特許第6183837号(P6183837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183837
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】排気ノズル
(51)【国際特許分類】
   F02K 1/48 20060101AFI20170814BHJP
   F02K 1/12 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F02K1/48
   F02K1/12
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-169712(P2013-169712)
(22)【出願日】2013年8月19日
(65)【公開番号】特開2015-38339(P2015-38339A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 純一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 安
【審査官】 松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03650348(US,A)
【文献】 英国特許出願公告第01276965(GB,A)
【文献】 米国特許第02593420(US,A)
【文献】 特開昭62−091647(JP,A)
【文献】 特開昭62−077135(JP,A)
【文献】 特開2013−019330(JP,A)
【文献】 特開2007−218255(JP,A)
【文献】 特開2007−285245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 1/12−1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの後方に延び排気流路を構成する排気ノズルであって、
前記排気ノズルは、複数の主ノズル片と1つ以上の連結ノズル片とを有し、
前記主ノズル片は、前記エンジンの後方の絞り部の後端に形成された開閉屈曲部を中心に後端部側が前記排気流路の内外方向に揺動可能に設けられ、
前記連結ノズル片は、隣接する前記主ノズル片の間に配置され、かつ、両側の主ノズル片とそれぞれ屈曲可能に連結され、前記連結ノズル片は、側部屈曲部で前記主ノズル片と屈曲可能に連結され、各前記主ノズル片の動きに連動して前記排気流路の内方に突出端を形成することが可能な中央屈曲部を有し、
前記主ノズル片が排気流路の外方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に突出部を持たない平面を形成し、前記排気流路の断面積は前記開閉屈曲部の位置より前記排気流路の後端部側に向けて広くなり、
前記排気流路を狭くするために、前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に当該排気流路に沿った突出部を形成することを特徴とする排気ノズル。
【請求項2】
前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記排気流路の後端部の断面積が、前記排気流路の前記開閉屈曲部の位置の断面積以下となることを特徴とする請求項1に記載の排気ノズル。
【請求項3】
前記開閉屈曲部、側部屈曲部および中央屈曲部が、ヒンジ結合手段を用いたものであることを有する特徴とする請求項1又は2に記載の排気ノズル。
【請求項4】
前記複数の主ノズル片および連結ノズル片が、前記エンジンの後方の排気流路の全周を構成していることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の排気ノズル。
【請求項5】
前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動し、かつ、前記排気流路の後端部が最も狭くなった際には、前記排気流路の前記開閉屈曲部の位置から前記排気流路の後端部までの各部の断面積が、一定であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の排気ノズル。
【請求項6】
3つ以上の連結ノズル片を有し、
各前記開閉屈曲部は、前記絞り部の後部で前記排気流路の円周方向に延び、
各前記主ノズル片は、前記排気流路の後縁部で円周方向に延びる後縁端部を有し、
各前記連結ノズル片は、前記開閉屈曲部の円周方向の端部と前記後縁端部の円周方向の端部とを結ぶ線で、前記主ノズル片と屈曲可能に連結され、
前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記連結ノズル片、前記主ノズル片が形成する略円錐台状の排気流路内に突出部を形成することを特徴とする請求項5に記載の排気ノズル。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の排気ノズルが、超音速航空機のエンジンの後方に延び排気流路を構成するものであり、
前記超音速航空機の超音速での巡航時に、前記主ノズル片が前記排気流路の外方に揺動し、
前記超音速航空機の離着陸時に、前記主ノズル片が前記排気流路の内方に揺動する
ことを特徴とする排気ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの後方に延び排気流路を構成する排気ノズル、および、エンジンの後方に延びる排気流路の断面形状を変更する排気流路可変方法に関し、特に超音速航空機のエンジンに好適な排気ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気等の高圧の流体を排気流路である排気ノズルから放出すると、これら端部に高速流体が形成され、この高速流体が周囲の流体との間の速度勾配から混合を起しながら拡散し、この混合過程で騒音が発生する。
特に航空機等のジェットエンジンの排気部分では、その騒音は広い周波数帯域にわたり高いエネルギーを有しており、特に離着陸時において空港周辺環境や航空機利用者が、騒音暴露による受容し難い影響を被ることとなる。
このため、排気ノズルに可動部分を設けて排気流路の形状や断面積を変化させて高速流体と周囲の流体との混合・拡散を制御し、離着陸時の騒音を低減することが考えられる。
【0003】
例えば、特開2007−285245号公報(特許文献1)で公知のものは、騒音低減を目的として、排気ノズルのコア流路の後端を、バイパス流路の後端よりも上流側とし、着脱可能、あるいは、パッシブに可動に構成して、コア流とバイパス流の混合状態を変化させるものである。
また、特開2008−144764号公報(特許文献2)で公知のものは、騒音低減を目的として、排気ノズルのコア流路とバイパス流路との間に開口部を設け、パッシブあるいはアクティブな可動機構によって開閉することで、コア流とバイパス流の混合状態を変化させるものである。
さらに、コア流とバイパス流の経路を変更することなく、排気ノズルの排気流路の断面形状だけを工夫して騒音低減を図るものとして、排気ノズルの内面側に襞状の突起を設けて混合状態を変化させるものが公知である(非特許文献1等参照。)。
【0004】
また、航空機のジェットエンジンにおいて、超音速航空機のように巡航速度が音速を超える場合は、排気流路の断面積が最も小さい位置より後端側に断面積が徐々に大きくなる部分を設けることで推進効率が向上するが、巡航速度が音速以下の場合は、排気流路の断面積が最も小さい位置より後端側で断面積を大きくとすると、推進効率が低下することもある。
このため、超音速航空機において、排気ノズルに可動部分を設けて排気流路の形状や断面積を変化させ、離着陸時や音速以下での巡航時、超音速巡航時ともに効率的に推力を得るように、排気ノズルに可動部分を設けて排気流路の形状や断面積を変化させるものが知られている。
【0005】
例えば、非特許文献1には図11に示されるように、A:先細末広ノズル形式、B:プラグノズル形式、C:非軸対称ノズル形式のものが開示されている。
A:先細末広ノズル形式では、ノズル先端部が開いたり閉じたりする機構を備え、先端部の断面積を可変としている。
B:プラグノズル形式では、ノズル先端部の軸心部分が径方向に膨らんだり萎んだりする機構を備え、先端部の断面積を可変としている。
C:非軸対称ノズル形式では、固定壁と可動壁を組み合わせ可動壁をフラッパ形態で径方向に変位させることで先端部の断面積を可変としている。
【0006】
さらに、騒音低減や超音速巡航時の効率向上を目的としたものとして、特開平7−208262号公報(特許文献3)や、特開2007−218255号公報(特許文献4)で排気ノズルをバイパス流路も含めて複数のアクティブな可動機構で構成し、排気流路の形状や断面積を変化させたり、コア流やバイパス流の経路を変更してコア流とバイパス流の混合状態を変化させるものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−285245号公報
【特許文献2】特開2008−144764号公報
【特許文献3】特開平7−208262号公報
【特許文献4】特開2007−218255号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tsutomu OISHI,"Jet Noise Reduction by Notched Nozzle on Japanese ECO engine project",AIAA 2010-4026)
【非特許文献2】Gordon C.Oates,"Aircraft Propulsion Systems Technology and Design",301-303頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2や非特許文献1等で公知のものは、超音速巡航時の効率については一切考慮されておらず、これらの公知の技術を超音速航空機に適用しても、超音速巡航時の効率を向上させるためには、排気ノズルの可動機構を追加して、さらに複雑化、大型化する必要があった。
また、複雑化、大型化に伴う重量の増加分を補うだけの、推進力の向上が得られるか否かも考慮しなければならないため、特許文献1、2等で公知の騒音低減のための構造と非特許文献1等で公知の超音速巡航時の効率向上の機構とを組み合わせるだけでは、現実的に効率の向上は困難であった。
【0010】
特許文献3で公知のものは、第1水平軸まわりに揺動可能な一対の第1フラップAと、第2水平軸まわりに揺動可能な一対の第2フラップBと、第1フラップAの下流端の第3水平軸に枢着され直線状水平に展開した一対のローブ形ミキサMと、第4水平軸まわりに揺動可能な一対の第3フラップCとを備え、ミキサMは第5水平軸を有し、この第5水平軸はリンクを介して第4水平軸に連結されており、第4水平軸は側壁に設けられたガイドに沿って移動可能に設けられている。
また、特許文献4で公知のものは、第1排気ノズルおよび第2排気ノズルが、可変断面積が操作されるように構成されており、2つのノズルは、ディジタルコンピュータの形態のエンジン制御器に好適に連結された相応するアクチュエータを有し、このエンジン制御器は、航空機のその運転サイクルおよび飛行エンベロープの間、エンジンの効率的運転の必要に応じてその放出流量範囲を好適に調整するようになっている。
これらの構成は複雑となっており、その機構を備えることにより、重量も増すものとなっているため、その重量増加分を補える推進力の向上はあったとしても、超音速巡航時の効率向上は僅かであり、複雑化、大型化による製造コストの増加や、保守点検の手間の増加は避けられないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構を用いて騒音を低減するとともに、超音速巡航時の効率を向上させることが可能な排気ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本請求項1に係る発明は、エンジンの後方に延び排気流路を構成する排気ノズルであって、前記排気ノズルは、複数の主ノズル片と1つ以上の連結ノズル片とを有し、前記主ノズル片は、前記エンジンの後方の開閉屈曲部を中心に後端部側が前記排気流路の内外方向に揺動可能に設けられ、前記連結ノズル片は、隣接する前記主ノズル片の間に配置され、かつ、両側の主ノズル片とそれぞれ屈曲可能に連結され、前記主ノズル片が排気流路の外方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に突出部を持たない平面を形成し、前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に突出部を形成することにより、前記課題を解決するものである。
【0013】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る排気ノズルの構成に加え、前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記排気流路の後端部の断面積が、前記排気流路の前記開閉屈曲部の位置の断面積以下となることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る排気ノズルの構成に加え、前記連結ノズル片が、側部屈曲部で前記主ノズル片と屈曲可能に連結され、突出端を形成する中央屈曲部を有していることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る排気ノズルの構成に加え、前記開閉屈曲部、側部屈曲部および中央屈曲部が、ヒンジ結合手段を用いたものであることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る排気ノズルの構成に加え、前記複数の主ノズル片および連結ノズル片が、前記エンジンの後方の排気流路の全周を構成していることにより、前記課題を解決するものである。
【0014】
本請求項6に係る発明は、エンジンの後方に延びる排気ノズル内の排気流路の断面形状を変更する排気流路可変方法であって、前記排気ノズルを可動とすることで、前記排気流路の後端部の断面積を、最も狭くなる第1状態と最も広くなる第2状態との間で変化させ、前記第1状態では、前記排気流路の内方の一部を突出させ、前記第2状態では、前記排気流路の内方を突出させることなく、かつ、前記排気流路の断面積を後端部ほど広くすることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本請求項1に係る排気ノズル、および、請求項6にかかる排気可変方法によれば、排気流路の内方の一部を突出させ、内面側に襞状の突起が出現する第1状態と、排気流路の内方を突出させることなく、かつ、前記排気流路の断面積を後端部ほど広くする第2状態との間で変化させることで、第1状態での離着陸時等の騒音防止効果と、第2状態での超音速巡航時の効率の向上を両立することが可能となる。
また、第1状態と第2状態との間で、排気流路の断面形状の変化のみで流路の変更等はなく、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、騒音を低減するとともに、さらに超音速巡航時の効率を向上させることができる。
さらに、本請求項1に係る排気ノズルによれば、アクティブに可動とする部分は主ノズル片の開閉屈曲部のみでよく、主ノズル片と連結ノズル片との屈曲部が主ノズル片の揺動によって自動的に屈曲し、排気流路の断面形状を変化させることができ、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構とすることができる。
【0016】
本請求項2に記載の構成によれば、主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、排気流路の後端部の断面積が、排気流路の開閉屈曲部の位置の断面積以下となることにより、第1状態の時に連結ノズル片による内面側の襞状の突起で騒音を防止しつつ、後端側ほど先細りとなる形状として離着陸時等の音速以下での推進効率が向上することができる。
本請求項3に記載の構成によれば、連結ノズル片が、側部屈曲部で主ノズル片と屈曲可能に連結され、突出端を形成する中央屈曲部を有していることにより、第1状態と第2状態との間で変化し内面側の襞状の突起部を出没する際に、連結ノズル片の屈曲部以外に曲げ力がほとんどかからないため、円滑に排気流路の断面形状が変化し、さらに軽量で単純な機構とすることができる。
本請求項4に記載の構成によれば、開閉屈曲部、側部屈曲部および中央屈曲部が、ヒンジ結合手段を用いたものであることにより、第1状態と第2状態との間で変化し内面側の襞状の突起部を出没する際に、屈曲部が繰り返し変形することなく、さらに円滑に軽い力で排気流路の断面形状を変化させることができる。
本請求項5に記載の構成によれば、複数の主ノズル片および連結ノズル片が、エンジンの後方の排気流路の全周を構成していることにより、排気流路の断面形状を全周にわたって偏りなく変化させることができ、さらに推力の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る排気流路の断面形状の変化の説明図。
図2】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態における概略斜視図。
図3図2の排気側からの正面図。
図4】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態と第2状態との中間状態の概略斜視図。
図5図4の排気側からの正面図。
図6】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第2状態における概略斜視図。
図7図6の排気側からの正面図。
図8】本発明の一実施形態に係る排気流路の断面積のグラフ。
図9】本発明の一実施形態に係る排気流路の第1状態における排気のマッハ数分布図。
図10】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの騒音測定グラフ。
図11】従来の超音速航空機の排気ノズルの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の排気ノズルは、エンジンの後方に延び排気流路を構成する排気ノズルであって、排気ノズルは、複数の主ノズル片と1つ以上の連結ノズル片とを有し、主ノズル片は、エンジンの後方の開閉屈曲部を中心に後端部側が排気流路の内外方向に揺動可能に設けられ、連結ノズル片は、隣接する主ノズル片の間に配置され、かつ、両側の主ノズル片とそれぞれ屈曲可能に連結され、主ノズル片が排気流路の外方に揺動した際には、連結ノズル片が排気流路内に突出部を持たない平面を形成し、主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、連結ノズル片が排気流路内に突出部を形成するものであり、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構を用いて騒音を低減するとともに、超音速巡航時の効率を向上させることが可能ものであれば、その具体的な実施態様はいかなるものであっても良い。
【0019】
また、本発明の排気流路可変方法は、エンジンの後方に延びる排気ノズル内の排気流路の断面形状を変更する排気流路可変方法であって、排気ノズルを可動とすることで、排気流路の後端部の断面積を、最も狭くなる第1状態と最も広くなる第2状態との間で変化させ、記第1状態では、排気流路の内方の一部を突出させ、第2状態では、排気流路の内方を突出させることなく、かつ、排気流路の断面積を後端部ほど広くするものであり、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構を用いて騒音を低減するとともに、超音速巡航時の効率を向上させることが可能ものであれば、その具体的な実施態様はいかなるものであっても良い。
【0020】
本発明の一実施形態に係る排気ノズル100は、図1乃至図7に示すように、エンジンの後方の開閉屈曲部111を中心に後端部側が排気流路101の内外方向に揺動可能に設けられた複数の主ノズル片110と、隣接する主ノズル片110の間に配置された複数の連結ノズル片120とを有しており、複数の主ノズル片110および連結ノズル片120が、エンジンの後方の排気流路101の全周を構成している。
【0021】
主ノズル片110は、絞り部103の後端の開閉屈曲部111を中心に図示しないアクチュエータによって揺動可能に構成されており、主ノズル片110の揺動によって、図1の左側に示す排気流路101の後端部の断面積が最も狭くなる第1状態と、図1の右側に示す排気流路101の後端部の断面積が最も広くなる第2状態との間で変化し、第1状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方に屈曲して突出し、第2状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方を突出することなく排気流路101の断面積が後端部ほど広い形状となる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る排気ノズル100について、第1状態を示す図2図3、第1状態と第2状態との中間状態を示す図4図5、および、第2状態を示す図6図7に基づいて説明する。
なお、図2乃至図7は、主ノズル片110および連結ノズル片120の厚み方向の形状を省略し、排気流路101の内面側のみを規定する一様な薄板として図示している。
本実施形態では、絞り部103は、後端の断面積が最も小さくなる円錐台形状に形成され、絞り部103の後端を開閉屈曲部111として、8枚の主ノズル片110が全周にわたって設けられており、開閉屈曲部111は、絞り部103と主ノズル片110とがヒンジ結合されることで構成されている。
【0023】
主ノズル片110は、開閉屈曲部111から後端ほど円周方向の幅が小さくなるように形成されており、それぞれの隣接する主ノズル片110の間には、排気流路の内方に屈曲可能な連結ノズル片120が設けられている。
連結ノズル片120は、両側の主ノズル片110と、側部屈曲部121により屈曲可能に連結されているとともに、中央に突出端を形成する中央屈曲部122を有している。
本実施形態では、連結ノズル片120は、中央屈曲部122でヒンジ結合された2つの部材で構成されるとともに、側部屈曲部121もヒンジ結合されることで構成されている。
【0024】
主ノズル片110が排気流路101の内方に最も揺動した位置にあり、排気流路101の後端部の断面積が最も狭くなる第1状態では、図2図3に示すように、主ノズル片110の後端部が開閉屈曲部111よりも僅かに排気流路101内方に位置するとともに、連結ノズル片120は、排気ノズル100の外周から見て、側部屈曲部121が大きく山折り状態、中央屈曲部122が大きく谷折り状態となり、中央屈曲部122の部分が排気流路101の内方に突出する突出部102を形成する。
【0025】
上記状態から、図示しないアクチュエータによって、主ノズル片110を排気流路101の外方に揺動させると、図4図5に示すように、主ノズル片110の後端部が外方に広がる動きに連動して、連結ノズル片120の、側部屈曲部121の山折り状態、中央屈曲部122の谷折り状態が徐々に小さくなり、中央屈曲部122の部分が排気流路101の内方に突出する突出部102も小さくなる。
【0026】
主ノズル片110が排気流路101の外方に最も揺動した位置にあり、排気流路101の後端部の断面積が最も広くなる第2状態では、図6図7に示すように、連結ノズル片120の中央屈曲部122の屈曲がなくなり、排気流路101の内方に突出する突出部102もなく、開閉屈曲部111より後方は、主ノズル片110の後端部と連結ノズル片120とによって、後端の断面積が最も大きくなる円錐台形状に近似した形状となる。
上記状態から、図示しないアクチュエータによって、主ノズル片110を排気流路101の内方に揺動させると、前述した図4図5の状態を経て、図2図3に示す第1状態となる。
【0027】
なお、絞り部103、主ノズル片110および連結ノズル片120の外周側の形状や厚みは、飛行時の空力特性等を考慮して適宜設計すればよい。
また、図1に示すように、連結ノズル片120の外周側の形状を三角錐形状とすることで、中央屈曲部122や側部屈曲部121の屈曲限界を規定することが可能となり、上記第1状態、第2状態を確実に確保することができる。
【0028】
上記の排気ノズル100によって変化する排気流路101の断面積の分布を図8示す。
第1状態では、点線で示すように、開閉屈曲部111位置より後方が離着陸時等に適した先細の断面積分布となり、第2状態では、実線で示すように、開閉屈曲部111位置より後方が超音速巡航に適した先細末広の断面積分布となる。
また、図1乃至図3に示すように、第1状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方に屈曲して突出部102を形成することにより、排気流の形状がひだ状に湾曲する。
排気出口直径28.8mmの、縮尺模型による実験で取得した排気ジェットのマッハ数分布は、図9に示すように、ひだ状の分布となる。
このことで、排気流と外気流との混合が促進し、騒音の低減を図ることができる。
【0029】
同じ出口面積を持つ従来の突出部を有さない先細ノズルと放射される音圧レベルを比較した結果を、図10に示す。
実験条件として、ノズル温度比を1、測定位置までの距離を直径の50倍とした。
横軸は流入面からの角度、縦軸はオーバーオールの音圧レベルを示し、ノズルの圧力比、すなわち、排気流のマッハ数を変化させた場合の各々の値を示している。
実線が従来の先細ノズルでの測定結果であり、点線が本発明にかかる排気ノズルの測定結果である。
この結果からも分かるとおり、同じ出口面積でも、突出部102を有する本発明の排気ノズルのほうが、従来の突出部を有さない先細ノズルより音圧レベルが小さくなっており、離着陸時等の騒音低減に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明によれば排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構を用いて騒音を低減するとともに、超音速巡航時の効率を向上させることが可能となる。
なお、上記実施形態では、主ノズル片110を8枚としたが、これに限定されるものではない。
また、複数の主ノズル片および連結ノズル片が、エンジンの後方の排気流路の全周を構成しているものとしたが、排気ノズルの周方向を固定片とし、残部に一部所定の複数の主ノズル片および連結ノズル片を設ける構造としてもよい。
例えば、前述した図11のC:非軸対称ノズル形式のものの可動部分を所定の複数の主ノズル片および連結ノズル片を設ける構造としてもよい。
【符号の説明】
【0031】
100 ・・・ 排気ノズル
101 ・・・ 排気流路
102 ・・・ 突出部
103 ・・・ 絞り部
110 ・・・ 主ノズル片
111 ・・・ 開閉屈曲部
120 ・・・ 連結ノズル片
121 ・・・ 側部屈曲部
122 ・・・ 中央屈曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11