特許第6183638号(P6183638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183638
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ボールジョイント用ダストカバー
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20170814BHJP
   F16J 3/04 20060101ALI20170814BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F16C11/06 Q
   F16J3/04 C
   F16J15/52 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-48840(P2013-48840)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-173695(P2014-173695A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107320
【弁理士】
【氏名又は名称】高塚 一郎
(72)【発明者】
【氏名】宝泉 達郎
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−048610(JP,U)
【文献】 特開2003−247529(JP,A)
【文献】 特開昭62−196415(JP,A)
【文献】 特開2011−179549(JP,A)
【文献】 特開2009−083588(JP,A)
【文献】 米国特許第04154546(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッド(1)の一端に形成された球頭部(2)がソケット(3)内に保持され、前記ボールスタッド(1)の他端の軸(4)はナックル(5)に締め付け固定され、一端大径開口部(8)が前記ソケット(3)の外周面に形成された環状溝部(31)内に保持され、硬質材製の補強環(9)が一体形成された他端小径開口部(7)が前記軸(4)に保持されたボールジョイント用ダストカバー(6)において、
前記一端大径開口部(8)は、その内周面にリップ部(81)を形成し、補強部材(831)、(832)、(833)が配置されており、前記リップ部(81)が前記環状溝部(31)の底面(311)との間で密封摺動すると共に、前記他端小径開口部(7)が前記補強環(9)を介して前記軸(4)側に嵌合固定され、前記一端大径開口部(8)の内周面側にダストリップ(82)が形成され、前記ダストリップ(82)が前記環状溝部(31)と密封摺動することを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
前記補強部材(831)が前記一端大径開口部(8)を前記底面(311)に向かって押圧するコイルスプリングであることを特徴とする請求項1記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項3】
前記補強部材(832)、(833)が前記一端大径開口部(8)に埋設された金属補強環であることを特徴とする請求項1記載のボールジョイント用ダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント用ダストカバーに関する。
また、本発明は、自動車懸架装置、操舵装置等に使用されるボールジョイント用ダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールジョイント継ぎ手部の防塵、防水を目的としてダストカバーが装着されているボールジョイントとしては図9に記載のボールジョイント用ダストカバーが知られている。(特許文献1)
【0003】
この種ボールジョイント用ダストカバーのシール構造は、ボールスタッド100の一端に形成された球頭部200がソケット300内に保持されている。
そして、ボールスタッド100の他端の軸400は、ナックル500に締め付け固定されている。
一方、弾性材製ダストカバー600の断面略コ字形状の一端大径開口部800が、ソケット300の外周面に形成された環状の溝部310内に、円環状押さえリング700により固定保持され、断面L字形状の金属補強環が埋設された他端小径開口部150が軸400に保持された構成となっている。そして、この金属補強環と軸400との間に存在するゴムが適度に圧縮され、そのゴムの反発力(緊迫力)と追随性により、ボールスタッド100の揺動運動に対してシール性を発揮する形を取っている。
【0004】
しかし、この種従来の弾性材製ダストカバー600は、図9に示す様にボールスタッド100が傾斜した状態で揺動すると、弾性材製ダストカバー600の膜部が伸びる側(図上右側)において、小径開口部150を引き伸ばす力が作用する為、小径開口部150のリップ部とナックル500との接触が外れる、いわゆる小径開口部150の口開き現象が発生する。
この結果、小径開口部150におけるシール性能が低下し、外部から土砂や塵芥がダストカバー600内に浸入する問題を惹起した。
【0005】
特に、低温雰囲気下では弾性材製ダストカバー600を構成するゴムが伸縮性を失い、ボールジョイントの揺動運動に対する膜部の追随性が低下する結果、シールリップ部が軸400から離れる口開き現象が顕著に発生する事が判った。
【0006】
また、この様な口開き現象が発生すると、外部から土砂や塵芥がダストカバー600内に浸入するだけでなく、ダストカバー600内に封入されたグリースが漏れ出る危険性を招来した。
この問題を解決する方策として、他端小径開口部150を軸400に嵌合固定する方法が考えられるが、他端小径開口部150と一端大径開口部800の両方を固定保持する態様とした場合は、ボールスタッド100の揺動運動に伴い、ダストカバー600の膜部に捩れが発生し、ダストカバー600の寿命を短くする問題を招来した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−137408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、低温雰囲気下においても、小径開口部と軸との接触が外れる、いわゆる小径開口部の口開き現象の発生を無くす共に、ダストカバーの膜部に捩れが発生しない為、ダストカバーの寿命を短くする事のないボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ボールスタッドの他端の軸はナックルに締め付け固定され、一端大径開口部が前記ソケットの外周面に形成された環状溝部内に保持され、硬質材製の補強環が一体形成された他端小径開口部が前記軸に保持されたボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記一端大径開口部が前記環状溝部との間で相対摺動可能に保持されると共に、前記他端小径開口部が前記補強環を介して前記軸側に嵌合固定され、前記一端大径開口部の内周面側にダストリップが形成され、前記ダストリップが前記環状溝部と密封摺動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、一端大径開口部が環状溝部との間で相対摺動可能に保持されると共に、揺動運動が大きい他端小径開口部が軸側に嵌合固定されている構成としている為、低温雰囲気下においても、小径開口部と軸との接触が外れる、いわゆる小径開口部の口開き現象の発生を無くすと共に、ダストカバーの膜部に捩れが発生しない為、ダストカバーの寿命を短くする事が無いばかりでなく、一端大径開口部の内周面にリップ部が形成され、このリップ部が環状溝部の底面と密封摺動する構成としている為、一端大径開口部とソケットの外周面に形成された環状溝部の間の相対摺動が円滑に行われると共に、一端大径開口部からのグリースの漏出及び外部からの泥水等の浸入を効果的に阻止出来、更に、一端大径開口部に補強部材が配置される構成としている為、一端大径開口部に伴う引張り力が作用したとしても、一端大径開口部が環状溝部から抜け出す事を効果的に防止できると共に、一端大径開口部の内周面側にダストリップが形成され、このダストリップが環状溝部と密封摺動する構成としている為、摺動抵抗が少ない状態で外部からの泥水等のダストカバー内への浸入をより確実に阻止出来る。
【0011】
更に、請求項記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、一端大径開口部に配置した補強部材が、一端大径開口部を環状溝部の底面に向かって押圧するコイルスプリングである為、コイルスプリングがリップ部に対し、底面に対する適切な押圧力を与え、リップ部の良好な密封機能を長期に渡って維持出来る。
更に、請求項記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、補強部材が一端大径開口部に埋設した金属補強環としている為、一端大径開口部が環状溝部から抜け出す事をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る第1の態様のボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。
図2図1の一端大径開口部側の部分拡大図。
図3図1の他端径開口部側の部分拡大図。
図4図1に示したダストカバーの装着前の縦断面図。
図5】本発明に係る第2の態様のダストカバーの一端大径開口部側の部分拡大図。
図6】本発明に係る第3の態様のダストカバーの一端大径開口部側の部分拡大図。
図7】本発明に係る第4の態様のダストカバーの一端大径開口部側の部分拡大図。
図8】本発明に係る第2の態様のダストカバーの他端径開口部側の部分拡大図。
図9】従来技術に係るボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための第1の態様について説明する。
図1図2図3及び図4に示される様に、本発明に係るボールジョイント用ダストカバー6は、ボールスタッド1の一端に形成された球頭部2がソケット3内に保持され、このボールスタッド1の他端の軸4はナックル5に締め付け固定され、一端大径開口部8がソケット3の外周面に形成された環状溝部31内に保持され、硬質材製の補強環9が一体形成された他端小径開口部7が軸4に保持された基本構成を備えている。
【0014】
そして、一端大径開口部8は、環状溝部31との間で相対摺動可能に保持されると共に、他端小径開口部7が補強環9を介して軸4側に嵌合固定されている。
一端大径開口部8の内周面には、リップ部81が形成されている。
そして、このリップ部81が環状溝部31の底面311と密封摺動する。
【0015】
この様に、一端大径開口部8と環状溝部31の間で相対摺動可能となっている為、ダストカバー6の膜部に捩れが発生しない為、ダストカバー6の寿命を短くする事が無いばかりでなく、一端大径開口部8からのグリースの漏出及び外部からの泥水等の浸入を効果的に阻止出来る。
【0016】
更に、一端大径開口部8の内周面側で、リップ部81よりも外気側(図上下方)にダストリップ82が形成され、このダストリップ82が環状溝部31と密封摺動する構成となっている。
この事により、外部からの泥水等のダストカバー6内への浸入をより確実に阻止出来る。
【0017】
また、一端大径開口部8には、コイルスプリングの補強部材831が配置されている。
この事により、一端大径開口部8が環状溝部31から離脱する事を効果的に防止すると共に、コイルスプリングが一端大径開口部8を環状溝部31の底面311に向かって押圧している為、コイルスプリングがリップ部81に対し、底面311に対する適切な押圧力を与え、リップ部81の良好な密封機能を長期に渡って維持出来る。
【0018】
一方、他端小径開口部7には、樹脂材製の断面矩形の補強環9が一体形成されている。
図4に示す様に、この補強環9の内周面が軸4の外周面に直接接する態様となっている。
また、他端小径開口部7を軸4に嵌合固定する為に、補強環9の内径が軸4の外径よりも若干小さい、一定の締め代を与える形に設計される。
【0019】
この様に、揺動運動の影響が、一端大径開口部8に比べ大きい他端小径開口部7を、他端小径開口部7に一体形成した補強環9を介して軸4に嵌合固定する態様とした為、低温雰囲気下においても、他端小径開口部7と軸4との接触が外れる、いわゆる他端小径開口部7の口開き現象の発生を無くすことが出来た。
また、補強環9の材質としては、金属材、樹脂材が適宜選択して用いられる。
【0020】
ついで、図5に基づき、本発明に係る第2の態様のダストカバー6の一端大径開口部8の形状について説明する。
上述した第1の態様の一端大径開口部8の形状と相違する点は、一端大径開口部8の下端外周側(図上下側)に金属材製の板状補強部材832を埋設している点である。
この事により、一端大径開口部8が環状溝部31から抜け出す事を確実に防止出来る。
【0021】
ついで、図6に基づき、本発明に係る第3の態様のダストカバー6の一端大径開口部8の形状について説明する。
上述した第1の態様の一端大径開口部8の形状と相違する点は、コイルスプリングの補強部材831がリップ部81内に埋設されている点である。
この事により、コイルスプリングの補強部材831が一端大径開口部8から抜け出す事が無い為、補強部材83の安定した性能が長期に渡り維持出来る。
【0022】
ついで、図7に基づき、本発明に係る第4の態様のダストカバー6の一端大径開口部8の形状について説明する。
上述した第1の態様の一端大径開口部8の形状と相違する点は、コイルスプリングの補強部材83の代わりに、の金属材製の断面L字形状補強部材833を一端大径開口部8に埋設する形としている点である。
この事により、一端大径開口部8が環状溝部31から抜け出す事をより確実に防止出来る。
【0023】
ついで、図8に基づき、本発明に係る第2の態様のダストカバー6の他端小径開口部7の形状について説明する。
上述した第1の態様の他端小径開口部7の形状と相違する点は、断面コ字形状の金属材製の補強環9により、他端小径開口部7の内周側を包み込む形で一体化している点である。
そして、この補強環9の内周面が軸4の外周面に、一定の締め代を持って嵌合固定される。
この為、低温雰囲気下においても、他端小径開口部7と軸4との接触が外れる、いわゆる他端小径開口部7の口開き現象の発生を無くす事が出来る。
【0024】
また、ダストカバー6の材質は、クロロプレン等のゴム状弾性材や、ポリエステル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性エラストマーから、適宜用途に合わせ選択して使用される。
【0025】
また、ダストカバー6内には、グリースが封入されている。
【0026】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるボールジョイントに使用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 ボールスタット
2 球頭部
3 ソケット
4 軸
5 ナックル
6 ダストカバー
7 他端小径開口部
8 一端大径開口部
9 補強環
31 環状溝部
81 リップ部
82 ダストリップ
831 コイルスプリング補強部材
832 板状補強部材
833 断面L字形状補強部材
311底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9