特許第6183685号(P6183685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183685熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル、その製造方法、モータ、及びトランス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183685
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル、その製造方法、モータ、及びトランス
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/30 20060101AFI20170814BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20170814BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H02K3/30
   H02K15/12 D
   H01F5/06 R
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-101644(P2013-101644)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-222973(P2014-222973A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2016年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】茂木 繁
(72)【発明者】
【氏名】水谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】新井 一男
【審査官】 土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−057734(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114665(WO,A1)
【文献】 特開2000−313787(JP,A)
【文献】 特開2004−242423(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072630(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、前記鉄心に巻かれた巻線と、前記鉄心と前記巻線との間及び/又は前記巻線同士の間に充填された熱伝導性耐熱絶縁材とを備える熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルであって、前記熱伝導性耐熱絶縁材は、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、及び平均粒子径40〜200μmかつ熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
【請求項2】
前記フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)が下記式(1)
【化1】
(式(1)中、m及びnは、平均値であり、0.005≦n/(m+n)≦1.00を満たし、また、m+nは5〜200の正数である。xは、平均置換基数であり、1〜4の正数を示す。Arは2価の芳香族基を示す。)
で表される構造を有する請求項1に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
【請求項3】
前記無機フィラー(C)は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及びダイヤモンドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1又は2に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
【請求項4】
前記鉄心が固定子鉄心であり、前記巻線が固定子巻線であり、モータにおいて用いられる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを製造する方法であって、前記鉄心と前記巻線との間及び/又は前記巻線同士の間に前記熱硬化性樹脂組成物を充填すると同時に、前記鉄心とステータとの間にも前記熱硬化性樹脂組成物を充填する充填工程と、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱して硬化させる加熱工程とを含む製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備えるモータ。
【請求項6】
移動体用である請求項5に記載のモータ。
【請求項7】
前記移動体が航空機又は自動車である請求項6に記載のモータ。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備えるトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル、その製造方法、並びにこの熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを用いたモータ及びトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギ資源枯渇の危険性が叫ばれる中、用途を問わず電気装置の効率の改善は急務であり、さまざまな取り組みがなされている。中でも、大電力を使用する、モータに代表される動力装置等では、コイルにおける銅損がシステムの損失の大きな部分を占めている。一般に冷却の困難な部分に密集して設置されるコイルにおける銅損は、通電に伴う温度上昇で更に増加するため、コイルにおける温度上昇を抑制することは機器の損失低減において重要な課題である。コイルの温度を維持するには、損失による熱を放出する必要があり、その手段としては、熱を放熱部に低い温度差で伝達するよう熱抵抗を下げる方法;冷媒の流量を増加させる方法等の、冷却装置の容量を増加させる方法が挙げられる。前者については、一般にコイル巻線の周辺には熱伝導性の低いワニスが充填されているため、熱抵抗を十分に下げることが困難である。後者については、冷却に要するエネルギによる効率の低下、及び重量やサイズの増加を招く要因となる。
【0003】
また、発進時に定格出力以上の出力を要求され、かつ冷却装置に十分なスペースと重量を割くことのできない電気自動車用モータ等では、発生する損失による熱にコイル被覆が長時間は耐えられないことから、モータとして電磁気的なポテンシャルはあるにもかかわらず、非常に短時間しかモータが最大出力を維持できないという問題がある。このような問題に対し、従来ではコイル巻線間に耐熱材料を充填することでコイル周辺の熱容量を増し、最大出力時における温度上昇を抑制する手法がとられてきた。しかし、この手法ではモータ重量が増す上に長時間にわたり温度上昇を抑制できないため、本質的な解決にはなっておらず、コイル巻線間及びコイル−放熱部間の熱抵抗を下げる手段が求められている。しかし、一般に熱伝導率の高い物質は導電性も高いため、絶縁材としての特性も要求されるコイル巻線周囲の充填材としては不適である。
【0004】
なお、コイル巻線間に耐熱材料を充填したコイルとしては、例えば、耐熱材料として、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂と、酸無水物硬化剤と、無機充填材と、界面活性剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を用いたものが公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−57734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、絶縁性及び耐熱性を確保しつつ、通電に伴う温度上昇を抑制することができる熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル、その製造方法、並びにこの熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを用いたモータ及びトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コイルにおいて、鉄心と巻線との間及び/又は巻線同士の間に、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、及び熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる熱伝導性耐熱絶縁材を充填することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の(1)〜(8)に関する。
(1)
鉄心と、上記鉄心に巻かれた巻線と、上記鉄心と上記巻線との間及び/又は上記巻線同士の間に充填された熱伝導性耐熱絶縁材とを備える熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルであって、上記熱伝導性耐熱絶縁材は、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、及び平均粒子径40〜200μmかつ熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
(2)
上記フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)が下記式(1)
【0009】
【化1】
(式(1)中、m及びnは、平均値であり、0.005≦n/(m+n)≦1.00を満たし、また、m+nは5〜200の正数である。xは、平均置換基数であり、1〜4の正数を示す。Arは2価の芳香族基を示す。)
で表される構造を有する上記(1)に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
(3)
上記無機フィラー(C)は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及びダイヤモンドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する上記(1)又は(2)に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル。
(4)
上記鉄心が固定子鉄心であり、上記巻線が固定子巻線であり、モータにおいて用いられる上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを製造する方法であって、上記鉄心と上記巻線との間及び/又は上記巻線同士の間に上記熱硬化性樹脂組成物を充填すると同時に、上記鉄心とステータとの間にも上記熱硬化性樹脂組成物を充填する充填工程と、上記熱硬化性樹脂組成物を加熱して硬化させる加熱工程とを含む製造方法。
(5)
上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備えるモータ。
(6)
移動体用である上記(5)に記載のモータ。
(7)
上記移動体が航空機又は自動車である上記(6)に記載のモータ。
(8)
上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備えるトランス。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルでは、熱伝導性の高い耐熱絶縁材を介して、コイルで発生した熱が伝達、放散されるため、通電に伴う温度上昇が抑制されている。よって、本発明によれば、絶縁性及び耐熱性を確保しつつ、通電に伴う温度上昇を抑制することができる熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル、その製造方法、並びにこの熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを用いたモータ及びトランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルの一実施形態を示す断面図である。
図2】実施例又は比較例で作製した電動航空機用モータについて、運転時の銅損の推移を示すグラフである。
図3】実施例又は比較例で作製した電動航空機用モータについて、銅損とコイル温度との関係を示すグラフである。
図4】実施例又は比較例で作製した電動航空機用モータについて、コイル温度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル>
以下、図面を参照しながら、本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルについて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルの一実施形態を示す断面図である。図1に示す通り、本実施形態において、熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル1は、鉄心2と、鉄心2に巻かれた巻線3と、鉄心2と巻線3との間及び/又は巻線3同士の間に充填された熱伝導性耐熱絶縁材4とを備える。
【0013】
鉄心2は、特に限定されず、コイルに用いられている従来公知のものから適宜選択される。コイルの絶縁性を向上させるため、鉄心2は絶縁塗装されていることが好ましい。絶縁塗装は、上記熱伝導性耐熱絶縁材の他、例えば、粉体塗装により行うことができる。
【0014】
巻線3は、特に限定されず、コイルに用いられている従来公知のものから適宜選択される。巻線3としては、通常、絶縁被覆された銅線が用いられる。
【0015】
熱伝導性耐熱絶縁材4は、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、及び熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなるものである。
以下、上記熱硬化性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0016】
[フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物は、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)(以下、単に「成分(A)」)と記載する。)を含有する。成分(A)としては、特に限定されないが、例えば、上記式(1)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂が挙げられる。式(1)におけるArは2価の芳香族基を示す。なお、本明細書において「2価の芳香族基」とは、その構造中に少なくとも1つの芳香環を有する化合物の芳香環から水素原子を2個除いた構造を意味しており、例えばジフェニルエーテルにおいて酸素を挟んで両側に位置する別々のベンゼン環から、1つずつ水素原子を除いた構造も本明細書でいう「2価の芳香族基」の範疇に含まれる。また、式(1)で表される構造において、添え字mが付された括弧内の繰り返し単位及び添え字nが付された括弧内の繰り返し単位の配列はランダムである。成分(A)は、単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
【0017】
式(1)におけるArの具体例としては、下記するジアミン成分から2個のアミノ基を除いた残基が挙げられる。
Arを与えるジアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、及びm−トリレンジアミン等のフェニレンジアミン類;3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル類;3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、及び3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル等のジアミノジフェニルチオエーテル類;1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等のアミノフェノキシベンゼン類;4,4’−ジアミノベンゾフェノン及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン等のジアミノベンゾフェノン類;4,4’−ジアミノジフェニルスルフォキサイド及び4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン類;ベンチジン、3,3’−ジメチルベンチジン、2,2’−ジメチルベンチジン、3,3’−ジメトキシベンチジン、及び2,2’−ジメトキシベンチジン等のベンチジン類;3,3’−ジアミノビフェニル;p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、及びo−キシリレンジアミン等のキシリレンジアミン類;並びに4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミノジフェニルメタン類等が挙げられる。これらの中で、フェニレンジアミン類、ジアミノジフェニルメタン類、又はジアミノジフェニルエーテル類が好ましく、ジアミノジフェニルメタン類又はジアミノジフェニルエーテル類がより好ましい。得られるポリマーの溶剤溶解性や難燃性の面から3,4’−ジアミノジフェニルエーテル又は4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
【0018】
式(1)におけるm及びnは、0.005≦n/(m+n)≦1.00及び5≦m+n≦200の関係を満たす平均繰り返し数を表す。
n/(m+n)の好ましい範囲は、0.005≦n/(m+n)≦0.5であり、より好ましくは0.005≦n/(m+n)<0.25、更に好ましくは0.005≦n/(m+n)≦0.2である。また、場合により、0.005≦n/(m+n)<0.1でもよい。なお、m+nは7〜200程度が好ましく、より好ましくは10〜100程度であり、最も好ましくは20〜80程度である。
式(1)におけるn/(m+n)の値が0.005以上である場合は、エポキシ樹脂(B)(以下、単に「成分(B)」と記載する。)中のエポキシ基と成分(A)中のフェノール性水酸基との架橋反応が十分に進行しやすく、硬化物の耐熱性や機械強度等が低下しにくい。また、m+nの値が200以下である場合は、溶剤溶解性が低下しにくいため、成分(A)の生産性やワニスとしての作業性が良好となりやすい。
式(1)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂の両末端は、ジアミン成分のアミノ基、ジカルボン酸成分のカルボキシル基、又は両者の組み合わせのいずれでもよいが、ジアミン成分を小過剰で反応させて得られる両末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂が好ましい。
【0019】
成分(A)のフェノール性水酸基当量は、8000〜35000g/eq程度が好ましく、10000〜25000g/eq程度がより好ましく、12000〜20000g/eq程度が最も好ましい。また、成分(A)の活性水素当量は3500〜10000g/eq程度が好ましく、4000〜8000g/eq程度がより好ましい。
【0020】
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物の総量に対する成分(A)の含有量は、好ましくは25〜65質量%程度であり、より好ましくは30〜55質量%程度である。
成分(A)は、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種のジカルボン酸成分と、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシイソフタル酸、3−ヒドロキシイソフタル酸、及び2−ヒドロキシテレフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種の、フェノール性水酸基を有するジカルボン酸成分と、上記のジアミン成分とを用いて、例えば特開2006−124545号公報等に記載の方法に準じて合成することができる。ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸及びテレフタル酸が好ましく、イソフタル酸がより好ましい。フェノール性水酸基を有するジカルボン酸成分としては、5−ヒドロキシイソフタル酸が好ましい。
なお、本発明においては、成分(A)を成分(B)の硬化剤(架橋成分)として使用する。
【0021】
[エポキシ樹脂(B)]
成分(B)であるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に制限はない。具体的にはノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール縮合型エポキシ樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。成分(B)は、単独で使用することも2種以上を併用することもできる。好ましいエポキシ樹脂としては、ビフェニル骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、例えばNC−3000(日本化薬株式会社製)等を挙げることができる。
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物における成分(B)の使用量は、成分(A)及び場合により併用される他のエポキシ樹脂硬化剤(D)(後述)中の活性水素1当量に対して、成分(B)のエポキシ基が好ましくは0.5〜2.0当量、より好ましくは0.7〜1.5当量、更により好ましくは0.8〜1.3当量となる量である。なお、ここでいう活性水素当量とは、エポキシ基と反応しうる官能基に含まれる電気陰性度の大きな原子に結合した水素原子の当量を示す。式(1)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂における活性水素には、フェノール性水酸基の水素原子及び末端アミノ基における1つの水素原子が該当する。
成分(A)100質量部に対する成分(B)の使用量は、好ましくは2〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部程度であり、更に好ましくは5〜15質量部程度である。
【0022】
[熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)(以下、単に「成分(C)」と記載する。)を含有する。成分(C)としては、熱伝導率が20W/m・K以上のものが好ましく、30W/m・K以上のものがより好ましい。成分(C)の熱伝導率の上限としては、特に限定されないが、例えば、200W/m・Kが挙げられる。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法で測定することができる。成分(C)の具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、又は炭化ケイ素が挙げられ、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導性を高めるためにはアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及び酸化マグネシウムが好ましい。成分(C)は、単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
成分(C)としては、平均粒子径2μm以下の微小結晶が凝集して形成された2次凝集粒子を使用することが好ましい。成分(C)の平均粒子径は、好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは10〜150μmである。したがって、本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物中に成分(C)として分散する無機フィラーの2次凝集粒子の大きさが、上記の範囲になるよう適宜粉砕等で、調整するのが好ましい。予め、無機フィラーの粒子径を撹拌混合等によって、調整するか、又は、他の原料との撹拌混合若しくは混練と同時に2次凝集粒子の粒子径の調整を行ってもよい。
平均粒子径は、撹拌混合中の液をサンプリングして、測定すればよい。平均粒子径の測定はグラインドゲージ(粒度ゲージ)又はレーザ回折粒度分布測定装置で行うことができる。
【0023】
成分(C)の使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、好ましくは30〜950質量部、より好ましくは40〜500質量部、更により好ましくは50〜200質量部である。高い熱伝導性、高い接着性、及び高い電気信頼性等のバランスを考慮すると、70〜170質量部程度が最も好ましい。成分(C)の使用量が上記範囲であると、高い接着強度とともに、2〜30W/m・Kという極めて高い熱伝導率及び高い電気信頼性を達成することができる。また、成分(C)の配合量が多すぎないので、接着性の低下を招きにくい。
【0024】
[他のエポキシ樹脂硬化剤(D)]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物には、成分(A)以外に他のエポキシ樹脂硬化剤(以下、単に「成分(D)」)と記載する。)を併用してもよい。成分(D)は、単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
併用し得る硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとから合成されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、フェノールノボラック等の多価フェノール化合物、トリフェニルメタン及びこれらの変性物、イミダゾール、BF−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。使用態様により、適宜選択すればよい。例えば本発明の好ましい1つの態様においては、多価フェノール化合物が使用され、好ましくはフェノール、ホルムアルデヒド、及びベンゼン又はビフェニル等を縮合反応させることにより得られるフェノールノボラックが好ましく、フェノール、ホルムアルデヒド、及びビフェニルの縮合反応で得られるフェノールノボラックがより好ましい。
成分(D)を併用する場合、併用する成分(D)にもよるので一概には言えないが、成分(A)が全硬化剤100質量部中に占める割合は、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。本発明のより好ましい態様においては、60質量部以上がより好ましく、更に好ましくは80質量部以上であり、90質量部以上が最も好ましい。
【0025】
[硬化触媒(E)]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物は、硬化触媒(E)(以下、単に「成分(E)」と記載する。)を含有してもよい。成分(E)の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。中でも、イミダゾール類が好ましい。成分(E)は、単独で使用することも2種以上を併用することもできる。成分(E)の使用量は、成分(B)100質量部に対して、好ましくは0.1〜20.0質量部である。
【0026】
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物には、前記成分(A)〜成分(E)以外の添加剤、例えばカップリング剤、有機溶剤、及びイオン捕捉剤等を必要により添加してもよい。
用い得るカップリング剤は特に限定されないが、シランカップリング剤が好ましく、その具体例としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらカップリング剤の使用量は、熱硬化性樹脂組成物の用途や成分(C)の含有量、カップリング剤の種類等に応じて選択すればよく、本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物100質量部中、好ましくは0〜5質量部である。
【0027】
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物に用い得るイオン捕捉剤は特に限定されないが、例えば銅がイオン化して溶け出すのを防ぐための銅害防止剤として知られるトリアジンチオール化合物や2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のビスフェノール系還元剤、無機イオン吸着剤としてのジルコニウム系化合物、アンチモンビスマス系化合物、マグネシウムアルミニウム系化合物、及びハイドロタルサイト等が挙げられる。これらイオン捕捉剤を添加することにより、イオン性不純物がイオン捕捉剤に吸着されて吸湿時の電気信頼性を向上させることができる。イオン捕捉剤の使用量は、その効果や耐熱性、コスト等の兼ね合いから本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物中、好ましくは0〜5質量%である。
【0028】
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物は、有機溶剤に溶解したワニスとして用いることもできる。用い得る有機溶剤としては、例えばγ−ブチロラクトン等のラクトン類、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン及びキシレン等の芳香族溶剤が挙げられる。これらの中で、ラクトン類、アミド系溶剤、又はケトン系溶剤が好ましく、ラクトン類又はアミド系溶剤がより好ましい。有機溶剤の使用量は、本発明のワニスの総量中、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更により好ましくは70質量%以下である。本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対する有機溶媒の使用量は、好ましくは30〜500質量部程度、より好ましくは70〜300質量部程度、更により好ましくは100〜200質量部程度である。
【0029】
ワニスは、成分(C)以外の成分を混合撹拌しながら、成分(C)を少しずつ添加して製造することができる。成分(C)の分散を考慮した場合、らいかい機、3本ロールミル、ビーズミル等により、又はこれらの組み合わせにより撹拌混合又は混練することにより製造することが好ましい。また、成分(C)と低分子量成分(例えば、成分(B)、成分(E)、エポキシ樹脂用添加剤、及びその他の添加剤等)を予め混合した後、高分子量成分(例えば成分(A)等)を配合することにより、混合に要する時間を短縮することが可能になる。また、各成分を混合する際に、生成しつつあるワニスから、その内部に含まれる気泡を真空脱気により除去することが好ましい。
【0030】
熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル1は、コイルを有するさまざまな電気機器に適用可能である。このような電気機器としては、例えば、モータ、トランスが挙げられる。
【0031】
熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル1は、鉄心2と巻線3との間及び/又は巻線3同士の間に上記熱硬化性樹脂組成物を充填する充填工程と、上記熱硬化性樹脂組成物を加熱して硬化させる加熱工程とを含む製造方法(以下、「製造方法1」という。)により製造することができる。上記熱硬化性樹脂組成物の充填方法としては、特に限定されず、例えば、上記熱硬化性樹脂組成物への浸漬、上記熱硬化性樹脂組成物の塗布が挙げられる。この際、上記熱硬化性樹脂組成物は、通常、有機溶剤を含有するワニスとして用いられる。上記加熱工程において、上記熱硬化性樹脂組成物は、例えば、80〜200℃で0.5〜10時間加熱することにより硬化させることができる。
【0032】
特に、鉄心2が固定子鉄心であり、巻線3が固定子巻線であり、熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル1がモータにおいて用いられるコイルである場合、熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル1は、鉄心2と巻線3との間及び/又は巻線3同士の間に上記熱硬化性樹脂組成物を充填すると同時に、鉄心2とステータ(図示せず)との間にも上記熱硬化性樹脂組成物を充填する充填工程と、上記熱硬化性樹脂組成物を加熱して硬化させる加熱工程とを含む製造方法(以下、「製造方法2」という。)により製造することができる。製造方法2における充填方法及び加熱条件は、製造方法1と同様である。
【0033】
製造方法2では、固定子鉄心と固定子巻線との間及び/又は固定子巻線同士の間への熱硬化性樹脂組成物の充填と、固定子鉄心とステータとの間への熱硬化性樹脂組成物の充填とを一工程で行うため、工程の簡略化及び効率化並びにコストダウンを大幅に図ることができる。熱伝導性耐熱絶縁材4は、接着強度が強いため、固定子鉄心とステータとを強固に固定することができる。よって、固定子鉄心をステータに固定する際に、固定子鉄心に穴加工を施してピン留め、ネジ留め等を行う必要がない。その結果、磁気回路が穴加工による悪影響を受けず、電磁気的な性能劣化(モータの損失増加又は出力減)が生じにくい。また、得られるモータの小型化及び軽量化が可能となる。更に、熱伝導性の高い熱伝導性耐熱絶縁材4を介して、固定子巻線、固定子鉄心、及びステータの順に、コイルで発生した熱が伝達、放散されるため、コイル−放熱部間の熱抵抗を効果的に低下させることができる。
【0034】
<モータ>
本発明に係るモータは、本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備える。上記熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルでは、銅損の増加が抑制されているため、このコイルを用いた上記モータは効率が向上しやすい。また、上記モータでは、従来のモータと比較して、通電時にコイルの温度上昇を抑えることができるため、最大出力運転時間を延長することができる。最大出力運転時間は最大出力の大きさ等により変動し得るが、本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを用いることにより、例えば、最大出力運転時間が100秒以上のモータを得ることができる。
【0035】
本発明に係るモータは、特に制限なく種々の用途に用いることができるが、移動体用であることが好ましい。移動体としては、例えば、航空機、自動車等が挙げられ、電動航空機、電気自動車が好ましい。
【0036】
<トランス>
本発明に係るトランスは、本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルを備える。上記熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルでは、銅損の増加が抑制されているため、このコイルを用いた上記トランスは効率が向上しやすい。
【0037】
本発明に係るトランスにおいて、上記熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルは、入力側コイル及び出力側コイルのいずれか一方又は両方として用いることができ、トランスの効率が向上しやすい点から、入力側コイル及び出力側コイルの両方として用いることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における「部」は、特に断りのない限り質量部を示す。
【0039】
[合成例]
温度計、冷却管、分留管、及び撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素パージを施しながら、5−ヒドロキシイソフタル酸3.64部(0.02モル)、イソフタル酸162.81部(0.98モル)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル204.24部(1.02モル)、塩化リチウム10.68部、N−メチルピロリドン1105部、及びピリジン236.28部を加えて撹拌溶解させた後、亜リン酸トリフェニル512.07部を加えて95℃で4時間縮合反応をさせることにより、成分(A)を含む反応液を得た。この反応液に撹拌を施しながら、90℃で水670部を3時間かけて滴下し、更に90℃で1時間撹拌した。その後、60℃まで冷却して30分間静置したところ、上層が水槽、下層が油層(樹脂層)に分離したため、上層をデカンテーションによって除去した。除去した上層の量は1200部であった。油層(樹脂層)にN,N−ジメチルホルムアミド530部を加え、希釈液とした。該希釈液に、水670部を添加し、静置した。層分離後、デカンテーションにより、水層を除去した。この水洗工程を計4回繰り返して成分(A)の洗浄を行った。洗浄終了後、得られた成分(A)の希釈液を、撹拌された水8000部中に2流体ノズルを用いて噴霧し、析出した粒径5〜50μmの成分(A)の微粉を濾取した。得られた析出物のウェットケーキを、メタノール2700部に分散させ撹拌下で2時間還流した。次いでメタノールを濾別し、濾取した析出物を水3300部で洗浄後、乾燥することにより、下記式(2)で表される構造を有する成分(A)332部を得た。この構造において、添え字mが付された括弧内の繰り返し単位及び添え字nが付された括弧内の繰り返し単位の配列はランダムである。
【0040】
【化2】
【0041】
得られた成分(A)の固有粘度は0.52dl/g(ジメチルアセトアミド溶液、30℃)であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量及び質量平均分子量は、それぞれ44000及び106000であった。仕込み比率より、n/(m+n)=0.02、フェノール性水酸基当量16735g/eq、活性水素当量は5578g/eqであった。
【0042】
[配合例]
合成例で得られた成分(A)100部に対し、成分(B)としてNC−3000(日本化薬株式会社製、エポキシ当量275g/eq)10部、成分(D)としてGPH−65(日本化薬株式会社製、水酸基当量203g/eq)2.5部、成分(E)として2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ)1部、及び溶剤としてγ−ブチロラクトン320部を加え、30℃で2時間撹拌することにより混合溶液(NJ−0)(固形分濃度26.2質量%)を得た。
【0043】
[分散例]
配合例で得られた混合溶液(NJ−0)に、表に示す各フィラー(BN、MgO、AlN、Al、SiO、又はCaCO)を50体積%となるよう、添加・撹拌し、三本ロールミルを用いて分散して、分散液(NJ−1〜6)を得た。
【0044】
[接着シートの作製]
配合例で得られたNJ−0及び分散例で得られたNJ−1〜6各々をアプリケータを用いて乾燥後の厚さが100μmになるように厚さ38μmの離形処理PETに塗布した。130℃で10分間乾燥させ溶剤を除去し、NJ−0〜6の接着シートを得た。
【0045】
[接着強度測定]
被着体として、厚さ18μmの銅箔(平均表面粗さ2μm以下の電解銅箔)を用意した。そして、NJ−0〜6の接着シートから離形処理PETをはがし、2枚の銅箔で挟み込み、プレス機で圧力3MPa、温度180℃にて、1時間硬化反応を行い、銅箔同士を接着した。銅箔間の接着強度として90度剥離強度(N/mm)を、JIS K 6854−1に準拠して測定した。即ち、接着した一方の銅箔を固定し、他方の銅箔の一端を直角にゆっくりと引っ張り、剥離の度合いを測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
[機械強度測定]
NJ−0〜6の接着シートから離形処理PETをはがし、180℃で1時間硬化反応を行い、NJ−0〜6の硬化シートを得た。各サンプル(10mm幅×チャック間距離100mm長)について引張試験機(島津オートグラフ)を用い、25℃で100mm/minで引っ張ったときの機械強度(弾性率、破断強度、及び伸度)を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[熱伝導率測定]
NJ−0〜6の接着シートから離形処理PETをはがし、180℃で1時間硬化反応を行い、NJ−0〜6の硬化シートを得た。各サンプルについて簡易型熱拡散率測定機(アイフェイズ製周期加熱方式)により熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[銅損80W時の温度測定]
配合例で得られた混合溶液NJ−0及び分散例で得られた分散液NJ−1〜6のいずれかを、モータコイルにおける巻線同士間及び鉄心−巻線間に充填し、乾燥・硬化させて、樹脂充填モータコイルを得た。具体的には、以下の通りである。モータコイルを上記混合溶液又は分散液に浸漬させ減圧充填した後、モータコイルを取り出し、130℃で60分間乾燥させ溶剤を除去した。同様な減圧充填と乾燥を計3回繰り返した。その後、180℃で1時間硬化反応を行い、樹脂充填モータコイルを得た。各モータコイルについて銅損80W時の温度を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す通り、熱伝導率20W/m・K以上の無機フィラー(C)を用いた実施例1〜4では、上記無機フィラーを用いなかった比較例1〜3と比較して、接着強度及び熱伝導率が高く、機械強度のバランスに優れ、銅損80W時のモータコイル温度が低く抑えられていた。
【0051】
特に良い結果の得られたNJ−1と比較用のNJ−0とを実際に電動航空機用モータに適用した例について以下に述べる。
【0052】
[電動航空機用モータへの適用例]
以下、上記手法で、NJ−0又はNJ−1を用いて作製したモータコイルを電動航空機用モータに適用した場合について詳しく説明する。電動航空機用モータでは、最大出力を維持する時間が自動車用と比較しておよそ2倍以上長く要求されるため、より高い放熱性能が必要となる。ここでは、モータコイルにおける巻線同士間及び鉄心−巻線間の接着とともに、鉄心−モータ筐体間の接着に、上記NJ−1を適用したモータ(モータA)と、上記NJ−0を適用したモータ(モータB)とを作製し、航空機同様の強制空冷条件における性能を比較した。
【0053】
図2にモータ運転時の銅損の推移を示す。運転開始と同時に銅損によるコイルの発熱に伴いコイル温度は上昇し始め、コイル抵抗も増加する。一方、モータ筐体からの放熱は外気との温度差に比例するため、ある時間においてコイルからの伝熱量と放熱量とが釣り合い、コイル及び筐体温度は定常値に落ち着き、銅損もある値に安定する。モータAでは、モータBと比較して安定後の銅損が12%以上低減していた。よって、モータAでは、モータ効率の約0.5%の改善とともに発熱量の抑制が期待できる。
【0054】
また、モータA又はモータBについて、銅損とコイル温度との関係を図3に示す。コイル温度は銅損が増加するに従い上昇したが、モータAではモータBと比較して温度上昇が抑制されていた。両モータの熱抵抗を比較すると、モータAの熱抵抗はモータBの約2/3であった。即ち、モータコイルにおける巻線同士間及び鉄心−巻線間の接着とともに、鉄心−モータ筐体間の接着にNJ−1を適用することにより、銅損の値が等しいときにはコイルの定常時の温度上昇幅を約2/3に抑えることができる、又は、コイル温度が、設定された温度上限に達するまでの時間を延長できることが分かった。
【0055】
図4にコイル温度の時間変化を示す。熱抵抗の抑制されたモータAは、モータBと比較して温度上限までの到達時間をおよそ2倍近く確保できていることが分かった。このようにNJ−1を電動航空機用モータに適用した場合、発熱量の抑制と熱抵抗の低下により、最大出力運転時間の延長に格別の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る熱伝導性耐熱絶縁材充填コイルは、コイルを有するさまざまな電気機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 熱伝導性耐熱絶縁材充填コイル
2 鉄心
3 巻線
4 熱伝導性耐熱絶縁材
図1
図2
図3
図4