(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183884
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】放射線断層撮影装置および投影データ補正方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
A61B6/03 350K
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-42132(P2013-42132)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-168583(P2014-168583A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 祐次郎
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−300964(JP,A)
【文献】
特開2005−087618(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/058612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源と、
複数の検出素子が配列されている放射線検出器と、
前記複数の検出素子をその配列方向に区分するよう配列された複数のコリメータ板と、
前記放射線源および放射線検出器を被写体の周りに回転させながら前記放射線源から前記被写体に放射線を照射させてスキャンを実施する制御手段と、
前記スキャンの実施により前記放射線検出器の各検出素子にて得られた投影データに、該検出素子に入射した散乱線の成分を除去するための散乱線補正を行う補正手段と、を備えた放射線断層撮影装置であって、
前記補正手段は、前記放射線検出器の検出素子にて得られた投影データに、該投影データに基づいて決定される第1の補正値と、該検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値とを用いて散乱線補正を行い、
前記第1の補正値は、前記検出素子にて得られた投影データにおける散乱線の成分の割合を規定するものである、放射線断層撮影装置。
【請求項2】
前記第2の補正値は、前記検出素子におけるジオメトリックな散乱線入射率の相対値を規定するものである、請求項1に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項3】
前記第1の補正値は、前記検出素子にて得られた投影データに基づいて推定される、該投影データに対応した放射線の前記被写体内での経路長に基づいて決定される、請求項1または請求項2に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項4】
前記第1の補正値は、前記経路長の長さと対応付けされており、前記被写体としてファントムを用いたスキャンの実施により、前記放射線検出器の1または複数の検出素子にて得られた、放射線の前記ファントム内での経路長が互いに異なる複数の投影データに基づいて定められる、請求項3に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項5】
前記第2の補正値は、前記放射線検出器の検出素子の位置によって特定される、前記被写体の基準位置から該検出素子までの距離に基づいて定められる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項6】
前記被写体の基準位置は、前記放射線源および放射線検出器の回転中心である、請求項5に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項7】
前記第2の補正値は、前記距離が大きくなるほど、該第2の補正値を用いた補正による散乱線の成分の増大率がより大きくなるように定められる、請求項5または請求項6に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項8】
前記複数の検出素子は、少なくともチャネル方向に配列されており、
前記複数のコリメータ板は、チャネル方向に配列されている、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項9】
前記複数の検出素子は、前記放射線源から検出素子までの距離が実質的に同じになるようにチャネル方向に配列されている、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項10】
放射線源および放射線検出器を被写体の周りに回転させながら前記放射線源から前記被写体に放射線を照射するスキャンの実施により前記放射線検出器の各検出素子にて得られた投影データに、該検出素子に入射した散乱線の成分を除去するための散乱線補正を行う投影データ補正方法であって、
前記放射線検出器の検出素子にて得られた投影データに、該投影データに基づいて決定される第1の補正値と、該検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値とを用いて散乱線補正を行い、
前記第1の補正値は、前記検出素子にて得られた投影データにおける散乱線の成分の割合を規定するものである、投影データ補正方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項10に記載の投影データ補正方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線断層撮影装置における投影データ(data)の散乱線補正の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線断層撮影装置においては、放射線検出器で得られた投影データから、コリメータ(collimator)で除去しきれずに放射線検出器に入射した散乱線の成分を差し引く散乱線補正が行われている。
【0003】
一方、放射線検出器における投影データを得るための検出素子には、直接線と散乱線とがともに入射し得るが、直接線と散乱線とは、検出素子への入射角度以外で区別することが難しいため、散乱線の成分を直接的に測定することができない。
【0004】
そこで、実際には、各検出素子の散乱線成分が特定のパラメータ(parameter)に依存するという散乱線入射モデル(model)を作り、このモデルに基づいて各検出素子で得られた投影データの散乱線の成分を推定している(特許文献1,要約等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−87588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この散乱線入射モデルは、通常、個々の検出素子に入射する散乱線について、放射線源と放射線検出器との位置関係等のシステム(system)構成による影響、言わば、“検出素子間のジオメトリック(geometric)な散乱線入射率の変動”はないものと仮定して作られる。すなわち、検出素子およびコリメータ板の形状、性質、位置関係などを一定とし、被写体の構造や形状など被写体に係る条件を無視した場合、検出素子の位置によって散乱線が入射する確率は変化しないことを想定している。
【0007】
しかしながら、実際には、検出素子の位置によって、被写体の基準位置、例えばアイソセンタ(iso-center)から検出素子までの距離が異なり、検出素子に入射可能な散乱線の発生領域の広さが変化するため、検出素子間のジオメトリックな散乱線入射率は一定ではない。これは、ちょうど、壁に懐中電灯の光を当てて、壁から懐中電灯までの距離を変化させると、壁に当たった光の領域の広さが変化するのに似ている。壁を被写体、懐中電灯を検出素子、壁に当たった光の領域を散乱線の発生領域に対応させて考えると、上記の現象が理解しやすい。
【0008】
したがって、従来の散乱線入射モデルを用いた散乱線補正では、検出素子によってジオメトリックな散乱線入射率が一定でないことを考慮しておらず、その精度に改善の余地が残されている。
【0009】
このような事情により、放射線断層撮影装置における、検出素子間のジオメトリックな散乱線入射率を考慮していない散乱線補正において、補正の精度を高めることができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点の発明は、
放射線源と、
複数の検出素子が配列されている放射線検出器と、
前記複数の検出素子をその配列方向に区分するよう配列された複数のコリメータ板と、
前記放射線源および放射線検出器を被写体の周りに回転させながら前記放射線源から前記被写体に放射線を照射させてスキャン(scan)を実施する制御手段と、
前記スキャンの実施により前記放射線検出器の各検出素子にて得られた投影データに、該検出素子に入射した散乱線の成分を除去するための散乱線補正を行う補正手段と、を備えた放射線断層撮影装置であって、
前記補正手段が、前記放射線検出器の検出素子にて得られた投影データに、該投影データに基づいて決定される第1の補正値と、該検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値とを用いて散乱線補正を行う、放射線断層撮影装置を提供する。
【0011】
第2の観点の発明は、
前記第1の補正値が、前記検出素子にて得られた投影データにおける散乱線の成分の割合を規定するものである、上記第1の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0012】
第3の観点の発明は、
前記第2の補正値が、前記検出素子におけるジオメトリックな散乱線入射率の相対値を規定するものである、上記第2の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0013】
第4の観点の発明は、
前記第1の補正値が、前記検出素子にて得られた投影データに基づいて推定される、該投影データに対応した放射線の前記被写体内での経路長に基づいて決定される、上記第1の観点から第3の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0014】
第5の観点の発明は、
前記第1の補正値が、前記経路長の長さと対応付けされており、前記被写体としてファントム(phantom)を用いたスキャンの実施により、前記放射線検出器の1または複数の検出素子にて得られた、放射線の前記ファントム内での経路長が互いに異なる複数の投影データに基づいて定められる、上記第4の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0015】
第6の観点の発明は、
前記第2の補正値が、前記放射線検出器の検出素子の位置によって特定される、前記被写体の基準位置から該検出素子までの距離に基づいて定められる、上記第1の観点から第5の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0016】
第7の観点の発明は、
前記被写体の基準位置が、前記放射線源および放射線検出器の回転中心である、上記第6の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0017】
第8の観点の発明は、
前記第2の補正値が、前記距離が大きくなるほど、該第2の補正値を用いた補正による散乱線の成分の増大率がより大きくなるように定められる、上記第6の観点または第7の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0018】
第9の観点の発明は、
前記複数の検出素子が、少なくともチャネル(channel)方向に配列されており、
前記複数のコリメータ板が、チャネル方向に配列されている、上記第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0019】
第10の観点の発明は、
前記複数の検出素子が、前記放射線源から検出素子までの距離が実質的に同じになるようにチャネル方向に配列されている、上記第1の観点から第9の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0020】
第11の観点の発明は、
放射線源および放射線検出器を被写体の周りに回転させながら前記放射線源から前記被写体に放射線を照射するスキャンの実施により前記放射線検出器の各検出素子にて得られた投影データに、該検出素子に入射した散乱線の成分を除去するための散乱線補正を行う投影データ補正方法であって、
前記放射線検出器の検出素子にて得られた投影データに、該投影データに基づいて決定される第1の補正値と、該検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値とを用いて散乱線補正を行う、投影データ補正方法を提供する。
【0021】
第12の観点の発明は、
コンピュータ(computer)に、上記第11の観点の投影データ補正方法を実行させるためのプログラム(program)を提供する。
【発明の効果】
【0022】
上記観点の発明によれば、検出素子にて得られた投影データに基づいて決定される第1の補正値に加え、検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値を用いて散乱線補正を行うので、検出素子間でジオメトリックな散乱線入射率が一定でないことを考慮して補正することができ、検出素子間のジオメトリックな散乱線入射率を考慮していない散乱線補正において、補正の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係るX線CT装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】第1の補正テーブル(table)を表すグラフ(graph)である。
【
図3】検出素子の位置によって検出される散乱線の発生領域の広さが異なる様子を概念的に示す図である。
【
図4】検出素子の位置によって検出される散乱線の発生領域の広さがどの程度変化するかを説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係るX線CT装置1の断層像生成処理のフローチャート(flowchart)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0025】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置の要部構成を示すブロック(block)図である。
【0026】
X線CT装置1は、X線管11、アパーチャ(aperture)12、X線検出器13、およびコリメータ14を備えている。
【0027】
X線管11は、X線焦点11fから被検体20にX線を照射する。
【0028】
アパーチャ12は、X線管11と被検体20との間に設けられている。アパーチャ12は、X線管11から照射されたX線を、ファン角θで広がる扇形のファンビーム(fan-beam)に成形する。
【0029】
X線検出器13は、被検体20を挟むようにX線管11と対向して配置されている。X線検出器13は、X線管11から照射され、被検体20を透過したX線を検出する。X線検出器13の検出面は、X線管11の焦点11fから検出面上の各位置までの距離がほぼ一定となるように湾曲形成されている。X線検出器13は、チャネル方向および列方向に2次元的に配列された複数の検出素子131を有している。チャネル方向は、照射されるファンビームX線のファン角θ(広がり)方向、列方向はその厚み方向である。なお、ここでは、検出素子131のチャネル方向における位置を示す番号をチャネル番号i(i=1〜imax)、列方向における位置を示す番号を列番号j(j=1〜jmax)で表す。
【0030】
コリメータ14は、X線検出器13のX線入射側に設けられている。コリメータ14は、いわゆるペイシェント・コリメータ(patient collimator)であり、被検体20を透過したX線のうち、直接線はX線検出器13への入射を許し、散乱線は除去されるように機能する。コリメータ14は、複数の検出素子131をチャネル方向に区分するよう、それぞれが検出素子の境界に設けられた複数のコリメータ板141を有している。複数のコリメータ板141は、それぞれ、その板面がX線の照射方向に沿うような向きで設置されている。
【0031】
X線管11およびX線検出器13は、互いの位置関係を維持したまま回転することができるよう支持されている。X線管11の焦点11fおよびX線検出器13の回転中心は、アイソセンタ30である。アイソセンタ30は、撮像視野の中心となる。そのため、一般的に、被検体20は、その体軸がアイソセンタ30と略一致するように、不図示の撮影テーブル上に載置される。つまり、アイソセンタ30は、被検体20の基準位置の一例と考えることができる。
【0032】
X線CT装置1は、X線管11およびX線検出器13を回転させ、X線管11の焦点11fからX線を被検体20に照射し、X線検出器13で被検体20の透過X線を検出することにより、スキャンを実施する。
【0033】
X線CT装置1は、さらに、DAS(Data Acquisition
System)15、記憶部16、および演算・制御部17を備えている。
【0034】
DAS15は、X線検出器13が検出したX線強度のアナログデータ(analog
data)をデジタルデータ(digital data)に変換して収集する。
【0035】
記憶部16は、スキャンによって得られた投影データの散乱線補正に用いる第1および第2の補正テーブルT1,T2を記憶している。第1の補正テーブルT1は、第1の補正値Aを定めるものであり、第2の補正テーブルT2は、第2の補正値Bを定めるものである。第1の補正値Aは、検出素子131にて得られた投影データに基づいて決定されるものであり、本例では、検出素子131にて得られた投影データにおける散乱線の成分の割合を規定するものである。また、第2の補正値Bは、検出素子131の位置に基づいて決定されるものであり、本例では、検出素子131のジオメトリックな散乱線入射率の相対値を規定するものである。第1および第2の補正値A,Bについては後ほど詳述する。
【0036】
演算・制御部17は、X線管11およびX線検出器13を回転させながら、X線管11の焦点11fからX線を被検体20に照射し、被検体20の透過X線をX線検出器13で検出するスキャンを実施すべく、各部を制御する。DAS15では、このスキャンの実施により、複数ビュー(view)の投影データが収集される。なお、ここでは、各ビューの番号をビュー番号kで表す。
【0037】
また、演算・制御部17は、DAS15が収集した投影データを受け取る。演算・制御部17は、受け取った投影データに基づいて、逆投影などの画像再構成の演算を行い、画像データを生成する。演算・制御部17は、画像再構成の際に、記憶部16にアクセス(access)し、第1および第2補正テーブルT1,T2から読み出した補正値に基づいて、投影データの散乱線補正を行う。そして、演算・制御部17は、散乱線補正された投影データに基づいて画像データを生成する。
【0038】
ここで、記憶部16に記憶されている第1および第2の補正値について詳しく説明する。
【0039】
図2は、第1の補正テーブルT1を表すグラフである。このグラフは、X線ビームの経路長Prと第1の補正値Aとの対応関係を示している。第1の補正値Aは、検出素子131が検出したX線の強度(直接線の強度P+散乱線の強度S)に対する散乱線の強度Sの割合S/(P+S)の推定値である。
【0040】
散乱線は、被検体20中の骨のようにX線吸収率が極端に異なる対象物にX線が当たり、X線の進行経路が変わることに起因して生じる。そのため、ここでは、散乱線は被検体20内をX線が通過することにより発生し、その散乱線の大きさや広がりは、主として被検体20内のX線ビームの経路長Prに依存するという散乱線入射モデルを考えることができる。このような散乱線入射モデルでは、投影データにおける散乱線成分は、その投影データに対応するX線ビームの被検体20内の経路長Prに依存すると考えることができる。
【0041】
したがって、検出素子131が検出したX線(直接線の強度P+散乱線の強度S)に対する散乱線の強度Sの割合S/(P+S)を、第1の補正値Aとすれば、投影データに対して、その投影データに対応するX線ビームの被検体20内の経路長Prと対応付けされた第1の補正値Aを乗算することにより、その投影データにおける散乱線成分を見積もることができる。すなわち、投影データD(i,j,k)にオフセット(off-set)補正(検出素子間特性補正)やレファレンス(reference)補正(X線強度補正)を行って得られた投影データD1(i,j,k)に対して、1−A(D1(i,j,k))を乗算することにより、散乱線成分を除去することができる。
【0042】
この第1の補正テーブルT1は、X線吸収係数や形状、位置が既知であるファントム(例えば、円柱/楕円形状の水/アクリル・ファントム)を実際にスキャンして求めることができる。すなわち、ファントムのスキャンにより得られた1または複数の検出素子131の投影データについて、ジオメトリ(geometry)や撮影条件を基に、その投影データに対応するX線ビームのファントム中での経路長と、その投影データにおける直接線成分の予測値とを求める。そして、その投影データから直接線成分を差し引いて散乱線成分を求め、投影データ毎に経路長と散乱線成分との対応関係を求める。経路長と散乱線成分との対応関係をグラフにプロット(plot)し、所定の関数へのフィッティング(fitting)により、第1の補正テーブルT1を求める。なお、第1の補正テーブルT1の求め方の詳細については、特開2005−87588号公報等を参照されたい。
【0043】
ところで、第1の補正テーブルT1は、X線管11とX線検出器13との位置関係等のシステム構成すなわちジオメトリによる影響は無視して求められている。しかしながら、実際には、検出素子131で検出される散乱線の強度は、ジオメトリによる影響を微小ながら受けており、検出素子131間においてジオメトリックな散乱線入射率の変動が存在している。したがって、投影データに対して、この影響を考慮した更なる補正を行うことにより、散乱線補正の精度をより高めることができる。この点について以下に詳しく説明する。
【0044】
図3は、検出素子131の位置によって、検出される散乱線の発生領域の広さが異なる様子を概念的に示す図である。なお、本図では、アイソセンタ30から検出素子131までの距離が、検出素子131の位置によって異なることを示すため、アイソセンタ30から中央部の検出素子131までのX線ビームの経路と、アイソセンタ30からより端部に近づく非中央部の検出素子131までのX線ビームの経路とを重ねて表している。
【0045】
図3に示すように、X線検出器13のチャネル方向における中央部cの検出素子131と、より端部に近づく非中央部tの検出素子131とでは、アイソセンタ30からの距離が異なっており、中央部cの検出素子131よりも非中央部tの検出素子131の方が、アイソセンタ30からの距離が大きくなる。また、散乱線発生源は被検体20内であり、散乱線発生源の基準位置は、被検体20の基準位置であると考えることができる。一般的に、被検体20は、その体軸がアイソセンタ30と一致するように載置されることから、アイソセンタ30は、被検体20の基準位置として考えることができる。また、検出素子131とこれを区分するコリメータ板141と相対的な位置関係は、いずれの検出素子131においても実質的に同じである。すると、中央部cの検出素子131と、非中央部tの検出素子131とでは、検出される(入射可能な)散乱線の発生領域の広さが異なり、アイソセンタ30から遠い検出素子、すなわち、チャネル方向における端部に近い検出素子ほど、その発生領域は広くなることが分かる。
【0046】
図4は、検出素子の位置によって検出される散乱線の発生領域の広さがどの程度変化するかを一つのモデルを用いて説明するための図である。本図が示すモデルにおいて、ライン(line)hは、アイソセンタ30近傍における仮想上の散乱線発生源であり、いずれの検出素子131から見ても、X線の散乱が同じ確率でX線検出器13に向けて等方的に発生するものと仮定する。また、本図において、a(ic)は、アイソセンタ30からチャネル方向における中央部cの検出素子131(ic)までの距離であり、b(ic)は、チャネル方向における中央部cの検出素子131(ic)で検出される散乱線のうち、入射角が−αとなる側での散乱線のチャネル方向の発生領域である。また、a(i)は、被検体20の基準位置となるアイソセンタ30からチャネル番号iの検出素子131(i)までの距離であり、b(i)は、チャネル番号iの検出素子131(i)で検出される散乱線のうち、入射角が−αとなる側での散乱線のチャネル方向の発生領域である。Δa(i)は、チャネル番号iの検出素子131(i)におけるオフセンタ(off-center)距離であり、アイソセンタ30から中央部cの検出素子131(ic)までの距離a(ic)と、アイソセンタ30からチャネル番号iの検出素子131(i)までの距離a(i)との差分である。ここで、検出素子131への散乱線の入射は、チャネル方向において左右対称であると考えることができる。すると、チャネル方向の中央部cの検出素子131(ic)における入射散乱線の発生領域b(ic)を基準としたときの、チャネル番号iの検出素子131(i)における入射散乱線の発生領域b(i)の増加比率B(i)は、下式のように表すことができる。
【0047】
B(i)=b(i)/b(ic)
=a(i)/a(ic)
=(a(ic)+Δa(i))/a(ic) (数式1)
【0048】
ここで、a(ic)はアイソセンタ30から中央部cの検出素子131(ic)までの距離であるから、既知である。また、オフセンタ距離Δa(i)は、チャネル番号iの検出素子131(i)ごとに、アイソセンタ30とその検出素子131(i)との位置関係に基づいて特定することができる。したがって、投影データにおけるジオメトリックな散乱線入射率の変動分を除去するため、チャネル番号iの検出素子131(i)における入射散乱線の発生領域の増加比率B(i)を、チャネル番号に対して基準化された第2の補正値として考えることができる。
【0049】
なお、X線管11の焦点11fからアイソセンタ30までの距離が540mmであり、アイソセンタ30から中央部cの検出素子131(ic)までの距離a(ic)が400mmであり、ファンビームX線のファン角θが約60°であると仮定すると、チャネル方向の端部の検出素子131(1),131(imax)におけるオフセット距離Δa(1),Δa(imax)は、65mm程度であり、チャネル方向の端部の検出素子131(1),131(imax)における入射散乱線の発生領域の増加比率B(1),B(imax)は、1.16程度である。つまり、チャネル方向における端部の検出素子131(1),131(imax)におけるジオメトリックな散乱線入射率は、チャネル方向における中央部cの検出素子131(ic)と比較して、約16%も大きいことになる。
【0050】
図5は、第2の補正テーブルT2を表すグラフである。このグラフは、チャネル番号i(i=1〜imax)と第2の補正値B(i)との対応関係を示している。第2の補正値B(i)は、中央部cの検出素子(i=ic)を基準としたときの、チャネル番号iの検出素子131(i)における入射散乱線の発生領域の増加比率である。このように、第2の補正値B(i)は、被写体60の基準位置から検出素子131(i)までの距離が大きくなるほど、この第2の補正値B(i)を用いた補正による散乱線の成分の増大率がより大きくなるように定められている。投影データの散乱線成分に、この第2の補正値B(i)を乗算することにより、ジオメトリックな散乱線入射率の変動分が除去され、より正確な散乱線成分が得られる。なお、本例では、第2の補正値B(i)は、上記のような一モデルを用いて導いているが、必ずしもこれに限定されず、他のモデルや実験結果等を用いて定めてもよい。
【0051】
これより、本実施形態に係るX線CT装置1の断層像生成処理の流れについて説明する。
図6は、本実施形態に係るX線CT装置1の断層像生成処理のフローチャートである。
【0052】
ステップS1では、演算・制御部17が、X線CT装置1の各部を制御することによりスキャンを行う。このスキャンにより、チャネル番号i,列番号j,ビュー番号k毎の投影データD(i,j,k)を収集する。
【0053】
ステップS2では、演算・制御部17が、収集された投影データD(i,j,k)に基づいて、ビュー番号k毎に、チャネル番号i,列番号jの各検出素子131が検出したX線ビームの被検体20中における経路長Pr(i,j,k)を算出する。経路長Pr(i,j,k)は、投影データD(i,j,k)に、オフセット補正、レファレンス補正、対数変換(−log化)等を施すことにより算出することができる。
【0054】
ステップS3では、演算・制御部17が、算出された経路長Pr(i,j,k)に基づいて、第1の補正テーブルT1を参照し、第1の補正値A(i,j,k)を読み出す。ただし、A=S/(P+S)。
【0055】
ステップS4では、各投影データD(i,j,k)に、オフセット補正、レファレンス補正などを含む第1の前処理を施し、投影データD1(i,j,k)を得る。
【0056】
ステップS5では、第1の補正値A(i,j,k)および第2の補正値B(i)を用いて投影データD1(i,j,k)に散乱線補正を行い、投影データD1_0(i,j,k)を得る。具体的には、例えば、投影データD1(i,j,k)に、(1−A(i,j,k)×B(i))を乗算する。
【0057】
ステップS6では、投影データD1_0(i,j,k)に、対数変換を含む第2の前処理を施し、投影データD2(i,j,k)を得る。
【0058】
ステップS7では、投影データD2(i,j,k)に逆投影等の画像再構成処理を行って、断層像を表す画像データを生成する。
【0059】
以上、本実施形態によれば、検出素子にて得られた投影データに基づいて決定される第1の補正値Aに加え、検出素子の位置に基づいて決定される第2の補正値Bを用いて散乱線補正を行うので、検出素子間でジオメトリックな散乱線入射率が一定でないことを考慮して補正することができ、検出素子間のジオメトリックな散乱線入射率を考慮していない散乱線補正において、補正の精度を高めることができる。
【0060】
なお、発明は本実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の実施形態を採り得る。
【0061】
例えば、本実施形態では、コリメータ板がチャネル方向に配列された場合を想定しているが、発明は、コリメータ板が列方向に配列された場合や、コリメータ板がチャネル方向および列方向に配列された場合にも、同様に適用可能である。
【0062】
また例えば、本実施形態では、投影データにおける散乱線成分が、X線ビームの被検体20における経路長に依存するという散乱線入射モデルを用いて、散乱線補正を行っているが、これとは別の散乱線入射モデルを用いてもよい。ただし、検出素子131間のジオメトリックな散乱線入射率の変動が考慮されていないものに限る。
【0063】
また例えば、本実施形態では、第2の補正値BB(i)は、アイソセンタ30を被写体20の基準位置として、アイソセンタ30から検出素子131(i)までの距離と対応付けされた補正値であるが、アイソセンタ30に近接する他の位置を被写体20の基準位置として、その他の位置から検出素子131(i)までの距離と対応付けされた補正値としてもよい。
【0064】
なお、コンピュータに、投影データの散乱線補正の一部として、上記のような検出素子131間のジオメトリックな散乱線入射率の変動成分を除去する補正を実行させるためのプログラムもまた、発明の一実施形態である。
【符号の説明】
【0065】
1 X線CT装置
11 X線管(放射線源)
11f 焦点
12 アパーチャ
13 X線検出器(放射線検出器)
131 検出素子
14 コリメータ
141 コリメータ板
15 DAS
16 記憶部
17 演算・制御部(制御手段、補正手段)
20 被検体(被写体)
30 アイソセンタ(回転中心)