特許第6183858号(P6183858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183858
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】生検針
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/02 20060101AFI20170814BHJP
   A61B 1/018 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   A61B10/02 110H
   !A61B1/018 515
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-523809(P2014-523809)
(86)(22)【出願日】2013年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2013068544
(87)【国際公開番号】WO2014007380
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-152073(P2012-152073)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100093470
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 富士雄
(74)【代理人】
【識別番号】100119747
【弁理士】
【氏名又は名称】能美 知康
(72)【発明者】
【氏名】植木 賢
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−226024(JP,A)
【文献】 米国特許第5133360(US,A)
【文献】 米国特許第5961458(US,A)
【文献】 米国特許第4503855(US,A)
【文献】 特表2006−518646(JP,A)
【文献】 特開2011−030913(JP,A)
【文献】 特開平10−286225(JP,A)
【文献】 特開2007−054449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/02
A61B 1/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に注射針形状の開口を有する中空の針部を備え、生体の組織内に穿刺して前記中空の針部内に組織の一部を取り込んで採取するための生検針であって、
前記中空の針部の先端側には前記注射針形状の開口部分に位置する組織を切断するための切断手段が設けられており、
前記切断手段前記中空の針部の内部又は外部を通されたワイヤーによって前記中空の針部の後端側から操作可能となされている生検針において、
前記注射針形状の開口の後端側には前記中空の針部壁を貫通する貫通孔が少なくとも一つ設けられており、
前記ワイヤーは、一方側の端部が前記貫通孔と前記注射針形状の開孔とを通されて前記中空の針部に固定されており、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って前記開口壁上にループ状に容易に離脱できるように固定されているとともに、他方側の端部が前記中空の針部の内部を経て前記中空の針部の後端よりも延在するように挿通されており、
前記ワイヤーが前記切断手段を兼ねていることを特徴とする生検針。
【請求項2】
前記貫通孔は2個設けられており、
前記ワイヤーの一方側の端部は、前記2個の貫通孔を通されて前記中空の針部に固定されている、請求項1に記載の生検針。
【請求項3】
前記ワイヤーの一方側の端部は、前記中空の針部の表面に接着・固定されている請求項1に記載の生検針。
【請求項4】
前記注射針形状の開口の壁には、前記壁に沿って弧状に略J字状に形成された溝からなるフック状部が形成されており、
前記ワイヤーは、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って、前記フック状部を通って前記開口壁上にループ状に容易に離脱できるように固定されている、請求項1〜3のいずれかに記載の生検針。
【請求項5】
前記フック状部は合成樹脂で形成されており、前記注射針形状の開口内に挿入される内針の有無によって前記略J字状の角度が変形するようになされていることを特徴とする請求項4に記載の生検針。
【請求項6】
前記ワイヤーは糸からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生検針。
【請求項7】
前記糸は、複数本がそれぞれ個別に独立して設けられていることを特徴とする請求項6に記載の生検針。
【請求項8】
先端に注射針形状の開口を有する中空の針部を備え、生体の組織内に穿刺して前記中空の針部内に組織の一部を取り込んで採取するための生検針であって、
前記中空の針部の先端側には前記注射針形状の開口部分に位置する組織を切断するための切断手段が設けられており、
前記切断手段が前記中空の針部の内部又は外部を通されたワイヤーによって前記中空の針部の後端側から操作可能となされている生検針において、
前記注射針形状の開口の両側端側の壁には一対の開孔が形成されており、
前記切断手段は、C字状に加工された線材からなり、前記C字状の両端部が前記一対の開孔に回動自在に嵌合されており、
前記ワイヤーは、一方側の端部が前記前記C字状に加工された線材の中間の支持部に回動自在に取り付けられ、他方側の端部が前記中空の針部の外部に沿って前記中空の針部の後端よりも延在するように配置されており、
前記C字状に加工された線材が前記切断手段を兼ねていることを特徴とする生検針。
【請求項9】
前記ワイヤーは、二本がそれぞれ互いに離間した状態で、かつ、回動しても前記注射針形状の開口上に架からない位置に取り付けられていることを特徴とする請求項8に記載の生検針。
【請求項10】
前記複数本のワイヤーの先端側には前記2本のワイヤーに跨がってネットが設けられていることを特徴とする請求項9に記載の生検針。
【請求項11】
前記注射針形状の開口の先端側には少なくとも一つの貫通孔が設けられており、少なくとも2本の糸が、一方端側がそれぞれ前記2本のワイヤーと同じ位置で前記C字状に加工された線材の中間部に固定され、他方端側がそれぞれ前記少なくとも一つの貫通孔を通り、前記中空の針部の外面側に沿って前記中空の針部の後端よりも延在されており、
前記2本のワイヤーはそれぞれ糸からなることを特徴とする請求項9に記載の生検針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の組織を一部採取するために用いられる生検針及びこの生検針を用いた内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
診断対象である組織の一部を標本として採取して検査を行う生検(biopsy;「生体組織診断」ともいう)は、特に悪性腫瘍の診断において重要である。一口に生検といっても様々な標本採取の方法が考えられるが、内臓組織病変のスクリーニングないし確定診断の際には、「生検針」と呼ばれる中空状の針(needle)を用いて標本採取する「針生検(needle biopsy)」が一般的に行われている。
【0003】
また、主に針生検は経皮的に行われることが一般的であるが、昨今では内視鏡観察下において針生検が行われる(「内視鏡下生検」とも呼ばれる)ことも多くなってきている。
【0004】
針生検に用いられる生検針は、標本採取の仕組みにより、吸引により標本を採取するものと、組織を切断・回収する機構を有するものとに大別される。前者は、吸引生検あるいは穿刺吸引生検(fine-needle aspiration biopsy)と呼ばれ、後者はコア針生検(core needle biopsy)と呼ばれる。
【0005】
コア針生検用の生検針の例として、下記特許文献1に記載されるような、ツルカット(Tru-cut)型として知られている生検針が挙げられる。下記特許文献1に記載されている生検針を図10を用いて説明する。なお、図10Aは下記特許文献1に記載されている生検針の断面図であり、図10B図10AのXB−XB線に沿った断面図であり、図10C図10Aの生検針を組織内に穿刺した状態を示す図であり、図10Dは生検針内に組織を回収した状態を示す図である。
【0006】
下記特許文献1に記載されているツルカット型の生検針50は、図10A及び図10Bに示したように、先端部に切欠き部51が形成された内針52と、この内針52が挿入される中空の外針53とを有している。このツルカット型の生検針50を用いて標本を採取するには、図10Cに示したように、内針52の先端部を組織54内に穿刺し、その後外針53を押進させて内針52にかぶせることで、組織54を切断すると共に内針52の切欠き部53内に組織54収容することで、標本55を採取するものである。また、近年ではこのツルカット型の生検針にバネを内蔵した小器具を組み合わせた自動式生検針も普及してきている。
【0007】
一方、吸引生検用の生検針の例としては、メンギーニ(Menghini)型として知られている生検針が挙げられる。このメンギーニ型生検針を図11を用いて説明する。なお、図11Aは従来のメンギーニ型生検針の断面図であり、図11Bは生検針を組織内に穿刺した状態を示す図であり、図11Cは生検針内の標本の状態を示す図である。このメンギーニ型生検針60は、図11Aに示したように内針61の先端を中空状の外針62の先端側に位置させた状態で組織63内に穿刺した後、図11Bに示したように内針61を外針62に対して後方へ移動させることで外針62内にスペースをつくり、その後、注射器を近位端に接続して注射器を引くことにより外針62内を陰圧にした状態にし、更に外針62を前進させることで、図11Cに示したように外針62内に標本64を取り込むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002− 609号公報
【特許文献2】特開2007−054449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ツルカット型生検針は、上述のとおり組織を切断する機構を備えており、確実に標本を採取することができる。しかしながら、針の外径に対して採取可能な組織片の太さがメンギーニ型生検針によって得られる組織片よりも細いため、メンギーニ型生検針と同等な大きさの標本を得ようとした際には、メンギーニ型生検針と比較してより太い針を用いなければならず、侵襲性が高く、出血等の合併症のリスクが高くなるといった問題がある。
【0010】
一方、メンギーニ型生検針は、ツルカット型生検針よりも外径を細くできるため、患者負担をより軽減することが可能であり、また、ツルカット型と同程度の侵襲性の針を用いた場合、より太い標本を採取することが可能である。しかしながら、対象となる組織が比較的硬い場合は、吸引による陰圧だけで組織を切断することが難しい。そのため、実際の手技においては、図11Bに示したように、外針62に捻り65を加えて、組織63の深部を切断することによって標本64を採取することも多い。
【0011】
また、上記特許文献2には、外針の先端側に外針の径方向に緊張可能に設けられたワイヤ状部材を、外針の外部から引っ張ることによってワイヤ状部材を緊張させた状態とし、その上で外針に捻りを加えることで、外針と共にワイヤ状部材が回転できるようにした生検針が記載されている。
【0012】
しかしながら、メンギーニ型生検針は、上述のとおり組織を確実に切断するための機能を有していないため、組織が硬い場合には適用し難く、また、捻りを加えて標本採取を試みたとしても、陰圧によって吸引する機構である以上、組織がばらばらになり易いという問題がある。しかも、内視鏡装置を用いて生検を行う場合、操作部から先端部までの長さが長く、1m以上にもなる場合があるので、その長さに比例して生検針の長さも長くなる。このような長い生検針に対して操作部側で捻りを加えた場合、捻りの力が先端部まで伝わり難い。更に操作部に注射器を付けて陰圧を加えても、針先端部まで陰圧が有効に伝わらない。そのため、1度の生検針の刺入では組織を採取することができず、何度も生検針の先端を往復動させて標本採取を行う必要があり、結果として標本がばらばらになり易く、また、標本回収率も低かった。
【0013】
本発明は、このような従来の生検針が有する問題点を解決するためになされたものであり、侵襲性が低いにもかかわらずより大きな(太い)標本の採取が可能であり、かつ、標本組織が分断されることなく確実に採取することが可能な生検針及びこの生検針を用いた内視鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の生検針は、
先端に注射針形状の開口を有する中空の針部を備え、生体の組織内に穿刺して前記中空の針部内に組織の一部を取り込んで採取するための生検針であって、
前記中空の針部の先端側には前記注射針形状の開口部分に位置する組織を切断するための切断手段が設けられており、
前記切断手段は、前記中空の針部の内部又は外部を通されたワイヤーを牽引することによって前記中空の針部の後端側から切断操作可能となされていることを特徴とする。
【0015】
本発明の生検針においては、目的とする組織内に生検針を穿刺して中空の針部内に組織を導入した後、ワイヤーを牽引して切断手段を作動させることにより、注射針形状の開口部分に位置している組織の深部を切断することができる。そのため、本発明の生検針によれば、中空の針部内に採取された標本は分断されることが少なくなり、標本を太いサイズで、確実に中空の針部内に採取することができるようになる。なお、中空の針部内に採取された標本が分断されていない状態であると、癌細胞があるか否かの判定だけでなく、癌がどの程度浸潤しているかの判定をより正確に行い易くなり、また、如何なる性質の癌であるかの判定も正確に行い易くなる。
【0016】
また、例えば内視鏡装置と組み合わされている場合のように生検針の長さが長くても、ワイヤの操作によって切断手段を容易にかつ確実に作動させることができるため、注射針形状の開口部分に位置している組織の深部を容易に切断することができる。なお、本発明の生検針に使用し得るワイヤーとしては、切断手段の構成に応じて、例えば太さ0.1mm程度の極細のナイロン糸やテグス、ステンレス鋼系、チタン系ないし炭素繊維系ワイヤー等を適宜選択して使用し得る。
【0017】
本発明の生検針においては、前記注射針形状の開口の後端側には前記中空の針部壁を貫通する貫通孔が少なくとも一つ設けられており、前記ワイヤーは、一方側の端部が前記貫通孔と前記注射針形状の開口とを通されて前記中空の針部に固定されており、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って前記開口壁上にループ状に容易に離脱できるように、例えば易剥離性接着剤によって固定されているとともに、他方側の端部が前記中空の針部の内部を経て前記中空の針部の後端よりも延在するように挿通されており、前記ワイヤーが前記切断手段を兼ねているものとすることができる。
【0018】
このような構成とすると、目的とする組織内に生検針を穿刺して中空の針部内に組織を導入した後にワイヤーの他方の端部を牽引すると、ワイヤーの一方の端部から延在している部分が注射針形状の開口壁から順次剥がれて注射針形状の開口壁に沿って中空の針部内に引っ張り込まれる。この間に注射針形状の開口部分に位置している組織の深部がワイヤー自体によって切断されるので、注射針形状の開口部分に位置している組織の深部を切断することができるようになる。
【0019】
なお、本発明における易剥離性接着剤とは、本発明の生検針を組織内に穿刺時の抵抗によってはワイヤーが剥離することはなく、ワイヤーを他方の端部から引っ張った際にワイヤーが注射針形状の開口壁から順次剥がれていく程度の接着強度を有する接着剤ないし粘着材であり、かつ、生体親和性が良好な成分、例えば水糊、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等からなるものであればよい。
【0020】
また、本発明の生検針においては、前記注射針形状の開口の後端側には前記中空の針部壁を貫通する2個の貫通孔が設けられており、前記ワイヤーは、一方側の端部が前記2個の貫通孔を通されて前記中空の針部に固定されており、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って前記開口壁上にループ状に容易に離脱できるように、例えば易剥離性接着剤によって固定されているとともに、他方側の端部が前記中空の針部の内部を経て前記中空の針部の後端よりも延在するように挿通されており、前記ワイヤーが前記切断手段を兼ねているものとしてもよい。
【0021】
このような構成とすると、前述のワイヤーの一方側の端部が貫通孔と注射針形状の開口とを通されて中空の針部に固定された生検針と同様の場合の効果を奏するほか、ワイヤーが鋭利な注射針形状の開口を横切ることがないので、生検針を目的とする組織内に穿刺する際にワイヤーが注射針形状の開口部によって切断されることが抑制される。
【0022】
また、本発明の生検針においては、前記ワイヤーは、一方側の端部が前記中空の針部に接着・固定されており、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って前記開口壁上にループ状に容易に離脱できるように、例えば易剥離性接着剤によって固定されているとともに、他方側の端部が前記中空の針部の内部を経て前記中空の針部の後端よりも延在するように挿通されており、前記ワイヤーが前記切断手段を兼ねているものとしてもよい。このような構成とすると、容易に上記効果を奏する生検針を作製することができるようになる。
【0023】
また、本発明の生検針においては、前記注射針形状の開口の壁には、前記壁に沿って弧状に略J字状に形成された溝からなるフック状部が形成されており、前記ワイヤーは、一方側の端部が前記中空の針部に接着・固定されており、前記一方の端部から延在している部分が前記注射針形状の開口壁に沿って、前記フック状部を通って前記開口壁上にループ状に固定されているとともに、他方側の端部が前記中空の針部の内部を経て前記中空の針部の後端よりも延在するように挿通されており、前記ワイヤーが前記切断手段を兼ねているものとしてもよい。
【0024】
このような構成を備えていると、注射針形状の開口の壁にワイヤーの固定が容易となり、また、一度所定の標本の採取を行った後、生検針を取り出して標本を回収した後、再度ワイヤーを所定の位置に固定して再使用することもできるようになる。
【0025】
また、注射針形状の開口の壁に、この壁に沿って弧状に略J字状に形成された溝からなるフック状部が形成されている場合、このフック状部は合成樹脂で形成されており、注射針形状の開口内に挿入される内針の有無によって略J字状の角度が変形するようになされているものとしてもよい。このような構成を備えていると、内針を装着した状態で組織に針を刺入する際にはワイヤーがはずれ難く、組織を採取する際に内針を抜くとワイヤーがはずれ易くなるので、確実に組織を採集することができるようになる。なお、フック状部を構成する合成樹脂としては、通常の医療用機器に使用されている合成樹脂やシリコン樹脂等を適宜選択して使用し得る。
【0026】
また、本発明の生検針においては、前記注射針形状の開口の両側端側の壁には一対の開孔が形成されており、前記切断手段は、C字状に加工された線材からなり、前記C字状の両端部が前記一対の開孔に回動自在に嵌合されており、前記注射針形状の開口の先端側には少なくとも一つの貫通孔が設けられており、前記ワイヤーは、一方側の端部が前記少なくとも一つの貫通孔を通されて前記C字状に加工された線材の支持部に回動自在に取り付けられ、他方側の端部が前記中空の針部の外部に沿って前記中空の針部の後端よりも延在するように配置されているものとすることができる。
【0027】
このような構成を備えている生検針は、切断手段を構成するC字状に加工された線材が注射針形状の開口側に位置しないように、ワイヤーを他方の端部から引っ張った状態で目的とする組織内に穿刺される。この状態でワイヤーの他方の端部を注射針形状の開口側向かって押し込むと、C字状に加工された線材が生検針の先端側に向かって回動することによって、注射針形状の開口部分に位置している組織の深部がC字状に加工された線材によって切断されるので、注射針形状の開口部分に位置している組織の深部を切断することができるようになる。なお、ワイヤーが通される貫通孔内には、ワイヤーがスムーズに操作できるようにマイクロメータサイズの滑車が形成されていてもよい。
【0028】
また、本発明の生検針においては、前記貫通孔は2個設けられており、前記ワイヤーは、一方側の端部が2分割されてそれぞれ互いに離間した状態で前記一対の貫通孔を通され、かつ、回動しても前記注射針形状の開口上に架からない位置で前記C字状に加工された線材の支持部に取り付けられているものとしてもよい。さらに、前記貫通孔は2個設けられており、前記ワイヤーは、2本からなり、それぞれ互いに離間した状態で前記一対の貫通孔を通され、かつ、回動しても前記注射針形状の開口上に架からない位置で前記C字状に加工された線材の支持部に取り付けられているものとしてもかまわない。
【0029】
このような構成を備えていると、ワイヤーを牽引する場合に、注射針状の開口上に位置する組織に悪影響を与えずにC字状に加工された線材を回動させることができるので、組織の深部の切断性が良好となる。
【0030】
また、本発明の生検針においては、前記C字状に加工された線材に回動自在に取り付けられ、他方側の端部が前記中空の針部の外部に沿って前記中空の針部の後端よりも延在するワイヤーをさらに備えていてもよい。このような構成を備えていると、一対のワイヤーを交互に牽引することにより、C字状に加工された線材を往復動させることができるため、複数箇所でそれぞれ組織の深部を切断することができるようになり、複数箇所の組織標本を順次まとめて採取することができるようになる。
【0034】
また、本発明の生検針においては、前記中空の針部の内部に挿通された内針を備えていることが好ましい。
【0035】
中空の針部の内部に挿通された内針を備えていると、生検針を組織内に穿刺しても中空の針部の内部に組織が侵入し難い状態となる。そのため、本発明の生検針によれば、深部組織の標本を採取する場合においては、所定の深さに挿入された後に内針を引き抜くことないし中空の針部を内針から押し出すことによって、所定の深部組織の標本のみを採取することができるようになる。
【0036】
また、本発明の生検針においては、前記ワイヤーは糸とすることができる。ワイヤーが糸からなる場合、柔軟であるために容易にワイヤーの一方の端部から延在している部分を注射針形状の開口壁に沿って配置したり、C字状に加工された線材や箔片状のプラスチックシートに固定して牽引操作することができる。なお、ここで用いる糸としては、モノフィラメントのものであっても、マルチフィラメントのものであってもよい。
【0037】
さらに、本発明の生検針は、内視鏡装置と組み合わせて使用することもできる。
【0038】
本発明の生検針は、長さが長くても容易に注射針形状の開口部分に位置する組織を切断することができるため、内視鏡装置と組み合わせることによって、所望の位置及び深さの組織標本を容易にかつ良好な状態で採取することができるようになる。なお、本発明で用いる内視鏡装置として超音波内視鏡装置と組み合わせると、表面から深い位置に位置している組織を画像で確認しながら採取することができるので、本発明の生検針に関する上記効果が良好に奏されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1Aは実施形態1の生検針の平面図であり、図1B図1Aの部分断面図である。
図2図2Aは実施形態1の生検針と内針とを組み合わせた状態の部分断面図であり、図2B図2Aに示す生検針と内針とを組織に穿刺した状態を示す部分断面図であり、図2C図2Bの状態から糸を部分的に引っ張った状態を示す図であり、図2D図2Cの生検針における注射針形状の開口部近傍の平面図であり、図2Eは標本の採取状態を示す図である。
図3図3Aは実施形態2の生検針の平面図であり、図3B図3Aの部分断面図である。
図4図4Aは実施形態3の生検針における注射針形状の開口部近傍の平面図であり、図4Bは実施形態4の生検針における注射針形状の開口部近傍の平面図である。
図5図5Aは実施形態5の生検針の平面図であり、図5B図5Aの側面図である。
図6図6Aは実施形態6の生検針の平面図であり、図6Bは側面図であり、図6Cは切断手段を作動させた際の側面図である。
図7図7Aは実施形態7の生検針の平面図であり、図7Cは切断手段を作動させた際の側面図である。
図8図8Aは実施形態8の生検針の平面図であり、図8Bは切断手段を作動させた際の側面図である。
図9図9Aは実施形態9の生検針の平面図であり、図9Bは側面図であり、図9Cは切断手段を作動させた際の側面図である。
図10図10Aは従来例の生検針の断面図であり、図10B図10AのXB−XB線に沿った断面図であり、図10C図10Aの生検針を組織内に穿刺した状態を示す図であり、図10Dは生検針内に組織を回収した状態を示す図である。
図11図11Aは従来のメンギーニ型生検針の断面図であり、図11Bは生検針を組織内に穿刺した状態を示す図であり、図11Cは生検針内の標本の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の生検針を実施形態を参照して詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための生検針の一例を示すものであって、本発明をこの実施形態に限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、概略構成を模式的に示すものであるため、各部材について必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0041】
[実施形態1]
実施形態1の生検針10を図1を用いて説明する。なお、図1Aは実施形態1の生検針の平面図であり、図1B図1Aの部分断面図である。
【0042】
実施形態1の生検針10は、中空円筒状の針部11の一方側の端部に、端部が斜めに切断された注射針形状の開口12が形成されている。また、この注射針形状の開口12の後端側には中空円筒状の針部11の周囲壁を貫通する一対の貫通孔13、14が形成されている。そして一対の貫通孔13、14には糸15の一方側の端部が通され、結わえられて糸15の一方側の端部が固定されている。なお、参照符号16は糸15の結び目を示している。なお、糸15としては、ナイロン糸やテグス、ステンレス鋼系、チタン系ないし炭素繊維系の糸等、細径かつ柔軟性がありながら高強度のものを適宜選択して使用し得る。
【0043】
そして、糸15の結び目16から延びている部分は、易剥離性接着剤(図示省略)によって、注射針形状の開口12の壁12aに沿って、この壁12a上にループ状に固定されており、さらに他方側の端部が一対の貫通孔13、14のうちの一方(ここでは貫通孔14が選択されている)を経て、中空円筒状の針部11の内部を通って、中空円筒状の針部11の後端から外部に延在するように挿通されている。なお、実施形態1の生検針10では、糸15は、中空円筒状の針部11の他方側の端部に設けられた針基17の手前に設けられた貫通孔18から外部に導き出されている例を示しているが、針基17側から外部に導き出すようにしてもよい。この糸15が本発明の切断手段に対応する。
【0044】
なお、易剥離性接着剤としては、生検針10を組織内に穿刺した際には糸15が注射針形状の開口12の壁12aから剥離せず、糸15を他端側から引っ張った場合に糸15が注射針形状の開口12の壁12aから順次剥離していく程度の接着性があり、かつ生体親和性が良好なものであればよく、例えば水糊、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0045】
この生検針10の使用方法を図2を用いて説明する。なお、図2Aは実施形態1の生検針と内針とを組み合わせた状態の部分断面図であり、図2B図2Aに示す生検針と内針とを組織に穿刺した状態を示す部分断面図であり、図2C図2Bの状態から糸を部分的に引っ張った状態を示す図であり、図2D図2Cの生検針における注射針形状の開口部近傍の平面図であり、図2Eは標本の採取状態を示す図である。
【0046】
まず、図2Aに示したように、生検針10の中空円筒状の針部11内に開口が形成されていない内針20を挿入し、生検針10の注射針形状の開口12内に組織が侵入しない状態とする。この状態の生検針10と内針20とを同時に組織21に穿刺し、目的とする部位の近傍に位置するようにする。その後、図2Bに示したように、内針20を固定した状態で、生検針10をさらに目的とする部位まで挿入する。あるいは、内針20を少し引いた後に生検針10をさらに目的とする部位まで挿入する。そうすると、生検針10の中空円筒状の針部11内に組織21aが入り込む。
【0047】
この状態では、生検針10の中空円筒状の針部11内に入り込んだ組織21aのうち、生検針10の中空円筒状の針部11の壁に接している側面は切断されているが、注射針形状の開口12側に位置している組織21の深部21bは切断されていない。そのため、この状態のまま生検針10を内針20とともに引き抜くと、中空円筒状の針部11の内部が負圧になることに起因して組織21の深部21bが切断されて中空円筒状の針部11内に残留することがあるが、多くは中空円筒状の針部11から抜け出てしまうため、標本の回収率が低くなる。
【0048】
そこで、実施形態1の生検針10では、図2Bの状態となった際に、糸15を他方の端部側へ牽引する操作を行う。そうすると、図2Dに示したように、糸15は他方の端部側へ引っ張られるに従って注射針形状の開口12の壁12aから徐々に剥離してループの径が小さくなり、それに伴って注射針形状の開口12の壁12aに沿って組織21の深部21bが切断されていく。この状態の生検針10における注射針形状の開口12部分近傍の平面図が図2Dに示されている。そして、ループが閉じた状態では注射針形状の開口12部分に位置している組織21の深部21bは実質的に全て切断された状態となる。
【0049】
この状態で、生検針10を内針20とともに引き抜くと、組織21の深部21bが切断されているために、図2Dに示したように、採取された標本22は中空円筒状の針部11内に留まったまま採取されるので、標本22の回収率が高くなる。なお、生検針10を内針20とともに引き抜く際に、先に内針20を引き抜いていてから注射器をつけて吸引をかけると、針部11の内腔が陰圧になるので、標本22が中空円筒状の針部11の奥側に位置するようになり、標本22の回収率が向上する。その際、注射器の引く容量によって陰圧の強さを調節できるが、実施形態1の生検針10では組織21の深部21bが切断されているために、従来法に比べ弱い陰圧で組織を回収することが可能になる。したがって、組織がバラバラに分断される確率も低くなる。
【0050】
なお、実施形態1の生検針10は、そのまま周知の注射筒に接続して単独で用いてもよく、あるいは内視鏡装置と組み合わせて用いてもよい。実施形態1の生検針10を内視鏡装置と組み合わせて用いる場合には、内視鏡装置の操作部と生検針10の注射針形状の開口12の部分までの長さが非常に長くなるが、このような状態であっても、生検針10を組織の目的とする部位まで穿刺した後に糸15を操作部側から牽引すると、注射針形状の開口12部分に位置している組織21の深部21bを容易に切断することができるようになる。
【0051】
また、上記の実施形態1では、生検針10と内針20とを組み合わせて用いた例を示した。このような構成を採用すると、生検針10の注射針形状の開口12が所望の深さに到達するまでは生検針10の中空円筒状の針部11内に侵入し難くなるので、目的とする組織の標本を容易に採取することができるようになる。なお、内視鏡装置と組み合わせて組織の深部の標本を採取する場合には、超音波内視鏡装置と組み合わせると、組織21の深さ方向の情報を可視化することができるため、正確に所望の深さの標本を採取することができるようになる。なお、組織の表面の標本を採取する場合には内針20を用いることなく生検針10を単独で用いてもよいが、この場合においても内針を用いることによって吸引生検と同様の作用効果を奏させることができるので、標本の採取効率が向上する。
【0052】
[実施形態2]
実施形態1の生検針10においては、注射針形状の開口12の後端側に中空円筒状の針部11の壁を貫通する一対の貫通孔13、14を形成した例を示したが、一対の貫通孔13、14を形成する主目的は糸15を固定するためであるから、必ずしも一対形成する必要はなく、1個でもよい。この貫通孔を1個のみ形成した実施形態2の生検針10Aを図3を用いて説明する。なお、図3Aは実施形態2の生検針の平面図であり、図3B図3Aの部分断面図である。なお、図3においては、実施形態1の生検針10と同様の構成部分には同一の参照符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
【0053】
実施形態2の生検針10Aは、中空円筒状の針部11Aの一方側の端部には、端部が斜めに切断された注射針形状の開口12が形成されており、また、この注射針形状の開口12の後端側には中空円筒状の針部11Aの壁を貫通する貫通孔13aが形成されている。そして、この貫通孔13aと注射針形状の開口12とに糸15の一方側の端部が通され、結わえられ、糸15の一方側の端部が固定されている。なお、参照符号16は糸15の結び目を示している。この場合も糸15としては、実施形態1の生検針10の場合と同様の材料からなるものを用いることができるが、糸15が鋭利な注射針形状の開口12を横切っているので、この注射針形状の開口12で切断されることがないようにするため、ステンレス鋼系、チタン系等の金属製の糸が好ましい。このような実施形態2の生検針10Aは、実施形態1の生検針10の場合と同様にして、内針を用いあるいは内針を用いることなく、採取すべき組織内に穿刺して使用することができ、実施形態1の生検針10と同様の効果を奏することができる。
【0054】
[実施形態3及び4]
実施形態1及び2の生検針10、10Aにおいては、糸15の一方側の端部を注射針形状の開口12の後端側の中空円筒状の針部11、11Aの壁を貫通する2個(実施形態1)ないし1個(実施形態2)の貫通孔13、13a、14を通して結わえることによって固定した例を示したが、糸15の一方側の端部を接着剤によって固定しても同様の作用効果を奏することができる。このような糸15の一方側の端部を接着剤によって中空円筒状の針部に固定した実施形態3及び4の生検針10B及び10Cを図4A及び図4Bを用いて説明する。なお、図4Aは実施形態3の生検針10Bにおける注射針形状の開口部近傍の平面図であり、図4Bは実施形態4の生検針10Cにおける注射針形状の開口部近傍の平面図である。なお、実施形態3及び4においては、実施形態2の生検針10Aと同様の構成部分には同一の参照符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
【0055】
実施形態3の生検針10Bの中空円筒状の針部11Aは、実施形態2の生検針10Aの中空円筒状の針部11Aと同様の構成を備えている。すなわち、実施形態3の生検針10Bの一方側の端部には端部が斜めに切断された注射針形状の開口12が形成されており、また、この注射針形状の開口12の後端側には中空円筒状の針部11Aの壁を貫通する貫通孔13aが形成されている。そして、糸15の一方側の端部が中空円筒状の針部11Aの表面の接着部16aにおいて接着剤(図示省略)によって強固に固定されている。
【0056】
そして、糸15のの接着部16aから延びている部分は、易剥離性接着剤(図示省略)によって、注射針形状の開口12の壁12aに沿って、この壁12a上にループ状に固定されており、さらに他方側の端部が一対の貫通孔13aを経て、中空円筒状の針部11Aの内部を通って、中空円筒状の針部11Aの後端から外部に延在するように挿通されている。この場合も、糸15としては実施形態1の生検針10の場合と同様の材料からなるものを用いることができる。このような実施形態3の生検針10Bにおいては、実施形態1の生検針10の場合と同様にして、内針を用いあるいは内針を用いることなく、採取すべき組織内に穿刺して所定の標本の採取に使用することができ、実施形態1の生検針10と同様の効果を奏することができる。
【0057】
また、実施形態4の生検針10Cは、糸を複数本、ここでは2本の糸15a、15bをそれぞれ独立して並列に配置した他は実施形態3の生検針10Bと同様の構成を備えている。この実施形態4の生検針10Cでは、内針を用いあるいは内針を用いることなく採取すべき組織内に穿刺し、最初に一本の糸、例えば糸15aを用いて、実施形態1の生検針10の場合と同様にして所定の標本を採取する。この状態では別の糸15bが最初の状態のまま残留している。
【0058】
その後、生検針10Cを、再度内針を用いあるいは内針を用いることなく別の位置の採取すべき組織内に穿刺し、実施形態1の生検針10の場合と同様にして、次の糸15bを用いて所定の標本を採取する。この実施形態4の生検針10Cによれば、複数箇所でそれぞれ組織の深部を切断することができるようになるので、複数箇所の組織標本を順次まとめて採取することができるようになる。なお、糸としては、2本の場合だけでなくより多くの糸を用いることもできるが、中空円筒状の針部11Aの径を大きくする必要があることから、2本ないし3本程度に止めることが好ましい。
【0059】
なお、実施形態3及び4においては中空円筒状の針部11Aに貫通孔13が設けられているものを使用した例を示したが、この貫通孔13aは必ずしも必要な構成ではない。中空円筒状の針部11Aに貫通孔13aが形成されていないものを使用する場合には、糸の他方側の端部は、注射針形状の開口12から中空円筒状の針部11Aの内部を通して、中空円筒状の針部11Aの後端から外部に延在するように挿通させればよい。
【0060】
[実施形態5]
実施形態5の生検針10Dを図5を用いて説明する。なお、図5Aは実施形態5の生検針10Dの平面図であり、図5B図5Aの側面図である。また、図5においては、フック状部12bの高さ及び糸15の配置状態に関しては、その構成を理解し易くするため、誇張して描いてある。また、図5においては、実施形態3の生検針10Bと同様の構成部分には同一の参照符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
実施形態5の生検針10Dは、実施形態3の生検針10Bの場合と同様に、中空円筒状の針部11Aの一方側の端部には、端部が斜めに切断された注射針形状の開口12が形成されており、また、この注射針形状の開口12の後端側には中空円筒状の針部11Aの壁を貫通する貫通孔13aが形成されている。そして、注射針形状の開口12の壁12aには、この壁12aに沿って弧状に形成された溝からなるフック状部12bが形成されている。このフック状部12bは注射針形状の開口12の壁12aの先端側が最も深くなるように略J字の溝状に形成されている。
【0062】
そして、糸15の一方側の端部が中空円筒状の針部11Aの表面の接着部16aにおいて接着剤(図示省略)によって強固に固定されている。この糸15の接着部16aから延びている部分は、フック状部12b内を通るようにして、注射針形状の開口12の壁12aの表面に沿ってループ状に配置されており、糸15の他方側の端部が貫通孔13aを経て、中空円筒状の針部11Aの内部を通り、中空円筒状の針部11Aの後端から外部に延在するように挿通されている。
【0063】
このフック状部12bの頂部と注射針形状の開口12の壁12aとの間のなす角度θは、糸15が適宜のテンションを与えられて固定されている場合には、生検針10Dを採取すべき組織内に穿刺した際にフック状部12bから糸15が外れることがなく、糸15を強く引っ張った際には、フック状部12bから糸15が外れる程度の鈍角とされている。ただし、実施形態3の生検針10Bにように糸15を易剥離性接着剤によって固定するようにしてもよく、また、実施形態4の生検針10Cにように糸15を複数本並列に配置することもできる。この場合も、糸15としては実施形態3の生検針10B及び実施形態4の生検針10Cの場合と同様の材料からなるものを用いることができる。
【0064】
このような実施形態5の生検針10Dにおいては、実施形態3の生検針10B及び実施形態4の生検針10Cの場合と同様にして、内針を用いあるいは内針を用いることなく、採取すべき組織内に穿刺して所定の標本の採取に使用することができ、実施形態3の生検針10B及び実施形態4の生検針10Cと同様の効果を奏することができる。加えて、実施形態5の生検針10Dにおいては、一度所定の標本の採取を行った後、生検針10Dを取り出して標本を回収した後、再度糸15を所定の位置に固定して再使用することもできるようになる。
【0065】
また、このような実施形態5の生検針10Dでは、フック状部12bの材質をプラスチック(またはシリコン製)にして、わずかに12aの内縁を超えるように接着し、内針を入れるとJ字が深くなる(逆Cの字)ようにすることもできる。この構成によると、内針を装着した状態で組織に針を刺入する際に、糸15がはずれ難く、組織を採取する際はかならず内針を抜くので、組織を採取するときには、逆にJ字が浅くなってI字に近くなるので、糸がするりと滑りやすくなるため、組織の深部を容易に切断することができ、確実に組織を採集することができるようになる。
【0066】
[実施形態6]
実施形態6の生検針10Eを図6を用いて説明する。なお、図6Aは実施形態6の生検針の平面図であり、図6Bは側面図であり、図6Cは切断手段を作動させた際の側面図である。また、図6においては、実施形態1の生検針10と同一の構成部分には同一の参照符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
【0067】
実施形態6の生検針10Eは、中空円筒状の針部11Bの一方側の端部に注射針形状の開口12が形成されており、また、この注射針形状の開口12の両側端側の壁には一対の開孔11a、11bが形成され、注射針形状の開口12の先端側には貫通孔13aが形成されている。そして、C字状に形成された線材15cが、その両端部がそれぞれ一対の開孔11a、11bに回動自在に嵌合されている。このC字状に形成された線材15cは、剛性を有するステンレス鋼系,チタン系等の金属製のものが用いられている。
【0068】
また、このC字状に形成された線材15cの中間の支持部16bには、ワイヤー15dの一方側の端部が回動自在に取り付けられており、このワイヤー15dの他方側の端部は、貫通孔13aを通って、中空円筒状の針部11Bの外周に沿って、中空円筒状の針部11Bの後端よりもさらに延在するように配置されている。このワイヤー15dとしては、ナイロン糸やテグス、ステンレス鋼系、チタン系ないし炭素繊維系の糸などが用いられる。
【0069】
図6Aに示したように、最初にC字状に形成された線材15cの中間の支持部16bが中空円筒状の針部11Bの表面側に回動した状態で、生検針10Eを、内針を用いて、あるいは内針を用いることなく、採取すべき組織内に穿刺すると、例えば図2に示した実施形態1の生検針10の場合と同様に、組織の一部が中空円筒状の針部11B内に入り込む。
【0070】
ここで、ワイヤー15dを中空円筒状の針部11Bの後端側より牽引すると、図6Bに矢印で示したように、C字状に形成された線材15cが貫通孔13aが形成されている開口12の先端側に引っ張られて、中空円筒状の針部11Bに形成された一対の開孔11a、11bを支点として回動する。その結果、図6Cに示したように、C字状に形成された線材15cの中間の支持部16bが注射針形状の開口12の先端側に位置するようになる。このように、C字状に形成された線材15cが回動する間に注射針形状の開口12部分に位置していた組織が切断されることになる。すなわち、実施形態6の生検針10Eにおいては、C字状に形成された線材15cが本発明の切断手段に対応する。
【0071】
その後、生検針10EをC字状に形成された線材15c及びワイヤー15dとともに引き抜くと、組織の深部が切断されているため、図2Eに示した実施形態1の生検針10の場合と同様に、採取された標本は中空円筒状の針部11B内に留まったまま確実に採取される。
【0072】
なお、実施形態6の生検針10Eにおいては、ワイヤー15dが貫通孔13aを支点とするように撓みつつ貫通孔13aに対して摺動することで、ワイヤー15dを牽引する力がC字状に形成された線材15cまで確実に届く必要があるため、ワイヤー15dは充分な引張強さとある程度の可撓性を備えている必要がある。また、ワイヤー15dがスムーズに摺動できるように、貫通孔13aに滑車などを更に設けてもよい。また、C字状に形成された線材15cは、一対の開孔11a、11bを支点として回転するとともに組織を切断する必要があるため、ワイヤー15dによって牽引された際に変形し難い必要があるので、ワイヤー15dよりも剛性が大きい必要がある。そのため、C字状に形成された線材15c及びワイヤー15dともに同一の材料で形成する場合には、C字状に形成された線材15cとしてワイヤー15dよりも太いものを用いることが望ましい。
【0073】
また、C字状に形成された線材15cは、一対の開孔11a、11bを支点として回動するとともに組織を中空円筒状の針部11B内に納まる程度の太さとなるように切断できればよいので、必ずしも厳密なC字状となっている必要はなく、横に細長いC字状、楕円形状、さらには多角形状であってもよい。
【0074】
[実施形態7]
実施形態7の生検針10Fを図7を用いて説明する。なお、図7Aは実施形態7の生検針の平面図であり、図7Bは切断手段を作動させた際の側面図である。なお、図7A及び図7Bにおいては、図6に示した実施形態6の生検針10Eと同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略する。
【0075】
実施形態7の生検針10Fは、実施形態6の生検針10Eにおいて、C字状に形成された線材15cを駆動させるためのワイヤー15dの形状を工夫し、ワイヤー15dを牽引する際にワイヤー15dが注射針形状の開口12を横切らない形状とし、C字状に形成された線材15cを回動させて組織の深部の切断を確実に行えるようにしたものである。すなわち、実施形態7の生検針10Fは、実施形態6の生検針10Eにおいて、ワイヤー15dの線材15c側を2分岐して一対の分岐ワイヤー部15e、15fを形成すると共に、注射針状の開口12の先端側に設ける貫通孔として、一対の貫通孔13b、13cを設け、これらの一対の分岐ワイヤー部15e、15fを、それぞれ貫通孔13b、13cに通してから、C字状に形成された線材15cの中間の2箇所の支持部16c、16dに回動自在に取り付けたものである。そして、この2箇所の支持部16c及び16dは、C字状に形成された線材15cが回動した際に、それぞれが注射針状の開口12内に位置しない形状とされている。
【0076】
なお、実施形態7の生検針10Fにおいては、ワイヤー15dのC字状に形成された線材15c側を2分岐することにより一対の分岐ワイヤー部15e、15fを形成した例を示したが、独立した2本のワイヤーをC字状に形成された線材15cの中間の2箇所の支持部16c、16dに回動自在に取り付け、これらの2本のワイヤーをそれぞれ貫通孔13b、13cを通した後に中空円筒状の針部11Bの後端よりもさらに延在するように配置してもよい。また、実施形態7の生検針10Fにおいては、実施形態6における貫通孔13aと同様、ワイヤー15dの分岐ワイヤー部15e、15fがスムーズに摺動できるように、貫通孔13b、13cに滑車等を更に設けてもよい。
【0077】
[実施形態8]
実施形態8の生検針10Gを図8を用いて説明する。なお、図8Aは実施形態8の生検針の平面図であり、図8Bは切断手段を作動させた際の側面図である。また、図8においては、図7Aに示した実施形態7の生検針10Fと同一構成の部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略する。
【0078】
実施形態8の生検針10Gは、実施形態7の生検針10Fにおいて、さらに2分岐した一対の分岐ワイヤー部15g、15hを有する別個のワイヤー15iを設け、このワイヤー15iを空円筒状の針部11Bの後端よりもさらに延在するように配置したものである。この実施形態8の生検針10Gによれば、最初にワイヤー15dを緩め、ワイヤー15iを牽引すると、図8Aに示した初期状態に戻る。この状態で採取すべき組織内に穿刺し、ワイヤー15iを緩めてワイヤー15dを牽引すると、図8Bに示したように、C字状に形成された線材15cが注射針状の開口12を横切るように回動させることができ、組織の深部を確実に切断することができるようになる。
【0079】
その後、ワイヤー15iを緩め、ワイヤー15dを牽引すると、C字状に形成された線材15cは逆方向に回動し、図8Aに示した最初の状態に戻る。この間に、ワイヤー15dの分岐ワイヤー部15e、15f及びワイヤー15iの分岐ワイヤー部15g、15hは、ともに注射針状の開口12を横切ることがないようにできるので、これらのワイヤー15dの牽引操作及び15iの牽引操作操作を相互に繰り返すことにより、複数回にわたって効率よくC字状に形成された線材15cを回動させることができるので、組織の深部をより確実に切断することができるようになる。
【0080】
また、実施形態8の生検針10Gにおいても、ワイヤー15d及びワイヤー15iのそれぞれC字状に形成された線材15c側を2分岐することにより分岐ワイヤー部15e、15f及び分岐ワイヤー部15g、15hを形成した例を示したが、それぞれ独立した2本のワイヤーをC字状に形成された線材15cの中間の2箇所の支持部16c、16dに回動自在に取り付け、一方の2本を貫通孔13b、13cを通した後、他方の2本はそのまま、中空円筒状の針部11Bの後端よりもさらに延在するように配置してもよい。
【0081】
[実施形態9]
実施形態9の生検針10Hを図9を用いて説明する。なお、図9Aは実施形態9の生検針の平面図であり、図9Bは側面図であり、図9Cは切断手段を作動させた際の側面図である。また、図9においては、実施形態1の生検針10と同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略する。
【0082】
実施形態9の生検針10Hの針部11Cは、実施形態1〜8のような中空円筒状とは異なり、中空四角筒状をしている。この中空四角筒状の針部11Cの一方側の端部には、端部が斜めに切断された注射針形状の開口12が形成されており、また、この注射針形状の開口12の両側端側の壁にはそれぞれ互いに対向するように溝11cが形成されている。そして、これらの溝11c内には、箔片状のプラスチックシート15jの一方側の端部の両側端が嵌合されており、これにより箔片状のプラスチックシート15jが溝11c内を摺動可能に取り付けられている。
【0083】
また、開口12の先端側の両側端には、一対の貫通孔13d及び13eが形成されており、ワイヤー15dの一方側の端部は2分岐されて一対の分岐ワイヤー部15e、15fが形成されている。これらの一対の分岐ワイヤー部15e、15fは、それぞれ貫通孔13d、13eを通されて、箔片状のプラスチックシート15jの一方側の端部の両側端に設けられた結合部16e、16fに接続されている。ワイヤー15dの他方側の端部は中空四角筒状の針部11Cの外周に沿って、中空四角筒状の針部11Cの後端よりも延在するように配置されている。
【0084】
箔片状のプラスチックシート15jの一方側の端部は注射針形状の開口12が最大限に開く位置とした状態(図8A及び図8B参照)で、内針を用いて、あるいは内針を用いることなく、採取すべき組織内に穿刺すると、例えば図2に示した実施形態1の生検針10の場合と同様に、組織の一部が中空円筒状の針部11C内に入り込む。
【0085】
ここで、ワイヤー15dを牽引すると、ワイヤー15dは図8B及び図8Cに示した矢印方向に動き、箔片状のプラスチックシート15jが注射針形状の開口12面に沿って移動する。その結果、図9Cに示したように箔片状のプラスチックシート15jが注射針形状の開口12の先端側を閉止するようになる。このような箔片状のプラスチックシート15jの摺動の間に注射針形状の開口12部分に位置していた組織が切断される。すなわち、実施形態9の生検針10Hにおいては、箔片状のプラスチックシート15jが本発明の切断手段に対応する。
【0086】
その後、生検針10Hを箔片状のプラスチックシート15j及びワイヤー15dとともに引き抜くと、組織の深部が切断されているため、図2Eに示した実施形態1の生検針10の場合と同様に、採取された標本は中空円筒状の針部11C内に留まったまま採取される。
【0087】
なお、実施形態9の生検針10Hにおいては、実施形態6における貫通孔13aと同様、ワイヤー15dの分岐ワイヤー部15e、15fがスムーズに摺動できるように、貫通孔13d、13eに滑車等を更に設けてもよい。また、箔片状のプラスチックシート15jは、ワイヤー15dによって牽引された際に結合部16e、16fが変形し難いとともに溝11c内を摺動することができ、かつ組織を切断する必要があるため、可撓性を有するとともにある程度剛性が大きいものを用いることが好ましい。
【0088】
また、実施形態9の生検針10Hにおいても、実施形態8の生検針10Gの場合と同様に、さらに2分岐した一対の分岐ワイヤー部を有する別個のワイヤーを設け、このワイヤーを空円筒状の針部11Cの後端よりもさらに延在するように配置してもよい。このような構成を備えていると、箔片状のプラスチックシート15jを往復動させることができるため、複数回にわたって効率よく組織の深部をより確実に切断することができるようになる。また、実施形態9の生検針10Hにおいても、ワイヤー15dや、さらに別個のワイヤーを用いる場合においてはこの別個のワイヤーとして独立した2本のワイヤーを用いてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10、10A〜10H…生検針
11、11A〜11C…針部
11a、11b…開孔
11c…溝
12…開口
12a…開口の壁
12b…フック状部
13、13a〜13e…貫通孔
14…貫通孔
15、15a、15b…糸
15c…C字状の線材
15d…ワイヤー
15e〜15h…分岐ワイヤー部
15i…ワイヤー
15j…プラスチックシート
16a…接着部
16b、16c…支持部
16e、16f…結合部
17…針基
18…貫通孔
20…内針
21…組織
21a…組織
21b…深部
22…標本
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11