特許第6183835号(P6183835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6183835-導電性ポリマー分散液の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183835
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】導電性ポリマー分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20170814BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20170814BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08L101/12
   H01G9/02 331G
   H01B1/12 F
   H01B1/12 E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-152040(P2013-152040)
(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公開番号】特開2015-21100(P2015-21100A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236953
【氏名又は名称】富山薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100175237
【弁理士】
【氏名又は名称】加納 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 新史
(72)【発明者】
【氏名】浦本 昌英
(72)【発明者】
【氏名】武市 裕介
(72)【発明者】
【氏名】石田 晃浩
(72)【発明者】
【氏名】信田 知希
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−040770(JP,A)
【文献】 特開2010−040776(JP,A)
【文献】 特開2008−257934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
H01B 1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー(m1)を、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用いて酸化重合させて得られる導電性ポリマー(a1)を含有する導電性ポリマー分散液(d1)と、
前記モノマー(m1)を、低分子有機スルホン酸又はその金属塩であるドーパント機能を有する酸化剤(o2)を用いて酸化重合を行い、次いで、水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用いて、ドーパント交換して得られる導電性ポリマー(b1)を含有する導電性ポリマー分散液(d2)と、を混合することを特徴とする、導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項2】
前記水溶性ポリマー(p1)、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項3】
前記モノマー(m1)が、3,4−エチレンジオキシチオフェン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーである、請求項1又は2に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項4】
前記酸化重合の際における溶媒が、水、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法。
【請求項5】
前記導電性ポリマー分散液に含まれる前記導電性ポリマー(a1)と前記導電性ポリマー(b1)との質量比率が99:1〜25:75となるように混合する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項6】
前記導電性ポリマー(a1)の平均粒径が、前記導電性ポリマー(b1)の平均粒径よりも小さい、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項7】
前記導電性ポリマー分散液が、更に、導電性向上剤、バインダー樹脂、又は界面活性剤を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
【請求項8】
前記導電性ポリマー(b1)の平均粒径は、前記導電性ポリマー(a1)に比べて、1.5倍〜1000倍大きい、請求項6に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法によって導電性ポリマー分散液を製造し、次いで、該導電性ポリマー分散液溶媒を除去する導電性ポリマー材料の製造方法
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法によって導電性ポリマー材料を製造し、次いで、該導電性ポリマー材料からなる固体電解質層を有する固体電解コンデンサを製造する、固体電解コンデンサの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れた導電性ポリマー分散液、該分散液より得られる、成形性の高い導電性ポリマー材料、及び該導電性ポリマー材料を用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの発展に伴い、新しい電子部品材料が開発されている。特に、機能性ポリマー材料において目覚しい発展が進んでいる。例えば、導電性材料では、ポリピロール類又はポリチオフェン類等の導電性ポリマーが開発され、キャパシタ電極材料、電池電極材料又は帯電防止材料等として実用化されている。
【0003】
この導電性ポリマーは、モノマーと酸化剤を用いて、酸化重合又は電解重合を行うことにより製造された後、溶媒を除去して導電性材料として使用され、また、水又は有機溶媒中に分散させた溶媒を除去して、導電性材料として使用される。この導電性ポリマーは、同じ種類のものであっても、製造方法の違いにより、特性が大きく異なるため、その製造方法について数多くの研究がなされている。
【0004】
特許文献1には、ポリチオフェンの溶液及びその製造方法に関する技術が開示されている。このポリチオフェンの溶液は、3,4−ジアルコキシチオフェンを、2,000〜500,000の範囲の分子量を有するポリスチレンスルホン酸のポリ陰イオンの存在下で、酸化重合することにより得られることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2及び特許文献3には、導電性ポリマー懸濁液、その製造方法及び導電性ポリマー懸濁液を使用した固体電解コンデンサに関する技術が開示されている。この導電性ポリマー懸濁液は、低分子有機酸又はその塩からなるドーパントを含む溶媒中で、3,4−エチレンジオキシチオフェンと酸化剤を用いて酸化重合を行い、導電性ポリマーを得た後精製し、更にポリスチレンスルホン酸及び酸化剤を混合して得られたものである。この導電性ポリマー懸濁液を、固体電解コンデンサに浸漬させ溶媒を除去することで、低抵抗(低ESR)のコンデンサが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−90060号公報
【特許文献2】特開2010−40776号公報
【特許文献3】特開2010−40770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、導電性ポリマーの分散液が得られ、この分散液を塗布、乾燥させることにより、導電性ポリマーの塗膜が得られることが記載されている。この分散液からは、均一な塗膜が得られにくい等の問題を有している。また、導電性が低いという問題がある。
また、特許文献2および特許文献3の方法で得られた導電性ポリマーは、結晶性が高く、導電性が高いことが記載されているが、更なる高電導度化や低ESRの固体電解コンデンサを得るには、十分な方法とは言い難く、膜としたときのポリマーの結晶性が高いため、硬くひびが生じやすい。成形性に問題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術に鑑み、成形性に優れ、かつ導電性の高い導電性ポリマー材料が得られる導電性ポリマー分散液、及び該導電性ポリマー分散液から得られる成形性の高いポリマー材料を用いた低ESRである固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意研究を進めたところ、下記の構成を有する本発明に到達したものである。すなわち、本発明は、以下の要旨を有することを特徴とする。
(1) モノマー(m1)を、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用いて酸化重合させて得られる導電性ポリマー(a1)を含有する導電性ポリマー分散液(d1)と、
前記モノマー(m1)を、低分子有機スルホン酸又はその金属塩であるドーパント機能を有する酸化剤(o2)を用いて酸化重合を行い、次いで、水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用いて、ドーパント交換して得られる導電性ポリマー(b1)を含有する導電性ポリマー分散液(d2)と、を混合することを特徴とする、導電性ポリマー分散液の製造方法
(2) 前記水溶性ポリマー(p1)は、ポリスチレンスルホン酸である、上記(1)に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
(3) 前記モノマー(m1)が、3,4−エチレンジオキシチオフェン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーである、上記(1)又は(2)に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
(4) 前記酸化重合の際における溶媒が、水、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法。
(5) 前記導電性ポリマー分散液に含まれる前記導電性ポリマー(a1)と前記導電性ポリマー(b1)との質量比率が99:1〜25:75となるように混合する、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
(6) 前記導電性ポリマー(a1)の平均粒径が、前記導電性ポリマー(b1)の平均粒径よりも小さい、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
(7) 前記導電性ポリマー分散液が、更に、導電性向上剤、バインダー樹脂、又は界面活性剤を含有する、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法
(8) 前記導電性ポリマー(b1)の平均粒径は、前記導電性ポリマー(a1)に比べて、1.5倍〜1000倍大きい、上記(6)に記載の導電性ポリマー分散液の製造方法。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法によって導電性ポリマー分散液を製造し、次いで、該導電性ポリマー分散液溶媒を除去する導電性ポリマー材料の製造方法
(10) 上記(9)に記載の製造方法によって導電性ポリマー材料を製造し、次いで、該導電性ポリマー材料からなる固体電解質層を有する固体電解コンデンサを製造する、固体電解コンデンサの製造方法
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶媒を除去することにより成形性に優れた高電導度の導電性ポリマー材料が得られる導電性ポリマー分散液が提供される。この導電性ポリマー分散液は、固体電解コンデンサに含浸させ、乾燥した際に得られる導電性ポリマーは成形性が改善されるため、収縮やヒビ割れが抑制される結果、陽極金属表面に導電性ポリマーの付着量が増加し、静電容量の発現率が上昇する。また、導電性ポリマー分散液を乾燥させると、導電性ポリマーの配向状態が向上し、電導度が上昇する。
【0013】
また、本発明によれば、導電性ポリマー分散液に含有される、導電性ポリマー(a1)の粒径を導電性ポリマー(b1)の粒径より小さくすることで、内孔における抵抗及び陰極金属との界面抵抗が低い低ESRの固体電解コンデンサを製造することができる。本発明の導電性ポリマー分散液を乾燥して得られる導電性ポリマー材料からなる固体電解質層を有する固体電解コンデンサは、導電性ポリマー材料の電導度が大きいために従来技術に比べて低ESRになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の固体電解コンデンサ陽極金属表面の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[導電性ポリマー分散液(d1)]
モノマー(m1)を、水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用い、溶媒中にて酸化重合する。これにより、導電性ポリマー(a1)を含有する導電性ポリマー分散液(d1)が得られる。
【0016】
酸化重合の際に使用される溶媒は特に限定されないが、水、有機溶媒、又は水混和有機溶媒でもよい。特性の面から、溶媒は水が好ましい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール又はブタノール等のアルコール類が挙げられる。有機溶媒は、1種を用いることができ、2種以上を組み合わせてもよい。
【0017】
上記モノマー(m1)として、ピロール類又はチオフェン類が挙げられる。ピロール類の具体例としては、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール又はN−フェニルピロール等が挙げられる。チオフェン類の具体例としては、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン又は3,4−エチレンジオキシヘキシルチオフェン等が挙げられる。
【0018】
上記モノマー(m1)は、ポリマーとした場合の化学安定性、電気伝導性、及び環境安定性等の点から、下記式(1)に示す3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
水溶性ポリマー(p1)は、導電性ポリマーのドーパントとして機能する。水溶性ポリマー(p1)は、導電性ポリマーへのドーピング効果あればよいが、その中でも、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する水溶性ポリマーが好ましい。
水溶性ポリマー(p1)は、その重量平均分子量が、好ましくは10,000〜2,000,000が好ましく、30,000〜500,000がより好ましく、50,000〜500,000を有するのが好ましい。
【0021】
水溶性ポリマー(p1)の具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸又はポリアクリル酸、又はその塩類等が挙げられる。その中でも、ポリスチレンスルホン酸が、導電性及び耐熱性の点から好ましい。
【0022】
酸化剤(o1)としては特に限定されないが、塩化鉄(III)六水和物、無水塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物、無水硝酸第二鉄又は硫酸鉄(III)九水和物等の無機酸の鉄(III)塩、若しくは、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。p−トルエンスルホン酸鉄(III)等の有機酸の鉄(III)塩も用いることができる。その中でも、無機酸若しくは有機酸の鉄(III)塩又は過硫酸塩が好ましく、過硫酸アンモニウム又は硫酸鉄(III)九水和物がより好ましい。酸化剤(o1)は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
酸化重合して得られる導電性ポリマー(a1)を含有する導電性ポリマー分散液(d1)は、好ましくは、イオン交換法、透析法又は限外濾過法等により、不純物イオン及び未反応モノマーを除去することができる。得られる導電性ポリマー分散液(d1)は、必要に応じて、高圧ホモジナイザー、ジェットミル又はビーズミル等により粉砕し、含有される導電性ポリマー(a1)の粒径を調整できる。導電性ポリマー分散液(d1)に含有される導電性ポリマー(a1)の平均粒径は、1〜200nmが好ましく、1〜100nmがより好ましい。
なお、本発明で平均粒径とは、動的光散乱法で測定された体積換算の粒径(D50)である。
【0024】
[導電性ポリマー分散液(d2)]
モノマー(m1)を、まず、ドーパント機能を有する酸化剤(o2)を用いて溶媒中にて酸化重合を行う。重合後に得られる重合物は洗浄するのが好ましい。得られる導電性ポリマーを含む液に、水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを混合し、好ましくは撹拌することによりドーパント交換することにより、導電性ポリマー(b1)を含む導電性ポリマー分散液(d2)を得ることができる。
ここにおけるモノマー(m1)は、導電性ポリマー分散液(d1)におけるモノマー(m1)として挙げたものが使用され、そして、通常、同じモノマーが使用されるが、導電性ポリマー分散液(d1)におけるモノマー(m1)と異なっていてもよい。
酸化重合の際に使用される溶媒は、特に限定されないが、水、有機溶媒、又は水混和有機溶媒でもよい。特性の面から、溶媒は水が好ましい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール又はブタノール等のアルコール類が挙げられる。溶媒は、1種を用いることができ、2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
酸化剤(o2)は、酸化剤としても、かつ導電性ポリマーのドーパントとしても働くものであり、低分子有機スルホン酸若しくはその塩が好ましい。それらの好ましい具体例としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、カンファースルホン酸、又はそれらの金属塩、例えば、鉄(III)塩若しくは銅(II)塩等が挙げられる。なかでも、重合物の高結晶化への影響が大きいことから、p−トルエンスルホン酸又はカンファースルホン酸の鉄(III)塩が好ましい。酸化剤(o2)は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
モノマー(m1)を、酸化剤(o2)を用いて酸化重合して得られる導電性ポリマーを含む液には、余剰な酸化剤(o2)及び未反応モノマー(m1)が含まれているため、これらを除去するために洗浄を行うのが好ましい。洗浄には、水又はアルコールで行うのが好ましい。
【0027】
酸化剤(o2)がドーピングされた導電性ポリマーに対して、水溶性ポリマー(p1)と酸化剤(o1)とを用いて行うドーパント交換に使用される酸化剤(o1)は、重合の触媒ではなく、酸化剤(o2)と水溶性ポリマー(p1)のドーパント交換の触媒として働く。酸化剤(o1)は特に限定されないが、導電性ポリマー分散液(d1)で使用した酸化剤と同じでもよいし異なっていてもよい。
【0028】
ドーパント交換により得られる導電性ポリマー(b1)を含む導電性ポリマー分散液(d2)は、イオン交換法、透析法又は限外濾過法等により、そこに含まれる不純物イオン及び未反応物質を除去することが好ましい。また、かかる不純物イオン等の除去とともに、ドーパント交換による生じる酸化剤(o2)も十分に除去するのが好ましい。こうして、導電性ポリマー分散液(d2)が得られる。
【0029】
得られた導電性ポリマー分散液(d2)は、必要に応じて、高圧ホモジナイザー、ジェットミル又はビーズミル等で粉砕するのが好ましい。これにより、導電性ポリマー分散液(d2)に含有される導電性ポリマー(b1)の粒径が調整される。導電性ポリマー(b1)の平均粒径は、1〜1000nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
【0030】
導電性ポリマー分散液(d2)に含有される導電性ポリマー(b1)の平均粒径は、導電性ポリマー分散液(d1)に含有される導電性ポリマー(a1)に比べて、好ましくは1.5倍〜1000倍、より好ましくは2倍〜100倍、特に好ましくは4倍〜50倍大きいことが好ましい。導電性ポリマー(b1)の平均粒径が、導電性ポリマー(a1)の平均粒径より大きい場合は、低ESRのコンデンサを容易に製造できるので好ましい。
【0031】
[本発明の導電性ポリマー分散液]
導電性ポリマー分散液(d1)と導電性ポリマー分散液(d2)とを、混合することにより、本発明の導電性ポリマー分散液が得られる。
導電性ポリマー分散液(d1)と導電性ポリマー分散液(d2)とは、得られる導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマー(a1)と導電性ポリマー(b1)との比率(質量)が、好ましくは、99:1〜10:90、より好ましくは、99:1〜25:75、特に好ましくは、95:5〜50:50になるように混合せしめられる。
【0032】
導電性ポリマー(a1)の比率が99より高いと、乾燥させたとき導電性ポリマーが収縮し、成形性が悪くなる。また、導電性ポリマー(b2)の比率が90より高いと、成形性は良いが、膜の抵抗が上昇しひび割れが生じる。上記比率が99:1〜25:75の場合は、得られた導電性ポリマー分散液の導電性が向上し、75:25〜50:50の場合は、固体電解コンデンサの特性が向上する。
【0033】
本発明の導電性ポリマー分散液中の導電性ポリマー(a1)と導電性ポリマー(b1)との合計含有量は0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。かかる含有量が0.5質量%より低いと、乾燥させたときの導電性ポリマー材料が少ないため、導電性の低下やコンデンサ特性が十分に発揮できない。また、10質量%より高いと、ポリマー粒子間の相互作用が強くなるためゲル化し、結晶性や成形性の低下につながる。
本発明の導電性ポリマー分散液に対して、更に、導電性向上剤、バインダー樹脂、界面活性剤などを添加してもよい。これらを添加することによって、基材内層部への密着性を高めることができる。導電性向上剤、バインダー樹脂及び界面活性剤は公知のものを使用することができる。
【0034】
導電性向上剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド又はエチレングリコール等の高沸点有機溶媒が挙げられる。添加量は特に制限されないが、過剰に入れると導電性が悪くなるので、導電性ポリマー分散液に対して、0.1〜20質量%が好まししい。
バインダー樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂又はポリアクリル樹脂等が挙げられる。添加量は特に制限されないが、導電性ポリマー分散液に対して、0.01〜20質量%が好ましい。
界面活性剤の具体例としては、添加したときにゲル化したり増粘したりしない陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤等が挙げられる。更に消泡効果もあるものが好ましい。添加量は特に制限されないが、導電性ポリマー分散液に対して、0.01〜10質量%が好ましい。
【0035】
[導電性ポリマー材料]
導電性ポリマー材料は、導電性ポリマー分散液の溶媒を、熱処理などによって除去することで得られる。本発明の導電性ポリマー分散液から得られる導電性ポリマー材料は成形性に優れ、高電導度である。すなわち、本発明によれば、収縮が抑えられ、ひび割れが生じにくい、高電導度でムラの無い均一な導電性ポリマー材料を得ることができる。これは、結晶性の異なる導電性ポリマーを含有する導電性ポリマー分散液(d1)と導電性ポリマー分散液(d2)を混合した場合に得られるものであり、例えば、同一結晶性である導電性ポリマーを含有する導電性ポリマー分散液(d1)のみの場合には、異なる粒径の導電性ポリマー含有する分散液を混合したときでも、このような導電性ポリマー材料は得られない。
【0036】
本発明の導電性ポリマー分散液から得られる導電性ポリマー材料は、その膜厚を調整することによって、全光線透過率が好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上の材料を得ることができる。導電性ポリマー材料膜の全光線透過率は、例えば、HAZE MATER NHD−5000 (日本電色工業社製)にて測定することができる。このような透過率の高い導電性ポリマー材料は電極、特に透明電極として有利に用いることができる。例えば、太陽電池、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の電子デバイスの正孔注入層や正極として、また、タッチパネル、電子ペーパー等の電子デバイスの電極として用いることができる。
【0037】
[固体電解コンデンサ]
固体電解コンデンサは、上記した本発明の導電性ポリマー分散液を用いて製造できる。固体電解コンデンサを、導電性ポリマー分散液に、減圧、常圧、加圧下のいずれかで浸漬し熱乾燥させることで、陽極金属上にある誘電体層に導電性ポリマー材料からなる層を積層させ、固体電解質層を成形する。このとき、成膜性が良好な本発明の導電性ポリマー分散液を用いた場合、誘電体層上に導電性ポリマーが均一に成形され密着性が良くなり、高静電容量の固体電解コンデンサが得られる。このときの乾燥温度は特に制限されないが、導電性ポリマーの分解温度以下であればよく、300℃以下が好ましく、80〜200℃がより好ましい。
【0038】
図1に、本発明の一つの実施態様についての固体電解コンデンサの陽極金属断面の模式図を示す。陽極金属1の表面上に、誘電体層2と固体電解質層3が形成されている。
陽極金属1は、弁作用金属の箔若しくは線、又は金属粒子の焼結体等によって形成される。弁作用金属の具体例としては、アルミニウム、タンタル及びニオブから選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
誘電体層2は、陽極金属1の表面を、電解質塩を含んだ水溶液に浸漬し、電解酸化することで形成することができ、焼結体、多孔質体等の空孔部にも形成される。
固体電解質層3は、本発明の導電性ポリマー分散液から溶媒を除去して得られる導電性ポリマー材料を含む。固体電解質層3の形成方法としては、誘電体層2上に、本発明の導電性ポリマー分散液を塗布又は含浸し、溶媒を除去する方法が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例に基づき、更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
導電性ポリマー分散液(d1)は、次の通り製造した。モノマー(m1)として3,4−エチレンジオキシチオフェン1gに水10gを加え、水溶性ポリマー(p1)としてポリスチレンスルホン酸10質量%水溶液5g(重量平均分子量50,000)と、酸化剤(o1)として過硫酸アンモニウム15質量%水溶液2.5gと硫酸鉄(III)1.5質量%水溶液6.0gを加え、室温で12時間撹拌した。得られた溶液に対して、限外濾過およびイオン交換処理により未反応モノマー(m1)、酸化剤(o1)、及びその他不純物イオンを除去し、粉砕処理を行い、導電性ポリマー分散液を得た。この導電性ポリマー分散液をスライドガラス上に0.5g滴下し、125℃で20分乾燥した時の乾燥残渣は1.5質量%であったため、水で希釈し乾燥残渣を1質量%にすることで、乾燥残渣が1質量%の導電性ポリマー分散液(d1)を得た。
【0041】
動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液(d1)に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は3.2nmであった。
導電性ポリマー分散液(d2)は、次の通り製造した。モノマー(m1)として3,4−エチレンジオキシチオフェン1gと、酸化剤(o2)としてp−トルエンスルホン酸鉄(III)塩25質量%水溶液40gとを混合し、室温下で24時間撹拌して酸化重合を行った。得られた溶液を遠心分離にかけ、粉末を回収した。この粉末を、メタノール及び純水で洗浄を行った。洗浄は、濾液がpH5以上になるまで繰り返し行った。
【0042】
得られた粉末を熱乾燥し、乾燥粉末1gを再度水10gに分散させ、水溶性ポリマー(p1)としてポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量50,000)の10質量%水溶液5gと、酸化剤(o1)として過硫酸アンモニウム2.5gとを加え、室温で48時間撹拌した。得られた溶液に対して、イオン交換処理により酸化剤(o1)、ドーパント交換されたp−トルエンスルホン酸イオン、及びその他不純物イオンを除去し、粉砕処理を行い、導電性ポリマー分散液を得た。この導電性ポリマー分散液をスライドガラス上に0.5g滴下し、125℃で20分乾燥した時の乾燥残渣は1.2質量%であったため、水で希釈し乾燥残渣を1質量%にすることで、乾燥残渣が1質量%の導電性ポリマー分散液(d2)を得た。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液(d2)に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、102nmであった。
導電性ポリマー分散液(d1)と導電性ポリマー分散液(d2)とを99:1の混合質量比率で混合し、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、5.8nmであった。
【0043】
[実施例2]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、95:5の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、2.9nmであった。
【0044】
[実施例3]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、90:10の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、4.1nmであった。
【0045】
[実施例4]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、75:25の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、2.9nmであった。
【0046】
[実施例5]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、50:50の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、6.6nmであった。
【0047】
[実施例6]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、25:75の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、9.8nmであった。
【0048】
[実施例7]
導電性ポリマー分散液(d1)と、導電性ポリマー分散液(d2)とを、10:90の混合質量比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマー分散液を製造した。動的光散乱を使用した装置で測定したところ、この導電性ポリマー分散液に含有される導電性ポリマーの平均粒径(D50)は、119nmであった。
【0049】
実施例1〜7において製造された導電性ポリマー分散液について、電導度を測定した。電導度は、スライドガラス上に、実施例1〜7の分散液を100μL滴下し、125℃で20分乾燥させた導電性ポリマー材料を、低効抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いて測定した。
【0050】
[比較例1]
実施例1〜7で使用した導電性ポリマー分散液(d1)の単体について、実施例1〜7と同様にして、電導度を測定した。
[比較例2]
実施例1〜7で使用した導電性ポリマー分散液(d2)の単体について、実施例1〜7と同様にして、電導度を測定した。
実施例1〜7及び比較例1、2における導電性ポリマー分散液について、測定された電導度の値を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されるように、実施例1〜6では、比較例1、2と比べ、電導度の向上が確認された。
また、実施例1〜6では、比較例1、2と比べ、成形性の向上が確認された。すなわち、比較例1の乾燥膜は、滴下したときに比べ、10%以上導電性ポリマー膜が収縮し、濃淡のムラが確認された。比較例2の乾燥膜は、滴下したときに比べ、10%以上の収縮やムラは見られなかったが、一部にひびや凝集した粒子が確認された。これに対して、実施例1〜6では、10%以上の導電性ポリマーの収縮やムラ、ひび、凝集した粒子等は確認されなかった。また、実施例7では、一部凝集した粒子が見られた。導電性ポリマー分散液中に、導電性ポリマー分散液(d2)が1%でも存在すると、導電性ポリマー膜を成形としたときの収縮や濃淡のムラがなくなった。
【0053】
[実施例8〜14]
エッチング加工されたアルミニウム箔(陽極金属)に対して化成処理行った後、アルミニウム箔(陰極金属)との間にセパレータを挟み、巻回することで、コンデンサ素子を製造した。このコンデンサ素子の液中静電容量は60μFであった。実施例1〜7で製造された導電性ポリマー分散液に、導電性向上剤としてエチレングリコールを分散液に対し5質量%添加した。
こうして得られた導電性ポリマー分散液を、上記コンデンサ素子の内部に浸漬し真空にすることで、コンデンサ素子の内部に導電性ポリマー分散液を含浸させた。含浸後、コンデンサ素子を引き上げ、120℃30分の熱処理により溶媒を除去し、固体電解質層を成形した。この操作を3回繰り返し、固体電解コンデンサを製造した。
【0054】
得られた固体電解コンデンサの静電容量と、等価直列抵抗(ESR)をメーター(Agilent製製、LCRメーター)によって測定した。静電容量は(120Hz)、等価直列抵抗は(100kHz)の周波数で測定した。得られた静電容量とESRの値を表2に示す。
【0055】
[比較例3]
比較例1の導電性ポリマー分散液(d1)に対して、エチレングリコールを5質量%添加し、実施例8〜14と同様にして固体電解コンデンサを製造し、静電容量とESRを測定した。結果を表2に示す。
【0056】
[比較例4]
比較例2の導電性ポリマー分散液(d2)に対して、エチレングリコールを5質量%添加し、実施例8〜14と同様にして固体電解コンデンサを製造し、静電容量とESRを測定した。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例5]
実施例1における導電性ポリマー分散液(d1)の製造と同様にして、平均粒径が3.2nmを有する導電性ポリマー分散液(d1)及び平均粒径103nmを有する導電性ポリマー分散液(d1)を調製し、これらの2つの分散液を、質量比50:50で混合して導電性ポリマー分散液を得た。なお、導電性ポリマー分散液の乾燥残渣は1質量%に調整した。
この導電性ポリマー分散液に対してエチレングリコールを5質量%添加し、実施例8〜14と同様にして固体電解コンデンサを製造し、静電容量とESRを測定した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示されるように、実施例8〜14では、比較例3〜5と比べて、いずれも固体電解コンデンサの静電容量は高かった。これらの結果から、本発明による導電性ポリマー材料の成形性の改善により、コンデンサを乾燥した時の導電性ポリマーの収縮が抑えられ静電容量が増加した。また、実施例8〜13の結果では高電導度化や、導電性高分子(a1)の粒径<(b1)の粒径の分散液を特定の比率で混合したことにより、陽極金属の内孔に入りやすい粒子、表層にとどまる粒子の割合が最適となり、内孔での抵抗および陰極金属との界面抵抗が低くなったことで、低ESRの固体電解コンデンサを作製できたと思われる。
【符号の説明】
【0060】
1 陽極金属
2 誘電体層
3 固体電解質層
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の導電性ポリマー分散液より得られる成形性に優れ、高電導性の導電性ポリマー材料は、帯電防止材料、電磁波シールド材料、キャパシタ電極材料、特に、固体電解コンデンサ等に幅広く使用される。
図1