(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線曝露によりポリマー(脂環式構造含有炭化水素重合体を除く)製ステントを殺菌するステップであって、前記放射線曝露により前記ポリマー中に遊離ラジカルが生成するステップと、
前記ステントを周囲よりも高く前記ポリマーのTgよりも低い温度に曝露して前記ステントの温度を上昇させるステップであって、温度上昇により遊離ラジカル濃度が低下し、遊離ラジカルの消失を導く遊離ラジカルの減衰速度が増加し、これにより、殺菌による前記ポリマーの化学的分解が低減する一方、結晶化度、結晶サイズ、及び、ポリマー鎖の配向の変化を抑制又は防止するステップと、
を含み、
前記ポリマーは、生体再吸収性及び生体吸収性ポリマーのうちの1種又は組合せである、ステントの安定化方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】加熱処理ポリマー製ステント及び非加熱処理ポリマー製ステントの相対的な遊離ラジカル濃度を示す。
【
図4】加熱処理ポリマー製ステント及び非加熱処理ポリマー製ステントの相対的な遊離ラジカル濃度を示す。
【0010】
[発明の詳細な説明]
本発明の実施形態は、電子線(e線)殺菌後の、ステントなどのポリマー製埋込式医療用装具の安定化に関する。より一般には、本発明の実施形態はまた、以下に限定されないが、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステント移植片、脈管移植片、脳脊髄液シャント、又は一般に管状の埋込式医療用装具を含む装具にも使用することができる。
【0011】
殺菌は、通常、生物汚染度を低減するために、ステント及び送達システムなどの医療用装具上に対して行われる。生物汚染度とは、対象に混入している微生物数を一般に指す。殺菌の程度は、殺菌後、製品単位に存在している生存微生物の可能性を指す無菌性保証レベル(SAL)によって通常測定される。製品に要求されるSALは、製品の使用目的に依存する。例えば、生体の体液経路中に使用しようとする製品は、クラスIIIの装具と見なされている。様々な医療用装具のSALは、Arlington(VA)にある医療器具開発協会(AAMI)の資料中に見出すことができる。
【0012】
放射線殺菌は当業者によく知られている。全体又は一部がポリマーからなる医療機具は、以下に限定されないが、電子線(e線)、γ線、紫外線、赤外線、イオンビーム、X線及びレーザーによる殺菌を含む様々な種類の放射線によって殺菌することができる。滅菌量は、要求されるSALを与える用量を選択することにより決定することができる。試料は、1回又は複数回の工程(pass)で、要求量まで曝露することができる。
【0013】
ステントは、埋め込まれる生体の管腔と相性のよい、任意の構造的パターンを事実上有することができる。通常、ステントは、円周方向及び縦方向に延伸し、構造要素又は支柱を相互連結するパターン又は網目構造からなる。一般に、支柱はパターン中に配置され、血管の管腔壁に接触して脈管の開存性を維持するように設計される。特定の設計目標を達成するための無数の支柱パターンが、当分野において公知である。ステントのより重要な数種の設計特徴は、半径方向又は円形方向の強度、破断靭性、拡張率、被覆領域、及び縦方向の可撓性である。本発明の実施形態は、事実上任意のステント設計に適用可能であり、したがって、どのような特定のステント設計又はパターンにも限定されない。ステントパターンの一実施形態は、支柱からなる円筒状の輪を含んでもよい。円筒状の輪は、連結用支柱によって連結されていてもよい。
【0014】
一部の実施形態では、ステントは、管における支柱のパターンをレーザー切断することによって、管から形成されてもよい。そうした管は、通常、押出成形又は射出成形の溶融処理法によって或いは冷媒押出、溶媒キャスティング又は浸漬被覆などの溶媒処理によって、形成される。ステントはまた、金属製又はポリマー製シートをレーザー切断し、円筒状ステントの形にパターンを巻き、縦方向に溶接することによってステントを形成するように、形成されてもよい。ステントを形成する他の方法はよく知られており、金属製又はポリマー製のシートを化学エッチングして巻き、次に溶接してステントを形成することを含む。
【0015】
図1は、外径15及び内径20を有する円筒状の管10を示している。
図1はまた、表面25及び管10の円筒軸30を示している。一部の実施形態では、埋込式医療用装具の製造前のポリマー製管の直径は、約0.2mm〜約5.0mmの間、より厳密には約1mm〜約4mmの間とすることができる。
【0016】
図2は、ステント50の一例を示す。ステント50は、相互連結している複数の構造要素又は支柱55を有するパターンを含んでいる。本明細書に開示された実施形態はステント、又は
図2中に例示されたステントパターンに限定されない。実施形態は、他のパターン及び他の装具に容易に適用可能である。パターンの構造における変形には、事実上制限がない。
【0017】
一般に、ステントパターンは、ステントが半径方向に圧縮されて(圧着されて)、半径方向に拡張(展開可能)することができるように設計されている。圧縮及び拡張中に関与する応力は一般に、ステントパターンの様々な構造要素全体にわたり分布する。ステントが拡張するにつれてステントの様々な部分が変形し、半径方向への圧縮又は拡張を果たすことができる。
【0018】
図2中に示されるように、ステント50の形状又は形は、ステント構造全体が変化して半径方向への拡張及び圧縮ができる。パターンは、直線又はほぼ直線の支柱の一部を含むことがあり、一例は部分60である。さらに、パターンは65、70及び75として表示される、曲がっている又は屈曲している部分、或いはクラウンを含む支柱を含むことができる。
【0019】
ステントを構成するパターンは、ステントを半径方向に圧縮可能及び拡張可能であり、また縦方向に可撓性にする。ステントパターンの部位65、70及び75などの部分は、これらの部分が半径方向に拡張又は圧縮する間に曲がるので、実質的に変形を受ける。したがって、これらの部分は、破断及び最終的な不具合を最も受けやすい傾向がある。
【0020】
ステント中の支柱の断面は、長方形又は円形とすることができる。支柱の断面は、長方形や円形に限定されず、したがって、他の断面の形が本発明の実施形態に適用可能である。さらに、他のステントパターンが、本発明の実施形態に容易に適用可能なので、パターンは例示されたものに限定されるべきではない。
【0021】
ステント足場の支柱は、一部又は全体を生体再吸収性、生体吸収性又は生体安定性ポリマーから作製することができる。この場合、ポリマーからなる又は主にポリマーからなる足場は、埋め込まれると、血管壁に対する支持体又は外側に半径方向力をもたらす。ステント製造向けポリマーは、生体安定性、生体吸収性、生体再吸収性又は生体侵食性とすることができる。生体安定性とは、生体再吸収性ではないポリマーを指す。生体再吸収性、生体吸収性及び生体侵食性という用語は互換的に使用され、血液などの体液にさらされると完全に分解することができる及び/又は浸食される能力があり、さらに生体によって徐々に再吸収、吸収及び/又は排除することができるポリマーを指す。ポリマーを破壊して吸収する過程は、例えば加水分解及び代謝過程によって引き起こされ得る。
【0022】
生体再吸収性又は生体吸収性ステントに特に有用なポリマーには、生体再吸収性ポリエステルなどの半結晶性又はアモルファス性の生体再吸収性ポリマーが含まれる。特に、支柱は、約37℃の人体温度よりも高いガラス転移温度(Tg)を有する生体再吸収性ポリエステルからほとんど又はすべてを作製することができる。この理由は、以下に示すように、Tgは、ポリマーのアモルファス性領域が、脆いガラス質状態(ガラス状態としても知られている)から変形可能又は延性の固体状態に変化する温度だからである。したがって、生体温度よりも高いTgを有するポリマー製のステント本体は、埋込に際して、剛性を維持し、反動に耐えることができる。例えば、そのようなポリマーには、ポリ(L−ラクチド)及びポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)が含まれる。
【0023】
本発明の管又はステント本体、或いは足場の全体又は一部を、以下に限定されないが、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリマンデリド(PM)、ポリ(DL−ラクチド)(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)及びポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)を含む、生体再吸収性及び生体吸収性ポリマーの1種又は組合せから作製することができる。管又はステントは、上記ポリマー及びポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)(PHB)及びポリ(ブチレンスクシネート)(PBS)の中から1種又は複数のランダムコポリマー、交互コポリマー又はブロックコポリマーから作製することができる。使用されるPLGAには、任意のモル比のL−ラクチド(LLA)とグリコリド(GA)を含むことができる。特に、ステントは、85:15(又は82:18〜88:12の範囲)、95:5(又は93:7〜97:3の範囲)を含む(LA:GA)モル百分率を有するPLGAから、或いは、これらのモル比を有すると特定されている市販のPLGA製品から作製することができる。いくつかのポリマーのガラス転移温度を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
例示的な実施形態は、PDLLA及びエベロリムスを含むコーティングを有するPLLA足場である。支柱の厚みは140〜160ミクロンの間とすることができ、コーティングの厚みは、2〜3.5ミクロンとすることができる。
【0026】
ステントの半径方向の強度及びポリマー製ステントの材料の破断靭性は、ステントが適切に機能するために重要な特性である。上で示したように、ステントは血管内の埋込部位において、直径を大きく拡張することによって展開され、切断したままのステントの直径より大きくすることができる。展開したステントは、ある一定の期間、大きくなった直径で血管を支持するため、外側の半径方向力を加えるのに十分な半径方向への強度を有さなければならない。展開したステントのクラウン領域は、拡張中及び展開後、高い応力及びひずみ下にあり、したがって、破断されやすい。ポリマーは、金属より低い重量比強度を有する傾向がある。したがって、ステントが十分な半径方向の強度を有するように、構造要素の強度を高めることが重要である。
【0027】
ポリマー製ステントの製造過程には、ポリマー製構造要素の半径方向の強度及び破断靭性を向上する処理工程を含むことができる。特に、製造過程には、管を拡張半径まで半径方向に拡張するステップ、及びステントパターンを拡張した管に切断するステップがさらに含まれる。管は、半径方向に拡張されてその半径方向の強度を高めるが、これはステントの半径方向の強度をも増加することができる。半径方向の拡張処理は、ポリマー鎖を優先的に半径方向又は輪の方向に沿って整列させる傾向があり、その結果、半径方向の強度増強をもたらす。半径方向への拡張工程は、埋込後に管腔の開存性を付与して維持するのに十分強力な、細い支柱(例えば140〜160ミクロンの厚さ)を有するステント足場の作製に重要である。管は、その上、拡張工程中に軸方向に延伸又は拡張することもでき、2軸配向性をもたらす。
【0028】
半結晶性ポリマーの場合、破断靭性は結晶領域のサイズを最小化し、分子鎖配向を整列させ、望ましい又は最適なアモルファス/結晶の比を達成することによって増強される。結晶化度は、血管を支持するために必要なポリマーに、強度及び剛性(高いモジュラス)をもたらす。しかし、結晶化度が高すぎる場合、ポリマーは脆弱すぎる恐れがあり、破断を一層受けやすい。PLLA足場に必要な結晶化度は10〜40%、より厳密には30〜40%とすべきである。
【0029】
結晶は、半結晶性ポリマーのTgと融解温度との間で核形成及び成長するので、結晶領域のサイズ及び結晶化度は、拡張温度、加熱速度及びTg超に費やした時間などの半径方向への拡張処理の処理パラメータに依存する。一般に、より小さな結晶が有利であり、融解温度よりもTgの方に近いより低い温度で生成する。例えば、PLLA管の場合、65〜120℃の拡張温度が好ましい。
【0030】
管は、Tgより高い温度に管を加熱することによって半径方向に拡張され、また半結晶性ポリマーの場合には、ポリマーの融点未満の温度で管を加熱することによって半径方向に拡張される。拡張に際して、拡張した直径の管を維持するために、管はポリマーのTg未満、通常、周囲温度まで冷却される。
【0031】
ステントパターンは、例えばレーザー切削によって拡張した管に切断される。ステントパターンを拡張した管に切断した後、ステント足場は、次にポリマー及び薬物を含むことができる薬物送達用コーティングによって、場合により被覆されてもよい。ステントを送達用に整えるために、ステントを送達用バルーンに固定する。この処理では、ステントは圧縮されて直径を小さくするか、又はバルーン上に圧着する。圧着の間及び圧着状態では、ステントのクラウンは、局所的に高い応力及びひずみにさらされる。特に、クラウンの内部又は凹面の領域は、高い圧縮応力及びひずみにさらされる。したがって、圧着の間及び圧着状態のステントは割れやすい。割れは、展開時にステントが血管を支持する能力に対して負の影響をもたせ得るので、この状態での割れを最小限にすることが重要である。
【0032】
ステントがカテーテル上に取り付けられた後、カテーテル及びステントは埋込みまで、保管用のパッケージに入れられる。ステント及びステント送達用組立体は、通常、密封した保管容器の中で、保管、輸送及び殺菌が行われる。そのような容器は、ステントに対して悪影響を及ぼす恐れがある損壊及び環境曝露(湿気、酸素、光など)から組立体を保護するように構成されている。ステント及び送達用システム用の保管容器は、収容されるステント及び送達用システム組立体を有効に封入することができる任意の便利な形態又は形に設計することができる。しかし、該容器は、容器によって占有される保管空間を最小化するように小型にしてもよい。ステント及び送達用システムを環境曝露から保護するように主に意図される容器は、小袋又は保護ケース(sleeve)とすることができる。
【0033】
装具の製造及びパッケージングに続いて、装具は、通常、患者に使用するまで、時間に期限なく、保管される。保管期間は、数日、数週間又は数ヶ月となる可能性があり、個々の装具各々で通常、同じではない。
【0034】
次に、ステント及びカテーテルは放射線曝露によって殺菌されてもよい。放射線曝露は、ポリマー及び薬物の特性を劣化する恐れがある。特に、放射線は活性種を生成させて、ポリマー及び薬物中に化学反応を引き起こす恐れがある。e線及びγ線などの高エネルギー放射線は、ポリマー分子中でイオン化及び励起を生じさせる傾向がある。こうしたエネルギーに富む化学種は、ポリマーの特性を劣化する解離、引抜き(subtraction)及び付加反応を順次受け、化学的安定に至る。この安定化過程は、放射中、放射直後、又は数日、数週間或いは数ヶ月後でも起こる恐れがあり、物理的及び化学的な架橋又は鎖切断をもたらす場合が多い。分解性ポリマーの場合、鎖切断は、機械的特性及び分解特性に悪影響を及ぼす恐れのある分子量の低下をもたらす可能性がある。その結果生じる物理変化には、とりわけ、脆化、変色、臭気発生、剛化及び軟化を挙げることができる。
【0035】
ポリマーをe線の放射線に曝露すると、ポリマー中に遊離ラジカルの生成を引き起こす。ポリマー特性の悪化は、放射線曝露によって引き起こされる遊離ラジカル生成と関係がある。生成する遊離ラジカルは、ポリマーにより捕捉されるようになり得る。捕捉される遊離ラジカルが最初の放射線曝露の後に減衰し続けるので、ポリマー特性の悪化は続く。「遊離ラジカル」とは、不対電子を有する原子種又は分子種か、さもなくば開殻構造を指す。遊離ラジカルは、酸化反応によって形成することができる。こうした不対電子は通常、非常に反応性が高いので、ラジカルは連鎖反応を含む化学反応に関わる可能性がある。放射線曝露により形成する遊離ラジカルは、ポリマー鎖と反応して鎖切断を引き起こすことができる。これらの反応は、e線量、線量率、e線環境(ガスの種類)、湿度及び温度に依存する。
【0036】
PLLAの分子量は、e線の放射線による殺菌の後に低下することが観測された。さらに、殺菌されたPLLA中の遊離ラジカルの存在をモニターし、遊離ラジカル濃度はe線曝露後、時間と共に減少することが見出された。濃度の低下は、主に、鎖切断をもたらすポリマー鎖との反応を介した遊離ラジカルの停止反応によるものと考えられる。遊離ラジカル濃度は、不活性ガスパッケージ状態下で約2か月まで0に減衰することはなく、分子量の低下は、この期間を通して起こると考えられている。
【0037】
したがって、殺菌後に、ポリマーの鎖切断を低減する又は排除するように、遊離ラジカル濃度の減少を加速する方法が必要である。例えば、鎖切断による遊離ラジカルの停止反応よりも遊離ラジカルの結合及び停止反応を促進するための方法が必要である。
【0038】
本発明の様々な実施形態には、ポリマー製又はそれを含むステントを、放射線による殺菌後、周囲温度よりも高い温度に曝露することが含まれる。高温に曝露するステップは、ステント温度を上昇させて、殺菌によるポリマーの化学的分解を低減する。したがって、高温に曝露するステップは、ステントのポリマーを化学的に安定化する。化学的分解には、放射線曝露から起こる鎖切断が原因となり得るポリマーの分子量低下が含まれる。e線曝露後の温度上昇は、遊離ラジカル濃度を低下し、遊離ラジカルの減衰速度を加速する。以下で考察を行い示すように、PLLAステントを周囲より高い温度に曝露するステップは、放射線曝露後の遊離ラジカル濃度の低下を劇的に加速する。
【0039】
e線殺菌後の一部の実施形態では、ステントは、周囲温度より高い指定温度にある環境にステントを曝露することによって加熱される。例えば、ステントは、指定温度又はある温度範囲内に温度を正確に制御することができる温度制御された乾燥器に、曝露することができる。
【0040】
殺菌は、ステントを、e線放射線又は他のいくつかの種類の放射線に曝露するステップを含むことができる。放射線曝露は、従来のe線放射線源によって実施することができる。一部の実施形態では、ステントは10〜40、20〜35又は20〜30kGyの間の用量に曝露することができる。他の実施形態では、ステントは20〜31kGyの間、より厳密には20〜27.5kGyの間の用量で曝露することができる。
【0041】
上で考察したように、Tg未満では、ポリマー鎖の可動性は非常に低い。そのTgより十分低いポリマー中に遊離ラジカルが生成する場合、該遊離ラジカルは、可動性が非常に低いポリマー鎖、例えばアモルファス−結晶の界面の近傍又はその界面にある鎖によって捕捉されると、理論によって制限されることなく考えられる。しかし、遊離ラジカルは、結晶化度を持たない完全なアモルファス性ポリマー中でさえも捕捉され得ると考えられる。遊離ラジカルの捕捉は、体温より高いTgを有するPLLAなどの、周囲温度又はその付近で殺菌されるポリマーに典型的である。生成する遊離ラジカルの可動性は非常に低いので、遊離ラジカル同士の結合及び停止反応の可能性は、遊離ラジカルが低い可動性を有するために比較的低い。こうした自己停止反応の可能性は、遊離ラジカルを捕捉するポリマー鎖との鎖切断反応よりもはるかに低い。ポリマーの温度がTg付近又はそれよりも高くなるにつれて、ポリマー鎖の可動性は向上する。遊離ラジカルの可動性が向上することは、自己停止反応の可能性を高める。
【0042】
高温に曝露することによるステントの加熱は、半径方向の拡張によって、及び後の圧縮工程において生じる特性損失を阻止する温度及び期間、実施されるべきである。これらの特性には、ポリマー鎖の整列、小さな結晶領域及び結晶化度の程度による半径方向の強度及び靭性の強化が含まれる。ポリマー製のステントを、該ポリマーのTgより高い温度まで、とりわけ長時間曝露すると、上記の特性を改変することができる。このような曝露は、ステントを埋め込んだ際に、ステントの性能に悪影響を及ぼす恐れがある。Tgより高い温度でステントポリマーを加熱すると、ポリマー鎖の結晶化度、結晶サイズ及び整列に変化をもたらすことができる。
【0043】
したがって、一部の実施形態では、曝露温度すなわちステント温度は、ステント中のポリマーのTg未満の温度に維持することができる。特に、温度は、鎖配向、結晶化度の程度及び結晶サイズの改質を回避するために、足場などの支持構造体のポリマーのTgに維持することができる。体温より高いTgを有するポリマーブロックを含むブロックコポリマーの場合、該曝露温度は、そのようなブロックのTg未満に維持してもよい。
【0044】
一部の実施形態では、ステントは、ある時間維持される指定温度又は温度範囲に曝露され、その後、曝露温度が低下され、例えば周囲温度に戻される。
【0045】
ある実施形態では、体温より高いTg(最大、ポリマーのTg)を有する任意のポリマーについての指定曝露温度は、摂氏で25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100又は100超にすることができる。指定曝露温度は、25℃からポリマーのTgまで1℃又は2℃刻みの範囲にすることができる。上記、及び本明細書の他の場所で開示した温度はまた、ステントの実際の温度に適用することもできる。
【0046】
PLLAについての指定曝露温度は、摂氏で25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60にすることができる。PLLAについての指定曝露温度は、摂氏で44〜46、46〜48、48〜50、50〜52、52〜54、54〜56、56〜58、58〜60℃にすることもできる。指定曝露温度は、摂氏で25〜60、60〜62及び62〜64℃の間で、任意の温度にすることができる。
【0047】
85/15及び75/25のPLGAについての指定曝露温度は、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45及び45〜50にすることができる。85/15及び75/25のPLGAについての指定曝露温度は、34〜36、36〜38、38〜40、40〜42、42〜44、44〜46、46〜48、48〜50℃にすることもできる。指定曝露温度は、25〜50、50〜52、52〜54℃の間の任意の温度にすることができる。
【0048】
開示された温度の実施形態のいずれかと組み合わせた指定温度における曝露時間は、0.5〜10時間、0.5時間未満、又は10時間超にすることができる。開示された温度の実施形態のいずれかと組み合わせた曝露時間は、0.5〜1、1〜1.5、1.5〜2、2〜2.5、2.5〜3、3〜3.5、3.5〜4、4〜4.5、4.5〜5、5〜5.5、5.5〜6、6〜6.5、6.5〜7、7〜7.5、7.5〜8、8〜8.5、8.5〜9、9〜9.5、9.5〜10時間にすることができる。
【0049】
さらなる実施形態では、ステント中のポリマーの安定化は、曝露温度、すなわちステントの実際の温度のサイクルを行うことによって実施することができる。温度のサイクルのステップは、曝露温度の上昇、曝露温度の低下、次に上昇と低下を1回又は複数回繰り返すことによって行うことができる。このような実施形態では、曝露温度はピーク温度まで上昇させ、その後、最低温度まで低下させてもよい。ピーク温度及び最低温度は、各サイクルを同一とすることもできるし、サイクル毎に変えることもできる。
【0050】
ステントに温度のサイクルを行って曝露するステップは、例えば、ステントを温度制御乾燥器内に置くことによって実施することができる。乾燥器は、ステントを選択した時間対温度プロファイルに曝露するようにプログラムすることができる。
【0051】
一部の実施形態では、曝露温度は、ピーク温度に達すると直ちに低下させる。一部の実施形態では、曝露温度は、最低温度に達すると直ちに上昇させる。他の実施形態では、温度プロファイルは、ピーク温度、最低温度、又はこれらの両方の温度で停止時間をもたせることができる。停止時間に関する実施形態では、停止時間中、曝露温度はピーク温度に維持した後、温度を低下させる。さらに、停止時間中、最低温度を維持した後、温度を上昇させる。
【0052】
温度のサイクルを行う実施形態では、ピーク曝露温度は、上記で開示した温度又は範囲を含むことができる。ピーク曝露温度はまた、ステントポリマーのTgより高いこともある。例えば、PLLAについてのピーク曝露温度は、65〜70、70〜75、80〜85又は85℃超としてもよい。しかし、上で考察したように、ステントポリマーの特性が悪影響を受けないように、Tgを超える時間を調節すべきである。
【0053】
最低温度は、周囲温度、又は周囲よりも高くすることができる。周囲より高い温度は、25〜30、30〜35又は35〜40℃にすることができる。
【0054】
例示的な実施形態では、ステントは2回、3回、4回又はそれ以上のサイクルに施すことができる。ステントは、周囲温度未満とポリマーのTg未満のピーク温度との間の温度サイクルに曝露することができる。PLLAステントの場合、サイクルの実施は、周囲温度又は上で開示した周囲範囲超と、任意の温度又は35〜60℃の間の範囲の温度との間にすることができる。一部の実施形態では、サイクル中の温度はすべて周囲より高く、且つTg未満である。
【0055】
一部の実施形態では、サイクル時間は最低温度から最高温度、及び最低温度に戻るまでを測定することができる。サイクル時間は1〜10分とすることができる。より厳密には、サイクル時間は、1〜2、2〜3、3〜4、4〜5、5〜6、6〜7、7〜8、8〜9、9〜10、2〜4、2〜5、2〜6、3〜5、3〜6又は5〜10分とすることができる。一部の実施形態では、温度サイクルの頻度は、1時間当たり5〜30、5〜20、5〜10、10〜20、12〜20又は15〜20サイクルとすることができる。
【0056】
温度のサイクルを行うと、ポリマーの安定化をさらに加速し、特に遊離ラジカルの減少を加速する傾向があると考えられる。したがって、温度をサイクルすることによる安定化は、指定温度に連続的に曝露するよりも短い総曝露時間で、遊離ラジカル濃度を0又は0近くに低下し得る。
【0057】
定義
周囲温度は、20〜30℃の間の任意の温度に相当することができる。
開示した範囲はすべて、範囲の端点を含む。
「ガラス転移温度」(Tg)は、ポリマーのアモルファス領域が、脆弱なガラス質状態から、変形可能又は延性の固体状態に大気圧で変化する温度である。言いかえれば、Tgはポリマー鎖における部分的な動きを開始する温度に相当する。所与のポリマーのTgは、加熱速度に依存することができ、ポリマーの熱履歴によって影響を受け得る。さらに、ポリマーの化学構造は、可動性に影響することによって、ガラス転移にかなり影響を及ぼす。
【0058】
「応力」は、平面内の小さな面積に作用する力の通り、単位面積当たりの力のことを指す。応力は、それぞれ垂直応力及びせん断応力と呼ばれる、平面に対して垂直及び平行な成分に分けることができる。真応力とは、力と面積を同時に測定する応力を意味する。引張試験及び圧縮試験に適用される公称応力は、元の標準(gauge)長さで割った力である。
【0059】
「強度」は、材料が破断する前に持ちこたえることになる、軸に沿った最大応力を指す。極限強度は、試験中に適用された最大負荷を、元の断面積で割ることにより計算される。
【0060】
「モジュラス」は、材料に適用される単位面積当たりの応力又は力の成分を、適用された力の軸に沿って適用された力に起因するひずみで割った比として定義することができる。モジュラスは応力−ひずみ曲線の始めの傾きであり、したがって、曲線におけるフック直線の領域によって決定される。例えば、材料は引張モジュラス及び圧縮モジュラスの両方を有する。モジュラスが比較的高い材料は、頑強又は剛直な傾向がある。反対に、モジュラスが比較的低い材料は、柔軟な傾向がある。材料のモジュラスは分子組成及び構造、材料温度、変形量及びひずみ率又は変形率に依存する。例えば、多くのポリマーは、該ポリマーのTg未満では、高いモジュラスを有しながらも脆弱な傾向がある。ポリマーの温度がそのTg未満からTgより高くなると、該ポリマーのモジュラスは低下する。
【0061】
「ひずみ」は、所与の応力又は負荷で材料に起こる伸び又は圧縮の量を指す。
【0062】
「伸び」は、応力を受けた際に起こる、材料の長さの増分として定義することができる。伸びは、元の長さの百分率として一般に表される。
【0063】
破壊伸びは、試料が破壊する際に、試料にかかるひずみである。破壊伸びは%として通常表される。
【0064】
「靭性」は、破断前に吸収されたエネルギー量であり、等価な言い方では(equivalently)、材料を破断するために必要な仕事量である。靭性の測定法の1つは、応力−ひずみ曲線の、ひずみ0から破断時のひずみまでの下の面積である。応力は、材料にかかる引張力に比例し、また、ひずみは材料の長さに比例する。次に、上記曲線の下の面積は、破壊前にポリマーが伸縮する距離にかかる力の積分値に比例する。この積分値は、試料を破壊するために必要な仕事(エネルギー)である。靭性は、試料が破壊する前に、試料が吸収することのできるエネルギーの尺度である。靭性と強度の間には相違点がある。強いが強靱ではない材料は脆弱と言われる。脆弱な物質は強いが、破壊する前にそれほど変形することはできない。