(54)【発明の名称】有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー、その合成方法、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜、有機/マルチ金属ハイブリットポリマー、その合成方法、及び有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。 平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneからなる分岐部を有することを特徴とする請求項11に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
前記分岐部の含有量が、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部及び分岐部の合計モル数に対し、10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする請求項11又は12に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
前記直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーと、分岐子を中心に3方向以上に分岐され、分岐した分子の末端に配位子を有する分岐化合物と、遷移金属化合物とを反応させて、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成することを特徴とする請求項14に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
前記分岐化合物が1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneであることを特徴とする請求項15に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
前記分岐化合物の混合量が直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部の合計100mol部に対して10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする請求項15又は16に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、エレクトロクロミック特性(特に近赤外光のエレクトロクロミック特性)を有し、長鎖で安定な有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー、その製造方法及び有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜を提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明は、1500nm以上の赤外領域においてエレクトロクロミズムを示し、近赤外から赤外領域内の少なくとも2波長でスイッチして光遮断できる機能を有し、繰り返しのエレクトロクロミック変化に対する膜耐久性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマー、その製造方法及び有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの側面において、上記事情に鑑みて、試行錯誤することにより、本発明者らは、新規な有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー及びその膜を合成した。特に、異種の金属を導電性ポリマー内で近接配置させた材料は、電圧印加により、異種の金属間での原子価電荷移動(Inter valence charge transfer:IVCT)される構造へ変換可能で、光吸収スペクトルを可視光領域から近赤外光領域へ変換自在である。また、前記有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーが、近赤外光遮蔽エレクトロクロミック・ウインドウや近赤外光シャッターとして利用可能であることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
上記事情に鑑みて、試行錯誤することにより、本発明者らは、遷移金属を2個有する有機金属配位子を合成し、これを別の金属と錯形成させて、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成を行った。有機/マルチ金属ハイブリットポリマーとは、有機化合物と、2種以上の金属もしくは2種以上の異なる配位状態を有する金属が連結された超分子ポリマーである。また、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの1つの側面は、分子内に少なくとも2つの配位子と、少なくとも1つの金属を含む有機化合物が、前記有機化合物外の遷移金属と錯体を形成することにより、複数連結された超分子ポリマーである。また、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの別の側面では、前記有機化合物中の金属が少なくとも2つ含まれる。有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーとは、前記金属と、有機化合物外の遷移金属とが別種である超分子ポリマーである。
【0013】
また、本発明のさらに別の側面において、本発明者らは、ガラス基板及びITO基板上に有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを成膜した。単位構造中にZnと、2個のRuを含む有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、印加電圧を変えることで、近赤外から赤外領域において、異種の金属(Zn−Ru)間のIVCT吸収だけでなく、同種の金属(Ru−Ru)間のIVCT吸収を示した。即ち、近赤外から赤外領域において吸収を有しない初期状態から、酸化電圧を印加することで、同種の金属(Ru−Ru)間のIVCT吸収が発現した。更に、より高い酸化電圧を印加すると、同種の金属(Ru−Ru)間のIVCT吸収が消失し、異種の金属(Zn−Ru)間のIVCT吸収が出現した。この結果、印加電圧を変えることで、近赤外から赤外領域での吸収のない状態、及び2つの異なる波長の吸収の発現を、電気化学的に可逆的にスイッチングできることを見出した。
【0014】
更に、本発明のさらに別の側面において、有機金属2個を有する有機金属配位子と別の金属を錯形成させる際に、3方向で連結可能な分岐型有機配位子を用いてポリマーに分岐部を導入することにより、3次元ネットワーク構造の分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成した。また、これらをガラス基板及びITO基板上に成膜した。
【0015】
これらの有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、少なくとも50回の電圧印加のオンオフの繰り返しに対して、安定して可逆的なエレクトロクロミック変化を示した。また、3方向で連結可能な分岐型有機配位子の混合割合を増やすと、分岐部を有しない直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜のIVCT吸収に比べ、吸収強度が増加し、エレクトロクロミズムにおける吸光度差(コントラスト)を高めることができた。
【0016】
以上のように、本発明者らは、新規な有機金属配位子を合成し、それを用いて、新規な有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成した。有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜が赤外領域のエレクトロクロミック特性を有すること、近赤外から赤外領域内の2波長でスイッチして光遮断できる機能を有すること、分岐型有機配位子を用いてポリマーに分岐部を導入すれば、電圧印加のオンオフを繰り返しても、安定して可逆的なエレクトロクロミック変化を示すことを見出して、本発明を完成した。
本発明は、例えば、以下の構成を有する。
【0017】
「1」複数の有機金属錯体と、複数の遷移金属からなる有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーであって、
前記複数の有機金属錯体が前記複数の遷移金属の各遷移金属を挟んで長鎖状に連結されており、
前記有機金属錯体は、ターピリジル基を有する2つの配位子が、前記ターピリジル基の1’位の窒素原子を前記有機金属錯体の分子の末端側に向けるようにして、Ru(dppe)
2と2つのエチニレン基とを有する1つの結合子で連結されており、
前記遷移金属1つに対して、前記複数の有機金属錯体の少なくとも2つの異なる前記有機金属錯体のターピリジル基が配位結合することにより、前記複数の有機金属錯体が前記複数の遷移金属を交互に挟んで連結されていることを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
[2]前記遷移金属がRu、Fe又はZnのいずれかであることを特徴とする[1]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
[3]分子量M
Wが10.5×10
4以上29.2×10
4以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
[4]有機溶媒中、エチニル基とターピリジル基とを持つターピリジン化合物と、Ru(dppe)
2を含む化合物とを反応させて、Ru(dppe)
2を有し、かつ末端にターピリジル基を持つ有機金属錯体を合成する工程と、
有機溶媒中、前記有機金属錯体と遷移金属化合物を反応させて、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有することを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[5]前記有機金属錯体に対して1.0モル当量以上の遷移金属化合物を反応させることを特徴とする[4]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
[6]前記遷移金属化合物がRuCl
2、Fe(BF
4)
2、又はZn(NTf
2)
2のいずれかであることを特徴とする[4]又は[5]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
[7]前記有機金属錯体と前記遷移金属化合物との反応時間が12時間以上であることを特徴とする[4]〜[6]のいずれか1項に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
[8][1]〜[3]のいずれか1項に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーからなることを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜。
[9]膜厚が100nm以上1mm以下であることを特徴とする[8]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜。
[10]前記有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーに含まれる遷移金属がFe又はZnのいずれかの遷移金属であることを特徴とする[8]又は[9]に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜。
[11]複数の有機金属配位子と、複数の遷移金属とを含む有機/マルチ金属ハイブリットポリマーであって、
前記複数の有機金属配位子が前記複数の遷移金属の各遷移金属を挟んで直鎖状に連結された直鎖部を有し、
前記有機金属配位子は1つの結合子に対し2つの配位子が連結されてなり、
前記結合子はベンゼン環を中心にしてベンゼン環に結合した2つのエチニレン基を介して2つのRu(dppe)
2が連結され、前記2つのRu(dppe)
2に他の2つのエチニレン基を介して2つのフェニル基が連結されてなり、
前記配位子はターピリジル基であり、前記結合子の前記2つのフェニル基にそれぞれ連結されてなり、
前記遷移金属1つに対して、前記複数の有機金属配位子の少なくとも2つの異なる前記有機金属配位子の前記ターピリジル基が配位結合することにより、前記複数の有機金属配位子が、前記複数の遷移金属を交互に挟んで連結されていることを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[12]前記遷移金属がFe、Zn、Co又はRuであることを特徴とする[11]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[13]直鎖状であることを特徴とする[11]又は[12]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[14]分岐状であることを特徴とする[11]又は[12]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[15]1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneからなる分岐部を有することを特徴とする[14]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[16]前記分岐部の含有量が、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部及び分岐部の合計モル数に対し、10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする[14]又は[15]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
[17]有機溶媒中、1モル当量のジエチニルベンゼンと2モル当量のRu(dppe)
2Cl(OTf)を反応させて、2つのRu(dppe)
2を含む二核有機金属部位を合成する工程と、
有機溶媒中、エチニル基及びターピリジル基を持つ2モル当量のターピリジン化合物と1モル当量の二核有機金属部位を反応させて、末端にターピリジル基を有し、2つのRu(dppe)
2を有する有機金属配位子を合成する工程と、
有機溶媒中、前記有機金属配位子と遷移金属化合物を反応させて、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有することを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[18]前記直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーと、分岐子を中心に3方向以上に分岐され、分岐した分子の末端に配位子を有する分岐化合物と、遷移金属化合物とを反応させて、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成することを特徴とする[17]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[19]前記分岐化合物が1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneであることを特徴とする[18]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[20]前記分岐化合物の混合量が直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部の合計100mol部に対して10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする[18]又は[19]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[21]前記有機金属配位子に対して1.0モル当量以上の遷移金属化合物を反応させることを特徴とする[17]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[22]前記遷移金属化合物がFe(BF
4)
2又はZn(NTf
2)
2であることを特徴とする[17]〜[21]のいずれか1項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[23]前記有機金属配位子と前記遷移金属化合物との反応時間が6時間以上であることを特徴とする[17]〜[22]のいずれか1項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
[24][11]〜[16]のいずれか1項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーからなることを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜。
[25]膜厚が100nm以上1mm以下であることを特徴とする[24]に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜。
【0018】
また、本発明は以下の側面を有する。
(1) 複数の有機金属錯体が遷移金属を挟んで長鎖状に連結されたポリマーであって、前記有機金属錯体は、ターピリジン基を有する2つの配位子が、前記ターピリジン基を外側に向けるようにして、Ru−[PPh
2]
4とアセチレンを有する結合子で連結されており、異なる有機金属錯体のターピリジン基が一の遷移金属と配位結合して連結されていることを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
(2) 前記遷移金属がRu、Fe又はZnのいずれかであることを特徴とする(1)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
(3) 分子量M
Wが10.5×10
4以上29.2×10
4以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー。
【0019】
(4) 有機溶媒中、エチニル基を持つターピリジンとRu錯体を混合・撹拌して、末端ターピリジン基を持つ有機金属錯体を合成する工程と、有機溶媒中、前記有機金属錯体と遷移金属化合物を混合・攪拌して、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有することを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
(5) 前記有機金属錯体に対して1.0当量以上の遷移金属化合物を混合・攪拌することを特徴とする(4)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
(6) 前記遷移金属化合物がRuCl
2、Fe(BF
4)
2、Zn(NTf
2)
2のいずれかであることを特徴とする(4)又は(5)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
(7) 有機金属錯体と遷移金属化合物の混合・攪拌時間が12時間以上であることを特徴とする(4)〜(6)のいずれか一項に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法。
【0020】
(8) (1)〜(3)のいずれか一項に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーからなることを特徴とする有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー膜。
(9) 膜厚が100nm以上1mm以下であることを特徴とする(8)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー膜。
(10) 前記有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーに含まれる遷移金属がFe又はZnであることを特徴とする(8)又は(9)に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー膜。
【0021】
(11) 有機金属配位子が遷移金属を挟んで直鎖状に連結された直鎖部を有し、前記有機金属配位子は、結合子と配位子が連結されてなり、前記結合子は、ベンゼン環を中心にして、アセチレンを介して2つのRu[1,2−bis(diphenylphosphino)ethane]
2(以降、Ru(dppe)
2と略す。)が連結され、各Ru(dppe)
2にそれぞれアセチレンでフェニル基が連結されてなり、前記配位子はターピリジン基であり、前記結合子のフェニル基に連結されてなり、前記ターピリジン基が遷移金属と配位結合して連結されていることを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
【0022】
(12) 前記遷移金属がFe、Zn、Co又はRuであることを特徴とする(11)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
(13) 直鎖状であることを特徴とする(11)又は(12)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
(14) 分岐状であることを特徴とする(11)又は(12)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
【0023】
(15) 1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneからなる分岐部を有することを特徴とする(14)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
(16) 前記分岐部の含有量が10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする(14)又は(15)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー。
【0024】
(17) 有機溶媒中、1当量のジエチニルベンゼンと2当量のRu(dppe)
2Cl(OTf)を混合・攪拌して、2つのRu(dppe)
2を含む二核有機金属部位を合成する工程と、有機溶媒中、2当量のエチニル基を持つターピリジンと1当量の二核有機金属部位を混合・撹拌して、末端にターピリジン基を有し、2つのRu(dppe)
2を有する有機金属配位子を合成する工程と、有機溶媒中、前記有機金属配位子と遷移金属化合物を混合・攪拌して、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有することを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
【0025】
(18) 前記直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成後、3方向以上に分岐され、分岐末端に配位子を有する分岐化合物と、遷移金属化合物とともに混合・攪拌して、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成することを特徴とする(17)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
(19) 前記分岐化合物が1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneであることを特徴とする(18)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
(20) 前記分岐化合物の混合量が直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーに対して10mol部以上30mol部以下であることを特徴とする(18)又は(19)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
【0026】
(21) 前記有機金属配位子に対して1.0当量以上の遷移金属化合物を混合・攪拌することを特徴とする(17)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
(22) 前記遷移金属化合物がFe(BF
4)
2又はZn(NTf
2)
2であることを特徴とする(17)〜(21)のいずれか一項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
(23) 有機金属配位子と遷移金属化合物の混合・攪拌時間が6時間以上であることを特徴とする(17)〜(22)のいずれか一項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法。
【0027】
(24) (11)〜(16)のいずれか一項に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーからなることを特徴とする有機/マルチ金属ハイブリットポリマー膜。
【0028】
(25) 膜厚が100nm以上1mm以下であることを特徴とする(24)に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー膜。
【発明の効果】
【0029】
本発明の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーは、複数の有機金属錯体と、複数の遷移金属とからなる。本発明の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーでは、複数の有機金属錯体が複数の遷移金属の各遷移金属を挟んで長鎖状に連結されている。前記有機金属錯体は、ターピリジル基を有する2つの配位子が、前記ターピリジル基の1’位の窒素原子を有機金属錯体の分子の末端側に向けるようにして、とRu(dppe)
2と2つのエチニレン基とを有する1つの結合子で連結されてなる。遷移金属1つに対して、複数の有機金属錯体の少なくとも2つの異なる有機金属錯体のターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属錯体が複数の遷移金属をそれぞれ交互に挟んで連結されている。そのため、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子とすることができる。
【0030】
本発明の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、有機溶媒中、エチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物とRu(dppe)
2を含む化合物とを反応させて、末端にターピリジル基を持つ有機金属錯体を合成する工程と、有機溶媒中、前記有機金属錯体と遷移金属化合物とを反応させて、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有する構成である。そのため、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子と収率高く合成することができる。
【0031】
本発明の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、先に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーからなる構成である。そのため、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、光デバイスに応用できる。特に、前記有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーに含まれる遷移金属がFe又はZnである構成とすれば、近赤外光のエレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、光デバイスに応用できる。
【0032】
本発明の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーは、複数の有機金属配位子と、複数の遷移金属とを含む。本発明の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーは、複数の有機金属配位子が複数の遷移金属の各遷移金属を挟んで直鎖状に連結された直鎖部を有し、前記有機金属配位子は、1つの結合子と2つの配位子が連結されてなる。前記結合子は、ベンゼン環を中心にして、ベンゼン環に結合した2つのエチニレン基を介して2つのRu[1,2−bis(diphenylphosphino)ethane]
2(本明細書では、Ru(dppe)
2と略す場合がある。)が連結され、前記2つのRu(dppe)
2に他のエチニレン基を介して2つのフェニル基が連結されてなる。前記配位子はターピリジル基であり、前記結合子のフェニル基にそれぞれ連結されている。前記遷移金属1つに対して、複数の有機金属配位子の少なくとも2つの異なる有機金属配位子の前記ターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属配位子が複数の遷移金属を交互に挟んで連結されている構成である。そのため、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0033】
本発明の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法は、有機溶媒中、1当量のジエチニルベンゼンと2当量のRu(dppe)
2Cl(OTf)を反応させて、2つのRu(dppe)
2を含む二核有機金属部位を合成する工程と、有機溶媒中、エチニル基、及びターピリジル基を持つ2当量のターピリジン化合物と1当量の二核有機金属部位を反応させて、末端にターピリジル基を有し、2つのRu(dppe)
2を有する有機金属配位子を合成する工程と、有機溶媒中、前記有機金属配位子と遷移金属化合物を反応させて、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有する構成である。そのため、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0034】
本発明の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、先に記載の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーからなる構成なので、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い膜を形成できる。これにより、近赤外から赤外領域内の2波長でスイッチして光遮断可能な光デバイスに応用できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー)
まず、本発明の第一の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーについて説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの構造式の一例を示す図である。
図1中、nは2以上の整数である。
図1に示すように、本発明の第一の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20は、複数の有機金属錯体10が遷移金属Mを挟んで長鎖状に連結された超分子ポリマーである。遷移金属M1つに対して複数の有機金属錯体10の少なくとも2つの異なる有機金属錯体中のターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属錯体が遷移金属Mを介して連結されている。
図1に示すように、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20は、有機金属錯体10と、遷移金属Mとを含む単位構造(かっこで囲まれた構造)を有する。
【0037】
遷移金属Mは、Ru、Fe又はZnのいずれかである。これにより、有機金属錯体10を効率よく連結して、長鎖の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20を形成できる。
有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20の分子量M
Wとしては、10.5×10
4以上29.2×10
4以下が好ましい。これにより、安定な膜を形成できる。ここで超分子高分子の分子量とは、ポリマー鎖1本あたりの平均分子量を意味する。分子量はSEC−RALLS−Viscometry法で測定することができる。
【0038】
図2は、有機金属錯体の一例を示す図である。
図2に示すように、有機金属錯体10は、ターピリジル基を有する2つの配位子11A、11Bが、前記ターピリジル基の1’位の窒素原子を有機金属錯体の分子の末端側に向けるようにして、Ru(dppe)
2とエチニレン基とを有する1つの結合子13で連結されている。
図2中、配位子は、4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl基である。ここでは、配位子11A、11B中のフェニル基と、結合子13中のエチニレン基が連結されている。
【0039】
図3は、本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの酸化還元反応の一例を示す図である。
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20を酸化することにより、Ru(II)がRu(III)に酸化され、電解質中のアニオンが近接した酸化型有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー20
OXとなる。
【0040】
遷移金属Mとして、Ruと異種の遷移金属であるFe又はZnを選択することにより、Ru(III)とFe(II)又はRu(III)とZn(II)との間で、原子価間電荷移動(Inter valence charge transfer: IVCT)により、近赤外光を吸収させることができる。
【0041】
(有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法)
次に、本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法の一例について説明する。
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、有機金属錯体合成工程S1と、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー合成工程S2と、を有する。
【0042】
(有機金属錯体合成工程S1)
この工程では、有機溶媒中、エチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物とRu(dppe)
2を含む化合物とを反応させて、Ru(dppe)
2と、末端にターピリジル基とを持つ有機金属錯体を合成する。反応させる方法としては、撹拌・混合が挙げられる。
Ru(dppe)
2を含む化合物としては、Ru(dppe)
2Cl(OTf)が挙げられる。
有機溶媒としては、塩化メチレンが挙げられる。
添加剤としては、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム及びトリエチルアミンが挙げられる。
反応温度としては、10〜40℃が好ましい。
反応時間としては2〜36時間が好ましい。
反応終了後の後処理としては、カラムクロマトグラフィーを行うことが好ましい。
ここでターピリジン化合物の例としては、4´−(4−ethynylphenyl)−2,2´:6´,2´´−terpyridineが挙げられる。
【0043】
(有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー合成工程S2)
この工程では、有機溶媒中、有機金属錯体と遷移金属化合物とを反応させて、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを合成する。
有機溶媒としては、エチレングリコール、エタノール、メタノール、クロロホルム、NMP、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
反応温度としては、60〜140℃が好ましい。
反応終了後の後処理としては、ろ過と洗浄を行うことが好ましい。
図4は、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー合成工程の化学反応式である。配位子中のターピリジル基が遷移金属Mと錯体を形成することにより、複数の有機金属錯体を遷移金属Mを介して直鎖状に連結させる。
【0044】
前記有機金属錯体に対して1.0モル当量以上1.1モル当量以下の遷移金属化合物を反応させることが好ましい。これにより、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成できる。
【0045】
前記遷移金属化合物がRuCl
2、Fe(BF
4)
2、又はZn(NTf
2)
2のいずれかであることが好ましい。これにより、対応する遷移金属を有するポリマーを合成できる。
Zn(NTf
2)
2は、亜鉛ジ[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]、(Zinc di[(trifluoromethylsulfonyl)imide)])である。
【0046】
有機金属錯体と遷移金属化合物の反応時間は12時間以上36時間以下が好ましい。これにより、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの収率を90%以上に高めて合成できる。
【0047】
(有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜)
次に、本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜について説明する。
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーからなる。これにより、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、光デバイスに応用できる。
膜厚は100nm以上1mm以下であることが好ましい。より好ましくは100nm以上400nm以下である。膜厚は100nm以上とすることにより、膜を安定して保持できる。また、膜厚1mm以下とすることにより、電極に接続して用いたときに、電圧操作に対するエレクトロクロミック反応の応答速度を速めることができる。なお、膜厚は断面を走査型電子顕微鏡で観察することで測定することができる。
有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーに含まれる遷移金属がFe又はZnであることが好ましい。これにより、近赤外光のエレクトロクロミック反応をさせることができる。
有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜には、任意成分として対アニオンが含まれていてもよい。対アニオンとしては、塩化物イオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、過塩素酸イオン、酢酸イオンが挙げられる。
【0048】
有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを有機溶媒に溶解させ、透明電極基板上に塗布し、乾燥させて製造することができる。
有機溶媒としては、メタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0049】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーは、複数の有機金属錯体が遷移金属を挟んで長鎖状に連結されたポリマーである。前記有機金属錯体は、ターピリジル基を有する2つの配位子が、前記ターピリジル基の1’位の窒素原子を有機金属錯体の分子の末端側に向けるようにして、Ru(dppe)
2と2つのエチニレン基とを有する1つの結合子で連結されてなる。また、記遷移金属1つに対して、複数の有機金属錯体の少なくとも2つの異なる前記有機金属錯体のターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属錯体が複数の遷移金属を交互に挟んで連結されている。そのため、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子とすることができる。
【0050】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーは、前記遷移金属がRu、Fe又はZnのいずれかである構成であってもよい。これにより、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子とすることができる。
【0051】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーは、分子量M
Wが10.5×10
4以上29.2×10
4以下である構成であってもよい。これにより、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な安定な膜を形成することができる。
【0052】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、有機溶媒中、エチニル基とターピリジル基とを持つターピリジン化合物とRu(dppe)
2を含む化合物とを反応させて、末端にターピリジル基を持つ有機金属錯体を合成する工程と、有機溶媒中、前記有機金属錯体と遷移金属化合物とを反応させて、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーを合成する工程と、を有する構成である。そのため、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子と収率高く合成することができる。
【0053】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、前記有機金属錯体に対して1.0当量以上の遷移金属化合物を反応させる構成であってもよい。これにより、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子と収率高く合成することができる。
【0054】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、前記遷移金属化合物がRuCl
2、Fe(BF
4)
2、Zn(NTf
2)
2のいずれかである構成あってもよい。これにより、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子を収率高く合成することができる。
【0055】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、有機金属錯体と遷移金属化合物の反応時間が12時間以上である構成であってもよい。これにより、有機金属錯体と遷移金属を交互に連結し、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な、長鎖の超分子高分子を収率高く合成することができる。
【0056】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、先に記載の有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーからなる構成である。そのため、エレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、光デバイスに応用できる。
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、膜厚が100nm以上1mm以下である構成であってもよい。これにより、膜を安定保持でき、エレクトロクロミック反応の応答速度を速めることができる。
【0057】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、前記有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーに含まれる遷移金属がFe又はZnの遷移金属である構成であってもよい。これにより、近赤外光のエレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、光デバイスに応用できる。
【0058】
(直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜)
まず、本発明の第二の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜について説明する。
図18A及び18Bは、本発明の第二の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜の一例を示す図である。
本発明の第二の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜1’は、ガラス基板50’の透明導電膜51’上に平面視略矩形状に形成されている。平面視形状はこれに限られるものではなく、また、透明導電膜51’上に形成される態様に限られるものでもない。透明導電膜51’としては、ITO膜等を挙げることができる。
【0059】
直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜の膜厚は100nm以上1mm以下であることが好ましい。より好ましくは100nm以上400nm以下である。膜厚は100nm以上とすることにより、膜を安定して保持できる。また、膜厚1mm以下とすることにより、電極に接続して用いたときに、電圧操作に対するエレクトロクロミック反応の応答速度を速めることができる。
【0060】
図19は、
図18AのB部拡大図の一例を示す図である。
図19に示すように、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜1’は、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’が網の目状に混合されて形成されている。
【0061】
直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを有機溶媒に溶解させ、透明電極基板上に塗布し、乾燥させて製造することができる。
有機溶媒としては、メタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0062】
(直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー)
次に、本発明の第二の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーについて説明する。
図20は、
図19のC部を構成する直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの構造式の一例を示す図である。
図20に示すように、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、直鎖状の超分子ポリマーである。具体的には、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、有機金属配位子21’が、遷移金属M’を挟んで直鎖状に連結された直鎖部31’のみからなり、概略構成されている。
【0063】
有機金属配位子21’は、結合子13’と、配位子11’A、11’Bとが連結されてなる。
結合子13’は、ベンゼン環を中心にして、ベンゼン環に結合した2つのエチニレン基を介して2つのRu(dppe)
2が連結され、各Ru(dppe)
2にそれぞれ他のエチニレン基が連結され、このエチニレン基にフェニル基が連結されてなる。
配位子11’A、11’Bはターピリジル基であり、ターピリジル基の4’位が結合子13’の両端末端のフェニル基のパラ位に連結されてなる。
前記ターピリジル基が遷移金属M’と配位結合して、複数の有機金属配位子21’が連結されている。
【0064】
図21は、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’の一例を示す化学式である。
図21に示すように、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、複数の有機金属poly(Ru
2Zn)
Xで表記される。Xは有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部及び分岐部の合計を100モル%としたときの、直鎖部の割合(モル%)を意味する。
図21においては、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーが直鎖状であるため、X=100である。すなわち、poly(Ru
2Zn)
100である。
図21中、nは2以上の自然数である。
図21に示すように、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、直鎖部に由来する単位構造、すなわち、有機金属配位子21’と、遷移金属M’とを含む単位構造(かっこで囲まれた構造)を有する。
【0065】
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’を酸化することにより、Ru(II)がRu(III)に酸化され、電解質中のアニオンが近接した酸化型有機/マルチ金属ハイブリットポリマーとなる。
【0066】
遷移金属M’としては、Fe、Zn、Co、またはRuを挙げることができる。これにより、Ru(III)とFe(II)又はRu(III)とZn(II)との間で、原子価間電荷移動(Inter valence charge transfer:IVCT)により、近赤外光を吸収させることができ、近赤外光のエレクトロクロミック反応をさせることができる。
【0067】
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、異種の遷移金属ZnとRuを近接配置するとともに、同種の遷移金属RuとRuを近接配置する構成なので、例えば、異種の金属Zn−Ru間のIVCTの吸収だけでなく、同種の金属Ru−Ru間のIVCTの吸収も有する。これにより、近赤外から赤外領域の2波長でエレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、電圧印加のオンオフにより、一方の吸収ピーク波長における吸光度を低下させるとともに他方の吸収ピーク波長における吸光度を増加させること、及びその逆を行うことができ、近赤外から赤外領域の2波長でスイッチして光遮断できる。
【0068】
(直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法)
次に、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法について説明する。
【0069】
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの製造方法は二核有機金属部位合成工程S1と、有機金属配位子合成工程S2と、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S3と、を有する。
【0070】
(二核有機金属部位合成工程S1)
図22は、二核有機金属部位合成の化学反応式である。
まず、ジエチニルベンゼンとRu(dppe)
2Cl(OTf)とを、有機溶媒中、反応させる。
有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンが挙げられる。なかでも塩化メチレン、クロロホルムが好ましい。
反応温度としては、室温〜80℃が好ましく、より好ましくは室温〜40℃である。
反応時間としては、24〜72時間が好ましく、より好ましくは24〜48時間である。
次に、沈殿物をろ過により回収し、有機溶媒(例えば、冷やした塩化メチレン)で洗浄後、乾燥させて、Ru(II)(dppe)
2=C=CH−C
6H
4−HC=C=Ru(II)(dppe)
2Cl
2の塩である[ClRu(II)(dppe)
2=C=CH−Ph−CH=C=(dppe)
2Ru(II)Cl](OTf)
2を得る。これが、二核有機金属部位である。
【0071】
(有機金属配位子合成工程S2)
図23は、有機金属配位子合成の化学反応式である。
有機溶媒中、エチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物と、[ClRu(II)(dppe)
2=C=CH−Ph−CH=C=(dppe)
2Ru(II)Cl](OTf)
2とを、塩基と無機塩の存在下、窒素雰囲気下で反応させる。
ここでターピリジン化合物の例としては、4´−(4−ethynylphenyl)−2,2´:6´,2´´−terpyridineが挙げられる。
有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンが挙げられる。なかでも塩化メチレン、クロロホルムが好ましい。
塩基としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルアニリンが挙げられる。なかでも、トリエチルアミンが好ましい。
無機塩としては、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウムが挙げられる。なかでもヘキサフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。
反応時間は、1〜14日であることが好ましく、より好ましくは5〜9日である。
反応温度は、10〜60℃が好ましく、より好ましくは室温〜40℃である。
次に、反応溶液に貧溶媒を加え、沈殿を析出させた後、ろ過を行い、固体を貧溶媒で洗浄することで、末端にターピリジル基を有し、2つのRu(dppe)
2を有する有機金属配位子(L−Ru(II)
2−L)を合成する。
貧溶媒としては、ジエチルエーテル、アセトンが挙げられる。なかでもジエチルエーテルが好ましい。
【0072】
(直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S3)
図24は、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成の化学反応式である。
この工程では、有機溶媒中、有機金属配位子(L−Ru(II)
2−L)と遷移金属化合物(例えば、Zn(NTf
2)
2)を反応させて、直鎖部のみからなる直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
X、X=100)を合成する。
【0073】
前記有機金属配位子に対して1.0モル当量から2.0モル当量の遷移金属化合物を反応させることが好ましい。これにより、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成できる。
図24中、重合度(nの数)は、有機金属配位子に対して加える遷移金属化合物のモル当量数を変えることにより調節することができる。すなわち、前記有機金属配位子に対して1.0モル当量の遷移金属化合物を反応させた場合には、重合度(n)が大きくなり、反応させる遷移金属化合物のモル当量が大きくなるにつれ、重合度(n)は小さくなる。
【0074】
前記遷移金属化合物として、Zn(NTf
2)
2の他Zn(BF
4)
2、Zn(OAc)
2、ZnCl
2挙げられる。なかでもZn(NTf
2)
2が好ましい。
Zn(NTf
2)
2は、亜鉛ジ[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]、(Zinc di[(trifluoromethylsulfonyl)imide)])である。
また、前記遷移金属化合物として、Fe(BF
4)
2、Fe(OAc)
2、FeCl
2も用いることができる。これにより、Feを有するポリマーを合成できる。
【0075】
有機金属配位子と遷移金属化合物の反応時間は3〜24時間が好ましく、6〜12時間がより好ましい。これにより、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの収率を80%以上に高めて合成できる。
有機溶媒としては、NMP、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロベンゼン、プロピレンカーボネートが好ましく、なかでもNMP、ジメチルホルムアミドがより好ましい。
反応温度は80〜160℃が好ましく、100〜120℃がより好ましい。
反応終了後の後処理としては、貧溶媒中に沈殿させ、ろ過した後、貧溶媒で洗浄を行うことが好ましい。
貧溶媒としては、ジエチルエーテル、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、水が挙げられる。なかでもジエチルエーテル、クロロホルム、水が好ましい。
【0076】
(分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜)
次に、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜について説明する。
【0077】
図25は、
図18AのB部拡大図の別の一例を示す図である。
図25に示すように、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜2’は、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’が網の目状に混合されて形成されている構成としてもよい。
分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、直鎖部を2以上の別の直鎖部と連結し、3方向以上に分岐する分岐部41’を有しており、網の目構造をより強固に形成できる。これにより、耐熱性が向上し、膜の安定性が高められる。
【0078】
分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを有機溶媒に溶解させ、透明電極基板上に塗布し、乾燥させて製造することができる。
有機溶媒としては、加熱したジメチルスルホキシド、加熱したジメチルホルムアミド、加熱したクロロベンゼンが挙げられる。
【0079】
(分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー)
次に、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーについて説明する。
図26は、
図25のD部を構成する分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの構造式の一例を示す図である。
図26に示すように、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、分岐状の超分子ポリマーである。具体的には、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、有機金属配位子21’が、遷移金属M’を挟んで直鎖状に連結された直鎖部31’だけでなく、直鎖部31’を2つの別の直鎖部(31’)、(31’)と連結する分岐部41’を有して、概略構成されている。
分岐部41’は、分岐子(トリフェニルベンゼン)15’に配位子11’Cが連結されてなり、分岐子を中心に3方向以上に分岐した構造を有し、分岐した末端に配位子を有する。これにより、直鎖部を2以上の別の直鎖部と連結し、3方向以上に分岐した有機/マルチ金属ハイブリットポリマーにすることができる。
【0080】
有機金属配位子21’は、本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの説明で示した構成と同様の構成とされている。つまり、有機金属配位子は、1つの結合子13’と、2つの配位子11’A、11’Bとが連結されてなる。結合子13’は、ベンゼン環を中心にして、ベンゼン環に結合した2つのエチニレン基を介して2つのRu(dppe)
2が連結され、各Ru(dppe)
2にそれぞれ他のエチニレン基が結合しており、このエチニレン基にそれぞれフェニル基が連結されてなる。配位子11’A、11’Bはターピリジル基であり、ターピリジル基の4’位が結合子13’の両端末端のフェニル基のパラ位に連結されている。遷移金属M’1つに対して、複数の有機金属配位子21’の少なくとも2つの異なる有機金属配位子21’の前記ターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属配位子21’が複数の遷移金属M’を交互に挟んで直鎖状に連結されている。
【0081】
図27は、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’の一例を示す化学式である。
図27に示すように、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、poly(Ru
2Zn)
Xで表記され、Xは、70≦X<100である。
図27中、n、mは2以上の自然数である。nは直鎖状の部分であり、mは分岐状の部分である。従って、X、n、mは、X = 100n /(n+m)と関連付けられる。
例えば、poly(Ru
2Zn)
90、poly(Ru
2Zn)
80、poly(Ru
2Zn)
70等である。
図27に示すように、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、直鎖部由来の単位構造(即ち、有機金属配位子21’と、遷移金属M’とを含む単位構造)と、分岐部由来の単位構造とを有する。
【0082】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’を酸化することにより、Ru(II)がRu(III)に酸化され、電解質中のアニオンが近接した酸化型有機/マルチ金属ハイブリットポリマーとなる。
【0083】
遷移金属Mとしては、Fe又はZnを挙げることができる。これにより、Ru(III)とFe(II)又はRu(III)とZn(II)との間で、原子価間電荷移動(Inter valence charge transfer:IVCT)により、近赤外光を吸収させることができ、近赤外光のエレクトロクロミック反応をさせることができる。
【0084】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、異種の遷移金属ZnとRuを近接配置するとともに、同種の遷移金属RuとRuを近接配置する構成なので、例えば、異種の金属Zn−Ru間のIVCTの吸収だけでなく、同種の金属Ru−Ru間のIVCTの吸収も有する。これにより、近赤外から赤外領域の2波長でエレクトロクロミック反応をさせることが可能な膜とすることができ、電圧印加のオンオフにより、一方の吸収ピーク波長における吸光度を低下させるとともに他方の吸収ピーク波長における吸光度を増加させること、及びその逆を行うことができ、近赤外から赤外領域の2波長でスイッチして光遮断できる。
【0085】
(分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法)
次に、本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成方法について説明する。
【0086】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの製造方法は、二核有機金属部位合成工程S1と、有機金属配位子合成工程S2と、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S3と、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S4とを有する。
【0087】
(二核有機金属部位合成工程S1)
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの製造方法に記載の二核有機金属部位合成工程S1と同様にして、二核有機金属部位の合成を行う。
【0088】
(有機金属配位子合成工程S2)
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの製造方法に記載の有機金属配位子合成工程S2と同様にして、有機金属配位子の合成を行う。
【0089】
(直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S3)
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの製造方法の直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S3と同様にして、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの合成を行う。
【0090】
(分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程S4)
図28は、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー合成工程の化学反応式である。
この工程では、有機溶媒(例えばNMP)中、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’と、遷移金属化合物(例えばZn(NTf
2)
2)と、3方向で連結可能な分岐化合物(例えば、1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzene)とを反応させて、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する。
【0091】
遷移金属化合物(例えばZn(NTf
2)
2)の混合量は、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する同種の遷移金属(例えばZn(NTf
2)
2を混合する場合はZnを指す)と混合する遷移金属(例えばZn(NTf
2)
2を混合する場合はZnを指す)の合計100mol部に対して10mol部以上60mol部以下であってよい。なかでも10mol部以上30mol部以下であることが好ましい。
【0092】
前記遷移金属化合物として、Zn(NTf
2)
2の他Zn(BF
4)
2、Zn(OAc)
2、ZnCl
2挙げられる。なかでもZn(NTf
2)
2が好ましい。
また、前記遷移金属化合物として、Fe(BF
4)
2、Fe(OAc)
2、FeCl
2も用いることができる。これにより、分岐部分においてFeを有するポリマーを合成できる。
【0093】
有機金属配位子と遷移金属化合物の反応時間は6〜48時間が好ましく、より好ましくは12〜24時間である。これにより、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの収率を80%以上に高めて合成できる。
有機溶媒としては、例えば、NMP:N−Methyl−pyrrolidone、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロベンゼン、プロピレンカーボネートが挙げられる。なかでもNMP、ジメチルホルムアミドが好ましい。
反応温度は80〜150℃が好ましく、より好ましくは100〜120℃である。
【0094】
分岐化合物は、分岐子を中心に3方向以上に分岐され、分岐した分子の末端に配位子を有する。分岐化合物としては、例えば、1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzene(以下、「3D−M」)ということもある)が挙げられる。
分岐子としては、トリフェニルベンゼン以外にトリフェニルメタンを用いることができる。また、4方向以上の分岐化合物であるテトラフェニルメタンを用いてもよい。
【0095】
分岐化合物の混合量が、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部と分岐化合物の合計100mol部に対して10mol部以上30mol部以下であることが好ましい。
【0096】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’は、有機金属配位子21’が遷移金属M’を挟んで直鎖状に連結された直鎖部31’を有する。有機金属配位子21’は、結合子13’と配位子11’A、11’Bとが連結されてなる。結合子13’は、ベンゼン環を中心にして、ベンゼン環に結合した2つのエチニレン基を介して2つのRu(dppe)
2が連結され、各Ru(dppe)
2にそれぞれ他のエチニレン基が結合しており、このエチニレン基にそれぞれフェニル基が連結されている。配位子11’A、11’Bはターピリジル基であり、結合子13’のフェニル基に連結されている。遷移金属M’1つに対して、複数の有機金属配位子21’のうち少なくとも2つの異なる有機金属配位子21’の前記ターピリジル基が配位結合することにより、複数の有機金属配位子21’が複数の遷移金属M’を交互に挟んで連結されている構成である。そのため、直鎖状又は分岐状のポリマーとすることができ、膜安定性を高め、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0097】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’は、遷移金属MがFe、Zn、Co又はRuである構成であってもよい。これにより、直鎖部を長鎖にして、膜安定性を高め、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0098】
本発明の実施形態である直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’は、直鎖状である構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0099】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、分岐状である構成であってもよい。これにより、膜安定性を高め、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0100】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneからなる分岐部41’を有する構成であってもよい。これにより、直鎖部を2以上の別の直鎖部と連結し、3方向以上に分岐でき、膜安定性を高め、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0101】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’は、分岐部41’の含有量が、有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部及び分岐部の合計モル数に対し、10mol部以上30mol部以下である構成であってもよい。これにより、膜安定性を高め、繰り返し安定性を高くすることができる。
【0102】
本発明の直鎖状又は分岐状の実施形態である有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’の合成方法は、有機溶媒中、1当量のジエチニルベンゼンと2当量のRu(dppe)
2Cl(OTf)を反応させて、2つのRu(dppe)
2を含む二核有機金属部位を合成する工程S1と、有機溶媒中、2当量のエチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物と1当量の二核有機金属部位を反応させて、末端にターピリジル基を有し、2つのRu(dppe)
2を有する有機金属配位子を合成する工程S2と、有機溶媒中、前記有機金属配位子と遷移金属化合物を反応させて、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する工程S3と、を有する構成である。そのため、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0103】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’の合成方法は、前記直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーと、分岐子を中心に3方向以上に分岐され、分岐した分子の末端に配位子を有する分岐化合物と、遷移金属化合物と、をともに反応させて、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを合成する構成である。そのため、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0104】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’の合成方法は、前記分岐化合物が1,3,5−Tris[4−(2,2´:6´,2´´−terpyridin−4´−yl)phenyl]benzeneである構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0105】
本発明の実施形態である分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー6’の合成方法は、前記分岐化合物の混合量が直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを構成する直鎖部の合計100mol部に対して10mol部以上30mol部以下である構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0106】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’の合成方法は、前記有機金属配位子に対して1.0当量以上の遷移金属化合物を反応させる構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0107】
本発明の直鎖状又は分岐状の実施形態である有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’の合成方法は、前記遷移金属化合物がFe(BF
4)
2又はZn(NTf
2)
2である構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0108】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’の合成方法は、有機金属配位子と遷移金属化合物の反応時間が6時間以上である構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを収率高く合成することができる。
【0109】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜1’、2’は、直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー5’、6’からなる構成である。そのため、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い膜を形成できる。これにより、近赤外から赤外領域の2波長でスイッチして光遮断可能な光デバイスに応用できる。
【0110】
本発明の実施形態である直鎖状又は分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜1’、2’は、膜厚が100nm以上1mm以下である構成であってもよい。これにより、赤外光のエレクトロクロミック特性を有し、繰り返し安定性の高い膜を形成できる。これにより、近赤外から赤外領域の2波長でスイッチして光遮断可能な光デバイスに応用できる。
【実施例】
【0111】
本発明の実施形態である有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー、その製造方法及び有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの膜は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本発明の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
本発明の実施形態である有機/マルチ金属ハイブリットポリマー、その製造方法及び有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本発明の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
(実施例1)
まず、エチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物(4´−(4−ethynylphenyl)−2,2´:6´,2´´−terpyridine)(100mg)と、Ru(dppe)
2Cl(OTf)(153.6mg)を、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(126mg)及びトリエチルアミン(110μL)存在下、塩化メチレン(20mL)中、室温で24時間撹拌し、反応終了後、ろ過し、ろ液を濃縮した後、得られた固体をジエチルエーテルで洗浄し、その後、アルミナのカラムクロマトグラフィーにより精製して、末端にターピリジル基を持つ有機金属錯体10を合成した(283mg、収率55.5%)。
次に、
1H−、
13C−NMR、MSスペクトル測定を行い、有機金属錯体10の構造を確認した。
【0114】
次に、10μMの有機金属錯体10のクロロホルム溶液に、0.1当量のFe(BF
4)
2を分散したメタノール溶液を段階的に加えて、有機金属錯体10の紫外可視吸収スペクトルにおける滴定試験を行った。
【0115】
図5は、紫外可視吸収スペクトルにおける滴定試験結果を示すグラフである。また、
図6は、
図5の605nmの吸光度変化と添加量の関係を示すグラフである。
図5、6に示すように、有機金属錯体10にFe(BF
4)
2を加えると、605nm付近に特徴的な金属−配位子電荷移動(MLCT)吸収が現れ、添加量を増すに従い、吸光度は増加し、1.0当量以上では吸光度は一定となった。
紫外可視吸収スペクトルにおける滴定試験結果は、有機金属錯体10が、1.0当量の遷移金属と錯形成して、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuFe)となることを示した。
【0116】
有機金属錯体10のクロロホルム溶液に、1.0モル当量のFe(BF
4)
2を分散したメタノール溶液を段階的に加えて、約60℃で還流させながら、12時間、撹拌することにより、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuFe)を収率94%で得た。
得られたpolyRuFeは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、塩化メチレンに溶解した。
【0117】
(実施例2)
有機金属錯体10のエチレングリコール溶液に1.0モル当量のRuCl
2を加えて、120℃で、24時間、撹拌した他は実施例1と同様にして、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuRu)を収率92%で得た。
得られたpolyRuRuは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、塩化メチレンに溶解した。
【0118】
(実施例3)
有機金属錯体10のNMP(N−Methyl−pyrrolidone)溶液に1.0モル当量のZn(NTf
2)
2を加えて、100℃で、24時間、撹拌した他は実施例1と同様にして、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuZn)を収率92%で得た。
polyRuZnは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドに溶解したが、アセトニトリルや塩化メチレンには不溶であった。
【0119】
<NMR測定>
polyRuZnの構造は、
1H−NMRスペクトルにより確認した。
図7は、クロロホルム中の有機金属錯体10(ここではRu(II)−Mと表す)の
1H−NMRスペクトルと、ジメチルスルホキシド中のpolyRuZnの
1H−NMRスペクトルを比較した図である。
ターピリジル基の6,6”位のプロトンの高磁場シフトとターピリジンのそれ以外のプロトンの低磁場シフトからZnとターピリジンが錯形成したことが分かり、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーが合成されたことが分かった。
【0120】
<SEC−RALLS−Viscometry>
各ポリマーの分子量は、SEC−RALLS−Viscometry法により算出した。
図8は、SEC−RALLS−Viscometryの測定結果である。
各ポリマーの分子量M
Wは、polyRuRuが10.5×10
4、polyRuFeが24.3×10
4、polyRuZnが29.2×10
4であった。
【0121】
<溶液の電気化学特性>
各有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー溶液を調製し、サイクリックボルタモメトリー(Cyclic voltammetry:CV)測定、及び微分パルスボルタンメトリー(Differential pulse voltammetry:DPV)測定を行った。
測定条件は、0.1Mの過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)のジメチルホルムアミド溶液中、作用電極:Ptメッシュ(mesh)電極、カウンター電極:Pt wire電極、参照電極:Ag/Ag
+とした。溶液は、測定前に窒素飽和させた。スキャン速度は100mVs
−1とした。
【0122】
図9Aは、CV測定による溶液状態の電気化学測定結果を示すグラフである。
図9Bは、DPV測定による溶液状態の電気化学測定結果を示すグラフである。
各ポリマーは0.25V付近に有機金属錯体10中のRuの可逆的な酸化還元波を示した。また、polyRuRuは0.72Vにターピリジン部位と錯形成しているRuの可逆的な酸化還元波を示した。同様に、polyRuFeは0.70Vにターピリジン部位と錯形成しているFeの可逆的な酸化還元波を示した。
【0123】
次に、電圧印加前後の溶液を厚さ1mmの石英セルに入れ、電圧を印加しながら、溶液の紫外/可視/近赤外吸収スペクトル測定を行った。
図10Aは、polyRuRuの溶液状態の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
図10Bは、polyRuFeの溶液状態の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
図10Cは、polyRuZnの溶液状態の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
【0124】
polyRuFeとpolyRuZnは、0.5V印加したとき、近赤外領域に吸収がみられた。polyRuFeでは更に電圧値を上げ、1.0Vを印加すると、近赤外領域の吸収は消失した。この近赤外領域のエレクトロクロミズム現象は、Ruの酸化反応によりRu(III)/Fe(II)およびRu(III)/Zn(II)の原子価間電荷移動(IVCT)による吸収であると推察した。polyRuFeとpolyRuZnにおいて、この近赤外領域のエレクトロクロミズム現象は30回以上可逆的現れた。
【0125】
一方、polyRuRuでは、近赤外領域のエレクトロクロミズム現象を観測できなかった。
【0126】
<薄膜の電気化学特性>
次に、2.5mgの有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuRu)のジメチルホルムアミド溶液を調製し、これを用いて、溶媒キャスト法により、ITOガラス上に有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuRu)薄膜を成膜した。膜厚は25μmとした。
次に、ITO膜(透明電極膜)に配線を接続して、polyRuRu作用電極を作製した。
図11は、作用電極の一例を示す斜視図である。
【0127】
有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマーの種類を変えた他は同様にして、polyRuFe作用電極及びpolyRuZn作用電極を作製した。
【0128】
次に、膜状態のサイクリックボルタモメトリー(CV)および電気分光測定を行った。
測定条件は、0.1Mの過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)のアセトニトリル溶液中、作用電極:ITOガラス+有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー薄膜、カウンター電極:ITOガラス、参照電極:Ag/Ag
+とした。
【0129】
図12Aは、polyRuZn膜のCV測定結果のスキャン速度依存性の測定データを示すグラフである。
図12Bは、スキャン速度と電流値の関係を示すグラフである。
スキャン速度は10、20、50、100、200、300、400、500、600、800、1000、1200、1500mVs
−1とした。速度を上げるに従い、流れる電流値は大きくなった。
【0130】
電流値は、スキャン速度の1/2乗と1次線形の依存性を示した。これにより、このシステムでは電子移動が、ポリマーと電極の間の電子移動が律速ではなく、溶液中のマイナスイオンがポリマー内のRu(II)に接する過程による拡散律速で支配されることが分かった。
【0131】
次に、フィルム状態のpolyRuZnの電気分光測定を行った。
図13は、polyRuZnのフィルム状態での電気分光測定結果を示すグラフであり、電圧の印加前後の吸光度(Abs)の変化を示すものである。0V及び0.01Vでは、350nm付近の吸収と、510nm付近の吸収を有するが、1147nm付近にはほとんど吸収が現れなかった。一方、0.5Vを印加したとき、510nmの吸収が低下し、1147nmの吸収が増加した。0Vと0.5V印加時の近赤外領域の透過率の変化ΔTは60%以上となった。
【0132】
図14は、フィルム状態のpolyRuZnの電圧印加なし(0V)時と、0.5V印加時の外観を示す写真である。電圧印加なし(0V)時は透明赤紫色の膜であり、0.5V印加時は透明薄黄色の膜であった。
【0133】
<再現性試験>
次に、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuZn)に、5秒間隔で0.5Vと0.01Vを交互に印加することを繰り返して、1147nmの光吸収の変化を観測した。
図15Aは、フィルム状態のpolyRuZnの電圧オンオフに伴う物性値の変化を示すグラフであって、電圧オンオフに伴う電流値の変化である。
図15Bは、1147nmの波長の光透過率の変化である。電流値に対応して透過率が変化した。電流値の変化と、1147nmの波長の光透過率の変化は再現性高く対応した。
【0134】
図16は、フィルム状態のpolyRuZnの0Vと0.5Vの間で電圧を変化させる間隔を20秒として、電圧オンオフに伴う1147nmの波長の光透過率の変化を示すグラフである。約3秒という高速で透過率が80%から20%に変化し、20%から89%への変化も同程度の高速で変化した。
【0135】
図17は、有機/ヘテロ金属ハイブリットポリマー(polyRuZn)の膜に対して、3000sの間に、600回、電圧を0V−0.5Vで変化させた時の透過率の変化を示すグラフである。透過率の変化は可逆的に安定であり、透過率(絶対値)は徐々に劣化したが、透過率の変化ΔTはほぼ一定であり、3000s後でも、NIR領域の透過率の変化ΔTは60%以上であった。
【0136】
(実施例4)
Ru(II)(dppe)
2=C=CH−C
6H
4−HC=C=Ru(dppe)
2Cl
2の塩である[ClRu(dppe)
2=C=CH−C
6H
4−HC=C=(dppe)
2RuCl](OTf)
2(二核有機金属部位)は下記の既報に従い合成した。
Benameur, A.; Brignou, P.; Di Piazza, E.; Hervault, Y.-M.; Norel, L.; Rigaut, S., New J. Chem. 2011, 35 (10), 2105-2113.
【0137】
エチニル基、及びターピリジル基を持つターピリジン化合物(4´−(4−ethynylphenyl)−2,2´:6´,2´´−terpyridine)(308.2mg)と、[ClRu(dppe)
2=C=CH−C
6H
4−HC=C=(dppe)
2RuCl](OTf)
2(708.7mg)を、トリエチルアミン(1.85mL)とヘキサフルオロリン酸ナトリウム(206.5mg)存在下、塩化メチレン(80mL)中、室温、窒素雰囲気下で7日間撹拌した。その後、ジエチルエーテルを加え、析出物をろ過した後、ジエチルエーテルで洗浄した。アルミナのカラムクロマトグラフィーにより精製し、末端にターピリジル基を持つ有機金属配位子(L−Ru(II)
2−L)を黄色の固体として単離した(744mg、収率:80.8%)。
1H−、
31P−NMR、high−resolution mass スペクトル(HRMS)測定を行い、有機金属配位子(L−Ru(II)
2−L)の構造を確認した。
【0138】
次に、アルゴン雰囲気下、有機金属配位子(L−Ru(II)
2−L)のNMP(N−Methyl−pyrrolidone)溶液に、等モル量のZn(NTf
2)
2を分散したNMP溶液を段階的に加えて、約120℃で還流させながら、6時間、撹拌することにより、暗赤色の固体からなる直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)を収率82%で得た。
得られたpoly(Ru
2Zn)
100は、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドに溶解した。
【0139】
次に、ジメチルスルホキシドに直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、スライドガラス上に、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)の膜を形成した。
【0140】
次に、ジメチルスルホキシドに2.5mgの有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、ITOガラス(active area:0.8×2.5cm
2)上に、直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)の膜を形成して、作用電極を作成した。
膜厚は25μmとした。
【0141】
(実施例5)
次に、poly(Ru
2Zn)
100を構成する直鎖部の合計100mol部に対して10mol部となるように前もって調製しておいた3D−MのNMP溶液を、暗赤色の固体からなる直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)に加えた。
次に、3D−Mと当モル量のZn(NTf
2)
2を混合して、約120℃で還流させながら、18時間、撹拌して、ジエチルエーテル中で沈殿させ、クロロホルム、水、ジエチルエーテルで洗浄後、乾燥して、暗赤色の固体からなる分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
90)を収率85%で得た。
得られたpoly(Ru
2Zn)
90は、加熱したジメチルスルホキシドに溶解したが。室温のジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドには不溶であった。3Dネットワーク構造により、耐熱性が向上したと推察した。
【0142】
次に、ジメチルスルホキシドに分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、スライドガラス上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
90)の膜を形成した。
【0143】
次に、ジメチルスルホキシドに2.5mgの分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、ITOガラス(active area:0.8×2.5cm
2)上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
90)の膜を形成して、作用電極を作成した。
膜厚は25μmとした。
【0144】
(実施例6)
次に、poly(Ru
2Zn)
100を構成する直鎖部の合計100mol部に対して20mol部となるように前もって調製しておいた3D−MのNMP溶液を、暗赤色の固体からなる直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)に加えた。
次に、3D−Mと当量のZn(NTf
2)
2を混合して、約120℃で還流させながら、18時間、撹拌して、ジエチルエーテル中で沈殿させ、クロロホルム、水、ジエチルエーテルで洗浄後、乾燥して、暗赤色の固体からなる分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
80)を収率80%で得た。
得られたpoly(Ru
2Zn)
80は、加熱したジメチルスルホキシドに溶解したが。室温のジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドには不溶であった。3Dネットワーク構造により、耐熱性が向上したと推察した。
【0145】
次に、ジメチルスルホキシドに分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、スライドガラス上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
80)の膜を形成した。
【0146】
次に、ジメチルスルホキシドに2.5mgの分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解させ、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、ITOガラス(active area:0.8×2.5cm
2)上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
80)の膜を形成して、作用電極を作成した。
膜厚は25μmとした。
【0147】
(実施例7)
次に、poly(Ru
2Zn)
100を構成する直鎖部の合計100mol部に対して30mol部となるように前もって調製しておいた3D−MのNMP溶液を、暗赤色の固体からなる直鎖状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
100)に加えた。
次に、3D−Mと当量のZn(NTf
2)
2を混合して、約120℃で還流させながら、18時間、撹拌して、ジエチルエーテル中で沈殿させ、クロロホルム、水、ジエチルエーテルで洗浄後、乾燥して、暗赤色の固体からなる分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)を81%という高収率で得た。
得られたpoly(Ru
2Zn)
70は、加熱したジメチルスルホキシドに溶解したが。室温のジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドには不溶であった。3Dネットワーク構造により、耐熱性が向上したと推察した。
【0148】
次に、ジメチルスルホキシドに分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解し、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、スライドガラス上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜を形成した。
【0149】
次に、ジメチルスルホキシドに2.5mgの分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマーを溶解し、濃度0.5mg/mLの溶液を作成し、drop−coating法により、ITOガラス(active area:0.8×2.5cm
2)上に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜を形成して、作用電極を作成した。
膜厚は25μmとした。
【0150】
<Thermogravimetric analysis:TGA測定>
次に、TGA測定した。
図29は、poly(Ru
2Zn)
100、poly(Ru
2Zn)
90、poly(Ru
2Zn)
80及びpoly(Ru
2Zn)
70のTGA測定結果を示すグラフである。
いずれの試料も加熱すると質量が減少した。
T
d10は、質量が10%減少した時点の加熱温度である。
poly(Ru
2Zn)
100のT
d10が321.5℃であり、最も低かった。
Znの割合を増加するに従い、T
d10は高くなり、poly(Ru
2Zn)
70のT
d10が372.4℃であり、最も高かった。
【0151】
<Atomic force microscopy:AFM観察>
次に、スライドガラス上に形成した各有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜の表面をAFM観察した。
図30Aは、poly(Ru
2Zn)
100膜のAFM像であり、
図30Bはpoly(Ru
2Zn)
90膜のAFM像であり、
図30Cはpoly(Ru
2Zn)
80膜のAFM像であり、
図30Dはpoly(Ru
2Zn)
70膜のAFM像である。
poly(Ru
2Zn)
100膜は多孔質膜であった。root−mean square粗さR
rmsは1.1nmと小さかった。
poly(Ru
2Zn)
90膜〜poly(Ru
2Zn)
70膜は、poly(Ru
2Zn)
100膜と全く異なり、粗い膜であった。
poly(Ru
2Zn)
90膜のR
rmsは1.3nm、poly(Ru
2Zn)
80膜のR
rmsは1.4nm、poly(Ru
2Zn)
70膜のR
rmsは4.3nmとなった。poly(Ru
2Zn)
70膜が最も多孔性の膜であった。
【0152】
<膜の電気化学特性>
次に、ITOガラス上に形成した各有機/マルチ金属ハイブリットポリマーの膜のサイクリックボルタモメトリー(Cyclic voltammetry:CV)測定を行った。
測定条件は、0.1MのLiClO
4のCH
3CN溶液中、作用電極:poly(Ru
2Zn)
70/ITO電極、カウンター電極:ITO電極、参照電極:Ag/Ag
+とした。溶液は、測定前に窒素飽和させた。スキャン速度は20mVs
−1とした。
【0153】
図31は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電気化学測定結果を示すCVスペクトルである。
21mVと255mVにリバーシブルなピークが見られた。これらは、Ru−アセチリド錯体の中のRu(II)/(III)間の酸化還元によるものである。
【0154】
酸化ピーク間ポテンシャルΔEは234mVであり、Kc=exp(ΔEF/RT)=1.1×10
4であった。これは、一方が酸化された種が安定であることを示している。共役鎖に沿って、電子が非局在化したためと推察した。
【0155】
図32は、poly(Ru
2Zn)
70膜のスキャン速度依存性を示すCVスペクトルである。
スキャン速度10、20、50、100、300、400、500、600、800、1000、1200、1500mVs
−1とした場合である。
スキャン速度を増加するに従い、ピーク電流値が増加した。
【0156】
図33は、スキャン速度と電流値の関係を示すグラフである。
First oxidize current、Second oxidize current、First reduced current、Second reduced currentの各電流値はスキャン速度の1/2乗と1次線形関係で得られた。スキャン速度のルート・スクエアR
2は、0.99791、0.99717、0.99926、0.99839であった。
【0157】
これから、Ruの酸化還元反応が、ポリマーと電極の間の電子移動が律速ではなく、溶液中のマイナスイオンがポリマー内のRu(II)に接する過程による拡散律速で支配されていることを推察できた。
一方、他のポリマーの膜は電気化学特性を示さなかった。LiClO
4のような電解質を含む電解液中では容易に溶解してしまったためである。
【0158】
<紫外/可視/近赤外領域での電気分光測定>
次に、poly(Ru
2Zn)
100膜の電気分光測定を行った。
図34は、poly(Ru
2Zn)
100膜の電気分光測定結果を示すグラフであり、電圧印加の前後の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの変化を示すものである。0.50Vでは、1174nm付近の吸収を有するが、1844nm付近にはほとんど吸収が現れなかった。一方、0.05V及び−0.50Vを印加したとき、1174nmの吸収が低下し、1844nmの吸収がわずかに増加した。
【0159】
次に、poly(Ru
2Zn)
90膜の電気分光測定を行った。
図35は、poly(Ru
2Zn)
90膜の電気分光測定結果を示すグラフであり、電圧印加の前後の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの変化を示すものである。0.50Vでは、1174nm付近の吸収を有するが、1844nm付近にはほとんど吸収が現れなかった。一方、0.05Vを印加したとき、1174nmの吸収が低下し、1844nmの吸収がわずかに立ち上がった。−0.50Vを印加したとき、1174nmの吸収が大きく低下し、1844nmの吸収が大きく増加した。
【0160】
次に、poly(Ru
2Zn)
70膜の電気分光測定を行った。
図36は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電気分光測定結果を示すグラフであり、電圧印加の前後での紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの変化を示すものである。0.40Vでは、1174nm付近の吸収を有するが、1844nm付近にはほとんど吸収が現れなかった。一方、0.05Vを印加したとき、1174nmの吸収が低下し、1844nmの吸収がわずかに増加した。−0.20Vを印加したとき、1174nmの吸収が大きく低下し、1844nmの吸収が大きく増加した。
【0161】
<再現性試験>
次に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜に、5秒間隔、10秒間隔、15秒間隔、20秒間隔、で0.05Vと0.4Vを交互に印加することを繰り返して、1844nmの光透過率の変化を観測した。
図37は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電圧オンオフに伴う1844nmの光透過率変化の印加電圧依存性を示すグラフである。
【0162】
次に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー((polyRu
2Zn)
70)の膜に、20秒間隔、で0.05Vと−0.2Vを交互に印加することを50回繰り返して、1844nmの光透過率の変化を観測した。
図38は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電圧オンオフに伴う1844nmの光透過率変化の繰り返し特性を示すグラフである。
着色効率η=337(cm
2/C)、ΔT>60%となった。
なお、着色効率ηは次式(1)で規定される。着色効率ηは、どれだけの面積の吸光度を変えられるかを示す指数である。ここで、ΔODは、光学密度の変化であり、Q
dは、注入/排出電子の変化である。Tbは(81.5)であり、Tcは(19.5)である。
【0163】
【数1】
【0164】
次に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜に、5秒間隔、10秒間隔、15秒間隔で0.05Vと0.4Vを交互に印加することを繰り返して、1174nmの光透過率の変化を観測した。
図39は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電圧オンオフに伴う1174nmの光透過率変化の印加電圧依存性を示すグラフである。
【0165】
次に、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜に、15秒間隔、で0.05Vと0.4Vを交互に印加することを50回繰り返して、1174nmの光透過率の変化を観測した。
図40は、poly(Ru
2Zn)
70膜の電圧オンオフに伴う1174nmの光透過率変化の繰り返し特性を示すグラフである。
着色効率η=272(cm
2/C)、ΔT>70%となった。
以上のように、光透過率の変化は高速で、再現性が高かった。
【0166】
図41は、poly(Ru
2Zn)
70膜の1844nmの光吸収の変化の電圧オンオフに伴う電流値の変化を示すグラフである。
図42は、poly(Ru
2Zn)
70膜の1174nmの光吸収の変化の電圧オンオフに伴う電流値の変化を示すグラフである。
【0167】
図43Aは、−0.20Vから0.05Vまでの段階的に印加電圧を変化させたとき、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー((polyRu
2Zn)
70)の膜の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
図43Bは0.10Vから0.40Vまでの段階的に印加電圧を変化させたとき、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー((polyRu
2Zn)
70)の膜の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
【0168】
図44Aは、0.05Vから−0.20Vまでの段階的に印加電圧を変化させたとき、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
図44Bは、0.40Vから0.10Vまでの段階的に印加電圧を変化させたとき、分岐状の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー(poly(Ru
2Zn)
70)の膜の紫外/可視/近赤外吸収スペクトルの印加電圧依存性を示すグラフである。
【0169】
表1は、0.1MのLiClO
4のアセトニトリル溶液中の有機/マルチ金属ハイブリットポリマー((polyRu
2Zn)
70)膜の電気化学特性である。
【0170】
【表1】