(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性基体がバルブ金属またはバルブ金属2種以上の合金よりなるエキスパンドメタルまたはパンチングメタルであり、且つ触媒層を含めた厚みが0.5〜2.0mmである請求項1に記載のゼロギャップ式食塩電解槽用陽極。
通液性を有する導電性基体と、その導電性基体上に設けられて表面の凹凸の高低差の最大値が55〜70μmである触媒層とを備える陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に接触状態で配置されるイオン交換膜と、を備え、前記触媒層の表面の平均粗さが3〜30μmであるゼロギャップ式食塩電解槽。
前記導電性基体がバルブ金属またはバルブ金属2種以上の合金よりなるエキスパンドメタルまたはパンチングメタルであり、且つ触媒層を含めた厚みが0.5〜2.0mmである請求項3に記載のゼロギャップ式食塩電解槽。
前記陰極は、剛構造のニッケル製エキスパンドメタルと、柔構造のファインメッシュ状陰極との間に、弾性反発力を有する導電性弾性体が介在し、この導電性弾性体で前記ファインメッシュ状陰極をイオン交換膜に押し付ける構造を有する請求項3に記載のゼロギャップ式食塩電解槽。
【背景技術】
【0002】
従来、電気分解用電極としては、導電性基体とこの導電性基体を被覆する触媒層とを有する電気分解用電極が知られている。このような電気分解用電極の製造方法としては、導電性基体の表面への触媒層の付着性を向上させるために、導電性基体にサンドブラストを行うか、もしくは、酸エッチングを行なうことによって表面を粗面化し、次いで粗面化された導電性基体の表面に触媒層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1、及び、特許文献2参照)。
【0003】
アルカリ金属塩水溶液、すなわち塩化ナトリウム水溶液を電気分解することによって塩素、水素、及び水酸化ナトリウムを製造するために、陽極室と陰極室とを陽イオン交換膜によって分離し、陽極室内の陽極と陰極室内の陰極との間に電流を流して電気分解をおこなうイオン交換膜法食塩電解槽が用いられることはよく知られており、これについての様々な改良も数多く行われてきた。例えば、陽極に寸法安定性電極、陰極に水素過電圧が低い活性陰極が開発されることにより、イオン交換膜法食塩電解における電解電圧の低下が図られている。特に、最近の電気分解技術の向上は著しく、その一つとして、陽極及び陰極を陽イオン交換膜に密着させたゼロギャップ式食塩電解槽が開発され、電解電圧の更なる低下が図られている(例えば、特許文献3、及び、特許文献4参照)。
【0004】
すなわち、イオン交換膜法食塩電解槽では、陽極は当初よりイオン交換膜に密着しており、新たに陰極を密着させたものがゼロギャップ式食塩電解槽である。それは、陰極側の液圧が陽極側の液圧より大であるため、イオン交換膜の陽極側と陰極側とで電解液圧が異なり、イオン交換膜は自然と陽極に押し付けられ密着するからである。そして、この状態からさらに陰極をイオン交換膜に意図的、物理的に密着させてイオン交換膜と陰極との間の電気抵抗を小さくして、電解電圧を低下させるのがゼロギャップ式食塩電解槽である。このようなゼロギャップ式食塩電解槽では、イオン交換膜への陰極の密着に伴って、陽極へのイオン交換膜の押し付け圧が増加する。
【0005】
この押し付け圧の増加に対処するために、特許文献4に記載されたゼロギャップ式食塩電解槽では、陽極は剛性を高くしてイオン交換膜に押し付けても変形の少ない剛構造とする一方、陰極では電極支持フレームなどの公差、変形による凹凸を吸収してゼロギャップを保つような柔構造としている。さらに背後の背板との間に導電性クッションマットを介在させることにより、イオン交換膜を傷つけることなく、イオン交換膜と陽極との間、及びイオン交換膜と陰極との間の密着性を確保するようにしている。そして、剛構造である陽極の構造に関しては、主にイオン交換膜との間における通液性を確保する観点から、チタン製エキスパンドメタル又はチタン製金網からなる導電性基体の表面に触媒層を形成し、触媒層表面の凹凸の高低差の最大値を5〜50μmとすることが推奨されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、及び、特許文献2に記載されているような、導電性基体の表面への触媒層の付着性を向上させるために、導電性基体にサンドブラストを行うか、もしくは、酸エッチングを行なうことによって表面を粗面化し、次いで粗面化された導電性基体の表面に触媒層を形成する方法では、触媒層表面の凹凸の高低差の最大値が制御されていないため、これだけでは電解電圧を低下させる効果について不十分である。
【0008】
また、特許文献3では、電解槽を改造することで電解電圧が低下する効果を提案しているが、電解槽の構造が複雑になるなどの欠点がある。
【0009】
さらに、特許文献4に記載されているような、表面の凹凸の高低差の最大値が5〜50μmである触媒層では、電流密度が小さい運転の場合にはゼロギャップ式食塩電解槽用における電気分解用電極において通液性が十分ではなく、また触媒層の表面積が小さいため、電解電圧が十分に低下しないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、食塩電解槽用陽極の触媒層を高粗面化することで通液性を十分確保し、更なる電解電圧の低下を可能としたゼロギャップ式食塩電解槽用陽極、ゼロギャップ式食塩電解槽、及びこれを用いる食塩電解方法を提供することにある。
【0011】
かかる課題解決のため鋭意検討した結果、本発明者は、食塩電解槽用陽極において触媒層を高粗面化することで通液性を十分確保し、更に電解電圧が低下することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明のゼロギャップ式食塩電解槽用陽極は、通液性を有する導電性基体と、その導電性基体上に設けられて表面の凹凸の高低差の最大値が55〜70μmである触媒層とを備えている。上記において、前記導電性基体がバルブ金属またはバルブ金属2種以上の合金よりなるエキスパンドメタルまたはパンチングメタルであり、且つ触媒層を含めた厚みが0.5〜2.0mmであることが好ましい。
【0013】
一方、本発明のゼロギャップ式食塩電解槽は、通液性を有する導電性基体と、その導電性基体上に設けられて表面の凹凸の高低差の最大値が55〜70μmである触媒層とを備える陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に接触状態で配置されるイオン交換膜と、を備えている。
【0014】
上記において、前記陰極は、剛構造のニッケル製エキスパンドメタルと、柔構造のファインメッシュ状陰極との間に、弾性反発力を有する導電性弾性体が介在し、この導電性弾性体で前記ファインメッシュ状陰極をイオン交換膜に押し付ける構造を有することが好ましい。また、前記導電性弾性体は、クッションマットまたはばね形状の導電性弾性体であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のゼロギャップ式食塩電解方法は、上記のいずれかに記載のゼロギャップ式食塩電解槽を用いて、塩化ナトリウムを含む液体を電気分解する食塩電解方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特にゼロギャップ式食塩電解槽において、イオン交換膜への陰極の密着に伴い陽極へのイオン交換膜の押し付け圧が増加しても、イオン交換膜が損傷することなく通液性を確保することが可能となり、更に、触媒層表面の凹凸の高低差の最大値が55〜70μmと大きくなることで表面積が増加し、電解電圧を低下させることが可能なゼロギャップ式食塩電解槽、及び電解方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。但し、本発明が、次に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明のゼロギャップ式食塩電解槽用陽極は、通液性を有する導電性基体と、その導電性基体上に設けられて表面の凹凸の高低差の最大値が55〜70μmである触媒層とを備えている。このような陽極は、例えば、次のような製法により得ることができる。即ち、本実施形態に係る製造方法は、導電性基体にサンドブラストを行なう工程Aと、および/または、導電性基体に酸を浸漬して表面処理を行なう工程Bと、表面処理を行なった後の導電性基体の表面に触媒層を形成する工程Cとを有するものである。
【0020】
まず、本実施形態に係る食塩電解用電極の製造方法においては、通液性を有する導電性基体を準備する。導電性基体の材質としては、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ等のバルブ金属や、バルブ金属2種以上の合金を挙げることができる。また、導電性基体の形状としては、エキスパンドメタルまたはパンチングメタルを挙げることができる。
【0021】
工程Aでは、導電体基体の表面に、触媒層を担持するためのアンカー効果を期待するためにサンドブラストを行なう。サンドブラストは、砂状の粒子を含む高圧ガスを材料の表面に吹き付ける表面処理方法であり、公知の方法を採用することができる。サンドブラストでは、例えば、使用する研磨剤の種類、ブラスト処理の時間を調整することにより、導電体基体の表面粗さを制御することができる。砂状の粒子には、アルミナ、ガラス、及び、鉄等が含まれる。その後、必要に応じて脱脂等を行なってもよい。
【0022】
工程Bでは、導電性基体に酸を浸漬して表面処理を行なう。酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、シュウ酸、フッ酸等を挙げることができる。
【0023】
工程Aおよび/または、工程Bの結果、当該製造方法により得られる電気分解用電極は、触媒層表面が高粗面化して凹凸の高低差の最大値が55〜70μmと大きくなり、その結果、通液性が十分確保でき、表面積が増加することで電解電圧を低下させることが可能となる。
【0024】
工程Cでは、工程Aおよび/または、工程Bの後、導電性基体の表面に触媒層を形成する。触媒層を構成する材料としては、電気分解を活性化させることができるものであれば、特に限定されないが、イリジウム、ルテニウム、白金等の白金族金属とバルブ金属との混合酸化物、具体的にはイリジウム−タンタル混合酸化物、イリジウム−ルテニウム−チタン混合酸化物、イリジウム−ルテニウム−白金混合酸化物等といった電極活性物質の金属塩溶液を調製し、これを導電性基体の表面に塗布し乾燥させた後、所定の加熱温度で焼成する。以上より、本実施形態に係る食塩電解用電極が得られる。
【0025】
上述した実施形態では、サンドブラストおよび/または酸に浸漬した後、導電体基体の表面に触媒層を形成する場合について説明した。しかしながら、本発明においては、この例に限定されず、導電体基体と触媒層以外の他の層を有していてもよい。例えば、サンドブラストを行なった後、触媒層を形成する前に、導電性基体の表面に下地層を形成し、その後、下地層上に触媒層を形成してもよい。下地層としては、酸化タンタルを含有する層、タンタルスパッタ層等を挙げることができる。
【0026】
本発明のゼロギャップ式食塩電解槽は、上記のようにして得られる陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に接触状態で配置されるイオン交換膜とを備えている。このゼロギャップ式食塩電解槽は、複極式食塩電解槽または単極式食塩電解槽の何れにも適応可能である。
【0027】
本発明のゼロギャップ式食塩電解槽は、
図1〜
図2に示されたゼロギャップ式食塩電解槽用電極ユニットUにより、陽極20を有する陽極室20A、および陰極30を有する陰極室30Aを構成することができる。この電極ユニットは、ゼロギャップ式のイオン交換膜法食塩電解槽に使用されるものであり、図示した例では、所定数の電極ユニットUが同一極性で縦列的に配置され、隣接するユニットU―U間にイオン交換膜Iが配置されることにより複極式食塩電解槽を形成する。なお、単極式食塩電解槽の場合、1つの電極ユニットUに、陽極20又は陰極30の何れかが形成され、それぞれの電極ユニットUがイオン交換膜Iを介して交互に配置されることで単極式食塩電解槽を形成される。
【0028】
図1〜
図2に示すように、個々の電極ユニットUは、縦列方向に直角で垂直な隔壁11の一方の側に剛構造の陽極20を支持して、他方の側に陰極構造体30を支持する電極支持フレーム10を備えている。
【0029】
陽極20の支持のために、垂直な隔壁11の一方の表面に、横方向に所定間隔で配置された垂直な複数の縦リブ12が取り付けられており、それらの先端に陽極20が取り付けられている。陽極20とその背後の隔壁11との間が陽極室20Aであり、陽極室20Aにおいて電解液が横方向で自由に流通するよう、個々の縦リブ12には、複数の貫通孔12aが設けられている。
【0030】
同様に、電極支持フレーム10の垂直な隔壁11の他方の表面には、横方向に所定間隔で配置された垂直な複数の縦リブ13が取り付けられており、それらの先端に陰極構造体30が取り付けられている。陰極構造体30とその背後の隔壁11との間が陰極室30Aであり、陰極室30Aにおいて電解液が横方向で自由に流通するよう、個々の縦リブ13には、複数の貫通孔13aが設けられている。
【0031】
図3には、板状の導電性基体21が示されているが、導電性基体21は通液性を有するために、複数の開口を有している。つまり、剛構造の陽極20は、通液性を有する高剛性で板状の導電性基体21、例えば開口率が25〜75%のチタニウム製エキスパンドメタルまたはパンチングメタルからなる導電性基体21と、導電性基体21の正面側の表面に形成された、活性を有する触媒層22とからなる。導電性基体の開口率としては好ましくは30〜60%である。
【0032】
剛構造の陽極20の触媒層を含めた厚みは0.5〜2.0mmが好ましく、導電性基体21の厚みは0.5〜2.0mmが好ましく、食塩電解用陽極の触媒層22の厚みは1〜5μmが好ましい。また、触媒層表面の平均粗さは3μm〜30μmが好ましく、触媒層表面の凹凸高低差の最大値は55〜70μmである。
【0033】
ここで、触媒層表面の凹凸高低差の範囲は、55μm〜70μmであり、好ましくは、60μm〜70μmであり、更に好ましくは、65μm〜70μmである。触媒層表面の凹凸高低差が55μm未満だと、表面積が小さく、通液性が十分でないため、槽電圧を十分低下させることができなくなる。一方、70μmを越えると、イオン交換膜への陰極の密着に伴い陽極へのイオン交換膜の押し付け圧が増加した際に、イオン交換膜が損傷し易くなると共に、電解液の流動の均一性が保ちにくくなるため、槽電圧を十分低下させることができなくなる。
【0034】
また、触媒層表面の平均粗さの範囲は、好ましくは3μm〜30μmであり、より好ましくは、5μm〜25μmであり、更に好ましくは、6μm〜20μmである。触媒層表面の平均粗さ3μm未満だと、表面積が小さく、通液性が十分でない。一方、30μmを越えると、イオン交換膜への陰極の密着に伴い陽極へのイオン交換膜の押し付け圧が増加した際に、イオン交換膜が損傷する。
【0035】
ゼロギャップ式食塩電解槽稼働時の電流密度の範囲は、好ましくは1kA/m
2以上、5kA/m
2以下、より好ましくは1kA/m
2以上、4kA/m
2以下である。電流密度が5kA/m
2を超えると、イオン交換膜への陰極の密着に伴い陽極へのイオン交換膜の押し付け圧が増加するため、イオン交換膜が損傷し易くなると共に、電解液の流動の均一性が保ちにくくなるため、槽電圧を十分低下させることができなくなる。
【0036】
なお、触媒層表面の平均粗さおよび凹凸の高低差の最大値は、表面粗さ測定機SJ−301((株)ミツトヨ製)を用いて測定を行った。最初に、JIS B0601-1994に基づいて、粗さ標準片を用いて校正を行なった。その後、測定面を水平に設置して、駆動検出部を被測定物上に置き、検出器の触針が被測定物表面の微細な凹凸をなぞり、触針の上下方向の変位量および横方向の移動量から触媒層表面の平均粗さおよび凹凸高低差の最大値を求めた。
【0037】
陰極構造体30における活性陰極33についても、通液性を有する導電性基体33aの表面に活性を有する触媒層33bを形成した活性電極であることが、電解電圧低下の観点から好ましい。陰極の導電性基体33aとしては、耐食性等の点からニッケル製エキスパンドメタル、ニッケル製パンチングメタル又はニッケル性ファインメッシュが望ましく、経済性及びイオン交換膜へのダメージ軽減等の観点から、柔構造であるニッケル製ファインメッシュが特に望ましい。陽極20の場合と同様、これらの導電性基体33aにおける開口率は機械的強度、通液性などの観点から25〜75%であることが望ましく、触媒層33bを含む陰極33の厚みは、機械的強度と経済性の両立という観点から0.7〜2.0mmが望ましい。
【0038】
陰極構造体30における導電性弾性体32としては、導電性の金属細線を錯綜させてマット状とした導電性クッションマット又はばね形状の導電性弾性体32が好ましい。なぜなら、柔軟性が高く経済性が良好なためである。導電性弾性体32の材質としては陰極の材質と同じニッケルが好ましい。導電性クッションマットの線径は通常0.05〜0.3mmであり、好ましくは0.07〜0.2mmであり、更に好ましくは0.1〜0.15mmである。
【0039】
導電性クッションマットのかさ密度は0.2〜2kg/m
2 が好ましく、厚みとしては負荷を受けない状態で5〜10mm、電極ユニット連結後、イオン交換膜に密着した状態で4〜8mmが好ましい。なぜなら、ある程度の機械的強度を有していないと,陰極から陽極へのイオン交換膜の押し付け圧を確保できないからである。
【0040】
ばね形状の導電性弾性体32としては、好ましくは、圧縮前のばね高さが1.5mm〜6mmであり、その後、ばね高さが1.0〜2.5mm均一的に圧縮された場合でも、圧縮された距離以上に復元されるものが好ましい。導電性弾性体32の弾性反発力が7〜15kPaであることが好ましい。
【0041】
ばね形状の導電性弾性体32としては、例えば
図4に示すように、縦長方向に延びる平滑な固定部41と、横方向に固定部41から延びて凹凸状に形成される弾性部42とを備えるものが挙げられる。導電性弾性体32の固定部41は、孔部41aを利用して、固定部材により背板31に取り付けることができる。また、凹凸状に形成される弾性部42は、波状または1辺以上が1度以上に折り曲げられた形状であり、図示した例では、ベース支持部42aが背板31に支持され、陰極支持部42bが活性陰極33を支持する構造を有する。
図4において、弾性部42は、固定部41の両側の対称な位置に設けられているが、弾性部42を両側の非対称な位置(例えば交互の位置)に設けることも可能である。
【0042】
ばね形状の導電性弾性体32としては、例えば、基材厚みが0.02〜0.3mmであり、縦長方向に平滑な固定部41の幅が5〜30mmであり、弾性部42の凹凸形状の周期が10mm以上であり、凹凸形状により形成される空隙部の幅が2〜20mmである。このような導電性弾性体32としては、好ましくは、基材厚みは0.20mm、固定部41の幅が10mm、弾性部42の凹凸形状の周期が10mmで、空隙部の幅が8mmである形状である。
【0043】
電極ユニットUにおける陰極構造体30は、電極支持フレーム10の縦リブ13に直接取り付けられた背板31として、その正面側に導電性弾性体32を介して柔構造の活性陰極33を積層した3層構造になっている。背板31は、ニッケル製エキスパンドメタルからなり、剛構造である。導電性クッションマット又はばね形状の導電性弾性体32は、柔構造の活性陰極33を、正面側の電極ユニットUとの間に配置されたイオン交換膜Iに弾性的に接触するのに寄与する。
【0044】
イオン交換膜Iとしては、食塩電解槽に用いられるものが、いずれも使用可能であり、例えば、塩素に耐久性を持つパーフルオロスルフォン酸樹脂、パーフルオロカルボン酸樹脂などを使用することができる。
【0045】
本発明のゼロギャップ式食塩電解方法は、以上のようなゼロギャップ式食塩電解槽を用いて、塩化ナトリウムを含む液体を電気分解する電解方法である。電解液、液温、電流密度、槽電圧などの電気分解に関する条件は、ゼロギャップ式食塩電解槽を用いる従来の電解方法と同様の条件が採用できる。
【実施例】
【0046】
次に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明し、比較例と対比することにより、本発明の効果を明らかにする。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0047】
(実施例1)
陽極は、開口率が50%のチタニウム製エキスパンドメタルを導電性基体とする通液型の剛構造電極である。基体表面を#36のアルミナでサンドブラスト処理した。このようにして粗面化された導電性基体の表面に塩化ルテニウム、塩化イリジウム、ブチルチタネートおよび塩酸を含むブタノール溶液を塗布し、100℃で10分間の乾燥処理を行った後、500℃で10分間の焼成処理を行った。この塗布−乾燥−焼成のプロセスを繰り返して、基体表面に活性を有する厚みがおよそ2μmの触媒層を形成することにより、陽極を作製した。形成された触媒層表面の凹凸の高低差の最大差は、表面粗さ測定機SJ−301((株)ミツトヨ製)で測定したところ粗面化処理後の基体表面の粗度と同じく65μmであった。また、触媒層表面の平均粗さは、11μmであった。
【0048】
一方、陰極は、開口率が50%のニッケル製エキスパンドメタルを導電性基体とする剛構造電極の正面側に、ばね形状の導電性弾性体を介して活性陰極を支持した。
【0049】
活性陰極は、開口率が50%のニッケル製マイクロメッシュを導電性基体とする柔構造電極である。その導電性基体の表面を#180のアルミナでサンドブラスト処理し、その後10重量%の塩酸中で60分間、室温でエッチング処理した。こうして粗面化された導電性基体の表面にジニトロジアミン白金を含む硝酸溶液を塗布し、100℃で10分間の乾燥処理を行った後、500℃で10分間の焼成処理を行った。この塗布−乾燥−焼成のプロセスを繰り返して、基体表面に活性を有する厚みがおよそ2μmの触媒層を形成し、活性陰極を完成させた。
【0050】
陽極と陰極構造体との間にイオン交換膜FLEMION F−8020SP(旭硝子(株)製)を挟み、且つそのイオン交換膜に陰極構造体を密着させながら電極ユニットを縦列配置することにより、ゼロギャップ式電解槽を構成した。
【0051】
構成されたゼロギャップ式食塩電解槽内の陽極室に電解液として250g/Lの食塩水、陰極室に32%の水酸化ナトリウム溶液を供給し、液温80℃、電流密度4kA/m
2の条件で電解運転を行った。槽電圧は2.98Vであり、試験開始から45日後においても、ほとんど電圧は上昇しなかった。試験開始からの槽電圧の経時変化を
図5に示す。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、ニッケル製エキスパンドメタルを導電性基体とする剛構造電極の正面側に、ニッケルウーブンメッシュからなるマット状の導電性弾性体を介して活性陰極を支持したこと以外は、陽極と陰極を実施例1と同じ条件で作製し、ゼロギャップ式電解槽を構成した。試験開始からの槽電圧の経時変化を
図5に示す。槽電圧は実施例1とほぼ同等の2.98Vであり、試験開始から45日後においても、ほとんど電圧は上昇しなかった。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、陽極の導電性基体として使用されるチタニウム製エキスパンドメタルの粗面化処理後の表面粗度を20μmとした。酸性溶液を塗布し、形成された触媒層表面の凹凸の高低差の最大差は、表面粗さ測定機SJ−301((株)ミツトヨ製)で測定したところ粗面化処理後の基体表面の粗度と同じく20μmであった。また、触媒層表面の平均粗さは、
6μmであった。試験開始からの槽電圧の経時変化を
図5に示す。槽電圧は実施例1と比べて、20mV高かった。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、陽極の導電性基体として使用されるチタニウム製エキスパンドメタルの粗面化処理後の表面粗度を50μmとした。酸性溶液を塗布し、形成された触媒層表面の凹凸の高低差の最大差は、粗面化処理後の基体表面の粗度と同じく50μmであった。また、触媒層表面の平均粗さは、9μmであった。試験開始からの槽電圧の経時変化を
図5に示す。槽電圧は実施例1と比べて、10mV高かった。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、陽極の導電性基体として使用されるチタニウム製エキスパンドメタルの粗面化処理後の表面粗度を80μmとした。酸性溶液を塗布し、形成された触媒層表面の凹凸の高低差の最大差は、粗面化処理後の基体表面の粗度と同じく80μmであった。また、触媒層表面の平均粗さは、15μmであった。試験開始からの槽電圧の経時変化を
図5に示す。槽電圧は実施例1と比べて、15mV高かった。