特許第6184056号(P6184056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リケンテクノス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6184056-樹脂組成物 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184056
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20170814BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170814BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20170814BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20170814BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
   C08K3/04
   C08K7/06
   C08L23/04
   C08L23/28
   H01M4/96 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-88593(P2012-88593)
(22)【出願日】2012年4月9日
(65)【公開番号】特開2013-216786(P2013-216786A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年1月14日
【審判番号】不服2016-2949(P2016-2949/J1)
【審判請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋寛
(72)【発明者】
【氏名】杉本 英将
【合議体】
【審判長】 加藤 友也
【審判官】 堀 洋樹
【審判官】 大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−53813(JP,A)
【文献】 特開2009−155436(JP,A)
【文献】 特表2012−500317(JP,A)
【文献】 特開平8−259767(JP,A)
【文献】 特開2009−144000(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129024(WO,A1)
【文献】 特開2007−128671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14 C08K3/00-13/08 C08J5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンおよび塩素化ポリエチレンから成る群から選択される少なくとも1種である熱可塑性樹脂 100質量部、
(B)カーボンナノチューブ 1〜60質量部、および
(C)アセチレンブラック 1〜100質量部
を含む樹脂組成物からなる導電性樹脂フィルムであって、JIS K 7194 に準拠して測定した体積抵抗率ρが10Ω・cm以下であり、かつ上記体積抵抗率ρとJIS K 7127 に準拠して測定した引張伸びEとが式(1):
Logρ≦0.02E−1.4 ・・・式(1)
(ここで、ρの単位はΩ・cmであり、Eの単位は%である)を満たす導電性樹脂フィルム、ただし、該組成物はグラファイトを含まない。
【請求項2】
成分(A)が、塩素含有量25〜45重量%の塩素化ポリエチレンである、請求項記載の導電性樹脂フィルム
【請求項3】
前記樹脂組成物が、
(D)カーボンファイバー 1〜60質量部
をさらに含む、請求項1または2記載の導電性樹脂フィルム
【請求項4】
レドックスフロー電池の電極用である、請求項1〜の何れか1項記載の導電性樹脂フィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂フィルムのための樹脂組成物に関する。更に詳しくは、引張伸び、耐折曲性や柔軟性に優れた導電性樹脂フィルムのための樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油等の化石燃料や原子力に替わる新たなエネルギー源として、太陽光発電、風力発電および波力発電などの所謂再生可能エネルギーが注目を集めている。しかし、これらの再生可能エネルギーは、天候等の影響を強く受けるため、出力が極めて不安定である。そのため、これらのエネルギーを大量に電力網につなげるためには、例えば、大容量の蓄電池を併設して出力変動の平準化等を行うことが必要である。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は2種類のイオン溶液を陽イオン交換膜で隔て、両方の溶液に設けた電極上で酸化反応と還元反応を同時に進めることにより充放電を行うものである。例えば、バナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるレドックスフロー電池では、充電時に、プラス極において4価のバナジウムが5価に酸化され、マイナス極において3価のバナジウムが2価に還元される。放電時には、この逆の反応が起こる。レドックスフロー電池は、設備の大型化が容易であるという特長を有する。また、室温で作動し、かつ、燃焼性や爆発性を有する物質を使用せず、またそのような物質の発生もないため、ナトリウム・硫黄電池やリチウムイオン二次電池と比較して安全性に優れている。
【0004】
レドックスフロー電池の電極は、硫酸水溶液等の電解液中に浸漬され、かつ、そこで酸化還元反応が起こるため、高い導電性および耐薬品性が必要であり、炭素繊維集合体や白金鍍金が電極として使用されている。しかし、炭素繊維集合体は通液性を有するため、炭素繊維集合体と銅線との接続部が、輸送された硫酸水溶液等に侵されるという問題があった。また白金鍍金は非常に良い導体であり、かつ耐薬品性にも優れているが、貴金属であり高価という難点がある。
【0005】
そこで、ケッチェンブラック等の導電性カーボンを練り込んだ導電性樹脂フィルムを電極として用いたり(例えば、特許文献1〜4)、炭素繊維集合体または銅板等の電極を前記導電性樹脂フィルムにより被覆したりすることが行われている。しかし、これらの導電性樹脂フィルムは、十分に高い導電性を付与すべく多量の導電性カーボンを練り込むと、引張伸び、耐折曲性または柔軟性が全く不十分であり、物理的な力で容易に壊れるという問題がある。また、導電性カーボンの配合量を少なくして引張伸び、耐折曲性および柔軟性を確保すると、体積抵抗率が10Ω・cmを超えるものになり、このような導電性フィルムを電極又はその被覆に使用したレドックスフロー電池は、内部抵抗が大きくなるという点で満足できるものではない。
【0006】
また近年、カーボンナノチューブが導電性カーボンとして注目されており、上記問題を解決できるのではないかと期待されている(例えば、特許文献5および非特許文献1)。しかし、カーボンナノチューブは解繊しにくく、したがって、樹脂への分散が非常に難しいという問題がある。そのため、十分に高い導電性を得るためには、ケッチェンブラックと同様に、多量のカーボンナノチューブを配合しなければならず、結局、導電性樹脂フィルムの引張伸び、耐折曲性や柔軟性が実用的に不十分である。また、カーボンナノチューブの解繊・分散状態を良くすべく、解繊・分散工程におけるせん断応力を高くすると、カーボンナノチューブが壊れてしまい、結局、十分に高い導電性を得るためには、多量に配合することが必要になる。
【0007】
また、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブをプロピレン−オレフィンコポリマーワックスと混合してマスターバッチとし、これを有機ポリマーと混合して得られる組成物からなる導電性フィルムが提案されている(例えば特許文献6および7)。上記マスターバッチは、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブの高充填を可能にするが、得られるフィルムの導電性は十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−149370号公報
【特許文献2】特開平4−259754号公報
【特許文献3】特開平7−053813号公報
【特許文献4】特開2001−015144号公報
【特許文献5】特開2006−111870号公報
【特許文献6】特表2012−507586号公報
【特許文献7】特表2012−507587号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】高瀬博文著、「カーボンナノチューブの分散技術と評価」、成形加工第18巻第9号2006年、第646〜652頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、導電性を有し、かつ、引張伸び、耐折曲性や柔軟性に優れ、電解液循環型二次電池、例えば、レドックスフロー電池、亜鉛・塩素電池および亜鉛・臭素電池等における電極又はその被覆保護に好適な導電性樹脂フィルムのための樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブとアセチレンブラックおよび/またはグラフィアトとを添加することにより、上記課題を達成できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(A)ポリエチレンおよび塩素化ポリエチレンから成る群から選択される少なくとも1種である熱可塑性樹脂 100質量部、
(B)カーボンナノチューブ 1〜60質量部、および
(C)アセチレンブラック 1〜100質量部
を含む樹脂組成物からなる導電性樹脂フィルムであって、JIS K 7194 に準拠して測定した体積抵抗率ρが10Ω・cm以下であり、かつ上記体積抵抗率ρとJIS K 7127 に準拠して測定した引張伸びEとが式(1):
Logρ≦0.02E−1.4 ・・・式(1)
(ここで、ρの単位はΩ・cmであり、Eの単位は%である)を満たす導電性樹脂フィルムであり、ただし、該組成物はグラファイトを含まない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、高い導電性を有し、かつ、引張伸び、耐折曲性および柔軟性に優れ、したがって、電解液循環型二次電池、例えば、レドックスフロー電池、亜鉛・塩素電池および亜鉛・臭素電池等における電極又はその被覆保護に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例および比較例のフィルムの体積抵抗率ρと引張伸びEとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)熱可塑性樹脂
成分(A)は、炭素フィラーである成分(B)〜(D)を受容するとともに、得られるフィルムに、引張伸び、耐折曲性や柔軟性などの機械的物性を付与する。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、塩素化ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン・アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニルおよび塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などのポリ塩化ビニル系樹脂;ナイロン11およびナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂:非結晶性、低結晶性または結晶性のポリエステル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン・共役ジエン共重合体の水素添加物などの水添スチレン系エラストマー;アクリル系樹脂;シリコン系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;クロロプレン系樹脂などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を、導電性樹脂フィルムの使用目的に応じて適宜選択して使用することができる。
【0016】
例えば、得られる導電性樹脂フィルムを、バナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるレドックスフロー電池の電極又はその被覆に使用する場合には、耐硫酸水溶液性が必要であるから、ポリエチレンおよび塩素化ポリエチレンが好ましく、塩素含有量25〜45質量%の塩素化ポリエチレンがより好ましい。カレンダー製膜性を考慮すると、塩素含有量25〜45質量%の結晶性塩素化ポリエチレンが最も好ましい。なお、結晶性塩素化ポリエチレンとは、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社のDSCQ1000型を使用して、190℃で5分間保持し、10℃/分で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持し、10℃/分で190℃まで昇温する測定プログラムにおけるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)において、20J/g以上の融解熱量(ΔH)を示すものをいう。このような結晶性塩素化ポリエチレンの市販例としては、昭和電工株式会社の「エラスレン404B(商品名)」、「エラスレン303B(商品名)」などを挙げることができる。
【0017】
(B)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、炭素により作られる六員環のネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった直径1〜250nm程度、長さ0.1〜250μm程度の繊維状物質であり、導電性フィラーとして導電性樹脂フィルムに高い導電性を付与する働きをする。従って、格子欠陥が少なく、カーボンナノチューブ自体の導電性が高いものが好ましい。また、嵩比重の小さいものが解繊し易いため好ましい。
【0018】
このようなカーボンナノチューブの市販例としては、ナノシルS.A.社の「ナノシルNC7000(商品名)」、昭和電工株式会社の「VGCF−X(商品名)」などを挙げることができる。
【0019】
成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して1〜60質量部、好ましくは20〜50質量部である。上記下限よりも少ないと、体積抵抗率が10Ω・cmより高くなり、多過ぎると、引張伸び、耐折曲性および柔軟性が不十分になる場合がある。
【0020】
(C)アセチレンブラックおよびグラファイト
成分(C)は、樹脂組成物の製造(溶融混練)工程及び製膜工程において、加工性を保ち、また、カーボンナノチューブ(B)及び、存在するならば、カーボンファイバー(D)の解繊・高分散化を助け、その結果、フィルムの導電性を高め、また、引張伸び等の機械的特性を良好にする。また、成分(C)は、それ自体が導電性を有するので、成分(C)自体もフィルムの導電性を高める働きをする。
【0021】
アセチレンブラックは、アセチレンガスの熱分解により製造される炭素微粒子であり、一部にグラファイト化した構造を有する導電性カーボンブラックである。アセチレンブラックの市販例としては、電気化学工業株式会社の「デンカブラック(商品名)」などを挙げることができる。
【0022】
導電性カーボンブラックとして、アセチレンブラックの他に、ケッチェンブラックが知られている。ケッチェンブラックは高い導電性を有するが、アセチレンブラックと異なり中空シェル状の構造を有しているため、これを、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブと混練して得られる組成物は、製膜時に溶融延性を示さず、製膜することができない。
【0023】
グラファイトは、黒鉛とも呼ばれ、炭素からなる鉱物であり、鱗状黒鉛および土状黒鉛などの天然黒鉛ならびに熱分解黒鉛などの人造黒鉛を包含する。本発明では、グラファイトの粉砕物が使用される。粉砕物は、平均粒子径が10μm以下のものが好ましく、より好ましくは5μm以下である。粒子径が大きすぎると、導電性樹脂フィルムに穴が開いたり、フィルム表面に凸部を生じたり、フィルムの伸びが小さい等の欠点を生じる。上記平均粒子径は、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計MT3200II(商品名)を使用して測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。
【0024】
成分(C)の配合量は、成分(A)100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは20〜50質量部である。上記下限よりも少ないと、体積抵抗率と引張伸びとのバランスが低下し、下記式(1)を満たすことができない。多過ぎると、引張伸び、耐折曲性および柔軟性が不十分になる場合がある。
【0025】
(D)カーボンファイバー
カーボンファイバーは、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維である。本発明における成分(D)は、フィルムにさらに導電性を付与するために添加され得る任意成分である。
【0026】
カーボンファイバーは、その繊維配向方向には高い導電性を付与することができるが、繊維配向方向と鉛直方向での導電性は低く、したがって、フィルムの測定位置や方向によって導電性の値が大きく違うという問題がある。しかし、驚くべきことに、成分(D)を炭素成分(B)および(C)と共に成分(A)に入れると、上記問題は大きく改良される
【0027】
成分(D)としては、それ自体が高い導電性を有するものが好ましい。また、樹脂組成物の製造工程において、溶融混練し易いように1〜15mm程度の繊維長に裁断されたものが好ましい。このようなカーボンファイバーの市販例としては、東レ株式会社のカーボンファイバー「トレカカットファイバー(商品名)」などをあげることができる。
【0028】
成分(D)の配合量は、成分(A)100質量部に対して1〜60質量部が好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。上記下限よりも少ないと、成分(D)を配合する効果が得られず、多過ぎると、引張伸び、耐折曲性および柔軟性が不十分になる場合がある。
【0029】
上記樹脂組成物には、公知の添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤や紫外線吸収剤などの耐候性安定剤、熱安定剤、銅害防止剤、離型剤、および界面活性剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない限度において、さらに含有させることができる。上記添加剤の配合量は、成分(A)100質量部に対して0.001〜5質量部程度である。
【0030】
また、成分(B)〜(D)以外の無機充填剤を、本発明の目的に反しない限度において、更に含有させることができる。上記無機充填剤としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、含水珪酸マグネシウムおよびタルクなどがあげられる。上記無機充填剤の配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部程度である。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)〜(C)および、必要ならば成分(D)およびその他の任意成分を任意の溶融混練機を用いて溶融混練することにより得られる。溶融混練機としては、加圧ニーダーおよびミキサー等のバッチ混練機;同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機などの押出混練機;およびカレンダーロール混練機などを挙げることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。得られた樹脂組成物は、任意の方法でペレット化した後、例えばカレンダー加工機を用いて、または押出機とTダイを用いて、製膜することができる。ペレット化は、ホットカット、ストランドカットおよびアンダーウォーターカットなどの方法により行うことができる。あるいは、溶融混練された樹脂組成物をそのまま、カレンダー加工機またはTダイに送って製膜してもよい。カレンダー加工機は任意のものを使用することができ、例えば直立型3本ロール、直立型4本ロール、L型4本ロール、逆L型4本ロールおよびZ型ロールなどを挙げることができる。押出機は任意のものを使用することができ、例えば単軸押出機、同方向回転二軸押出機および異方向回転二軸押出機などを挙げることができる。Tダイは任意のものを使用することが出来、例えばマニホールドダイ、フィッシュテールダイおよびコートハンガーダイなどを挙げることができる。
【0032】
こうして得られた導電性樹脂フィルムは、その耐熱性や耐溶剤性を高めるために、公知の方法、例えば電子線照射により、架橋・硬化してもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物からなる導電性フィルムは、JIS K 7194 に準拠して測定した体積抵抗率ρが10Ω・cm以下であり、かつ上記体積抵抗率ρとJIS K 7127 に準拠して測定した引張伸びEとが式(1)を満たす。
Logρ≦ 0.02E−1.4 ・・・式(1)
ここで、ρの単位はΩ・cmであり、Eの単位は%である。
【0034】
一般的に、導電性樹脂フィルムをレドックスフロー電池等における電極又はその被覆に使用するためには、このフィルムの体積抵抗率が10Ω・cm以下であることが必要である。好ましくは1.0Ω・cm以下であり、より好ましくは0.1Ω・cm以下である。体積抵抗率は低いほど好ましい。
【0035】
また、導電性樹脂フィルムからなる電極又は導電性樹脂フィルムによる電極の被覆が物理的な力で容易に壊れることがないように、導電性樹脂フィルムは、引張伸び、耐折曲性および柔軟性等の機械的物性が良好であることも必要である。したがって、体積抵抗率が小さいほど、また、引張伸び等の機械的物性が大きいほど、工業的に実用性が高く、有用な導電性フィルムである。
【0036】
本発明の樹脂組成物からなる導電性樹脂フィルムは、体積抵抗率ρが10Ω・cm以下であり、かつ上記体積抵抗率ρと引張伸びEとが上記式(1)を満たすので、レドックスフロー電池、亜鉛・塩素電池および亜鉛・臭素電池等における電極又はその被覆保護に好適に使用できる。
【0037】
上記式(1)を満たすフィルムは、体積抵抗率ρと引張伸びEとのバランスが、式(1)を満たさないフィルムよりも良好であることを示す。図1は、実施例(○で示す)と比較例(◇で示す)のフィルムの体積抵抗率ρと引張伸びEとの関係を示す片対数グラフであり、縦軸がρであり、横軸がEである。直線(1)はLogρ=0.02E−1.4を示し、直線(2)はLogρ=0.02E−1.6を示す。フィルムの体積抵抗率ρの値が小さいほど、また引張伸びEの値が大きいほど、レドックスフロー電池等における電極として好ましいので、図1のグラフにおいて、体積抵抗率ρがゼロに近いほど、また、引張伸びEがゼロから右方向へ離れるほど、両者のバランスが良好であると言える。図1に見られるように、実施例のフィルムは、式(1)を満たす、すなわち、直線(1)上かそれより下方にプロットされ、これは、比較例のフィルムよりも、上記バランスが良好であることを示す。上記バランスは高いほど好ましく、式(2)を満たすことがより好ましい。
Logρ≦0.02E−1.6 ・・・式(2)
【0038】
なお、本明細書において、体積抵抗率ρおよび引張伸びEは、以下の方法によって決定される値である。
【0039】
(イ)体積抵抗率ρ
JIS K 7194に準拠し、4探針法(プローブ法)により測定した。温度23±2℃および相対湿度50±5%の試験室において24時間以上状態調節を行ったフィルムを、フィルムのマシン方向に80mm×フィルムの幅方向に50mmの大きさに切り出して試験片とした。株式会社三菱化学アナリテックの抵抗率計「ロレスタGPMCP−T610型(商品名)」を使用し、一直線上に等間隔(探針間隔5mm)に配列したプローブを用いて、1枚の試験片について5つの測定位置において測定した。これを3枚の試験片について行い、合計15個の体積抵抗率の値の平均値を、このフィルムの体積抵抗率ρとした。フィルム厚みは、株式会社尾崎製作所のダイヤルシックネスゲージ「H−1A(商品名)」を用いて、JISK 7194に規定する試験片の寸法測定に従い測定した。なお、電気抵抗率測定方法及びその理論については、株式会社三菱化学アナリテックのホームページ(http://www.mccat.co.jp/3seihin/genri/ghlup2.htm)などを参照することができる。
【0040】
(ロ)引張伸びE
JIS K 7127に準拠して測定した。温度23±2℃および相対湿度50±5%の試験室において24時間以上状態調節を行ったフィルムについて、株式会社島津製作所の引張試験機「AUTOGRAPHAGS−1kNG(商品名)」を用いて、フィルムの幅方向を引張方向として、試験片タイプ1号ダンベル、チャック間の初期距離120mm、標線間距離50mm、引張速度5mm/分の条件で引張試験を行って破断時の伸びの値を求めた。この試験を5つの試験片について行い、これらの平均値をこのフィルムの引張伸びEとした。フィルム厚みは株式会社尾崎製作所のダイヤルシックネスゲージ「H−1A(商品名)」を用いて試験片の標線間について測定し(計10カ所)、それらの平均値を使用した。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜11および比較例1〜14
日本ロール製造株式会社の5リットルインテンシブミキサーを使用し、表1に示す配合比の配合物を溶融混練した。このとき排出温度は190℃とした。続いて、日本ロール製造株式会社のロール直径200mm、ロール幅700mmの逆L字4本カレンダーを使用し、厚み300μmのフィルムを得た(ロール温度は第一ロール/第二ロール/第三ロール/第四ロールの順に205℃/205℃/185℃/175℃、引取速度5m/分)。得られたフィルムについて、体積抵抗率ρおよび引張伸びEを決定するとともに、下記方法にしたがって、耐折曲性および柔軟性の試験を行った。結果を表1に示す。なお、実施例6は参考例である。
【0043】
(ハ)耐折曲性
温度23±2℃および相対湿度50±5%の試験室において24時間以上状態調節を行ったフィルムから、フィルムのマシン方向を引張方向となるようにJIS K 7127の試験片タイプ1Bの試験片を打抜き、試験片の両端のチャック部の全体が重なるように180°折り曲げ、折り曲げ位置を指でしごいた後、起こした。次にこれを反対側へと、同様に180°折り曲げ、折り曲げ位置を指でしごいた後、起こした。このように同じ折り曲げ位置において、折り曲げて起こし、反対側へと折り曲げて起こす操作を1セットとする操作を繰返し、以下の基準で判断した。
○:6セット後もフィルムは破断なかった。
△:2〜6セット後にフィルムが破断した。
×:1セット後にフィルムが破断した。
【0044】
(ニ)柔軟性
上記(ロ)の引張試験で得た応力歪み曲線を用いて、伸び5%時のモジュラス値を柔軟性指標として算出した。この値の小さい方が、柔軟性が高いことを示す。
【0045】
使用した材料は以下の通りである。
成分(A)
(A−1)昭和電工株式会社の塩素化ポリエチレン「エラスレン404B(商品名)」、塩素含有量40質量%、メルトフローレート(180℃、211.8N)25g/10分、融解熱量29J/g
(A−2)昭和電工株式会社の塩素化ポリエチレン「エラスレン303B(商品名)」、塩素含有量32質量%、メルトフローレート(180℃、211.8N)25g/10分、融解熱量50J/g
(A−3)ダウ ケミカル社の低密度ポリエチレン「D9100.00(商品名)」、メルトフローレート(190℃、21.18N)1g/10分、密度877Kg/m
【0046】
成分(B)
(B−1)ナノシルS.A.社の多層カーボンナノチューブ「ナノシルNC7000(商品名)」、平均直径9.5nm、平均長1.5μm、嵩比重0.043g/cm、純度90質量%
(B−2)昭和電工株式会社の多層カーボンナノチューブ「VGCF−X(商品名)」、平均直径15nm、平均長3μm、嵩比重0.08g/cm、純度93質量%
(B−3)アルケマ社の多層カーボンナノチューブ「C100(商品名)」、平均直径12nm、平均長1μm、嵩比重0.1g/cm、純度90質量%
【0047】
成分(C)
(C−1)電気化学工業株式会社のアセチレンブラック「デンカブラック粒状(商品名)」、一次粒子の平均粒子径35nm(電子顕微鏡(TEM)観察により測定)、比表面積69m/g
(C−2)伊藤黒鉛工業株式会社の天然黒鉛粉砕物「Z−5F(商品名)」、鱗片状、平均粒子径4μm
【0048】
比較成分(C)
(C−3)ライオン株式会社のケッチェンブラック「KJ300(商品名)」
【0049】
成分(D)
(D−1)東レ株式会社のカーボンファイバー「トレカカットファイバーT008A−006(商品名)」、カット長6mm、繊維直径7μm
任意成分
日東化成工業株式会社の塩素化ポリエチレン用安定剤「STANN JF−95B(商品名)」
【0050】
【表1-1】
【表1-2】
【0051】
実施例1〜11のフィルムは式(1)を満たし、低い体積抵抗率と高い引張伸び、耐折曲性および柔軟性を有する。一方、比較例1〜12のフィルムは、式(1)を満たさず、引張伸び、耐折曲性、柔軟性の何れかが不十分であり、あるいは導電性に劣る。成分(C)の代わりにケッチェンブラックを使用した比較例13および14では、樹脂組成物が製膜時に溶融延性を全く示さず、フィルムを得ることができなかった。
【0052】
さらに、実施例9のフィルムについては、引張試験の後の体積抵抗率ρも測定した。フィルムの幅方向を長手方向として100mm×25mmの大きさに切り出したフィルムを試験片とし、その中心点(両対角線の交点)にマジックでマークし、引張速度5mm/分の条件で、チャック間の初期距離50mmが100mmになるまで引張した後、上記マーク位置1箇所を測定位置としたこと以外は、上記(イ)と同様にして引張試験後の体積抵抗率ρを測定した。引張試験前の体積抵抗率が2.5×10−1Ω・cmであるのに対し、引張試験後は3.6×10Ω・cmであった。つまり、100%の引張変形をしても、体積抵抗率の増加は1桁であった。これは、本発明の樹脂組成物からなる導電性樹脂フィルムは、変形による導電性の変化が非常に小さいことを示す。
図1