【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の
製造方法により得られる含フッ素α,β−不飽和アルデヒドは、下記一般式(1)で示される含フッ素α,β−不飽和アルデヒドである。
【0018】
【化9】
〔式(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、Xは、2または3である。〕
【0019】
上記含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの純度は、90質量%以上(特に93〜100質量%、更には95〜100質量%)である。尚、この純度は、核磁気共鳴スペクトルにより測定することができる。
尚、上述したように、従来の技術では、一般式(1)で示される含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを合成して単離することは極めて困難であり、得られたとしても、その純度は極めて低い。そのため、本発明の
製造方法により得られる含フッ素α,β−不飽和アルデヒドは極めて高純度のものであり、各種の化合物の合成ブロックとして使い勝手が良く、有用な中間体や合成原料として利用できる。
【0020】
本発明の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの製造方法は、上記一般式(1)で示される含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの製造方法であって、下記一般式(2)で示されるアルコールを、対応するα,β−不飽和アルデヒドよりも
10℃以上高い沸点を有する
特定の高沸点溶媒中にて、前記高沸点溶媒に対して非溶解性の酸化剤を用いて酸化する酸化工程と、前記酸化工程で得られた反応液を蒸留して精製する精製工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
【化10】
〔式(2)中、R
1、R
2は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、Xは、2または3である。〕
【0022】
本発明の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの製造方法の基本的概念は、下記反応式1に示すものであり、一般式(2)のアルコール(前駆体アルコール)を酸化剤を用いて酸化することにより、一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを製造するものである。
【0024】
ここで、一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドは、簡素な分子構造の比較的分子量の小さい物質である。このため、その沸点も低いものとなっている。
【0025】
一般に、構造中にフッ素原子が導入されると沸点が低下することが知られており、例えば、フッ素を含まないクロトンアルデヒド(分子構造:CH
3−CH=CH−CHO)では、沸点は104℃であるが、そのメチル基がトリフルオロメチル基に置換されると、その沸点は38℃(メシチレン溶液中から常圧にて蒸留した際に観測された沸点)程度まで低下する。
【0026】
汎用的な有機合成においては、溶媒中にて反応を進行させるが、生成する目的物質の沸点が低い場合、一般に、その目的物質を単離することは困難となっており、低沸点の含フッ素α,β−不飽和アルデヒド、即ち一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドについても、これまで単離することは不能となっていた。本発明は、生成する含フッ素α,β−不飽和アルデヒドよりも高い沸点を有する高沸点溶媒を用いて合成反応を実行することによって、生成する目的物質が、低沸点の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドであっても、当該目的物質を反応系から単離し、精製できるようにしたものである。これにより、前駆体アルコールを酸化するという簡便な合成系を用いて、低沸点の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを取得することを可能としたのである。
【0027】
尚、ここで低沸点の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドは、その沸点が、通常の有機合成で汎用に用いられる塩化メチレン(沸点40℃)やジエチルエーテル(沸点35℃)の反応溶媒よりも低温、又は、該反応溶媒よりも高温の沸点を具有するが蒸留にて精製が困難となる温度差しかないものであり、沸点80℃以下のものである。
【0028】
また、高沸点溶媒とは、反応温度で液体であり、生成する含フッ素α,β−不飽和アルデヒドよりも相対的に高い沸点を備えるものであり、目的生成物の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドに比べ10℃(好ましくは30℃、より好ましくは100℃)以上高温の沸点を有している
、特定の有機化合物からなる液体である。高沸点溶媒の具体的な沸点は、更に好ましくは150〜400℃である。
かかる高沸点溶媒としては、各種のものを用いることができるが、生成物の沸点を基準として蒸留により分離できる温度差を確保でき、且つ、安定して酸化反応を進行させるものが適
宜、選択される。ここで、目的生成物は、前駆体アルコールを酸化して得られるアルデヒドであるので、その構造は一義的に確定する。故に生成する含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの沸点も的確に把握できる。尚、生成する含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの沸点が未知である場合でも、構造が明確であるため、類似化合物から沸点を類推することができる。係る場合には、この類推された沸点を、目的生成物の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの沸点として、高沸点溶媒を選択することができる。
【0029】
かかる高沸点溶媒として、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩素系有機化合物、イオン性液体などが
挙げられるが、本発明では、炭素数9〜15の芳香族炭化水素類又は炭素数9〜15の脂肪族炭化水素類が用いられる。
上記芳香族炭化水素類としては、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、tert−ブチルベンゼンなどが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素類としては、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
これらのなかでも、特に、デカン、メシチレンが好適に用いられる。
尚、高沸点溶媒は、一種類で構成されても、複数種類を混合した混合溶媒で構成されても良い。
【0030】
また、酸化剤は、非溶解性のものが用いられるが、ここで非溶解性の酸化剤とは、目的生成物の含フッ素α,β−不飽和アルデヒド(生成したアルデヒド)または反応溶媒の一方または双方に対して溶解しないもの(難溶または不溶)である。酸化剤が、含フッ素α,β−不飽和アルデヒドまたは反応溶媒の少なくとも一方に非溶解性であれば、酸化剤を反応系から除去し得る。尚、酸化剤が、生成したアルデヒド及び反応溶媒の両者に非溶解性であれば、反応系からの除去を更に容易とできる。
【0031】
酸化剤が固体又は液体である場合には、上記溶媒および目的生成物よりも比重が大きいものを使用することにより、反応系からの分離を更に容易とすることができる。すなわち、ろ過、デカンテーション等の方法により容易に酸化剤を除去することができるからである。特に酸化剤が固体であると、反応系への導入及び除去を簡便にでき、更に望ましい。尚、ここで固体であるとは、酸化剤そのものが固体であるもののみならず、酸化剤が液体であっても基材に固定されたものや、包設されることによって固体として取り扱うことのできるものを意味している。
【0032】
このような酸化剤としては、公知の酸化剤を適宜用いることができるが、例えば、金属過酸化物や金属酸化物が例示され、酸化反応の安定性および低コスト等の観点から二酸化マンガンが好ましい。二酸化マンガンを用いた場合には、一級アルコールの酸化においてカルボン酸への過酸化が抑制されアルデヒドが選択的に生成するため、特に好適である。
【0033】
また、固相担持型のヨウ素反応剤を酸化剤として使用しても良い。固相担持型のヨウ素反応剤は、酸化反応後に上記溶媒および目的生成物から酸化剤を容易に分離することができる。5価または3価の超原子価ヨウ素反応剤は、有機溶媒中でアルコールを酸化できることが知られており、特に、超原子価ヨウ素反応剤は低毒性であることから、固相担持型の超原子価ヨウ素反応剤は、環境負荷を低減する観点から有用な有機酸化剤として好ましく使用できる。
【0034】
上記のように、フッ素を含む不飽和アルコールを高沸点溶媒中において、非溶解性の酸化剤を用いて酸化することにより、当該溶媒中に含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを生成することができる。酸化反応は、一般的な公知の装置を用い、一般式(2)のアルコール(前駆体アルコール)に上記した酸化剤を接触させることによって行われる。酸化反応に際しては、適宜加熱、撹拌操作を行ってもよい。
尚、この際の反応温度は適宜調整されるが、例えば、−50〜150℃(特に0〜80℃、更には20〜50℃)とすることができる。
【0035】
酸化反応の後は、反応液からろ過等の分離操作により、非溶解性酸化剤を除去し、得られた反応液を蒸留して含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを精製することができる。尚、反応液の蒸留に際し、酸化剤の除去は必須ではなく、使用される酸化剤が過熱により特段の変化を生じさせないものであれば、反応液に残存した状態で蒸留することも可能である。蒸留操作においては、公知の各種手法や装置を適用できる。
【0036】
尚、前駆体アルコールは、一般式(2)で示され、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子であってもフッ素原子であってもよく、メチル基の水素原子に置換するフッ素原子の数は2であっても3であってもよい。生成物の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドは、一般式(1)で示され、この場合のR1およびR2についても、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子のいずれでもよく、メチル基の水素原子に置換するフッ素原子の数も2または3でよい。
【0037】
かかる前駆体アルコールとしては、公知材料や、公知材料に基づいて公知の手法で合成したものを用いることができる。例えば、4,4,4−トリフルオロブテノール、4,4−ジフルオロブテノール、2,3,4,4,4−ペンタフルオロブテノールが例示できる。
【0038】
上記の製造方法の具体的な例示として、4,4,4−トリフルオロブテノールを酸化して4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドを得る反応がある。この場合、高沸点触媒としては、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、tert−ブチルベンゼンおよびドデカンを使用することができる。これらは、目的生成物である4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドよりも沸点が高い溶媒だからである。また、非溶解性の酸化剤としては、二酸化マンガンまたは固相担持型の超原子価ヨウ素反応剤を使用することができる。反応後においては、ろ過により非溶解性酸化剤を除去した後、蒸留することによって、有機溶媒から4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドを単離し、4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドを高純度で精製することができる。このように、比較的容易な方法により、低分子量の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを良好な収率および純度で得ることができるのである。
【0039】
次に、本発明の
製造方法により得られた含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを用いてなる光学活性含フッ素化合物及びその製造方法について説明する。
上記光学活性含フッ素化合物は、下記一般式(3)で示される。
【0040】
【化12】
〔式(3)中、*が付された炭素原子は不斉炭素原子であることを示し、R
1、R
2は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、R
3は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアリール基、炭素数2〜30のアラルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数1〜30のアリールオキシ基、炭素数1〜30のアシルオキシ基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、シロキシ基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のアリールチオ基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数1〜30のアシルアミノ基、炭素数1〜30の複素環を有する基、オキシムエーテル基を表し、R
4は、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、スルフェニル基、炭素数1〜30のアルキル基、オキソエーテル基を表し、Xは、2または3である。〕
【0041】
上記式(3)のR
3、R
4における上記アルキル基としては、置換又は非置換のアルキル基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6である。
上記アリール基としては、置換又は非置換の炭素数が6〜30(好ましくは6〜10、より好ましくは6〜8)のアリール基、又は、置換又は非置換の炭素数が1〜30(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8)のヘテロアリール基が挙げられる。具体的なヘテロアリール骨格としては、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等に由来するものが挙げられる。
上記アラルキル基(アルキル基の水素原子の1つがアリール基で置換されているアルキル基)としては、置換又は非置換のアラルキル基を挙げることができ、その炭素数は2〜30であり、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜8である。具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。尚、アリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルコキシ基としては、置換又は非置換のアルコキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールオキシ基としては、置換又は非置換のアリールオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールオキシ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アシルオキシ基としては、置換又は非置換のアシルオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アルキルチオ基としては、置換又は非置換のアルキルチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールチオ基としては、置換又は非置換のアリールチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールチオ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルキルアミノ基としては、置換又は非置換のアルキルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アシルアミノ基としては、置換又は非置換のアシルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記複素環を有する基としては、置換又は非置換の複素環を有する基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。具体的な複素環としては、例えば、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等のヘテロアリール骨格などが挙げられる。
上記オキシムエーテル基としては、例えは、アルドキシム(式:RCHNOH)に由来する基(式:RCHNO−)が挙げられる。尚、これらの式におけるRとしては、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアリール基、炭素数2〜30のアラルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数1〜30のアリールオキシ基、炭素数1〜30のアシルオキシ基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、シロキシ基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のアリールチオ基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数1〜30のアシルアミノ基、炭素数1〜30の複素環を有する基が挙げられる。尚、これらの基については、上述の各説明を適用することができる。
【0042】
上記光学活性含フッ素化合物の光学純度(ee)は、80%以上(特に90〜100%、更には95〜100%)とすることができる。
尚、この光学純度は、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析等により測定することができる。
【0043】
また、上記一般式(3)で示される光学活性含フッ素化合物
は、前記一般式(1)で示される含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを、光学活性触媒の存在下、不斉付加反応させること
により製造することができる。
【0044】
尚、光学活性含フッ素化合物の製造方法においては、どのように製造された含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを用いてもよいが、上述の本発明の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの製造方法(反応式1)にて得た一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを前駆体に用い、上記一般式(3)で示される光学活性含フッ素化合物を製造することができる。
【0045】
光学活性触媒を用いた不斉付加反応は、前駆体の不飽和アルデヒドから優れた光学純度を有する目的生成物を一段階の反応で得ることができる合成手法である。しかし、かかる反応を利用して一般式(3)で示される光学活性含フッ素アルデヒド化合物を製造することは従来困難であった。前駆体となる一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを、合成原料に使用できる良好な純度で得ることができなかったからである。即ち、
上記光学活性含フッ素化合物の製造方法は、良好な純度で、一般式(1)の含フッ素α,β−不飽和アルデヒドを用いることができることとなったことに基づ
くものである。
【0046】
上記光学活性含フッ素化合物の製造方法に用いられる光学活性触媒としては、例えば、下記一般式(4)に示される光学活性ピロリジン誘導体を使用することができる。尚、光学活性ピロリジン誘導体は、S体またはR体の光学活性体であってもよい。
【0047】
【化13】
〔式(4)中、*が付された炭素原子は不斉炭素原子であることを示し、R
5、R
6、R
7は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアリール基、炭素数2〜30のアラルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数1〜30のアリールオキシ基、炭素数1〜30のアシルオキシ基、シロキシ基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のアリールチオ基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数1〜30のアシルアミノ基、炭素数1〜30の複素環を有する基を表わす。〕
【0048】
上記式(4)のR
5、R
6、R
7における上記アルキル基としては、置換又は非置換のアルキル基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリール基としては、置換又は非置換の炭素数が6〜30(好ましくは6〜15、より好ましくは6〜8)のアリール基、又は、置換又は非置換の炭素数が1〜30(好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8)のヘテロアリール基が挙げられる。具体的なヘテロアリール骨格としては、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等に由来するものが挙げられる。
上記アラルキル基としては、置換又は非置換のアラルキル基を挙げることができ、その炭素数は2〜30であり、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜8である。具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。尚、アリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルコキシ基としては、置換又は非置換のアルコキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールオキシ基としては、置換又は非置換のアリールオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールオキシ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アシルオキシ基としては、置換又は非置換のアシルオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アルキルチオ基としては、置換又は非置換のアルキルチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールチオ基としては、置換又は非置換のアリールチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールチオ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルキルアミノ基としては、置換又は非置換のアルキルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アシルアミノ基としては、置換又は非置換のアシルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記複素環を有する基としては、置換又は非置換の複素環を有する基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。具体的な複素環としては、例えば、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等のヘテロアリール骨格などが挙げられる。
【0049】
また、光学活性触媒としては、光学活性ピロリジン誘導体に限られるものではなく、例えば、光学活性α−アミノ酸、光学活性イミダゾリジノン(MacMillan触媒)、光学活性オキサザボロリジンが例示され、光学活性ピロリジン誘導体に代えて、これらの光学活性触媒を適宜用いることができる。
【0050】
光学活性含フッ素化合物は、原料アルデヒド(即ち、一般式(1)で示される含フッ素α,β−不飽和アルデヒド)、光学活性触媒、原料アルデヒドに付加する原子(原子団)を有する反応材料を混合し、必要に応じて加熱、撹拌を行うことで生成される。反応装置や操作手順には、汎用の有機化合物の合成装置、操作を適用して行うことができる。
【0051】
反応材料としては、例えば、芳香族化合物、活性メチン化合物、活性メチレン化合物、シリルエノラート、金属エノラート、アルキルチオール、アルコール、フェノール等の求核性反応剤や、ジエン化合物、ジアゾ化合物が例示できる。かかる化合物を、上記した光学活性触媒を用いた反応によって、原料アルデヒドに付加させる。この付加反応は、例えば、Michael付加反応や、共役付加型Friedel−Crafts反応や、Diels−Alder反応や、シクロプロパン化反応等が例示される。Michael付加反応や、共役付加型Friedel−Crafts反応においては上に例示したような求核性反応剤に加えて、N−クロロコハク酸イミド、N−ブロモコハク酸イミド、N−フルオロベンゼンスルホンイミド、アゾジカルボン酸エステル、アルデヒド等の求電子的な反応剤を共存させ、一般式(3)に示すアルデヒドのR
4の位置に置換基(水素以外の基)が導入されるようにしても良い。
【0052】
ここで、
上記光学活性含フッ素化合物の製造方法を、含フッ素α,β−不飽和アルデヒドの例として前述した4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドを用いて説明する。4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドを用い、光学活性触媒存在下で不斉付加反応に付すれば、不斉炭素上にトリフルオロメチル基を持つ光学活性含フッ素化合物を合成できる。
【0053】
すなわち、下記反応式2に示すように、前述の一般式(4)の光学活性ピロリジン誘導体(光学活性ピロリジン誘導体(4))を触媒として4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドにチオール化合物の付加反応を行うことにより、チオエーテル(6)を高い光学純度で合成できる。
【0054】
【化14】
尚、反応式2に示すチオール化合物(式:RSH)のRは、炭素数1〜30(特に1〜15、更には1〜8)の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1〜30(特に1〜15、更には1〜8)のアリール基、炭素数1〜30(特に1〜15、更には1〜8)の複素環を有する基である。尚、これらの基については、上述の一般式(3)のR
3における各説明を適用することができる。
【0055】
また、下記反応式3に示すように、同様の光学活性ピロリジン誘導体(4)を触媒として、4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドに対し、芳香族化合物の共役付加型Friedel−Crafts反応を行うと、対応する芳香族化合物(7)が高い光学純度で得られる。
【0056】
【化15】
尚、反応式3に示す芳香族化合物(式:ArH)のArは、炭素数1〜30(特に1〜15、更には1〜8)の置換又は非置換のアリール基である。尚、これらの基については、上述の一般式(3)のR
3における各説明を適用することができる。
【0057】
また、下記反応式4に示すように、同様の光学活性ピロリジン誘導体(4)を触媒として、4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドに対し1,2,4−トリアゾールを用いた付加反応を行うことにより、対応する置換トリアゾール(8)が高い光学純度で得られる。
【0058】
【化16】
尚、反応式4に示す1,2,4−トリアゾールのR
8、R
9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアリール基、炭素数2〜30のアラルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数1〜30のアリールオキシ基、炭素数1〜30のアシルオキシ基、アミノオキシ基、シロキシ基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のアリールチオ基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数1〜30のアシルアミノ基、炭素数1〜30の複素環を有する基を示す。
【0059】
反応式4のR
8、R
9における上記アルキル基としては、置換又は非置換のアルキル基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリール基としては、置換又は非置換の炭素数が6〜30(好ましくは6〜15、より好ましくは6〜8)のアリール基、又は、置換又は非置換の炭素数が1〜30(好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8)のヘテロアリール基が挙げられる。具体的なヘテロアリール骨格としては、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等に由来するものが挙げられる。
上記アラルキル基としては、置換又は非置換のアラルキル基を挙げることができ、その炭素数は2〜30であり、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜8である。具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。尚、アリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルコキシ基としては、置換又は非置換のアルコキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールオキシ基としては、置換又は非置換のアリールオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールオキシ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アシルオキシ基としては、置換又は非置換のアシルオキシ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アルキルチオ基としては、置換又は非置換のアルキルチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アリールチオ基としては、置換又は非置換のアリールチオ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。尚、アリールチオ基におけるアリール骨格は、ヘテロアリール骨格であってもよい。
上記アルキルアミノ基としては、置換又は非置換のアルキルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記アシルアミノ基としては、置換又は非置換のアシルアミノ基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。
上記複素環を有する基としては、置換又は非置換の複素環を有する基を挙げることができ、その炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜8である。具体的な複素環としては、例えば、ピロール、ピリジン、トリアゾール、テトラゾール等の含窒素複素環、フラン等の環状エーテル、チオフェン等のヘテロアリール骨格などが挙げられる。
【0060】
さらに、下記反応式5に示すように、同様の光学活性ピロリジン誘導体(4)を触媒として、4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドに対しアルドキシムを用いた付加反応を行うことにより、対応するオキシムエーテル(9)が高い光学純度で得られる。
【0061】
【化17】
尚、反応式5に示すアルドキシム(式:RCHNOH)のRは、上記一般式(3)における説明が適用される。
【0062】
得られたアルデヒド(オキシムエーテル(9))は、アルデヒド部分の還元とオキシムエーテル部分の還元的開裂反応を経て4,4,4−トリフルオロブタン−1,3−ジオールへ変換できる。本合成法によって、抗うつ剤等の医薬品候補分子の合成原料となるジオール化合物の光学活性体を不斉合成によって生成することができ、光学分割を不要とできる。
【0063】
以上、上記実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に基づいて限定されるものではない。下記実施例
等においては、説明を容易とするために、反応式中の化合物に適宜符号を付して説明を行なう。尚、下記実施例
等において化合物の同定は、炭素(
13C)、水素(
1H)、フッ素(
19F)核磁気共鳴および赤外線吸収スペクトルを以下の装置及び条件で測定することにて行った。
1)
1H−NMRスペクトル=内部標準としてテトラメチルシラン(0ppm)を用いたJNM−ECX500(500MHz)分光計
2)
13C−NMRスペクトル=重クロロホルム中の残留プロトン(77.1ppm)を内部標準としたJNM−ECX500(126MHz)分光計
3)
19F−NMRスペクトル=内部標準としてトリクロロフルオロメタン(0ppm)を用いたJNM−ECX500(500MHz)分光計
4)IR分光器=日本分光FTIR−230分光器
【0065】
更に、
参考例1〜4において、単離・精製のための各種クロマトグラフィーでは、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー=シリカゲル60(関東化学株式会社、230〜400メッシュ)を用い分離操作を行った。
【0066】
また、
参考例1〜4において、光学異性体の分析は、高速液体クロマトグラフィー(日本分光製、PU1586およびUV−1575)を用いて行った。
【0067】
(実施例1)4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドの合成
乾燥させたなす型フラスコに4,4,4−トリフルオロブテノール(40mmol)と320mmolの二酸化マンガンを30mlのメシチレンに加え、下記反応式6に示すように50℃で24時間撹拌した。続いて反応溶液を濾過し、ろ液を常圧下150℃(油浴温度)で蒸留し、18.8mmolの4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)を単離した。蒸留操作は蒸留ヘッドを装着した100mLのなす型フラスコを加熱したシリコンオイルに浸けて行った。これにより、転化率85%、収率47%、純度98%で4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)を得た。
【0068】
【化18】
【0069】
得られた4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMR、FTIRにて構造解析を行い、表1に示す結果を得た。これにより、目的の4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドであることを確認した。
【0070】
【表1】
【0071】
(実施例2)4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドの合成
反応溶媒メシチレンをデカンに変えた以外は、実施例1と同様の操作によって4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)を単離した。転化率90%、収率40%、純度99%であった。
【0072】
(
比較例1)4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒドの合成
反応溶媒メシチリンをトルエンに変えた以外は、実施例1と同様の操作によって4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)を単離した。転化率85%、収率31%、純度15%であった。
【0073】
前記各実施例において、それぞれの収率及び純度を参考のために示したが、一般的に、蒸留操作は、蒸留装置の理論段数や、器具の密閉度、目的物質の絶対量(反応スケール)等によって効率が大きく変動するものであり、蒸留装置の構成によって大幅に収率、純度が向上することは周知の事実である。このため、前記の収率及び純度の参考値は蒸留手段を変更することによりさらに向上することが予想される。
【0074】
(
参考例1)トリフルオロメチル基を持つチオエーテルの合成
下記反応式7に示すように、フラスコ中において実施例1で合成した4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)の1.0mmolとベンゼンチオール(0.67mmol)を1.5mLのトルエンに溶解させた後、0.067mmolの光学活性ピロリジン誘導体(V)と0.067mmolの安息香酸を加え、室温で8時間撹拌することで目的とするアルデヒド(II)を合成した。得られたアルデヒド(II)の構造決定は、対応する一級アルコールへ誘導化した後に行った。一級アルコールへの誘導化は、生成したアルデヒド(II)を含む反応溶液が貯留された上記フラスコ中に、メタノール0.5ml、ジクロロメタン1.0mL、ホウ素化水素ナトリウム4.0mmolを加えて室温で3時間撹拌して行った。
【0075】
そして、反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液を適量加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し目的とするトリフルオロメチル基を持つチオエーテル(III)を97%収率、94%eeで得た。得られたチオエーテル(III)の光学純度はCHIRALPAK ICカラム(ダイセル化学工業(株)製)を用いたHPLC分析により決定した(移動層:ヘキサン/2−プロパノール=99/1、流速0.5mL/min、検出器:UV254nm)。
【0076】
【化19】
【0077】
得られたチオエーテル(III)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMR、FTIRにて構造解析を行い、表2に示す結果を得た。これにより、目的のチオエーテル(III)であることを確認した。
【0078】
【表2】
【0079】
(
参考例2)トリフルオロメチル基を持つ置換ピロールの合成
下記反応式8に示すように、フラスコ中において、実施例1で合成した4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)の1.0mmolとN−ベンジルピロール(1.5mmol)を10mlのトルエンに溶解させた後、0.1mmolの光学活性ピロリジン誘導体(V)を加え、室温で10時間撹拌した。反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、適量の飽和重曹水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し目的とするトリフルオロメチル基を持つ置換ピロール(IV)を85%収率、99%eeで得た。
【0080】
得られた置換ピロール(IV)の光学純度は対応する一級アルコールへ誘導化した後に行った。一級アルコールへの誘導化は、得られたアルデヒド(IV)の全量をジクロロメタン3.0mlに溶解させ、さらにメタノール0.5ml、ホウ素化水素ナトリウム4.0mmolを加えて室温で3時間撹拌して行った。そして、反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液を適量加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し目的とする一級アルコールを85%収率で得た。得られた一級アルコールの光学純度はCHIRALPAK IDカラム(ダイセル化学工業(株)製)を用いたHPLC分析により決定した(移動層:ヘキサン/2−プロパノール=100/1、流速1.0mL/min、検出器:UV254nm)。
【0081】
【化20】
【0082】
得られた置換ピロール(IV)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMR、FTIRにて構造解析を行い、表3に示す結果を得た。これにより、目的の置換ピロール(IV)であることを確認した。
【0083】
【表3】
【0084】
(
参考例3)befloxatone((R)−5−(methoxymethyl)−3−(4−((R)−4,4,4−trifluoro−3−hydroxybutoxy)phenyl)−oxazolidin−2−one)の合成
befloxatone(ベフロキサトン)の合成を下記反応式9に示すように行った。具体的には、フラスコ中において、実施例1で合成した4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)の1.0mmolと、アルドキシム(VI)(1.5mmol)を2.5mlのトルエンに溶解させた後、0.1mmolの光学活性ピロリジン誘導体(V)を加え、室温で24時間撹拌することで目的とするアルデヒド(VII)を合成した。得られたアルデヒド(VII)の構造決定は、対応する一級アルコールへ誘導化した後に行った。一級アルコールへの誘導化は、アルデヒド(VII)を含む反応液が貯留された上記フラスコ中にメタノール0.5ml、ジクロロメタン1.0mLホウ素化水素ナトリウム4.0mmolを加えて室温で3時間撹拌して行った。
【0085】
そして、反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液を適量加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製しアルコール(VIII)を76%収率、95%eeで得た。得られたアルコール(VIII)の光学純度はCHIRALPAK IDカラム(ダイセル化学工業(株)製)を用いたHPLC分析により決定した(移動層:ヘキサン/2−プロパノール=50/1、流速0.5mL/min、検出器:UV254nm)。
【0086】
得られたアルコール(VIII)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMR、FTIRにて構造解析を行い、表4に示す結果を得た。これにより、目的のアルコール(VIII)であることを確認した。
【0087】
【表4】
【0088】
次に、アルコール(VIII)0.75mmolをメタノール2.0mlに溶解させ、水酸化パラジウム50mgを加えて水素気流下で3時間撹拌した。反応溶液を濾過し、ろ液を減圧下濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ジクロロメタン/メタノール=5/1)により精製してジオール(IX)を91%収率で得た。
【0089】
得られたジオール(IX)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMR、FTIRにて構造解析を行い、表5に示す結果を得た。これにより、目的のアルコール(VIII)であることを確認した。
【0090】
【表5】
【0091】
更に、上記で得られたジオール(IX)の0.6mmolをピリジン9.0mmolに溶解させ、トルエンスルホン酸塩化物を0.66mmol加え室温で24時間撹拌した。反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、適量の飽和重曹水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製しトシル化体(X)を53%収率で得た。
【0092】
得られたトシル化体(X)は、
1HNMR、
13CNMR、FTIRにて構造解析を行い、表6に示す結果を得た。これにより、目的のトシル化体(X)であることを確認した。
【0093】
【表6】
【0094】
続いて、トシル化体(X)の0.3mmolをDMF1.0mlに溶解させ、0.4mmolの炭酸カリウムと0.2mmolのオキサゾリドン(XI)を加え85度で6時間撹拌した。反応溶液に適量の飽和重曹水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製しbefloxatoneを84%収率で得た。
【0095】
【化21】
【0096】
得られたbefloxatoneは、
1HNMR、
13CNMR、FTIRにて構造解析を行い、表7に示す結果を得た。これにより、目的の構造体befloxatoneであることを確認した。
【0097】
【表7】
【0098】
(
参考例4)トリフルオロメチル基を持つ置換トリアゾールの合成
下記反応式10に示すように、フラスコ中において、実施例1で合成した4,4,4−トリフルオロクロトンアルデヒド(I)の1.0mmolと1,2,4−トリアゾール(0.67mmol)を10.0mLのトルエンに溶解させた後、0.134mmolの光学活性ピロリジン誘導体(V)と0.134mmolの安息香酸を加え、−20℃で50時間撹拌することで目的とする置換トリアゾール(XII)を合成した。得られた置換トリアゾール(XII)の構造決定は、対応する一級アルコールへ誘導化した後、さらに2−ナフトイルエステルへ変換した後に行った。
【0099】
一級アルコールへの誘導化は、生成したトリアゾール(XII)を含む反応溶液が貯留された上記フラスコ中にメタノール3.0ml、ホウ素化水素ナトリウム4.0mmolを加えて室温で3時間撹拌して行った。そして、反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、適量の飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行った。酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下酢酸エチルを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ジクロロメタン/メタノール=20/1)により精製した。
【0100】
2−ナフトイルエステルへの誘導化は、得られた一級アルコールのジクロロメタン溶液7mlに2−ナフトイルクロリド1.5mmol、トリエチルアミン2.0mmol、および4−ジメチルアミノピリジン0.1mmolを加えて室温で2時間撹拌することで行った。そして、反応溶液に水を加えて反応を停止させた後、適量の飽和重曹水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下ジクロロメタンを留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ジクロロメタン/アセトン=30/1)により精製し置換トリアゾール(XIII)を54%収率、86%eeで得た。得られた置換トリアゾール(XIII)の光学純度はCHIRALPAK AS−Hカラム(ダイセル化学工業(株)製)を用いたHPLC分析により決定した(移動層:ヘキサン/2−プロパノール=10/1、流速1.0mL/min、検出器:UV254nm)。
【0101】
【化22】
【0102】
得られた置換トリアゾール(XIII)は、
1HNMR、
13CNMR、
19FNMRにて構造解析を行い、表8に示す結果を得た。これにより、目的の置換トリアゾール(XIII)であることを確認した。
【0103】
【表8】