【実施例】
【0094】
<固体電解質材料の評価>
〔固体電解質材料の作製〕
素原料として素原料としてLi
2O
3、ZrO
2、CaCO
3、Al
2O
3、TiO
2、Ge
2O
3、SiO
2及びNH
4H
2PO
4を用意し、これら素原料を焼結後に表1の組成となるように所定量秤量した。
【0095】
次に、これら秤量物をポリエチレン製のポットミルに投入し、16時間混合処理を行い、混合粉末を得た後、大気雰囲気下、温度500℃で熱処理を行い、さらに800℃で熱処理を行い、揮発成分を除去して原料粉末を得た。
【0096】
次いで、この原料粉末を純水及びPSZボールと共に、ポットミルに投入し、16時間粉砕処理を行い、その後乾燥させて水分を除去し、乾燥粉を得た。
【0097】
次いで、この乾燥粉を、大気雰囲気下、温度1200℃で熱処理を行い、これにより固体電解質材料A〜Fの粉末を作製した。
【0098】
次に、バインダ樹脂としてポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒としてエタノールを用意した。
【0099】
そして、これら固体電解質材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で固体電解質材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように秤量した。
【0100】
次いで、ポリビニルアセタール樹脂をエタノールに溶解させて有機ビヒクルを作製した後、該有機ビヒクルを上記固体電解質材料及びPSZボールと共にボールミルに投入し、十分に混合し、PSZボールを除去し、固体電解質スラリーを作製した。
【0101】
次いで、ドクターブレード法を使用し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に固体電解質スラリーを塗工し、40℃の温度に加熱したホットプレート上で乾燥し、35μmの厚みとなるように成形加工し、縦25mm、横25mmに切断し、これにより固体電解質グリーンシートを作製した。
【0102】
次に、固体電解質グリーンシートをPETフィルムから剥離させ、該固体電解質グリーンシートを10枚積層した。そして、これを60℃に加熱した2枚のステンレス製板で挟持し、98MPa(1000kg/cm
2)の圧力で熱圧着した後、ポリエチレン製フィルム容器に封入し、180MPaの静水圧プレスで加圧し、これにより固体電解質積層体を作製した。
【0103】
次いで、この固体電解質積層体を縦10mm、横10mmに切断し、2枚の多孔性セッターで挟持し、0.2MPa(2kg/cm
2)の圧力で加圧した状態で焼成処理を行った。すなわち、1vol%の酸素を含有した窒素雰囲気中で500℃の温度で脱脂処理を行った後、窒素雰囲気下、900℃の温度で2時間、焼成処理を行い、固体電解質材料A〜Fの焼結体を作製した。
【0104】
〔結晶系の同定〕
焼結体としての固体電解質材料A〜FをPt製の容器に投入し、X線回折装置を使用し、室温下、走査速度1.0°/minの速度で10°〜60°の測角範囲でX線スペクトルを測定した。
【0105】
図3は固体電解質材料A〜FのX線回折スペクトルを基準パターンA′〜F′と共に示している。横軸は回折角2θ(°)、縦軸はX線強度(a.u.)である。
【0106】
尚、基準パターンA′〜F′は、JCPDS(Joint Committee on Power Diffraction Standards)カードの結晶系パターンを示し、基準パターンA′はLiZr
2(PO
4)
3(以下、「LZP」という。)の三斜晶系パターン(No.01−074−2562)、基準パターンB′はLi
1.3Zr
2(P
0.9Si
0.1O
4)
3(以下、「LZPS」という。)の単斜晶系パターン(No.01−070−5819)、基準パターンC′はLi
1.1Zr
1.9Al
0.1(PO
4)
3(以下、「LZAP」という。)の単斜晶系パターン(No.01−070−5819)、基準パターンD′はLi
1.2Zr
1.9Ca
0.1(PO
4)
3((以下、「LZCP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−072−7742)、基準パターンE′はLi
1.2Ti
1.9Al
0.1(PO
4)
3(以下、「LTAP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−072−6140)、基準パターンF′はLi
1.5Ge
1.5Al
0.5(PO
4)
3(以下、「LGAP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−080−1922)である。
【0107】
この
図3から明らかなように、固体電解質材料Aの結晶系は、LZPの三斜晶系パターン(基準パターンA′)と略一致しており、固体電解質材料Aの結晶系は三斜晶系であると同定された。
【0108】
また、固体電解質材料Bの結晶系は、LZPSの単斜晶系パターン(基準パターンB′)と略一致しており、固体電解質材料Bの結晶系は単斜晶系であると同定された。
【0109】
さらに、固体電解質材料Cの結晶系は、LZAPの単斜晶系パターン(基準パターンC′)と略一致しており、固体電解質材料Cの結晶系は単斜晶系であると同定された。
【0110】
同様に、固体電解質材料D〜Fの結晶系は、それぞれLZCP、LTAP、及びLGAPの菱面体晶系パターンと略一致しており、これら固体電解質材料D〜Fの結晶系は菱面体晶系であると同定された。
【0111】
〔活性化エネルギーの測定〕
Ptをターゲット物質として固体電解質材料A〜Fの上記焼結体の両主面にスパッタリングを行い、一対の電極層を形成した。そして、これを100℃で乾燥させて雰囲気中から吸着した水分を除去した後、直径20mm、厚み3.2mmの電池缶に封入した。
【0112】
そして、これら固体電解質材料A〜Fの各試料について、20〜100℃の各温度に保持した恒温槽に配し、インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製、1255B)を使用し、測定周波数0.1〜1MHz、100mVの電圧を印加してインピーダンスZを測定した。次いで、インピーダンスZの逆数であるイオン伝導度σ(S/cm)と温度T(K)について、lnσ〜1/Tのグラフ上にプロットし、傾き−Ea/R(R=8.314J/K・mol)から活性化エネルギーEaを求めた。
【0113】
表1は、固体電解質材料A〜Fの組成、結晶系、及び活性化エネルギーEaを示している。
【0114】
【表1】
【0115】
試料番号A〜Fは、いずれもナシコン型構造を有するリン酸系化合物であり、同一組成系であるが、結晶系を異ならせることにより、活性化エネルギーEaを制御できることが分かった。
【0116】
<全固体電池の評価>
〔全固体電池の作製〕
(固体電解質層用グリーンシートの作製)
まず、固体電解質材料A〜D及びFを用意し、さらにバインダ樹脂としてポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒としてエタノールを用意した。
【0117】
次いで、これら固体電解質材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で第1の固体電解質材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように秤量した。
【0118】
その後、ポリビニルアセタール樹脂をエタノールに溶解させて有機ビヒクルを作製した後、該有機ビヒクルを上記第1の固体電解質材料及びPSZボールと共にボールミルに投入し、十分に混合し、PSZボールを除去し、試料番号1〜5の固体電解質スラリーを作製した。
【0119】
次いで、ドクターブレード法を使用し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に各固体電解質スラリーを塗工し、40℃の温度に加熱したホットプレート上で乾燥し、35μmの厚みとなるように成形加工し、縦:25mm、横:25mmに切断し、これにより試料番号1〜5の固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0120】
(正極層用グリーンシートの作製)
正極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、導電剤としてアセチレンブラック、及び固体電解質材料E及びFを用意した。
【0121】
次いで、これら正極活物質、導電剤、及び固体電解質材料が重量比率で正極活物質:導電剤:固体電解質材料=40:10:50となるように秤量し、これを正極材料とした。
【0122】
そして、正極材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で正極材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように、上述と同様、有機ビヒクルを作製した後、前記正極材料を粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、試料番号1〜5の正極スラリーを作製した。
【0123】
その後は上述と同様のドクターブレード法を使用し、試料番号1〜5の正極スラリーに成形加工を施し、厚みが35μmの正極層用グリーンシートを作製した。
【0124】
(負極層用グリーンシートの作製)
負極活物質としてNb
2O
5、導電剤としてアセチレンブラック、及び固体電解質材料D及びFを用意した。
【0125】
次いで、負極活物質、導電剤、及び固体電解質材料が重量比率で負極活物質:導電剤:固体電解質材料=40:10:50となるように秤量し、これを負極材料とした。
【0126】
そして、負極材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で正極材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように、上述と同様、有機ビヒクルを作製した後、前記負極材料を粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、試料番号1〜5の負極スラリーを作製した。
【0127】
その後は上述と同様のドクターブレード法を使用し、試料番号1〜5の負極スラリーに成形加工を施し、厚みが20μmの試料番号1〜5の負極層用グリーンシートを作製した。
【0128】
(積層焼結体の作製)
次に、前記固体電解質層用グリーンシート、前記正極層用グリーンシート、及び前記負極層用グリーンシートをそれぞれPETフィルムから剥離させ、1枚の正極層用グリーンシート上に5枚の固体電解質層用グリーンシート及び1枚の負極層用グリーンシートを順次積層した。そして、これを60℃に加熱した2枚のステンレス製板で挟持し、98MPa(1000kg/cm
2)の圧力で熱圧着した後、ポリエチレン製フィルム容器に封入し、180MPaの静水圧で等方圧プレスで加圧し、これにより固体電解質層グリーンシートが正極層用グリーンシート及び負極層用グリーンシートで挟持された積層構造体を作製した。
【0129】
次いで、この積層構造体を縦10mm、横10mmに切断し、2枚の多孔性セッターで挟持し、0.2MPa(2kg/cm
2)の圧力で加圧した状態で焼成処理を行った。すなわち、1vol%の酸素を含有した窒素雰囲気中で500℃の温度で脱脂処理を行った後、窒素雰囲気下、900℃の温度で2時間、焼成処理を行い、これにより試料番号1〜5の積層焼結体を作製した。
【0130】
(全固体電池の完成)
Ptをターゲット物質として積層焼結体にスパッタリングを行い、積層焼結体の両主面に正極集電体及び負極集電体をそれぞれ形成し、次いで、これを100℃で乾燥させて雰囲気中から吸着した水分を除去した後、直径20mm、厚み3.2mmの電池缶に封入し、これにより試料番号1〜5の全固体電池を作製した。
【0131】
〔全固体電池の評価〕
(容量特性の測定)
試料番号1〜5の各試料を100℃に保持した恒温槽に配した。そして、40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、3時間休止し、その後40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止して容量特性を測定した。尚、40μAの電流は、正極活物質の重量に対し約0.1Cの電流に相当する(1Cは1時間で充電又は放電が終了する電流量である。)。
【0132】
(室温保存性)
試料番号1〜5の各試料を100℃に保持した恒温槽に配した。そして、40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、3時間休止し、その後40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止し、100℃における初期容量特性を測定した。
【0133】
その後、再び40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、充電状態を維持し、恒温槽を25℃に温度調整し、該恒温槽内で30日間保管した。そして保管後、再び、恒温槽を100℃に調整し、40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止し、100℃における30日後容量特性を測定した。
【0134】
そして、数式(6)に基づき、100℃における初期容量C1と30日後容量C2とから容量保持率ηを算出した。
【0135】
η=C2/C1×100 …(6)
(測定結果の評価)
表2は、試料番号1〜5の各試料の正極層、固体電解質層、負極層の各組成、放電容量、及び容量保持率を示している。
【0136】
【表2】
【0137】
図4は、試料番号1〜5の各試料の100℃における容量特性を示している。横軸が容量(mAh/g)、縦軸が電圧(V)であり、実線で示す試料番号1〜3が本発明試料であり、破線で示す試料番号4、5は本発明外試料である。
【0138】
この表2及び
図4から明らかなように、試料番号4は、固体電解質層に含有される固体電解質材料と負極層に含有される固体電解質材料とが同一材料で形成されており、したがって第1の固体電解質材料と第2の固体電解質材料とで活性化エネルギーが同一であることから、放電容量が86mAh/gと低くなった。
【0139】
また、試料番号5は、固体電解質層に含有される固体電解質材料と正極層及び負極層に含有される固体電解質材料とが全て同一材料で形成されており、したがって試料番号4と同様、第1の固体電解質材料と第2の固体電解質材料とで活性化エネルギーが同一であるため、放電容量が84mAh/gと低くなった。
【0140】
これに対し試料番号1〜3は、いずれも固体電解質層に含有される固体電解質材料(第1の固体電解質材料)の活性化エネルギーEaが、電極層(正極層及び負極層)に含有される固体電解質材料(第2の固体電解質材料)の活性化エネルギーEaよりも大きく、その結果、放電容量が100mAh/g以上と良好な結果が得られた。
【0141】
図5〜9は、試料番号1〜5の初期容量特性及び30日後容量特性を示している。すなわち、
図5は試料番号1、
図6は試料番号2、
図7は試料番号3、
図8は試料番号4、
図9は試料番号5の各々初期容量特性及び30日後容量特性をそれぞれ示している。横軸は容量(mAh/g)、縦軸は電圧(V)である。
【0142】
試料番号4は、負極層に含有される第2の固体電解質材料が、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料と同一材料で形成されており、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが大きすぎるため、
図8に示すように、放電容量は初期には86mAh/gであったが、30日後には約60mAh/gとなり、容量保持率は70%に低下し、保存性に劣り、電池特性が劣化することが分かった。
【0143】
また、試料番号5は、正極層及び負極層に含有される第2の固体電解質材料が、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料と全て同一材料で形成されており、したがって、
図9に示すように試料番号4と同様、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが大きすぎるため、放電容量は初期には84mAh/gであったが、30日後には約54mAh/gとなり、容量保持率は64%に低下し、保存性に劣り、電池特性が劣化することが分かった。
【0144】
これに対し試料番号1〜3は、いずれも電極層(正極層及び負極層)に含有される第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料の活性化エネルギーEaよりも小さく、30日後においても97mAh/g以上の放電容量を確保でき、容量保持率は87%以上となって、保存性が良好で電池特性の劣化を抑制できることが分かった。