2溶解炉2の雰囲気を変化させることなくシャッタ15を開閉し、順次、磁石用合金を調整できる。つまり、安定した成分組成の磁石用合金を連続して製造でき、製造コストを大幅に低減できる。
【0039】
また、図8に示すように、添加装置3’を第1室11に設け、母合金となる金属(Fe、Co)を第1溶解炉1に追装できるようにすることもできる。この場合、図9に示すように、第1溶解炉1から一部出湯(S4、S7)を行った後(S5、S8)に母合金となる金属の追装溶解を行い得る。すなわち、安定してより多量の磁石用合金を製造でき、生産効率をより向上させ得る。
【0040】
なお、本実施例では、ストリップキャスト法により磁石用合金の薄片を製造したが、例えばメルトスピニング法により連続薄帯を製造する装置などの各種の凝固装置により磁石用金属片を得ることができる。
【0041】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。例えば、固定された樋4なども採用し得る。
【符号の説明】
【0042】
1 第1溶解炉
2 第2溶解炉
3 添加装置
4 樋
5 タンディッシュ
6 冷却ロール
7 鋳片回収装置
10 磁石用合金製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9