特許第6183659号(P6183659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183659
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20170814BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F01N3/025 101
   F01N3/20 C
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-108957(P2014-108957)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-224575(P2015-224575A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境野 誠
(72)【発明者】
【氏名】松下 智彦
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−138898(JP,A)
【文献】 特開2005−307745(JP,A)
【文献】 特開2010−144525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00 − 3/36
F01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガス浄化装置であって、
前記エンジンの排気管に設けられた酸化触媒と、
前記酸化触媒の下流側において前記排気管に設けられ、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタが捕集した前記粒子状物質を燃焼させるフィルタ再生処理を行なうために、前記酸化触媒および前記フィルタよりも上流において排気ガスに未燃燃料を供給する燃料供給装置と、
前記酸化触媒の温度が許可温度以上である場合に前記フィルタ再生処理のための前記燃料供給装置からの未燃燃料の供給を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記酸化触媒の温度が高いほど大きくなる重み係数に経過時間を掛けた値を所定の時間間隔ごとに積算して、前記酸化触媒の劣化度を決定し、
燃料中の硫黄分濃度が高いほど前記酸化触媒の劣化度が大きくなるように前記酸化触媒の劣化度を補正し、
前記許可温度を、前記酸化触媒の劣化度に応じて変更する、排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガス浄化装置に関し、特に、粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタを備えた排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス中の粒子状物質を浄化するために、排気管にDPF(Diesel particulate filter)システムが設けられる。DPFシステムは、DPF本体と、その上流に配置された酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)とを含む。DPF本体に粒子状物質が捕集された量が多くなると、フィルタが目詰まりを起こして機能が低下する。このため、DPFシステムは、DPF本体を昇温させて粒子状物質を燃焼させDPF本体を再生させるセルフクリーニング機能が付加されている。
【0003】
DPF本体の温度を上げるには、排気ガスに燃料を添加し、酸化触媒で酸化反応を起こさせて燃焼させその燃焼熱によって排気ガスを昇温させる。排気ガスへの燃料の添加は、エンジン筒内へ燃料を噴射するインジェクタによるポスト噴射で行なうか、またはインジェクタとは別に設けられた燃料添加弁からの排気ガス中への燃料添加によって行なう。
【0004】
上記の方法によって排気ガス中に添加された燃料がDOC内で酸化反応するためには、DOCに流入する排気ガス温度が失活限界温度以上であることが必要である。これより低い温度で燃料を添加し続けると、未燃燃料が白煙として大気中に放出される。
【0005】
従来技術では、排気温度センサによる実測あるいはECUによる推定で得たDOCに流入するガス温度が燃料添加許可温度を超えている場合に、ポスト噴射あるいは燃料添加を許可する。
【0006】
このような、DPFの再生処理を開示した文献に、特開2007-198282号公報(特許文献1)、特開2008-128170号公報(特許文献2)、特開2005-048663号公報(特許文献3)などがある。
【0007】
従来、燃料添加許可温度を運転条件によらず一定値とすることが考えられるが、特開2007-198282号公報では、排気ガス流量と相関が高いエンジン回転数に応じて燃料添加許可温度を可変させる手法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-198282号公報
【特許文献2】特開2008-128170号公報
【特許文献3】特開2005-048663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DOCは高温に曝されることで酸化能力が低下するので、一般的には走行距離に応じて失活限界温度は上昇する。そこで経年車両のDPF再生を保証するために、従来は、燃料添加許可温度を性能保証距離走行後相当の劣化後の失活限界温度で決定していた。
【0010】
そのため、新車時等のDOCが未劣化な状態においては、低い流入ガス温度でもDOCが活性しDPF再生を行なうことができるにも拘わらず、燃料添加が許可されずにDPFの再生機会を逸してしまうという問題があった。また、アイドリング時などエンジンの排気温度が低く燃料添加が許可されない間は、排気温度を燃料添加許可温度以上に上昇させるために、エンジンは通常時より燃費が悪い昇温燃焼モードで制御され続け、燃費の悪化を招いている。
【0011】
上記特開2007-198282号公報で使用された手法では、同じDOC流入ガス温度であっても、排気ガス流量が多いほどDOC内での酸化反応が起こりにくくなる点を考慮して、排気ガス流量との相関が高いエンジン回転数に応じて燃料添加許可温度を可変させる。しかし、この手法ではDOCの劣化状態については考慮されていないため、以下の問題が考えられる。
【0012】
もし、DOCの劣化を想定した燃料添加許可温度に設定した場合、DOCが未劣化(新品)状態に対しては過剰に高い許可温度となり、DPFの再生機会を逸し、燃費悪化につながる。
【0013】
逆に、DOCの劣化を想定していない燃料添加許可温度に設定した場合、DOCが劣化した後は許可温度付近ではDOC内で添加燃料が酸化し切らずDOC下流のDPFへ添加燃料が未燃のまま流入する。すると、DPF内に温度勾配が生じ粒子状物質の酸化速度が低下し、DPF再生時間が延長して燃費が悪化したり、またはDPFの再生が不良となりDPFの破損を招いたりするおそれがある。
【0014】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的は、DPFの再生機会を増やし、排気ガスの浄化と燃費の向上を図ることができる排気ガス浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、要約すると、エンジンの排気ガス浄化装置であって、エンジンの排気管に設けられた酸化触媒と、酸化触媒の下流側において排気管に設けられ、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、フィルタが捕集した粒子状物質を燃焼させるフィルタ再生処理を行なうために、酸化触媒およびフィルタよりも上流において排気ガスに未燃燃料を供給する燃料供給装置と、酸化触媒の温度が許可温度以上である場合にフィルタ再生処理のための燃料供給装置からの未燃燃料の供給を制御する制御装置とを備える。制御装置は、許可温度を、酸化触媒の劣化度に応じて変更する。
【0016】
好ましくは、制御装置は、酸化触媒の温度が高いほど大きくなる重み係数に経過時間を掛けた値を所定の時間間隔ごとに積算して、酸化触媒の劣化度を決定する。
【0017】
より好ましくは、制御装置は、燃料中の硫黄分濃度が高いほど酸化触媒の劣化度が大きくなるように酸化触媒の劣化度を補正する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、DOCの劣化度合いに応じてDPFの再生条件を変更することにより、DOCが新しい場合も経年劣化した後でも可能な範囲でDPFの再生を行ない、排気ガスの浄化性能を保つとともに燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】DPFシステムが搭載された車両のエンジン周辺の構成を示した図である。
図2】DPFの再生制御を説明するためのフローチャートである。
図3】燃料添加許可温度および燃料添加禁止温度と酸化触媒の劣化度との関係を示す図である。
図4】劣化度を算出する処理の一例を示すフローチャートである。
図5】重み係数Mと温度差ΔTとの関係を示した図である。
図6】実施の形態2において劣化度を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
図7】累積硫黄通過量と劣化度の補正項との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
[実施の形態1]
(車両のエンジン周辺の構成の説明)
図1は、DPFシステムが搭載された車両のエンジン周辺の構成を示した図である。図1に示すエンジン10は、排気ガス浄化装置1を有するディーゼルエンジンである。エンジン10は、複数(例えば4つ)の気筒11と吸気管8と排気管7とを含む。
【0022】
吸気管8は、一つの入口から分岐して各気筒11に連通する。吸気管8にはエアフローメータ2が設けられる。エアフローメータ2は、吸気管8からエンジン10に導入される新気の流量を測定し、空気流量情報を制御ユニット6に検知信号として発信する。エアフローメータ2の下流に吸気絞り弁16が設けられる。吸気絞り弁16の開度は、絞り弁センサ17によって制御ユニット6に発信され、絞り弁センサ17を介して制御ユニット6からの制御信号によって制御される。
【0023】
各気筒11は、シリンダ11aとピストン11bとを含む。気筒11には燃料噴射器13が設けられる。燃料噴射器13は、コモンレール15を介して燃料ポンプ14および燃料タンク12に接続される。燃料噴射器13は、制御ユニット6によって制御されて、気筒11内の燃焼室に燃料を供給する。
【0024】
排気管7は、排気ガス上流管7aと、第一収納管7bと、第二収納管7cと、排気ガス下流管7dとを含む。排気ガス下流管7dの端部には、排気ガスを大気に放出する出口が形成される。
【0025】
エンジン10には、EGR(排気ガス再循環)システムが設けられる。EGRシステムは、EGR管18とEGR弁19とを含む。EGR管18は、排気管7と吸気管8を連通して、排気管7に排出された排気ガスの一部を吸気管8に戻す。EGR弁19は、制御ユニット6によって制御されて開度が調整され、EGR管18によって循環するガス流量を調整する。制御ユニット6は、エアフローメータ2やEGR弁19の開度により空気流量を検出する。
【0026】
制御ユニット(ECU)6は、プログラムおよびデータを記憶するROMと、各種処理を行なうCPUと、CPUの処理結果等を記憶するRAMと、外部との情報のやり取りを行なう入・出力ポートとを含む。入力ポートには回転速度検知器20とアクセルセンサ21と絞り弁センサ17等が接続される。
【0027】
回転速度検知器20は、クランクシャフトの近傍に設けられてクランクシャフトの回転位置を検知する位置センサを有し、クランクシャフトの回転速度Neを検知する。回転速度検知器20は、クランクシャフトの回転速度情報を制御ユニット6に検知信号として発信する。アクセルセンサ21は、アクセルペダルの近傍に設けられてアクセルペダルが踏み込まれた量を検知する。アクセルセンサ21は、アクセルペダルの移動量に対応したアクセルペダル情報Accを制御ユニット6に検知信号として発信する。
【0028】
制御ユニット6は、入力ポートに接続された各機器から信号を受信し、受信した信号に基づいて出力ポートに接続された絞り弁センサ17、燃料噴射器13、燃料ポンプ14、燃料添加器3、EGR弁19等を制御する。
【0029】
(DPFシステムの概要の説明)
図1に示した排気ガス浄化装置1は、DPF4と再生機構とを含む。DPF4は、セラミック、ステンレス等から形成される。DPF4は、第二収納管7cに収納される。DPF4は、排気ガスの通過を許容し、通過する排気ガスから粒子状物質を捕捉する。
【0030】
再生機構は、DPF4を連続して再生させる機構であって、酸化触媒(DOC)9と燃料添加器3とを含む。酸化触媒9は、DPF4の上流の第一収納管7bに収納される。酸化触媒9は、排気ガスが通過することを許容し、通過する排気ガス中の窒素酸化物(NOx)をより二酸化窒素の多い状態にする。酸化触媒9は、所定温度(例えば250〜300℃程度)において二酸化窒素を生成する。二酸化窒素は、強い酸化作用を有するため、DPF4に堆積した粒子状物質を比較的低い温度(例えば約200℃)にて酸化除去する(燃焼させる)。
【0031】
燃料添加器3は、酸化触媒9の上流の排気ガス上流管7aに設けられる。燃料添加器3は、燃料ポンプ14に接続され、制御ユニット6によって制御される制御弁を含む。燃料添加器3の制御弁が開くことによって、燃料ポンプ14から排気管7内の排気ガスに未燃燃料が添加される。未燃燃料は、DPF4に堆積した粒子状物質を二酸化窒素の多い雰囲気にて燃焼させる。これによりDPF4が連続して再生される。
【0032】
排気管7には、排気ガス温度センサ5a〜5cとA/Fセンサ22が設けられる。排気ガス温度センサ5aは、第一収納管7bに設けられる。排気ガス温度センサ5bは、酸化触媒9の下流かつDPF4の上流に設けられる。排気ガス温度センサ5cは、第二収納管7cに設けられる。
【0033】
排気ガス温度センサ5a,5bは、酸化触媒9のそれぞれ上流側、下流側の排気ガスのガス温度を検出して、排気ガス温度情報を制御ユニット6に検知信号として発信する。排気ガス温度センサ5cは、DPF4の下流側の排気ガスのガス温度を検出して、排気ガス温度情報を制御ユニット6に検知信号として発信する。A/Fセンサ22は、排気ガス下流管7dに設けられる。A/Fセンサ22は、空燃比(空気質量を燃料質量で割ったもの)を検出して、空燃比情報を制御ユニット6に検知信号として発信する。
【0034】
(DPF再生制御の詳細)
以上のような構成を有するDPFシステムにおいては、エンジンの排気ガスを浄化するために排気管にDPF4を設けている。DPF4の排気管の上流側には酸化触媒9を設けている。DPF再生のためにDPFの温度を上げるには、燃料添加器3から燃料を添加し、酸化触媒9で酸化反応を起こさせて燃焼させその燃焼熱を利用する。
【0035】
制御ユニット6は、排気ガス温度センサ5a,5bからの信号に基づいて酸化触媒9の温度を推定し、推定した温度が燃料添加許可温度(下限温度しきい値)より高ければフィルタ再生を実行する際の燃料添加を許可する。制御ユニット6のROMには、フィルタ再生を実行する際に燃料添加の許可の判断に使用する燃料添加許可温度のマップが記憶されている。
【0036】
しかし、実際にDPFの温度がどれくらい上昇するのかは、酸化触媒9の劣化度に依存する。新しい酸化触媒9の場合と、走行距離を重ねて劣化した状態の酸化触媒9の場合では、昇温能力に差が生じる。
【0037】
基本的には、酸化触媒9が劣化した状態でも未燃の燃料が下流側に流れないように、燃料添加許可温度を高めに設定し、温度が十分高くならなければ燃料の添加による昇温は行わないことが考えられる。しかし、新車時には、酸化触媒も酸化能力が高いので、所定のしきい値よりも低くてもDPF再生ができる。すなわち、劣化時に合わせると、新車時にはDPF再生チャンスを逃していることになる。
【0038】
そこで、本実施の形態では、DPF再生時の燃料添加許可温度をDOCの劣化度に応じた温度に設定することによって、DOCの劣化状態に応じたDPF再生を可能にし,燃費向上とDPF再生の機会増加を図る。
【0039】
図2は、DPFの再生制御を説明するためのフローチャートである。図1図2を参照して、ステップS1において、制御ユニット6は、PMカウンタのカウント値が再生開始しきい値C1以上であるか否かを判断する。この処理によって、ある程度の量の粒子状物質がDPFに堆積したらDPFの再生制御が実行される。PMカウンタとは、エンジンの稼働状態(回転数、負荷)と粒子状物質の単位時間あたりの堆積量との関係を示したマップに基づいて、DPFへの粒子状物質の堆積量を積算する処理を示す。制御ユニット6は、マップを記憶しており、エンジン稼働状態に対応させてPM堆積量を積算した値を更新している。PMカウンタのカウント値は、現在のDPFへの粒子状物質の堆積量を示す。また、再生処理を行うと、粒子状物質が燃焼により減少するのでPMカウンタのカウント値は減少する。
【0040】
ステップS1においてカウント値がしきい値C1より小さければステップS12に処理が進められ、DPFの再生処理は行なわれない。ステップS1においてカウント値がしきい値C1(たとえば10グラム)以上であればステップS2に処理が進められる。ステップS2では、DPF再生要求フラグF1がONに設定される。
【0041】
フラグF1がONになると、ステップS3において、制御ユニット6は、酸化触媒9の推定温度が燃料添加許可温度T1以上か否かを判断する。本実施の形態では、燃料添加許可温度T1と、後にステップS8で説明する燃料添加禁止温度T2とを酸化触媒9の劣化度に応じて変化させる点が特徴である。
【0042】
図3は、燃料添加許可温度および燃料添加禁止温度と酸化触媒の劣化度との関係を示す図である。本実施の形態では、酸化触媒の劣化の程度を示すパラメータとして劣化度を計算する。劣化度の算出手法については後述する。図3の横軸に示すように、酸化触媒9の劣化度を初期にX0、性能保証距離(たとえば30万km)相当の設計寿命経過時にX1とする。経年劣化した酸化触媒9は温度T0以上でないと燃料添加できないことが示されている。従来は、酸化触媒9の劣化度を考慮せずに燃料添加許可温度を設定していたため、酸化触媒9が劣化した状態でも未燃の燃料が下流側に流れないように、温度T0を一律に燃料添加許可温度としていた。
【0043】
しかし、劣化度がX0の場合(まだ酸化触媒9が劣化していない場合)には、さらに低い温度でも燃料添加が可能である。そこで、図3に示すように、本実施の形態では、燃料添加許可温度T1を劣化度X0のときは酸化触媒9の酸化能力に見合う温度に下げておき、劣化度が進むにつれて次第に温度T0に近づける。すると、DPF再生のための昇温を早期に開始できることになり、結果として、車両の寿命全体の期間の総合的な燃費の向上につながる。
【0044】
より具体例を示すと、燃料添加許可温度T1の決め方は、従来は、30万km走行の劣化した触媒でも反応可能な温度180℃というように一律に定めていた。本実施の形態では、燃料添加許可温度T1を劣化度の増加に伴って序変させて、2万kmなら150℃、5万kmならば170℃といったように図3のように序変させる。
【0045】
なお、ステップS8で後述するが、燃料添加禁止温度T2についても同様に、劣化度X0のときは酸化触媒9の酸化能力に見合う温度に下げておき、劣化度が進むにつれて次第に温度T0に近づける。なお、一般に燃料添加許可温度>燃料添加禁止温度とするため、図3では全劣化度にわたってT1>T2となっている。
【0046】
図3に示した劣化度と燃料添加許可温度T1,燃料添加禁止温度T2の関係は、あらかじめマップとして制御ユニット6中のROMに記憶されている。
【0047】
再び、図2を参照して、制御ユニット6は、ステップS3においてNOの場合には、酸化触媒9に流入するガス温度が上昇するまで待ち、ステップS3においてYESであれば次のステップS4に処理を進める。
【0048】
ステップS4では、制御ユニット6は、燃料添加許可フラグF2をONに設定する。そして、ステップS5において、制御ユニット6は、燃料添加器3に燃料を添加する指令を出力し、燃料添加を実行する。そしてステップS6において、制御ユニット6は、燃料添加量に相当する分PMカウンタのカウント値を減算する。
【0049】
ステップS7では、制御ユニット6は、PMカウンタのカウント値が再生終了しきい値C2より小さいか否かを判断する。ステップS7において、カウント値がC2以上である場合には、DPFの再生処理を継続できるか否かをステップS8において判断する。具体的には、ステップS8では制御ユニット6は、酸化触媒9に流入するガスの温度が図3で説明した現在の酸化触媒9の劣化度に対応する燃料添加禁止温度T2より低いか否かを判断する。燃料添加禁止温度T2は、基本的には燃料添加許可温度T1と同じで良いが、頻繁な燃料添加許可フラグF2の切り替えが生じないようにT1>T2に設定する。
【0050】
ステップS8において、ガス温度がT2より低い場合にはステップS9において制御ユニット6は燃料添加許可フラグF2をOFF状態に設定し、再びステップS3以降の処理を実行する。ステップS8において、ガス温度がT2以上である場合にはステップS9の処理は実行せずにF2をONに設定したままの状態で、再びステップS5以降の処理を実行する。
【0051】
一方、ステップS7でPMカウンタのカウント値がC2より小さくなった場合には、DPFへの粒子状物質の堆積量は再生により減少している。このため、制御ユニット6はステップS10に処理を進め、DPF再生要求フラグF1をOFFに設定する。そしてステップS11において、制御ユニット6は燃料添加許可フラグF2をOFF状態に設定し、ステップS12でDPF再生処理を終了させる。
【0052】
(酸化触媒の劣化度の算出)
図2のステップS3,S8では、酸化触媒の劣化度に応じた燃料添加許可温度T1、燃料添加禁止温度T2を、図3に示したマップから読み込んで使用した。このときにマップを参照するための入力となる酸化触媒の劣化度は以下のいずれかを採用することができる。(1)走行距離、(2)累積DPF再生回数、(3)累積DPF再生時間、(4)酸化触媒の推定温度と基準温度との差に基づいて積算されるパラメータ。
【0053】
(1)走行距離については、車両が通常持っている値であり、インストルメント・パネルなどに表示されるものであるので、それをそのまま使用することができる。
【0054】
(2)累積DPF再生回数は、図2のフローチャートに従ってDPFの再生が実行されるごとに回数を1回増加させて積算する。これは、酸化触媒は熱負荷がかかった時に劣化するが、DPF再生時が一番多く酸化触媒に熱負荷がかかることから、いままで何回DPF再生を行なったかということを劣化度を表す指標としたものである。
【0055】
(3)累積DPF再生時間は、上記の(2)累積DPF再生回数の精度をさらに向上させたものである。DPFの再生は、運転条件によっては5分で終わる場合もあれば10分かかる場合もある。この場合、同じ1回の再生でも10分かかったほうが、酸化触媒は劣化が進行する。そこで、温度×時間のようなファクタで判断する。
【0056】
(4)のパラメータは、酸化触媒の推定温度が基準温度を超過した温度差によって重み付けを変えて積算を行なうものである。たとえば、DPFの再生時間が同じであっても、再生時の温度が上下する場合がある。温度によっても酸化触媒の劣化度が変わり、温度が低いと劣化も少なく、温度が高くなると劣化が激しくなる。この温度になると劣化が激しいという基準温度(所定値=たとえば650℃)を決めておき、その基準温度との温度差で定まる重み係数と、経過時間とに基づいて劣化度を算出する。
【0057】
図4は、劣化度を算出する処理の一例を示すフローチャートである。図4に示したのは、上記の(4)で説明したパラメータを算出する処理である。
【0058】
図1図4を参照して、まずステップS51において制御ユニット6は、酸化触媒の推定温度を算出する。たとえば、制御ユニット6は、排気ガス温度センサ5a単独か、または排気ガス温度センサ5aおよび5bの検出した温度を用いて酸化触媒の推定温度を算出する。
【0059】
次に、ステップS52において、制御ユニット6は、酸化触媒の推定温度から基準温度を引いた温度差ΔTを算出する。そして、ステップS53において、温度差ΔTの関数である重み係数Mを算出する。
【0060】
図5は、重み係数Mと温度差ΔTとの関係を示した図である。たとえば、基準温度を650℃とし、温度差ΔTの時の重み係数M=1.0とすると、640℃の時はΔT=−10℃となり、重み係数M=0.9などとする。Mは、ΔTの関数として数式などで表現してもよく、マップなどで表現しても良い。この数式やマップを制御ユニット6にあらかじめ記憶しておき、温度差ΔTを所定周期で算出するごとにステップS53において重み係数Mが求められる。
【0061】
再び図4に戻り、ステップS54において、劣化度の前回値Tsum[j−1]に重み係数Mに演算周期t(経過時間)を掛けた値を加算し、劣化度の今回値Tsum[j]を算出する。そして、ステップS55において、処理はメインルーチンに戻される。図4のフローチャートの処理は、DPF再生の有無に関わらず、常時実行することが好ましい。これは、高速高負荷運転時にはエンジンの排気温度が高温になるため、DPF再生の有無に関わらず酸化触媒9は劣化するためである。
【0062】
上記の(1)〜(4)のいずれかの酸化触媒の劣化度は、制御ユニット6の不揮発メモリなどバッテリ電源消失時にも消えない記憶領域に、所定の条件(たとえばエンジン停止)が成立する都度書き込み更新する。
【0063】
何らかの原因で酸化触媒9の交換が必要となった場合には制御ユニット6の劣化度の記憶値をリセットする。一方、制御ユニット6を交換する必要が生じた場合には、サービスツールを用いて交換前の制御ユニット6の劣化度の記憶値を読み出して新たな制御ユニット6に書き込みを行なえばよい。
【0064】
[実施の形態2]
実施の形態1では、酸化触媒の劣化度を算出し、この劣化度に基づいてDPF再生処理を許可する酸化触媒の温度を変化させた。実施の形態2では、劣化度の算出の際に、燃料の硫黄の影響を考慮する。
【0065】
脱硫技術によって含まれる量は少なくなったものの、燃料中には硫黄が含まれている。燃料が燃焼すると酸化硫黄が排気ガス中に含まれて酸化触媒に流れ込む。酸化硫黄が酸化触媒中に担持されている貴金属の表面を覆ってしまうと、触媒としての機能が損なわれる。
【0066】
酸化触媒の劣化は、高温に曝されることが主たる要因ではあるが、硫黄による影響も劣化度に反映させることが好ましい。硫黄による影響は、硫黄分が酸化触媒を通過した量(累積硫黄通過量)に関連する。累積硫黄通過量は、燃料の硫黄濃度が同じであれば、燃料が噴射された累積量に比例する。
【0067】
燃料の硫黄濃度は、各国の排ガス規制に関連して定められている燃料の規格で上限値が決まっている。したがって、車両を製造する際に、車両の使用予定地域によって硫黄濃度に相当するパラメータを変更して車両を工場から出荷する。または、硫黄濃度に相当するパラメータを変更可能にしておき、使用地域に合わせてパラメータを変更して使用する。
【0068】
実施の形態2でも図1で示した車両のエンジン周辺の構成やDPFシステムの構成と、図2で説明したDPF再生の基本制御については、実施の形態1と共通であるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0069】
図6は、実施の形態2において劣化度を算出する処理を説明するためのフローチャートである。図6のフローチャートのステップS71〜S74の処理は、実施の形態1の図4で説明した劣化度の算出処理のステップS51〜S54の処理とそれぞれ同じであるので説明は繰り返さない。なお、ステップS74では、今回値を[i]で表し、前回値を[i−1]で示している。
【0070】
ステップS75では、累積硫黄通過量の更新が行なわれる。累積硫黄通過量の今回値をGsulfur[i]で示し、前回値をGsulfur[i−1]とすると、次式で累積硫黄通過量が表される。
Gsulfur[i]=Gsulfur[i−1]+F(Ne,Q,燃料比重、硫黄濃度)
ここで、Neはエンジン回転数を示し、Qは燃料噴射量を示す。燃料比重や硫黄濃度については、車両の使用予定地域または使用地域に合わせて適宜な値が選択される。F()は硫黄通過量の増加分を算出するための関数を示す。単純な例では、4つの入力値の積に気筒の数を掛けるとよい。
【0071】
続くステップS76では、硫黄による劣化度の補正項を算出する処理が実行される。
図7は、累積硫黄通過量と劣化度の補正項との関係の一例を示す図である。図7に示すような関係を予め実験的に求めておいて、制御ユニット6にマップとして記憶させておく。一般に、累積硫黄通過量Gsulfurが多くなると、酸化触媒9も劣化が進行し、劣化度補正項Tsulfurも増加する。
【0072】
再び図6に戻り、ステップS76において補正項が算出されると、ステップS77において、次式に示すように劣化度補正項Tsulfur[i]を劣化度Tsum[i]に加算して補正後の劣化度Tsum-a[i]を求める。
Tsum-a[i]=Tsum[i]+Tsulfur[i]
このようにして補正後の劣化度Tsum-a[i]が求まると、ステップS78に処理が進められ、制御はメインルーチンに戻される。そうすると、図2のフローチャートの処理では、ステップS3,S8において、補正後の劣化度に基づいて図3のマップから取得された燃料添加許可温度T1,燃料添加禁止温度T2が適用される。
【0073】
なお、以上の実施の形態1,2における説明では、燃料添加は、燃料添加器3を用いて行なっていたが、燃料噴射器13を使用したポスト噴射によって行なってもよい。
【0074】
また、実施の形態1、2において説明した酸化触媒の劣化度(1)〜(4)については、いずれか1つ算出すればよいが、複数を算出しておいてその結果を評価し、いずれか1つを選択して用いてもよい(たとえばDPF再生機会が一番増える劣化度を選択するなど)。
【0075】
最後に、実施の形態1,2について再び図面を参照して総括する。図1を参照して、エンジンの排気ガス浄化装置1は、エンジン10の排気管7に設けられた酸化触媒(DOC)9と、酸化触媒9の下流側において排気管7に設けられ、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタ(DPF4)と、DPF4が捕集した粒子状物質を燃焼させるフィルタ再生処理を行なうために、酸化触媒9およびDPF4よりも上流において排気ガスに未燃燃料を添加する燃料供給装置(燃料添加器3または燃料噴射器13(ポスト噴射時))と、酸化触媒9の温度が許可温度T1以上である場合にフィルタ再生処理のための燃料供給装置からの未燃燃料の添加を制御する制御ユニット6とを備える。図3に示すように、制御ユニット6は、許可温度T1を、酸化触媒9の劣化度に応じて変更する。
【0076】
このように許可温度T1を設定することによって、酸化触媒9がまだ新しい場合にはDPFの再生機会が増え、酸化触媒9の劣化が進行した後には、適切にDPFの低温時の再生が制限される。
【0077】
好ましくは、制御ユニット6は、たとえば図4図5に示すように、酸化触媒の温度(推定温度)が高いほど大きくなる重み係数Mに経過時間(演算周期t)を掛けた値を所定の時間間隔(演算周期t)ごとに積算して、酸化触媒9の劣化度Tsumを決定する。
【0078】
このように酸化触媒9の劣化度を決定することにより、走行距離などから劣化度を決定するよりも劣化度の精度が良くなり、適切なDPFの再生が行なわれる。
【0079】
より好ましくは、図6図7で説明したように、制御ユニット6は、燃料中の硫黄分濃度が高いほど劣化度が大きくなるように劣化度を補正する。
【0080】
このように酸化触媒9の劣化度を決定することにより、さらに劣化度の精度が良くなり、より一層適切なDPFの再生が行なわれる。
【0081】
今回開示された各実施の形態は、適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1 排気ガス浄化装置、2 流量検出器、3 燃料添加器、5a,5b,5c 排気ガス温度検出器、6 制御ユニット、7 排気管、7a 排気ガス上流管、7b 第一収納管、7c 第二収納管、7d 排気ガス下流管、8 吸気管、9 酸化触媒、10 エンジン、11 気筒、11a シリンダ、11b ピストン、12 燃料タンク、13 燃料噴射器、14 燃料ポンプ、15 コモンレール、20 回転速度検知器、21 アクセルセンサ、22 A/Fセンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7