特許第6184023号(P6184023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184023
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20170814BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20170814BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20170814BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   G03G9/08 331
   G03G9/08 365
   C08G63/12
   C08L67/00
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-51388(P2014-51388)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-175940(P2015-175940A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】白井 英治
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 浩太
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−116666(JP,A)
【文献】 特開2008−249886(JP,A)
【文献】 特開2006−018032(JP,A)
【文献】 特開2007−133391(JP,A)
【文献】 特開2007−163681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G9/00−9/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0〜15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、トナー用結着樹脂組成物。
【請求項2】
非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35〜95/5である、請求項1記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項3】
水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40〜140mgKOH/gである、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項4】
水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項1〜3いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項5】
非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2〜3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1〜4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項6】
結晶性ポリエステルにおける水酸基を有する炭化水素ワックス由来の吸熱量が、理論吸熱量の40%未満である、請求項1〜5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0〜15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した電子写真用のトナーの開発が要求されている。
【0003】
高画質化及び高速化に対応して、特に熱特性を改善するために、トナー用結着樹脂として、組成の調整が容易であるポリエステル樹脂が汎用されており、結晶性ポリエステルやワックスを混合して用いる試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、低温定着性、着色剤の分散性、加圧保存性の向上を目的として、炭素数8〜14のα,ω-脂肪族ジオールを70モル%以上含むアルコール成分とフマル酸化合物及び/又はマレイン酸化合物を70モル%以上含むカルボン酸成分を縮重合させて得られる結晶性ポリエステルと、炭素数2〜5の脂肪族ジオールを70モル%以上含有するアルコール成分とカルボン酸成分を縮重合させて得られる非晶質ポリエステルとを含有してなるトナー用結着樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献2には、耐オフセット性を改善することを目的として、数平均分子量が400〜1000である1価の脂肪族化合物を含有してなる原料モノマーを縮重合させて得られるポリエステルを含有してなる電子写真用トナー用結着樹脂であって、前記1価の脂肪族化合物が1価の脂肪族カルボン酸化合物及び1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種である電子写真用トナー用結着樹脂が開示されている。
【0006】
特許文献3には、低温定着性、粉砕性、保存性の向上と、紙の巻き付きを防ぐことを目的として、炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物及び炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の脂肪族化合物を0.1〜10モル%含有したモノマー混合物を縮重合させて得られた結晶性ポリエステルからなるトナー用結着樹脂が開示されている。
【0007】
特許文献4には、低温定着性、耐オフセット性、環境安定性、帯電安定性、定着性、保存安定性、現像特性、流動性の改善を目的として、少なくとも結着樹脂及び着色剤を含有する静電荷像現像用トナーにおいて、該結着樹脂は、炭素数22乃至102の長鎖アルキル基と、末端に水酸基或いはカルボキシル基とを有する化合物で少なくとも一部が変性されたポリエステル樹脂を含有していることを特徴とする静電荷像現像用トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−58337号公報
【特許文献2】特開2007−93808号公報
【特許文献3】特開2003−337443号公報
【特許文献4】特開平7−175263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電子写真法においては、より一層優れた低温定着性を有するトナーの開発が求められており、特に、高速機では、定着機からトナーに伝導するエネルギー量が少なくなるため、紙面の温度が低くなり、さらなる低温定着性の向上が求められる。低温定着性を向上させるためには、トナーに結晶性ポリエステル等を含有させることで、融解挙動を調節する方法が用いられる。しかし、融解しやすくなったトナーは、高温保存時の保存性に劣る。また、高湿度下では、樹脂が吸湿して、さらに保存性が低下するという問題がある。従って、低温定着性と耐熱保存性を両立し、さらに高湿保存性に優れるトナーが求められている。
【0010】
本発明は、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を両立でき、さらに高湿保存性に優れるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び高湿保存性に影響する要因は、トナーに含有される結着樹脂中の樹脂の結晶性の挙動によるものと考えて検討を行った。その結果、特定の炭化水素ワックスを、特定のモノマーからなり、特定の融点範囲を有する結晶性ポリエステルに結合させ、非晶質ポリエステルと混合することで、得られるトナーに優れた低温定着性及び耐熱保存性を発現させ、さらに高湿保存性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、
〔1〕 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを1.0〜15質量%含み、かつ炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、トナー用結着樹脂組成物、
〔2〕 前記〔1〕記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー、並びに
〔3〕 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを1.0〜15質量%含み、かつ炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、得られるトナーの低温定着性及び耐熱保存性を両立することができ、さらに高湿保存性に優れるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを1.0〜15質量%含み、かつ炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い。
【0015】
本発明の結着樹脂組成物を含有したトナーが、低温定着性と耐熱保存性を両立することができ、さらに高湿保存性に優れる理由は定かではないが、次のように考えられる。
【0016】
本発明の結着樹脂組成物は、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有し、結晶性ポリエステルが、特定のモノマーを用い、水酸基を有する炭化水素ワックス由来の構造部位を含むものである。
本発明における結晶性ポリエステルは、炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物といった、比較的分子量が低い原料モノマーを用いて得られるため、エステル基濃度が高く、非晶質ポリエステルと相溶しやすいため、得られるトナー中に均質に結晶を分散させることができる。さらに、本発明における結晶性ポリエステルには、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを由来とする部位を含む。この炭化水素ワックスは、結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い。
トナーを製造する際に、一旦相溶化した結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルにおいて、この融点の高い炭化水素ワックスがまず結晶核となり、トナー全体に結晶性ポリエステルの結晶を生成することができるものと考えられる。これにより、結晶性ポリエステルの融点以上でシャープに融解して、低温定着性に優れ、それ以下の温度では紛体を維持して、耐熱保存性に優れるトナーが得られると考えられる。さらに、疎水性の炭化水素ワックスを由来とする部位を含み、トナー全体の結晶性が高まったことで、高湿度下での保存性(高湿保存性)に優れると考えられる。
【0017】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0018】
結晶性ポリエステルは、アルコール成分と、カルボン酸成分と、水酸基を有する炭化水素ワックスとを重縮合させて得られる。
【0019】
結晶性ポリエステルのアルコール成分は、耐熱保存性の観点から、炭素数6〜12の脂肪族ジオールを含有する。
【0020】
炭素数6〜12の脂肪族ジオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ジオールの炭素数は、耐熱保存性の観点から、6以上であり、9以上が好ましい。また、低温定着性の観点から、12以下であり、10以下が好ましい。
【0022】
また、炭素数6〜12の脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性を向上させる観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有していることが好ましく、α,ω−直鎖アルカンジオールであることが好ましい。
【0023】
アルコール成分には、炭素数6〜12の脂肪族ジオール以外のアルコールが含まれていてもよいが、炭素数6〜12の脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、70〜100モル%が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0024】
炭素数6〜12の脂肪族ジオール以外のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等の炭素数2〜5の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、グリセリン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
結晶性ポリエステルのカルボン酸成分は、非晶質ポリエステルとの相溶性を向上させ、トナーの低温定着性を向上させる観点から、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有する。
【0026】
炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられ、なかでもトナーの低温定着性を向上させる観点から、フマル酸が好ましい。なお、本発明において、カルボン酸化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び炭素数1〜3のアルキルエステルも含まれる。ただし、アルキルエステル部のアルキル基の炭素数は、脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数には含めない。
【0027】
脂肪族ジカルボン酸化合物における鎖状炭化水素基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数は、トナーの耐熱保存性の観点から、2以上であり、4以上が好ましい。また、非晶質ポリエステルとの相溶性を向上させ、トナーの低温定着性を向上させる観点から、6以下であり、5以下が好ましい。
【0028】
カルボン酸成分には、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸化合物が含まれていてもよいが、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、70〜100モル%が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0029】
他のカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物、炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸化合物等が挙げられる。
【0030】
炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物の総含有量は、水酸基を有する炭化水素ワックスを除いた結晶性ポリエステルの原料モノマー中、80〜100モル%が好ましく、85〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0031】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0032】
本発明において、水酸基を有する炭化水素ワックスは、水酸基のみを有するものであってもよいが、ポリエステルとの反応性及び得られるトナーの高湿保存性の観点から、さらにカルボキシ基を有していることが好ましい。ここで、「水酸基を有する炭化水素ワックス」には、水酸基のみを有する炭化水素ワックスに加えて水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスも含まれるものとし、「水酸基のみを有する炭化水素ワックス」は、実質的に水酸基のみを有する炭化水素ワックスのことを意味し、以降も同様である。なお、「実質的に水酸基のみを有する」とは、実施例に記載した酸価の測定方法ではカルボキシ基が検出されない炭化水素ワックスのことをいう。
【0033】
水酸基のみを有する炭化水素ワックスは、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素ワックスを酸化処理により変性させて得られるものである。酸化処理の方法としては、例えば、特開昭62−79267号公報、特開2010−197979号公報記載の方法等が挙げられる。具体的には、炭化水素ワックスをホウ酸の存在下で酸素を含有するガスで液相酸化することにより、酸化する方法がある。
【0034】
水酸基のみを有する炭化水素ワックスの市販品としては、ユニリン700、ユニリン425、ユニリン550(ベーカー・ペトロライト社製)等が挙げられる。
【0035】
水酸基のみを有する炭化水素ワックスの水酸基価は、トナーの低温定着性及び高湿保存性の観点から、40mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましく、60mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、140mgKOH/g以下が好ましく、120mgKOH/g以下がより好ましく、100mgKOH/g以下がさらに好ましく、80mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0036】
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスは、例えば、炭化水素ワックスをホウ酸及び無水ホウ酸の存在下、分子状酸素含有ガスで液相酸化することにより、効率的に得ることができる。
【0037】
反応原料となる炭化水素ワックスの具体例としては、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、オレフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられるが、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。反応原料となるパラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの市販品としては、日本精蝋製のHNP-11、HNP-9、HNP-10、FT-0070、HNP-51、FNP-0090等が挙げられる。
【0038】
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの市販品としては、パラコール6420、パラコール6470、パラコール6490(日本精蝋社製)等が挙げられる。
【0039】
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの酸価は、ポリエステルとの反応性及び得られるトナーの低温定着性の観点から、1mgKOH/g以上が好ましく、2mgKOH/g以上がより好ましく、5mgKOH/g以上がさらに好ましく、10mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、30mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましく、15mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0040】
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの酸価と水酸基価の合計は、トナーの低温定着性の観点から、40mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましく、60mgKOH/g以上がさらに好ましく、70mgKOH/g以上がさらに好ましく、80mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、140mgKOH/g以下が好ましく、120mgKOH/g以下がより好ましく、110mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0041】
水酸基を有する炭化水素ワックスの融点は、トナーの耐熱保存性の観点から、70℃以上であり、また、トナーの低温定着性の観点から、120℃以下である。なお、水酸基のみを有する炭化水素ワックスの融点は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは110℃以下である。これらの観点から、水酸基のみを有する炭化水素ワックスの融点は、好ましくは80〜120℃、より好ましくは100〜110℃である。また、水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの融点は、好ましくは75℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。これらの観点から、水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの融点は、好ましくは75〜100℃、より好ましくは75〜95℃である。
【0042】
水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量は、トナーの耐熱保存性及び高湿保存性の観点から、400以上であり、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、1100以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、2000以下であり、1500以下が好ましく、1400以下がより好ましい。
【0043】
水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量は、トナーの耐熱保存性及び高湿保存性の観点から、結晶性ポリエステルの原料モノマー中、1.0質量%以上であり、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がより好ましい。水酸基を有する炭化水素ワックスの量は、結晶性ポリエステルの原料モノマー中、1.0〜15質量%であり、2.0〜10質量%が好ましく、3.0〜8.0質量%がより好ましく、4.0〜7.0質量%がさらに好ましい。
【0044】
なお、結晶性ポリエステルに含まれる水酸基を有する炭化水素ワックスに由来する構造部位は、前記ワックスがエステル結合している部位であり、その量は、例えば、測定核をプロトンとする核磁気共鳴分光法(1H-NMR)により測定し、ポリエステルと炭化水素ワックスに特徴的なピークの積分値によって算出することができる。
【0045】
アルコール成分とカルボン酸成分と水酸基を有する炭化水素ワックスの重縮合反応は、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは160〜240℃、より好ましくは190〜230℃の温度で重縮合させて製造することができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分と水酸基を有する炭化水素ワックスの総量100質量部に対して、0.01〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分と水酸基を有する炭化水素ワックスの総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分と水酸基を有する炭化水素ワックスの総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。
【0046】
結晶性ポリエステルにおける水酸基を有する炭化水素ワックス由来の吸熱量は、トナーの高湿保存性の観点から、理論吸熱量の40%未満が好ましく、30%以下がより好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。ここで、吸熱量とは、炭化水素ワックスの融点領域における融解に伴う熱量のことであり、具体的には、実施例に記載した方法で測定される。また、理論吸熱量とは、炭化水素ワックスの吸熱量と添加量(質量分率)の積のことである。
【0047】
結晶性ポリエステルの軟化点は、トナーの耐熱保存性の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましく、90℃以下がさらに好ましい。
【0048】
また、結晶性ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性の観点から、非晶質ポリエステルの軟化点よりも低いことが好ましく、その差は、20℃以上が好ましく、20〜60℃がより好ましい。ここで、非晶質ポリエステルの軟化点との差とは、非晶質ポリエステルが複数の樹脂からなる場合、加重平均した軟化点との差をいう。
【0049】
結晶性ポリエステルの融点は、トナーの耐熱保存性の観点から、60℃以上であり、65℃以上が好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、100℃以下であり、90℃以下がより好ましい。
【0050】
なお、本発明では、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点は、前記結晶性ポリエステルの融点より高く、その差は、トナーの耐熱保存性の観点から、5℃以上であり、10℃以上が好ましく、トナーの高湿保存性の観点から、50℃以下であり、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。
【0051】
結晶性ポリエステルの酸価は、トナーの低温定着性の観点から、1mgKOH/g以上が好ましく、5mgKOH/g以上がより好ましく、10mgKOH/g以上がさらに好ましく、15mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の観点から、40mgKOH/g以下が好ましく、30mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0052】
非晶質ポリエステルのアルコール成分は、脂肪族ジオールを含有していることが好ましい。脂肪族ジオールの炭素数は、トナーの耐熱保存性及び高湿保存性の観点から、2以上が好ましく、トナーの耐熱保存性の観点から、6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0053】
炭素数2〜6の脂肪族ジオールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオールが挙げられ、トナーの耐熱保存性の観点から、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールが好ましく、エチレングリコール及び1,2-プロパンジオールがより好ましく、1,2-プロパンジオールがさらに好ましい。
【0054】
炭素数2〜6の脂肪族ジオールのアルコール成分中の含有量は、50〜100モル%が好ましく、80モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がよりさらに好ましく、100モル%がよりさらに好ましい。
【0055】
炭素数2〜6の脂肪族ジオール以外のアルコール成分としては、式(I):
【0056】
【化1】
【0057】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物や水素添加ビスフェノールA等の2価アルコールやソルビトール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等の炭素数3〜10の3価以上の多価アルコールが挙げられる。
【0058】
カルボン酸成分において、2価のカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、ドデセニルコハク酸、オクチルコハク酸等の炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0059】
カルボン酸成分は、トナーの帯電性及び耐熱保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましい。カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの帯電性及び耐熱保存性の観点から、好ましくは15〜80モル%、より好ましくは20〜75モル%である。
【0060】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、例えば1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0061】
3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、トナーの耐熱保存性の観点から、カルボン酸成分中、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。また、低温定着性の観点から、80モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらに好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0062】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0063】
アルコール成分とカルボン酸成分の重縮合反応時の温度は、反応性の観点から、200℃以上が好ましく、225℃以上がより好ましい。また、熱分解性の観点から、250℃以下が好ましい。また、重縮合反応時の温度は、200〜250℃が好ましく、225〜250℃がより好ましい。
【0064】
重縮合反応は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒等が挙げられる。スズ触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等が挙げられるが、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、2-エチルヘキサン酸錫(II)等のSn−C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。チタン触媒としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。
【0065】
非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの耐熱保存性の観点から、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、170℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。非晶質ポリエステルが2種以上のポリエステルからなる場合は、それらの加重平均値が上記範囲内となることが好ましい。
【0066】
非晶質ポリエステルのガラス転移温度は、トナーの耐熱保存性の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
【0067】
非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの低温定着性の観点から、10mgKOH/g以上が好ましく、15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上がより好ましい。また、トナーの耐熱保存性の観点から、40mgKOH/g以下が好ましく、30mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましい。
【0068】
非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)は、トナーの低温定着性及び耐熱保存性の観点から、65/35〜95/5が好ましく、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を両立させる観点から、85/15〜95/5がより好ましい。結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルをこの比率とすることで、結晶性ポリエステルのワックス由来の部分と非晶質ポリエステルが相互に微細に分散され、さらに現像性が向上すると考えられる。
【0069】
なお、本発明において、ポリエステルとは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルを含む。変性されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分と付加重合系樹脂成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられるが、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルは、好ましくはポリエステル部分が98質量%以上であり、より好ましくは実質的にポリエステル部分のみからなり、さらに好ましくはポリエステル部分のみからなる。
【0070】
本発明の結着樹脂組成物を含有する静電荷像現像用トナーは、低温定着性と耐熱保存性を両立でき、さらに高湿保存性に優れる。なお、本発明の結着樹脂組成物は、予め結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルが混合されたものを用いてもよく、トナーを製造する際に、それぞれのポリエステルを直接原料の混合に供してもよい。
【0071】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の結着樹脂組成物以外の公知の樹脂が併用されていてもよいが、本発明の結着樹脂組成物の含有量は、結着樹脂中、90〜100質量%が好ましく、93〜100質量%がより好ましく、95〜100質量%がさらに好ましく、実質的に100質量%がさらに好ましい。
【0072】
本発明のトナーは、さらにワックスを離型剤として含有していることが好ましい。該ワックスは、結晶性ポリエステルに取り込まれた水酸基を有する炭化水素ワックスとの相互作用により離型効果が高められ、低温定着性と耐熱保存性を両立することができ、さらに高湿保存性を高めることができる。
【0073】
離型剤として含有するワックスは、水酸基を有する炭化水素系ワックス以外のワックスが好ましい。
【0074】
ワックスとしては低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられこれらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0075】
ワックスの融点は、トナーの耐熱保存性の観点から、65℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性の観点から、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。
【0076】
ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、2質量部以上が好ましい。また、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0077】
本発明のトナーには、着色剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0078】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0079】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0080】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0081】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0082】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0083】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0084】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましく、外添剤としては、無機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛が挙げられ、シリカが好ましい。
【0085】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0086】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0087】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。
【0088】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0089】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0090】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0091】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂を含有した静電荷像現像用トナーを開示する。
【0092】
<1> 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、分子量が400〜2000であり、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを1.0〜15質量%含み、かつ炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、トナー用結着樹脂組成物。
【0093】
<2> 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35〜95/5である、前記<1>記載のトナー用結着樹脂組成物。
<3> 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40〜140mgKOH/gである、前記<1>又は<2>記載のトナー用結着樹脂組成物。
<4> 水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、前記<1>〜<3>いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
<5> 非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2〜3の脂肪族ジオールを含有する、前記<1>〜<4>いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
<6> 炭素数2〜3の脂肪族ジオールの含有量が、非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分中、50〜100モル%である、前記<5>記載のトナー用結着樹脂組成物。
<7> 炭素数2〜3の脂肪族ジオールが、エチレングリコール及び1,2-プロパンジオールの少なくともいずれかである、前記<5>又は<6>記載のトナー用結着樹脂組成物。
<8> 炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物の総含有量が、水酸基を有する炭化水素ワックスを除いた結晶性ポリエステルの原料モノマー中、80〜100モル%である、前記<1>〜<7>いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
<9> 結晶性ポリエステルにおける水酸基を有する炭化水素ワックス由来の吸熱量が、理論吸熱量の40%未満である、前記<1>〜<8>いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
<10> 前記<1>〜<9>いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー。
<11> 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結晶性ポリエステルの融点が60〜100℃であり、該結晶性ポリエステルが、融点が70〜120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスを1.0〜15質量%含み、かつ炭素数6〜12の脂肪族ジオール及び炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が、前記結晶性ポリエステルの融点より5〜50℃高い、静電荷像現像用トナー。
【実施例】
【0094】
樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0095】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」(島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0096】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却しそのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度を吸熱の最高ピーク温度とする。結晶性ポリエステルにおいては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0097】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0098】
〔樹脂の酸価(AV)〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0099】
〔炭化水素ワックスの融点〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0100】
〔炭化水素ワックスの分子量〕
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106)(なお、括弧内の値は分子量である))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0101】
〔炭化水素ワックスの酸価及び水酸基価〕
JIS K0070の方法により測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、キシレンとエタノールの混合溶媒(キシレン:エタノール=3:5(容量比))に変更する。
【0102】
〔水酸基を有する炭化水素ワックスの吸熱量〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピークの吸熱面積から算出する。
【0103】
〔結晶性ポリエステルにおける水酸基を有する炭化水素ワックス由来の吸熱量〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、別途あらかじめ測定してある炭化水素ワックスの融点にあたる部位の吸熱面積から算出する。結晶性ポリエステルと炭化水素ワックスのピークが重なっている場合には、波形分離を行って吸熱面積を算出する。
【0104】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0105】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0106】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0107】
アルキレン化合物Aの製造例
プロピレンテトラマー(新日本石油株式会社製、商品名:「ライトテトラマー」)を用いて、183〜208℃の加熱条件で分留してアルキレン化合物Aを得た。得られたアルキレン化合物Aは、ガスクロマトグラフィー質量分析において、40個のピークを有していた。アルキレン化合物の分布は、C918:0.5質量%、C1020:4質量%、C1122:20質量%、C1224:66質量%、C1326:9質量%、C1428:0.5質量%であった。なお、ガスクロマトグラフィー質量分析は、特開2008−256845号公報に記載の方法に従って行った。
【0108】
アルケニル無水コハク酸の製造例
1Lの日東高圧社製オートクレーブにアルキレン化合物A542.4g、無水マレイン酸157.2g、抗酸化剤としてチェレックス-O 0.4g(SC有機化学社製、Triisooctyl phosphite)、重合禁止剤としてブチルハイドロキノン0.1gを仕込み、加圧窒素置換(0.2MPaG)を3回繰り返した。60℃で撹拌開始後、230℃まで1時間かけて昇温して6時間反応を行った。反応温度到達時の圧力は、0.3MPaGであった。反応終了後、80℃まで冷却し、常圧(101.3kPa)に戻して1L容の4つ口フラスコに移し替えた。180℃まで撹拌しながら昇温し、1.3kPaにて残存アルキレン化合物を1時間で留去した。引き続き、室温(25℃)まで冷却後、常圧(101.3kPa)に戻して目的物のアルケニル無水コハク酸A 406.1gを得た。酸価より求めたアルケニル無水コハク酸の平均分子量(Mw)は268であった。
【0109】
〔樹脂の製造〕
製造例1〔樹脂A〜J、N及びO〕
表1、2に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)20g、ターシャリブチルカテコール5gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃で6時間保持、さらに200℃まで6時間かけて昇温、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0110】
製造例2〔樹脂K〜M〕
表2に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)20gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃で6時間保持、さらに200℃まで6時間かけて昇温、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
使用した炭化水素ワックスの詳細を表3−1、3−2に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
製造例3〔樹脂a1及びa2〕
表4に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー、並びにチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート40g及び没食子酸2gを、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃から230℃まで10℃/hrで昇温し、その後230℃で反応率が90%に到達するまで重縮合反応させた。その後、無水トリメリット酸を添加して、210℃で1時間常圧にて反応させた後、20kPaにて表4に示す軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステルを得た。
【0116】
【表4】
【0117】
〔静電荷像現像用トナーの製造〕
実施例1〜15及び比較例1〜5
表5に示す樹脂を混合した結着樹脂100質量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、C.I.ピグメントブルー15:3)5質量部、負帯電性荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1質量部、離型剤「カルナウバワックス C1」(加藤洋行社製、融点:83℃)1質量部、及び離型剤「パラフリントH105」(サゾールワックス社製、融点:110℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーによく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)6.5μmのトナー粒子を得た。
【0118】
得られたトナー粒子100質量部に、外添剤「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:16nm)1.0質量部及び「SI-Y」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0119】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m2)]上に、トナー付着量が0.7mg/cm2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復こすり、こする前後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(こすり後/こすり前)が最初に70%を越える定着ローラの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど低温定着性が良好である。結果を表5に示す。
【0120】
試験例2〔耐熱保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃及び相対湿度60%の環境で72時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)をもとに、耐熱保存性を評価した。値(α)が100に近いほど、耐熱保存性に優れる。結果を表5に示す。
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
【0121】
試験例3〔高湿保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、40℃及び相対湿度90%の環境で72時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)をもとに、高湿保存性を評価した。値(α)が100に近いほど、高湿保存性に優れる。結果を表5に示す。
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
【0122】
【表5】
【0123】
以上の結果より、実施例のトナーは、比較例のトナーに比べて、いずれも低温定着性と耐熱保存性を両立でき、さらに高湿保存性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂組成物として好適に用いられるものである。