特許第6183668号(P6183668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183668
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】医療用コネクタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/14 20060101AFI20170814BHJP
   A61M 39/10 20060101ALI20170814BHJP
   A61M 39/18 20060101ALI20170814BHJP
   A61M 39/24 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   A61M5/14 510
   A61M39/10 120
   A61M39/18
   A61M39/24
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-211093(P2015-211093)
(22)【出願日】2015年10月27日
(62)【分割の表示】特願2013-119801(P2013-119801)の分割
【原出願日】2008年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-13486(P2016-13486A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2015年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2007-149133(P2007-149133)
(32)【優先日】2007年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】桝田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 昭彦
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−011820(JP,A)
【文献】 特開2003−290362(JP,A)
【文献】 特開平02−001275(JP,A)
【文献】 実開平04−088942(JP,U)
【文献】 特開2006−102255(JP,A)
【文献】 特開2005−021503(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/004973(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14
A61M 25/00
A61M 39/00−39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部にスリットを有し周縁部の両面に周方向に延びる上下の環状溝が形成されているディスク状の弁部材と、前記弁部材が戴置されうるとともに前記弁部材の前記周縁部の下面の前記環状溝と係合しうる環状突部がある台座を備えた略筒状のハウジングと、前記弁部材の前記周縁部の上面の前記環状溝と係合しうる環状爪部を備えたリング部材を有しており、前記台座上に戴置されている前記弁部材が、前記ハウジングに組み付けられた前記リング部材により前記ハウジングに固定されている医療用コネクタにおいて、
前記弁部材は前記上下の環状溝により薄肉とされており、
前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に厚肉とされて前記リング部材の内周側に位置する厚肉の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記リング部材の前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられる状態で、前記弁部材が前記ハウジング内に固定されてなることを特徴とする医療用コネクタ。
【請求項2】
前記弁部材における前記上下の環状溝より外周側が前記ハウジングと前記リング部材に対して全体に亘って当接されている請求項1に記載の医療用コネクタ。
【請求項3】
前記弁部材の上面に設けられた前記環状溝が、前記リング部材の前記環状爪部が嵌合される部分よりも浅底で前記弁部材の外周に広がって形成され、前記リング部材が前記弁部材の前記環状溝に配置されることにより、前記弁部材の上面と前記リング部材の上面とが面一に構成されてなる請求項1又は2に記載の医療用コネクタ。
【請求項4】
前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に前記弁部材の前記スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれるようにして入り込むようにされた前記ハウジングの内周面が、前記環状溝に係合した前記環状突部の内径よりも大きくされている請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用コネクタ。
【請求項5】
ルアーロックコネクタにおいて前記雄ルアーの周囲に設けられたスカート状の筒部が外挿されるようになっていると共に、該スカート状の筒部が外挿される外周面には、前記ルアーロックコネクタの前記スカート状の筒部の内周面に設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が設けられてなる請求項1〜4の何れか1項に記載の医療用コネクタ。
【請求項6】
下記工程からなる医療用コネクタの製造方法。
(a)周縁部に周方向に延びる上下の環状溝を有するとともに中央部にスリットを有し、前記上下の環状溝により形成された薄肉と、前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側に形成された厚肉と、上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に形成された厚肉と、を有するディスク状の弁部材と、上方へ突出する環状突部を有する略筒状のハウジングと、下方へ突出する環状爪部を有するリング部材を準備する工程、
(b)前記環状突部を前記弁部材の下側の前記環状溝へ、前記リング部材の環状爪部を上側の前記環状溝へ、それぞれ嵌め入れる工程、
(c)前記リング部材と前記ハウジングを組み付けることにより、前記弁部材において前記上下の環状溝により形成された前記薄肉を前記リング部材の前記環状爪部と前記ハウジングの前記環状突部との対向部間で挟んで、前記弁部材において前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側にて上下の両方向に形成された厚肉が前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に形成された厚肉の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記リング部材の前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられる状態で、前記弁部材を前記ハウジング内に固定する工程。
【請求項7】
上面と下面においてそれぞれ周方向に延びる環状溝が形成されることにより環状の括れ状部が設けられて、該括れ状部よりも外周側が環状固定部とされていると共に、中央部分にスリットが形成されており、流体流路の開口部分に配されて雄コネクタが該スリットへ繰り返し挿抜可能とされるディスク状の弁部材を備えており、該弁部材の上面と下面に形成された各該環状溝に対して環状爪部と環状突部がそれぞれ係止されることによって、該弁部材が該流体流路の開口部分に保持された医療用コネクタであって、
前記弁部材における前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、
前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に厚肉とされた部分の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられるようになっていることを特徴とする医療用コネクタ。
【請求項8】
前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に前記弁部材の前記スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれるようにして入り込む該ハウジングの内周面が、前記環状突部の内径よりも大きくされている請求項7に記載の医療用コネクタ。
【請求項9】
前記弁部材の前記上面は、前記環状固定部上面に比して前記中央側厚肉部上面は上方に位置し、前記環状溝に係止された前記環状爪部の上面が前記中央側厚肉部上面と面一に構成されてなる請求項7又は8に記載の医療用コネクタ。
【請求項10】
前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に該スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれて該ハウジングの内周面に対して当たるようになっていると共に、該弁部材が内周面に当たる該ハウジングの外周面にはねじ山が形成されている請求項7〜9の何れか1項に記載の医療用コネクタ。
【請求項11】
前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、ルアーロックコネクタにおいて前記雄ルアーの周囲に設けられたスカート状の筒部が外挿されるようになっていると共に、該スカート状の筒部が外挿される前記ハウジングの外周面には、前記ルアーロックコネクタの前記スカート状の筒部の内周面に設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が設けられてなる請求項7〜10の何れか1項に記載の医療用コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液ルートへの薬液の混注または体液の採取等の操作を行う際に、医療用接続具の接続を可能とする医療用コネクタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、輸液ルートには、薬液の混注を行ったり、輸液ルートを通じて体液の採取を行ったりするために、シリンジやルアーコネクタ等の医療用接続具を接続できる医療用コネクタが配置されている。医療用コネクタとしては、メカニカルバルブタイプと呼ばれる、中心部にスパイクを配した蛇腹筒状のゴム弁を内部に備えた筒状のコネクタ(例えば、特許文献1または2参照)や、スプリットセプタムタイプと呼ばれる、ディスク状の弁が配置されたハウジングからなるコネクタ(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0003】
メカニカルバルブタイプのコネクタは、接続具の雄ルアーをコネクタの開口部に挿入して内部のゴム弁を押し込むことにより、ゴム弁先端のスリットが中心部のスパイクによって押し開かれ、輸液ルートと接続具とが内部連通するものである。このタイプのコネクタは筒状であり、ルアーロックコネクタを接続することができるものであるが、ゴム弁の形状が複雑であるため製造コストがかかる。
【0004】
一方、スプリットセプタムタイプのコネクタは、ディスク状弁が固定されたハウジングからなるコネクタであり、形状がシンプルであるため製造が容易でコストを低く抑えることができる。このタイプのコネクタは、ディスク状弁のスリットに直接接続具の雄ルアーを挿入してスリットを押し開き、輸液ルートと接続具とを内部連通させるものである。したがって、スリットの再封止性能を保持するために、ディスク状弁は弾性反発力が大きくなるようにハウジング内に固定される。
【0005】
従来、ディスク状弁の固定には、スウェージング加工が利用されている(例えば、特許文献4参照)。この固定方法は、筒状のハウジング内に弁を挿入した後、ハウジングの上端をスウェージング加工により内側へ変形させて弁を固定するというものである。しかしながら、このような加工方法は変形部分の制御が難しく、ディスク状弁の固定が安定しない。また、ディスク状弁とハウジング上面とが面一にならず、両者の間に段差が生じてしまう。ディスク状弁とハウジング上面との間に段差が生じた場合、コネクタ使用前に上面の消毒が不十分になるおそれがあり、輸液ルートへの菌混入の危険性が増すことになる。
【0006】
そこで、ディスク状弁とハウジングとを固定するために、例えば特許文献3に記載されるコネクタは、予め上端が内側へ変形された形状に成形されたハウジングを弁の上部から被せるように配置し、さらにそのハウジングを固定するためにホルダ部材を使用している。このような構成であれば、コネクタ上面に段差が形成されることはないが、部品点数は増え、形状は複雑になってしまう。また、コネクタ自体の外径が大きくなってしまうため、雄ルアーの外周に雌ネジが設けられたルアーロックコネクタを接続することはできない。そこで、ルアーロックコネクタを接続する場合は、専用のコネクタを用いる必要があり、形状がシンプルであるというスプリットセプタムタイプのコネクタのメリットは減少することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平7−505064号公報
【特許文献2】特開平10−323397号公報
【特許文献3】特開平11−197254号公報
【特許文献4】特表平2−502976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、専用のコネクタを必要とすることなく医療用接続具の接続が可能であり、また形状や組み立て工程が複雑になることがない医療用コネクタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ハウジングの上端を直接スウェージング加工するのではなく、ディスク状の弁部材の上面に戴置した環状のリング部材とハウジングとを組み付けることにより、コネクタを容易に組み立てられることを見出し、またこれによって弁部材が強固に固定され、専用のコネクタを設けたり形状を複雑化したりすることなく任意の接続具の接続が可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1) 中央部にスリットを有し周縁部の両面に周方向に延びる上下の環状溝が形成されているディスク状の弁部材と、前記弁部材が戴置されうるとともに前記弁部材の前記周縁部の下面の前記環状溝と係合しうる環状突部がある台座を備えた略筒状のハウジングと、前記弁部材の前記周縁部の上面の前記環状溝と係合しうる環状爪部を備えたリング部材を有しており、前記台座上に戴置されている前記弁部材が、前記ハウジングに組み付けられた前記リング部材により前記ハウジングに固定されている医療用コネクタにおいて、
前記弁部材は前記上下の環状溝により薄肉とされており、
前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に厚肉とされて前記リング部材の内周側に位置する厚肉の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記リング部材の前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられる状態で、前記弁部材が前記ハウジング内に固定されてなることを特徴とする医療用コネクタ、
(2) 前記弁部材における前記上下の環状溝より外周側が前記ハウジングと前記リング部材に対して全体に亘って当接されている(1)に記載の医療用コネクタ、
(3) 前記弁部材の上面に設けられた前記環状溝が、前記リング部材の前記環状爪部が嵌合される部分よりも浅底で前記弁部材の外周に広がって形成され、前記リング部材が前記弁部材の前記環状溝に配置されることにより、前記弁部材の上面と前記リング部材の上面とが面一に構成されてなる(1)又は(2)に記載の医療用コネクタ、
(4) 前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に前記弁部材の前記スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれるようにして入り込むようにされた前記ハウジングの内周面が、前記環状溝に係合した前記環状突部の内径よりも大きくされている(1)〜(3)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(5) ルアーロックコネクタにおいて前記雄ルアーの周囲に設けられたスカート状の筒部が外挿されるようになっていると共に、該スカート状の筒部が外挿される外周面には、前記ルアーロックコネクタの前記スカート状の筒部の内周面に設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が設けられてなる(1)〜(4)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(6) 下記工程からなる医療用コネクタの製造方法、
(a)周縁部に周方向に延びる上下の環状溝を有するとともに中央部にスリットを有し、前記上下の環状溝により形成された薄肉と、前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側に形成された厚肉と、上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に形成された厚肉と、を有するディスク状の弁部材と、上方へ突出する環状突部を有する略筒状のハウジングと、下方へ突出する環状爪部を有するリング部材を準備する工程、
(b)前記環状突部を前記弁部材の下側の前記環状溝へ、前記リング部材の環状爪部を上側の前記環状溝へ、それぞれ嵌め入れる工程、
(c)前記リング部材と前記ハウジングを組み付けることにより、前記弁部材において前記上下の環状溝により形成された前記薄肉を前記リング部材の前記環状爪部と前記ハウジングの前記環状突部との対向部間で挟んで、前記弁部材において前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側にて上下の両方向に形成された厚肉が前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に形成された厚肉の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記リング部材の前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられる状態で、前記弁部材を前記ハウジング内に固定する工程、
(7) 上面と下面においてそれぞれ周方向に延びる環状溝が形成されることにより環状の括れ状部が設けられて、該括れ状部よりも外周側が環状固定部とされていると共に、中央部分にスリットが形成されており、流体流路の開口部分に配されて雄コネクタが該スリットへ繰り返し挿抜可能とされるディスク状の弁部材を備えており、該弁部材の上面と下面に形成された各該環状溝に対して環状爪部と環状突部がそれぞれ係止されることによって、該弁部材が該流体流路の開口部分に保持された医療用コネクタであって、
前記弁部材における前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる一方、
前記弁部材の上側の前記環状溝の形成部分よりも中央側で上方向に厚肉とされた部分の外周面が、前記弁部材の前記スリットへの雄ルアーの挿入により前記環状爪部の内周面から離隔方向に変形変位せしめられるようになっていることを特徴とする医療用コネクタ、
(8) 前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に前記弁部材の前記スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれるようにして入り込む該ハウジングの内周面が、前記環状突部の内径よりも大きくされている(7)に記載の医療用コネクタ、
(9) 前記弁部材の前記上面は、前記環状固定部上面に比して前記中央側厚肉部上面は上方に位置し、前記環状溝に係止された前記環状爪部の上面が前記中央側厚肉部上面と面一に構成されてなる(7)又は(8)に記載の医療用コネクタ、
(10) 前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、前記スリットに前記雄ルアーを挿入した際に該スリットが開かれて変形した前記弁部材が下方に押し込まれて該ハウジングの内周面に対して当たるようになっていると共に、該弁部材が内周面に当たる該ハウジングの外周面にはねじ山が形成されている(7)〜(9)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(11) 前記弁部材が装着されたハウジングが略筒状とされており、ルアーロックコネクタにおいて前記雄ルアーの周囲に設けられたスカート状の筒部が外挿されるようになっていると共に、該スカート状の筒部が外挿される前記ハウジングの外周面には、前記ルアーロックコネクタの前記スカート状の筒部の内周面に設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が設けられてなる(7)〜(10)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医療用コネクタは、弁部材上面に環状のリング部材を戴置し、リング部材とハウジングとを組み付けることにより、形状や組み立て工程を複雑化することなくハウジング内に配置される弁部材を強固に固定することができる。
また、請求項3に記載の発明では、予め弁部材の上面とリング部材の上面とが面一になるようにリング部材を弁部材上面に戴置することにより、弁部材上面とリング部材上面との間に段差が形成されることを防止できる。
さらに、請求項5に記載の発明では、ルアーロックコネクタに設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が外周面に設けられていることで、コネクタ自体の外径が大きくならず、ルアーロックコネクタとの直接接続も可能となり、専用のコネクタを使用する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の医療用コネクタの一実施例を示す斜視図である。
図2図1に示される医療用コネクタの縦断面図である。
図3】本発明の医療用コネクタと接続具との接続の様子を示す断面図である。
図4】本発明の医療用コネクタの接合方法を示す説明図である。
図5】本発明の医療用コネクタの使用例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の好ましい実施態様を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明の医療用コネクタの一実施例を示す斜視図であり、図2図1に示される医療用コネクタの縦断面図である。また、図3は本発明の医療用コネクタとルアーロックコネクタとの接続の様子を示す断面図である。さらに、図4は本発明の医療用コネクタの接合方法を示す断面図であり、図5は本発明の医療用コネクタの使用例を示す斜視図である。
【0014】
図1および図2に示されるように、本発明の医療用コネクタ1は、中央部にスリット21を有するディスク状の弁部材2と、弁部材2の周縁部を狭持するハウジング3と、弁部材2の中央部分を除く上部の周縁に配置されるリング部材4とを有してなる。前記弁部材2は、ハウジング3の内周面に内方向へ突出するよう設けられた台座31上に戴置され、上部に配置されるリング部材4とハウジング3とが接合されることにより、ハウジング3内に固定される。
本発明の医療用コネクタ1は、輸液ルート上に配置され、シリンジやルアーコネクタ等の医療用接続具の先端部が弁部材2の上方から挿入されることでスリット21が押し開かれ、輸液ルートと接続具との内部連通を可能とするものである。
【0015】
本発明の医療用コネクタ1で用いられるディスク状の弁部材2は、直径が5.0〜6.5mm、高さが1.0〜3.0mmの略円柱状の部材である。図3に示されるように、弁部材2の直径が5.0mmより小さいと、外径が約4.0mmに統一されたルアーロックコネクタ5の雄ルアー51の挿入は困難になる。また、弁部材2の直径が6.5mmより大きいと、医療用コネクタ1の外径が大きくなり、ルアーロックコネクタ5の雌ネジ52との接続が困難になる。また、弁部材2の高さが1.0mmよりも小さいと、接続具挿入時の気密性が低下し、高さが3.0mmよりも大きいと、挿入具の挿入抵抗が大きくなり挿入が困難となる。
【0016】
前記弁部材2は、気密性や再封止性を考慮し、イソプレンゴムやシリコーンゴム等の合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択される材料を用いて、プレス成形することにより成形される。さらに、成形された弁部材2は、鋭利な刃を貫通させること等によりスリット21が形成される。このスリット21の形状としては、直線状のものや十字のものがあげられる。
【0017】
さらに、前記弁部材2には、下面に後述するハウジング3の台座31に嵌合しうる溝22や、上面に後述するリング部材4を配置するための環状溝23が設けられていてもよい。これらの溝22および23は、弁部材2とハウジング3またはリング部材4とをより安定に固定するためのものであり、その形状は図示されるものに限定されず、ハウジング3の台座31およびリング部材4の形状に応じて適宜変更することができる。
【0018】
本発明の医療用コネクタ1で用いられるハウジング3は、前記弁部材2を内部に固定できる内径を有する略筒状の部材である。前記ハウジング3は、内部に固定される弁部材2のスリット21が挿入された接続具の抜去後に再度封止しうるよう、弁部材2の周縁部を狭持しうる内径を有していることが好ましく、具体的にはその内径が弁部材2の直径に等しいことが好ましい。また、前記ハウジング3の外径は、ISO594で規定された医療用ルアーロックコネクタの接続が可能であるよう、6.0〜7.0mmであることが好ましい。またルアーロックコネクタ5の雌ネジ52に螺合するネジ部33をハウジング3の外周面に設けた場合、ハウジング3の外径は7.2〜8.0mmであることが好ましい。
【0019】
ハウジング3には、内部に弁部材2を配置するために、内周面に内方向へ突出するように台座31が設けられる。弁部材2がハウジング3内に挿入され台座31上に戴置された時に、両者の固定がさらに安定するよう、台座31上面に上方へ突出する突部32が設けられ、弁部材2の下面には前記突部32に対応する形状の溝部22が設けられることがより好ましい。前記突部32および溝部22の形状については限定されないが、好ましくは前記突部32および溝部22ともに環状である。
【0020】
また、前記ハウジング3の外周面には、前述したように、ルアーロックコネクタ5と螺合可能なネジ部33が設けられてなることが好ましい。ルアーロックコネクタ5とは、図3に示されるように雄ルアー51の外周に雌ネジ52が設けられた接続具を示している。前記ネジ部33は、好ましくはISO594で規定された、ネジの山頂径が7.0±0.2mmであり、ネジの谷底径が8.0±0.1mmである医療用ルアーロックコネクタ5との接続が可能な二条ネジである。
【0021】
前記ハウジング3は、弁部材2を確実に保持できる強度を持った材料から形成されることが好ましく、材料としては具体的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。ハウジング3は、これらの材料から、射出成形等によって成形される。
【0022】
本発明の医療用コネクタ1で用いられるリング部材4は、前記弁部材2をハウジング3内に固定するために、弁部材2の上部に配置される環状部材である。リング部材4は、ハウジング3の上端部に配置されるが、ハウジング3の上端部とリング部材4の上面との間に段差が形成されず確実に面一となるよう、リング部材4の周縁部がハウジング3に狭持されるよう配置されることがより好ましい。したがって、リング部材4の外径はハウジング3の上端部の内径と等しいことが好ましい。リング部材4の材料としては、ハウジング3の材料と同様、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
またリング部材4は、接続具が弁部材2のスリット21に挿入される接続操作を阻害しないよう、弁部材2の中央部分を除く上部の周縁に配置されるため、その内径は4.4mm以上であることが好ましい。内径が4.4mmよりも小さいと、ISO594で規定される医療用ルアーロックコネクタ5を挿入した場合、コネクタ5の雄ルアー51とリング部材4が接触して雄ルアー51を傷つけ、接続時の気密性が低下するおそれがある。
【0023】
リング部材4は弁部材2上部に配置されたときに、既に弁部材2の上面とリング部材4の上面とが面一に構成されるよう、弁部材2の上面に設けられた環状溝23に配置されることが好ましい。この場合、弁部材2に設けられる環状溝23の深さおよび形状は、リング部材4の高さおよび下面の形状と合わせて形成される。例えば、図2に示されるように、リング部材4の下面の内周縁に下方へ環状に突出する爪部41を設け、弁部材2の上面の外周縁には前記爪部41に対応する形状の環状溝23を設けることにより、リング部材4と弁部材2とを予め安定に配置させることができる。
【0024】
次に、本発明の医療用コネクタの製造方法について説明する。本発明の医療用コネクタは、ハウジング3の台座31上に弁部材2を対置し、さらに弁部材2上部の周縁にリング部材4を配置した後、スウェージング加工によってリング部材4とハウジング3の上端部とが接合されることにより製造される。
スウェージング加工によるリング部材4とハウジング3の上端部との接合方法の一例を図4に示される断面図を用いて説明する。図4(a)に示されるリング部材4は、予め上面の外周縁に凹部42が形成されている。ハウジング3内部に配置された弁部材2の上面およびリング部材4の上面は、面一に配置されてはいるが、等しくハウジング3の上端部よりも0〜0.2mm上方(図4(a)参照)か、あるいは0〜1.0mm下方(図示せず)に位置されている。この状態で、両端に曲面62が形成された凹部61を有するホーン6を用いてスウェージング加工を行うと、ハウジング3の上端部が溶融しながら内方向へと変形し、リング部材4の周縁部と接合される。このとき、溶融したハウジングの上端部がリング部材4に形成された凹部42へと流れ込み、図4(b)に示されるように、ハウジング3の上面、リング部材4の上面および弁部材2の上面は全て面一となる。
このようなスウェージング加工に好適な加工条件は、超音波振動を用いる場合は、超音波振動周波数が約20〜40kHz、発振時間が約0.3秒、発振時の荷重が約20〜100Nであるが、超音波振動に代えて高周波誘導加熱などの手段を用いることも可能である。
【0025】
図5に本発明の医療用コネクタ1の具体的な使用例を示す。図5(a)に示される使用例は、プラグベース7と接合することによりプラグとしたものであり、図5(b)に示される使用例は、T字管ベース8と接合することによりT字混注管としたものであり、図5(c)に示される使用例は、三方活栓ベース9と接合することにより三方活栓としたものである。
いずれの使用例においても、本発明の医療用コネクタ1に接続される接続具、特にルアーロックコネクタ5は、螺合により医療用コネクタ1に強固に固定されるため、他の部品を用いたり、あるいは使用者が医療用コネクタ1を保持することによって接続状態を保持する必要がない。この効果は、図5(c)に示される三方活栓において特に顕著であり、接続具の接続後に、接続状態を保持することなく三方活栓の操作を行うことができる。
【0026】
本発明はもともと以下に記載の発明を含むものであり、その構成および作用効果等に関して、付記しておく。
【0027】
本発明は、
(i) 中央部にスリットを有するディスク状の弁部材と、該弁部材の周縁部を挟持しうる略筒状のハウジングと、前記弁部材の中央部分を除く上部の周縁に配置されるリング部材を有してなる医療用コネクタであって、
前記弁部材は外周付近の上下面をそれぞれ周方向に延びる上下の環状溝が設けられて薄肉とされている一方、前記ハウジングは内周面に内方向へ突出するよう設けられた前記弁部材を戴置しうる台座を備えており、該台座には上方へ突出する環状突部が設けられていると共に、前記リング部材には下方へ突出する環状爪部が設けられており、前記弁部材が前記ハウジング内の前記台座上に戴置された後に前記リング部材と前記ハウジングが溶融により接合されることで、前記弁部材の前記上下の環状溝に前記リング部材の前記環状爪部と前記ハウジングの前記環状突部が嵌合されて該環状爪部と該環状突部の対向部間で薄肉とされた前記弁部材が挟まれていると共に、該弁部材において前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なることにより、前記弁部材が前記ハウジング内に固定されてなることを特徴とする医療用コネクタ、
(ii) 前記弁部材における前記上下の環状溝より外周側が前記ハウジングと前記リング部材に対して全体に亘って当接されている(i)に記載の医療用コネクタ、
(iii) 前記溶融による接合は超音波或いは高周波誘導加熱により生じている(i)又は(ii)に記載の医療用コネクタ、
(iv) 前記弁部材の上面に設けられた前記環状溝が、前記リング部材の前記環状爪部が嵌合される部分よりも浅底で前記弁部材の外周に広がって形成され、前記リング部材が前記弁部材の前記環状溝に配置されることにより、前記弁部材の上面と前記リング部材の上面とが面一に構成されてなる(i)〜(iii)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(v) 前記リング部材には、凹部が形成されてなり、溶融した前記ハウジングが前記凹部に流れ込むことにより、前記ハウジングの上面と、前記リング部材の上面と、前記弁部材の上面が全て面一に構成されてなる(i)〜(iv)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(vi) ルアーロックコネクタにおいて雄ルアーの周囲に設けられたスカート状の筒部が外挿されるようになっていると共に、該スカート状の筒部が外挿される外周面には、前記ルアーロックコネクタの前記スカート状の筒部の内周面に設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が設けられてなる(i)〜(v)の何れか1項に記載の医療用コネクタ、
(vii) 下記工程からなる医療用コネクタの製造方法、
(a)中央部にスリットを有するディスク状の弁部材と、該弁部材の周縁部を挟持しうる略筒状のハウジングと、前記弁部材の中央部分を除く上部の周縁に配置されるリング部材を準備する工程、
(b)前記ハウジング内周面に内方向へ突出するよう設けられた前記弁部材を戴置しうる台座上に、前記弁部材を戴置すると共に、前記台座から上方へ突出して設けられた環状突部を、前記弁部材の外周付近の下面を周方向に延びて設けられた環状溝へ嵌め入れる工程、
(c)前記リング部材から下方へ突出して設けられた環状爪部を、前記弁部材の外周付近の上面を周方向に延びて設けられた環状溝へ嵌め入れる工程、
(d)前記弁部材上部に前記リング部材を配置し、前記リング部材と前記ハウジングを溶融にて接合することにより、前記弁部材において前記上下の環状溝が形成された薄肉部分を前記リング部材の前記環状爪部と前記ハウジングの前記環状突部との対向部間で挟んで、前記弁部材において前記上下の環状溝の形成部分よりも外周側が上下の両方向に厚肉とされて前記環状爪部と前記環状突部の各外周側に重なる状態で、前記弁部材を前記ハウジング内に固定する工程、
に関する発明を含む。
【0028】
上記(i)に記載の発明では、弁部材上面に環状のリング部材を戴置し、リング部材とハウジングとを溶融により接合することにより、形状や組み立て工程を複雑化することなくハウジング内に配置される弁部材を強固に固定することができる。
また、上記(iv)に記載の発明では、予め弁部材の上面とリング部材の上面とが面一になるようにリング部材を弁部材上面に戴置することにより、より確実に溶融による接合時に弁部材上面とリング部材上面との間に段差が形成されることを防止できるため、輸液ルートへ菌が混入するおそれもない。
さらに、上記(v)に記載の発明では、予めリング部材の上面の外周縁に凹部を形成することにより、溶融による接合後のハウジングの上面、リング部材の上面および弁部材の上面を、全て面一にすることができる。
また、上記(vi)に記載の発明では、ルアーロックコネクタに設けられた雌ネジ部に対して螺合可能な雄ネジ部が外周面に設けられていることで、コネクタ自体の外径が大きくならず、ルアーロックコネクタとの直接接続も可能となり、専用のコネクタを使用する必要がない。
【符号の説明】
【0029】
1 医療用コネクタ
2 弁部材
21 スリット
22 溝部
23 環状溝
3 ハウジング
31 台座
32 突部
33 ネジ部
4 カバー部材
41 爪部
5 ルアーロックコネクタ
図1
図2
図3
図4
図5