(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183786
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】手乾燥装置
(51)【国際特許分類】
A47K 10/48 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
A47K10/48 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-226112(P2013-226112)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-84958(P2015-84958A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 一博
(72)【発明者】
【氏名】臼井 宏之
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−220918(JP,A)
【文献】
実開平04−100561(JP,U)
【文献】
特開2013−154107(JP,A)
【文献】
特開2008−048795(JP,A)
【文献】
特開2008−271669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 1/00、10/48
G08B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の手に空気を吹き付けて乾燥させる手乾燥装置であって、
使用者の手が挿入される手挿入室と、
前記手挿入室に空気を吹き出すための空気吹出口と、
前記空気吹出口から空気を吹き出すためのファンモータと、
前記ファンモータの動作を制御する制御部と、
煙を検知する煙検知手段と、を備え、
前記煙検知手段は、発光素子及び受光素子を有し、前記ファンモータに近接する位置に設置され、
前記煙検知手段の前記発光素子及び受光素子によって煙を検知すると、前記制御部は前記ファンモータを停止させることを特徴とする手乾燥装置。
【請求項2】
前記空気吹出口よりも上流側の風路には、フィルタが設けられ、
前記フィルタは前記ファンモータ及び前記煙検知手段よりも上流側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の手乾燥装置。
【請求項3】
前記煙検知手段は、前記ファンモータの下流側に設置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の手乾燥装置。
【請求項4】
前記煙検知手段が煙を検知すると、使用者に前記ファンモータの異常を報知する報知手段を設けることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の手乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の手に空気を吹き付けて乾燥させる手乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ・洗面空間において手を洗浄した後に、ハンカチやタオル、ペーパーを使用することなく手を乾燥させることができる手乾燥装置が普及している。この手乾燥装置は、モータの軸にファンを取り付けたファンモータを内蔵しており、モータを駆動させることで空気流を発生させ、その空気流をヒータによって温め、使用者の手に風を吹き付けて手を乾燥させている。
【0003】
しかしながら、何らかの原因(たとえば異物の吸い込み等)により、ファンの回転負荷が増大して過負荷となった場合あるいは完全にファンがロックされた場合、モータ巻線に過電流が流れ異常な発熱が生じる。このようにファンモータの異常により発生した熱は、吹出し風の異常温度上昇や、ファンモータ周辺の防振ゴム及び流路を形成する樹脂の変形などのさまざまな不具合を及ぼすという問題が生じていた。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1に開示があるように、温度ヒューズをファンモータ外郭ケースの外側表面に密着するように取り付け、ファンモータ外郭ケースの温度が高温になったとき電源の供給を遮断する手段がある。しかしながら、一般にファンモータでは、ファンモータ外郭ケース内部にあるモータ巻線が発熱源となるため、モータ巻線の発熱が伝達されてファンモータ外郭ケースの外側表面の温度が上昇するのにはある程度の時間がかかる。このため、モータ巻線で異常な発熱が生じてから、ファンモータ外郭ケースの外側表面に設置されている温度ヒューズが溶断されるまでにかなりの時間がかかる。また、温度ヒューズの溶断温度は、通常使用において温度ヒューズが溶断しないように、通常使用温度に対して大きなマージン(たとえば+20℃)を必要とするため、選定される溶断温度は常に高めになり、ファンモータの異常の発見が遅れるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−81681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事情にて鑑みて為されたものであり、その目的は、ファンモータの異常を早期に発見してファンモータを停止することを可能とする手乾燥装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様の1つは、使用者の手に空気を吹き付けて乾燥させる手乾燥装置であって、使用者の手が挿入される手挿入室と、前記手挿入室に空気を吹き出すための空気吹出口と、前記空気吹出口から空気を吹き出すためのファンモータと、前記ファンモータの動作を制御する制御部と、煙を検知する煙検知手段と、を備え、
前記煙検知手段は、発光素子及び受光素子を有し、前記ファンモータに近接する位置に設置され、前記煙検知手段の前記発光素子及び受光素子によって煙を検知すると、前記制御部は前記ファンモータを停止させることを特徴とする手乾燥装置である。
【0008】
このように構成された発明においては、ファンモータ回転時の回転負荷の増大やロック現象に伴って生じる巻線温度の上昇により発生した煙を検知することができ、手乾燥装置の異常を早期に発見し、ファンモータの駆動を停止することで、ファンモータの異常な温度上昇を防止でき、温度上昇による不具合を防ぐことができる。
また、煙検知手段がファンモータに近接する位置に設置されることで、ファンモータから発生する煙をすぐに検知でき、手乾燥装置の異常を早期に発見し、ファンモータの駆動を停止することで、ファンモータの異常な温度上昇を防止でき、温度上昇による不具合を防ぐことができる。
【0011】
本発明の選択的な態様においては、前記煙検知手段は、前記ファンモータの下流側に設置されることを特徴とする手乾燥装置である。
【0012】
このように構成された発明においては、ファンの回転負荷が増大し、ファンモータから煙が発生した場合、煙が下流側に流れるので、下流に設置された煙検知手段によって、手乾燥装置の異常を早期に発見でき、ファンモータの駆動を停止することで、ファンモータの異常な温度上昇を防止でき、温度上昇による不具合を防ぐことができる。
【0013】
本発明の選択的な態様においては、前記煙検知手段が煙を検知すると、使用者に前記ファンモータの異常を報知する報知手段を設けることを特徴とする手乾燥装置である。
【0014】
このように構成された発明においては、煙検知手段が煙を検知すると、煙が発生していることを音や表示などにより報知し警告するため、使用者は、ファンモータに異常が発生していることに気づくことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の手乾燥装置によれば、ファンモータの異常を早期に発見し、ファンモータを停止し、ファンモータの異常な温度上昇を防止でき、温度上昇による不具合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る手乾燥装置の正面視概略一部断面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る手乾燥装置の側面視概略断面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る手乾燥装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る手乾燥装置の制御フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0018】
図1及び
図2に示す手乾燥装置1は、全体として直方体状である箱形の外郭ケース2を有する。外郭ケース2の下部には、乾燥させる対象となる濡れた手6が挿入される手挿入室3が設けられている。手挿入室3は、正面と両側面が開放された開口部として形成されている。したがって、手挿入室3は、上下両側と背面側(奥側)が覆われた空間を形成する。
【0019】
手挿入室3の下面部には、濡れた手6からの水滴を受ける水受部11が設けられ、水受部11の周縁には周壁面12及び背壁面13が立設されている。水受部11には水滴を下方へ落下させる排水口14が形成されており、排水口14の下方には、水受部11に対し着脱自在に取り付けられ、排水口14より落下した水滴を貯溜する水受トレイ15が配設されている。水受部11は、排水口14に水が流れるように、排水口14に向かって緩やかに下り傾斜している。
【0020】
手挿入室3の上面部5で且つ外郭ケース2の正面側に、手挿入室3に向かって高速の空気を下方に吹き出す空気吹出口7が設けられている。また、手挿入室3の上面部5で且つ空気吹出口7よりも背面側には、人体検知手段である手検知センサ9が設けられている。手検知センサ9は、手挿入室3に挿入された手6を検知し、検知信号を出力する。
【0021】
手挿入室3より上方の外郭ケース2の左右の両側面には外部の空気を吸い込むための吸気口(図示なし)が設けられている。
【0022】
手挿入室3の上方に位置する外郭ケース2の内部には、手挿入室3へ高速の空気を供給するためのファンモータ4が取り付けられている。ファンモータ4は、複数の羽根を円形に並べたファン4aと、このファン4aを回転駆動させるモータとによって構成されており、吸気口から吸い込んだ空気を空気吹出口7から吹き出すためのものである。ファンモータ4は、ファン4aを回転させ、空気を吸気側から吸い込み、ファン4aの回転によって発生した高速の空気を排気側から排出する。
【0023】
ファンモータ4の上流側に、外郭ケース2に設けられた吸気口とファンモータ4の吸気側とを連通する吸気風路22が形成されている。吸気風路22の途中には、ファンモータ4への塵埃等の侵入を防止する着脱可能なフィルタ20が取り付けられている。
【0024】
ファンモータ4の下流側に、ファンモータ4の排気側と空気吹出口7とを連通する排気風路8が形成されている。その排気風路8に、煙を検知する煙検知手段24と、排気風路8を通過する高速の空気を温めるヒータ21とが取り付けられている。つまり、煙検知手段24と、ヒータ21は、ファンモータ4の下流側に設置されている。ヒータ21は、煙検知手段24よりも下流側に位置し、且つ、空気吹出口7の略真上に位置する。また、煙検知手段24は、例えばファンモータ4のモータを収納しているファンモータ外郭ケース27内に設置することで、ファンモータ4のモータに近接する位置に設置することができる。
【0025】
手乾燥装置1は、ファンモータ4の動作を制御する制御部10を備える。制御部10は、手検知センサ9の検知に基づきファンモータ4の動作を制御する。その制御部10は、外郭ケース2内部の上方に設けられている。
図3に示すように、制御部10は、手検知センサ9、ファンモータ4、煙検知手段24、手検知センサ9、後述する報知手段26と電気的に接続される。
【0026】
次に煙検知手段24の作動原理の一例について説明する。煙検知手段24の内部には、発光素子(例えば、発光ダイオード等)と受光素子(例えば、フォトダイオード等)とが設けられている。それらの設置場所は、通常時において、発光素子の光が受光素子に届かないような位置関係にある。煙が発生すると、煙が煙検知手段24内部に入り、発光素子から発せられた光が煙の粒子によって乱反射し、受光素子に光が届く。煙検知手段24は、煙の粒子によって乱反射した発光素子からの光を受光素子により検知することで、煙の有無を判断している。なお、煙検知手段24の作動原理はこの例に限定されるものではなく、煙検知手段24としては適宜周知の手法により煙を検知する構成のものが採用される。
【0027】
次に手乾燥装置1を使用する際の動作について説明する。使用者が濡れた手6を手挿入室3内に手首付近まで入れると、手検知センサ9によって手6が検知され、制御部10の制御によりファンモータ4が作動する。ファンモータ4が作動すると手乾燥装置1の外の空気が吸気口から吸い込まれる。吸気口から吸い込まれた空気は、吸気風路22に設置されているフィルタ20を通って、ファンモータ4に吸い込まれる。ファンモータ4は、吸気側から吸い込んだ空気を高圧の空気に変換してファンモータ4の排気側から排出し、排出された高圧の空気は排気風路8を通り空気吹出口7から手挿入室3に向かって下方に吹き出される。空気吹出口7から吹き出された高圧の空気は、手挿入室3に挿入されている濡れた手6に当たり、手6に付着した水分を手6の表面から吹き飛ばして手6を乾燥させることができる。さらに、手挿入室3に対して手6を挿抜させることによって、手全体に付着していた水滴が排除され、手6は乾燥される。なお、ヒータ21を通電させれば、排気風路8を通る高圧の空気が加熱されるため、空気吹出口7からは温風が吹き出され冬場などにおいて使用感を良くすることができる。手6が乾燥した後、手挿入室3から手6を抜き出すと手6が抜かれたことを手検知センサ9が検知し、制御部10がファンモータ4を停止させる。手6から吹き飛ばされた水滴は、傾斜構造の水受部11において排水口14に向かって流下し、排水口14から水受トレイ15に収容される。水受トレイ15に溜まった水は、水受部11から水受トレイ15を引き抜き、排水できる。
【0028】
次に手乾燥装置1から煙が発生する原因について説明する。ファンモータ4は、何らかの原因(たとえば異物の吸い込み等)により、ファンモータ4の回転負荷が増大して過負荷となった場合あるいは完全にファンモータ4がロックされた場合、モータ巻線に過電流が流れ異常な発熱を生じる。そのためモータ巻線自身の温度が異常に高くなり、モータ巻線を絶縁するための絶縁被覆樹脂(エナメルなど)が熱分解することによって煙が発生する。
【0029】
モータ巻線の絶縁被覆樹脂が熱分解することによって煙が発生するので、煙の発生源であるモータに近接する位置に、煙検知手段24を設置することで、煙の発生とほぼ同時に、しかも確実に煙を検知することができ、制御部10によってファンモータ4を停止できる。煙検知手段24の設置位置としての、ファンモータ4に近接する位置としては、例えば、ファンモータ4の外郭を構成しているファンモータ外郭ケース27の外側に付設される位置や、このファンモータ外郭ケース27の内部における所定の位置等が挙げられる。
【0030】
また、ファンモータ4の回転負荷が大きい状態で、ファンモータ4が回転している場合に発生した煙は、ファンモータ4の回転によって空気吹出口7に向かって下流に押し出される。このような場合においては、煙検知手段24をファンモータ4の下流に設置することで、煙が煙検知手段24に向かって流れてくるので、煙を早期かつ確実に検知することができ、制御部10によってファンモータ4を停止できる。本実施形態では、煙検知手段24は、ファンモータ4の下流側となる排気風路8に設けられている。
【0031】
図4を用いて、手乾燥装置1の制御フローについて説明する。手乾燥装置1が起動すると、制御部10は、煙検知手段24の内部に設置された受光素子が受光する受光量が、所定量以上かどうかを判断する(S1)。受光量が所定量未満であれば、制御部10はS1を繰り返し実行する。受光量が所定量以上であれば、制御部10は、ファンモータ4のモータを停止させる(S3)。以上のように、制御部10が制御フローを実行することで、煙検知手段24が煙を検知すると、ファンモータ4は停止する。制御部10はファンモータ4への電流の供給を止めることで、ファンモータ4の駆動を停止させている。
【0032】
更に、煙検知手段24が煙を検知すると使用者にファンモータ4の異常を報知する報知手段26(
図1参照)を外郭ケース2に設けてもよい。制御部10は、煙検知手段24の検知結果に基づき、報知手段26によって異常を報知するか否かを制御する。制御部10は、例えば、煙検知手段24によって、煙が検知された場合、報知手段26である発光ダイオードの点灯によって使用者に異常を知らせる。一方、煙が検知されない場合、発光ダイオードの消灯によって正常であることを知らせる。なお、報知手段26は、光に代えてあるいは光に加えて音を用いてファンモータ4の異常を報知するものでもよい。報知手段26を設けることで、使用者が手乾燥装置1のファンモータ4の異常を認識できる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る手乾燥装置1によれば、ファンモータ4の異常を早期に発見してファンモータ4を停止し、ファンモータ4の異常な温度上昇を防止でき、温度上昇による不具合を防ぐことができる。
【0034】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 手乾燥装置
2 外郭ケース
3 手挿入室
4 ファンモータ
4a ファン
5 上面部
6 手
7 空気吹出口
8 排気風路
9 手検知センサ
10 制御部
11 水受部
12 周壁面
13 背壁面
14 排水口
15 水受トレイ
20 フィルタ
21 ヒータ
22 吸気風路
24 煙検知手段
26 報知手段
27 ファンモータ外郭ケース