特許第6183815号(P6183815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183815
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】製剤の物性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   G01N11/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-170250(P2015-170250)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-49021(P2017-49021A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】金井 宏行
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−106731(JP,A)
【文献】 実開平03−002241(JP,U)
【文献】 特開平11−291439(JP,A)
【文献】 実開平03−014154(JP,U)
【文献】 米国特許第2243674(US,A)
【文献】 米国特許第4294111(US,A)
【文献】 特開2015−166713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配された駆動ロール及び自由回転ロールにより形成されるニップ部に、液状又は半固体状の製剤を供給して、該製剤のタック値を測定する製剤の物性測定装置であって、
前記駆動ロール及び前記自由回転ロールのいずれか一方の周面に、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝が全周に亘って形成されており、
前記駆動ロール及び前記自由回転ロールのいずれか一方の周面は、前記ニップ部において、前記溝によって、供給された前記製剤のタック値を測定する物性測定領域と、前記駆動ロールに前記自由回転ロールが接することで該自由回転ロールを回転させる駆動力伝達領域とに区分けされている製剤の物性測定装置。
【請求項2】
前記駆動ロールと隣接して、供給された前記製剤を薄く広げるための、膜厚制御ロールを有している請求項1記載の製剤の物性測定装置。
【請求項3】
前記駆動ロールの周面に、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝が全周に亘って形成されており、前記膜厚制御ロールの周面には、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝は形成されていない請求項2記載の製剤の物性測定装置。
【請求項4】
前記自由回転ロールの周面に、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝が全周に亘って形成されており、前記膜厚制御ロールの周面には、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝が、前記自由回転ロールの周面に形成された溝と対応する位置に、全周に亘って形成されている請求項2記載の製剤の物性測定装置。
【請求項5】
前記駆動ロール及び前記自由回転ロールは、回転軸方向の長さが略同じ長さとなっており、
前記溝は、前記駆動ロール及び前記自由回転ロールのいずれか一方に、一対形成されており、
前記ニップ部における物性測定領域は、前記駆動ロール又は前記自由回転ロールに形成された一対の前記溝の間に形成されており、
前記ニップ部における駆動力伝達領域は、前記駆動ロール又は前記自由回転ロールに形成された一対の前記溝よりも外方に形成されている請求項1〜4のいずれか1項記載の製剤の物性測定装置。
【請求項6】
前記液状又は半固体状の製剤が、化粧料、整髪料、皮膚外用剤、ボディー用ローション、マッサージ剤、皮膚・毛髪用洗浄料、毛髪用コンディショナー、又はトリートメントである請求項1〜5のいずれか1項記載の製剤の物性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤の物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明の発明者らは、先に、駆動ロール及び自由回転ロールの二本のロールにより形成されるニップ部にファンデーション又はマスカラを供給し、供給されたファンデーション又はマスカラがニップ部において分裂する際にロール軸に発生する、二本のロール軸を含む平面に垂直な方向の力を測定して、ファンデーション又はマスカラのタック値を評価する化粧料の性能評価方法を発明した(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2には、これらの特許文献1,2に記載の方法によって測定されたファンデーション又はマスカラのタック値の測定結果と、専門パネラーによるファンデーション又はマスカラの実使用におけるべたつき感の官能評価の評価結果との間に、高い相関性があることが報告されており、特許文献1,2に記載の化粧料の性能評価方法によれば、評価することが難しかった化粧料(製剤)のべたつき感を、客観的に評価することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−106731号公報
【特許文献2】特開2008−70382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の化粧料の性能評価方法によれば、ニップ部を形成する駆動ロール及び自由回転ロールの二本のロールを備える測定装置として、例えば印刷インキの粘着性の評価に用いられるインコメーターを使用しているため、例えば評価の対象となるファンデーションやマスカラ等の化粧料(製剤)が、顔料などの粒子を僅かしか含んでいなかったり、例えば化粧水や乳液のように全く含んでいないことで、ニップ部が滑り易くなる場合には、駆動ロールとの間の摩擦力を介して、駆動ロールの回転に伴って自由回転ロールを同期させて回転させることが難しくなるため、測定されたタック値とべたつき感の官能評価との間に、精度の良い相関性を見出すことが困難になる。
【0006】
本発明は、駆動ロール及び自由回転ロールの間に形成されるニップ部に滑り易い化粧料等の製剤が供給された場合でも、駆動ロールとの間の摩擦力を介して、駆動ロールの回転に伴って自由回転ロールを、滑りを生じさせることなく回転させて、製剤のタック値をより精度良く測定することのできる製剤の物性測定装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに平行に配された駆動ロール及び自由回転ロールにより形成されるニップ部に、液状又は半固体状の製剤を供給して、該製剤のタック値を測定する製剤の物性測定装置であって、前記駆動ロール及び前記自由回転ロールのいずれか一方の周面に、回転軸と垂直な面に沿って延設する溝が全周に亘って形成されており、前記駆動ロール及び前記自由回転ロールのいずれか一方の周面は、前記ニップ部において、前記溝によって、供給された前記製剤のタック値を測定する物性測定領域と、前記駆動ロールに前記自由回転ロールが接することで該自由回転ロールを回転させる駆動力伝達領域とに区分けされている製剤の物性測定装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製剤の物性測定装置によれば、駆動ロール及び自由回転ロールの間に形成されるニップ部に滑り易い化粧料等の製剤が供給された場合でも、駆動ロールとの間の摩擦力を介して、駆動ロールの回転に伴って自由回転ロールを、滑りを生じさせることなく回転させて、製剤のタック値をより精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、本発明の好ましい第1実施形態に係る製剤の物性測定装置の測定前の状態を説明する要部概念図、図1(b)は、測定時の状態を説明する要部概念図である。
図2図2は、本発明の好ましい第1実施形態に係る製剤の物性測定装置の構成を説明する要部斜視図である。
図3図3は、図1(a)のA−Aに沿った略示断面図である。
図4図4は、本発明の好ましい第2実施形態に係る製剤の物性測定装置の構成を説明する要部斜視図である。
図5図5(a)、及び図5(b)は、本発明の他の実施形態に係る製剤の物性測定装置の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の製剤の物性測定装置を、その好ましい実施形態に基づき、図1図5を参照しながら説明する。図1図3に示す本発明の好ましい第1実施形態に係る製剤の物性測定装置10は、製剤の物性として、例えばファンデーション、マスカラなどの化粧料、とりわけ化粧水、乳液など微粒子を含まない化粧料のべたつき感を、測定して評価するための装置として好ましく用いられる。本第1実施形態の物性測定装置10は、駆動ロール11及び自由回転ロール12の二本のロールにより形成されるニップ部14に液状又は半固体状の製剤15(図1(b)参照)として、具体的には、例えば化粧料、整髪料、皮膚外用剤、ボディー用ローション、マッサージ剤、皮膚・毛髪用洗浄料、毛髪用コンディショナー、トリートメント等を供給し、供給された製剤15がニップ部14において分裂する際に発生する力を計測して得られるタック値を、精度良く測定して、製剤15のべたつき感をより適正に評価できるようにするための装置として用いられる。ここで、タック値と、製剤15のべたつき感の官能評価との間には、上述のように、高い相関性があることが報告されている。また、本第1実施形態の物性測定装置10は、例えば印刷インキの粘着性の評価に用いられる装置として公知の、インコメータに適宜改良を加えて使用することができる。
【0011】
そして、本第1実施形態の製剤の物性測定装置10は、互いに平行に配された駆動ロール11及び自由回転ロール12により形成されるニップ部14に、液状又は半固体状の製剤15として、例えば化粧料である化粧水や乳液を供給して、これらの化粧料15のタック値を測定する測定装置である。図2及び図3に示すように、駆動ロール11及び自由回転ロール12のいずれか一方の周面(本第1実施形態では、駆動ロール11の周面)に、回転軸11aと垂直な面に沿って延設する溝である凹溝11bが全周に亘って形成されており、駆動ロール11及び自由回転ロール12のいずれか一方の周面(本第1実施形態では、駆動ロール11の周面)は、ニップ部14において、凹溝11bによって、供給された化粧料15のタック値を測定する物性測定領域11cと、駆動ロール11に自由回転ロール12が接することで自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域11dとに区分けされている。
【0012】
また、本第1実施形態では、駆動ロール12と隣接して、供給された化粧料(製剤)15を薄く広げるための、膜厚制御ロール13を有している。膜厚制御ロール13の周面には、回転軸13aと垂直な面に沿って延設する溝は形成されていない。
【0013】
さらに、本第1実施形態では、駆動ロール11及び自由回転ロール12は、回転軸11a,121方向の長さが互いに略同じ長さとなっており、駆動ロール11の凹溝11bは、駆動ロール11に一対形成されている。ニップ部14における物性測定領域14cは、駆動ロール11に形成された一対の凹溝11bの間に形成されており、ニップ部14における駆動力伝達領域14dは、駆動ロール11に形成された一対の凹溝11bよりも外方に形成されている。
【0014】
本第1実施形態の製剤の物性測定装置10では、駆動ロール11、自由回転ロール12及び膜厚制御ロール13は、図1(a)に示すように、それぞれの回転軸11a,12a,13aがヒンジ又はアーム等を介して測定装置10の枠体(不図示)に回転可能に取り付けられている。駆動ロール11と自由回転ロール12は、その回転軸11a,12aが互いに平行に配されており、駆動ロール11と自由回転ロール12とが接触していることで、自由回転ロール12による上方からの荷重が、供給された化粧料15を挟み込む部分である、ニップ部14に付加される構造となっている。また自由回転ロール12は、ニップ部14において駆動ロール11と接触することによる摩擦力の作用によって、駆動ロール11の回転に伴って回転するようになっている。駆動ロール11と膜厚制御ロール13もまた、その回転軸12a,13aが互いに平行に配されている。膜厚制御ロール13は、駆動ロール11と接触することによる摩擦力の作用によって、駆動ロール11の回転に伴って回転するようになっている。
【0015】
ここで、ニップ部14に付加される荷重は、例えば自由回転ロール12の回転軸12aに荷重を加えることによって、自由回転ロール12の自重以上の荷重が付加されるように調整することもできる。また、例えばバネ等の発条部材による押し付け機構を用いることによって、横方向から荷重を付加することで、駆動ロール11と自由回転ロール12との位置関係を、例えばこれらの回転軸11a,12aを含む平面が、水平となるよう配置することもできる。
【0016】
駆動ロール11は、本第1実施形態では、金属製のロールとなっており、回転軸11aにモータ(不図示)が取り付けられて、所定の速度で回転駆動されるようになっている。また、駆動ロール11は、ロールを一定の温度に保持するための、温度調整装置(不図示)を有している。駆動ロール11の大きさは、直径D1(図3参照)が例えば50mm〜120mm程度であることが好ましく、回転軸11a方向の長さL1(図3参照)が例えば50mm〜250mm程度であることが好ましい。
【0017】
自由回転ロール12は、本第1実施形態では、ゴム等の弾性部材からなる好ましくはゴムロールとなっており、図1及び図2に示すように、駆動ロール11の上方に、駆動ロール11と接触するように配されている。自由回転ロール12には、回転軸12aの両端に回動アーム22が取り付けられている(図1参照)。回動アーム22における自由回転ロール12とは反対側の下端部には、分銅21が配置されている。回動アーム22には、回動アーム22の回転軸22a(駆動ロール11の回転軸11aと共軸)周りの角度変化を検知するセンサ(不図示)が取り付けられている。該センサ(不図示)が検出する回動アーム22の角度は、化粧料15の分裂による抗力として自由回転ロール12に生じる力が、回動アーム22を介して回転軸22aに加わることによるトルクと、分銅が持ち上がることで回転軸22aに加わる分銅の重量によるトルクとの釣り合いの位置における、回動アーム22の傾斜角度に該当する。即ち、この角度が大きければ、化粧料15の分裂により自由回転ロール12に掛かる力が大きくなったことを示すことになる。該センサ(不図示)は、この角度を検知して、制御装置(不図示)に検知結果を出力する。
【0018】
制御装置(不図示)は、該センサの検知結果に基づいて、自由回転ロール12の回転軸12aと駆動ロール11の回転軸11aとを含む平面に対して垂直な方向に加わる力(べたつきによる引っ張り力)である、化粧料15のタック値(相対値)を、測定対象として算出できるようになっている。自由回転ロール12の大きさは、直径D2(図3参照)が例えば50mm〜120mm程度であることが好ましく、回転軸方向(X方向)の長さL2(図3参照)が駆動ロール11と同程度の、例えば50mm〜120mm程度であることが好ましい。なお、図1(b)では、動きを理解しやすいように回動アーム22の振れを大きく描いたが、実際の測定では振れはこれほど大きくはない。
【0019】
自由回転ロール12に掛かる力は、上述のように分銅21が持ち上がる角度を計測する方法の他に、例えばロードセルを用いて、自由回転ロール12の回転軸12aに対して垂直な方向の力を検出する方法を用いてもよい。
【0020】
ゴム等の弾性部材からなる自由回転ロール12は、駆動ロール11上に均等に薄く広げられた化粧料15の厚みを吸収できる程度の硬度を有していることが好ましい。具体的には、自由回転ロール12は、ゴム硬度(以下、単に「硬度」という)が40°以上95°以下のゴム製のロールであることが好ましく、硬度が40°以上85°以下のゴム製のロールであることが更に好ましい。
【0021】
駆動ロール11に関して、更に詳述すると、図2及び図3に示すように、駆動ロール11の周面には、回転軸11aと垂直な面に沿って延設する溝である凹溝11bが、全周に亘って形成されている。凹溝11bは、駆動ロール11の両側の端部に一対形成されている。一対の凹溝11b,11bは、各々、駆動ロール11の全周に亘って、後述する一定の幅で形成されている。
【0022】
駆動ロール11の回転軸11a方向の長さL1に対する凹溝11bの幅W1(図3参照)の割合(W1/L1)は、例えば膜厚制御ロール13を用いて駆動ロール11上に化粧料15を均等に薄く広げた際に、後述する物性測定領域11cを越えて駆動力伝達領域11d側に化粧料15を広がり難くする観点から、0.005以上0.15以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが更に好ましい。具体的には、凹溝11bの幅W1は、1mm以上19mm以下であることが好ましく、2mm以上13mm以下であることが更に好ましい。更に、同様の観点から、駆動ロール11の直径D1に対する凹溝11bの深さd1(図3参照)の割合(d1/D1)は、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることが更に好ましい。具体的には、凹溝11dの深さd1は、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることが更に好ましい。本実施形態では溝(溝11b、12b、13b)を凹溝としたが、V溝やU溝等、他の形状であってもよく、加工の容易さなどから、V溝が好ましい。
【0023】
駆動ロール11の両側の端部の周面に、凹溝11b,11bが形成されていることにより、ニップ部14において、駆動ロール11の周面は、供給された化粧料15のタック値を測定する物性測定領域11cと、駆動ロール11に自由回転ロール12が接することで自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域11dとに区分けされる。またこれによって、ニップ部14は、供給された化粧料15のタック値を測定する物性測定領域14cと、駆動ロール11に自由回転ロール12が接することで自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域14dとに区分けされる。すなわち、ニップ部14における物性測定領域14cは、駆動ロール11に形成された一対の凹溝11bの間に形成されており、ニップ部14における駆動力伝達領域14dは、駆動ロール11に形成された一対の凹溝11bよりも外方に形成されている。
【0024】
また、本第1実施形態では、駆動ロール11及び自由回転ロール12は、図2及び図3に示すように、回転軸11a,12a方向の長さL1,L2が、互いに略同じ長さに形成されている。ここで、「略同じ長さ」とは、駆動ロール11の回転軸11a方向の長さL1が、自由回転ロール12の回転軸12a方向の長さL2の97%以上、100%以下であることを意味する。
【0025】
さらに、本第1実施形態では、駆動ロール11の一対の凹溝11b,11bは、駆動ロール1の回転軸11a方向の両側の端部に、好ましくはロール11の端からロール11の全長の15%以内、更に好ましくは10%以内に離れた位置に配置されて形成されている。これによって、タック値を測定するのに十分な大きさの物性測定領域11c,14cを確保することが可能になると共に、駆動ロール11の回転に伴って自由回転ロール12を同期させて回転させるのに十分な大きさの駆動力伝達領域11d,14dを確保することが可能になる。
【0026】
本第1実施形態では、駆動ロール12と隣接して設けられた、供給された化粧料15を薄く広げるための膜厚制御ロール13は、図1及び図2に示すように、駆動ロール11の前方側に、駆動ロール11に接触して配置されている。膜厚制御ロール13は、駆動ロール11と接触することによる摩擦力の作用によって、駆動ロール11の回転に伴って、駆動ロール11と同期した状態で回転する。
【0027】
膜厚制御ロール15は、自由回転ロール12と同様に、例えばゴム等の弾性部材からなる好ましくはゴムロールとして形成できる他、例えばナイロンや、その他の各種の樹脂から幅広く材質を選択して形成することができる。膜厚制御ロール13は、駆動ロール11の直径D1よりも小さな、例えば35〜80mm程度の直径を有していることが好ましい。膜厚制御ロール13は、駆動ロール11及び自由回転ロール12の長さL1,L2と、略同じ長さを有していることが好ましい。膜厚制御ロール13には、駆動ロール11の周面に形成された溝11bの幅より小さな振れ幅であれば、インコメータでは一般的な、バイブレーション動作を付加することもできる。
【0028】
なお、本発明では、物性測定装置10を用いてタック値を測定して、べたつき感等の物性が評価される化粧料(製剤)15は、ファンデーションやマスカラはもちろん、化粧水、乳液、クリーム、美容液、UVケア剤、制汗用塗布液等の肌用化粧料、ネイルエナメル等の爪用化粧料、毛髪用化粧料などの、液状又は半固体状のその他の種々の化粧料を挙げることができる。また、本発明の物性測定装置10は、ニップ部14に滑りを生じさせ易い化粧料15のタック値を測定する際に、特に好ましく用いることができる。ニップ部14に滑りを生じさせ易い化粧料15は、例えば顔料などの粒子を僅かしか含んでいなかったり、全く含んでいない化粧料等を挙げることができる。ここで、顔料などの粒子は、具体的には、有機顔料、無機顔料、光輝性顔料等のことであり、このうち、有機顔料としては、アゾ系、ポリアゾ系等の顔料を挙げることができる。無機顔料としては、アセチルカーボン、グラファイトのような炭素粉末、合成シリカ、酸化鉄、酸化チタン、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化銅、酸化亜鉛、或いはマイカ等の粘土鉱物等を挙げることができる。光輝性顔料としては、パール顔料等を挙げることができる。
【0029】
ニップ部14に供給される化粧料15の供給量は、駆動ロール11上に均等に薄く広げられた化粧料15の厚みが、1μm以上30μm以下となる供給量であることが好ましく、1.5μm以上20μm以下となる供給量であることが更に好ましい。
【0030】
上述の構成を備える本第1実施形態の製剤の物性測定装置10を用いて、化粧料(製剤)の物性として例えばべたつき感を評価するための、タック値を測定するには、先ず、図1(a)に示すように、化粧料15として例えば化粧水や乳液を供給する前の状態、即ち化粧料15のタック値を測定する前の状態において、駆動ロール11、自由回転ロール12及び膜厚制御ロール13を、所定の初期の回転速度で回転させながら、所定の温度に維持する。具体的には、駆動ロール11の回転軸11aに取り付けられたモータ(不図示)を駆動させて、駆動ロール11を回転させる。駆動ロール11の回転に伴って、駆動ロール11と接触している自由回転ロール12及び膜厚制御ロール13は、駆動ロール11との接触による摩擦力の作用によって、駆動ロール11と共に連れ回る。
【0031】
駆動ロール11、自由回転ロール12及び膜厚制御ロール13を回転させた状態で、次に、例えばピペット(不図示)等を用いて、駆動ロール11と膜厚制御ロール13との間に、タック値を測定したい化粧料15として、例えば乳液や化粧水を所定量供給する。或いは、膜厚制御ロール13を駆動ロール11に対して非接触の状態にして、他の2ロール(駆動ロール11及び自由回転ロール12)を回転させておき、物性測定領域11cに接触する部分の膜厚制御ロール13の領域に、サンプルとなる化粧料15を軸方向に均等に載せたうえで、膜厚制御ロール13を静かに駆動ロール11に接触させることにより、駆動ロール11の物性測定領域11cに均等に化粧料15を供給することもできる。供給された化粧料15は、好ましくは小幅なバイブレーション動作が付加されていたり、或いはバイブレーション動作を停止している膜厚制御ロール13の作用によって、駆動ロール11の周面に均等に薄く押し広げられてゆく。その際に、駆動ロール11の両側の端部の周面には、凹溝11bが形成されているので、駆動ロール11の周面に押し広げられた化粧料15は、駆動ロール11の凹溝11bを越えてこれの外側には広がって行かないようになっている。これによって、本第1実施形態では、駆動ロール11の周面に押し広げられた化粧料15は、駆動ロール11の両側の端部の一対の凹溝11b,11bの、内側の端縁部の間の物性測定領域11cにのみ、これの全長に亘って、且つ駆動ロール11の全周に亘って、均等に薄く押し広げられてゆくことになる。
【0032】
駆動ロール11と膜厚制御ロール13との間に供給されて、駆動ロール11の物性測定領域11cの周面に押し広げられた化粧料15は、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14に至ると、図1(b)に示すように、ニップ部14の物性測定領域14cを通過することで、駆動ロール11及び自由回転ロール12の回転方向の出口側において、化粧料の分裂に要する力を生じるようになる。この分裂に要する力は、自由回転ロール12から回動アーム22を介して、回転軸22aを中心に回転して分銅21を持ち上げるトルクとして分銅21側に伝わると共に、分銅21が持ち上げられると、持ち上げられた分銅21の重量によるトルクと釣り合うことになって、平衡状態となる。この平衡状態の位置にある回動アーム22の角度を、センサ(不表示)で検出する。また検出した回動アーム22の角度を、制御装置(不図示)に出力することで、制御装置(不図示)において、測定対象であるタック値が自動的に算出されることになる。
【0033】
そして、上述の構成を備える本第1実施形態の製剤の物性測定装置10によれば、駆動ロール11及び自由回転ロール12の間に形成されるニップ部14に滑り易い化粧料(製剤)15が供給された場合でも、駆動ロール11との間の摩擦力を介して、駆動ロール11の回転に伴って自由回転ロール12を、滑りを生じさせることなく同期させた状態で回転させて、化粧料(製剤)15のタック値をより精度良く測定することが可能になる。
【0034】
すなわち、本第1実施形態の製剤の物性測定装置10によれば、駆動ロール11の周面に、回転軸11aと垂直な面に沿って延設する凹溝11bが全周に亘って形成されており、駆動ロール11の周面は、ニップ部14において、凹溝11bによって、供給された化粧料15のタック値を測定する物性測定領域11cと、駆動ロール11に自由回転ロール12が接することで自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域11dとに区分けされている。
【0035】
このように、ニップ部14において、駆動ロール11の周面が、物性測定領域11cと駆動力伝達領域11dとに区分けされていることで、ニップ部14は、供給される化粧料15のタック値を測定する物性測定領域14cと、化粧料15が供給されることなく、駆動ロール11に自由回転ロール12を直接に接触させて、これらの摩擦力により自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域14dとに区分けされるので、供給される化粧料15が、例えば粒子が入っておらず滑り易い化粧料となっていて、物性測定領域14cでは、駆動ロール11の周面と自由回転ロール12の周面とが滑り易くなっている場合でも、化粧料15が供給されない駆動力伝達領域14dにおいて、駆動ロール11の周面に自由回転ロール12の周面を直接に接触させることにより摩擦力を確実に確保することで、駆動ロール11の回転に伴って、自由回転ロール12を同期させて回転させることが可能になり、これによって、化粧料15のタック値を、さらに精度良く測定することが可能になる。またこれによって、精度良く測定されたタック値を介して、化粧料15の物性として例えばベたつき感を、さらに精度良く評価することが可能になる。
【0036】
また、本第1実施形態によれば、凹溝11bは、駆動ロール11の両側の端部の周面に、一対形成されていて、駆動ロール11及びニップ部14の駆動力伝達領域11d,14dは、駆動ロール11及びニップ部14の両側の端部に対称に配置されて設けられるので、自由回転ロール12と駆動ロール11との摩擦力が、左右対称にバランス良く働くことで、自由回転ロール12を、駆動ロール11の回転に伴って、より安定した状態で回転させることが可能になる。
【0037】
さらに、本第1実施形態によれば、ニップ部14を物性測定領域14cと駆動力伝達領域14dとに区分けするための凹溝11dは、駆動ロール11及び自由回転ロール12のいずれか一方にのみ、具体的には駆動ロール11の周面のみに設けられているので、既存のインコメータを改良するための加工が容易になると共に、駆動ロール11及び自由回転ロール12の双方に凹溝を設けた場合と比較して、双方の凹溝の位置合わせを行う必要がなく、インコメータの改良をさらに容易に行うことが可能になる。また自由回転ロール12には凹溝が設けられていないので、タック値が測定された後に、自由回転ロール12に付着したまま残った測定後の化粧料15を、自由回転ロール12から容易に取り除くことが可能になる。
【0038】
図4は、本発明の好ましい第2実施形態に係る製剤の物性測定装置20を示すものである。本第2実施形態の製剤の物性測定装置20は、ニップ部14を物性測定領域14cと駆動力伝達領域14dとに区分けするための凹溝12dが、駆動ロール11’及び自由回転ロール12’のいずれか一方として、自由回転ロール12’の周面のみに設けられていること、及び膜厚制御ロール13’にも、凹溝13bが設けられていること以外は、上記第1実施形態の製剤の物性測定装置20と略同様の構成を備えている。なお、図4に示す第2実施形態の製剤の物性測定装置20では、上記第1実施形態の物性測定装置10と同様の構成部分については、同様の符号を付すことで、その詳細な説明については適宜省略する。
【0039】
そして、本第2実施形態の製剤の物性測定装置20は、互いに平行に配された駆動ロール11’及び自由回転ロール12’により形成されるニップ部14に、液状又は半固体状の化粧料(製剤)15として、例えば乳液や化粧水を供給して、これらの化粧料15のタック値を測定する測定装置であって、自由回転ロール12’の両端部の周面に、回転軸12aと垂直な面に沿って延設する一対の凹溝12bが全周に亘って形成されており、自由回転ロール12’の周面は、ニップ部14において、凹溝12bによって、供給された化粧料15のタック値を測定する物性測定領域12cと、駆動ロール11’に自由回転ロール12’が接することで自由回転ロール12’を回転させる駆動力伝達領域11dとに区分けされている。
【0040】
また、本第2実施形態の製剤の物性測定装置20では、駆動ロール12’と隣接して、供給された化粧料(製剤)15を薄く広げるための、膜厚制御ロール13’を有している。膜厚制御ロール13’の両端部の周面には、回転軸13aと垂直な面に沿って延設する一対の凹溝13bが、自由回転ロール12’の周面に形成された一対の凹溝12bと対応する位置に、全周に亘って形成されている。
【0041】
本第2実施形態の製剤の物性測定装置20によっても、自由回転ロール12’の周面が、物性測定領域12cと駆動力伝達領域12dとに区分けされており、また好ましくは、膜厚制御ロール13’の周面には、凹溝13bが、自由回転ロール12’の周面に形成された凹溝12bと対応する位置に形成されており、これらによって、ニップ部14は、供給される化粧料15のタック値を測定する物性測定領域14cと、化粧料15が供給されることなく、駆動ロール11に自由回転ロール12を直接に接触させて、これらの摩擦力により自由回転ロール12を回転させる駆動力伝達領域14dとに区分けされるので、上記第1実施形態の製剤の物性測定装置10と同様の作用効果が奏される。
【0042】
また、本第2実施形態によれば、ニップ部14を物性測定領域14cと駆動力伝達領域14dとに区分けするための凹溝12dは、駆動ロール11’及び自由回転ロール12’のいずれか一方にのみ、具体的には自由回転ロール12’の周面のみに設けられているので、例えばゴムロールに凹溝12dを形成するだけの簡易な加工を施して、既存のインコメータを容易に転用することが可能になると共に、駆動ロール11及び自由回転ロール12の双方に凹溝を設けた場合と比較して、双方の凹溝の位置合わせを行う必要がなく、インコメータの改良をさらに容易に行うことが可能になる。また駆動ロール11’には凹溝が設けられていないので、タック値が測定された後に、駆動ロール11’に付着したまま残った測定後の化粧料15を、駆動ロール11’から容易に取り除くことが可能になる。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の製剤の物性測定装置は、供給された製剤を薄く広げるための膜厚制御ロールが、駆動ロールと隣接して設けられている必要は必ずしも無く、図5(a)、(b)に示すように、膜厚制御ロールを備えていない装置として構成することもできる。また、凹溝は、駆動ロールや自由回転ロールや膜厚制御ロールの両端部の周面に、一対設けられている必要は必ずしも無く、例えばこれらの周面の片側に、1箇所のみに設けられていても良い。凹溝は、これらの周面に、3箇所以上設けることもできる。
【符号の説明】
【0044】
10,20 製剤の物性測定装置
11,11’ 駆動ロール
11a 回転軸
11b 溝(凹溝)
11c 物性測定領域
11d 駆動力伝達領域
12,12’ 自由回転ロール
12a 回転軸
12b 溝(凹溝)
12c 物性測定領域
12d 駆動力伝達領域
13,13’ 膜厚制御ロール
13a 回転軸
13b 溝(凹溝)
13c 物性測定領域
13d 駆動力伝達領域
14 ニップ部
14c 物性測定領域
14d 駆動力伝達領域
15 製剤(化粧料)
21 分銅
22 回動アーム
22a 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5