特許第6183875号(P6183875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183875多孔質炭素繊維シート状物の検査方法および検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183875
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】多孔質炭素繊維シート状物の検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20170814BHJP
   G01N 21/894 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   G01N21/892 A
   G01N21/894 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-25736(P2012-25736)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-160745(P2013-160745A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年2月3日
【審判番号】不服2016-11097(P2016-11097/J1)
【審判請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡野 保高
【合議体】
【審判長】 郡山 順
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−195952(JP,A)
【文献】 特開2011−85468(JP,A)
【文献】 特開2010−272250(JP,A)
【文献】 特開2003−156451(JP,A)
【文献】 特開2010−85166(JP,A)
【文献】 特開平4−34068(JP,A)
【文献】 特開2006−40886(JP,A)
【文献】 特開2006−40885(JP,A)
【文献】 特開2008−89534(JP,A)
【文献】 特開2005−265467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/84-21/958, H01M4/96, B29C70/00-70/88, C08J5/04, D01F9/12-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダム分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなり、連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の検査方法であって、少なくとも次の(a)〜(d)の手段を備えることを特徴とする多孔質炭素繊維シート状物の検査方法。
(a)前記シート状物に光を照射する照明手段、
(b)前記照明手段による反射光を受光する撮像手段、
(c)前記撮像手段によって得られた画像データを以下の各データ処理手段により処理するデータ処理手段、
(c−1)前記撮像手段により得られた画像データから、欠点候補を抽出する第1のデータ処理手段、
(c−2)前記第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の画像データから、最小輝度値、最大輝度値、面積、円形度を特徴量として算出する第2のデータ処理手段、
(d)前記データ処理手段により得られた前記特徴量により、欠点を抽出し、前記欠点の特徴に応じて予め最適な特徴量を選択し、閾値を設定して比較することにより、樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落を分別するデータ分別手段。
【請求項2】
前記撮像手段が、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対して前記照明手段と同じ側に位置し、かつ、前記撮像手段が前記照明手段により多孔質炭素繊維シート状物の表面で生じる正反射光または散乱光を受光する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法。
【請求項3】
多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度θ1と、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2は、0°<θ1≦15°、0°≦θ2≦15°であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法。
【請求項4】
ランダム分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなり、連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の検査装置であって、少なくとも次の(a)〜(d)の手段を備えることを特徴とする多孔質炭素繊維シート状物の検査装置。
(a)前記シート状物に光を照射する照明手段、
(b)前記照明手段による反射光を受光する撮像手段、
(c)前記撮像手段によって得られた画像データを以下の各データ処理手段により処理するデータ処理手段、
(c−1)前記撮像手段により得られた画像データから、欠点候補を抽出する第1のデータ処理手段、
(c−2)前記第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の画像データから、最小輝度値、最大輝度値、面積、円形度を特徴量として算出する第2のデータ処理手段、
(d)前記データ処理手段により得られた前記特徴量により、欠点を抽出し、前記欠点の特徴に応じて予め最適な特徴量を選択し、閾値を設定して比較することにより、樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落を分別するデータ分別手段。
【請求項5】
前記撮像手段が、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対して前記照明手段と同じ側に位置し、かつ、前記撮像手段が前記照明手段により多孔質炭素繊維シート状物の表面で生じる正反射光または散乱光を受光する位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の多孔質炭素繊維シート状物の検査装置。
【請求項6】
多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度θ1と、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2は、0°<θ1≦15°、0°≦θ2≦15°であることを特徴とする請求項4または5に記載の多孔質炭素繊維シート状物の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素短繊維と炭化樹脂からなり連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の外観欠点を光学的手法で自動的に検査する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題に関し、さまざまな開発が行われている。その中でも発電効率が高いことによるCO削減や、排出物が水だけであることなどの特徴を活かした燃料電池が注目を浴びている。
【0003】
燃料電池は主に電解質膜を中心として、触媒、電極、セパレータにより構成されており、電極基材として多孔質炭素繊維シート状物が用いられている。
【0004】
これら電極基材に用いられる多孔質炭素繊維シート状物においては、製造の間に発生するさまざまな欠点が電極基材としたときに悪影響を及ぼし本来要求される機能を十分に発揮できなくなるという問題がある。ここでいう欠点は、例えば、製造工程に浮遊する不純物などが付着したり、炭化樹脂の含浸量が不均一であったり、炭素短繊維が分散せずに束となって固まったりすることで発生する。
【0005】
そこで、多孔質炭素繊維シート状物に発生したさまざまな欠点を検出するために外観検査が行われている。しかしながら、従来、多孔質炭素繊維シート状物の製造工程で繰り返し行われる検査は、人間の目視検査によって行われており、検査員の負担が大きく、検査員によって個人差があるために、検査結果がばらついてしまい、定量的かつ精度よく外観検査を行うことができないという問題があった。
【0006】
そのため、省人化、精度向上、欠点流出防止などを目的とした外観自動検査技術の導入が求められている。例えば、特許文献1には、連続する多孔質電極基材の光学的手法による外観自動検査が提案されている。この技術は、多孔質電極基材の表面に照明手段により光を照射し、その透過光、正反射光及び散乱光を撮像手段により撮像し、それらの撮像データを画像処理部にて解析し、その欠陥の種類、存在位置及び大きさを判定することを主たる特徴としている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において、特徴が異なる複数種類の欠点をすべて検出するには、透過光、正反射光および散乱光を受光するために少なくとも3つの撮像手段や照明手段が必要となり、検査装置のコストが増大することや検査装置の設置スペースが増大するなどの問題があった。
【0008】
また、撮像データを解析する画像処理手段については、隣接する複数の画素によって構成される欠点検出用ブロック内の各画素の濃度値を積算して積算値を算出し、その積算値と所定の閾値とを比較することにより欠点を検出するが、特徴が異なる複数種類の欠点に対して、濃淡値という1つの特徴でしか欠点検出の判別をしていないために、検出精度が落ちるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−272250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消するためになされたもので、炭素短繊維と炭化樹脂からなり連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の外観欠点を光学的手法で自動的に検査し、特徴が異なる複数種類の欠点を定量的かつ精度よく検出する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明における検査方法については次の構成を採用する。すなわち、ランダム分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなり、連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の検査方法であって、少なくとも次の(a)〜(d)の手段を備えることを特徴とする多孔質炭素繊維シート状物の検査方法である。
(a)前記シート状物に光を照射する照明手段、
(b)前記照明手段による反射光を受光する撮像手段、
(c)前記撮像手段によって得られた画像データを以下の各データ処理手段により処理するデータ処理手段、
(c−1)前記撮像手段により得られた画像データから、欠点候補を抽出する第1のデータ処理手段、
(c−2)前記第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の画像データから、最小輝度値、最大輝度値、面積、円形度を特徴量として算出する第2のデータ処理手段、
(d)前記データ処理手段により得られた前記特徴量により、欠点を抽出し、前記欠点の特徴に応じて予め最適な特徴量を選択し、閾値を設定して比較することにより、樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落を分別するデータ分別手段。
【0013】
本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法において、前記撮像手段が、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対して前記照明手段と同じ側に位置し、かつ、前記撮像手段が前記照明手段により多孔質炭素繊維シート状物の表面で生じる正反射光または散乱光を受光する位置に設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法において、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度θ1と、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2は、0°<θ1≦15°、0°≦θ2≦15°であることが好ましい。
【0017】
また、本発明における検査装置については次の構成を採用する。すなわち、ランダム分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなり、連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の検査装置であって、少なくとも次の(a)〜(d)の手段を備えることを特徴とする多孔質炭素繊維シート状物の検査装置である。
(a)前記シート状物に光を照射する照明手段、
(b)前記照明手段による反射光を受光する撮像手段、
(c)前記撮像手段によって得られた画像データを以下の各データ処理手段により処理するデータ処理手段、
(c−1)前記撮像手段により得られた画像データから、欠点候補を抽出する第1のデータ処理手段、
(c−2)前記第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の画像データから、最小輝度値、最大輝度値、面積、円形度を特徴量として算出する第2のデータ処理手段、
(d)前記データ処理手段により得られた前記特徴量により、欠点を抽出し、前記欠点の特徴に応じて予め最適な特徴量を選択し、閾値を設定して比較することにより、樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落を分別するデータ分別手段。
【0019】
本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査装置において、前記撮像手段が、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対して前記照明手段と同じ側に位置し、かつ、前記撮像手段が前記照明手段により多孔質炭素繊維シート状物の表面で生じる正反射光または散乱光を受光する位置に設けられていることが好ましい。
【0020】
本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査装置において、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度θ1と、多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2は、0°<θ1≦15°、0°≦θ2≦15°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、炭素短繊維と炭化樹脂からなり連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物において、特徴が異なる複数種類の欠点を定量的かつ精度よく検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法の実施に用いられる検査装置の概略図である。
図2】本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法の実施に用いられる検査装置の側面図である。
図3】(a)は、多孔質炭素繊維シート状物の画像データであり、(b)は、照明手段および撮像手段の角度と輝度ばらつきの関係を示す図である。
図4】多孔質炭素繊維シート状物の表面に対して、照明手段から光を照射したときの表面状態の模式図である。
図5】(a)は、多孔質炭素繊維シート状物の画像データあり、(b)は、照明手段および撮像手段の角度と輝度ばらつきの関係を示す図である。
図6】本発明の多孔質炭素繊維シート状物の検査方法の実施に用いられるデータ処理手段およびデータ分別手段の概略図である。
図7】本発明の検出対象となる各欠点の画像データである。なお、(a)が樹脂不足、(b)が樹脂過多、(c)が異物付着、(d)が汚れ付着、(e)が短繊維の凝集、(f)がピンホール、(g)が破れ、(h)が端部の欠落である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
まず始めに、本発明の検査対象である多孔質炭素繊維シート状物について説明する。多孔質炭素繊維シート状物としては、炭素短繊維を含む短繊維を抄造したシート状物、炭素繊維を含む織編物や不織布、あるいは炭素繊維を一方向または多方向に引き揃えたシート状物などに、マトリックス樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物などが挙げられる。さらに、前記炭素繊維シート状物を不活性雰囲気中で炭素化して得られる多孔質炭素シート状物などが挙げられるが、炭素繊維以外の繊維強化プラスチックのシート状物や、フィルム、織物、不織布、紙など多孔質炭素繊維シート状物の材質に特段の制限はない。特に分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物は、曲げ弾性率が高く、静摩擦係数が高く、脆い性質を有するので、巻取り装置と、その巻取り体の製造方法を適用することが好ましい。ここで、分散した状態とは、炭素短繊維がシート面内において顕著な配向を持たず概ねランダムに、例えば、無作為な方向に存在している状態であることが多い。炭素短繊維の繊維長は、3〜20mmが好ましく、さらに好ましくは5〜15mmである。炭素短繊維の繊維長を上記範囲とすることにより、炭素短繊維を分散させ抄紙して炭素繊維シートを得る際に、炭素短繊維の分散性を向上させ、目付ばらつきを抑制することができる。
【0027】
また、検査対象である多孔質炭素繊維シート状物に発生する欠点の種類には、樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落などが挙げられる。ここで、各欠点について簡単に説明する。
【0028】
樹脂不足は、多孔質炭素繊維シート状物の正常部よりも炭化樹脂の含浸量が少なくなっている箇所であり黒く見える。
【0029】
樹脂過多は、多孔質炭素繊維シート状物の正常部よりも炭化樹脂の含浸量が多くなっている箇所であり白く見える。
【0030】
異物付着および汚れ付着は、製造工程に浮遊する不純物などが付着した箇所であり黒く見える。
【0031】
短繊維の凝集は、炭素短繊維を抄紙する工程で炭素短繊維の分散が十分でなく束となって固まっている箇所であり白く見える。
【0032】
ピンホールは、製造工程に浮遊する不純物などが付着し、それが反応し穴が開いてしまっている箇所である。
【0033】
破れは、多孔質炭素繊維シート状物を搬送する際の張力変動などにより破れてしまっている箇所である。
【0034】
端部の欠落は、多孔質炭素繊維シート状物の端部が欠けてなくなってしまっている箇所である。
【0035】
また、これらの欠点は、発生状況や後工程への影響などの違いから欠点検出の優先度が異なるため、各欠点を分別して検出することが好ましい。特に、ピンホール、破れ、端部の欠落などの多孔質炭素繊維シート状物を貫通して発生している欠点については、多孔質炭素繊維シート状物を搬送する際に、欠点箇所を起点として多孔質炭層繊維シート状物が破断してしまう恐れがあり、生産効率に与える影響が大きく、他の欠点に比べて欠点検出の優先度が高いため、これらを他の欠点とは分別して検出することが好ましい。
【0036】
ここからは本発明における検査方法および装置について説明する。図1および図2には、多孔質炭素繊維シート状物6の検査方法に好適に用いられる検査装置の概略が示されている。多孔質炭素繊維シート状物6は、矢印Aで示す多孔質炭素繊維シート状物6の長手方向MDに沿って搬送される。多孔質炭素繊維シート状物6上方の所定位置には、多孔質炭素繊維シート状物6に対して所定角度で多孔質炭素繊維シート状物6の表面へ光を照射するように、照明手段1が配置されている。さらに、照明手段1と同じ側に多孔質炭素繊維シート状物6の表面で生じる反射光を受光するように、撮像手段2が配置されている。撮像手段2で撮像された画像は、画像入力手段3へ入力され、さらに、画像解析手段4にて解析および欠点判定が実施される。画像解析手段4にて解析および判定された結果は、画像記憶手段5にて保存される。
【0037】
本発明における照明手段1が多孔質炭素繊維シート状物6の表面に光を照射する角度は、図2に示すように、後述の撮像手段2へ正反射または散乱する角度で光を照射することが好ましい。特に、多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する照明手段1の垂直方向からの角度θ1は、後述するように、0°〜15°であることが好ましい。
【0038】
また、照明手段1は、照射面がライン状または平面状の形状を有し、多孔質炭素繊維シート状物6の長手方向MDに直交する位置であることや、多孔質炭素繊維シート状物6の幅方向TDを覆う位置に配置されていることが好ましい。これは、多孔質炭素繊維シート状物6の幅方向TDを同時に検査する場合、スポット状の照明を幅方向TDに並べて配置するよりも、照射面がライン状または平面状の照明を多孔質炭素繊維シート状物6の長手方向MDに直交する位置に配置した方が、均一に多孔質炭素繊維シート状物6の表面に光を照射することができ、照明ムラによる検出精度の低下を防ぐことができるためである。
【0039】
本発明における撮像手段2は、多孔質炭素繊維シート状物6に対して照明手段1と同じ側に、多孔質炭素繊維シート状物6の表面で生じる正反射光または散乱光を受光するように配置されている。本検査方法では、照明手段1から多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対して光を照射し、多孔質炭素繊維シート状物6の表面で生じた正反射光または散乱光によって多孔質炭素繊維シート状物6の表面画像を撮像手段2で撮像する。これにより、多孔質炭素繊維シート状物6の所定範囲の画像データを得ることができる。撮像手段2としては、例えばCCDラインセンサカメラ等を用いることが好ましい。また、多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する撮像手段2の垂直方向からの角度θ2は、後述するように、0°〜15°であることが好ましい。
【0040】
ここで、多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する照明手段1の垂直方向からの角度θ1および多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する撮像手段2の垂直方向からの角度θ2の範囲について詳しく説明する。
【0041】
図3(a)に多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する照明手段1の垂直方向からの角度θ1および多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2について、いくつかの水準を設けて多孔質炭素繊維シート状物6の正常部を撮像して得られた画像データを、図3(b)に各水準における角度と輝度ばらつきの関係を示す。なお、画像データ31aは、角度θ1=角度θ2=15°のとき、画像データ32aは、角度θ1=角度θ2=30°のとき、画像データ33aは、角度θ1=角度θ2=45°のとき、画像データ34aは、角度θ1=角度θ2=60°のときの正常部の画像データである。また、図3(b)の各プロット点における輝度ばらつきの値は、31a=14.0、32b=22.2、33b=23.6、34b=23.7である。
【0042】
ここで、輝度ばらつきとは、画像データ全体における各画素の輝度値の標準偏差であり、これが多くなればなるほど正常部の輝度ムラが大きいことを表す。すなわち、輝度ばらつきが小さければ小さいほど、正常部の輝度ムラの影響を受けずに、多孔質炭素繊維シート状物6を撮像することができ、後述のデータ処理手段およびデータ分別手段においても正常部の輝度ムラを抑えるための複雑な処理を必要とせずに精度よく欠点検出することが可能になる。また、複雑な処理を必要としないためにデータ処理手段およびデータ分別手段の処理時間の短縮も可能になる。
【0043】
図3(b)に示すように、プロット点31b(このときの画像データは図3(a)の画像データ31aにあたる)を境に角度が大きくなるにつれて、輝度ばらつきが大きくなっていることがわかる。これは、多孔質炭素繊維シート状物6の表面状態と深く関係している。図4に多孔質炭素繊維シート状物6の表面に対して、照明手段1から光を照射したときの表面の様子を模式図で示す。図4(a)に示すように、照明手段1の角度θ1が大きいとき、多孔質炭素繊維シート状物6の表面には、照明手段1からの照射光41aにより繊維42aの影43aが生じる。一方、図4(b)に示すように、照明手段1の角度θ1が小さいとき、多孔質炭素繊維シート状物6の表面には、照明手段1からの照射光41bにより繊維42bの影43bが生じる。ここで、図4(a)および図4(b)の影43a、43bに着目する。図4(a)では繊維42aの影43aが大きく生じやすくなる。これにより、繊維42aと影43aとの間で輝度コントラストが大きくなるため、正常部の輝度ばらつきが大きくなり、正常部の輝度ムラも大きくなる。一方、図4(b)では繊維42bの影43bが生じにくくなる。これにより、繊維42bと影43bとの間で輝度コントラストが小さくなるため、正常部の輝度ばらつきが小さくなり、正常部の輝度ムラも小さくなる。したがって、照明手段1の角度θ1および撮像手段2の角度θ2を小さくするように照明手段1および撮像手段2を設けることが好ましい。
【0044】
さらにθが小さい範囲における散乱光についても検討する。図5には、照明手段1の角度θ1=10°、撮像手段2の角度θ2=0°のときの画像データを示す。この画像データ51aにおける輝度ばらつきは、図3(b)のプロット点31bよりも小さい値のプロット点51b=9.4となり、図3(b)の傾向と合致する。したがって、照明手段1の角度θ1および撮像手段2の角度θ2が0〜15°の範囲においては、撮像手段2が受光する多孔質炭素繊維シート状物6の表面で生じる光として散乱光をサンプリングしても、正反射光と同様に画像データから得られる輝度ばらつきを判断指標として用いることができる。
【0045】
これらの結果から、照明手段1の角度θ1および撮像手段2の角度θ2は、0〜15°であることが好ましく、さらに好ましくは、0〜10°である。
【0046】
本発明におけるデータ処理手段およびデータ分別手段について説明するにあたり、画像入力、画像解析、画像記憶の流れを簡単に説明する。
【0047】
画像入力手段3は、照明手段1によって照明された多孔質炭素繊維シート状物6を、撮像手段2で撮像して得られた画像データを順次入力する。
【0048】
画像入力手段3に入力された画像データは、画像解析手段4に供給されて時系列に解析処理される(この解析処理に本発明のデータ処理手段およびデータ分別手段が適用される)。そして、画像解析手段4での解析結果、解析結果をもとにした不具合の発生の有無、不具合の種類、およびその発生位置が検出されて、解析が終了する。
【0049】
解析が終了すると、画像記憶手段5へ入力され、画像解析手段4にて解析・判定された情報が保存される。なお、解析(検出)処理の方法および結果判定の方法については後述する。
【0050】
前述のように照明、撮影、解析、および結果判定、保存の一連の検査が繰り返されて、多孔質炭素繊維シート状物6の長手方向MDに対して連続した自動検査が行われる。また、本検査方法では、検査対象である多孔質炭素繊維シート状物6の表面における樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落を含む欠点の少なくとも1つ以上を検出することができる。
【0051】
本発明における画像解析手段4は、図6に示すように、第1のデータ処理手段61、第2のデータ処理手段62、データ分別手段63から構成される。
【0052】
第1のデータ処理手段61とは、撮像手段2により得られた画像データから、欠点候補を抽出するデータ処理手段である。
【0053】
第2のデータ処理手段62とは、第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の画像データから、欠点候補の特徴量を算出するデータ処理手段である。
【0054】
データ処分別手段63とは、第2のデータ処理手段により得られた欠点候補の特徴量から、欠点を抽出し、分別するデータ分別手段である。
【0055】
ここで、画像解析手段4における各データ処理手段およびデータ分別について詳しく説明する。
【0056】
まず、第1のデータ処理手段61では、撮像手段2により得られた画像データから、欠点候補を抽出する。ここでいう撮像手段2により得られた画像データには、検出対象となる欠点候補以外のもの(例えば、撮像領域の背景など)が含まれている可能性があるため、この画像データから検出対象となる欠点候補のみを抽出する処理を実施する。このような抽出処理には、一般的に2値化があり、予め設定した明るさ(閾値)よりも画像データ中の画素が明るければ明部データ、暗ければ暗部データとして抽出する。
【0057】
本発明である多孔質炭素繊維シート状物6の検査方法では、照明手段1から照射された光を反射光として撮像手段2で受光することで、欠点候補を背景よりも明るく、もしくは暗く撮像することができるため、2値化処理を適用することができる。このような処理を画像データ中の全画素で実施することで、欠点候補を明部データ、もしくは暗部データとして抽出する。
【0058】
また、画像データにノイズ(例えば、ゴマ塩ノイズと呼ばれるゴマを散らしたような転々としたノイズなど)が含まれる場合には、前述の抽出処理を実施する前に、平均化フィルタ、ガウスフィルタやメディアンフィルタなどのフィルタ処理を実施して、欠点候補を明部データ、もしくは暗部データとして、より抽出しやすいようにノイズを低減することが好ましい。
【0059】
第2のデータ処理手段62では、第1のデータ処理手段61により得られた欠点候補の画像データから、欠点候補の特徴量を算出する。ここでいう特徴量には、代表的なものとして、重心、外接長方形、面積、周囲長、円形度がある。各特徴量について簡単に説明する。重心は、抽出された領域中の画素に等しい重さがあると仮定したときの領域全体の重さの中心である。外接長方形は、抽出された領域に接する最小の長方形で、領域の大まかな大きさを知るために用いる。面積は、抽出された領域を構成する画素の数である。周囲長は、抽出された領域の周囲の画素数である。円形度は、抽出された領域がどれだけ円に近いかを表すもので、面積をS、周囲長をLとしたとき、4πS/Lで求められる。対象が円のとき、円形度は最大で1となり、円から離れれば離れるほど値は小さくなる。このような特徴量を算出し、後述のデータ分別手段での抽出、分別処理に用いる。本発明において多孔質炭素繊維シート状物6に生じる欠点は、それぞれ特徴が異なっているため、各欠点に適した特徴量を1種類、もしくは複数種類組み合わせて適用することにより、欠点の検出精度を向上させることが可能になる。
【0060】
また、前述の特徴量は抽出された領域を構成する画素の形状的な特徴に着目したものだが、この他に抽出された領域を構成する画素の輝度値に着目した特徴量もあり、これを適用することもできる。代表的なものとして、最小輝度値、最大輝度値がある。最小輝度値は、抽出された領域を構成する画素の中で最も輝度が小さい値であり、最大輝度値は、抽出された領域を構成する画素の中で最も輝度が大きい値である。例えば、樹脂不足について言えば、この欠点は多孔質炭素繊維シート状物6の正常部よりも炭化樹脂の含浸量が少なくなっている箇所であり黒く見えるため、欠点箇所を構成する画素の輝度値は正常部を構成する画素の輝度値よりも小さくなるはずである。したがって、この場合には、最小輝度値を適用することが可能である。このようにして、輝度特徴量を適用することができ、これらを前述の形状特徴量と組み合わせて適用することにより、さらに欠点の検出精度を向上させることが可能になる。
【0061】
データ分別手段63では、第2のデータ処理手段62により得られた欠点候補の特徴量から、欠点を抽出し、分別する。第2のデータ処理手段62により算出された特徴量を予め設定した閾値と比較し、特徴量が閾値以上である、もしくは閾値以下であれば欠点であるとして抽出する。また、欠点毎に形状的特徴や輝度特徴が異なるため、検出すべき欠点の特徴に応じて予め最適な特徴量を選択し、閾値を設定して比較することにより、欠点候補を欠点毎に分別することが可能になる。例えば、ピンホールについて言えば、他の欠点よりも丸みを帯びた形状となっているため、特徴量として円形度を選択し、閾値を1に近い値(円に近いほど1に近い値となるため)に設定して比較することにより、他の欠点と精度よく分別することが可能になる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明する。この実施例において用いた多孔質炭素繊維シート状物の検査方法および装置の構成を以下に示す。
照明手段:LEDライン型照明(長さ900mm、CCS社製、HLND−900SW−R)
撮像手段:ラインセンサカメラ(7400画素、日本エレクトロセンサリデバイス社製、SuFi74)
画像解析手段:画像処理ライブラリHALCON(Ver.10.0.1、MVTec社製)
多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度θ1:10°
多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度θ2:0°
多孔質炭素繊維シート状物の表面と照明手段との距離WD1:1430mm
多孔質炭素繊維シート状物の表面と撮像手段との距離WD2:100mm
多孔質炭素繊維シート状物の搬送速度:5m/min
【0063】
上記の構成により、多孔質炭素繊維シート状物に含まれる樹脂不足、樹脂過多、異物付着、汚れ付着、短繊維の凝集、ピンホール、破れ、端部の欠落の各欠点を撮像し、得られた画像データに対して本発明のデータ処理手段およびデータ分別手段を実施した。なお、図7に各欠点の画像データを示す。
【0064】
第1のデータ処理手段として、2値化処理を実施した。各欠点の2値化処理の閾値は表1に示すように予め設定した。例えば、(a)樹脂不足の2値化閾値は45以下となっているが、これは画像データ中で輝度値が45以下の画素を暗部データとして抽出することを意味している。また、(b)樹脂過多の2値化閾値は90以上となっているが、これは画像データ中で輝度値が90以上の画素を明部データとして抽出することを意味している。
【0065】
【表1】
【0066】
次に、第2のデータ処理手段を実施し、第1のデータ処理手段により得られた欠点候補の特徴量を算出した。算出した特徴量は、面積、円形度、最小輝度値、最大輝度値の4種類とし、各欠点候補の特徴量の算出結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
最後に、データ分別手段を実施し、第2のデータ処理手段により得られた欠点候補の特徴量から、欠点を抽出し、分別する。表2を参照しながら適用する特徴量とその閾値を設定する。まず、特徴量として面積に着目すると、(c)異物付着および(g)破れが同じ値(682)になっている。したがって、特徴量として面積を適用すると、この2者を分別することができない。そこで、面積以外の特徴量に着目すると、円形度、最小輝度値については、すべての欠点候補において異なる値となっている。したがって、このふたつの特徴量のどちらかを適用し、表2に示す値を閾値として設定することにより、すべての欠点候補を分別することが可能となった。
【0069】
本実施例においては、1種類の特徴量のみを適用することですべての欠点候補を分別したが、多孔質炭素繊維シート状物の検査範囲(長手方向や幅方向の長さ)が広くなり、検出すべき欠点数が多くなると、1種類の特徴量のみではすべての欠点候補を精度よく分別するのが難しくなってくる。そのような場合には、複数種類の特徴量を組み合わせて適用することにより、すべての欠点候補をさらに精度よく分別することが可能となる。
【0070】
このように、従来の方法と比べて、複雑な処理を必要とすることなく、定量的かつ精度よくすべての欠点候補を分別することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1:照明手段
2:撮像手段
3:画像入力手段
4:画像解析手段
5:画像記憶手段
6:多孔質炭素繊維シート状物
A:多孔質炭素繊維シート状物の搬送方向
MD:多孔質炭素繊維シート状物の長手方向
TD:多孔質炭素繊維シート状物の幅方向
θ1:多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する照明手段の垂直方向からの角度
θ2:多孔質炭素繊維シート状物の表面に対する撮像手段の垂直方向からの角度
WD1:多孔質炭素繊維シート状物の表面と照明手段との距離
WD2:多孔質炭素繊維シート状物の表面と撮像手段との距離
31a、32a、33a、34a:多孔質炭素繊維シートの画像データ
31b、32b、33b、34b:グラフのプロット点
41a、41b:照射光
42a、42b:繊維
43a、43b:影
51a:多孔質炭素繊維シートの画像データ
51b:グラフのプロット点
61:第1のデータ処理手段
62:第2のデータ処理手段
63:データ分別手段
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、炭素短繊維と炭化樹脂からなり連続的に走行する多孔質炭素繊維シート状物の外観欠点を光学的手法で自動的に検査し、特徴が異なる複数種類の欠点を定量的かつ精度よく検出することができるという特性を有していることから、多孔質炭素繊維シート状物の製造工程における外観検査、品質管理に好適に用いることができるが、その応用範囲がこれに限られるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7