特許第6183941号(P6183941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183941光学用粘着剤組成物及び該組成物を用いてなる光学機能性フィルム
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  • 特許6183941-光学用粘着剤組成物及び該組成物を用いてなる光学機能性フィルム 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6183941
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】光学用粘着剤組成物及び該組成物を用いてなる光学機能性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20170814BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170814BHJP
   C09J 133/24 20060101ALI20170814BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170814BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170814BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170814BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20170814BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J11/06
   C09J133/24
   C09J7/02 Z
   B32B27/00 M
   B32B27/30 A
   B32B27/26
   G02B5/30
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-3177(P2017-3177)
(22)【出願日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年2月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】井田 由佳理
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6042036(JP,B2)
【文献】 特開2015−157913(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157630(WO,A1)
【文献】 特開2008−050459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 9/00−201/10
C09J 7/00−7/04
B32B 27/00
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマー[A]と、硬化剤[D]と、シランカップリング剤[E]とを含んでなる粘着剤組成物(但し、金ナノロッドを含む場合を除く)において、
前記アクリル系ポリマー[A]は、そのモノマー成分が、官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)に、下記一般式(1)で表される、末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)を含んでなり、
記末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)の使用量は、前記(a1)100質量部に対して0.1質量部以上5質量部未満の範囲内であり、且つ、
前記モノマー成分に、下記一般式(2)で表される窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を含む場合、(a4)の使用量、前記(a1)100質量部に対して1質量部以上30質量部未満の範囲内であることを特徴とする光学用粘着剤組成物。
[式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は (R3O)nを表し、X1はグリシジル基を表す。前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は(R3O)nを表し、X2及びX3は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基のいずれかを表す。また、前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
【請求項2】
前記モノマー成分が、さらに、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)を含み、その使用量は、前記(a1)100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部未満の範囲内である請求項1に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)は、グリシジル(メタ)アクリレート又は4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルの少なくともいずれかを含む請求項1又は2に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項4】
さらに、3級アミン化合物[B]を含んでなる請求項1〜のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項5】
前記3級アミン化合物[B]として、N,N−ジメチルアミノベンゼン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール及びN−ブチルジエタノールアミンからなる群から選ばれるいずれかを含む請求項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項6】
さらに、イミダゾール化合物[C]を含んでなる請求項1〜のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項7】
前記イミダゾール化合物[C]として、1,2−ジメチルイミダゾール又は2−エチル−4−メチルイミダゾールの少なくともいずれかを含む請求項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項8】
光学フィルムに設けられたセルロースエステルフィルムからなる保護フィルムの面に積層して、請求項1〜のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物からなる粘着剤層が設けられていることを特徴とする光学機能性フィルム。
【請求項9】
前記光学フィルムが、偏光板又は偏光板と位相差板との積層体である請求項に記載の光学機能性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用粘着剤組成物及び光学機能性フィルムに関する。さらに詳しくは、使用環境の温度・湿度変化による光学フィルムの劣化、例えば、偏光板の劣化を防ぎリタデーション値の変動を抑制する、光学機能性フィルム用として最適な光学用粘着剤組成物及び該組成物を用いてなる光学機能性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置を構成する液晶セルは、所定の方向に配向した液晶成分を2枚のガラス基板で挟み、これらのガラス基板の外側に、粘着剤層(膜)を介して、偏光板又は偏光板と位相差板との積層体等の光学機能性フィルム(以下、これらを単に「光学機能性フィルム」という場合がある)を貼着してなるものである。近年、液晶セルを適用することで著しい軽量化及び薄型化が達成されることから、車両搭載用、屋外計器用及びパソコン等のディスプレイや、テレビ等の表示装置として、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要はますます増加する傾向にある。この用途の広がりに伴い、液晶表示装置が使用される環境も多岐にわたっており、例えば、高温度下や高湿度下等々、非常に過酷な場合がある。このため、液晶表示装置の製造に使用される光学機能性フィルムについても、過酷な環境にも対応可能な性能が要求されるようになっている。
【0003】
光学機能性フィルムである偏光板は、一般に、ヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子と、その偏光子の表裏両側に透明な保護フィルムを貼り合わせた構成となっている。偏光子は、長期間の使用で、熱もしくは湿熱又は紫外線の影響により、表示性能が劣化しやすいため、保護フィルムが設けられている。保護フィルムには、セルローストリアセテートフィルム(TACフィルム)に代表される、セルロースエステルフィルムが広く使用されている。そして、偏光子の耐久性を向上させるため、TACフィルム等の保護フィルムには、様々な添加剤や、リタデーションを制御し表示特性を向上させるための様々な複屈折調整剤が含有されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−050261号公報
【特許文献2】特開2016−029496号公報
【特許文献3】特許第5508204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した偏光子の耐久性を向上させるための添加剤や複屈折調整剤は、使用環境の温度・湿度の条件により、保護フィルムを構成しているセルロースエステルフィルムから溶出し、浸みだして、ガラス基板と積層するために用いられている粘着剤層(膜)に侵入し、結晶化することから、偏光板の表示不良が生じることがあることがわかった。具体的には、上記構造を有する偏光板を、粘着剤を用いて液晶セルのガラス基板上に貼り合せた場合に、特に、85℃85%RHのような高温高湿の条件下に置くと、セルロースエステルフィルムと粘着剤層との界面で、上記溶出物に起因して結晶化が起こり、図1の顕微鏡写真の図に示したように、その析出物によって液晶表示装置の視認性を著しく悪化させていることを見出した。また、この問題とは別に、例えば、粘着剤を用いて液晶セルのガラス基板上に貼り合せた構成の偏光板には、高温或いは高温高湿の条件に晒された場合に、粘着剤組成物によって形成した粘着剤層に発泡が生じたり、貼着された光学機能性フィルムが基板から剥れたりすることのない特性(以下、これらを満足する特性を「耐久性」と呼ぶ)が必要とされている。
【0006】
本発明者らは、上記した粘着剤層が十分な耐久性を満足することに加えて、上記した保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと粘着剤層との界面で生じている結晶化、その析出物の発生による光学フィルムにおける劣化の問題を抑制できる光学用粘着剤組成物の開発が必要であるとの認識を持つに至った。
【0007】
従って、本発明の目的は、偏光板に代表される、光学機能性フィルムを液晶表示装置のガラス等の基板上に貼着させる際に用いられる光学用粘着剤組成物であって、粘着剤層としての耐久性に優れ、加えて、積層させた保護フィルムと粘着剤層との界面で生じる、保護フィルムに含有されている複屈折調整剤等の添加剤の浸みだしに起因して生じる結晶化による析出物の発生といった現象を効果的に抑制できる光学用粘着剤組成物、及び、該組成物により形成された粘着剤層を有する光学機能性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アクリル系ポリマー[A]と、硬化剤[D]と、シランカップリング剤[E]とを含んでなる粘着剤組成物において、
前記アクリル系ポリマー[A]は、そのモノマー成分が、官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)に、下記一般式(1)で表される、末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)、及び/又は、下記一般式(2)で表されるカチオン性の窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を含んでなり、
前記モノマー成分に、前記末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)を含む場合、(a3)の使用量は、前記(a1)100質量部に対して0.1質量部以上5質量部未満の範囲内であり、
前記モノマー成分に、前記窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を含む場合、(a4)の使用量は、前記(a1)100質量部に対して1質量部以上30質量部未満の範囲内であることを特徴とする光学用粘着剤組成物を提供する。
[式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は (R3O)nを表し、X1はグリシジル基を表す。前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は (R3O)nを表し、X2及びX3は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基のいずれかを表す。また、前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
【0009】
本発明の光学用粘着剤組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記モノマー成分が、前記末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)を含むこと;前記モノマー成分が、さらに、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)を含み、その使用量は、前記(a1)100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部未満の範囲内であること;前記末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)は、グリシジル(メタ)アクリレート又は4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルのいずれかを含むこと;前記一般式(2)で表される窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)は、ジメチルアクリルアミドを少なくとも含むこと;が挙げられる。
【0010】
また、本発明は、好ましい形態として、前記した構成に、さらに、3級アミン化合物[B]を含んでなる光学用粘着剤組成物を提供する。その好ましい形態として、前記3級アミン化合物[B]として、N,N−ジメチルアミノベンゼン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール及びN−ブチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくともいずれかを含むことが挙げられる。
【0011】
また、本発明は、好ましい形態として、前記した構成に、さらに、イミダゾール化合物[C]を含んでなる光学用粘着剤組成物を提供する。その好ましい形態として、前記イミダゾール化合物[C]として、1,2−ジメチルイミダゾール又は2−エチル−4−メチルイミダゾールの少なくともいずれかを含む光学用粘着剤組成物が挙げられる。
【0012】
また、本発明は、別の実施形態として、光学フィルムに設けられたセルロースエステルフィルムからなる保護フィルムの面に積層して、上記いずれかに記載の光学用粘着剤組成物からなる粘着剤層が設けられていることを特徴とする光学機能性フィルムを提供する。その好ましい形態として、前記光学フィルムが、偏光板又は偏光板と位相差板との積層体である光学機能性フィルムが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、偏光板に代表される、セルロースエステルフィルムからなる保護フィルムが設けられている光学機能性フィルムを液晶表示装置のガラス等の基板上に貼着させる用途の粘着剤組成物において、形成した接着剤層が耐久性に優れ、特に、保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと粘着剤層との界面で結晶化、さらには析出物が生じることを抑制できる光学用粘着剤組成物、及び、該組成物からなる粘着剤層が設けられている上記した析出物によって生じる劣化が抑制された光学機能性フィルムの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】溶出物に起因した結晶化の状態の一例を示す顕微鏡写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0016】
本発明者らは、前記した課題を解決すべく鋭意検討した結果、アクリル系ポリマー[A]と、硬化剤[D]と、シランカップリング剤[E]とを含む光学用粘着剤組成物において、アクリル系ポリマー[A]のモノマー組成を工夫するという簡単な構成によって、形成される粘着剤層の耐久性を損なうことなく、前記した、積層した保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと粘着剤層との界面で生じる結晶化、その析出物が生じることによる偏光板の劣化、の問題を効果的に抑制できることを見出した。
【0017】
本発明者らは、モノマー組成を、ベースのモノマーである官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)に対して、下記一般式(1)で表される、末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)を特定量の範囲で使用することで、保護フィルムに含有されている複屈折調整剤等の添加剤の溶出、さらに、粘着剤層への浸みだしを防ぐことができ、その結果、析出物の発生を効果的に抑制できることを見出した。本発明者らは、その理由を、上記特有の構造のグリシジル基を有するモノマーを使用してアクリル系ポリマー[A](以下、単にポリマー[A]とも呼ぶ)としたことで、高温高湿環境下で溶出することがあると考えられる、例えば、保護フィルムに用いられているセルロースエステルフィルムであるTACフィルムからの酢酸成分と反応し、その結果、酢酸成分に起因して生じる複屈折調整剤等の添加剤の溶出が効果的に抑制できたものと考えている。具体的には、前記(a1)100質量部に対して、(a3)を0.1質量部以上5質量部未満の範囲内、より安定して効果を得るためには、0.2質量部以上使用してポリマー[A]を得ることが好ましいことがわかった。本発明者らの検討によれば、析出物の発生を抑制する効果においては、その使用量は多い方がよいが、5質量部以上とすると粘着剤層の耐久性の点で劣るものになる。
【0018】
[式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は (R3O)nを表し、X1はグリシジル基を表す。前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
【0019】
また、本発明者らは、ポリマー[A]を合成するためのモノマー組成を、ベースモノマーである官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)に対し、例えば、ジメチルアクリルアミドに代表される、下記一般式(2)で表される、カチオン性の窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を、特定量の範囲で使用することで、保護フィルムに含有されている複屈折調整剤等の添加剤の浸みだしに起因して粘着剤層との界面で結晶化が生じたとしても、析出物を再溶解させることができ、その結果、粘着剤層との界面で生じる結晶化が効果的に抑制されることを見出した。具体的には、前記(a1)100質量部に対して、(a4)を1質量部以上30質量部未満の範囲内で使用することで、保護フィルムに含有されている複屈折調整剤等の添加剤の溶出、さらに粘着剤層への浸みだしが効果的に抑制され、その結果、上記した結晶化が抑制される。
【0020】
[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は、直接結合を表すか、或いは、アルキレン基又は (R3O)nを表し、X2及びX3は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基のいずれかを表す。また、前記R3はアルキレン基であり、nは正の整数である。]
【0021】
上記したように、本発明は、具体的には、液晶表示装置の視認性を著しく悪化させる偏光板の劣化の問題を解決すべく鋭意検討した結果なされたものである。具体的には、光学フィルムに設けられた保護フィルムに積層される粘着剤層を形成する光学用粘着剤組成物を構成する、ベースとなるアクリル系ポリマーのモノマー単位に、上記した特定の成分を特定の範囲の量で用いることで、特に高温高湿下で生じることがあった、保護フィルム中に含有されている複屈折調整剤等の添加剤の溶出が効果的に抑制され、また、粘着剤層中に複屈折調整剤等の添加剤が浸みだして、積層した界面で結晶化及び析出物が生じたとしても、析出物を再溶解させることで偏光板の劣化の発生を抑制できることを見出し、本発明に至ったものである。本発明によれば、特に、偏光板のような、機能性の光学フィルムを構成しているセルロースエステルフィルムからなる保護フィルムの面に粘着剤層を形成して、偏光板をガラス基板に積層した場合に生じることのあった、保護フィルム−粘着剤層の界面での結晶化、さらに析出物の発生を効果的に抑制でき、その結果、偏光板の劣化を防止し、リタデーション値も変動しない、光学機能性フィルムに用いる粘着剤として優れたものになる光学用粘着剤組成物の提供が可能になる。
【0022】
〔アクリル系ポリマー[A]〕
アクリル系ポリマー[A]は、その合成に用いるモノマー成分が、官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)をベースとし、前記一般式(1)で表される、末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)、及び/又は、前記一般式(2)で表されるカチオン性の窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を、特定の範囲で含んでなることを特徴とする。以下、各構成成分について説明する。
【0023】
<官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)>
ベースとなる官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)(以下、単に(a1)成分と記載する場合がある)としては、従来公知のものを使用することができ、具体的には、以下の化合物を挙げることができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート又はラウリル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体等が挙げられ、これらの単量体を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
<末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)>
上記(a1)成分に加えるモノマー成分の、末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)(以下、単に(a3)成分と記載する場合がある)は、前記一般式(1)で表され、X1にグリシジル基を有する化合物であれば、従来公知のものを使用することができる。
【0025】
(a3)成分としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート等が挙げられ、これらの化合物を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
(a3)成分の使用量は、前記(a1)100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部未満であることを要し、0.2質量部以上であれば、使用したことによる析出物の発生の抑制効果を、より安定して得ることができる。使用量が、0.1質量部未満であると、TACフィルム面に使用した際に、添加剤の溶出防止や劣化による析出の現象を十分に抑制することができない。一方、5質量部以上であると、本発明の別の目的である粘着剤層の耐久性に問題が生じたり、白抜けが生じるなど、光学用としての基本性能が損なわれる。
【0027】
<窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)>
上記(a1)成分に加えるモノマー成分の、カチオン性の窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)(以下、単に(a4)成分と記載する場合がある)は、前記一般式(2)で表される、得られるポリマーにカチオン性を付与するための単量体であり、従来公知のものを使用することができる。
【0028】
(a4)成分としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。すなわち、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられ、これらの化合物を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
(a4)成分の使用量は、前記(a1)100質量部に対して、1質量部以上30質量部未満であることを要する。使用量が、1質量部未満であると、保護フィルムのTACフィルム面に使用した際に、添加剤の溶出防止や劣化による析出の現象を十分に抑制することができず、30質量部以上であると、耐久性及び白抜けが劣化し、光学用としての基本性能を維持することができない。
【0030】
<官能基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)>
アクリル系ポリマー[A]は、さらに、上記(a1)成分に加えるモノマー成分として、必要に応じて、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)(以下、単に(a2)成分と記載する場合がある)を使用してもよい。カルボキシ基を有する(a2)成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等が挙げられ、これらの単量体を1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。その他の公知のカルボキシル基含有単量体も使用することができる。また、ヒドロキシ基を有する(a2)成分としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの単量体を1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
(a2)成分の使用量は、前記(a1)100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部未満であることが好ましい。使用量が、0.1質量部未満であると、発泡等が生じやすく、耐久性が悪化するおそれがある。一方、5質量部以上であると、被着体に対する密着性低下などによる粘着特性の低下および、白抜けなど、光学用としての基本性能を満たさなくなるおそれがある。
【0032】
<アクリル系ポリマー[A]の物性>
上記した各成分を共重合して得られるアクリル系ポリマー[A]は、その重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)が、50万〜210万程度のものが好ましい。より好ましくは、100万〜180万である。アクリル系ポリマー[A]の重量平均分子量が50万未満であると、粘着剤として十分な凝集力を得ることができず、耐久性が劣る場合があり、一方、210万を超えると、塗工するための粘度に調整するために多量の希釈溶剤が必要となり、作業性が著しく悪化する場合があるので好ましくない。
【0033】
アクリル系ポリマー[A]は、溶液重合でも乳化重合の何れでも製造できるが、溶液重合が好ましい。重合方法としては、例えば、ラジカル共重合、イオン共重合、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合又はグラフト共重合等が挙げられる。
【0034】
アクリル系ポリマー[A]を溶液重合で合成する場合に使用可能な溶剤としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類、ハロゲン炭化水素類、ケトン類、アミン類、アルコール類、エーテル類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、トリメリット酸エステル類、リン酸エステル類、ピロメリット酸エステル類及びセバシン酸エステル類等が挙げられる。
【0035】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾビス化合物又は高分子アゾ重合開始剤等を挙げることができ、これらは単独でも、或いは、組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル共重合体の分子量を調整するために、従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0036】
〔硬化剤[D]〕
本発明の光学用粘着剤組成物は、硬化剤[D]を含むことを要する。硬化剤[D]としては、特に制限はなく、従来公知の硬化剤を使用することができる。例えば、従来の1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物、金属キレート化合物或いはブチル化メラミン化合物等が挙げられる。好ましくは、ポリイソシアネート化合物、その中でもイソシアヌレート型の架橋剤を使用するとよい。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
硬化剤[D]の使用量は、アクリル系ポリマー[A]100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。硬化剤[D]の使用量が上記の範囲内であると、粘着剤の凝集力と粘着物性が最適化され、耐久性をよりバランス良く向上するため好ましい。
【0038】
〔シランカップリング剤[E]〕
本発明の光学用粘着剤組成物は、シランカップリング剤(E)を含むことを要する。シランカップリング剤[E]としては、例えば、重合性二重結合を有するシランカップリング剤である、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの重合性二重結合を有するシランカップリング剤を1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
シランカップリング剤[E]の使用量は、アクリル系ポリマー[A]100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤[E]の使用量が上記の範囲内であると、耐久性をよりバランス良く向上させることができる。
【0040】
〔窒素原子を有するカチオン性成分〕
本発明の光学用粘着剤組成物は、上述したアクリル系ポリマー[A]と、硬化剤[D]と、シランカップリング剤[E]とともに、窒素原子を有するカチオン性成分を併用することも好ましい形態である。窒素原子を有するカチオン性成分としては、3級アミン化合物[B]やイミダゾール化合物[C]を使用することが好ましい。本発明者らの検討によれば、3級アミン化合物[B]やイミダゾール化合物[C]を添加することで、本発明の光学用粘着剤組成物は、本発明が解決課題としている光学機能性フィルムの粘着剤層の形成に適用した場合に問題となる、前記した結晶化による析出現象の抑制効果がより優れたものになる。
【0041】
上記3級アミン化合物[B]としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノベンゼン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエチレンジアミン、トリブチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、及びブチルジエタノールアミン、の群から選択される少なくともいずれか1種を使用することが好ましい。また、イミダゾール化合物[C]としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、及び1,2−ジメチルイミダゾール等の群から選択されるいずれか1種を使用することが好ましい。
【0042】
3級アミン化合物[B]やイミダゾール化合物[C]の使用量は、アクリル系ポリマー[A]100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、3級アミン化合物[B]やイミダゾール化合物[C]の使用量が上記の範囲内である場合に、光学機能性フィルムに使用した場合に、前記した結晶化、析出物の発生に対する抑制効果の向上に寄与することができる。
【0043】
〔その他の成分〕
本発明の光学用粘着剤組成物は、さらに、粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤が配合されていてもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系又は石油系等の粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料等が配合されていてもよい。
【0044】
本発明の光学用粘着剤組成物は、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置等を用いて下記の方法で粘着剤層を形成することができる。すなわち、上記のような装置を用い、シリコーン樹脂等の剥離剤を片面或いは両面にコートしたPETフィルムなどのセパレーター(剥離フィルム)の、剥離剤をコートした面に、上述したような本発明の光学用粘着剤組成物を塗工し、該塗工層を乾燥し、その後に養生することによって粘着剤層を形成することができる。このようにして得られた粘着剤層は、アクリル系ポリマー[A]と硬化剤[D]との反応生成物を含んだ硬化皮膜となる。
【0045】
本発明の光学用粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後に形成される粘着剤層の厚さが、10〜100μmとなる程度であることが好ましい。上記粘着剤層の厚さを上記範囲内とすることにより、気泡の発生のない良好な粘着剤層となり、光学フィルムなどに使用するのに好適である。
【0046】
〔光学フィルム〕
【0047】
本発明の光学用粘着剤組成物は、種々の光学機能性フィルムの貼着用として好適である。光学フィルムとしては、特に限定はなく、従来公知のいずれの光学機能性フィルムに使用することができ、例えば、フィルム導光板、反射防止フィルム、導電性フィルム、視野角拡大フィルム、位相差フィルム、偏光板又はこれらを組み合わせたフィルムなどが挙げられる。
【0048】
本発明で光学機能性フィルムとして偏光板を使用する場合、一般的な偏光板(無処理TACフィルムを使用したもの)の他、例えば、ディスコティック液晶がコートされている偏光板、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルム又は延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とした偏光板なども用いることができる。
【0049】
上記ディスコティック液晶がコートされている偏光板とは、TACフィルム上に、側鎖の末端に架橋基を有しているトリフェニレン系のディスコティック化合物が架橋し、配向状態に保たれたディスコティック層が有する視野角拡大フィルムと偏光フィルムとが一体化してなる偏光板である。より具体的には、例えば、ポリビニルアルコール系偏光子(PVA)の両面に、それぞれTACフィルムを貼り合わせてなる偏光フィルムの片面に、例えば、ディスコティック液晶からなる視野角拡大機能層を塗布により設けたもの、或いは視野角拡大フィルムを粘着剤で貼り合わせたものなどを挙げることができる。
【0050】
本発明の光学用粘着剤組成物は、上記した光学機能性フィルムの中でも、TACフィルムを使用したものに対する粘着剤層の形成材料とした場合に、より顕著な効果が期待できる。先述したように、従来の光学用粘着剤組成物は、TACフィルムを使用したものに使用した場合、酢酸成分等が溶出し、セルロースエステルフィルム−粘着剤層界面で結晶化して析出してしまい、偏光板が劣化し、液晶表示装置の視認性を著しく悪化させるという問題が生じていた。これに対し、本発明の光学用粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー[A]が、(a3)成分由来のグリシジル基及び/又は(a4)成分由来の塩基性基を有することにより、TACフィルムより溶出してしまう酢酸成分等を効果的に取り込むことができ、酢酸成分の溶出・分解の連鎖を抑えることができ、その結果、セルロースエステルフィルム−粘着剤層界面での析出を抑えることが可能となる。
【0051】
本発明の光学用粘着剤組成物を光学機能性フィルムに使用する場合には、例えば、光学機能性フィルムの片面或いは両面に、本発明の光学用粘着剤組成物からなる膜を積層することが好ましい。積層する方法としては、例えば、下記のような方法が挙げられる。まず、上述したような本発明の光学用粘着剤組成物を、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置等を用い、シリコーン樹脂等の剥離剤を表面にコートしたPETフィルム等のセパレーターに塗工し、塗工層を乾燥し、その後に養生することによって粘着剤層を形成する。そして、形成した粘着剤層に、上記に挙げたような偏光板等の光学機能性フィルムを積層し、この状態で養生することにより、光学用粘着剤組成物からなる膜が光学機能性フィルムに積層されてなる、本発明で規定する光学機能性フィルムを得ることができる。また、使用する光学用粘着剤組成物によっては、必要に応じて、粘着剤層の形成の際に、加熱架橋又は紫外線等の光による硬化をすることもできる。また、光学機能性フィルムの片面或いは両面に、光学用粘着剤組成物を直接塗工し、自然乾燥等することにより、該組成物からなる膜を積層してもよい。
【0052】
上記した場合における光学用粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後の粘着剤層の厚さが、10〜100μmとなる程度、さらには10〜50μmとなる程度であることが好ましい。粘着剤層の厚さを上記範囲内とすることにより、偏光板の劣化を防ぎ、リタデーション値の変動を抑制する、光学機能性フィルムとなる。このため、上記したような構成の本発明の光学機能性フィルムは、例えば、液晶表示装置のガラス基板上に偏光板等を貼着する場合に有用である。
【実施例】
【0053】
次に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」、「%」とあるのは、いずれも質量基準である。
【0054】
〔実施形態1〕
[製造例1−1:(a3)成分を使用したアクリル系ポリマー[A]の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、反応溶媒として酢酸エチルを140部、(a1)成分として、ブチルアクリレート(BA)を100部、(a2)成分として、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を2部、(a3)成分として、グリシジルメタクリレート(GMA)を0.1部、及び、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを0.05部仕込んだ。そして、これを撹拌させながら、窒素ガス気流中において、65℃で7時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、固形分20.0%、重量平均分子量130万のアクリル共重合体組成物の溶液を得た。これをアクリル系ポリマーA1と呼ぶ。
【0055】
[製造例1−2〜1−10]
製造例1−1で用いた各成分について、化合物や量を表1に記載したものに変更した以外は、製造例1−1と同様にして、アクリル系ポリマーA2〜A10を得た。
【0056】
[比較製造例1−11]
製造例1−7において、(a3)成分を使用しない以外は、製造例1−1と同様にして、比較例用のアクリル系ポリマーA11を得た。
【0057】
[比較製造例1−12]
製造例1−3において、(a3)成分としてのGMAの使用量を5部とした以外は、製造例1−3と同様にして、比較例用のアクリル系ポリマーA12を得た。
【0058】
【0059】
[実施例1−1:光学用粘着剤組成物の作成]
製造例1−1で得たアクリル系ポリマーA1の固形分100部に対して、硬化剤[D]として、トリレンジイソシアネート=アダクト型架橋剤であるコロネートL(商品名、日本ポリウレタン工業社製)を0.10部、シランカップリング剤[E]として、メチルメルカプト系アルコキシオリゴマーであるX−41−1810(商品名、信越化学社製)を0.1部添加した後、充分に混合し、本実施例の光学用粘着剤組成物−1を得た。
【0060】
[実施例1−2〜1−10]
実施例1−1で用いたアクリル系ポリマーA1を、製造例1−2〜製造例1−10でそれぞれ得たアクリル系ポリマーA2〜10に替えた以外は、実施例1−1と同様にして、本発明の実施例の光学用粘着剤組成物−2〜−10をそれぞれ得た。
【0061】
[比較例1−1、1−2]
実施例1−1で用いたアクリル系ポリマーA1を、比較製造例1−11、比較製造例1−12でそれぞれ得たアクリル系ポリマーA11、A12に替えた以外は、実施例1−1と同様にして、比較例の光学用粘着剤組成物−11、−12を得た。
【0062】
[評価1]
(評価用試料作製)
各実施例で得た光学用粘着剤組成物を、シリコーン樹脂コートされた離型性基材であるPETフィルム上に塗布後、90℃で乾燥して溶媒を除去し、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。そして、形成した粘着剤層に、厚さ120μmのTAC偏光板を貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間養生することにより、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルを、試料サイズ(80mm×150mm)に裁断し、これを用いて、下記に示した方法で、形成した粘着剤層についての、耐久性、白抜け、析出物の発生試験を行い、下記の評価基準でそれぞれ評価した。
【0063】
1.耐久性(80℃)
評価用サンプルを、ガラスに貼り付けた後、80℃(DRY)の雰囲気下に500Hr放置した。その後の粘着剤層の発泡および剥がれについて目視にて確認し、以下の規準で評価した。
【0064】
(評価基準)
(1)発泡
○:偏光板に発泡が確認されない。
△:偏光板に発泡が僅かに確認された。
×:偏光板に発泡が確認された。
(2)剥れ
○:偏光板に剥れが確認されない。
△:偏光板に剥れが僅かに確認された。
×:偏光板に剥れが確認された。
【0065】
2.耐久性(95℃)
評価用サンプルを、ガラスに貼り付けた後、95℃(DRY)の雰囲気下に500Hr放置した。その後の粘着剤層の発泡および剥がれについて目視にて確認し、前記した80℃における耐久性試験における場合と同様の規準で評価した。
【0066】
3.耐久性(60℃90%RH)
評価用サンプルを、ガラスに貼り付けた後、60℃90%RHの雰囲気下に500Hr放置した。その後の粘着剤層の発泡および剥がれについて目視にて確認し、前記した80℃における耐久性試験における場合と同様の規準で評価した。
【0067】
4.白抜け
評価用サンプルを用いた60℃90%RHの耐久試験後の同試料を2枚用い、液晶パネルの上下面にクロスニコルにして貼り合わせ、液晶モニターのバックライトを点灯して、白抜けの状態を目視にて観察し、以下の規準で評価した。
【0068】
(評価基準)
○:偏光板に白抜けが観察されない。
△:偏光板に白抜けが僅かに観察された。
×:偏光板に白抜けが観察された。
【0069】
5.析出物の発生試験(85℃85%RH)
評価用サンプルを、ガラスに貼り付けた後、85℃85%RHの雰囲気下に、7日間、14日間、30日間、45日間、60日間、75日間放置した。その後、目視にて確認し、以下の規準で評価した。
【0070】
(評価基準)
○:析出物が観察されない。
△:極微少な析出物がいくつか観察された。
×:析出物が観察された。
【0071】
実施例及び比較例の配合組成及び評価結果を、表2に示した。表2に示されているように、従来の比較例1−1の組成物と、実施例1−1〜1−10の各組成物との比較から、アクリル系ポリマーを形成するためのモノマー組成に(a3)成分を用いることで、特に、85℃85%RHの高温高湿の雰囲気に長期間置いた場合の析出物の発生が抑制される硬化が得られることが確認できた。また、(a3)成分を実施例よりも過剰に用いた、比較例1−2の、(a3)成分を5質量部配合してなるアクリル系ポリマーA12を使用した場合は、析出物の発生は抑制されるものの、実施例に比べて白抜けの問題が生じ、95℃の条件下での耐久性の点でも問題があることが確認された。
【0072】
【0073】
〔実施形態2〕
[製造例2−1:(a4)成分を使用したアクリル系ポリマー[A]の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、反応溶媒として、酢酸エチルを140部、(a1)成分としてBAを100部、(a2)成分としてHEAを2.1部、(a4)成分として、ジメチルアクリルアミド(DMAAと略記)を5.3部、及び、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを0.05部仕込んだ。そして、これを撹拌させながら、窒素ガス気流中において、65℃で7時間反応した。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、固形分20%、重量平均分子量130万のアクリル共重合体組成物の溶液を得た。これをアクリル系ポリマーA13と呼ぶ。
【0074】
[製造例2−2]
製造例2−1において、(a2)成分としてのHEAを2.5部、(a4)成分としてのDMAAを25部とした以外は、製造例2−1と同様にして、アクリル系ポリマーA14を得た。
[製造例2−3]
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、反応溶媒として、酢酸エチルを140部、(a1)成分として、ブチルアクリレート(BAと略記)を100部、(a2)成分としてHEAを2.1部、(a3)成分として、GMAを0.5部、(a4)成分として、DMAAを5.3部、及び、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを0.05部仕込んだ。そして、これを撹拌させながら、窒素ガス気流中において、65℃で7時間反応した。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、固形分20%、重量平均分子量130万のアクリル共重合体組成物の溶液を得た。これをアクリル系ポリマーA15と呼ぶ。
【0075】
[製造例2−4]
製造例2−3において、(a2)成分としてのHEAを2.4部、(a3)成分としての4HBAGEを0.6部、(a4)成分としてのDMAAを17.6部とした以外は、製造例2−1と同様にして、アクリル系ポリマーA16を得た。
【0076】
[製造例2−5]
製造例2−1において、(a2)成分としてのHEAを2.9部、(a3)成分としてのGMAを0.7部、(a4)成分としてのDMAAを42.9部とした以外は、製造例2−1と同様にして、比較例用のアクリル系ポリマーA17を得た。
【0077】
【0078】
参考例2−1:光学用粘着剤組成物の作成]
製造例2−1で得たアクリル系ポリマーA13の固形分100部に対して、硬化剤[D]として、トリレンジイソシアネート=アダクト型架橋剤〔(商品名)コロネートL、日本ポリウレタン工業社製〕を0.10部、シランカップリング剤[E]として、メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー〔(商品名)X−41−1810、信越化学社製〕を0.10部添加した後、充分に混合し、(a3)のモノマー成分を含まないアクリル系ポリマーを用いた光学用粘着剤組成物−13を得た。
【0079】
参考例2−2、実施例2−〜2−4]
参考例2−1で用いたアクリル系ポリマーA13を、製造例2−2〜2−4でそれぞれ得たアクリル系ポリマーA14〜A16に替えた以外は、参考例2−1と同様にして、光学用粘着剤組成物−14〜−16を得た。
【0080】
[比較例2−1]
実施例2−1で用いたアクリル系ポリマーA13を、製造例2−5で得たアクリル系ポリマーA17に替えた以外は、実施例2−1と同様にして、比較例の光学用粘着剤組成物−17を得た。
【0081】
[評価2]
評価1と同様にして、評価用サンプルを作製した後、各項目について同様に評価した。表4に結果を配合組成と共に示した。表4中に、先の実施形態1で得た比較例1−1の組成物の組成及び評価結果を併せて示した。従来の比較例1−1の組成物と、実施例の組成物の評価結果から、アクリル系ポリマーを形成するためのモノマー組成に(a4)成分を用いることで、析出物の発生が抑制されることが確認された。また、先に表2に示した実施例1−2の組成物と、表4の、参考例2−1及び実施例2−3の各組成物との比較から、アクリル系ポリマーを形成するためのモノマー組成に、(a3)成分と(a4)成分とを併用することで、析出物の発生の抑制効果がより顕著に得られることが確認された。
【0082】
【0083】
〔実施形態3〕
[実施例3−1:光学用粘着剤組成物の作成]
以下のようにして、本発明で規定する3級アミン化合物[B]を含んでなる光学用粘着剤組成物を調製した。具体的には、製造例1−1で得たアクリル系ポリマーA1の固形分100部に対して、硬化剤[D]として、トリレンジイソシアネート=アダクト型架橋剤〔(商品名)コロネートL、日本ポリウレタン工業社製〕を0.10部、シランカップリング剤[E]として、メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー〔(商品名)X−41−1810、信越化学社製〕を0.10部、さらに、3級アミン化合物[B]として、N,N−ジメチルアミノベンゼンを0.1部添加した後、充分に混合し、光学用粘着剤組成物−19を得た。
【0084】
[実施例3−2〜3−6]
実施例3−1で用いた3級アミン化合物[B]を、それぞれ表5に記載の化合物、量に変更した以外は、実施例3−1と同様にして、本発明で規定する光学用粘着剤組成物−20〜−24を得た。
【0085】
〔実施形態4〕
[実施例4−1]
以下のようにして、本発明で規定するイミダゾール化合物[C]を含んでなる光学用粘着剤組成物を調製した。具体的には、製造例1−1で得たアクリル系ポリマーA1の固形分100部に対して、硬化剤[D]として、トリレンジイソシアネート=アダクト型架橋剤〔(商品名)コロネートL、日本ポリウレタン工業社製〕を0.10部、シランカップリング剤[E]として、メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー〔(商品名)X−41−1810、信越化学社製〕を1.0部、さらに、イミダゾール化合物[C]として、1,2−ジメチルイミダゾールを0.1部添加した後、充分に混合し、光学用粘着剤組成物−25を得た。
【0086】
[実施例4−2〜4−4]
実施例4−1で用いたイミダゾール化合物[C]を、表5に記載の化合物、量に変更した以外は、実施例4−1と同様にして、本発明で規定する光学用粘着剤組成物−26〜−28を得た。
【0087】
[評価3]
評価1と同様にして、評価用サンプルを作製した後、各項目について同様に評価した。表5に結果を配合組成と共に示した。表2に示した実施例1−1の結果との比較から、表5に示されているように、3級アミン化合物[B]或いはイミダゾール化合物[C]を混合した粘着剤組成物とすることで、95℃(dry)の高温における耐久性や、85℃85%RHの高温高湿の雰囲気に置いた場合に、より長期間にわたって析出物の発生が抑制された、より良好な粘着剤組成物の実現が可能になることが確認された。
【0088】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、85℃85%RHの高温高湿の雰囲気下に長期間置いた場合にも、PETフィルムのようなセルロースエステルフィルム−粘着剤層の界面で結晶化が生じず、また、耐久性に優れた光学用粘着剤組成物、及び該組成物により形成された粘着剤層を有する光学機能性フィルムの提供が可能になるので、その利用が期待される。上記の優れた効果を有する本発明の光学用粘着剤組成物を、偏光板等の光学機能性フィルムを液晶表示装置のガラス等の基板上に貼着させるのに用いた場合には、偏光板の劣化が生じず、リタデーション値の変動が抑制されるため、液晶表示装置の視認性を維持することができ、その利用の幅は広く、有用であり、その利用が期待される。
【要約】
【課題】偏光板等の光学機能性フィルムをガラス等の基板上に貼着させる際に用いる粘着剤組成物で、粘着剤層としての耐久性に優れ、加えて、積層させた保護フィルムと粘着剤層との界面で生じる析出物の発生といった現象を効果的に抑制できる光学用粘着剤組成物、及び、該組成物により形成された粘着剤層を有する光学機能性フィルムの提供。
【解決手段】アクリル系ポリマー[A]と硬化剤とシランカップリング剤とを含み、ポリマー[A]のモノマー成分が、官能基を有さないエチレン性不飽和単量体(a1)に、特定量の末端にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(a3)、及び/又は、特定量のカチオン性の窒素含有エチレン性不飽和単量体(a4)を、それぞれ含んでなるものである光学用粘着剤組成物。
【選択図】なし
図1