特許第6183821号(P6183821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6183821-エマルション型粘着剤組成物 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183821
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】エマルション型粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20170814BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C09J133/06
   C09J11/06
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-569244(P2016-569244)
(86)(22)【出願日】2015年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2015082958
(87)【国際公開番号】WO2016114010
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-6968(P2015-6968)
(32)【優先日】2015年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】梅宮 弘和
(72)【発明者】
【氏名】濱田 武彦
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−058069(JP,A)
【文献】 特開2005−239875(JP,A)
【文献】 特表2006−509890(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0077443(US,A1)
【文献】 特開2012−126889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を51〜90質量%、副成分として高Tgの共重合体エマルション(B)を10〜49質量%の範囲内で含む、少なくともこれら2種類のエマルションの混合物を含有してなるエマルション型粘着剤組成物であって、
その固形分が50%以上で、25℃での粘度が1000mPa・s以下であり、
前記低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)は、そのガラス転移温度(Tg)が−70℃〜−50℃であり、
前記高Tgの共重合体エマルション(B)は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に、20〜200質量部の粘着付与樹脂を存在させて乳化重合した共重合体のエマルションであり、該共重合体のガラス転移温度(Tg)が−30℃〜30℃で、その重量平均分子量が5000〜70000で、且つ、その平均粒子径が200〜2000nmであることを特徴とするエマルション型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着付与樹脂の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に対して、40〜120質量部の範囲内であり、前記共重合体の重量平均分子量が5000〜60000である請求項1に記載のエマルション型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を60〜80質量%、副成分として高Tgの共重合体エマルション(B)を20〜40質量%の範囲内で含む請求項1又は2に記載のエマルション型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂の軟化点(℃)が、70℃〜170℃である請求項1〜のいずれか1項に記載のエマルション型粘着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種類のエマルションの混合物を含有してなるエマルション型粘着剤組成物に関し、更に詳しくは、低粘度であるにもかかわらず、エマルションの液安定性に優れ、粘着剤層を形成した場合に、該粘着剤層が高い粘着力及び高いタックを示すエマルション型粘着剤組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤の用途は、テープ、シート、ラベル、ステッカー及び壁紙等、多方面にわたっている。また、被着体の材質も、プラスチック、金属、ガラス、陶磁器、紙、布、木材或いは生鮮食品等と、広範囲に及んでいる。そして、従来より、粘着剤の主成分には、天然ゴム、合成ゴム或いはアクリル系共重合体等が用いられており、これらの材料を有機溶剤に溶解した溶剤型のものや、或いは、水に分散したエマルション型のものが知られている。しかし、溶剤型の粘着剤の場合には、火災などにより燃焼した際に、有害なガスが発生したり、粘着剤層を製造する時に揮発する有機溶剤による環境衛生上の問題などがあるため、近年では、水系のエマルション型のものが多くなり始めている。中でも、粘着性や耐候性に優れているアクリル系共重合体を主成分とするエマルション型の粘着剤が広く普及してきている。
【0003】
このようなエマルション型の粘着剤の中でも、高い粘着力と高いタックが要求される粘着剤を調製する際には、アクリル系共重合体の組成を調整したり、連鎖移動剤や架橋剤を駆使したりして、高い粘着力を達成することが行われている。しかし、いずれの方法も、高い粘着力と高いタックとを達成した粘着剤とするには限界があった。これに対し、粘着付与樹脂(タッキファイヤー)を添加することで、高い粘着力を達成することも行われている。特に、粘着付与樹脂の軟化点や添加量を調整することで、高い粘着力を実現することが行われてきている。しかし、後述するように、この手法にも限界があった。
【0004】
一方で、粘着剤層の塗布量を多くすることでも高い粘着力と高いタックを達成することも行われている。しかし、最近では、粘着剤の塗付量を減らして製品のコストダウンを図ったり、作業の効率化を図るために高速で塗工できるように、低粘度の粘着剤が求められる傾向があることから、低塗付量・低粘度であっても、高い粘着力と高いタックを有する粘着剤の開発が求められている。
【0005】
このような要求に対して、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、ウレタンフォームなどの表面が平滑な面でない材料に対する接着性を改良することを目的とした、アクリル系エマルションについて提案している。具体的には、粘着付与剤が異なる割合で溶解された2種類のアクリルモノマー分散液を用意し、一方のアクリルモノマー分散液の重合反応が行われた後、他方のアクリルモノマー分散液が加えられ、重合反応が更に行われてアクリル系エマルションを得ている。また、特許文献2、3には、ポリオレフィン系樹脂に対する諸性能を向上させたエマルション型粘着剤組成物が提案されている。具体的には、特許文献2には、エチレン性不飽和単量体(A)及び粘着付与剤(B)からなる油溶成分を、水媒体中で乳化剤(C)を用いて、特定の粒径となるように乳化させた乳化液[I]を、重合開始剤(D)の存在下で重合して得られる樹脂エマルション[II]の存在下に、更に(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするエチレン性不飽和単量体(E)を重合して得たエマルション型粘着剤組成物が開示されている。また、特許文献3には、特定のモノマー、粘着付与樹脂、アニオン性界面活性剤を乳化分散し、特定の粒径のモノマー乳化液とし、これを水溶性重合開始剤及びアニオン性界面活性剤を含有する重合用水溶液中に滴下しながら重合して、特定の粒径を有するポリマー粒子の合成樹脂水性エマルションとする製造方法が開示されている。
【0006】
一方、ガラス転移温度(Tg)の異なるポリマーエマルションを混合することで、高粘着力及び高タックを実現しようとする提案もある。例えば、特許文献4では、低Tgポリマーエマルションと高Tgポリマーエマルションと架橋剤と粘着付与樹脂とを含むエマルション型粘着剤組成物を提案している。そして、この技術によれば、粘着付与樹脂の使用量を少なくしても、ポリオレフィンのような難接着性の被着体と、段ボールのような粗面の被着体の両方に対し、高い粘着力を示し、凝集力とタックのバランスにも優れたものになるとしている。また、特許文献5では、ガラス転移温度(Tg)の異なるポリマーLとポリマーHと、必要に応じて粘着付与樹脂を含む粘着剤組成物についての提案がされており、粘着性、高温凝集性及び耐反撥性を高レベルで実現できるとしている。
【0007】
また、特許文献6では、アクリル系粘着剤エマルション(A)と、特定の粒子径とガラス転移温度を有する共重合体エマルション(B)とからなる水性粘着剤組成物についての提案がされている。そして、ポリオレフィンのような非極性ポリマーのフィルムに対して優れた接着性を示し、接着層は、裁断等の二次加工性に優れているとしている。そして、主成分であるアクリル系粘着剤エマルション(A)が、官能基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体と粘着付与樹脂とを含有してなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開1999−189610号公報
【特許文献2】特開2003−96420号公報
【特許文献3】特開2003−335805号公報
【特許文献4】特開2006−124691号公報
【特許文献5】特開2010−95609号公報
【特許文献6】特開2001−207146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記で提案されている従来技術には、それぞれ下記の課題があった。まず、上記で提案されているエマルションを得るために重合させる成分を工夫した特許文献1〜3に記載の技術では、いずれも、単量体(モノマー)混合物中に含まれる粘着付与樹脂(タッキファイヤー)によってベース樹脂の重合が阻害されてしまい、得られる粘着剤の凝集力を向上させることが難しいという問題があった。一方、上記に提案された特許文献4〜6に記載されている、異なる種類のエマルションを混合させる技術では、粘着付与樹脂(タッキファイヤー)をエマルションの形態で混合組成中に後から混合させているため、上記した重合時における問題は生じない。しかし、本発明者らの検討によれば、この技術では、粘着剤の粘度が高くなり、近年要求されているレベルまで粘度を低くした場合には、使用している粘着付与樹脂が分離したり、経時で粘着付与樹脂が沈降するなどの問題が生じてしまい、これらの技術を用いて良好な性能の低粘度の粘着剤組成物とすることは実現できていない。すなわち、従来技術は、いずれも、粘着力の向上を目的として粘着付与樹脂を使用する構成のものであるが、粘着付与樹脂を添加したことで、粘着剤に新たな課題を生じており、粘着付与樹脂を効果的に利用したものであるとは言い難かった。
【0010】
従って、本発明の目的は、粘着付与樹脂を添加したことで、粘着剤に新たな課題を生じることなく、粘着付与樹脂を効果的に利用できる技術を確立し、低塗布量であっても、形成した粘着剤層が高粘着力、高タックを達成でき、更に、低粘度であるため高速塗工することが可能な、環境適応性に優れたエマルション型粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下本発明によって達成される。すなわち、本発明は、主成分として低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を51〜90質量%、副成分として高Tgの共重合体エマルション(B)を10〜49質量%の範囲内で含む、少なくともこれら2種類のエマルションの混合物を含有してなるエマルション型粘着剤組成物であって、その固形分が50%以上で、25℃での粘度が1000mPa・s以下であり、前記低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)は、そのガラス転移温度(Tg)が−70℃〜−50℃であり、前記高Tgの共重合体エマルション(B)は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に、20〜200質量部の粘着付与樹脂を存在させて乳化重合した共重合体のエマルションであり、該共重合体のガラス転移温度(Tg)が−30℃〜30℃で、その重量平均分子量が5000〜70000で、且つ、その平均粒子径が200〜2000nmである共重合体のエマルションであることを特徴とするエマルション型粘着剤組成物を提供する。
【0012】
上記した本発明の水性エマルションのより好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。すなわち、前記粘着付与樹脂の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に対して、40〜120質量部の範囲内であり、前記共重合体の重量平均分子量が5000〜60000であること;前記低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を60〜80質量%、副成分として高Tgの共重合体エマルション(B)を20〜40質量%の範囲内で含むこと;前記低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)の25℃での粘度が、50〜700mPa・sの範囲内であり、且つ、前記高Tgの共重合体エマルション(B)の25℃での粘度が、50〜1000mPa・sの範囲内であること;前記粘着付与樹脂の軟化点(℃)が、70℃〜170℃であること;である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、その塗布量を減量したり、高速で塗工できるといった理由から、近年において要望されている、低粘度の粘着剤によって、高い粘着力と高いタックの粘着剤層を形成することができる優れた性能のエマルション型粘着剤組成物が提供される。具体的には、本発明のエマルション型粘着剤組成物は、粘着付与樹脂が添加された、主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と、副成分である高Tgの共重合体エマルション(B)の、少なくとも2種類のエマルションの混合物を含有してなる簡易な構成のものでありながら、上記優れた性能を発揮するものとなる。すなわち、本発明では、特殊な工程を用いることなく、副成分である共重合体エマルション(B)を乳化重合によって得る段階で粘着付与樹脂を存在させるという極めて簡便な構成により、優れた性状のエマルション型粘着剤組成物の実現を可能にしている。このため、本発明のエマルション型粘着剤組成物を混合してなる水性塗料組成物等において、製造コストを低減できることに加え、粘着付与樹脂が高濃度に含有されているにもかかわらず、特に低粘度のものとした場合であっても、添加した粘着付与樹脂の分離や沈降の問題が生じない、優れた性状のものになるので、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明エマルション型粘着剤組成物を構成する合成例2で得た共重合体エマルション(B−1)の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「(メタ)アクリル」の用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」の用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を意味する。
【0016】
以下に、本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは、前記した本発明の目的を達成すべく鋭意検討した結果、ガラス転移温度(Tg)の異なるポリマーエマルションを混合してなる粘着剤では、いかにその混合比率を変えたとしても、本発明が目的とする所望性能を実現することができないとの認識を持つに至った。すなわち、ガラス転移温度(Tg)の異なるポリマーエマルションを混合してベースとした場合、低Tgの部分は、タックは高いが保持力(粘着力)が低く、一方、高Tgの部分は、保持力は高いがタックが低いので、これらを併用することで保持力もタックも高い粘着剤とできればよいが、本発明者らの検討によれば、混合比率をどのように変化させても、これら2種のTgの異なるポリマーエマルションのみの組み合わせでは、保持力もタックも高い粘着剤を実現することはできなかった。
【0017】
これに対し、本発明者らは、副成分である高Tgの共重合体エマルション(B)として、特定量の粘着付与樹脂の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合させて得た共重合体のエマルションを用いるという新規な構成によって、粘着剤中に、従来よりも多くの粘着付与樹脂を含有させても、粘着付与樹脂が分離したり、経時で粘着付与樹脂が沈降するなどの問題が生じることなく、低粘度の粘着剤の実現ができることを見出した。すなわち、上記のようにして構成された高Tgの共重合体エマルション(B)は、タックが向上し、保持力もタックも高いものとなり、更に、これを副成分として用いたことで、粘着付与樹脂を多く含有させることができるものになるため、主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と混合してなる本発明のエマルション型粘着剤組成物は、低塗布量であっても、形成した粘着剤層が、高粘着力、高タックを達成でき、更に、低粘度であるため高速塗工することが可能な優れた特性が実現されるものになる。
【0018】
本発明者らは、本発明のエマルション型粘着剤組成物が、上記した優れた性能を有するものになった理由について、下記のように考えている。すなわち、上記のようにして得た高Tgの共重合体エマルション(B)は、共重合体の分子量が低くなり、タックを高くすることができたが、その理由は、単量体混合物を乳化重合する際に粘着付与樹脂を存在させたことで、単量体混合物の重合が適度に阻害されたことによると考えられる。更に、乳化重合時に粘着付与樹脂を含有させると、粘着付与樹脂を、共重合体エマルション(B)中に均一に溶解或いは分散させることができるので、粘着付与樹脂をエマルションの形態で添加させた場合よりも多く含有させることが可能になる。本発明のエマルション型粘着剤組成物は、これらのことが相俟って、粘着力が向上して、従来の技術では得られなかった性能に優れた粘着剤の実現が可能になったものと考えている。以下に、本発明のエマルション型粘着剤組成物を構成する各成分などについて詳細に説明する。
【0019】
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、少なくとも、主成分として低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を51〜90質量%と、副成分として高Tgの粘着付与樹脂を含む共重合体エマルション(B)を10〜49質量%の割合で含む、少なくとも上記2種類のエマルションの混合物を含有してなる。好ましくは、(A)を60〜80質量%、(B)を20〜40質量%の割合で含むとよい。そして、その固形分が50%以上、例えば、固形分が60%程度で、25℃における粘度が1000mPa・s以下と低粘度であり、且つ、上記主成分と副成分の2種類のエマルションが下記の構成からなることを特徴とする。本発明を構成する主成分の前記アクリル系粘着剤エマルション(A)は、そのガラス転移温度(Tg)が−70℃〜−50℃と、共重合体エマルション(B)よりも低いことを特徴とし、更に、エマルション(A)の25℃での粘度が、50〜700mPa・sの範囲内のものであることが好ましい。
【0020】
更に、エマルション(A)と上記した特定の割合で混合されている副成分の高Tgの共重合体エマルション(B)は、特定量の粘着付与樹脂の存在下、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合することにより得られた共重合体のエマルションであり、このように構成したことで前記した本発明の顕著な効果の実現を可能にしている。具体的には、副成分の高Tgの共重合体エマルション(B)は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に、20〜200質量部の粘着付与樹脂を存在させて乳化重合した共重合体のエマルションであり、該共重合体のTgが−30℃〜30℃で、その分子量が5000〜70000で、その平均粒子径が200〜2000nmのものである。本発明者らの検討によれば、この分子量が5000〜70000と低い共重合体のゲル分率は20%以下であり、十分な高粘着力と高タックを実現するものになる。
【0021】
本発明の粘着剤組成物は、上記共重合体エマルション(B)を乳化重合して得る際における前記粘着付与樹脂の使用量が、重合成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に対して、40〜120質量部の範囲内であり、前記共重合体の分子量が5000〜60000であることがより好ましい。更に、高Tgの共重合体エマルション(B)は、25℃での粘度が50〜1000mPa・sのものであることが好ましい。以下、本発明のエマルション型粘着剤組成物を構成する成分について、それぞれ説明する。
【0022】
[アクリル系粘着剤エマルション(A)]
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤エマルション(A)をその主成分とし、51〜90質量%含有してなる。アクリル系粘着剤エマルション(A)を60〜80質量%含有するものであることがより好ましい。また、本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)は、そのTgが、併用する共重合体エマルション(B)のTgよりも低い、−70℃〜−50℃であることを要する。上記ガラス転移温度を満たすアクリル系の粘着剤エマルションであれば、従来公知のものをいずれも使用することができる。なお、共重合体のTgについては、日本エマルジョン工業会規格「合成樹脂エマルジョンの皮膜の硬さ表示方法(107−1996)」に記載された、各ホモポリマーのTg値を使用して計算値から求めることができる。この点については後述する。
【0023】
(単量体成分)
上記アクリル系粘着剤エマルション(A)は、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系単量体を乳化重合してなる、上記Tgの範囲を満たす(共)重合体を有するものであればよい。アクリル系単量体としては、例えば、下記に挙げるような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を、単独で或いは2種以上を乳化重合することによって容易に得られる。エマルション(A)の調製に用いることのできる(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート及びエチルカルビトールアクリレート等が挙げられる。本発明を構成するエマルション(A)は、上記に挙げた単量体の群より1種以上使用することで調製できるが、特に、炭素数4〜12のアルキル鎖を有するアクリル酸エステルから選ばれた単量体を主成分として使用することが好ましい。
【0024】
また、アクリル系粘着剤エマルション(A)の調製には、上記の単量体の他、下記に挙げるような、その他のアクリル系単量体や、アクリル系単量体以外の共重合可能な単量体も使用することができる。例えば、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル或いはバーサチック酸ビニル、スチレン、ビニルベンゾエート等のビニル単量体が挙げられる。更に、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチローロプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリル(メタ)アクリレート等の、2個以上の重合性不飽和基を含有する単量体が挙げられる。そして、これらの群より、必要に応じて1種以上を用いることができる。
【0025】
更に、下記に挙げるような種々の官能基を有する不飽和単量体も、本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)を調製する際の単量体として使用することができる。例えば、カルボキシル基、アミド基もしくは置換アミド基、アミノ基もしくは置換アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボニル基、メルカプト基又は珪素含有基等を有する不飽和単量体が挙げられる。好ましくは、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基或いはエポキシ基を有する不飽和単量体が挙げられ、これらの群より、必要に応じて1種以上使用することができる。
【0026】
カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸等が挙げられる。水酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。カルボニル基を有する不飽和単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、(メタ)アクリロオキシアルキルプロペナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。エポキシ基を有する不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アクリル系粘着剤エマルション(A)を重合するに際し、上記したこれらの官能基を有する不飽和単量体から選ばれた1種以上を、必要に応じて使用することができる。
【0027】
(製造方法)
本発明のエマルション型粘着剤組成物を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)を共重合して得る場合は、各ホモポリマーのTg値を使用して得た計算値から、得られるエマルションを構成する共重合体のTgが−70℃〜−50℃の範囲内になるように、上記に挙げたような単量体を適宜に選択してモノマー組成を設計し、乳化重合する。この際に行う乳化重合方法は特に限定されず、従来公知の乳化重合方法を利用して適宜に製造することができる。例えば、1段重合方法、多段重合方法、または、これらの組み合わせによる方法の、いずれの方法でも製造することができる。
【0028】
乳化重合の具体的な方法としては、特に限定されないが、下記に挙げるような方法が利用できる。例えば、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体などのアクリル系単量体成分を単独で或いは複数成分を含む単量体混合物に、少なくとも、水、界面活性剤及び重合開始剤を反応容器に一括で仕込み、乳化重合を行う方法、単独単量体或いは単量体混合物とシランカップリング剤とを、少なくとも、水、界面活性剤及び重合開始剤を仕込んだ反応容器にそれぞれ滴下しながら乳化重合を行う方法、単独単量体或いは単量体混合物を、予め水及び界面活性剤と共に乳化したものを、水と、必要に応じて、界面活性剤や重合開始剤を仕込んだ反応容器に滴下して乳化重合を行う方法、これらの組み合わせによる方法などが挙げられる。
【0029】
(重合開始剤)
上記した乳化重合の際に用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩過酸化物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の有機過酸化物等を使用できる。これらの重合開始剤の使用量は、アクリル系粘着剤エマルション(A)を製造する際に用いる、単独単量体或いは単量体混合物100質量部あたり、0.1〜1.0質量部程度とすることが好ましい。また、重合開始剤は、重合の各段階で用いることができ、各段階で所定量を添加して、重合反応を行うことができる。
【0030】
(界面活性剤)
上記した乳化重合の際には、乳化剤として界面活性剤を用いることができる。本発明で規定する共重合体エマルション(B)を得る際に行う乳化重合の際も同様であり、従来公知の陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等、如何なるものも用いることができる。例えば、−SO3NH4基、−OSO2NH4基、或いは、エチレンオキサイド鎖の中から選ばれた少なくとも1種の、親水基を有する界面活性剤等が挙げられる。具体的な陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ニューコール707SF、ニューコール714SF、ニューコール723SF及びニューコール740SF〔共に商品名、日本乳化剤(株)製〕等を使用することができる。また、本発明で使用し得る具体的な非イオン性界面活性剤としては、例えば、ニューコール707、ニューコール710、ニューコール714、ニューコール723、ニューコール740及びニューコール780(共に商品名、日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。
【0031】
更に、本発明で使用する界面活性剤は、重合可能なエチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤であることがより好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。具体的には、ラテムルE−118B、ラテムルPD−104、ラテムルPD−105、ラテムルPD−420、ラテムルPD−430、ラテムルPD−430S及びラテムルPD−450〔いずれも商品名、花王(株)製〕や、アクアロンHS−10、アクアロンKH−05、アクアロンKH−10、アクアロンRN−05、アクアロンRN−10及びアクアロンRN−20〔いずれも商品名、第一工業製薬(株)製〕や、アデカリアソープSE−10N、アデカリアソープSR−10、アデカリアソープSR−20、アデカリアソープSR−3025、アデカリアソープER−10、アデカリアソープER−20、アデカリアソープER−30及びアデカリアソープER−40〔いずれも商品名、(株)ADEKA製〕や、アントックスMS−60〔商品名、日本乳化剤(株)製〕等が挙げられる。これらの反応性界面活性剤は、単独でも併用してもよく、または、従来公知の一般的な界面活性剤と併用してもよい。
【0032】
本発明のエマルション型粘着剤組成物を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)を、乳化重合して得る場合に用いる上記したような界面活性剤の使用量としては、重合に使用する単独単量体或いは単量体混合物100質量部に対して、純分で0.1〜5質量部であることが好ましい。界面活性剤の使用量が純分で0.1質量部未満であると、得られるエマルション(A)が重合安定性に劣るものになる傾向にあるので好ましくない。一方、界面活性剤の使用量が純分で5質量部を超えると、得られたエマルション(A)を混合してなる本発明の粘着剤組成物を用い、被着体に粘着剤層を形成した場合の粘着剤層の特性が、十分に良好な特性のものにならない傾向がある場合がある。
【0033】
(物性)
上記のようにして得られる本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)は、先述したように、そのガラス転移温度(Tg)が、−70℃〜−50℃と、低Tgであることを必須とする。より好ましくは、−70〜−60℃であることが好ましい。Tgが、−70℃よりも低いと、凝集力が低く、糊のはみ出しやダイカット性に劣り、−50℃より高いと、高タックが得られ難い場合がある。
【0034】
本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)は、Tgが上記した範囲のものであればいずれのものでもよいが、その他、下記に挙げる物性を満足するものであることがより好ましい。まず、その25℃での粘度が50〜700mPa・s程度、より好ましくは50〜300mPa・sのものであることが好ましい。すなわち、粘度が上記範囲外であると、最終的に得られる本発明のエマルション型粘着剤組成物の25℃での粘度を、1000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下の低粘度にすることが難しくなる場合があるので、好ましくない。
【0035】
また、本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)は、その平均粒子径が、70〜500nm程度であることが好ましい。粒子径が上記範囲外であると、粒子の安定性不良やエマルションの分離、沈降となる場合がある。
【0036】
また、本発明を構成するアクリル系粘着剤エマルション(A)は、そのゲル分率が40〜80%程度であることが好ましい。ゲル分率が、上記範囲外であると、凝集力不足や低タックとなる場合がある。
【0037】
[共重合体エマルション(B)]
次に、上記した主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)に混合して用いられる、(A)よりもTgが高い、副成分である高Tgの共重合体エマルション(B)について説明する。本発明のエマルション型粘着剤組成物を構成する共重合体エマルション(B)は、粘着付与樹脂の存在下、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を乳化重合することにより得られた共重合体のエマルションである。更に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物100質量部に、20〜200質量部の粘着付与樹脂を存在させて乳化重合してなるものであり、且つ、そのTgが−30℃〜30℃であり、その分子量が5000〜70000であり、更に、共重合体の平均粒子径が200〜2000nmの共重合体エマルションである。このように構成したことで、上記共重合体のゲル分率は20%以下と小さくなるが、0であってもよい。本発明のエマルション型粘着剤組成物の副成分である共重合体エマルション(B)の含有量は、10〜49質量%の範囲内であるが、20〜40質量%の範囲内で混合することがより好ましい。
【0038】
(単量体成分)
本発明を構成する共重合体エマルション(B)を得る際に用いる、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体には、先にアクリル系粘着剤エマルション(A)の説明で示したと同様のものをいずれも使用することができる。すなわち、エマルション(B)を製造する際には、エマルション(A)の説明の際に列記した前記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体の単量体混合物で、或いは、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体と共に、前記したその他のアクリル系単量体や、アクリル系単量体以外の共重合可能な単量体、及び、前記した種々の官能基を有する不飽和単量体(以下、「その他の共重合可能な単量体」と呼ぶ。)を併用した単量体混合物を使用することができる。このため、使用できる単量体についての説明は省略する。また、エマルション(B)は、上記した単量体の中から、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体を併用した単量体混合物を共重合することで得られるが、その際の製造方法は、エマルション(A)を製造する際の方法と同様のものが利用できる。よって、この点についても説明を省略する。但し、共重合体エマルション(B)を得るための単量体混合物を設計する際には、乳化重合して得られる共重合体のTgが、−30℃〜30℃となるようにする必要がある。この点については後述する。
【0039】
本発明を構成する共重合体エマルション(B)を調製する際に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体と共に必要に応じて併用される、先に挙げたような、その他の共重合可能な単量体の種類や使用量は、特に制限されない。本発明者らの検討によれば、その使用量は、共重合体エマルション(B)を形成するための単量体の全成分100質量%中に、例えば、0.1〜70質量%の割合で使用することが好ましく、より好ましくは0.1〜50質量%程度の範囲内で使用する。
【0040】
(粘着付与樹脂)
本発明を構成する高Tgの共重合体エマルション(B)は、上記したような単量体混合物を乳化重合して得る際に、粘着付与樹脂の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を少なくとも有する単量体を乳化重合させてなることを特徴とする。すなわち、本発明では、主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)の製造の際に粘着付与樹脂を存在させるのでなく、副成分となる高Tgの共重合体エマルション(B)を乳化重合して得る調製時に、粘着付与樹脂を存在させる。このような構成としたことで、通常は、保持力が高くタックが低い、高Tgの共重合体エマルション(B)のタックを高めることができ、更に、粘着付与樹脂を多く含有させることができるので、本発明の粘着剤において、十分な高粘着力と高タックの実現が可能になる。更に、エマルション(B)を構成する共重合体を本発明で規定する特定の性状のものとしたことで、本発明の顕著な効果を達成する。すなわち、本発明者らの検討によれば、このように構成したことで、共重合体エマルション(B)は、エマルションと粘着付与樹脂とが良好な状態に複合化したものとなり、更に、該エマルション(B)を、先に説明した主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)に混合して、本発明のエマルション型粘着剤組成物にした場合にも、粘着付与樹脂の良好な溶解或いは分散状態が保たれる。
【0041】
すなわち、本発明者らの検討によれば、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合して調製する際に粘着付与樹脂を存在させると、単量体混合物中に粘着付与樹脂が溶解或いは分散した状態となり、その状態で単量体混合物を乳化重合させると、得られる共重合体エマルション(B)中に粘着付与樹脂を均一に溶解或いは分散させることができる。本発明のエマルション型粘着剤組成物は、上記のようにして調製した、粘着付与樹脂が均一に溶解或いは分散された高Tgの共重合体エマルション(B)を、主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)に混合させることで、いずれもアクリル系であるエマルション(A)及び(B)が、相溶性よく速やかに良好な状態に混合される。その結果、得られる粘着剤が、低粘度であっても、組成物中に含有されることになる粘着付与樹脂が分離、沈降することなく、液安定性に優れた特性のものにできたものと考えられる。
【0042】
本発明者らの検討によれば、本発明と同様に、低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と、高Tgの共重合体エマルション(B)の2種類のエマルションの混合物を含有してなる構成のエマルション型粘着剤組成物を調製する場合に、高Tgの共重合体エマルション(B)を調製する際に、粘着付与樹脂を存在させずに乳化重合し、本発明の粘着剤で使用したと同様の粘着付与樹脂をエマルションの形態で後添加させたとしても、上記した本発明の顕著な効果を得ることはできない。すなわち、特に、25℃での粘着剤組成物の粘度を1000mPa・s以下と低粘度にした場合は、後添加した粘着付与樹脂が分離したり、経時で粘着付与樹脂が沈降することが生じ、本発明で達成したような優れたエマルション型粘着剤組成物とはならない。また、本発明者らの検討によれば、主成分となる低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を製造する際に、単量体を単独で、或いは2種以上を混合した単量体混合物に粘着付与樹脂を併存させて乳化重合した場合には、添加した粘着付与樹脂によって重合が阻害されてしまい、得られる粘着剤組成物の凝集力を向上させることが難しくなり、良好な粘着性が得られないことがわかった。これに対し、本発明で規定した、副成分となる高Tgの共重合体エマルション(B)を得る際に、粘着剤組成物を特定量の範囲で存在させて乳化重合して、特有の性状のエマルションにし、これを主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と混合するという簡便な構成にするだけで、上記した従来技術の課題が一挙に解決できるものになる。特に、塗布量を減らしたり、高速で塗工できるといった理由で、近年、要望されている低粘度の粘着剤において、高い粘着力と高いタックの粘着剤層を形成することができる優れた性能のエマルション型粘着剤組成物の提供が可能になる。
【0043】
上記粘着付与樹脂としては、単量体の混合物に溶解或いは分散するものであれば、特に限定されず、従来公知のものをいずれも使用することができる。このような粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂、ポリテルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂等が挙げられ、これらの中から1種以上を使用することができる。ロジン系樹脂としては、天然ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、不均化ロジン、不均化ロジンエステル等が挙げられる。ポリテルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。また、脂肪族系石油樹脂又は芳香族系石油樹脂の水添石油樹脂等が挙げられる。
【0044】
本発明で使用する粘着付与樹脂としては、上記した粘着付与樹脂の中でも、軟化点(℃)が70℃〜170℃であるものが好ましい。軟化点が上記範囲内である粘着付与樹脂の具体的なものとしては、例えば、軟化点125℃の重合ロジンエステルであるペンセルD−125(商品名、荒川化学工業株式会社製)、軟化点150℃の重合ロジンエステルであるペンセルD−160(商品名、荒川化学工業株式会社製)、軟化点100℃のロジンエステルであるPINEREZ2410(商品名、LAWTER社製)、軟化点115℃のテルペン樹脂であるYSレジンPX1150(商品名、ヤスハラケミカル株式会社製)、軟化点160℃のテルペンフェノール樹脂であるYSポリスターT160(商品名、ヤスハラケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
上記粘着付与樹脂の使用量は、共重合エマルション(B)の乳化重合の際に使用する単量体混合物100質量部に対して、20〜200質量部、更には、40〜120質量部であることが好ましい。その使用量が20質量部より少ない場合は、高Tgの共重合エマルション(B)を、主成分となる低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)に混合させて本発明のエマルション型粘着剤組成物を調製した際に、粘着付与樹脂が少な過ぎて、粘着付与樹脂を付与したことによる効果を十分に発揮させることができず、粘着剤層を形成した場合に、高粘着力及び高タックを実現することが難しくなる。一方、200質量部よりも多くした場合は、共重合エマルション(B)を調製する際に乳化重合が過度に阻害されて、これを混合させて本発明のエマルション型粘着剤組成物を調製した際に、満足できる粘着剤の凝集力が得られない場合がある。
【0046】
(製造方法)
共重合体エマルション(B)も、アクリル系粘着剤エマルション(A)と同様に、従来公知の乳化重合方法によって適宜に製造することができる。乳化重合方法としては、例えば、1段重合方法、多段重合方法、または、これらの組み合わせによる方法があるが、いずれも使用することができる。上記重合において使用可能な重合開始剤や界面活性剤は、先に記載したアクリル系粘着剤エマルション(A)の製造において使用できるものと同じものを使用することができるので、説明を省略する。
【0047】
(物性)
上記のようにして得られる本発明を構成する共重合体エマルション(B)は、そのガラス転移温度(Tg)が、先に説明した併用するエマルション(A)よりも高く、−30℃〜30℃であることを要する。更には、−20〜20℃程度のものがより好ましい。Tgが、−30℃より低い、或いは、30℃よりも高いと、先に説明した低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と混合してなる、粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層が、高粘着力と高タックを実現できなくなる。なお、共重合体エマルション(B)のTgは、先に説明したアクリル系粘着剤エマルション(A)を共重合体とした場合と同様の方法で求めることができる。
【0048】
また、本発明を構成する共重合体エマルション(B)は、その分子量が5000〜70000であることを要する。先に説明したように、粘着付与樹脂の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を含む単量体混合物乳化重合すると、得られる共重合体の分子量は小さなものになる。この結果、本発明で規定する高Tgの共重合体エマルション(B)を副成分とすることで、十分な高粘着力と高タックを実現できる性状のものになる。なお、粘着付与樹脂が存在していない状態や少ない状態で乳化重合させた場合は、十万以上の分子量のものになり、本発明の顕著な効果を実現するものにはならない。
【0049】
また、上記のようにして構成した共重合体エマルション(B)は、そのゲル分率が20%以下のものになる。本発明者らの検討によれば、ゲル分率が20%を超えると、該エマルション(B)を混合してなる粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層において、十分な高粘着力と高タックを実現することができなくなる。本発明を特徴づける共重合体エマルション(B)の性状をゲル分率で規定することも可能であるが、その違いをより明確に規定できるため、本発明では、分子量で規定することとした。
【0050】
また、本発明を構成する共重合体エマルション(B)は、その平均粒子径が200〜2000nmであることを要し、更には、200〜1000nmのものがより好ましい。平均粒子径200nmより小さい場合には、アクリル系粘着剤エマルション(A)と混合し、エマルション型粘着剤組成物とした際に、凝集してしまうことが生じる。一方、平均粒子径が2000nmよりも大きい場合には、エマルション型粘着剤組成物を放置した際に分離を生じる。
【0051】
また、共重合体エマルション(B)は、その25℃での粘度が50〜1000mPa・s程度であることが好ましく、更には、50〜500mPa・sであることがより好ましい。粘度が上記範囲外であると、最終的に得られる本発明のエマルション型粘着剤組成物を1000mPa・s以下にすることが困難となる場合があるので、好ましくない。
【0052】
[エマルション型粘着剤組成物]
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、上記した低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)を主成分とし、その含有量が51〜90質量%、好ましくは、60〜80質量%の範囲であり、上記した特有の性状を有する高Tgの共重合体エマルション(B)を副成分とし、その含有量が10〜49質量%、好ましくは、20〜40質量%の割合で構成されている。本発明のエマルション型粘着剤組成物は、主成分である低Tgのアクリル系粘着剤エマルション(A)と、副成分である高Tgの共重合体エマルション(B)とを上記の割合で混合してなることで、その液安定性に優れ、また、該エマルション型粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層の粘着性能(高粘着力・高タック)とを、バランスよく達成したものとなる。
【0053】
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、B型粘度計による、25℃における粘度が1000mPa・s以下と低粘度のものであることを要するが、塗布量の減量や、高速での塗工性をより向上させるためには、25℃における粘度が、50〜700mPa・s、更には、500mPa・s程度のものであることが好ましい。また、本発明のエマルション型粘着剤組成物は、レオメーターによる粘度測定で、25℃でのずり速度104-1の粘度が200mPa・s以下、更には100mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定方法については後述する。本発明のエマルション型粘着剤組成物は、上記したような低粘度のものであるため、使用する際の粘着剤の塗布量を減らすことができ、経済的であり、また、粘着剤層を形成する際の塗工を高速で行うことが可能となるので、作業効率を向上させることができるという顕著な効果も得られる。更に、本発明のエマルション型粘着剤組成物は、上記した低粘度の粘着剤でありながら、高い粘着力と高いタックの粘着剤層を形成することができる優れた性能のものとなる。なお、本発明のエマルション型粘着剤組成物の粘度を、本発明で規定する1000mPa・s以下の、所望する範囲に調整する際に、従来公知の増粘剤を用いて粘度を調整することも好ましい形態である。
【実施例】
【0054】
次に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
【0055】
実施例及び比較例で用いた共重合体からなる各エマルションのガラス転移温度Tg(℃)は、下記の式により求めた。
式:1/(Tg+273)=Σ〔Wn/(Tgn+273)〕
(上記式中、Tg(℃)は、共重合体のガラス転移温度、Wnは各モノマーの重量分率を表し、Tgn(℃)は、各モノマーによるホモポリマーのガラス転移温度を表し、nは、各モノマーの種類を表す。)
【0056】
その際に使用した各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgn(℃)には、それぞれ下記の文献値を用いた。
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
ブチルアクリレート(BA):−55℃
メチルメタクリレート(MMA):105℃
イソノニルアクリレート(INA):−85℃
スチレン:100℃
アクリル酸(AAC):106℃
【0057】
[合成例1:アクリル系粘着剤エマルション(A−1)の合成]
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、別に準備しておいた、下記のようにして調製した単量体乳化物を連続的に4時間滴下して乳化重合した。上記で用いた単量体乳化物は、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHAと略記)69部、ブチルアクリレート(BAと略記す)30部、アクリル酸(AACと略記)1部の単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE−118B)4部とイオン交換水30部を混合し、乳化することで調製した。また、この単量体乳化物の滴下に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却した。最後に、アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して、固形分60%、25℃における粘度が70mPa・s、pH8.0、比重カップでの比重が1.03である樹脂の水分散液の、アクリル系粘着剤エマルションA−1を得た。得られたエマルションA−1について、下記の方法で物性を測定し、その結果を表1中に、配合組成とともに記載した。
【0058】
[エマルションの物性の測定方法]
<粘度>
単一円筒回転式粘度計、いわゆるB型粘度計を用い、25℃で、回転数60rpmで測定した。
【0059】
<ゲル分率>
本発明では、エマルションのゲル分率を下記のようにして測定した。エマルションを、ポリラミシリコンセパレーター上に20g/m2/dryになるように塗工し、120℃の乾燥機で60秒間乾燥した。得られた皮膜試料1gをトルエン500gに24時間浸漬した。そして、24時間浸漬後、300メッシュステンレス金網でろ過し、ろ過後の残渣を熱風乾燥機で90℃、3時間乾燥させ、デシケーターに24時間放置後に残存皮膜の重量を測定し、浸漬前後の重量変化よりゲル分率を算出した。
【0060】
<平均粒子径測定>
本発明では、エマルションの平均粒子径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD−7100(株式会社島津製作所製)にて測定した。
【0061】
<重量平均分子量>
本発明では、乾燥皮膜のテトラヒドロフラン可溶物の重量平均分子量を、ポリスチレンを標準物質とするGPC(Gel Permeation Chromatography)にて測定した。
【0062】
[比較合成例1、2:アクリル系粘着剤エマルション(A−2)、(A−3)の合成]
合成例1における単量体混合物の構成成分及び配合量を、表1に記載のものに代えて、合成例1と同様の方法で、Tgがそれぞれ−45℃、−75℃のアクリル系粘着剤エマルションをそれぞれ調製した。これを、比較合成例の、アクリル系粘着剤エマルションA−2と、A−3とした。得られたエマルションA−2、A−3のそれぞれの物性についても、エマルションA−1の場合と同様に測定して、その結果を表1中に記載した。表1に示したように、A−2のTgは−45℃、A−3のTgは−75℃であり、いずれも本発明で規定する低Tgの範囲内のものではなかった。
【0063】
【0064】
[合成例2:共重合体エマルション(B−1)の合成]
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、別に準備しておいた、下記のようにして調製した単量体乳化物を連続的に4時間滴下して乳化重合した。上記で用いた単量体乳化物は、2−エチルヘキシルアクリレート49部、メチルメタクリレート(MMAと略記)10部、スチレン(STと略記)40部、アクリル酸1部、タッキファイヤー(粘着付与樹脂)としてロジン系樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名:ペンセルD−125)50部の単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE−118B)4部とイオン交換水63部を混合し、乳化することで調製した。また、この単量体乳化物の滴下に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後室温まで冷却した。最後に、アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して、固形分60%、25℃での粘度が100mPa・s、pH8.0、平均粒子径290nm、比重カップでの比重が1.05の樹脂の水分散液である、共重合体エマルションB−1を得た。また、モノマー組成から求めたB−1のTg値は、−8℃である。得られたエマルションB−1の物性についても、エマルションA−1と同様の方法で測定した。その結果を表2中に配合組成とともに記載した。また、図1に、B−1の平均粒子径を測定した際に得た粒度分布を示した。
【0065】
[合成例3〜7:共重合体エマルション(B−2)〜(B−6)の合成]
合成例2における単量体構成成分及び配合量を、表2に記載のものに代えた以外は、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルション(B−2)〜(B−6)をそれぞれ作製した。得られたエマルション(B−2)〜(B−6)のそれぞれの物性についても同様に測定して、その結果を表2中に配合組成とともに記載した。
【0066】
[比較合成例3、4:共重合体エマルション(B−7)、(B−8)の合成]
合成例2における単量体構成成分及び配合量を、表2に記載のものに代えた以外は、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルションB−7、B−8をそれぞれ作製した。得られたエマルションB−7、B−8についても同様に測定して、その結果を表2中に配合組成とともに記載した。表2に示したように、B−7のTgは−42℃、B−8のTgは40℃であり、いずれも本発明で規定する高Tgの範囲内のものではなかった。
【0067】
【0068】
[比較合成例5:共重合体エマルション(B−9)の合成]
合成例5の配合に加え、更に架橋剤として、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステルTMP)を5部配合して、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルションB−9を作製した。得られたエマルションB−9の物性を配合組成とともに表3に示した。表3に示したように、B−9の重量平均分子量は11万であり、本発明で規定する範囲内のものではなかった。
【0069】
[比較合成例6:共重合体エマルション(B−10)の合成]
合成例5の配合において、ラテムルE−118Bを3倍量(12部)使用して、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルションB−10を作製した。得られたエマルションB−10の物性を配合組成とともに表3に示した。表3に示したように、B−10の平均粒径は100nmであり、本発明で規定する範囲内のものではなかった。
【0070】
[比較合成例7:共重合体エマルション(B−11)の合成]
合成例5の配合において、ラテムルE−118Bを0.5倍量(2部)使用して、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルションB−11を作製した。得られたエマルションB−11の物性を配合組成とともに表3に示した。表3に示したように、B−11の平均粒径は2500nmであり、本発明で規定する範囲内のものではなかった。
【0071】
[比較合成例8:共重合体エマルション(B−12)の合成]
合成例5の配合において、タッキファイヤー(粘着付与樹脂)であるペンセルD−125を使用せず、合成例2と同様の方法で、共重合体エマルションB−12を作製した。得られたエマルションB−12の物性を配合組成とともに表3に示した。表3に示したように、B−12の重量平均分子量は36万であり、本発明で規定する範囲内のものではなかった。
【0072】
[比較合成例9:共重合体エマルション(AB−1)の合成]
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させ、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し直ちに、別に準備した2−エチルヘキシルアクリレート55.5部、ブチルアクリレート28.5部、メチルメタクリレート15部、アクリル酸1部の単量体混合物に、タッキファイヤーとしてロジン系樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名:ペンセルD−125)15部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE−118B)4部とイオン交換水40部を混合し乳化した単量体乳化物を、連続的に4時間滴下して乳化重合した。並行して5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後室温まで冷却した。アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して、固形分60%、25℃における粘度が500mPa・s、pH8.0なる水分散液を得た。これを共重合体エマルションAB−1とし、その物性を配合組成とともに表3中に示した。AB−1は、低Tgの単量体と高Tgの単量体に、タッキファイヤーを加えて乳化重合したものであり、本発明で規定する構成とは全く異なる。
【0073】
【0074】
[実施例1〜10及び比較例1〜11]
上記した合成例1と比較合成例1、2で得たアクリル系粘着剤エマルション(A−1)〜(A−3)と、上記した合成例2〜7及び比較合成例3〜8で得た共重合体エマルション(B−1)〜(B−12)とを用い、表4−1、表4−2に記載した組み合わせと割合で配合し、増粘剤で粘度を500mPa・s程度に調整することにより、本発明の実施例と比較例のエマルション型粘着剤組成物をそれぞれに得た。また、上記した比較合成例9で得た共重合体エマルション(AB−1)を用いたものを比較例7のエマルション型粘着剤組成物とした。なお、表4−2中のタッキファイヤーエマルションには、荒川化学工業株式会社製のスーパーエステルE−730−55(商品名、粘度40mPa・s、平均粒子径500nm、比重1.05)を使用した。上記のようにして調製した実施例1のアクリル系粘着剤エマルションについて、下記の方法で測定したレオメーターでのずり速度104-1時の粘度は、100mPa・sであった。
【0075】
<レオメーターによる粘度測定>
レオメーターによる粘度測定は下記のようにして行った。粘弾性測定装置Physica MCR301(Anton Paar社製)にてコーンプレートを使用して、25℃の条件で、ずり速度104-1までの粘度を測定した。
【0076】
[比較例8、9]
比較例8、9の粘着剤組成物は、比較合成例1、2で作製したアクリル系粘着剤エマルションA−2と、A−3とをそれぞれに用い、併用する共重合体エマルション(B)として、合成例5で作製した本発明で規定する共重合体エマルション(B−4)を用い、実施例4と同様にして粘着剤組成物を作製したものである。
【0077】
[比較例10、11]
比較例10、11の粘着剤組成物は、合成例1で得た本発明で規定するアクリル系粘着剤エマルション(A−1)と、合成例5で作製した本発明で規定する共重合体エマルション(B−4)を用い、両者の使用比率を本発明で規定する範囲外としたものである。
【0078】
【0079】
【0080】
[エマルション型粘着剤組成物の評価]
上記した表4−1に示した配合を有する実施例の各エマルション型粘着剤組成物と、上記した表4−2に示した配合を有する比較例の各エマルション型粘着剤組成物のそれぞれについて、下記の方法及び基準で性能を評価した。具体的には、粘着力及びループタックを測定し、性能を評価するとともに、液の安定性を下記の基準で評価した。そして、表5に、得られた結果をまとめて示した。先の方法で測定した粘度についても、表5中にまとめて示した。
【0081】
<性能試験>
(試験用の試料の作製)
実施例及び比較例の各エマルション型粘着剤組成物を、ポリラミシリコンセパレーター上に20g/m2/dryになるように塗工し、120℃の乾燥機で60秒間乾燥後、粘着層上に上質紙(64g/m2)を貼り合わせ、23℃、50%RH雰囲気中に16時間以上放置して、粘着シートを作製し、これを試験試料とした。また、該試験試料は、同じ条件で複数作製し、下記の試験に用いた。
【0082】
(粘着力)
上記で得た試験試料を、23℃、50%RH雰囲気中で、ステンレス板に圧着した直後の180°はくり強度を、JIS Z0237粘着テープ・粘着シート試験方法に準じ、テンシロンにて測定した。そして、粘着力については、測定値が15N/25mm以上のものを、高粘着力のものであると評価した。表5に、得られた測定値を示した。
【0083】
(ループタック)
上記で得た試験試料を、23℃、50%RH雰囲気中で、ループ状にして、水平にしたステンレス板に貼り付け、300mm/minの速度で引き剥がした時の強度をテンシロンにて測定した。そして、タックについては、13N/25mm以上のものを高タックのものであると評価した。表5に、得られた測定値を示した。
【0084】
<液の安定性>
実施例及び比較例の各エマルション型粘着剤組成物について、製造時の凝集物の有無や、放置後(3ヶ月)の液の分離状態を目視で確認し、評価した。表5中の「○」は、製造時に凝集物がなく、放置後に液の分離がなかったことを意味する。一方、「凝集」は製造時に凝集物があったことを意味し、「分離」は放置後の液が分離したことを意味する。表5に、評価結果を示した。
【0085】
【0086】
表5から明らかなように、実施例の粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層は、いずれも粘着力が15N/25mm以上と高粘着力であり、また、いずれもループタックが13N/25mm以上と高タックであり、しかも液安定性に優れたものであることが確認された。一方、比較例の粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層は、比較例1〜3、7の粘着剤組成物は、粘着力及びタックが十分ではなく、また、共重合体エマルション(B)に、平均粒径が本発明で規定するよりも小さいものを用いた比較例4の粘着剤組成物は、凝集してしまい、粘着力及びタックを測定できなかった。更に、共重合体エマルション(B)に、平均粒径が本発明で規定するよりも大きいものを用いた比較例5の粘着剤組成物、構成する共重合体エマルション(B)が、該(B)を製造する乳化重合の際に粘着付与樹脂を存在させず、市販のタッキファイヤーエマルションを添加した比較例6及び比較例7の粘着剤組成物は、表5に示したように、いずれも分離が生じてしまい、液安定性が悪いものであった。
【0087】
比較例8、9の粘着剤組成物は、比較合成例1、2で作製したアクリル系粘着剤エマルションA−2と、A−3とをそれぞれに用い、併用する共重合体エマルション(B)として合成例5で作製した共重合体エマルションB−4を用い、実施例2と同様にして粘着剤組成物を作製したものである。しかし、表5に示したように、これらの粘着剤組成物は、実施例4の粘着剤組成物のような、高粘着力、高タックの粘着剤性能に優れるものにはならなかった。
図1