(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(A)と、一般式(2)、(3)、(4)で表される構造単位から選ばれる少なくともひとつの構造単位を含有するポリエステル系樹脂(B)に、α、β−不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合して得られる、極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)を含有し、ポリビニルアルコール系樹脂(A)と極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)の含有比率(A)/(B’)が95/5〜65/35(重量比)である樹脂組成物である。
以下、各順に説明する。
【0015】
〔PVA系樹脂(A)〕
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
本発明の樹脂組成物に用いられるPVA系樹脂(A)は、下記一般式(1)で示される1,2−ジオール構造単位を有するもので、一般式(1)におけるR
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子または
炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは単結
合を示し、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子または
炭素数1〜4のアルキル基を示すものである。
【0017】
特に、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR
1〜R
3、及びR
4〜R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく、下記一般式(1’)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂が好適に用いられる。
【化10】
【0018】
なお、かかる一般式(1)で表わされる構造単位中のR
1〜R
3、及びR
4〜R
6は、
樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば
炭素数1〜4のアルキル基であってもよく、その
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、かかる
炭素数1〜4のアルキル基は、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0019】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)
m−、−(OCH
2)
m−、−(CH
2O)
mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)
mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、またはアルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0020】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(5)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(6)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(7)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0024】
上記一般式(5)、(6)、(7)中のR
1、R
2、R
3、X、R
4、R
5、R
6は、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子またはR
9−CO−(式中、R
9は炭素数1〜4のアルキル基である)である。R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0025】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を用いることができる。
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、(i)の方法において、一般式(2)で表わされる化合物として3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを用いることが好ましく、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物の一例であるビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0026】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)であり、これはビニルエチレンカーボネートのCx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、(iii)の方法で用いられる一般式(4)で表される化合物の一例である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランのCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)と比較して、重合度が上がりにくくなったり、重合速度低下の原因となることがないことを示すものである。
【0027】
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0028】
なお、上記の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702、USP5,623,086、USP6,072,079などに記載されたエポキシブテン誘導体を経由する合成方法や、1,4−ブタンジオール製造工程の中間生成物である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いて異性化する反応によって製造することができる。
また、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。
【0029】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られたPVA系樹脂は、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分であると、側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存し、そのようなPVA系樹脂を溶融成形すると、かかる環状基によってPVA系樹脂が架橋し、ゲル状物などが発生する場合がある。
よって、かかる点からも、(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本発明においては好適に用いられる。
【0030】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(5)、(6)、(7)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲、具体的には10モル%以内であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、などが共重合されていてもよい。
【0031】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、80〜100モル%であり、特に90〜99.9モル%、さらに98〜99.5モル%のものが好ましく用いられる。かかるケン化度が低すぎると、溶融成形時に溶融粘度が不安定になり、安定した成形が困難になったり、成形中に酢酸臭が発生し、それが成形品中に残存したり、得られた成形物のガスバリア性が不充分になる場合がある。また、かかるケン化度が高すぎると、これから得られた成形品の柔軟性、および透明性が不足する傾向がある。
【0032】
PVA系樹脂(A)に含まれる1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常、0.5〜12モル%であり、特に1〜10モル%、さらに3〜9モル%のものが好ましく用いられる。かかる含有量が低すぎると、融点が高くなり、熱分解温度に近くなるため、溶融成形時の熱分解による焦げやゲル、フィッシュアイができやすくなり、逆に高すぎると、金属密着性が向上し、溶融成形時、流れ性が悪くなり、滞留等による熱劣化が生じやすくなる。
【0033】
なお、PVA系樹脂(A)中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの
1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0034】
また、PVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、200〜1800であり、特に300〜1500、さらに300〜1000のものが好ましく用いられる。
かかる平均重合度が小さすぎると、得られた成形物の機械的強度が不足する場合があり、逆に平均重合度が大きすぎると、流動性が不足して成形性が低下する場合があり、成形時せん断発熱が異常発生して樹脂が熱分解しやすくなる傾向がある。
【0035】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよいが、混合物を用いる場合には、重合度、ケン化度、1,2−ジオール構造単位の含有量の平均値、および混合物の溶融粘度が上述の範囲内であることが好ましい。
また、PVA系樹脂として側鎖に1,2−ジオール成分を含有しないPVA系樹脂、例えば、未変性のPVAを併用することも可能であるが、その場合には、側鎖に1,2−ジオール成分を有するPVA系樹脂(A)が主体、具体的にはPVA系樹脂の総量の50重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。
【0036】
〔ポリエステル系樹脂(B’)〕
次に本発明で用いられる極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)について説明する。
かかる極性基を有するポリエステル系樹脂は、下記一般式(2)〜(4)で表される構造単位から選ばれる少なくともひとつの構造単位を含有するポリエステル系樹脂(B)に、α、β−不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合して得られたものである。
【化14】
〔式中、lは2〜6の整数である。〕
【化15】
〔式中、mは2〜6の整数である。〕
【化16】
〔式中、nは2〜6の整数である。〕
【0037】
従って、本発明における極性基は、カルボン酸基、無水カルボン酸基、およびこれらの誘導体である。
なお、本発明のポリエステル系樹脂(B’)は、上述のポリエステル系樹脂(B)にα、β−不飽和カルボン酸またはその無水物不飽和をグラフト重合させたものであり、かかるポリエステル系樹脂(B)のアルキレン部分にグラフトしているものと考えられる。
【0038】
まず、一般式(2)で表される構造単位は、原料として用いるニ塩基酸に由来するもので、かかる構造式中のアルキレン鎖の炭素数lは2〜6であり、特に2〜4のものが好ましく用いられる。
具体的には、コハク酸(l=2)、グルタル酸(l=3)、アジピン酸(l=4)、1,5−ペンタンジカルボン酸(l=5)、1,6−ヘキサンジカルボン酸(l=6)などを挙げることができ、特にアジピン酸が好ましく用いられる。
【0039】
一般式(3)で表される構造単位は、原料として用いるジオール類に由来するもので、かかる構造式中のアルキレン鎖の炭素数mは2〜6であり、特に2〜4のものが好ましく用いられる。
具体的には、エチレングリコール(m=2)、プロピレングリコール(m=3)、1,4−ブタンジオール(m=4)、1,5−ペンタンジオール(m=5)、1,6−ヘキサンジオール(m=6)などを挙げることができる。
【0040】
一般式(4)で表される構造単位は、原料として用いるヒドロキシカルボン酸類に由来するもので、かかる構造式中のアルキレン鎖の炭素数nは2〜6であり、特に2〜4のものが好ましく用いられる。
具体的には、4−ヒドロキシ酪酸(n=3)、5−ヒドロキシ吉草酸(n=4)、6−ヒドロキシヘキサン酸(n=5)などを挙げることができる。
【0041】
なお、これら一般式(2)〜(4)の構造単位となる原料は、各々単独で用いることも可能であり、複数のものを組み合わせて用いることも可能である。また、それぞれのアルキレン鎖中の水素は、樹脂の生分解性を阻害しない程度の少量であれば、メチル基、エチル基などのアルキル基で置換されていてもよい。
【0042】
本発明で用いられる生分解性ポリエステル系樹脂は、上記一般式(2)〜(4)で表される構造単位から選ばれる少なくともひとつの構造単位を有するものであり、生分解性のされやすさの点では全てこれらの構造単位から構成されているものが望ましいが、耐熱性や強度、生分解性の制御などの目的で、他の構造単位を有していてもよい。かかる一般式(2)〜(4)で表される構造単位以外の構造単位の含有量は、通常50モル%以下であり、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
その他の構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に由来するもの;シュウ酸、マロン酸などのアルキレン鎖の数が2未満であるジカルボン酸に由来するもの;グリコール酸、乳酸などのアルキレン鎖の数が2未満であるヒドロキシカルボン酸に由来するもの;その他、ポリエステル系樹脂の共重合成分として公知のものを挙げることができる。
【0043】
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(B)の重量平均分子量は、通常5000〜50000であり、好ましくは5500〜40000、特に好ましくは6000〜30000である。かかる重合度が大きすぎると溶融粘度が高くなり溶融成形しにくくなる傾向があり、逆に小さすぎると成形物が脆くなる傾向がある。
【0044】
かかるポリエステル系樹脂(B)の市販品としては、例えば、ポリブチレンアジペート−ブチレンテレフタレート共重合体であるBASF社製「エコフレックス」、コハク酸/1,4−ブタンジオール/乳酸の共重合体である三菱化学社製「GS−PLA」、などを挙げることができる。
【0045】
本発明において、ポリエステル系樹脂(B)への極性基の導入、すなわちポリエステル系樹脂(B’)の製造に用いられるα、β−不飽和カルボン酸またはその無水物としては、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸などのα、β−不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラス酸、テトラヒドロフタル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のα,β−や不飽和ジカルボン酸などが挙げられ、好ましくはα、β−不飽和ジカルボン酸が用いられる。
なお、これらのα、β−不飽和カルボン酸化合物は、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用してもよい。
【0046】
ポリエステル系樹脂(B)にα、β−不飽和カルボン酸類をグラフト重合させる方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができ、熱反応のみでも可能であるが、反応性を高めるためには、ラジカル開始剤を用いることが好ましい。また、反応させる手法としては、溶液反応、懸濁液としての反応、溶媒等を使用しない溶融状態での反応などを挙げることができるが、中でも溶融状態で行うことが好ましい。
【0047】
溶融法としては、ポリエステル系樹脂(B)とα、β−不飽和カルボン酸化合物、およびラジカル開始剤を予め混合した後、混練機中で溶融混練して反応させる方法や、混練機中で溶融状態にあるポリエステル系樹脂(B)に、α、β−不飽和カルボン酸化合物、およびラジカル開始剤を配合する方法等を用いることができる。
原料を予め混合する際に用いられる混合機としては、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、等が用いられ、溶融混練に用いられる混練機としては、単軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等を使用することができる。
溶融混練時の温度設定は、ポリエステル系樹脂(B)の融点以上であって、かつ、熱劣化しない温度範囲で適宜設定すればよい。好ましくは100〜250℃、より好ましくは160〜220℃で溶融混合される。
【0048】
α、β−不飽和カルボン酸類の使用量は、ポリエステル系樹脂(B)100重量部に対して、通常0.0001〜5重量部であり、特に0.001〜1重量部、殊に0.02〜0.5重量部の範囲が好ましく用いられる。かかる配合量が少なすぎるとポリエステル系樹脂(B)に十分な量の極性基が導入されず、PVA系樹脂(A)との樹脂組成物とし、これを成形体としたときに、十分な柔軟性と透明性が得られなくなる傾向がある。また、配合量が多すぎると、グラフト重合しなかったα、β−不飽和カルボン酸類が樹脂中に残存する場合があり、それに起因する外観不良などが生じる傾向がある。
【0049】
ラジカル開始剤としては特に限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5−トリメチルへキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素などの有機及び無機の過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ−t−ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを併用することも可能である。
【0050】
ラジカル開始剤の配合量は、通常、ポリエステル系樹脂(B)100重量部に対して0.00001〜0.5重量部であり、特に0.0001〜0.1重量部、殊に0.002〜0.05重量部の範囲が好ましく用いられる。
かかるラジカル開始剤の配合量が少な過ぎると、グラフト重合が十分に起こらず、本発明の効果が得られない場合があり、多すぎる場合には、ポリエステル系樹脂(B)の分解による低分子量化がおこり、凝集力不足による接着力強度不足となる傾向がある。
【0051】
ポリエステル系樹脂(B)に対する、上記α、β−不飽和カルボン酸類による極性基の導入量、すなわちポリエステル系樹脂(B’)中の極性基の含有量は、通常0.0001〜6モル%であり、特に0.001〜1モル%、殊に0.025〜0.6モル%の範囲が好ましく選択される。
かかる含有量が少なすぎると、PVA系樹脂(A)との樹脂組成物とし、これを成形体としたときに、十分な柔軟性と透明性が得られなくなる傾向がある。
なお、かかる極性基の含有量は、
1H−NMR測定もしくはIR測定によって得られるスペクトルから求めることができる。
【0052】
なお、本発明においては、ポリエステル系樹脂(B’)とともに、極性基を導入する前の原料であるポリエステル系樹脂(B)を併用することも可能である。ポリエステル系樹脂(B)を併用することによって、バリア性の低下を抑制しつつ、本発明の効果である柔軟性や透明性を改善することができる。
ポリエステル系樹脂(B’)とポリエステル系樹脂(B)を併用する場合の配合比(B’/B)は、1/99〜99/1であり、好ましくは5/95〜95/5、さらに好ましくは10/90〜90/10である。ポリエステル系樹脂(B’)の配合量が少なくなると、本発明の効果である柔軟性や透明性が低下する傾向があるが、ガスバリア性は向上する傾向がある。
【0053】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、上述のPVA系重合体(A)と、上述のポリエステル系樹脂(B’)を含有するものである。
【0054】
本発明の樹脂組成物におけるPVA系重合体(A)とポリエステル系樹脂(B’)の含有比率(A/B’)(重量比)も
しくはPVA系重合体(A)と、ポリエステル系樹脂(B)とポリエステル系樹脂(B’)の合計量の含有比率(A/B’+B)は、通常、95/5〜65/35であり、特に90/1
0〜70/30の範囲が好ましく用いられる。かかる含有比率が大きすぎると成形品としたときの充分な耐屈曲疲労性が得られなくなる場合があり、逆に小さすぎるとガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0055】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の重合体を含有していてもよい。含有しうる重合体としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0056】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、補強剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、他の熱可塑性樹脂などが含有されてもよい。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、通常の高分子物質の混合に用いられる方法、装置によって調製することができ、特に溶融混練による方法が好ましく用いられる。かかる溶融混練装置としては、混練機、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、特に連続的に処理することが可能で、混合効率に優れる押出機を用いる方法が好適である。
かかる押出機を用いて溶融混練し、本発明の樹脂組成物を得る条件としては、PVA系樹脂(A)の融点などに応じて適宜調節する必要があるが、通常、160〜220℃の範囲が採用される。
かかる混合によって得られた本発明の樹脂組成物は、成形材料として使用するために、通常はペレットや粉末などの形状とされる。中でも成形機への投入や、取扱い、微粉発生の問題が小さい点から、ペレット形状とすることが好ましい。
なお、かかるペレット形状への成形は公知の方法を用いることができるが、上述の押出機からストランド状に押出し、冷却後所定の長さに切断し、円柱状のペレットとする方法が効率的である。
【0058】
〔成形品〕
本発明の樹脂組成物は、成形性、特に溶融成形性に優れていることから、成形材料として有用である。溶融成形方法としては、押出成形、インフレーション成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、圧縮成形、カレンダー成形、など公知の成形法を用いることができる。
また、本発明の樹脂組成物から得られる成形品としては、フィルム、シート、パイプ、円板、リング、袋状物、ボトル状物、繊維状物など、多種多用の形状のものを挙げることができる。
【0059】
さらに、本発明の樹脂組成物からなる層と他の材料による層との積層構造体とすることも可能である。
特に、本発明の樹脂組成物はPVA系樹脂を主体とするものであり、低湿度条件下では優れたガスバリア性が得られるものの、吸湿によってその特性は大きく変化する場合があるため、水蒸気バリア性が高い素材を表面に配した積層構造体としての使用が望ましい。
【0060】
かかる水蒸気バリア性が高い素材としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩化ビニル系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂に代表される熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、金属、各種金属の蒸着フィルムなどを挙げることができ、その用途、所望される特性に応じて選択すればよい。
【0061】
かかる積層構造体においては、本発明の樹脂組成物からなる層と他の素材からなる層との間に、接着剤層を介在させてもよく、かかる接着剤層に用いられる接着剤としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体などのカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体等を挙げることができる。
【0062】
なお、かかる積層構造体を形成する方法としては、熱可塑性樹脂と積層する場合には、共押出、共射出などが可能であり、その他の方法としては押出しコーティング、あるいは各層を予め形成しておき、それらを積層する方法など、所望の形状や厚さなどに応じて、各種方法を採用することができる。
【0063】
本発明の樹脂組成物からなる成形品は、各種期待に対する優れたバリア性を有し、さらに優れた柔軟性、耐屈曲疲労性を有しているので、これらの特性を要求される物品に使用することができる。かかる用途例としては、飲食品用包装材、容器、バッグインボックス用内袋、容器用パッキング、医療用輸液バッグ、有機液体用容器、有機液体輸送用パイプ、各種ガスの容器、チューブ、ホースなどが挙げられる。
また、各種電気部品、自動車部品、工業用部品、レジャー用品、スポーツ用品、日用品、玩具、医療器具などに用いることも可能である。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0065】
製造例1
〔PVA系樹脂(A1)の作製〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0066】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とする側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂を作製した。
【0067】
得られたPVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.2モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、
1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0068】
製造例2
〔ポリエステル系樹脂(B’)の作製〕
ポリエステル系樹脂(B)としてポリブチレンアジペート−ブチレンテレフタレート共重合体(BASF社製「エコフレックスC1200」)100部、無水マレイン酸0.5部、ラジカル開始剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルオキシ)ヘキサン(日本油脂社製「パーヘキサ25B」)0.25部をドライブレンドした後、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーでカットし、円柱形ペレットのポリエステル系樹脂(B’)を得た。
二軸押出機
直径(D):15mm、
L/D:60
スクリュー回転数:200rpm
メッシュ:90/90mesh
加工温度:210℃
【0069】
実施例1
〔樹脂組成物の作製〕
製造例1で得られたPVA系樹脂(A1)80重量部と、製造例2で得られた極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)20重量部をドライブレンドした後、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出してペレタイザーでカットし、円柱形ペレットの樹脂組成物を得た。
直径(D)15mm
L/D=60
スクリュー回転数:200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=120/150/180/195/200/200/210/210/210℃
スクリューパターン:3箇所練りスクリュー
スクリーンメッシュ:90/90mesh
吐出量:1.5kg/hr
【0070】
〔フィルムの作製〕
得られたペレットを、二軸押出機にて下記条件で製膜し、厚さ約30μmの単層フィルムを作製し、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
直径(D)15mm、
L/D=60
スクリュー回転数 :200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=150/180/190/195/200/210/210/210/210℃
吐出量:1.5kg/hr
スクリーンメッシュ:90/90mesh
ダイ:幅300mm、コートハンガータイプ
引取速度:2.6m/min
ロール温度:50℃
エアーギャップ:1cm
【0071】
(柔軟性)
得られたフィルムを、YSS式フィルムインパクトテスター(安田精機製作所社製、型式181)を用い、23℃、50%RH雰囲気下で耐衝撃強度(kgf・cm)を測定した。なお、試験径は80mmとし、衝撃球として直径12.7mmの鉄球を用い、荷重15kgf・cm、振り子の持ち上げは角度90度とした。結果を表2に示す。
【0072】
(透明性)
得られたフィルムの内部ヘイズをヘイズメーター(日本電色工業社製「Haze Meter NDH2000」)を用い、JIS K7105に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0073】
<ガスバリア性>
得られたフィルムの酸素ガスバリア性を、酸素透過試験機(MOCON社製「OXTRAN2/20」)を用い、23℃、65%RHの雰囲気下における酸素透過度を測定した。結果として、フィルムの厚さを30μmに換算した値を表2に示す。
【0074】
実施例2、3、4
実施例1において、ポリエステル系樹脂(B’)とともにポリエステル系樹脂(B)を用い、それぞれの配合量を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様に樹脂組成物を作製し、同様にフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0075】
比較例1、2
実施例1、および実施例4において、ポリエステル系樹脂(B’)に代えて、ポリエステル系樹脂(B)を用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物を作製し、同様にフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0076】
〔表1〕
【0077】
〔表2〕
【0078】
PVA系樹脂(A)とポリエステル系樹脂の総量との含有比が同一である実施例1〜3と比較例1を対比することにより、ポリエステル系樹脂として極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)を用いることによって、柔軟性と透明性が向上し、ガスバリア性については優れた特性を保持していることが認められる。
実施例4のように、ポリエステル系樹脂の含有量を増やすと柔軟性はさらに向上するが、透明性とガスバリア性は若干低下する傾向が見られた。ただし、この場合も極性基を有するポリエステル系樹脂(B’)を用いなかった比較例2よりも、柔軟性と透明性の優れた成形体が得られている。