特許第6183783号(P6183783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183783
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20170814BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170814BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M10/052
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-198141(P2013-198141)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-65021(P2015-65021A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】林 剛司
(72)【発明者】
【氏名】尾内 倍太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰佑
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】石倉 武郎
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/137224(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/008422(WO,A1)
【文献】 特開2011−070939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層及び負極層が固体電解質層の両主面にそれぞれ設けられ、
前記固体電解質層に第1の固体電解質材料が含有されると共に、前記負極層に第2の固体電解質材料が含有され、
前記第1及び第2の固体電解質材料は、アレニウスプロットによる活性化エネルギーを有すると共に、
前記第1の固体電解質材料の前記活性化エネルギーは、前記第2の固体電解質材料の前記活性化エネルギーよりも大きいことを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記第1の固体電解質材料の前記活性化エネルギーは、50kJ/mol以上であることを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項3】
前記第1及び第2の固体電解質材料が有する前記各活性化エネルギーは、同一組成系における結晶系により制御されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の全固体電池。
【請求項4】
前記第1の固体電解質材料は、単斜晶系及び三斜晶系のうちのいずれか一方の結晶系を有する化合物を主体とし、
前記第2の固体電解質材料は、菱面体晶系を有する化合物を主体としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の全固体電池。
【請求項5】
前記第1及び前記第2の固体電解質材料は、結晶構造の基本骨格がナシコン型構造を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の全固体電池。
【請求項6】
前記第1及び前記第2の固体電解質材料は、リン酸系化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の全固体電池。
【請求項7】
前記第1の固体電解質材料は、主成分がリチウム含有リン酸ジルコニウム系化合物であることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の全固体電池。
【請求項8】
前記リチウム含有リン酸ジルコニウム系化合物は、リン元素の一部がケイ素元素で置換されていることを特徴とする請求項7記載の全固体電池。
【請求項9】
前記第2の固体電解質材料は、主成分が一般式LiM1M2(PO(ただし、M1は、Ti、Ge、及びZrの中から選択された少なくとも一種を含み、M2は、Mg、Ca、Ba、Al、Cr、In、Sc、Y、及びHfの中から選択された少なくとも1種を含む。)で表され、
前記x、y、zは、それぞれ
0.5≦x≦4、
0.5≦y≦2、
0≦z≦1.5
を満足することを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の全固体電池。
【請求項10】
前記正極層が前記第2固体電解質材料を含有すると共に、前記正極層及び前記負極層のそれぞれに含有される前記第2の固体電解質材料は互いに異なることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池に関し、より詳しくは電極層が固体電解質層の両主面に設けられ、これら固体電解質層及び電極層のそれぞれに固体電解質材料が含有された全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用電子機器の市場拡大に伴い、これら電子機器のコードレス電源として二次電池の開発が盛んに行なわれている。また、地球温暖化や石油資源の枯渇化等を背景に二次電池を動力源とした電気自動車やハイブリッド自動車の開発も盛んに行われている。
【0003】
このような状況下、リチウムイオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用したリチウムイオン二次電池が既に普及している。
【0004】
しかしながら、この種のリチウムイオン二次電池では、イオンを移動させるための媒体として、通常、有機化合物を主体とした液体電解質(電解液)が使用されているが、この液体電解質は二次電池の缶体から外部に漏出するおそれがある。また、液体電解質として通常使用される有機化合物は可燃性物質であるため、十分な安全性を確保することができず、高温安定性や耐久性にも劣る。
【0005】
このため、今日では液体電解質に代えて固体電解質を使用した二次電池の研究・開発が盛んに行われており、さらには電解質を固体電解質で構成し、かつ他の構成部材も固体で構成した全固体電池の開発も盛んに行われている。
【0006】
例えば、特許文献1では、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、前記正極層および負極層の間に形成された固体電解質層とを有し、前記正極層および前記負極層の少なくとも一つが、酸化物活物質と、酸化前と酸化後とで界面抵抗増加率が2倍以下であるガラス状硫化物固体電解質材料とを含有した全固体電池が提案されている。
【0007】
すなわち、ガラス状硫化物は良好なイオン伝導性を有するものの、該ガラス状硫化物を電極層中の固体電解質材料に使用した場合、高温雰囲気下で電極層中の酸化物活物質と接触すると、ガラス状硫化物が熱によって酸化し、イオン伝導度の低下を招いて内部抵抗が増大するおそれがある。
【0008】
そこで、特許文献1では、酸化前と酸化後とで界面抵抗増加率が2倍以下となるようなガラス状硫化物固体電解質材料を電極層中に含有させ、これにより固体電解質材料の劣化を抑制しようとしている。
【0009】
また、この特許文献1では、ガラス状硫化物は、良好なイオン伝導性を有することから、固体電解質層にも使用されている。
【0010】
さらに、特許文献2には、主相にLiSi1/3(X+4Y)(ただし、X>0、Y>0)で表される組成を有し、Caを含むリチウムケイ素窒化物焼結体が提案されている。
【0011】
この特許文献2では、Liの一部をCaで置換することにより、活性化エネルギーを低下させ、これにより高温状態から温度が低下してもイオン伝導度が低下するのを抑制するようにしている。
【0012】
すなわち、この特許文献2では、Caの置換量により活性化エネルギーを変動させ、これによりイオン伝導度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012−094446号公報(請求項1、段落番号〔0008〕、〔0059〕、〔0072〕、〔0085〕等)
【特許文献2】特開2012−101981号公報(請求項1、段落番号〔0001〕、〔0014〕、〔0042〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記全固体電池では、高温域でのイオン伝導度を大きくすることにより、高温雰囲気で使用しても所望の容量特性を確保することが可能となる。一方、室温付近ではイオン伝導度を小さくすることにより、室温付近での自己放電が少なくなることから、良好な保存性を得ることが可能となる。さらに、電極層ではイオン伝導度の温度変動に対するバラツキを抑制するのが好ましく、これにより電極層の内部抵抗のバラツキを抑制でき、電池特性の劣化を抑制できると考えられる。
【0015】
したがって、この種の全固体電池では、温度変動に対するイオン伝導度の制御を適切に行うのが望ましい。
【0016】
しかしながら、特許文献1は、高温雰囲気でのイオン伝導度の低下を抑制しているものの、温度変動に対してはイオン伝導度の制御を行っていないため、室温付近で良好な保存性を確保するのは困難である。また、上述したように温度変動に対しイオン伝導度の制御を行なっていないことから、温度変動に起因してイオン伝導度のバラツキが電極層内で生じると、電極層の内部抵抗にもバラツキが生じ、このため特性劣化を招くおそれがある。
【0017】
また、特許文献2は、Caの置換量によりイオン伝導度を制御し、これにより高温状態から温度が低下してもイオン伝導度が低下するのを抑制しようとしているが、特許文献1と同様、温度変動に対してイオン伝導度を制御したものではなく、室温付近で良好な保存性を確保するのは困難であり、また、電極層の内部抵抗にバラツキが生じ、特性劣化を招くおそれがある。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、高温雰囲気で使用しても大きな容量を確保できる良好な容量特性を有し、かつ保存性が良好で電池特性の劣化を極力抑制できる焼結式の全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
イオン伝導度と温度との関係は、アレニウスの式に依存することが知られておる。
【0020】
後述するアレニウスの式によると、イオン伝導度は、温度が高くなると大きくなり、低温になると小さくなる。そして、活性化エネルギーが大きい場合は、温度差に対するイオン伝導度の変動も大きくなる。したがって、このような活性化エネルギーの大きい固体電解質材料を固体電解質層に使用すると、高温雰囲気ではより大きなイオン伝導度を得ることができ、所望の大容量の全固体電池を得ることが可能となる。一方、低温雰囲気ではイオン伝導度は十分に小さくなり、自己放電も少なくなることから、室温付近での良好な保存性を確保することが可能となる。
【0021】
また、活性化エネルギーが小さい場合は、温度差に対するイオン伝導度の変動が小さくなる。したがって、このような活性化エネルギーの小さい固体電解質材料を電極層、例えば負極層に使用すると、温度変動に伴うイオン伝導度の変化も小さくなり、電極層での内部抵抗のバラツキも抑制できることから、電池特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0022】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る全固体電池は、正極層及び負極層が固体電解質層の両主面にそれぞれ設けられ、前記固体電解質層に第1の固体電解質材料が含有されると共に、前記負極層に第2の固体電解質材料が含有され、前記第1及び第2の固体電解質材料は、アレニウスプロットによる活性化エネルギーを有すると共に、前記第1の固体電解質材料の前記活性化エネルギーは、前記第2の固体電解質材料の前記活性化エネルギーよりも大きいことを特徴としている。
【0023】
また、本発明の全固体電池は、前記第1の固体電解質材料の前記活性化エネルギーは、50kJ/mol以上であるのが好ましい。
【0024】
これにより、100mAh/g以上の大きな放電容量を得ることが可能となり、保存性にもより一層の好影響を及ぼし、長時間保存した後、再使用しても所望の容量を有する容量特性の良好な全固体電池を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明の全固体電池は、前記第1及び第2の固体電解質材料が有する前記各活性化エネルギーは、同一組成系における結晶系により制御されるのが好ましい。
【0026】
これにより、第1及び第2の固体電解質材料は、結晶構造の基本骨格が同一となり、各層間で良好な界面接合を確保することが可能となる。
【0027】
また、本発明の全固体電池は、前記第1の固体電解質材料は、単斜晶系及び三斜晶系のうちのいずれか一方の結晶系を有する化合物を主体とし、前記第2の固体電解質材料は、菱面体晶系を有する化合物を主体とするのが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の全固体電池は、前記第1及び第2の固体電解質材料は、結晶構造の基本骨格がナシコン型構造を有しているのがより好ましい。
【0029】
これにより電極層間でLiイオン等の陽イオンを容易に移動させることが可能となる。
【0030】
また、本発明の全固体電池は、前記第1及び前記第2の固体電解質材料が、リン酸系化合物を含むのが好ましい。
【0031】
また、本発明の全固体電池では、前記第1の固体電解質材料は、主成分がリチウム含有リン酸ジルコニウム系化合物であるのが好ましい。
【0032】
この場合、前記リチウム含有リン酸ジルコニウム系化合物は、リン元素の一部がケイ素元素で置換されていてもよい。
【0033】
さらに、本発明の全固体電池では、前記第2の固体電解質材料は、主成分が一般式LiM1M2(PO(ただし、M1は、Ti、Ge、及びZrの中から選択された少なくとも一種を含み、M2は、Mg、Ca、Ba、Al、Cr、In、Sc、Y、及びHfの中から選択された少なくとも1種を含む。)で表され、 前記x、y、zは、それぞれ0.5≦x≦4、0.5≦y≦2、0≦z≦1.5を満足するのが好ましい。
【0034】
また、本発明の全固体電池は、前記正極層が前記第2固体電解質材料を含有すると共に、前記正極層及び前記負極層のそれぞれに含有される前記第2の固体電解質材料は互いに異なるのが好ましい。
【0035】
これにより、例えば負極層が耐還元性を優先した第2の固体電解質材料を含有させ、正極層がイオン伝導性を優先した第2の固体電解質材料を含有させることにより、低電位でも所望の充放電反応を遂行することが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の全固体電池によれば、正極層及び負極層が固体電解質層の両主面にそれぞれ設けられ、前記固体電解質層に第1の固体電解質材料が含有されると共に、前記負極層に第2の固体電解質材料が含有され、前記第1及び第2の固体電解質材料は、アレニウスプロットによる活性化エネルギーを有すると共に、前記第1の固体電解質材料の前記活性化エネルギーは、前記第2の固体電解質材料の前記活性化エネルギーよりも大きいので、高温雰囲気ではより大きなイオン伝導度を得ることができる一方、低温雰囲気ではイオン伝導度は十分に小さくなり、自己放電も少なくなることから室温付近での良好な保存性を確保することが可能となる。また、電極層内では、温度変動に伴うイオン伝導度の変化も小さくなり、内部抵抗のバラツキも抑制できることから、電池特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0037】
このように本発明によれば、容量特性が良好で大容量を有し、かつ保存性が良好で、電池特性の劣化を抑制できる全固体電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係る全固体電池の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図2】イオン伝導度σと温度Tとの関係を示すアレニウスプロットを模式的に示す図である。
図3】実施例で作製した固体電解質材料A〜FのX線スペクトルを結晶系の基準パターンと共に示した図である。
図4】試料番号1〜5の各試料の容量特性を示す図である。
図5】試料番号1の初期容量特性及び30日後の容量特性を示す図である。
図6】試料番号2の初期容量特性及び30日後の容量特性を示す図である。
図7】試料番号3の初期容量特性及び30日後の容量特性を示す図である。
図8】試料番号4の初期容量特性及び30日後の容量特性を示す図である。
図9】試料番号5の初期容量特性及び30日後の容量特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0040】
図1は、本発明に係る全固体電池の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【0041】
この全固体電池は、積層焼結体1の一方の主面に正極集電体2が形成され、前記積層焼結体1の他方の主面に負極集電体3が形成されている。
【0042】
正極集電体2及び負極集電体3を形成する集電体材料としては、電子伝導性が良好で積層焼結体1との密着性が良好な導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えばPt、Au、Ag、Al、Cu、ステンレス、ITO(酸化インジウムスズ)等を使用することができる。
【0043】
積層焼結体1は、固体電解質層4の両主面に電極層、すなわち正極層5及び負極層6が設けられている。
【0044】
固体電解質層4は、少なくとも第1の固体電解質材料を含有すると共に、電極層5、6は、少なくとも活物質(正極活物質又は負極活物質)、第2の固体電解質材料、及び導電剤を含有している。
【0045】
そして、前記第1及び第2の固体電解質材料は、第1の固体電解質材料の活性化エネルギーが、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーよりも大きくなるように、材料選択される。
【0046】
これによりイオン伝導度は、活性化エネルギーを介して温度制御されることから、高温雰囲気で使用しても大きな容量を確保できる良好な容量特性を有し、かつ保存性が良好で電池特性の劣化を極力抑制できる焼結式の全固体電池を得ることができる。
【0047】
すなわち、イオン伝導度σと温度Tとの関係は、数式(1)で示すアレニウスの式に依存することが知られている。
【0048】
【数1】
【0049】
ここで、Aは頻度因子、Rは気体定数(=8.314J/K・mol)、Eaは活性化エネルギーである。
【0050】
数式(1)を対数表示で表すと、数式(2)に示すようになる。
【0051】
【数2】
【0052】
図2は、イオン伝導度σと温度Tとの関係を示すアレニウスプロットであり、横軸は1/T、縦軸はlnσを示している。線図の傾き−Ea/Rは活性化エネルギーEaの大きさに応じ、図中のP、Qのようになる。
【0053】
すなわち、活性化エネルギーEaが大きい場合は、線図Pに示すように、温度Tが高くなるのに伴いイオン伝導度σがより大きくなり、温度Tが低くなるのに伴いイオン伝導度σがより小さくなる。したがって、活性化エネルギーEaが大きい固体電解質材料(第1の固体電解質材料)を固体電解質層4に使用すると、高温雰囲気(例えば、100℃以上)で使用しても、イオン伝導度が十分に大きく、これにより大きな容量を有する良好な容量特性を確保することが可能となる。しかも、この場合、低温ではイオン伝導度σが小さくなることから、低温雰囲気では自己放電を少なくすることができ、室温付近(25℃前後)で保存する際に保存性が向上し、長時間保管した後、再使用しても十分な容量を確保することが可能となる。
【0054】
一方、活性化エネルギーEaが小さい場合は、線図Qに示すように、温度変動が生じてもイオン伝導度σの変化は小さく、温度変化に対するイオン伝導度σのバラツキを抑制することができる。したがって、このような活性化エネルギーEaの小さい固体電解質材料(第2の固体電解質材料)を電極層5、6に使用することにより、温度変動に伴うイオン伝導度σのバラツキを抑制でき、これにより電極層5、6の内部抵抗のバラツキが抑制できることから、電極層5、6の特性劣化を抑制することができる。
【0055】
このように固体電解質層4と電極層5、6とで活性化エネルギーEaの異なる材料を使用し、第1の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaよりも大きい材料を選択して使用することにより、高温雰囲気で使用しても大きな容量を確保できる良好な容量特性を有し、かつ室温付近で保存しても保存性が良好で電池特性の劣化を極力抑制できる焼結式の全固体電池を得ることができる。
【0056】
尚、第1の固体電解質材料の活性化エネルギーEaは、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaよりも大きいのであれば、そのエネルギー値は特に限定されないが、50kJ/mol以上が好ましい。
【0057】
第1の固体電解質材料が50kJ/mol以上の活性化エネルギーを有することにより、高温雰囲気で100mAh/g以上の大きな放電容量を確保することができ、良好な容量特性を得ることができる。しかも、このように大きな放電容量が得られることから、保存性にもより一層の好影響を及ぼし、長期間保管した後、再使用する際に十分に大きな容量を有して使用することが可能となる。
【0058】
また、第1及び第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaの制御手法は、特に限定されるものではないが、同一組成系における結晶系により制御するのが好ましい。イオン伝導度は結晶系に強く依存する。そして、同一組成系の場合、結晶構造の基本骨格が同一であることから、固体電解質層4と電極層5、6との間で密着性の良好な接合界面を得ることができ、良好な電池特性を確保することができる。
【0059】
そして、このような結晶系としては、活性化エネルギーEaの大きな第1の固体電解質材料には単斜晶系や三斜晶系を有する化合物を好んで使用することができ、第2の固体電解質材料には、菱面体晶系を有する化合物を好んで使用することができる。
【0060】
尚、これら結晶系は、実使用温度領域(例えば、25〜200℃)で所望の結晶系を保持できればよく、高温域では結晶系が転移することは許容される。例えば、第1の固体電解質材料は、実使用温度領域で、結晶系が三斜晶系や単斜晶系であればよく、実使用温度領域を超える高温域では、これらの結晶系から菱面体晶系等に転移してもよい。
【0061】
また、組成系としては、結晶構造の基本骨格がナシコン型構造を有する化合物を好んで使用することができる。
【0062】
ナシコン型構造は、一般式Y(XO(Y:遷移金属、X:P、S、Mo、W等)で表すことができ、正八面体YOの頂点と正四面体XOの頂点とが共有されて三次元的に配列された構造を有し、結晶構造中に大きな空隙を有し、Liイオン等の陽イオンが容易に移動することから、陽イオンを移動させるための媒体として優れている。特に、ナシコン型構造の中でも正四面体XOのポリアニオンがPOで形成されたリン酸系化合物は固体電解質4及び電極層5、6を緻密に一体焼結できることから好ましい。
【0063】
そして、このようなナシコン型構造を有する固体電解質材料のうち、第1の固体電解質材料としては、中心金属が耐還元性の良好なZrで形成されたリチウム含有リン酸ジルコニウム系化合物が好ましく、特に三斜晶系のLiZr(POや単斜晶系のLi1.3Zr(P0.9Si0.1は、50kJ/mol以上の活性化エネルギーEaを有することから、より好ましい。
【0064】
また、第2の固体電解質材料としては、主成分が、一般式(A)で表されるリチウム含有リン酸化合物を好んで使用することができる。
【0065】
LiM1M2(PO …(A)
ここで、M1は、Ti、Ge、及びZrの中から選択された少なくとも1種を含み、M2は、Mg、Ca、Ba、Al、Cr、In、Sc、Y、及びHfの中から選択された少なくとも1種を含んでいる。
【0066】
また、一般式(A)中のx、y、zは、下記数式(3)〜(5)を満足するのが好ましい。
【0067】
0.5≦x≦4 …(3)
0.5≦y≦2 …(4)
0≦z≦1.5 …(5)
具体的には、第2の固体電解質材料としては、LiTi(PO、Li1.2Ti1.8Al0.2(PO、Li1.2Ti1.2Al0.2(PO、Li1.5Ge1.5Al0.5(PO、Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO等を使用することができる。
【0068】
尚、これら第2の固体電解質材料のうち、負極層6は、負極の低電位に対し電気化学的に安定している必要があることから、中心元素として耐還元性が良好なZrを含有したリチウム含有リン酸化合物、例えばLi1.2Zr1.9Ca0.1(POを使用するのがより好ましい。一方、正極層5は、そのような規制はなく、イオン伝導度を優先するのが好ましく、したがってイオン伝導性が良好なTiを中心元素として含有したLiTi(PO3、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO等を好んで使用することができる。
【0069】
次に、本全固体電池の製造方法を詳述する。
【0070】
まず、活性化エネルギーEaが好ましくは50kJ/mol以上のLiZr(PO等のナシコン型構造を有する第1の固体電解質材料、ポリビニルアセタール樹脂等のバインダ樹脂、及びエタノール等の有機溶媒を用意し、これら第1の固体電解質材料、バインダ樹脂、及び有機溶媒が所定の重量比率となるように秤量する。
【0071】
そして、バインダ樹脂を有機溶媒に溶解させて有機ビヒクルを作製した後、第1の固体電解質材料及びPSZ(部分安定化ジルコニア)ボール等の粉砕媒体と共にボールミルに投入し、十分に混合・粉砕し、固体電解質スラリーを作製する。
【0072】
次に、正極活物質、導電剤、及び活性化エネルギーEaが第1の固体電解質材料よりも小さく、好ましくは中心金属にTiを含有したナシコン型構造を有する第2の固体電解質材料を用意し、これら正極活物質、導電剤、及び第2の固体電解質材料を所定量秤量し、正極材料を得る。
【0073】
そして、この正極材料を上記粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、正極スラリーを作製する。
【0074】
ここで、正極活物質としては、特に限定されるものではなく、例えばLi(PO、LiFePO、LiMnPO等のリン酸化合物、LiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等のコバルト化合物、LiMnO、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型構造の化合物を単独で或いはこれらを組み合わせて使用することができる。
【0075】
また、導電剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子などを使用することができる。
【0076】
次に、負極活物質、導電剤、及び活性化エネルギーEaが第1の固体電解質材料よりも小さく、好ましくは中心金属にZrを含有したナシコン型構造を有する第2の固体電解質材料を用意し、これら負極活物質、導電剤、及び第2の固体電解質材料を所定量秤量し、負極材料を得る。
【0077】
ここで、負極活物質としては、特に限定されるものではなく、例えばNb、TiO、SiO、SnO、MoO、Cr、Fe、NiO、MnO、CoO、CuO、CuO、WO、V、RuO等を単独で或いは組み合わせて使用することができる。
【0078】
尚、導電剤としては、正極材料で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0079】
そして、この負極材料を粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、負極スラリーを作製する。
【0080】
次に、上述のようにして作製された固体電解質スラリー、正極スラリー及び負極スラリーに対しドクターブレード法、ダイコータ法、コンマコーター法、スクリーン印刷法等を使用してベースフィルム上に塗布して成形加工を施し、それぞれ所定厚みの固体電解質層用グリーンシート、正極層用グリーンシート、及び負極層用グリーンシートを作製する。
【0081】
次に、前記固体電解質層用グリーンシート、前記正極層用グリーンシート、及び前記負極層用グリーンシートをそれぞれベースフィルムから剥離させ、正極層用グリーンシート、固体電解質層用グリーンシート、及び負極層用グリーンシートを所定枚数ずつ順次積層し、所定圧力で熱圧着した後、フィルム容器に封入し、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等の方法で加圧し、これにより固体電解質層グリーンシートが正極層用グリーンシート及び負極層用グリーンシートで挟持された積層構造体を作製する。
【0082】
次いで、この積層構造体を所定温度で脱脂処理した後、焼成処理を行い、これにより固体電解質4の両主面に正極層5及び負極層6が形成された積層焼結体1を作製する。
【0083】
最後に、スパッタリング法、真空蒸着法等の薄膜形成法を使用し、積層焼結体1の両主面に正極集電体2及び負極集電体3を形成し、その後、これを乾燥させて雰囲気中から吸着した水分を除去した後、電池缶に封入し、これにより全固体電池が作製される。
【0084】
このように本実施の形態では、電極層5、6が固体電解質層4の両主面に設けられ、固体電解質層4に第1の固体電解質材料が含有されると共に、電極層5、6に第2の固体電解質材料が含有され、かつ第1の固体電解質材料の活性化エネルギーは、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーよりも大きいので、高温雰囲気ではより大きなイオン伝導度を得ることができる一方、低温雰囲気ではイオン伝導度は十分に小さくなり、自己放電も少なくなることから室温付近での良好な保存性を確保することが可能となる。また、電極層内では、温度変動に伴うイオン伝導度の変化も小さくなり、内部抵抗のバラツキも抑制できることから、電池特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0085】
また、第1の固体電解質材料の活性化エネルギーEaを50kJ/mol以上とすることにより、100mAh/g以上の大きな放電容量を得ることが可能となり、保存性にもより一層の好影響を及ぼし、長時間保存した後、再使用しても所望の容量を有する容量特性の良好な全固体電池を得ることができる。
【0086】
また、第1及び第2の固体電解質材料が有する各活性化エネルギーは、同一組成系における結晶系により制御されることにより、第1及び第2の固体電解質材料は、結晶構造の基本骨格が同一となり、各層間で良好な界面接合を確保することが可能となる。
【0087】
さらに、第1及び第2の固体電解質材料は、結晶構造の基本骨格がナシコン型構造を有することにより、電極層5、6間でLiイオン等の陽イオンを容易に移動させることが可能となる。
【0088】
また、正極層5及び負極層6は互いに異なる第2の固体電解質材料を含有することにより、負極層6には耐還元性が良好なZrを含有した第2の固体電解質材料を使用し、正極層5にはイオン伝導性が良好なTiを含有した第2の固体電解質材料を使用することが可能となり、低電位でも所望の充放電反応を遂行することが可能となる。
【0089】
このように本発明によれば、容量特性が良好で大容量を有し、かつ保存性が良好で、電池特性の劣化を抑制できる全固体電池を得ることが可能となる。
【0090】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、固体電解質層4は、1層の固体電解質層用グリーンシートで形成されているが、2層構造以上の多層構造としてもよく、この場合電極層5、6に含有される第2の固体電解質層の活性化エネルギーより大きいのであれば、異なる活性化エネルギーを有する複数種の第1の固体電解質材料を組み合わせてもよい。
【0091】
また、固体電解質層4及び電極層5、6にそれぞれ含有される第1及び第2の固体電解質材料についても、複数種の材料種の混合粉を使用してもよい。
【0092】
また、固体電解質スラリー、正極スラリー及び負極スラリーの作製方法についても、上記実施の形態では、ボールミルを使用して作製しているが、ビスコミル法、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法、ニーダー分散法等を使用してもよい。また、これら各スラリーにフタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステルなどを可塑剤として添加してもよい。
【0093】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0094】
<固体電解質材料の評価>
〔固体電解質材料の作製〕
素原料として素原料としてLi、ZrO、CaCO、Al、TiO、Ge、SiO及びNHPOを用意し、これら素原料を焼結後に表1の組成となるように所定量秤量した。
【0095】
次に、これら秤量物をポリエチレン製のポットミルに投入し、16時間混合処理を行い、混合粉末を得た後、大気雰囲気下、温度500℃で熱処理を行い、さらに800℃で熱処理を行い、揮発成分を除去して原料粉末を得た。
【0096】
次いで、この原料粉末を純水及びPSZボールと共に、ポットミルに投入し、16時間粉砕処理を行い、その後乾燥させて水分を除去し、乾燥粉を得た。
【0097】
次いで、この乾燥粉を、大気雰囲気下、温度1200℃で熱処理を行い、これにより固体電解質材料A〜Fの粉末を作製した。
【0098】
次に、バインダ樹脂としてポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒としてエタノールを用意した。
【0099】
そして、これら固体電解質材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で固体電解質材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように秤量した。
【0100】
次いで、ポリビニルアセタール樹脂をエタノールに溶解させて有機ビヒクルを作製した後、該有機ビヒクルを上記固体電解質材料及びPSZボールと共にボールミルに投入し、十分に混合し、PSZボールを除去し、固体電解質スラリーを作製した。
【0101】
次いで、ドクターブレード法を使用し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に固体電解質スラリーを塗工し、40℃の温度に加熱したホットプレート上で乾燥し、35μmの厚みとなるように成形加工し、縦25mm、横25mmに切断し、これにより固体電解質グリーンシートを作製した。
【0102】
次に、固体電解質グリーンシートをPETフィルムから剥離させ、該固体電解質グリーンシートを10枚積層した。そして、これを60℃に加熱した2枚のステンレス製板で挟持し、98MPa(1000kg/cm)の圧力で熱圧着した後、ポリエチレン製フィルム容器に封入し、180MPaの静水圧プレスで加圧し、これにより固体電解質積層体を作製した。
【0103】
次いで、この固体電解質積層体を縦10mm、横10mmに切断し、2枚の多孔性セッターで挟持し、0.2MPa(2kg/cm)の圧力で加圧した状態で焼成処理を行った。すなわち、1vol%の酸素を含有した窒素雰囲気中で500℃の温度で脱脂処理を行った後、窒素雰囲気下、900℃の温度で2時間、焼成処理を行い、固体電解質材料A〜Fの焼結体を作製した。
【0104】
〔結晶系の同定〕
焼結体としての固体電解質材料A〜FをPt製の容器に投入し、X線回折装置を使用し、室温下、走査速度1.0°/minの速度で10°〜60°の測角範囲でX線スペクトルを測定した。
【0105】
図3は固体電解質材料A〜FのX線回折スペクトルを基準パターンA′〜F′と共に示している。横軸は回折角2θ(°)、縦軸はX線強度(a.u.)である。
【0106】
尚、基準パターンA′〜F′は、JCPDS(Joint Committee on Power Diffraction Standards)カードの結晶系パターンを示し、基準パターンA′はLiZr(PO(以下、「LZP」という。)の三斜晶系パターン(No.01−074−2562)、基準パターンB′はLi1.3Zr(P0.9Si0.1(以下、「LZPS」という。)の単斜晶系パターン(No.01−070−5819)、基準パターンC′はLi1.1Zr1.9Al0.1(PO(以下、「LZAP」という。)の単斜晶系パターン(No.01−070−5819)、基準パターンD′はLi1.2Zr1.9Ca0.1(PO((以下、「LZCP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−072−7742)、基準パターンE′はLi1.2Ti1.9Al0.1(PO(以下、「LTAP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−072−6140)、基準パターンF′はLi1.5Ge1.5Al0.5(PO(以下、「LGAP」という。)の菱面体晶系パターン(No.01−080−1922)である。
【0107】
この図3から明らかなように、固体電解質材料Aの結晶系は、LZPの三斜晶系パターン(基準パターンA′)と略一致しており、固体電解質材料Aの結晶系は三斜晶系であると同定された。
【0108】
また、固体電解質材料Bの結晶系は、LZPSの単斜晶系パターン(基準パターンB′)と略一致しており、固体電解質材料Bの結晶系は単斜晶系であると同定された。
【0109】
さらに、固体電解質材料Cの結晶系は、LZAPの単斜晶系パターン(基準パターンC′)と略一致しており、固体電解質材料Cの結晶系は単斜晶系であると同定された。
【0110】
同様に、固体電解質材料D〜Fの結晶系は、それぞれLZCP、LTAP、及びLGAPの菱面体晶系パターンと略一致しており、これら固体電解質材料D〜Fの結晶系は菱面体晶系であると同定された。
【0111】
〔活性化エネルギーの測定〕
Ptをターゲット物質として固体電解質材料A〜Fの上記焼結体の両主面にスパッタリングを行い、一対の電極層を形成した。そして、これを100℃で乾燥させて雰囲気中から吸着した水分を除去した後、直径20mm、厚み3.2mmの電池缶に封入した。
【0112】
そして、これら固体電解質材料A〜Fの各試料について、20〜100℃の各温度に保持した恒温槽に配し、インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製、1255B)を使用し、測定周波数0.1〜1MHz、100mVの電圧を印加してインピーダンスZを測定した。次いで、インピーダンスZの逆数であるイオン伝導度σ(S/cm)と温度T(K)について、lnσ〜1/Tのグラフ上にプロットし、傾き−Ea/R(R=8.314J/K・mol)から活性化エネルギーEaを求めた。
【0113】
表1は、固体電解質材料A〜Fの組成、結晶系、及び活性化エネルギーEaを示している。
【0114】
【表1】
【0115】
試料番号A〜Fは、いずれもナシコン型構造を有するリン酸系化合物であり、同一組成系であるが、結晶系を異ならせることにより、活性化エネルギーEaを制御できることが分かった。
【0116】
<全固体電池の評価>
〔全固体電池の作製〕
(固体電解質層用グリーンシートの作製)
まず、固体電解質材料A〜D及びFを用意し、さらにバインダ樹脂としてポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒としてエタノールを用意した。
【0117】
次いで、これら固体電解質材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で第1の固体電解質材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように秤量した。
【0118】
その後、ポリビニルアセタール樹脂をエタノールに溶解させて有機ビヒクルを作製した後、該有機ビヒクルを上記第1の固体電解質材料及びPSZボールと共にボールミルに投入し、十分に混合し、PSZボールを除去し、試料番号1〜5の固体電解質スラリーを作製した。
【0119】
次いで、ドクターブレード法を使用し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に各固体電解質スラリーを塗工し、40℃の温度に加熱したホットプレート上で乾燥し、35μmの厚みとなるように成形加工し、縦:25mm、横:25mmに切断し、これにより試料番号1〜5の固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0120】
(正極層用グリーンシートの作製)
正極活物質としてLi(PO、導電剤としてアセチレンブラック、及び固体電解質材料E及びFを用意した。
【0121】
次いで、これら正極活物質、導電剤、及び固体電解質材料が重量比率で正極活物質:導電剤:固体電解質材料=40:10:50となるように秤量し、これを正極材料とした。
【0122】
そして、正極材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で正極材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように、上述と同様、有機ビヒクルを作製した後、前記正極材料を粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、試料番号1〜5の正極スラリーを作製した。
【0123】
その後は上述と同様のドクターブレード法を使用し、試料番号1〜5の正極スラリーに成形加工を施し、厚みが35μmの正極層用グリーンシートを作製した。
【0124】
(負極層用グリーンシートの作製)
負極活物質としてNb、導電剤としてアセチレンブラック、及び固体電解質材料D及びFを用意した。
【0125】
次いで、負極活物質、導電剤、及び固体電解質材料が重量比率で負極活物質:導電剤:固体電解質材料=40:10:50となるように秤量し、これを負極材料とした。
【0126】
そして、負極材料、ポリビニルアセタール樹脂及びエタノールが重量比率で正極材料:ポリビニルアセタール樹脂:エタノール=100:15:140となるように、上述と同様、有機ビヒクルを作製した後、前記負極材料を粉砕媒体及び上記有機ビヒクルと共にポットミルに投入し、十分に混合・粉砕し、試料番号1〜5の負極スラリーを作製した。
【0127】
その後は上述と同様のドクターブレード法を使用し、試料番号1〜5の負極スラリーに成形加工を施し、厚みが20μmの試料番号1〜5の負極層用グリーンシートを作製した。
【0128】
(積層焼結体の作製)
次に、前記固体電解質層用グリーンシート、前記正極層用グリーンシート、及び前記負極層用グリーンシートをそれぞれPETフィルムから剥離させ、1枚の正極層用グリーンシート上に5枚の固体電解質層用グリーンシート及び1枚の負極層用グリーンシートを順次積層した。そして、これを60℃に加熱した2枚のステンレス製板で挟持し、98MPa(1000kg/cm)の圧力で熱圧着した後、ポリエチレン製フィルム容器に封入し、180MPaの静水圧で等方圧プレスで加圧し、これにより固体電解質層グリーンシートが正極層用グリーンシート及び負極層用グリーンシートで挟持された積層構造体を作製した。
【0129】
次いで、この積層構造体を縦10mm、横10mmに切断し、2枚の多孔性セッターで挟持し、0.2MPa(2kg/cm)の圧力で加圧した状態で焼成処理を行った。すなわち、1vol%の酸素を含有した窒素雰囲気中で500℃の温度で脱脂処理を行った後、窒素雰囲気下、900℃の温度で2時間、焼成処理を行い、これにより試料番号1〜5の積層焼結体を作製した。
【0130】
(全固体電池の完成)
Ptをターゲット物質として積層焼結体にスパッタリングを行い、積層焼結体の両主面に正極集電体及び負極集電体をそれぞれ形成し、次いで、これを100℃で乾燥させて雰囲気中から吸着した水分を除去した後、直径20mm、厚み3.2mmの電池缶に封入し、これにより試料番号1〜5の全固体電池を作製した。
【0131】
〔全固体電池の評価〕
(容量特性の測定)
試料番号1〜5の各試料を100℃に保持した恒温槽に配した。そして、40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、3時間休止し、その後40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止して容量特性を測定した。尚、40μAの電流は、正極活物質の重量に対し約0.1Cの電流に相当する(1Cは1時間で充電又は放電が終了する電流量である。)。
【0132】
(室温保存性)
試料番号1〜5の各試料を100℃に保持した恒温槽に配した。そして、40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、3時間休止し、その後40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止し、100℃における初期容量特性を測定した。
【0133】
その後、再び40μAの定電流で3.25Vの電圧になるまで充電し、この3.25Vで5時間保持した後、充電状態を維持し、恒温槽を25℃に温度調整し、該恒温槽内で30日間保管した。そして保管後、再び、恒温槽を100℃に調整し、40μAの定電流で電圧が0Vになるまで放電し、3時間休止し、100℃における30日後容量特性を測定した。
【0134】
そして、数式(6)に基づき、100℃における初期容量C1と30日後容量C2とから容量保持率ηを算出した。
【0135】
η=C2/C1×100 …(6)
(測定結果の評価)
表2は、試料番号1〜5の各試料の正極層、固体電解質層、負極層の各組成、放電容量、及び容量保持率を示している。
【0136】
【表2】
【0137】
図4は、試料番号1〜5の各試料の100℃における容量特性を示している。横軸が容量(mAh/g)、縦軸が電圧(V)であり、実線で示す試料番号1〜3が本発明試料であり、破線で示す試料番号4、5は本発明外試料である。
【0138】
この表2及び図4から明らかなように、試料番号4は、固体電解質層に含有される固体電解質材料と負極層に含有される固体電解質材料とが同一材料で形成されており、したがって第1の固体電解質材料と第2の固体電解質材料とで活性化エネルギーが同一であることから、放電容量が86mAh/gと低くなった。
【0139】
また、試料番号5は、固体電解質層に含有される固体電解質材料と正極層及び負極層に含有される固体電解質材料とが全て同一材料で形成されており、したがって試料番号4と同様、第1の固体電解質材料と第2の固体電解質材料とで活性化エネルギーが同一であるため、放電容量が84mAh/gと低くなった。
【0140】
これに対し試料番号1〜3は、いずれも固体電解質層に含有される固体電解質材料(第1の固体電解質材料)の活性化エネルギーEaが、電極層(正極層及び負極層)に含有される固体電解質材料(第2の固体電解質材料)の活性化エネルギーEaよりも大きく、その結果、放電容量が100mAh/g以上と良好な結果が得られた。
【0141】
図5〜9は、試料番号1〜5の初期容量特性及び30日後容量特性を示している。すなわち、図5は試料番号1、図6は試料番号2、図7は試料番号3、図8は試料番号4、図9は試料番号5の各々初期容量特性及び30日後容量特性をそれぞれ示している。横軸は容量(mAh/g)、縦軸は電圧(V)である。
【0142】
試料番号4は、負極層に含有される第2の固体電解質材料が、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料と同一材料で形成されており、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが大きすぎるため、図8に示すように、放電容量は初期には86mAh/gであったが、30日後には約60mAh/gとなり、容量保持率は70%に低下し、保存性に劣り、電池特性が劣化することが分かった。
【0143】
また、試料番号5は、正極層及び負極層に含有される第2の固体電解質材料が、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料と全て同一材料で形成されており、したがって、図9に示すように試料番号4と同様、第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが大きすぎるため、放電容量は初期には84mAh/gであったが、30日後には約54mAh/gとなり、容量保持率は64%に低下し、保存性に劣り、電池特性が劣化することが分かった。
【0144】
これに対し試料番号1〜3は、いずれも電極層(正極層及び負極層)に含有される第2の固体電解質材料の活性化エネルギーEaが、固体電解質層に含有される第1の固体電解質材料の活性化エネルギーEaよりも小さく、30日後においても97mAh/g以上の放電容量を確保でき、容量保持率は87%以上となって、保存性が良好で電池特性の劣化を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0145】
イオン伝導度を温度制御することにより、高温雰囲気で使用しても大きな容量を得ることができ、かつ室温で保存しても良好な保存性を有し、長時間使用しても電池特性の劣化を抑制することができる焼結式の全固体電池を実現できる。
【符号の説明】
【0146】
4 固体電解質層
5 正極層
6 負極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9