(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一のリザーバーもしくは前記第二のリザーバーのいずれか一方のリザーバーは、他方のリザーバーを泳動するターゲットの移動方向に沿って、垂直方向の断面積が一定であることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動チップ。
前記導電体膜を第一の検出電極とし、前記第一の検出電極の一方の面に誘電体と第二の検出電極とが順次積層されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電気泳動チップ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、
図1から
図19を用いて説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電気泳動チップ100の斜視図である。
図2は、実施の形態1に係る電気泳動チップ100の分解図である。
【0022】
図1、2を参照しながら、実施の形態1の電気泳動チップ100を説明する。
【0023】
電気泳動チップ100は、第一のリザーバー1と第二のリザーバー2とが、透明な材料からなる基板3を貫くように設けられ、第一および第二のリザーバーの底部を形成するように、基板3の下側にキャピラリー10が形成されたPDMS製(正式名称:ジメチルポリシロキサン)のマイクロ流体チップ4が取り付けられている。また、マイクロ流体チップ4の下部にはターゲットを検出する検出装置5が設けられている。第一のリザーバー1に設けられた第一の電極6に電源31の負極が接続され、第二のリザーバー2に設けられた第二の電極7に電源31の正極が接続されている。また、基板3の上方にはキャピラリー10に導かれたターゲットを光学的に計測するために設けられた光学的検出装置30が設けられている。
【0024】
第一のリザーバー1および第二のリザーバー2は、電気泳動液の蒸発を防ぐため、透明な樹脂性のカバー11で覆われ、第三のチューブ12がこのカバー11を通過して第一のリザーバー1には接続され、第四のチューブ13がこのカバー11を通過して第二のリザーバー13に接続されている。
【0025】
マイクロ流体チップ4は、折れ曲がった溝状のキャピラリー10が切り抜かれ、その両端部、10a、10bは、円形に切り抜かれている。第一のチューブ8は、カバー11に設けられた開口部8bおよび基板3に設けられた貫通穴8aを貫き、キャピラリー10の一方の端部10aに接続されている。同様に、第二のチューブ9は、開口部9aおよび貫通孔9bを貫き、キャピラリー10の他方の端部10bに接続されている。
【0026】
検出装置5は、ベース5aと、ベース5aの上面に形成された導電体膜5bと、この導電体膜5b上に形成されたSiO2膜のような絶縁膜5cと、さらにこのSiO2膜上の、DNAを捕獲する分子を整列させ固定化するためのターゲット捕獲層5dとからなっている。ターゲット捕獲層5dは、ポリフッ化ビニリデン、ナイロンまたはニトロセルロースのような物質から形成され、最も好ましくは、化学的に改変されたポリフッ化ビニリデンの複合ターゲット捕獲層である。絶縁膜5cは、その表面にターゲット捕獲層5dを形成できる絶縁膜であればSiO2膜以外の絶縁膜であっても構わないが、SiO2膜であれば、電気泳動液との絶縁がより確実になり、ターゲット捕獲層を形成しやすくなる。
【0027】
続いて、
図3を用い実施の形態1における第一および第二のリザーバーについて詳しく説明する。
【0028】
第一のリザーバー1の底には、キャピラリー10に通じる縦孔15が形成されている。同様に、第二のリザーバー2の底には、キャピラリー10に通じる縦孔14が形成されている。第一のリザーバー1の断面部は、X方向に対して断面積が一定であることが望ましい。第一の電極6は接地され、第二の電極7に正の電圧が印加された場合、第一のリザーバー1付近の外部電界E´は、第二の電極7から離れているので、電界分布がほぼ均一となり電気泳動の速度は一定となる。第一のリザーバー1の断面積が一定であると、ターゲットの体積移動速度も一定となる。
【0029】
図4は、
図3のIV−IV断面図である。
【0030】
縦孔14とキャピラリー10の間には、第二のフィルター17が配置されている。第二のフィルター17は電気泳動液のみが通過できターゲットは通過できない程度の細かいフィルターである。フィルターは、ミリポア社製のシュアベント(登録商標)のような市販品を、ターゲットの大きさに応じて、0.0001μmから100μmの孔サイズのフィルターを使い分ければよい。
【0031】
一方、縦孔15とキャピラリー10の間には、第一のフィルター16が配置されている。この第一のフィルター16は、第二のフィルター17に比較して粗いフィルターとなっており微小なターゲットは通過可能となっている。第一のフィルターと同様にミリポア社製のシュアベント(登録商標)をターゲットの大きさに応じて使い分ければよい。
【0032】
続いて、
図5から
図12を用い実施の形態1における動作をより詳細に説明する。
【0033】
図5は実施の形態1における第一の電気泳動液18および第二の電気泳動液19の配置を示した図であり、第二の電極7に正の電圧が加えられたときに、ターゲット20が第一のリザーバー1から第二のリザーバー2に向かってキャピラリー10の中を矢印の方向に沿って移動することを示した概略図である。
【0034】
ここで、
図6を用いキャピラリー10内に流れる電流iによる内部電界Eによってターゲット20が移動させられる電気泳動速度について説明する。
【0035】
実施の形態1の電気泳動チップを用いたターゲット20の移送において、以下の値は、式(1)から式(5)の関係を満足する。
E:内部電界
i:電流
S:キャピラリーの断面積
L:キャピラリーの長さ
V:印加電圧
ρ:電気泳動液の比抵抗 (Ωcm)
R:電気抵抗 (Ω)
U:移動速度
W:体積移動速度
μ:電気泳動速度の比例定数
m:機械的流路損失
γ:ターゲットの濃縮率
【0036】
キャピラリーの長さをL、キャピラリーの断面積をS、比抵抗ρの電気泳動液の電気抵抗をR、としたとき、式(1)の関係を満たす。
R=ρ・L/S ・・・(1)
【0037】
印加電圧をV、電気泳動液に流れる電流をi、この電流iによって生じる内部電界をEとしたとき、式(2)の関係を満たす。
E=V/L=i・R/L=i・ρ・L/S・L=i・ρ/S ・・・(2)
【0038】
ターゲット20が移動する速度をU、内部電界をE、μは電気泳動速度の比例定数をμ、機械的流路損失をmとしたとき、式(3)の関係を満たす。
U=μ・m・E=m・i/S・ρ ・・・(3)
【0039】
ここでターゲット20移動速度Uとキャピラリー断面積Sの積は、単位時間当たりのターゲット20の体積移動速度Wとなるから、この体積移動速度Wは、式(4)で表される。
W=U・S=μ・m・i・ρ ・・・(4)
【0040】
つまり、式(4)において、体積移動速度Wは、電流iと電気泳動液の比抵抗ρで表され、キャピラリーの断面積Sには関与しないことが分かる。言い換えれば、キャピラリー断面積Sが変化しても単位時間当たりのターゲット20の体積移動速度Wは変わらないことを示している。
【0041】
なお、電気泳動の場合、機械的流路損失mは圧力による流体移動と異なりキャピラリー側面の摩擦抵抗の影響は受けにくいと考えられる。したがって、電気泳動によるターゲット20の濃縮率γは、第一のリザーバー1内での単位時間当たりの体積移動速度をW1、比抵抗をρ1とし、キャピラリー内での単位時間当たりの体積移動速度をW2、比抵抗をρ2としたとき、式(5)で表される。
γ=W1/W2=ρ1/ρ2 ・・・(5)
【0042】
図5、6の他に、
図7、8を用い、電気泳動におけるターゲット20の数の計測方法について、説明を続ける。第一の電気泳動液18は、
図7に示すように、表面にターゲット20を吸着させた第一の磁気ビーズ21を含んでいる。ターゲット20はたとえば、DNAの断片あるいはタンパク質などである。この第一の磁気ビーズ21の大きさは直径数μm程度である。
【0043】
第一のリザーバー1には、電気泳動液に電界を与える第一の電極6が配置され、第一の電気泳動液18が第三のチューブ12から第一のリザーバー1に投入される。同様に、第二のリザーバー2には第二の電極7が配置され、第二の電気泳動液19が、第四のチューブ13から第二のリザーバー2に投入される。つまり、第一のリザーバー1が第一の電気泳動液18で満たされたとき、すでに、第二のリザーバー2およびキャピラリー10は第二の電気泳動液19で満たされている。
【0044】
第一の電極6を接地したうえで負極とし、第二の電極7を正極として電圧を加えると、ターゲット20は負電荷となる。続いて、第一の電気泳動液18に、第一の磁気ビーズ21からターゲット20を分離する酵素が加えられると、ターゲット20は第一のリザーバー1の中で磁気ビーズ21から分離される。分離後、ターゲット20は第一のリザーバー1の中で分散し一定の濃縮率を保っている。
【0045】
ターゲット20は負電荷となるため、電気泳動によって第一のリザーバー1から第二のリザーバーに移送され始め、キャピラリー10に導かれる。
【0046】
このとき、第一のリザーバー1からキャピラリー10に至る経路の途中に設けられた第一のフィルター16によって第一の磁気ビーズ21は通過できずに遮断される。そのため、ターゲット20のみがキャピラリー10内に導かれ、第一の磁気ビーズ21はキャピラリー10内に侵入できずに第二のチューブ9から排出されることになる。
【0047】
キャピラリー10内に導かれたターゲット20は、縦孔14とキャピラリー10との間の、第二のフィルター17を通過できずに遮断され、第二のリザーバー2には侵入できない。よって、キャピラリー10内に止まったターゲット20は、均一に分散した状態で所定の時間放置される。やがて、ターゲット20が沈降し始め、ターゲット捕獲層5d上に付着し固定される。
【0048】
十分な時間が経過した後、第一のチューブ8から第二の磁気ビーズ22をキャピラリー10内に投入し、既にターゲット捕獲層5d上に固定されたターゲット20と反応させる。そうすると、
図8に示すように、第一の磁気ビーズ21に換わり、一つの第二の磁気ビーズ22に対し、一つのターゲット20が吸着する。なお、電気泳動は、先頭のターゲット20が第二のフィルター17に到達した後、所定の時間が経過した時点で終了する。
【0049】
次に、光学検出装置30で観察できる視野範囲にある第二の磁気ビーズ22を確認する。一つの第二の磁気ビーズ22に対し、一つのターゲット20が対応することになるから、キャピラリー10内の所定の面積あたりの第二の磁気ビーズ22の数を計測すれば、単位面積あたりのターゲット20の数に換算することができる。
【0050】
なお、第二の電気泳動液19の塩濃度は第一の電気泳動液18の塩濃度よりも濃くしてあり、その結果、第二の電気泳動液19よりも第一の電気泳動液18の方が、比抵抗が高くなっている。
【0051】
このように、第一のリザーバー1からキャピラリー10に電気泳動させるとき、第一の電気泳動液18の比抵抗ρが第二の電気泳動液19の比抵抗ρよりも高いため、式(4)に従って、第一のサーバー1内でのターゲット20の体積移動速度W1は大きく、キャピラリー10内での単位時間当たりのターゲット20の体積移動速度W2は小さくなる。よって、本来、第一のサーバー1からキャピラリー10に移送されたターゲット20は、比抵抗ρに比例した分、均一にキャピラリー内で濃縮されることになる。
【0052】
ところで、先に説明したとおり、ターゲット20に作用する電界には、電流iによる内部電界Eと、電極から直接伝わる外部電界E´の二つがある。
【0053】
ここで、
図9および
図10を用い、内部電界Eと外部電界E´について説明する。
【0054】
図9は、模式化したキャピラリー10の両端に電極6a、7aを設けた図である。電極6aと7aとの間に式(2)で表される電流iが流れると、この電流iに比例する内部電界Eが生じ、この内部電界Eは一定の値となる。
【0055】
一方、
図10は、
図9におけるキャピラリー10の両端に設けられた電極6a、7aから外部に発せられる外部電界E´を表した図である。この外部電界E´はキャピラリー10の中を電気泳動する方向に対して均一に分布せず、距離の2乗に反比例して分布する。当然ながら、電極7a付近(+V)の外部電界E´は大きく、電極6a(G)付近の外部電界E´は小さくなる。そうすると、キャピラリー10内で外部電界E´の影響を受けることになり、体積移動速度Wは変化してしまうことになる。
【0056】
この外部電界E´の影響を回避するため、キャピラリー10に平行にかつ絶縁膜5cを介して導電体膜5bを設けることにより、外部電界E´をキャンセルし、導電体膜5b近傍の電圧変化を抑えることができる。
【0057】
これによりキャピラリー10に流れる電流iによる内部電界Eのみが作用し、電気泳動を安定化させることができる。なお、導電体膜5bとキャピラリー10の距離に当たる絶縁膜5cの厚みが薄くなると、キャピラリー10内での電気抵抗が上昇し電流iが小さくなるが、式(5)に示すように濃縮率γには影響しない。
【0058】
以上の原理に従い、実施の形態1における導電体膜5bの効果についてさらに説明する。
【0059】
図11は、導電体膜5bがない場合の外部電界E´の分布を示す計算結果である。キャピラリー10内での外部電界E´の分布は、3000V/mから6000V/mにまでおよび、かなりの差があることが分かる。これは、キャピラリー10内での外部電界E´の変化が大きいことを示している。言い換えると、キャピラリー10内の位置によって、ターゲット20の濃縮率が大きく変化することを意味している。
【0060】
一方、
図12は、導電体膜5bがある場合を示した図である。導電体膜5bがあるとき、キャピラリー10内での外部電界E´の変動の幅は抑えられ、外部電界E´の影響を殆ど受けていないことが分かる。言い換えると、キャピラリー10内でのターゲット20の濃縮率がほぼ一定していることを意味している。
【0061】
なお、
図11並びに
図12のいずれにおいても、第一のリザーバー1内での外部電界E´の変化は少なく抑えられている。これは第二の電極7から第一のリザーバー1が離れているためである。
【0062】
以上のように実施の形態1によれば、キャピラリー10と平行に導電体膜5bを設けることにより、電源31から生じる電位による外部電界E´をキャンセルできる。また、キャピラリー10内に分布する電界がほぼ一定となるおかげで、ターゲット20の濃縮率および移動速度はほぼ一定となる。特に、導電体膜5bが、酸化亜鉛透明導電膜または酸化インジウム透明導電膜であれば、電気抵抗をより小さくできるため、ターゲット20の移動が滑らかになり、分散性も向上する。これにより、キャピラリー10内に、ターゲット20を一層均一に濃縮分布させることができる。その結果、ターゲットの数を正確に計測することが容易になるばかりでなく、キャピラリー10内の外部電界E´の影響を抑えることができ、濃縮効率の低下を防ぐことができる。
【0063】
実施の形態1では、ターゲットの濃縮率は、式(5)よりキャピラリー内の電気泳動液の比抵抗と第一のリザーバー内の電気泳動液の比抵抗によってのみ決定される。しかし、キャピラリー内の電気泳動液はターゲットがターゲット捕獲層に付着する性質にも関係しており選択の自由度は大きくない。実施の形態2では、さらに大きな濃縮率を得ることができる。
【0064】
(実施の形態2)
図13は本発明に係る実施の形態2の電気泳動チップの斜視図である。
【0065】
図14は本発明に係る実施の形態2の電気泳動チップの平面図である。
【0066】
図13において、第一のリザーバー1は仕切りフィルター23によって、第一領域1aと第二領域1bに分割されている。
第二領域1bは第一の電極6を含む。なお、この仕切りフィルター23は、第二のフィルター17と同じく、電気泳動液のみが通過可能でターゲット20は遮断されるフィルターである。第一のリザーバーの電気泳動液18は、第一領域1aと第二領域1bの双方に存在している。第一領域1aと第二領域1bを合わせた第一のリザーバー1のY軸で切った面の断面積は一定であり、第一領域1aの断面積は電気泳動する方向(−X方向)に向かって増加するように設置される。その他の構成は、実施の形態1と何ら変わらない。
【0067】
以上のように構成された電気泳動チップについて、その動作を説明する。
【0068】
実施の形態1と同様にDNAの断片あるいはタンパク質などのターゲット20をあらかじめ表面に吸着させた第一の磁気ビーズ21を第三のチューブ12から第一領域1aに投入する。なお、第二領域1bには、第一の電気泳動液18のみが投入される。
【0069】
その後、第一の電気泳動液18に第一の磁気ビーズ21からターゲット20を分離する酵素が加えられる。この時点でターゲット20は第一のリザーバー1の第一領域1a中で分散し一定の濃縮率を保っている。
【0070】
実施の形態1と同様に、電気泳動によって第一のリザーバー1の第一領域1aからターゲット20を移送させる。このとき第二の電極7を接地したうえで正極とし、第一の電極6を負極として電圧を加える。ターゲット20は、負電荷となっており第一のリザーバー1からキャピラリー10に向かって移送される。ここで途中に設けられた第一のフィルター16によって第一の磁気ビーズ21は遮断され、キャピラリー10にはターゲット20のみが移動できることになる。それ以降のプロセスは実施の形態1と同様である。
【0071】
次に、
図15を基に仕切りフィルター23の配置について説明する。
【0072】
図15(a)は、キャピラリー10および第一のリザーバー1内での外部電界E´の分布を示す。キャピラリー10での外部電界E´は、導電体5bがキャピラリー10の下側に配置されているので、ほぼ一定の値となっている。一方、第一のリザーバー1での外部電界E´は、第一の電極6を負極として電圧が印加されている影響で大きく変化している。
【0073】
図15(b)は、電気泳動液内を導通する電流iにより生じる内部電界Eを示す。キャピラリー10内および第一のリザーバー1内の内部電界Eは、ほぼ一定の値となる。
【0074】
図15(c)は、
図15(a)の外部電界E´と
図15(b)の内部電界Eの和(以下、トータル電界)を示したものである。第一のリザーバー1内でのターゲット20の移動速度を一定に保つためには、第一のリザーバー1の内部電界Eと外部電界E´とを合計したトータル電界と反比例するように第一領域1aの断面積を調整する必要がある。そのため、
図13、
図14に示すように仕切りフィルター23を設け、第一領域の断面積を電気泳動する方向に対して断面積を徐々に増加させる。この断面積の変化率は、トータル電界の変化と第一領域の断面積の変化が反比例するよう設定する。
【0075】
以上のように、実施の形態2では、第一のリザーバー1を、仕切りフィルター23によって第一領域1aと第二領域1bとに分割し、
第一領域1aを泳動するターゲット20の移動方向に向って、
第一領域1aの垂直方向の断面積を増大させる。
【0076】
このようにすることによって、外部電界E´を積極的に利用して第一のリザーバー1内での体積移動速度を一定に高めることができる。つまり、ターゲットの濃縮度を式(5)で示す濃縮率γより大きく設定することができると同時に、電気泳動液の比抵抗値以上に濃縮率を設定でき、少ないターゲットであっても第二の磁気ビーズ22の計測が容易となる。
【0077】
(実施の形態3)
図16は、せん断方向に共振して微小な質量を検出する水晶発振子マイクロバランス(QCM)センサー27の断面を示した図である。QCMセンサー27は、電極に物質が付着するとその質量に相当する周波数が低下する現象を利用している。誘電体である薄い水晶プレート24の一方の面には第一の検出電極25が、他方の面には第二の検出電極26が形成されている。
【0078】
第一の検出電極25とターゲット捕獲層5dとの間には絶縁カバー28が位置している。第二の検出電極26にはQCMセンサー27を共振させる周波数の電圧を印加する。なお、第一の検出電極25は絶縁カバー28で覆われているため、電気泳動液と直接接触することはない。これは、ターゲット20をキャピラリー10内に導く電気泳動の際、第一の検出電極面25で生じる気泡を発生させないようにするためである。
【0079】
図17は、QCMセンサー27をマイクロ流体チップ4の下面に配置した図である。また、
図18は、電気泳動装置を上面から見た図でありマイクロ流体チップに形成されたキャピラリー29は、キャピラリーの中央部29aで幅が拡げられている。この中央部29aに対応した位置に第一の検出電極25が位置している。なお、キャピラリーの中央部29aの幅が広がっても、式(4)により体積移動速度は変わらない。実施の形態1および実施の形態2と異なる点は、導電体膜5bをQCMセンサー27の第一の検出電極25として用いている点である。
【0080】
以上のように構成された電気泳動チップについて、以下その動作を説明する。実施の形態2と同様に、DNAの断片あるいはタンパク質などの検出すべきターゲット20をあらかじめ表面に吸着させた第一の磁気ビーズ21を第三のチューブ12から領域1aに投入する。なお、第二領域1bには、第一の電気泳動液18のみが投入される。その後、第一の電気泳動液18に第一の磁気ビーズ21からターゲット20を分離する酵素が加えられる。
【0081】
この時点でターゲット20は第一のリザーバー1の第一領域1a中で分散し、一定の濃縮率を保っている。次に実施の形態2と同様に、第二の電極7を接地したうえで正極とし、第一の電極6を負極として電圧を加える。ターゲット20は、負電荷となっており第一のリザーバー1からキャピラリー29に向かって移送される。このとき、第一の検出電極25は電気泳動でターゲット20をキャピラリー29に導くときは浮遊電極であって、第二の電極7と同様に接地されている。したがって、ターゲット20は第一の検出電極25の位置まで電気泳動で移送されるが、第一の検出電極25が設置されている領域では、実施の形態1と同様に外部電界E´を遮断しているので、ターゲット20の移動速度が一定となる。したがって、第一のリザーバー10の第一領域1a内のターゲット20は、キャピラリーの中央部29aで一定に濃縮される。すなわち、すべてのターゲット20は第一の検出電極25の上面の絶縁カバー28上に形成されたターゲット捕獲層5dに均一に付着する。
【0082】
その後、実施の形態1と同様に、第一のチューブ8から第二の磁気ビーズ22をキャピラリー29に投入し、先にターゲット捕獲層5d上に固定されたターゲット20と反応させ、一つのターゲット20に対して一つの第二の磁気ビーズ22を対応させる。
【0083】
次に、
図19を用いて第二の磁気ビーズ22の質量をQCMセンサー27で計測する手法について説明する。先ず、ターゲット20を供給する前に、第二の検出電極26にQCMの固有振動数に近い周波数で電圧を加える。このときの状況を
図19(a)に示す。この時は振動数ω0でせん断方向に振動する。
【0084】
図19(b)はターゲット捕獲層5d上に固定された一つのターゲット20に対して一つの第二の磁気ビーズ22を対応させた状態を示している。このとき、第一の検出電極25側には第二の磁気ビーズ22による質量増加のため、振動数ω0よりも低い周波数ωでせん断方向に振動する。
図19(c)に模式的に示したとおり、このω0からωを差し引いたδωが第二の磁気ビーズ22の増加量に比例する。よって、あらかじめ測定された質量増加量と周波数変化δωとの相関から付着した第二の磁気ビーズ22の数に換算することができ、元のターゲットの数を計測することができる。
【0085】
以上のように本実施の形態によれば、第一の検出電極25を接地することによりターゲット20を第一の検出電極25上に集積することができ、より正確なターゲット数の計測が可能になる。このように、QCMセンサーの第一の検出電極25を、導電体膜5bの役割を持たせることで、効率的にターゲット20を第一の検出電極25に集積させることができる。
【0086】
以上のとおり、検出装置の一例としてQCMセンサーを示したが、第二の磁気ビーズの質量を検出するために、圧電センサーを用いてもよい。
【0087】
なお、実施の形態1ないし3において、基板3の下方側に絶縁膜5Cを介して導電体膜5bを形成しているが、これらの膜を基板3の上方側に形成しても同等な効果が得られる。その場合は、基板3の下面に位置するマイクロ流体チップ4のキャピラリー10の底部10cを形成するようにターゲット捕獲層5dのみを設け、基板3の上面に絶縁膜5Cを形成し、さらにその上面にキャピラリー10と平行になるように導電体膜5bを形成すればよい。