(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリイミド前駆体と、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内である化合物とを含むポリイミド前駆体溶液を、前記ポリイミド前駆体に対する貧溶媒または非溶媒中に吐出して、ポリイミド前駆体繊維を形成する凝固工程と、
前記ポリイミド前駆体繊維を加熱しながら延伸して、ポリイミド繊維を形成する熱延伸工程と
を備える、ポリイミド繊維の製造方法。
前記テトラカルボン酸系化合物由来部位は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸系化合物、およびピロメリット酸系化合物の少なくとも何れかに由来するものである、請求項8に記載のポリイミド繊維の製造方法。
前記テトラカルボン酸系化合物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびピロメリット酸二無水物の少なくとも何れかである、請求項10に記載のポリイミド繊維の製造方法。
前記ジアミン化合物は、パラフェニレンジアミン、および4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの少なくとも何れかである、請求項10または11に記載のポリイミド繊維の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリイミド繊維の製造においては、特許文献1及び2に記載されるように、湿式紡糸法を用いることができる。湿式紡糸法においては、ポリイミド繊維材料としてのポリイミド溶液を凝固浴中に吐出させて、材料を繊維状に凝固させている。湿式紡糸法に用いられる凝固浴の成分は、得られるポリイミド繊維の物性に影響を及ぼすことから、現在に至るまで種々の検討がなされている。
【0008】
例えば、特許文献1においては、ドープ液中のフェノール系溶媒と相溶性を有するアルコール系の溶媒を凝固浴として使用している。一方、特許文献2においては、水や低級アルコールなどのポリイミドと相溶性の悪い溶媒を用いると、ドープが速やかに固化し、得られる繊維が白濁してしまうことが記載されている。そこで、特許文献2においては、オクタノール等の高級アルコール、グリセリン、及び、ポリイミドドープに用いた溶媒の水溶液等を用いてドープの凝固速度を遅くすることが提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2では、ポリイミド繊維の材料として可溶性のポリイミドを用いるという制約がある。つまり、不溶性のポリイミドを繊維材料として使用することができず、ポリイミド繊維中のポリイミド成分の種類が制限されることになる。そのため、所望とする物性を有するポリイミド繊維を得ることができない。
【0010】
そこで、本発明では、より幅広い種類のポリイミド成分を用いて、良好な物性のポリイミド繊維を得ることのできる方法、及び、良好な物性を有するポリイミド繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の局面にかかるポリイミド繊維は、熱膨張率が−15ppm/K以上0ppm/K以下の範囲内となっている。
【0012】
上記の本発明の第1の局面にかかるポリイミド繊維は、その弾性率が320cN/dtex以上1,100cN/dtex以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
上記の本発明の第1の局面にかかるポリイミド繊維は、その強度が6.5cN/dtex以上25cN/dtex以下の範囲内であることが好ましい。
【0014】
上記の本発明の第1の局面にかかるポリイミド繊維は、その比重が1.45以上1.55以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
上記の本発明の第1の局面にかかるポリイミド繊維は、その平衡水分率が2%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法は、ポリイミド前駆体と、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内である化合物とを含むポリイミド前駆体溶液を、前記ポリイミド前駆体に対する貧溶媒または非溶媒中に吐出して、ポリイミド前駆体繊維を形成する凝固工程と、前記ポリイミド前駆体繊維を加熱しながら延伸して、ポリイミド繊維を形成する熱延伸工程と、を備える。
【0017】
上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、前記貧溶媒または非溶媒には、主成分として水が含まれていてもよい。また、貧溶媒と非溶媒とは、混合されてもよい。このような混合溶媒は、その性質によって貧溶媒または非溶媒に分類され得る。
【0018】
上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、前記ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸系化合物由来部位を含み、前記ポリイミド前駆体溶液において、前記化合物は、前記テトラカルボン酸系化合物由来部位の1モルに対して0.1モル以上1.0モル以下の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0019】
上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体を得る前駆体形成工程をさらに備え、前記ポリイミド前駆体溶液において、前記化合物は、前記テトラカルボン酸系化合物1モルに対して0.1モル以上1.0モル以下の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0020】
上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、前記テトラカルボン酸系化合物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびピロメリット酸二無水物の少なくとも何れかであることが好ましい。あるいは、上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、前記テトラカルボン酸系化合物由来部位は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸系化合物、およびピロメリット酸系化合物の少なくとも何れかに由来するものあることが好ましい。
【0021】
上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法において、前記ジアミン化合物は、パラフェニレンジアミン、および4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0022】
本発明の第3の局面は、ポリイミド前駆体溶液を原材料とするポリイミド繊維の製造において、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下である化合物を前記ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の凝固緩和剤として使用する方法である。
【0023】
また、本発明には、上記の本発明の第2の局面にかかるポリイミド繊維の製造方法によって得られるポリイミド繊維も含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、ポリイミド前駆体溶液中に予め25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内である化合物を含有させている。このような化合物は、ポリイミド前駆体の凝固を緩和するため、凝固工程において、ポリイミド前駆体の白色化などを抑制し、良好な物性のポリイミド繊維を得ることができる。
【0025】
上述の化合物がポリイミド前駆体の凝固緩和剤として機能するのは、以下のような理由によるものと考えられる。すなわち、ポリイミド前駆体溶液において、ポリマー型ポリイミド前駆体は酸性を有し、前記化合物は塩基性を有する。そのため、ポリイミド前駆体溶液中で、ポリマー型ポリイミド前駆体と前記化合物とが部分的に塩の状態で存在することになる。これにより、ポリイミド前駆体溶液の親水性が向上し、水系凝固浴などの貧溶媒中にポリイミド前駆体溶液を吐出させた場合には、ポリイミド前駆体の凝固を遅らせることが可能となると推察される。ここで、貧溶媒とは、ポリイミドに対する溶解度の小さい溶媒のことを意味する。また、非溶媒とは、ポリイミドが全く溶解しない溶媒のことを意味する。
【0026】
したがって、本発明のポリイミド繊維の製造方法によれば、ポリイミド前駆体溶液中に前記化合物を含ませることで、環境負荷のより少ない水系の凝固浴を使用して、良好な物性のポリイミド繊維を得ることができる。また、本発明のポリイミド繊維の製造方法によれば、繊維強化プラスチック(FRP)などの繊維材料として利用可能な強度を有するポリイミド繊維を得ることができる。
【0027】
さらに、本発明では、紡糸繊維中に前記化合物が含まれていることで、凝固工程の後に行われる熱延伸工程において、ポリイミド繊維形成時にイミド化が促進される。これにより、製造時間の短縮につながる。
【0028】
このように、前記化合物は、凝固工程においては凝固緩和剤として働く一方、その後の、熱延伸工程においては、イミド化促進剤としても働くことになる。すなわち、本発明において、前記化合物は、凝固緩和およびイミド化促進の両方の機能を発揮することができる。
【0029】
そして、本発明では、ポリイミド前駆体溶液から紡糸を行ってポリイミド繊維を製造することができる。これによれば、ポリイミド溶液からポリイミド繊維を製造する場合と比べて、ポリイミド成分(モノマー成分)の種類が限定されることなく、より広範な種類の成分を用いてポリイミド繊維を製造することができる。そのため、強度等の物性面により優れたポリイミド繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、本発明にかかるポリイミド繊維の製造方法の一例を挙げて説明する。また、本実施形態では、本発明にかかるポリイミド繊維の一例について説明する。さらに、本実施形態では、本発明のポリイミド繊維を製造するために用いられるポリイミド前駆体溶液及びポリイミド前駆体繊維について説明する。
【0032】
<ポリイミド繊維の製造方法>
本実施の形態では、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法を用いてポリイミド繊維を製造する方法について説明する。
図1には、本実施の形態にかかるポリイミド繊維の製造方法の工程の流れを示す。
図1に示すように、ポリイミド繊維の製造方法は、工程順に、凝固工程(S11)、水洗工程(S12)、延伸工程(S13)、巻取工程(S14)、浸漬工程(S15)、及び、熱延伸工程(S16)を含んでいる。
【0033】
凝固工程(S11)では、ポリイミド前駆体と、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内である化合物とを少なくとも含むポリイミド前駆体溶液を、水を主成分として含む凝固浴(ポリイミド前駆体に対する貧溶媒)中に吐出して、繊維状のポリイミド前駆体(すなわち、ポリイミド前駆体繊維)を形成する。なお、上記のような数値範囲内のpKaおよびLogPを有する化合物は、「親水性かつ塩基性を有する化合物」と言い換えることもできる。
凝固工程(S11)において使用されるポリイミド前駆体溶液は、例えば、以下のようにして調製する。
【0034】
ポリイミド前駆体溶液には、ポリイミド前駆体と上述の親水性かつ塩基性を有する化合物とが少なくとも含まれている。本実施形態のポリイミド前駆体溶液には、ポリイミド前駆体として、ポリアミック酸が含まれている。ポリアミック酸は、例えば、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを略等モルで重合させて得られる。ポリアミック酸は、例えば、加熱されることによりイミド化して、ポリイミド樹脂となる。ポリアミック酸は、ポリマー型ポリイミド前駆体とも呼ばれる。ここで、テトラカルボン酸系化合物には、「テトラカルボン酸」または「テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル等のテトラカルボン酸誘導体」が含まれる。なお、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル等のテトラカルボン酸誘導体は、テトラカルボン酸二無水物から調製することができる。
【0035】
ポリアミック酸を含むポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを有機溶媒に溶解、反応させることによって得られる。有機溶媒中に添加されるテトラカルボン系化合物とジアミン化合物とのモル比は、通常、55:45から45:55の範囲内である。なお、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とのモル比は、本発明の趣旨を損なわない限り、上記以外の比に適宜変更可能である。
【0036】
テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物などが用いられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。
【0037】
上記のテトラカルボン酸二無水物の中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)などが好ましい。
【0038】
また、ジアミン化合物は、芳香族ジアミン化合物であることが好ましい。
芳香族ジアミン化合物として、例えば、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−トリジン)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどが用いられる。これらのジアミン化合物は、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。
【0039】
上記のジアミン化合物の中でも、パラフェニレンジアミン(PPD)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−トリジン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、2、2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが好ましい。
【0040】
ポリイミド前駆体溶液を調製するために用いられる有機溶媒としては、溶媒中に含まれるポリイミド前駆体と反応することなく、これらを高濃度で溶解するものであればよい。このような有機溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAc)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPr)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ビス(メトキシメチル)アセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPr)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられる。これらの有機溶媒は、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。これらの有機溶媒のうち、取り扱いの簡便さから、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
【0041】
さらに、本実施形態のポリイミド前駆体溶液には、25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内であり、かつ25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内である化合物が含まれている。上述したように、このような化合物は、「親水性かつ塩基性を有する化合物」と言い換えることもできる。
【0042】
当該化合物の25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が0.75以下であると、ポリイミド前駆体溶液が親水性となって凝固した繊維が脆弱とならず好ましい。また、オクタノール水分配係数(LogP)は、0.25以下であることがより好ましい。また、当該化合物の25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上であると、繊維の凝固が不充分または繊維が扁平とならず好ましい。
【0043】
また、当該化合物の25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上であると、ポリイミド前駆体溶液が塩基性となって凝固した繊維が脆弱とならず好ましい。また、当該化合物の25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が10以下であると、紡糸液の粘度にむらができず好ましい。
【0044】
25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下の範囲内であり、かつ25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下の範囲内である化合物としては、例えば、1,3−ジアゾール系化合物、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどが挙げられる。
【0045】
なお、オクタノール水分配係数(LogP)を測定する方法としては、フラスコ振盪法を用いることができる。具体的な測定方法は、例えば、「OECD Test Guideline 107」や「日本工業規格(JIS)で規定されたJIS Z 7260−107」などに規定されている。また、共役酸の酸解離定数(pKa)は、任意の適切な測定装置を用いて測定してもよいし、「CRC HANDBOOK of CHEMISTRY and PHYSICS」などからも知ることができる。
【0046】
また、他の実施形態のポリイミド前駆体溶液には、1,3−ジアゾール系化合物が含まれている。1,3−ジアゾール系化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有してもよい。
【0047】
【化1】
(上記一般式(1)において、R
1からR
4は、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数が1以上2以下のアルキル基である。)
【0048】
さらに、1,3−ジアゾール系化合物は、1,3−ジアゾール、1−メチル−1,3−ジアゾール、2−メチル−1,3−ジアゾール、1,2−ジメチル−1,3−ジアゾール、2−エチル−4−メチル−1,3−ジアゾールであることがより好ましい。これらの1,3−ジアゾール系化合物を使用することにより、より良好な物性を有するポリイミド繊維を得ることができる。
【0049】
上記の1,3−ジアゾール系化合物の中でも、1,3−ジアゾール、1−メチル−1,3−ジアゾールがさらに好ましい。
【0050】
ポリイミド前駆体溶液中の親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)の含有量は、ポリイミド前駆体溶液中に含まれるテトラカルボン酸系化合物に由来する部位(例えば、テトラカルボン酸二無水物由来部位)1モルに対して、例えば、0.1モル以上1.0モル以下の範囲内とすることが好ましい。テトラカルボン酸系化合物由来部位(例えば、テトラカルボン酸二無水物由来部位)1モルに対する親水性かつ塩基性を有する化合物の含有量が0.1モル以上であれば、ポリイミド前駆体溶液を凝固浴に吐出させた場合のポリイミド前駆体の凝固を遅らせることが可能となる。また、テトラカルボン酸系化合物由来部位(例えば、テトラカルボン酸二無水物由来部位)1モルに対する親水性かつ塩基性を有する化合物の含有量が1.0モル以下であれば、ポリイミド前駆体溶液を凝固浴に吐出させた場合のポリイミド前駆体の膨潤を遅らせることが可能となる。すなわち、ポリイミド前駆体溶液中の親水性かつ塩基性を有する化合物の含有量を、0.1モル以上1.0モル以下の範囲内とすることで、良好な物性を有するポリイミド繊維を製造することができる。また、テトラカルボン酸系化合物由来部位(例えば、テトラカルボン酸二無水物由来部位)1モルに対する親水性かつ塩基性を有する化合物の含有量は、0.1モル以上0.5モル以下の範囲内であることがより好ましく、0.125モル以上0.4モル以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態のポリイミド繊維の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の調製において、先ず、ポリイミド前駆体の構成成分(例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物)を有機溶媒に溶解させた後に、親水性かつ塩基性を有する化合物を添加することが好ましい。また、ポリイミド前駆体の構成成分を有機溶媒に溶解させた後、所定時間反応させ、その後、親水性かつ塩基性を有する化合物を添加することがより好ましい。
【0052】
すなわち、本実施形態のポリイミド繊維の製造方法では、凝固工程(S11)の前に、ポリイミド前駆体の材料となるテトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体を得る前駆体形成工程を行うことが好ましい。この前駆体形成工程を行う場合には、その後の凝固工程(S11)でのポリイミド前駆体溶液中における親水性かつ塩基性を有する化合物の含有量は、ポリイミド前駆体の材料となるテトラカルボン酸系化合物1モルに対して、上述の範囲内とすることができる。
【0053】
このように、ポリイミドのモノマー成分の添加と、親水性かつ塩基性を有する化合物の添加との間に所定時間を置くことにより、より良好な物性を有するポリイミド繊維を得ることができる。しかし、本発明のポリイミド繊維の製造方法は、この方法に限定はされず、ポリイミドのモノマー成分と親水性かつ塩基性を有する化合物とを同時に添加してもよいし、親水性かつ塩基性を有する化合物を先に添加し、その後、ポリイミド前駆体形成用のモノマーを添加してもよい。
【0054】
ポリイミド前駆体の構成成分を有機溶媒に溶解させた段階でのポリイミド前駆体溶液の濃度は、例えば、1重量%以上50重量%以下の範囲内である。この濃度は、10重量%以上30重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0055】
なお、本実施形態にかかるポリイミド繊維の製造方法では、調製されたポリイミド前駆体を用いてポリイミド前駆体溶液を調製してもよい。この場合には、前駆体形成工程は不要となる。この場合、調製されたポリイミド前駆体には、テトラカルボン酸系化合物由来部位とジアミン由来部位とが含まれる。
【0056】
凝固工程(S11)では、以上のようにして調製したポリイミド前駆体溶液を、水を主成分として含む凝固浴中に吐出して、ポリイミド前駆体繊維を形成する。
この凝固工程(S11)で、ポリイミド前駆体溶液を繊維状に吐出するために使用される吐出機のノズル径は、例えば、0.05mm以上0.30mm以下の範囲内である。吐出機のノズル径は、所望とする繊維径に応じて適宜変更することができる。
【0057】
紡糸時の凝固浴中の液体成分は、水を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、凝固浴中の液体中に90質量%以上100質量%以下で構成される成分のことを意味する。本実施形態では、紡糸時の凝固浴中の液体成分は、水のみであってもよい。水以外の成分として、例えば、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAc)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPr)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ビス(メトキシメチル)アセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPr)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N−’ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが含まれていてもよい。なお、凝固工程が進行する際には、凝固浴中には、吐出されたポリイミド前駆体溶液中に含まれる有機溶媒の成分がわずかに含まれることになる。
【0058】
凝固工程(S11)後の水洗工程(S12)では、紡糸後のポリイミド前駆体繊維を、例えば、水などで洗浄する。水洗工程では、紡糸されたポリイミド前駆体繊維を所定の長さを有する水槽中に通す。なお、本実施の形態では、水洗工程において水を用いているが、本発明の洗浄工程において使用される溶媒は、必ずしも水に限定はされない。使用される溶媒としては、ポリイミド前駆体に対する貧溶媒または非溶媒が挙げられる。このような溶媒としては、例えば、アルコール類などが挙げられる。
【0059】
延伸工程(S13)では、例えば、水などを含む延伸浴中で、水洗後のポリイミド繊維を延伸する。本実施形態では、1つの延伸浴を用いて延伸を行っているが、本発明はこれに限定されず、2つ以上の延伸浴を用いて多段延伸を行ってもよい。また、この延伸工程については、必ずしも延伸浴中で行う必要はなく、大気中で行ってもよい。また、延伸浴中に含まれる溶媒は、必ずしも水に限定はされず、ポリイミド前駆体に対する貧溶媒または非溶媒であればよい。このような溶媒としては、例えば、アルコール類などが挙げられる。
【0060】
なお、延伸工程(S13)では、繊維状体は、例えば、1.1倍以上延伸倍率で延伸される。延伸倍率は、延伸浴の入口側における繊維状体の速度V
1に対する延伸浴の出口側における繊維状体の速度V
2の速度比V
2/V
1から求められる(
図1参照)。この延伸倍率は、1.5倍以上であることが好ましい。また、繊維状体は、切断する倍率未満の延伸倍率(すなわち、切断する直前の倍率以下の延伸倍率)で延伸される。延伸倍率がこのような数値範囲内にあることにより、高強度化および高弾性率化という効果が得られる。
【0061】
巻取工程(S14)では、延伸工程後のポリイミド前駆体繊維をポリプロピレンパイプ(PPパイプ)などの樹脂パイプに巻き取る。そして、繊維巻き取り後のパイプごと水中に浸漬させて、ポリイミド前駆体繊維に付着している有機溶媒を除去する。その後、ポリイミド前駆体繊維を、例えば、アルコール類に浸漬させて、ポリイミド前駆体繊維に含まれている水分を除去してもよい。これらの一連の工程は、浸漬工程(S15)と呼ばれる。
【0062】
続いて、熱延伸工程(S16)が行われる。熱延伸工程(S16)では、ポリイミド前駆体繊維は、延伸されながら、加熱される。この加熱により、ポリイミド前駆体はイミド化され、ポリイミド繊維となる。
図1に示すように、熱延伸工程(S16)は、2つの駆動ローラ61・62と、これら2つの駆動ローラの間に配置された管状炉63とによって行われる。駆動ローラ61・62は、ポリイミド前駆体またはポリイミドからなる繊維状体を、延伸させつつ、
図1に示す矢印方向に送出させる。管状炉63の内部は、例えば、350℃以上500℃以下の範囲内の温度、好ましくは375℃以上475℃以下の範囲内の温度に設定されている。この管状炉63内を繊維状体が通過する間には、ポリイミド前駆体のイミド化が進み、ポリイミド繊維が形成される。
【0063】
なお、熱延伸工程(S16)では、繊維状体は、例えば、1.1倍以上の延伸倍率で延伸される。熱延伸工程(S16)における延伸倍率は、延伸工程(S13)での延伸倍率と同様に、管状炉63の入口側における繊維状体の速度と、管状炉63の出口側における繊維状体の速度との速度比から求められる。また、繊維状体は、切断する倍率未満の延伸倍率(すなわち、切断する直前の倍率以下の延伸倍率)で延伸される。延伸倍率がこのような範囲内にあることにより、高強度、高弾性率のポリイミド繊維を得ることができる。
【0064】
以上のような製造工程によって、ポリイミド繊維が形成される。上述したポリイミド繊維の製造方法によれば、ポリイミド前駆体溶液中に親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)を含ませることで、環境負荷のより少ない水系の凝固浴を使用して、良好な物性のポリイミド繊維を得ることができる。また、本実施形態にかかる製造方法によって得られたポリイミド繊維は、繊維強化プラスチック(FRP)などの繊維材料として利用可能な強度を有する。また、上述した製造方法では、ポリイミド前駆体溶液中に親水性かつ塩基性を有する化合物を含んでいるため、紡糸繊維(すなわち、ポリイミド前駆体繊維)中にも親水性かつ塩基性を有する化合物が含まれることになる。ポリイミド前駆体繊維中に親水性かつ塩基性を有する化合物が含まれていることで、凝固工程の後に行われる熱延伸工程において、ポリアミック酸のイミド化が促進される。これは、親水性かつ塩基性を有する化合物がイミド化剤として作用するためであると考えられる。これにより、ポリイミド繊維の製造に要する時間の短縮につながる。
【0065】
また、
図1には示していないが、浸漬工程(S15)と熱延伸工程(S16)との間に、得られたポリイミド前駆体繊維を常温大気中で風乾させる乾燥工程を設けてもよい。
【0066】
<ポリイミド繊維>
続いて、本発明のポリイミド繊維について説明する。本発明のポリイミド繊維の一例としては、上述したポリイミド繊維の製造方法によって製造されたポリイミド繊維が挙げられる。但し、本発明はこれに限定はされない。
【0067】
本発明のポリイミド繊維の他の例としては、熱膨張率が−15ppm/K以上0ppm/K以下の範囲内であるポリイミド繊維が挙げられる。ポリイミド繊維の熱膨張率が−15ppm/K以上であれば、高温状態での繊維の必要以上の収縮を抑えることができる。ポリイミド繊維の熱膨張率が0ppm/K以下であれば、寸法安定性が得られる。なお、ポリイミド繊維の熱膨張率は、−11ppm以上−3ppm/K以下であることが好ましく、−10ppm/K以上−6ppm/K以下であることがさらに好ましい。
【0068】
ポリイミド繊維の熱膨張率の測定は、測定機器として、例えば、熱機械分析装置TMA−60(株式会社島津製作所製)を用いて行うことができる。
【0069】
この熱膨張率の測定方法では、測定対象物(例えば、ポリイミド繊維)に対して、所定の荷重をかけた状態で、所定の温度範囲で温度を所定の上昇率で上昇させていく。そして、定められた温度範囲(例えば、100℃以上200℃以下)での膨張率を、装置TMA−60により測定する。
【0070】
なお、上述した本発明のポリイミド繊維は、弾性率が320cN/dtex以上1,100cN/dtex以下の範囲内であってもよい。ポリイミド繊維の弾性率が320cN/dtex以上であることにより、変形しにくいという効果が得られる。この弾性率は、490cN/dtex以上1,100cN/dtex以下の範囲内であることが好ましく、650cN/dtex以上1,100cN/dtex以下の範囲内であることがより好ましい。なお、弾性率(cN/dtex)は、以下の式を用いて、弾性率(GPa)に換算される。
弾性率(GPa)=弾性率(cN/dtex)×比重÷10
【0071】
ポリイミド繊維の弾性率は、例えば、日本工業規格(JIS)で規定された番号「JIS R7606」の方法に準拠した方法で測定することができる。
【0072】
また、上述した本発明のポリイミド繊維は、強度が6.5cN/dtex以上25cN/dtex以下の範囲内であってもよい。ポリイミド繊維の強度は、10cN/dtex以上25cN/dtex以下の範囲内であることが好ましく、13cN/dtex以上25cN/dtex以下の範囲内であることがより好ましく、15cN/dtex以上25cN/dtex以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、強度(cN/dtex)は、以下の式を用いて、強度(GPa)に換算される。
強度(GPa)=強度(cN/dtex)×比重÷10
【0073】
ポリイミド繊維の強度は、例えば、日本工業規格(JIS)で規定された番号「JIS R7606」の方法に準拠した方法で測定することができる。
【0074】
また、本実施形態では、ポリイミド繊維の繊度(dtex)は、10(dtex)以下であってもよい。このような繊度とすることにより、よりしなやかな繊維を得ることができる。また、本実施形態では、ポリイミド繊維の伸び(%)は、1.5(%)以上であってもよい。これにより、しなやかな繊維を得ることができる。さらに、繊維をよりしなやかにするために、本実施形態では、ポリイミド繊維の伸び(%)は、2.0(%)以上であることが好ましく、2.5(%)以上であることがより好ましい。また、本実施形態では、ポリイミド繊維のガラス転移温度(℃)は、300(℃)以上であってもよい。これにより、繊維の耐熱性を向上させることができる。さらに、繊維の耐熱性をより向上させるために、本実施形態では、ポリイミド繊維のガラス転移温度(℃)は、315(℃)以上であることが好ましく、330(℃)以上であることがより好ましい。
【0075】
さらに、本実施形態では、ポリイミド繊維の比重は、1.45以上1.55以下の範囲内であることが好ましい。さらに、本実施形態では、ポリイミド繊維の平衡水分率(%)は、2(%)以下であることが好ましく、1(%)以下であることがより好ましい。
【0076】
なお、上述した本発明のポリイミド繊維は、例えば、本発明のポリイミド繊維の製造方法によって製造することができる。上述したように、本発明のポリイミド繊維の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液に親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)が含まれている。そのため、この方法を用いて製造されたポリイミド繊維中には、親水性かつ塩基性を有する化合物が残留物として含まれている可能性がある。このことから、本発明のポリイミド繊維は、親水性かつ塩基性を有する化合物を含んでいてもよい。
【0077】
すなわち、本発明のポリイミド繊維は、ポリアミック酸を含むポリイミド前駆体溶液から製造することができる。上述したように、ポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを有機溶媒中で重合させることによって得られる。そのため、本発明のポリイミド繊維は、ポリイミドの分子構造中に、テトラカルボン酸系化合物由来単位とジアミン由来単位とを含んでいる。例えば、本発明のポリイミド繊維中のポリイミドは、テトラカルボン酸系化合物由来単位とジアミン由来単位とから形成されている。
【0078】
さらに、本発明のポリイミド繊維の他の例として、親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)を含んでいるポリイミド繊維が挙げられる。ここでのポリイミド繊維の熱膨張率は、上述した−15ppm/K以上0ppm/K以下の範囲内には必ずしも限定はされない。
【0079】
また、本発明のポリイミド繊維は、非熱可塑性を有していることが好ましい。すなわち、本発明のポリイミド繊維は、非熱可塑性ポリイミド繊維であってもよい。ポリイミド繊維が非熱可塑性を有することで、熱を加えた場合に繊維が軟化したり形状変化したりすることを抑えることができる。
【0080】
また、本発明のポリイミド繊維は、高温化において比較的高い強度保持率を有することができる。具体的には、300℃の温度下で100時間保持したときに、保持前の強度に対して90%以上の強度保持率を有していることが好ましい。
【0081】
<ポリイミド前駆体溶液>
続いて、本発明のポリイミド前駆体溶液について説明する。本発明のポリイミド前駆体溶液は、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法を用いたポリイミド繊維製造用のポリイミド前駆体溶液である。このポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体と、親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)と、これらを溶解する溶媒とを含有する。
【0082】
ポリイミド前駆体溶液中に含まれるポリイミド前駆体は、ポリアミック酸である。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを略等モルで重合させて得られる。テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とのモル比は、通常、55:45から45:55の範囲内である。なお、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とのモル比は、本発明の趣旨を損なわない限り、上記以外の比に適宜変更可能である。本発明のポリイミド前駆体溶液中に含まれるポリイミド前駆体についての詳細は、上述のポリイミド繊維の製造方法において説明したため、ここでは省略する。
【0083】
ポリイミド前駆体溶液中に含まれる親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)についても、上述のポリイミド繊維の製造方法において説明したものが同様に適用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0084】
ポリイミド前駆体溶液中に含まれる溶媒についても、上述のポリイミド繊維の製造方法において説明したものが同様に適用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0085】
本発明のポリイミド前駆体溶液には、これら以外に、例えば、脱水剤、イミド化剤、触媒、フィラー、酸化防止剤、難燃剤、消泡剤、潤滑剤、着色剤、シランカップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤などが含まれていてもよい。
【0086】
<ポリイミド前駆体繊維>
続いて、本発明のポリイミド前駆体繊維について説明する。本発明のポリイミド前駆体繊維の一例としては、上述したポリイミド繊維の製造方法において、熱延伸工程(S16)が実施される前の繊維状体を挙げることができる。すなわち、本発明のポリイミド前駆体繊維は、例えば、上述したポリイミド前駆体繊維の製造方法と同じ方法を用いて、ポリイミド前駆体溶液を作製し、これを紡糸して繊維状に成形することによって得ることができる。
【0087】
本発明のポリイミド前駆体繊維には、ポリイミド前駆体と、親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)とが少なくとも含まれている。
ポリイミド前駆体繊維に含まれるポリイミド前駆体は、ポリアミック酸である。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とを略等モルで重合させて得られる。テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とのモル比は、通常、55:45から45:55の範囲内である。なお、テトラカルボン酸系化合物とジアミン化合物とのモル比は、本発明の趣旨を損なわない限り、上記以外の比に適宜変更可能である。本発明のポリイミド前駆体繊維に含まれるポリイミド前駆体についての詳細は、上述のポリイミド繊維の製造方法において説明したため、ここでは省略する。
【0088】
ポリイミド前駆体繊維中に含まれる親水性かつ塩基性を有する化合物(例えば、1,3−ジアゾール系化合物)についても、上述のポリイミド繊維の製造方法において説明したものが同様に適用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0089】
本発明のポリイミド前駆体繊維は、例えば、上述したポリイミド繊維の製造方法における熱延伸工程(S16)に準じた方法で加熱しながら延伸することによって、ポリイミド繊維となる。本発明のポリイミド前駆体繊維から得られるポリイミド繊維は、本発明のポリイミド繊維の一例である。
【0090】
<1,3−ジアゾールの使用方法>
本発明の1,3−ジアゾールの使用方法は、ポリイミド前駆体溶液を原材料とするポリイミド繊維の製造において、1,3−ジアゾール系化合物をポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の凝固緩和剤として使用する方法である。なお、この方法は、1,3−ジアゾール系化合物の代わりに、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどの他の化合物を用いて実現することができる。すなわち、ポリイミド前駆体溶液を原材料とするポリイミド繊維の製造において、上述の親水性かつ塩基性を有する化合物を使用する方法も、本発明の一態様である。
【0091】
本発明の1,3−ジアゾールの使用方法によれば、ポリイミド前駆体溶液中に1,3−ジアゾール系化合物が含まれていることで、ポリイミド前駆体溶液を水系溶媒中に吐出した場合に、ポリイミド前駆体が急速に凝固することを抑えることができる。
【0092】
もしポリイミド前駆体溶液中に1,3−ジアゾール系化合物が含まれていなければ、水系溶媒中に吐出された繊維状のポリイミド前駆体は、その周囲のみが急速に凝固する一方、その中央部分が凝固せず高粘度の液状の状態となってしまう可能性が高い。このような状態では、ポリイミド繊維の成形は不可能である。
【0093】
これに対して、本方法を用いて、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法によってポリイミド繊維の製造を行えば、ポリイミド前駆体用溶液中に含まれる1,3−ジアゾール系化合物がポリイミド前駆体の凝固緩和剤として作用する。そのため、良好な物性を有するポリイミド繊維を製造することができる。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0095】
〔実施例〕
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、以下に示される実施例は、例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0096】
(実施例1)
1.ポリマー型ポリイミド前駆体溶液の調製
攪拌羽を取り付けた3Lの合成容器に、136gのパラフェニレンジアミン(PPD)と、N−メチルピロリドン2,224gとを投入し、PPDをN−メチルピロリドンに溶解させた。次に、259.0gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、82.30gのピロメリット酸二無水物(PMDA)とを投入し、室温で反応させ、濃度が17.7重量%のポリイミド前駆体溶液を調製した。
【0097】
表1に示すように、BPDA、PMDA、及びPPDの組成(モル比)は、BPDA:PMDA:PPD=70:30:100であった。
【0098】
次に、得られたポリイミド前駆体溶液に、1,3−ジアゾール(LogP:−0.02、pKa:6.99)21.41gをN−メチルピロリドン40.41gに溶解させた溶液を加え、紡糸用ポリイミド前駆体溶液を得た。1,3−ジアゾールの濃度モル比は、表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物(BPDA+PMDA)1モルに対して、0.25モルであった。
【0099】
2.ポリイミド前駆体繊維の紡糸及び加熱延伸
上記の方法で得られた紡糸用ポリイミド前駆体溶液を、紡糸用吐出機を用いて押し出した後、水を主成分として含む凝固浴中に導入し、繊維状に成形した。本実施例で使用した紡糸用吐出機のノズル径は、0.1mmであり、ノズル孔数は25個であった。また、時間当たりの吐出量は、3.2cc/分であった。
【0100】
その後、得られた繊維状のポリイミド前駆体を水洗してポリイミド前駆体繊維を得た。続いて、得られたポリイミド前駆体繊維について、延伸浴中を通過させながら延伸を行った。この延伸工程での延伸倍率は、1.8倍(表1参照)であった。延伸後のポリイミド前駆体繊維をPPパイプに巻き取り、水中に浸漬させた後、エタノール中に浸漬させた。
【0101】
続いて、熱延伸装置を用いて、ポリイミド前駆体繊維を加熱延伸し、ポリイミド繊維を得た。この加熱延伸工程での加熱温度は、400℃(表1参照)であった。
【0102】
以下の実施例2から実施例14では、ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド組成(テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類)、添加する凝固緩和剤の種類、及び、繊維の製造条件を、実施例1から適宜変更して、ポリイミド繊維の製造を行った。
【0103】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同じ組成のポリイミド前駆体溶液用いて、ポリイミド繊維の製造を行った。但し、実施例2では、得られたポリイミド前駆体溶液に、1,3−ジアゾール(LogP:−0.02、pKa:6.99)10.71gをN−メチルピロリドン20.22gに溶解させた溶液を加え、紡糸用ポリイミド前駆体溶液を得た。1,3−ジアゾールの濃度モル比は、表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物(BPDA+PMDA)1モルに対して、0.125モルであった。
【0104】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と同じ組成のポリイミド前駆体溶液用いて、ポリイミド繊維の製造を行った。但し、実施例3では、得られたポリイミド前駆体溶液に、1,3−ジアゾール(LogP:−0.02、pKa:6.99)34.26gをN−メチルピロリドン64.67gに溶解させた溶液を加え、紡糸用ポリイミド前駆体溶液を得た。1,3−ジアゾールの濃度モル比は、表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物(BPDA+PMDA)1モルに対して、0.40モルであった。
【0105】
(実施例4)
実施例4では、実施例1と同じ組成の紡糸用ポリイミド前駆体溶液用いて、ポリイミド繊維の製造を行った。但し、実施例4では、加熱延伸工程での加熱温度を、450℃(表1参照)とした。
【0106】
(実施例5)
実施例5では、実施例1と同じポリイミド組成とした。また、実施例5では、凝固緩和剤として、1−メチル−1,3−ジアゾール(LogP:−0.19、pKa:6.95)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。
【0107】
(実施例6)
実施例6では、実施例5と同じ組成の紡糸用ポリイミド前駆体溶液用いて、ポリイミド繊維の製造を行った。但し、実施例6では、紡糸用吐出機のノズル径は、0.075mmであり、延伸工程での延伸倍率は、1.7倍であった(表1参照)。この実施例6で得られたポリイミド繊維の断面をマイクロスコープで撮影した。その結果を
図2に示す。
【0108】
(実施例7)
実施例7では、実施例1と同じポリイミド組成とした。また、実施例7では、凝固緩和剤として、2−メチル−1,3−ジアゾール(LogP:0.24、pKa:7.86)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。
【0109】
(実施例8)
実施例8では、実施例1と同じポリイミド組成とした。また、実施例8では、凝固緩和剤として、1,2−ジメチル−1,3−ジアゾール(LogP:0.11、pKa:7.76)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。
【0110】
(実施例9)
実施例9では、ポリイミド組成を、BPDA:PMDA:PPD=60:40:100とした(表1参照)。また、実施例9では、凝固緩和剤として、1−メチル−1,3−ジアゾール(LogP:−0.19、pKa:6.95)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。
【0111】
(実施例10)
実施例10では、ポリイミド組成を、BPDA:PPD=100:100とした(表1参照)。実施例10では、PMDAは添加しなかった。また、実施例10では、凝固緩和剤として、1,3−ジアゾール(LogP:−0.02、pKa:6.99)を使用した(表1参照)。また、実施例10では、繊維の製造条件は、延伸工程での延伸倍率を、2.0倍とし、加熱延伸工程での加熱温度を、450℃とした(表1参照)。
【0112】
(実施例11)
実施例11では、実施例10と同じポリイミド組成とした。また、実施例11では、凝固緩和剤として、1−メチル−1,3−ジアゾール(LogP:−0.19、pKa:6.95)を使用した(表1参照)。また、実施例11では、繊維の製造条件は、延伸工程での延伸倍率を、1.8倍とし、加熱延伸工程での加熱温度を、450℃とした(表1参照)。
【0113】
(実施例12)
実施例12では、ポリイミド組成を、BPDA:PMDA:ODA:PPD=70:30:15:85とした(表1参照)。実施例12では、2種類のジアミン化合物(ODA、PPD)を用いた。また、実施例12では、凝固緩和剤として、1−メチル−1,3−ジアゾール(LogP:−0.19、pKa:6.95)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。
【0114】
(実施例13)
実施例13では、実施例1と同じポリイミド組成とした。また、実施例13では、凝固緩和剤として、N,N−ジメチルエタノールアミン(LogP:−0.55、pKa:9.30)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。N,N−ジメチルエタノールアミンの濃度モル比は、表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物(BPDA+PMDA)1モルに対して、0.175モルであった。
【0115】
(実施例14)
実施例14では、実施例1と同じポリイミド組成とした。また、実施例14では、凝固緩和剤として、トリイソプロパノールアミン(LogP:−0.015、pKa:8.06)を使用した(表1参照)。また、繊維の製造条件は、実施例1と同条件とした(表1参照)。トリイソプロパノールアミンの濃度モル比は、表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物(BPDA+PMDA)1モルに対して、0.25モルであった。
【0116】
表1には、各実施例のポリイミド前駆体溶液の組成、および、製造条件をまとめて示す。
【0118】
3.ポリイミド繊維の物性測定
以上の方法で得られた各実施例のポリイミド繊維について、以下の方法で物性測定を行った。その結果を、表2に示す。なお、ガラス転移温度と熱膨張率の測定については、一部の実施例のポリイミド繊維のみについて行った。表2では、測定を行った実施例の結果のみを記載し、未実施の実施例は空欄とした。
【0119】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメント社製の動的粘弾性装置DM6100を用いて、ポリイミド繊維に、振幅98mN、周波数1.0Hzの正弦荷重をかけ、2℃/分の昇温速度の過程における損失弾性率を求めることによりガラス転移温度を測定した。
【0120】
(繊度)
サーチ社製のオートバイブロ式繊度測定器DC21を用いて、ポリイミド繊維の繊度を測定した。
【0121】
(比重)
ポリイミド繊維の比重は、トルエンおよび四塩化炭素を用いた浮沈法により測定した。なお、比重の測定は25℃で行った。
【0122】
(引張物性)
得られたポリイミド繊維について、「JIS R7607」に準拠した方法で、弾性率(cN/dtex)、強度(cN/dtex)、伸び(%)を測定した。そして、弾性率(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、弾性率(GPa)を求めた。また、強度(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、強度(GPa)を求めた。
【0123】
(熱膨張率)
ポリイミド繊維の熱膨張率の測定は、測定機器として、熱機械分析装置TMA−60(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
【0124】
この方法では、測定対象物(例えば、ポリイミド繊維)に対して、下記に示すような所定の荷重をかけた状態で、所定の温度範囲及び昇温速度で温度を徐々に上昇させていき、定められた温度範囲(例えば、100℃以上200℃以下)での膨張率を、装置TMA−60により測定した。本実施例では、下記の条件で2回の測定操作を行い、2回目の測定操作時における温度100℃以上200℃以下の範囲での膨張率を、各繊維の熱膨張率(ppm/K)とした。
(1回目の測定操作)
測定温度範囲:40℃−350℃
昇温速度:10℃/分
荷重:2.0g
(2回目の測定操作)
測定温度範囲:40℃−350℃
昇温速度:5℃/分
荷重:2.0g
【0125】
(強度保持率)
250℃または300℃にした管状炉内で、測定対象物(得られたポリイミド繊維)を無張力下で100時間保持した。その後、100時間保持後の引張強度を測定した。そして、保持前の引張強度に対する100時間保持後の引張強度の割合を、引張強度保持率(%)として求めた。
【0126】
(平衡水分率)
温度25℃、相対湿度60%の条件下で測定対象物(得られたポリイミド繊維)を24時間放置した後、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定した。
【0127】
以上の方法で測定した、ポリイミド繊維の繊度(dtex)、強度(cN/dtex、GPa)、弾性率(cN/dtex、GPa)、伸び(%)、比重、熱膨張率(ppm/K)、強度保持率、ガラス転移温度(損失弾性率)(℃)、及び平衡水分率を、表2に示す。
【0129】
さらに、比較のために、以下の各比較例及び各参考例のような試験を行った。
【0130】
(比較例1)
1,3−ジアゾールを添加しない以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は直ちに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0131】
(比較例2)
1,3−ジアゾールの代わりに、ピリジン(LogP:0.65、pKa:5.23)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0132】
(比較例3)
1,3−ジアゾールの代わりに、β−ピコリン(LogP:1.2、pKa:5.70)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0133】
(比較例4)
1,3−ジアゾールの代わりに、ピペラジン(LogP:−1.5、pKa:9.73)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、吐出された繊維が扁平であり、かつ凝固不十分で延伸ができなかった。
【0134】
(比較例5)
1,3−ジアゾールの代わりに、トリエタノールアミン(LogP:−1.0、pKa:7.76)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、吐出された繊維が扁平であり、かつ凝固不十分で延伸ができなかった。
【0135】
(比較例6)
1,3−ジアゾールの代わりに、モルホリン(LogP:−0.86、pKa:8.49)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、吐出された繊維が扁平であり、かつ凝固不十分で延伸ができなかった。
【0136】
(比較例7)
1,3−ジアゾールの代わりに、トリエチルアミン(LogP:1.45、pKa:10.78)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0137】
(比較例8)
1,3−ジアゾールの代わりに、トリプロピルアミン(LogP:2.79、pKa:10.65)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0138】
(比較例9)
1,3−ジアゾールの代わりに、トリブチルアミン(LogP:>2.79、pKa:10.89)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0139】
表3には、各比較例のポリイミド前駆体溶液の組成、および、製造条件をまとめて示す。
【0141】
(参考例1)
1,3−ジアゾールをテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、0.05モルとした以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに失透凝固し、脆弱で延伸ができなかった。
【0142】
(参考例2)
1,3−ジアゾールをテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、1.25モルとした以外は、実施例1と同じ方法で、ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同じ方法でポリイミド繊維の製造を試みた。しかし、凝固工程(S11)において、水凝固浴中にポリイミド前駆体溶液を吐出したところ、ポリイミド前駆体溶液は速やかに膨潤し、凝固が不充分で延伸ができなかった。
【0143】
以上の結果から、凝固緩和剤として、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下である化合物を添加することで、適切な物性を有するポリイミド繊維を製造することが可能になることが裏付けられた。また、各実施例で得られたポリイミド繊維は、その繊度を10以下とすることができた。
【解決手段】本発明のポリイミド繊維の製造方法は、ポリイミド前駆体と、25℃での水中の共役酸の酸解離定数(pKa)が6.0以上10以下であり、かつ25℃でのオクタノール水分配係数(LogP)が−0.75以上0.75以下である化合物とを含むポリイミド前駆体溶液を、前記ポリイミド前駆体に対する貧溶媒または非溶媒中に吐出して、ポリイミド前駆体繊維を形成する凝固工程と、前記ポリイミド前駆体繊維を加熱しながら延伸して、ポリイミド繊維を形成する熱延伸工程とを備える。また、本発明のポリイミド繊維は、熱膨張率が−15ppm/K以上0ppm/K以下の範囲内という物性を有する。