特許第6183698号(P6183698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183698
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】車両のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/181 20060101AFI20170814BHJP
   B62D 1/187 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B62D1/181
   B62D1/187
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-162846(P2013-162846)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-30418(P2015-30418A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084124
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 一眞
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067311(JP,A)
【文献】 特開2004−058927(JP,A)
【文献】 特開2007−091171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18 − 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対しステアリングシャフトを揺動可能に支持するメインハウジングと、当該車体に固定する固定ブラケットとを連結し、前記ステアリングシャフトを所望の傾斜角度に調整する電動チルト機構を備えた車両のステアリング装置において、前記電動チルト機構が、電動モータと、該電動モータに連結され当該電動モータの回転駆動力をリンク揺動作動に変換する駆動力変換機構と、前記固定ブラケットに対し第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記駆動力変換機構に対し第2のピボット軸を中心に回転可能に支持され、前記駆動力変換機構を介して前記第1のピボット軸を中心に揺動するように駆動される第1のリンク部材とを備えており、前記駆動力変換機構が、前記メインハウジングに対し第3のピボット軸を中心に回転可能に支持され前記電動モータによって回転駆動されるチルト螺子軸と、該チルト螺子軸に螺合され、当該チルト螺子軸の回転駆動に応じて軸方向に移動するナット部材と、該ナット部材に対し第4のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記メインハウジングに対し第5のピボット軸を中心に回転可能に支持される第2のリンク部材とを備え、前記第1のリンク部材が、前記固定ブラケットに対し前記第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記第2のリンク部材に対し前記第2のピボット軸を中心に回転可能に支持され、前記第2のリンク部材は、前記第5のピボット軸を中心に前記第2のピボット軸と前記第4のピボット軸が反対方向に揺動するレバー機構を構成しており、前記第1のピボット軸と前記第2のピボット軸を結ぶ線分が前記ステアリングシャフトの揺動作動の中立位置での鉛直線となるように設定されていることを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記第1のリンク部材が、前記ステアリングシャフトの左右両側に対称に配置されることを特徴とする請求項記載の車両のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、電動モータによってステアリングシャフトを所望の傾斜角度に調整する電動チルト機構を備えたステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
電動チルト機構を備えたステアリング装置に関し、例えば下記の特許文献1には、「ステアリングホイールに連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転自在に収容支持する筒状のコラムハウジングを有し、固定ブラケットにより車体に固定されるステアリングコラムと、チルトモータの作動に基づいて前記固定ブラケットに対する前記ステアリングコラムの傾動量を調整するチルト機構とを備えたステアリング装置において、前記チルト機構は、前記チルトモータにより回転駆動されるシャフトと、前記シャフトの回転に基づいて該シャフト上をスライドするスライド部材と、前記スライド部材および前記固定ブラケットに対して前記コラムハウジングを連結し、前記スライド部材のスライドに基づいて、前記ステアリングコラムを前記固定ブラケットに対して傾動作動させるリンク機構とを備え、前記リンク機構を、前記コラムハウジングの径方向外側において該コラムハウジングの左右両側に配置した」ステアリング装置が開示されている(特許文献1の段落〔0005〕に記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−327374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたステアリング装置においては、スライド部材および固定ブラケットに対してコラムハウジングを連結し、ステアリングコラムを固定ブラケットに対して傾動作動させるリンク機構が用いられているが、固定ブラケットに連結されるリンクは、ステアリングコラム(ステアリングシャフト)の重力方向とは無関係に設けられ、水平面に対するリンクの角度についても言及されていない。リンクを介して伝達されてステアリングコラムを傾動させる力は、ステアリングコラムの重力に対し相対する方向に設定することが望ましいが、上記特許文献1においては、鉛直線に対しかなりの角度を成している。このため、ステアリングコラムを傾動させる駆動力の損失が大きく、力伝達効率が低くなるので、電動モータや減速機を大型とする必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、良好な力伝達効率を有し小型に形成し得る電動チルト機構を備えた車両のステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するため、本発明は、車体に対しステアリングシャフトを揺動可能に支持するメインハウジングと、当該車体に固定する固定ブラケットとを連結し、前記ステアリングシャフトを所望の傾斜角度に調整する電動チルト機構を備えた車両のステアリング装置において、前記電動チルト機構が、電動モータと、該電動モータに連結され当該電動モータの回転駆動力をリンク揺動作動に変換する駆動力変換機構と、前記固定ブラケットに対し第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記駆動力変換機構に対し第2のピボット軸を中心に回転可能に支持され、前記駆動力変換機構を介して前記第1のピボット軸を中心に揺動するように駆動される第1のリンク部材とを備えており、前記駆動力変換機構が、前記メインハウジングに対し第3のピボット軸を中心に回転可能に支持され前記電動モータによって回転駆動されるチルト螺子軸と、該チルト螺子軸に螺合され、当該チルト螺子軸の回転駆動に応じて軸方向に移動するナット部材と、該ナット部材に対し第4のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記メインハウジングに対し第5のピボット軸を中心に回転可能に支持される第2のリンク部材とを備え、前記第1のリンク部材が、前記固定ブラケットに対し前記第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に前記第2のリンク部材に対し前記第2のピボット軸を中心に回転可能に支持され、前記第2のリンク部材は、前記第5のピボット軸を中心に前記第2のピボット軸と前記第4のピボット軸が反対方向に揺動するレバー機構を構成しており、前記第1のピボット軸と前記第2のピボット軸を結ぶ線分が前記ステアリングシャフトの揺動作動の中立位置での鉛直線となるように設定されている。
【0009】
上記のステアリング装置において、前記第1のリンク部材が、前記ステアリングシャフトの左右両側に対称に配置される構成とするとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置においては、電動チルト機構が、電動モータと、これに連結され当該電動モータの回転駆動力をリンク揺動作動に変換する駆動力変換機構と、固定ブラケットに対し第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に駆動力変換機構に対し第2のピボット軸を中心に回転可能に支持され、駆動力変換機構を介して第1のピボット軸を中心に揺動するように駆動される第1のリンク部材とを備えており、駆動力変換機構が、メインハウジングに対し第3のピボット軸を中心に回転可能に支持され電動モータによって回転駆動されるチルト螺子軸と、このチルト螺子軸に螺合され、チルト螺子軸の回転駆動に応じて軸方向に移動するナット部材と、このナット部材に対し第4のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共にメインハウジングに対し第5のピボット軸を中心に回転可能に支持される第2のリンク部材とを備え、第1のリンク部材が、固定ブラケットに対し第1のピボット軸を中心に回転可能に支持されると共に第2のリンク部材に対し第2のピボット軸を中心に回転可能に支持されており、第2のリンク部材は、第5のピボット軸を中心に第2のピボット軸と第4のピボット軸が反対方向に揺動するレバー機構を構成しているので、ステアリングシャフトを所望の傾斜角度に容易に調整することができる。特に、第1のピボット軸と第2のピボット軸を結ぶ線分がステアリングシャフトの揺動作動の中立位置での鉛直線となるように設定されているので、ステアリングシャフトの揺動作動の中立位置において、駆動力変換機構を介して第1のピボット軸に伝達される力が、第1のピボット軸にかかるステアリングシャフト等の重力と相対する方向に作用し、駆動力の損失を最小限に抑え、効率の良い力伝達を行うことができる。また、第1のリンク部材には引張力と圧縮力が付与されるのみであるので、強度を確保するために大型とする必要はなく、小型軽量の部材を用いることができる。
【0013】
上記のステアリング装置において、第1のリンク部材が、ステアリングシャフトの左右両側に対称に配置される構成とすれば、こじり力を生ずることなく、確実且つ円滑な揺動作動を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の横断面図である。
図3】本発明の一実施形態における電動チルト機構部分の力伝達状況を説明する側面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るステアリング装置によるレイクアップ状態を示す側面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るステアリング装置によるレイクダウン状態を示す側面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るステアリング装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明の一実施形態に係るステアリング装置の全体構成を示すもので、車体Bに対しステアリングシャフト1を揺動中心(C)回りに揺動可能に支持するメインハウジング2と、車体Bに固定する固定ブラケット3が電動チルト機構MTを介して連結され、その作動に応じてステアリングシャフト1が所望の傾斜角度に調整され、ステアリングホイールWの操作位置が調整されるように構成されている。本実施形態のステアリングシャフト1は、後端部にステアリングホイールWが接続される筒状のアッパシャフト1aと、このアッパシャフト1aの前端部とスプライン結合されるロアシャフト1bから成り、コラム部材4を介してメインハウジング2に支持されている。アッパシャフト1aとロアシャフト1bは軸方向に相対移動可能に連結されており、ロアシャフト1bの前端部が転舵機構(図示せず)に接続されている。この転舵機構はステアリングホイールWの操作に応じて駆動されて車輪操舵機構(図示せず)を介して操舵輪(図示せず)を転舵するように構成されている。
【0016】
本実施形態の電動チルト機構MTは、電動モータ5と、これに連結され電動モータ5の回転駆動力をリンク揺動作動に変換する駆動力変換機構TRと、この駆動力変換機構TRを介して駆動される第1のリンク部材11によって構成されている。第1のリンク部材11は、固定ブラケット3に対し第1のピボット軸P1を中心に回転可能に支持されると共に駆動力変換機構TRに対し第2のピボット軸P2を中心に回転可能に支持されており、第1のピボット軸P1を中心に揺動するように駆動される。
【0017】
そして、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分がステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での鉛直線(図1にNで示す)となるように設定されている。即ち、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置において、駆動力変換機構TRを介して第1のピボット軸P1に伝達される力が、第1のピボット軸P1にかかるステアリングシャフト1等の重力の方向と一致する鉛直線(N)上で、当該重力と相対する方向に作用するように設定されている。尚、図1において、Hは水平面を示し、θvは水平面(H)に対するステアリングシャフト1の搭載角度を示す。
【0018】
本実施形態の駆動力変換機構TRは、図1に示すように、メインハウジング2に対し第3のピボット軸P3を中心に回転可能に支持され電動モータ5によって回転駆動されるチルト螺子軸6と、このチルト螺子軸6に螺合され、その回転駆動に応じて軸方向に移動するナット部材7と、このナット部材7に対し第4のピボット軸P4を中心に回転可能に支持されると共にメインハウジング2に対し第5のピボット軸P5を中心に回転可能に支持される第2のリンク部材12によって構成されている。本実施形態の第2のリンク部材12はV字形部材で、ベルクランク機構が構成されており、ナット部材7の軸方向移動に応じて第5のピボット軸P5を中心に第2のピボット軸P2と第4のピボット軸P4が同方向に揺動する。
【0019】
而して、本実施形態においては、第1のリンク部材11は、固定ブラケット3に対し第1のピボット軸P1を中心に回転可能に支持されると共に第2のリンク部材12に対し第2のピボット軸P2を中心に回転可能に支持されており、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分がステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での鉛直線(N)となるように設定されている。尚、チルト螺子軸6には台形螺子が形成されており、ナット部材7はチルトナットあるいはチルトスライダとも呼ばれる。
【0020】
図2に示すように、第1のリンク部材11はステアリングシャフト1の左右両側に対称に配置されており、断面π字状の固定ブラケット3の一対の脚部3a、3aに、夫々第1のリンク部材11が第1のピボット軸P1を中心に回転可能に支持されている。また、第2のリンク部材12は断面H字状で、一対の腕部12a、12aには、夫々第1のリンク部材11が第2のピボット軸P2を中心に回転可能に支持されており、一対の脚部12b、12bの間にはナット部材7が介装され、第4のピボット軸P4を中心に回転可能に支持されている。尚、図示は省略するが、電動モータ5は減速機構(例えばウォーム軸とウォームホイール)を介してチルト螺子軸6に連結されており、電動モータ5の出力トルクが適切に調整されてナット部材7に伝達される。
【0021】
而して、電動モータ5が回転駆動されると、チルト螺子軸6が(軸中心に)回転駆動され、その回転駆動に応じて、ナット部材7が(チルト螺子軸6と共に)第3のピボット軸P3を中心に回転しながらチルト螺子軸6の軸方向に移動する。これにともない、第2のリンク部材12が第5のピボット軸P5を中心に揺動すると共に、第1のリンク部材11が第1のピボット軸P1を中心に揺動し、メインハウジング2(並びに、コラム部材4、ステアリングシャフト1及びステアリングホイールW)が揺動中心(C)を中心に揺動し、ステアリングホイールWが車体上下方向に移動する。
【0022】
本実施形態においては、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分がステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での鉛直線(N)となるように設定されているので、駆動力変換機構TRを介して第1のピボット軸P1に伝達される力は、第1のピボット軸P1にかかるステアリングシャフト1等の重力と相対する方向に作用する。尚、本実施形態のようにステアリングシャフト1等の全体が揺動しステアリングホイールWが上方に移動することはレイクアップ(rake up)と呼ばれ、また、ステアリングシャフト1等の全体が揺動しステアリングホイールWが下方に移動することはレイクダウン(rake down)と呼ばれ、一般的なチルトアップ及びチルトダウンと区別される。
【0023】
図3は、上記の力関係の説明を容易にするため、第2のリンク部材12に変更を加え、第5のピボット軸P5と第2のピボット軸P2を結ぶ線分を図1より長く設定したものである。図3において、ナット部材7に対する軸方向の推力をF0とし、第4のピボット軸P4において、第4のピボット軸P4と第5のピボット軸P5を結ぶ線分の垂線が第3のピボット軸P3と第4のピボット軸P4を結ぶ線分に対して成す角度をθaとすると、第4のピボット軸P4における分力(第4のピボット軸P4と第5のピボット軸P5を結ぶ線分に対し垂直な成分)はF0・cosθaとなる。更に、第4のピボット軸P4と第5のピボット軸P5を結ぶ線分の長さをLaとし、第5のピボット軸P5と第2のピボット軸P2を結ぶ線分の長さをLbとし、第2のピボット軸P2において、第2のピボット軸P2と第5のピボット軸P5を結ぶ線分の垂線が第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分に対して成す角度をθbとすると、第2のピボット軸P2における分力(第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分上の成分)はF0・cosθa・(La/Lb)・cosθbとなる。
【0024】
そして、第1のピボット軸P1において、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分が鉛直線(N)に対して成す角度をθcとすると、第1のピボット軸P1に付与される鉛直方向の分力は、F0・cosθa・(La/Lb)・cosθb・cosθcとなり、これはステアリングシャフト1の揺動作動時の昇降力F1となる。従って、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での角度θcが0°となるように設定すれば、昇降力F1が最大となる。尚、La、Lb、θa、θbの値は搭載車両に応じて適切な値に設定される。例えば、本実施形態では図3とは異なり、図1に示すようにLa<Lbに設定されている。
【0025】
上記のように、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置で第1のピボット軸P1に付与される力がチルト作動に直接供される昇降力F1となるが、第1のピボット軸P1において第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分は鉛直線(N)に対し角度θcを成すので、昇降力F1はF0・cosθa・(La/Lb)・cosθbの余弦成分(cosθc)となる。従って、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での角度θcを0°に設定すれば、即ち、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分が鉛直線(N)となるように設定すれば、第1のピボット軸P1に付与される力をそのまま昇降力F1として活用することができ、また、第1のリンク部材11には引張力と圧縮力が付与されるのみとなる。本実施形態においては、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での角度θcが0°に設定されているので、最上段位置及び最下段位置での第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分は鉛直線(N)に対し若干の角度を成すことになるが、これらは無視し得る角度であり、駆動力の損失を最小限に抑えることができる。
【0026】
次に、上記の構成になる電動チルト機構MTによる作動を説明する。先ず、電動モータ5が回転駆動(例えば正転)されると、この回転運動に応じてナット部材7がチルト螺子軸6に沿って、(チルト螺子軸6と共に)第3のピボット軸P3を中心に回転しながら、第3のピボット軸P3に近接する方向に軸方向移動する。これにともない、第2のリンク部材12が第5のピボット軸P5を中心に揺動すると共に、第1のリンク部材11が第1のピボット軸P1を中心に揺動する。この結果、メインハウジング2(並びに、コラム部材4、ステアリングシャフト1及びステアリングホイールW)は揺動中心(C)を中心に反時計方向に揺動(レイクアップ)し、ステアリングホイール1の操作位置は、図4に示すように、中立位置(二点鎖線で示す)から揺動中心(C)を中心に角度α上方に傾斜し、水平面(H)に対し角度θruを成す最上段位置となる。
【0027】
これに対し、電動モータ5が上記と逆方向に回転駆動されると、この回転運動に応じてナット部材7が、(チルト螺子軸6と共に)第3のピボット軸P3を中心に回転しながら、第3のピボット軸P3から離隔する方向に軸方向移動する。これにともない、第2のリンク部材12が第5のピボット軸P5を中心に揺動すると共に、第1のリンク部材11が第1のピボット軸P1を中心に揺動する。この結果、メインハウジング2(並びに、コラム部材4、ステアリングシャフト1及びステアリングホイールW)は揺動中心(C)を中心に時計方向に揺動(レイクダウン)し、ステアリングホイール1の操作位置は、図5に示すように、中立位置(二点鎖線で示す)から揺動中心(C)を中心に角度β下方に傾斜し、水平面(H)に対し角度θrdを成す最下段位置となる。
【0028】
而して、本実施形態のステアリング装置においては、ステアリングシャフト1を所望の傾斜角度に調整することができる。特に、第1のピボット軸P1と第2のピボット軸P2を結ぶ線分がステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置での鉛直線(N)となるように設定されており、ステアリングシャフト1の揺動作動の中立位置において、駆動力変換機構TRを介して第1のピボット軸P1に伝達される力が、第1のピボット軸P1にかかるステアリングシャフト1等の重力と相対する方向に作用するので、駆動力の損失を最小限に抑えることができ、効率の良い力伝達を行うことができる。また、第1のリンク部材11には引張力と圧縮力が付与されるのみであるので、強度を確保するために大型とする必要はなく、小型軽量の部材を用いることができる。更に、第1のリンク部材11は、ステアリングシャフト1の左右両側に対称に配置されているので、こじり力を生ずることなく、確実且つ円滑な揺動作動を確保することができる。
【0029】
図6は、本発明の他の実施形態に係るステアリング装置を示すもので、本実施形態においては、駆動力変換機構TRに供する第2のリンク部材12xは棒状部材で、レバー機構が構成されており、ナット部材7の軸方向移動に応じて第5のピボット軸P5を中心に第2のピボット軸P2と第4のピボット軸P4が反対方向に揺動するように構成されている。その他の構成は前述の実施形態と同様であるので、実質的に同一の部材については同一の符合を付して説明は省略する。
【0030】
尚、駆動力変換機構TRを上記の図1及び図6に示したリンク機構とは異なる構成としてもよい。また、上記の図1及び図6に示したステアリング装置に対し、更にテレスコピック機構を具備した構成としてもよい。例えば、上記の電動チルト機構MTに電動テレスコピック機構(図示せず)を併設し、これにより、メインハウジング2に対し、コラム部材4、ステアリングシャフト1及びステアリングホイールWが一体となって軸方向に移動可能とし、ステアリングホイールWを所望の車体前後方向位置に調整することができる。
【符号の説明】
【0031】
B 車体
MT 電動チルト機構
TR 駆動力変換機構
P1 第1のピボット軸
P2 第2のピボット軸
P3 第3のピボット軸
P4 第4のピボット軸
P5 第5のピボット軸
1 ステアリングシャフト
2 メインハウジング
3 固定ブラケット
4 コラム部材
5 電動モータ
6 チルト螺子軸
7 ナット部材
11 第1のリンク部材
12 第2のリンク部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6