特許第6183803号(P6183803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤクルトヘルスフーズ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
  • 特許6183803-Hsp発現促進剤 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183803
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】Hsp発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/31 20060101AFI20170814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170814BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20170814BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   A61K36/31
   A61P43/00 105
   A61P15/00
   !C12N15/00 AZNA
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-208175(P2013-208175)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2014-88378(P2014-88378A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2016年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-221821(P2012-221821)
(32)【優先日】2012年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年4月11日 http://eishok66.umin.jp/img/program_ora10520.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年4月27日 公益社団法人 日本栄養・食糧学会発行「第66回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集」,197頁、3H−09pにおいて文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年5月1日 (公社)日本栄養・食糧学会 大会記者会見 女子栄養大学 松柏軒 (駒込キャンパス4号館5階)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年5月20日 公益社団法人 日本栄養・食糧学会「第66回日本栄養・食糧学会大会」において文書をもって発表
(73)【特許権者】
【識別番号】507045904
【氏名又は名称】ヤクルトヘルスフーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】片山 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】須藤 祐人
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−091368(JP,A)
【文献】 特開2001−172171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61P 15/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケール又はその加工物を有効成分とする熱ショックタンパク質発現促進剤(ただし、脳神経疾患の予防及び/又は治療に用いるものを除く)
【請求項2】
熱ショックタンパク質がHsp90α、Hsp90β、Hsp70及びHsp40からなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載の熱ショックタンパク質発現促進剤(ただし、脳神経疾患の予防及び/又は治療に用いるものを除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein、Hsp)発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱ショックタンパク質(Hsp)は、細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護するタンパク質であり、分子シャペロンとして機能する。Hspの発現促進は、肺線維症の予防又は治療に有効である可能性があることが報告されている。
【0003】
肺線維症は、肺組織が長期にわたって傷害され、線維化する症状であり、原因には間質性肺炎、過敏性肺炎などが考えられている。肺線維症の治療法としてはステロイド療法が行なわれている(特許文献1)。
このため、Hspの発現を促進し、肺線維症の予防又は治療に有用で、安全性が高く、長期摂取可能な物質の探索が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−525370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安全性が高く、長期摂取可能な、新たなHsp発現促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、多くの植物素材の中からHsp発現促進剤を見出すべく検討した結果、ケール又はその加工物が優れたHsp発現促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ケール又はその加工物を有効成分とするHsp発現促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
ケール又はその加工物は、長期摂取可能であり、優れたHsp発現促進作用を有し、Hspが関与する疾患、例えば肺線維症の予防治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ケール摂取マウスの脳におけるHsp70タンパク質及びHSF1タンパク質の発現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のHsp発現促進剤の有効成分は、ケール又はその加工物である。
【0011】
ケールはアブラナ科の植物であり、青汁の原料として広く用いられている。ケールは、植物全体を使用してもよく、葉、茎、根、花、蕾などを使用してもよいが、葉を使用するのが特に好ましい。また、生葉を使用するのが、特に好ましい。
【0012】
ケールの加工物としては、特に限定されるものではないが、ケールの粉砕物、その搾汁またはその抽出物を例示することができる。ケールの粉砕物としては、ケール葉の粉砕物が好ましい。ケールの粉砕物は、例えばケール葉を公知の手段で粉砕することにより得ることができる。
【0013】
ケールの搾汁としては、ケール葉の搾汁が好ましい。搾汁は、その後粉末化して使用するのが、流通性、保存性の点で好ましい。
【0014】
ケールの搾汁は、例えばケール葉を細断及び/又は粉砕した後、搾汁処理することにより得られる。搾汁処理手段としては、パルパー、スクリュープレス、フィルタープレス、デカンターなどの搾汁機で行うのが好ましい。また、ケール葉を必要により80〜100℃で1〜20分間熱処理した後に搾汁処理することもできる。なお、搾汁の粉末化は、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥により行われる。
【0015】
ケールの抽出物としては、種々の溶媒による抽出物が用いられる。
抽出に用いられる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;酢酸エチル等のエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のグリコール類;ジエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル類;アセトン、酢酸等の親水性溶媒;ベンゼン、ヘキサン、キシレン等の炭化水素などを挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
抽出の際のケールと溶媒との比率はケール乾燥重量に対して溶媒が1〜100倍、特に2〜40倍であるのが好ましい。
【0017】
抽出方法としては、一般的な方法を使用することができ、例えば、溶媒にケール葉を浸漬する方法、加温下(常温〜溶媒の沸点の範囲)で攪拌する方法等を挙げることができ、圧力式抽出釜等を用いて行うこともできる。
【0018】
抽出条件は原料の状態、使用する溶媒の種類等により異なるが、例えば、常圧ないし加圧条件、すなわち、1気圧〜2気圧の範囲で、室温或いは加温・加熱することが挙げられる。
【0019】
ケールの抽出物もまた、前記搾汁と同様に粉末化して用いてもよい。
【0020】
ケール又はその加工物は、後記実施例に示すように、優れたHsp発現促進作用を有する。Hspには、Hsp104、Hsp90(Hsp90α、Hsp90β)、Hsp70、Hsp60、Hsp47、Hsp40、Hsp32等があり、本発明のHsp発現促進剤が発現を促進させるHspは特に限定されるものではないが、特に、Hspの中でもHsp90α、Hsp90β、Hsp70、Hsp40からなる群から選ばれる1種以上の発現促進作用が優れている。これらは、Hspの中でも主要な分子種、若しくは主要な分子種のコファクターであり、これらの発現が促進されると、より強いHspの分子シャペロン機能が期待できる。また、Hspの発現が促進される臓器は特に制限されるものではなく、脳や肝臓等あらゆる臓器で発現が促進されるものであるが、特に肝臓での発現促進効果が顕著である。従って、本発明のHsp発現促進剤は、前述の肺線維症の予防及び治療に有用である。肺線維症は、難病であり、通常、副作用の多いステロイド療法が行われている疾患であることから、安全性が高く、長期間摂取可能なケール又はその加工物により予防及び治療できることは、極めて有益である。
【0021】
本発明においてHsp発現促進とは、HspのmRNAの発現促進だけでなく、Hspタンパク質の発現促進も意味する。すなわち、ケール又はその加工物は、HspのmRNAのみならず、Hspタンパク質の発現も促進する。また、ケール又はその加工物は、Hspの転写因子であるHSF1(Heat shock transcription factor 1)を活性化する作用を有し、かかる作用によりHsp発現促進効果を生じるものと考えられる。
【0022】
本発明のHsp発現促進剤の投与方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも使用できるが、経口投与が好ましい。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射等の投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0023】
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0024】
さらにケール又はその加工物としては、ケールの粉砕物、ケールの搾汁又は抽出物をそのまま用いた青汁又は粉末が好適に用いられる。
【0025】
本発明のHsp発現促進剤の有効成分であるケールは、従来より利用され、その安全性も確認されているものであることから、これをHsp発現促進剤として使用する場合の投与量に厳格な制限はないが、その好適な投与量はケール由来の乾燥固形分として1日当たり、体重70kgのヒトとして2g〜100gであり、特に20g〜80gが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0027】
実施例1(マイクロアレイ解析)
ケールとして、ケールの搾汁の粉末(ケール由来の固形分40%、以下ケール粉末という)を用いた。
【0028】
(動物)
雄のSAMP8マウス(日本エスエルシー社製)を使用した。
全てのマウスは温度20−23℃、湿度40−70%、明暗サイクルが12h/12hで個別に飼育されている。
【0029】
(実験計画)
16週齢のマウスを8匹ずつ2つの群に分けた。
コントロール群はMF飼料(オリエンタル酵母工業社製)で飼育し、ケール摂取群は、ケール粉末2%(w/w)(ケール由来固形分に換算すると0.8%)含有するMF飼料で飼育した。
飼料と水は自由摂取とした。飼料摂取量はコントロール群とケール摂取群で有意差はなかった。
16週後、解剖し、脳と肝臓を摘出した。これらの組織は無毒性組織保存薬(Sigma社製)、RIPA lysis buffer(Santa Cruz Biotechnology社製)、5mMのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬し、−80℃で保存した。
【0030】
(マイクロアレイ解析)
マイクロアレイ解析のサンプルは肝臓を用いた。
マイクロアレイ解析は、CodeLink Mouse Whole Genome Bioarray(Applied Microarrays社製)を用いた。検出は、GenePix4000B Array Scanner(Molecular Devices社製)を用いた。データ解析は、microArray Data Analysis Tool version 3.2(Filgen社製)を用いた。
【0031】
(結果)
mRNAが高発現している遺伝子を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
ケール摂取群の肝臓組織では、Hsp70とHsp40のmRNAが高発現していることがDNAマイクロアレイ解析により示された。
【0034】
実施例2(定量リアルタイムPCR)
(サンプル)
実施例1と同じ脳と肝臓の組織サンプルを用いた。
(定量リアルタイムPCR)
遺伝子発現量の定量は、定量リアルタイムPCR(StepOne Real-time PCR System、Applied BioSystems社製)を用いて行った。
リアルタイムPCRは、KAPA SYBR FAST Universal qPCR kit(Kapa Biosystems社製)を用いた。
サーマルサイクルプログラムは、初期変性:95℃3分を1サイクル、変性:95℃3秒、アニーリング/伸長反応:60℃20秒をセットで40サイクル、最終解離:95℃15秒を1サイクルとした。
それぞれのサンプルの全RNA量を同一にするために、β−アクチンを内部標準として用いた。プライマー配列は以下の通りである。
【0035】
β-actin:5'-CACTATTGGCAACGAGCGGTTC-3'(forward)(配列番号1)
5'-ACTTGCGGTGCACGATGGAG-3' (reverse)(配列番号2)
Hsp70:5'-TGGTGCTGACGAAGATGAAG-3'(forward)(配列番号3)
5'-AGGTCGAAGATGAGCACGTT-3'(reverse)(配列番号4)
Hsp40:5'-CTCCAGTCACCCATGACCTT-3'(forward)(配列番号5)
5'-TGCTCTTTCCATCAGGGTTC-3'(reverse)(配列番号6)
Hsp90β:5'-GCGGCAAAGACAAGAAAAAG-3'(forward)(配列番号7)
5'-GAAGTGGTCCTCCCAGTCAT-3'(reverse)(配列番号8)
Hsp90α: 5'-AAAGGCAGAGGCTGACAAGA-3'(forward)(配列番号9)
5'-AGGGGAGGCATTTCTTCAGT-3'(reverse)(配列番号10)
【0036】
発現解析には、比較Ct法(ΔΔCt法)を用い、測定したい目的の遺伝子とハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンのCt値の差(ΔCt)を比較して、相対定量した。
【0037】
(結果)脳組織の結果を表2に示し、肝臓組織の結果を表3に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
ケール摂取群の脳および肝臓組織ではHsp70、Hsp40、Hsp90β、Hsp90αのmRNAが高発現していることが定量的リアルタイムPCRによって示された。
【0041】
実施例3(ウエスタンブロッティング)
(サンプル)
実施例1と同じ脳の組織サンプルを用いた。
(ウエスタンブロッティング)
脳組織のサンプル(コントロール群、ケール摂取群、共にn=6)にRIPA lysis buffer(Santa Cruz Biotechnology社製)を加え、ホモジネート後、遠心分離(12,000rpm,10min,4℃)し、得られた上清をタンパク質画分として回収した。15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDFメンブレン(Clear Blot Membrane-P,ATTO社製)にタンパク質を転写した。一次抗体に抗Hsp70抗体(1:1,000,Enzo Life Sciences社製)、抗HSF1抗体(1:1,000,Enzo Life Sciences社製)、およびβ−actin抗体(1:1,000,Enzo Life Sciences社製)を用い、二次抗体にはHRP標識抗ウサギIgG抗体(1:5,000,Anaspec社製)を用いた。β−アクチンは内部標準として用いた。検出はWestern Blotting Substrate(Thermo scientific社製)を用いた化学発光法にて化学発光撮影装置(AE-9300 Ez-Capture)により行なった。結果を図1に示す。図1のAは、各群のサンプル(n=6)の中から、代表例として選択した3サンプルのウエスタンブロッティングの結果を示す図であり、図1のBおよびCは、n=6の平均値に基づいた各群のタンパク質発現量を示すグラフであり、ケール摂取群のタンパク質発現量は、コントロール群のタンパク質発現量を1とした相対値で示されている。なお、図1のBおよびCにおいては、各サンプルのHspおよびHSF1のタンパク質発現量の実測値をβ−アクチンタンパク質の発現量の実測値で除した値を補正値とし、当該補正値を用いて各群のタンパク質発現量の平均値を算出した。
【0042】
(結果)
図1に示すように、ケール又はその加工物を摂取することにより、Hspタンパク質及びHSF1タンパク質の両者の発現が促進することがわかる。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]