特許第6183684号(P6183684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183684コンクリートの締固め判定方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183684
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】コンクリートの締固め判定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/06 20060101AFI20170814BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   E04G21/06
   G01H17/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-99755(P2013-99755)
(22)【出願日】2013年5月9日
(65)【公開番号】特開2014-218852(P2014-218852A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】古屋 弘
(72)【発明者】
【氏名】上高 克弘
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴士
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−242435(JP,A)
【文献】 特許第3897705(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/06−21/08
G01H17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設領域にコンクリートを投入し、
外力を受けて振動するように構成されてなる受振部材を前記投入工程と同時に又は相前後して該受振部材の少なくとも一部が前記コンクリートに埋め込まれるように前記コンクリート打設領域に配置し、
前記コンクリートに埋入された加振部材を作動させることで該コンクリートに対する締固め操作を行い、
前記締固め操作の間、前記加振部材の作動によって前記受振部材に発生する振動を振動計測手段で計測するとともに該振動の時刻変化を分析し、
該分析結果を用いて前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定することを特徴とするコンクリートの締固め判定方法。
【請求項2】
前記振動を加速度で評価するとともに、該加速度の卓越振動数が前記加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、前記加振部材による締固め操作を終了すべきと判定する請求項1記載のコンクリートの締固め判定方法。
【請求項3】
前記振動を速度で評価するとともに、該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、前記加振部材による締固め操作を終了すべきと判定する請求項1記載のコンクリートの締固め判定方法。
【請求項4】
コンクリートを締め固めることができるように構成された加振部材の作動によって振動するように構成された受振部材と、
前記受振部材に発生する振動を計測するようになっている振動計測手段と、
該振動計測手段で得られた前記振動の時刻変化を分析するとともに該分析結果を用いて前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定する演算処理手段と、
前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを通知する通知手段とを備え、
前記演算処理手段は、前記振動計測手段から出力された加速度の卓越振動数が前記加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、又は前記振動計測手段による計測値から速度の二乗累積値を演算するとともに該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、前記加振部材による締固め操作が終了されるべきと判定するようになっているとともに、該判定に応答して前記通知手段を作動させる作動信号を該通知手段に送出するようになっていることを特徴とするコンクリート締固め判定システム。
【請求項5】
前記加振部材を自走式のコンクリート締固め機に搭載された加振部材で構成するとともに、該加振部材から離間した位置であって前記コンクリート締固め機を構成するベースマシンに設置されたブーム若しくはアーム又はそれらに取り付けられた取付け治具に前記受振部材を取り付けた請求項4記載のコンクリート締固め判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてダムコンクリートにおける締固め状況を判定する際に適用されるコンクリートの締固め判定方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
打設されたコンクリートをコンクリートバイブレータで締め固めるにあたっては、打設領域の隅々にコンクリートをゆき渡らせるとともに、打込み時に巻き込まれた気泡をコンクリートから排出して密実にすることが重要であり、例えばダムコンクリートにおける締固め程度の判断手法としては、「振動は、コンクリートの体積の減少が認められなくなり、空気あわがでなくなり、水の光が表面に現れて、コンクリート全体が均一に溶け合ったようにみえるまで行われなければならない」(「コンクリート標準示方書 舗装・ダム編」、土木学会コンクリート委員会編)とされている。
【0003】
ところが、上述の諸項目を作業員が目視で観察して確認するのは容易ではなく、締固め作業における終了タイミングの判断には、作業員の経験の多寡に起因したばらつきが避けられない。
【0004】
加えて、例えばマスコンクリートの場合、大量のコンクリートを連続施工するため、ほとんどの領域では、上述した手法による締固めの判断が本来的に不可能であり、型枠内面近傍に位置するコンクリートについても同様である。
【0005】
そのため、コンクリートの締固め判断をコンクリート表面の目視観察以外の方法で行うべく、従来からさまざまな提案がなされており、例えば、打設コンクリートに電圧を印加しそのときの通電量の変化を調べることでコンクリートの充填度を推定する(特許文献2)、打設コンクリート内を伝播する弾性波をAEセンサで計測してその振動性状の変化から締固めの程度を推定する(特許文献3)、バイブレータが発する音波をマイクロホンで検出してその音圧変化から締固めの程度を推定する(特許文献4)、バイブレータに供給される油圧の変化から締固めの程度を推定する(特許文献5)などの構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−68765号公報
【特許文献2】特許第2740438号公報
【特許文献3】特開平7−305511号公報
【特許文献4】特開2002−54302号公報
【特許文献5】特開2012−82667号公報
【特許文献6】特開2002−322812号公報
【特許文献7】特開2004−218369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、コンクリート内の通電量を計測する方法では、単位水量、水セメント比などの配合組成の違いに関する較正作業が必要になり、AEセンサによって弾性波を計測する方法では、設置対象がフレッシュコンクリートであるため、設置自体が難しく、マイクロホンによって音圧変化を計測する方法では、バイブレータの作動音に重機の作動音や環境騒音が混入するので、バイブレータの振動音だけを分離して分析することは困難であるという諸問題をそれぞれ抱えており、実際のコンクリート打設現場に適用が可能なあらたな管理手法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、コンクリート表面の目視観察によることなく、締固めの終了タイミングを客観的に判断することが可能なコンクリートの締固め判定方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリートの締固め判定方法は請求項1に記載したように、コンクリート打設領域にコンクリートを投入し、
外力を受けて振動するように構成されてなる受振部材を前記投入工程と同時に又は相前後して該受振部材の少なくとも一部が前記コンクリートに埋め込まれるように前記コンクリート打設領域に配置し、
前記コンクリートに埋入された加振部材を作動させることで該コンクリートに対する締固め操作を行い、
前記締固め操作の間、前記加振部材の作動によって前記受振部材に発生する振動を振動計測手段で計測するとともに該振動の時刻変化を分析し、
該分析結果を用いて前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定するものである。
【0010】
また、本発明に係るコンクリートの締固め判定方法は、前記振動を加速度で評価するとともに、該加速度の卓越振動数が前記加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、前記加振部材による締固め操作を終了すべきと判定するものである。
【0011】
また、本発明に係るコンクリートの締固め判定方法は、前記振動を速度で評価するとともに、該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、前記加振部材による締固め操作を終了すべきと判定するものである。
【0012】
また、本発明に係るコンクリート締固めシステムは請求項4に記載したように、コンクリートを締め固めることができるように構成された加振部材の作動によって振動するように構成された受振部材と、
前記受振部材に発生する振動を計測するようになっている振動計測手段と、
該振動計測手段で得られた前記振動の時刻変化を分析するとともに該分析結果を用いて前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定する演算処理手段と、
前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを通知する通知手段とを備え、
前記演算処理手段は、前記振動計測手段から出力された加速度の卓越振動数が前記加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、又は前記振動計測手段による計測値から速度の二乗累積値を演算するとともに該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、前記加振部材による締固め操作が終了されるべきと判定するようになっているとともに、該判定に応答して前記通知手段を作動させる作動信号を該通知手段に送出するようになっているものである。
【0013】
また、本発明に係るコンクリート締固めシステムは、前記加振部材を自走式のコンクリート締固め機に搭載された加振部材で構成するとともに、該加振部材から離間した位置であって前記コンクリート締固め機を構成するベースマシンに設置されたブーム若しくはアーム又はそれらに取り付けられた取付け治具に前記受振部材を取り付けたものである。
【0014】
第1の発明に係るコンクリートの締固め判定方法においては、まず、コンクリート打設領域にコンクリートを投入する。
【0015】
次に、上述した投入工程と同時に又は相前後して、少なくとも一部がコンクリートに埋め込まれるようにコンクリート打設領域に受振部材を配置する。
【0016】
受振部材は、外力を受けて振動するように構成しておく。
【0017】
次に、コンクリートに埋入された加振部材を作動させることにより、該コンクリートに対する締固め操作を行う。
【0018】
このようにすると、加振部材で生じた振動は、弾性波の形で周囲のコンクリートに伝播して受振部材に到達し、その際、受振部材は、外力を受けて振動するように構成してあるため、到達した弾性波に応答する形で振動するが、コンクリートの締固めが未だ進行していない段階では、コンクリート内に気泡や空隙が混じっている状態であって密度も小さいため、周囲に拡がるコンクリートからの影響は比較的小さく、受振部材の振動性状は、該受振部材の構造特性に基づく要因が支配的となる。
【0019】
一方、コンクリートの締固めが進行すると、コンクリート内の気泡や空隙が排除されて密度も大きくなるため、受振部材は、周囲に拡がるコンクリートからの影響が大きくなり、その振動性状は、コンクリートを介して弾性波として伝播してきた加振部材の振動特性に基づく要因が支配的となる。
【0020】
すなわち、締固め操作の間、加振部材の作動によって受振部材に発生する振動を計測するとともに該振動の時刻変化を分析すれば、コンクリートにおける締固めの進行状況を推定することができるので、その分析結果を用いて加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定する。
【0021】
このようにすれば、作業員の目視観察による判断に頼ることなく、客観的に締固め操作の終了タイミングを判定することができるとともに、マスコンクリートのように本来的に目視観察が不可能な場合であっても、コンクリートの締固め状況を客観的に判断することが可能となる。
【0022】
受振部材の振動性状は、コンクリートの締固めが進行するに伴い、上述したように、受振部材の構造特性に基づく要因が支配的な振動性状から、加振部材の振動特性に基づく要因が支配的な振動性状へと変化するが、振動の時刻変化をどのように把握するかは任意であり、加速度、速度、変位のいずれで振動の時刻変化を評価するかは適宜選択可能であるとともに、振動の時刻変化を振動数の変化として捉えるか、位相の変化として捉えるか、あるいは振幅の変化として捉えるかも任意である。
【0023】
具体的な構成としては例えば、上述の振動を加速度で評価するとともに、該加速度の卓越振動数が加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、加振部材による締固め操作を終了すべきと判定する手順や、上述の振動を速度で評価するとともに、該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、加振部材による締固め操作を終了すべきと判定する手順を採用することが可能である。
【0024】
受振部材は、外力を受けて振動するように構成される限り、その構成は任意であって、例えば円筒状、角筒状、山形状、H状などの断面を有する鋼製の長尺部材で構成することが可能である。
【0025】
また、受振部材は、コンクリートを投入する前にコンクリート打設領域に先行配置する構成のみならず、コンクリートの投入とともに又はその後に該コンクリートに埋入する形でコンクリート打設領域に配置する構成も包摂されるものであり、前者の具体的構成としては、先行打設リフトの上面に立設する構成や、鉄筋架台に固定する構成を採用することが可能である。
【0026】
第2の発明に係るコンクリート締固め判定システムは、コンクリートを締め固めることができるように構成された加振部材の作動によって振動するように構成された受振部材と、前記受振部材に発生する振動を計測するようになっている振動計測手段と、該振動計測手段で得られた前記振動の時刻変化を分析するとともに該分析結果を用いて前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを判定する演算処理手段と、前記加振部材による締固め操作の終了タイミングを通知する通知手段とを備えてなる。
【0027】
第2の発明に係るコンクリート締固め判定システムを用いてコンクリートの締固めの程度を判定するには、コンクリート打設領域にコンクリートを投入するとともに、該投入と同時に又は相前後してコンクリートに埋め込まれるように受振部材を配置する。
【0028】
次に、コンクリートに埋入された加振部材を作動させることで該コンクリートに対する締固め操作を行うが、その際、加振部材の作動によって受振部材に発生する振動を振動計測手段で計測する。
【0029】
ここで、加振部材で生じた振動は第1の発明で説明したように、弾性波の形で周囲のコンクリートに伝播し、受振部材は、到達した弾性波に応答する形で振動するが、コンクリートの締固めが未だ進行していない段階では、コンクリート内に気泡や空隙が混じっている状態であって密度も小さいため、周囲に拡がるコンクリートからの影響は比較的小さく、受振部材の振動性状は、その構造特性に基づく要因が支配的となる一方、コンクリートの締固めが進行すると、コンクリート内の気泡や空隙が排除されて密度も大きくなるため、受振部材は、周囲に拡がるコンクリートからの影響が大きくなり、その振動性状は、コンクリートを介して弾性波として伝播してきた加振部材の振動特性に基づく要因が支配的となる。
【0030】
そのため、締固め操作の間、加振部材の作動によって受振部材に発生する振動の時刻変化を演算処理手段で分析することにより、コンクリートにおける締固めの状況を推定する。
【0031】
具体的には、振動計測手段から出力された加速度の卓越振動数が加振部材の加振振動数にほぼ一致したとき、又は振動計測手段による計測値から速度の二乗累積値を演算するとともに該速度の二乗累積値の増加割合が減少に転じたとき、演算処理手段において加振部材による締固め操作が終了されるべきと判定するとともに、該判定に応答して通知手段を作動させる作動信号を演算処理手段から通知手段に送出する。
【0032】
このようにすれば、作業員の目視観察による判断に頼ることなく、客観的に締固め操作の終了タイミングを判定することが可能となる。
【0033】
加振部材は、手持ちのバイブレータも包摂されるが、これを自走式のコンクリート締固め機に搭載された加振部材で構成するとともに、該加振部材から離間した位置であって前記コンクリート締固め機を構成するベースマシンに設置されたブーム若しくはアーム又はそれらに取り付けられた取付け治具に前記受振部材を取り付けたならば、受振部材をコンクリート打設領域に多数設置する必要がなくなるとともに、締固めを行う場所の変更に伴って受振部材の設置場所を変更する手間も不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システム1の図であり、(a)は周辺配置図、(b)はブロック図。
図2】本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システム1及び方法の作用を示した説明図。
図3】加速度センサ5で得られた計測値から算出された加速度フーリエスペクトルの傾向を示したグラフ。
図4】実際のダムコンクリートの締固めに適用した場合の加速度フーリエスペクトルを示したグラフ。
図5】加速度センサー5で得られた加速度値から算出された速度の二乗累積値の傾向を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るコンクリートの締固め判定方法及びシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システムの周辺配置図及びブロック図である。同図でわかるように、本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システム1は、加振部材としてのバイブレータ3の作動によって振動するように構成された受振部材4と、該受振部材に発生する振動を計測するようになっている振動計測手段としての加速度センサ5と、該加速度センサで得られた振動の時刻変化を分析するとともに該分析結果を用いてバイブレータ3による締固め操作の終了タイミングを判定する演算処理手段としての演算処理部6と、バイブレータ3による締固め操作の終了タイミングを通知する通知手段としての表示灯7とを備える。
【0037】
バイブレータ3は、「バイバック(登録商標)」と呼ばれる自走式コンクリート締固め機のベースマシンに設置されたアーム(図示せず)の先端に取付け用治具9を介して同図では計4本となるように並設してあり、それぞれコンクリート打設領域2に打設されたコンクリートを締め固めることができるようになっている。
【0038】
受振部材4は、これらのバイブレータ3のうち、中央寄りの2本のバイブレータ3,3の中間位置にて取付け用治具9から垂設してあり、バイブレータ3の振動がコンクリート打設領域2に打設されたコンクリートを介して弾性波として伝達したとき、その弾性波が外力となって振動するようにボックス断面を有する長尺状の鋼材で構成してある。
【0039】
加速度センサ5は、受振部材5の中空内部のうち、振動時の振幅が最大となる下端近傍に設置してある。
【0040】
演算処理部6は、モバイルパソコン8を構成するハードウェア及び該ハードウェア上で動作するソフトウェアとして構成してあり、加速度センサ5から出力された加速度の卓越振動数がバイブレータ3の加振振動数にほぼ一致したとき、バイブレータ3による締固め操作が終了されるべきと判定するようになっているとともに、該判定に応答して表示灯7を作動させる作動信号を該表示灯に送出するようになっている。
【0041】
モバイルパソコン8は、例えば自走式コンクリート締固め機の運転席に取り付けておけばよい。
【0042】
本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システム1を用いてコンクリートの締固めを判定するには、まず、コンクリート打設領域2にコンクリートを投入する。
【0043】
次に、自走式コンクリート締固め機を必要に応じて移動させるとともにそのベースマシンに設置された旋回ブームを適宜旋回させ、次いで、該旋回ブームに連結されたアームを下げ降ろすことで、該アームの先端に取り付けられたバイブレータ3をコンクリート打設領域2のコンクリートに埋入する。
【0044】
なお、受振部材4は上述したように、自走式コンクリート締固め機を構成するアームの先端に取り付けられた取付け用治具9から垂設してあるため、アームの下げ降ろし操作に伴って、バイブレータ3とともにコンクリートに埋入される(図1(a)参照)。
【0045】
次に、バイブレータ3を作動させることにより、コンクリート打設領域2のコンクリートを締め固める。
【0046】
このようにすると、バイブレータ3で生じた振動は、弾性波の形で周囲のコンクリートに伝播し、受振部材4にも到達する。
【0047】
ここで、受振部材4は、外力を受けて振動するように構成してあるため、到達した弾性波に応答する形で振動するが、コンクリートの締固めが未だ進行していない段階では、図2(a)に示すようにコンクリート21内に気泡(空隙)22が混じっている状態であって密度も小さい。
【0048】
そのため、周囲に拡がるコンクリート21からの影響は比較的小さく、よって受振部材4の振動性状は、該受振部材の構造特性に基づく要因、本実施形態では、上端を固定点とした片持ち部材の自由振動が支配的となり、受振部材4は、概ねその固有振動数で振動する。
【0049】
一方、コンクリート21の締固めが進行すると、図2(b)に示すようにコンクリート21内の気泡22が排除されて密度も大きくなるため、受振部材4は、周囲に拡がるコンクリート21からの影響が大きくなり、その振動性状は、コンクリート21を介して弾性波として伝播してきたバイブレータ3の振動特性に基づく要因が支配的となり、受振部材4は、概ねバイブレータ3の加振振動数で振動する。
【0050】
このように、コンクリート21の締固めが進行するにつれて、受振部材4の振動性状は徐々に変化するので、締固め操作を行っている間、バイブレータ3の作動によって受振部材4に発生する振動を加速度センサー5で計測するとともに、該振動を周波数解析することにより、受振部材4の卓越振動数がどのように時間変化するかを演算処理部6で分析する。
【0051】
図3は、加速度センサ5で得られた計測値から算出される加速度フーリエスペクトルの傾向を示したものである。同図でわかるように、受振部材4の振動性状は、時刻tでは、受振部材4の固有振動数fを卓越振動数とする振動となるが、時間が経過するにつれて卓越振動数が右側にシフトし、時刻tでは、バイブレータ3の加振振動数fを卓越振動数とする振動へと変化する。
【0052】
そのため、バイブレータ3の仕様である加振振動数fを予め目標値として演算処理部6に設定しておくことにより、加速度センサー5の計測値から得られた卓越振動数fがバイブレータ3の加振振動数fにほぼ一致したとき、バイブレータ3による締固め操作を終了すべきとの判定を演算処理部6で行う。
【0053】
例えば、
|f−f|/f ≦0.1
が満たされた時点で締固め操作を終了すべきと判定することができる。
【0054】
次に、バイブレータ3による締固め操作を終了すべきとの判定に応答して、表示灯7を作動させる作動信号を演算処理部6で生成し、これを表示灯7に送出する。
【0055】
表示灯7が作動したならば、アームの引上げ操作を行うことで、バイブレータ3による締固め操作を終了すればよい。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係るコンクリートの締固め判定システム1及び方法によれば、バイブレータ3による締固め操作の間、受振部材4に発生する振動を加速度センサー5で計測するとともに該振動の時刻変化を分析し、その分析結果を用いてバイブレータ3による締固め操作の終了タイミングを演算処理部6で判定するようにしたので、作業員の目視観察による判断に頼ることなく、客観的に締固め操作の終了タイミングを判定することができるとともに、マスコンクリートのように本来的に目視観察が不可能な場合であっても、コンクリートの締固め状況を客観的に判断することが可能となる。
【0057】
また、配合、強度、コンシステンシーといったコンクリート材料面については、従来公知の手法を用いて適切に品質管理を行うことができるため、上述したコンクリートの締固めにおける客観的な判定が可能になったことにより、より品質の高いコンクリートを施工することが可能となる。
【0058】
本実施形態に係るコンクリートの締固め判定方法を実際のダムコンクリートの締固めに適用することで、その作用効果を確認したので、以下、その試験の概要について説明する。
【0059】
ダム建設現場では、本実施形態と同様の構成で受振部材4を自走式コンクリート締固め機に取り付けるとともに、該受振部材の中空内部に加速度センサー5を設置した。
【0060】
ここで、受振部材4は、長さが約1mで断面が5cm×5cmのボックス鋼管とした。なお、これを片持ち梁として固有振動数を算出したところ、バイブレータ3の加振振動数110Hzよりも低い約70Hzとなった。
【0061】
振動計測は、4本のバイブレータ3の配置面に沿った水平方向について行うとともに、締固め開始から0〜3秒、3〜6秒、6〜9秒の3つの時間帯に区分し、それぞれの時間帯で加速度フーリエスペクトルを算出した。
【0062】
算出結果を図4に示す。
【0063】
同図でわかるように、0〜3秒、3〜6秒、6〜9秒と時間が経過するにつれ、いずれのピーク振動数(1,2,3次に相当)でも、振動数が高い側にシフトしていることがわかるとともに、1次のピーク振動数は、70〜80Hzあたりからバイブレータ3の加振振動数である110Hzへと変化していることがわかる。
【0064】
これは、加速度センサー5を取り付けた受振部材4の振動が、コンクリートが軟らかい時には、受振部材4の固有振動(今回は70〜80Hz程度)に近い振動数で振動するが、コンクリートが締め固まるに従ってコンクリートの剛性が大きくなり、受振部材4の振動が周囲のコンクリートに拘束されて、バイブレータ3の加振振動数に近づくものと考えられる。
【0065】
本実施形態では、加振部材を、自走式コンクリート締固め機に搭載されたバイブレータ3で構成したが、本発明を実施するにあたって、どのような加振部材を用いるかは任意であり、例えば手持ちのバイブレータを用いることも可能である。
【0066】
また、本実施形態では、コンクリートの締固め判定システム1を、演算処理部6での判定結果が表示灯7を介してオペレータに通知されるように構成したが、締固め操作の終了タイミングを通知する通知手段は、かかる構成に限定されるものではなく、例えば通知音で構成することが可能であるし、本発明に係るコンクリートの締固め判定方法においては、締固め操作の終了タイミングを判定すれば足りるのであって、判定結果を通知するステップを必須とするものではない。
【0067】
また、本実施形態では、加振部材であるバイブレータ3が搭載された自走式コンクリート締固め機に受振部材4を併設した関係上、コンクリート打設後に受振部材を該コンクリートに埋入する形でコンクリート打設領域に配置する構成としたが、これに代えて、受振部材を、先行打設されたコンクリートの天端や該コンクリートの天端から突出する鉄筋架台に取り付け、しかる後、コンクリートを打設するようにしてもかまわない。
【0068】
また、本実施形態では、受振部材4の固有振動数fがバイブレータ3の加振振動数fよりも低くなるように該受振部材を構成したが、これに代えて、受振部材4の固有振動数fがバイブレータ3の加振振動数fよりも高くなるように該受振部材を構成してもかまわない。
【0069】
また、本実施形態では、バイブレータ3による締固め操作の終了タイミングを、加速度センサー5で計測された加速度の卓越振動数がバイブレータ3の加振振動数にほぼ一致したかどうかで判定するようにしたが、締固めによってコンクリート内の気泡が排除されることに伴う受振部材4の振動性状の時刻変化は、上述した卓越振動数の時刻変化にとどまるものではなく、位相の変化や振幅の変化に着目してもかまわないし、振動の評価を加速度ではなく、速度で評価するようにしてもかまわない。
【0070】
例えば、加速度センサー5で得られた加速度値から速度の二乗累積値を算出し、その増加割合が減少に転じたとき、バイブレータ3による締固め操作を終了すべきと判定することが可能である。
【0071】
図5は、上述した実証試験において、加速度センサー5で得られた加速度値から算出された速度の二乗累積値の傾向を示したグラフである。同図でわかるように、3〜6秒と6〜9秒間の傾きを比較した場合、6〜9秒間の傾きが小さくなっており、よってバイブレータ3からコンクリートに伝達される振動エネルギーは、コンクリートが締め固まるにつれて減少していくと考えることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 コンクリートの締固め判定システム
2 コンクリート打設領域
3 バイブレータ(加振部材)
4 受振部材
5 加速度センサー(振動計測手段)
6 演算処理部(演算処理手段)
7 表示灯(通知手段)
21 コンクリート
22 気泡、空隙
図1
図2
図3
図4
図5