特許第6184097号(P6184097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184097
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】自動二輪車のスイングアーム支持構造
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/20 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   B62K25/20
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-285568(P2012-285568)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125182(P2014-125182A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年7月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【弁理士】
【氏名又は名称】大畠 康
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【弁理士】
【氏名又は名称】奥西 祐之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 大輔
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−156118(JP,A)
【文献】 米国特許第04066142(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第00555975(GB,A)
【文献】 特開平01−237276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーユニットが収納されるケースと、
車軸を支持するスイングアームを、ピボット軸を介して上下に揺動自在に支持するブラケットと、
前記ブラケットを前記ケースに固定する複数の締結部材と、
前記スイングアームを前記ブラケットに対して弾性的に支持するショックアブソーバとを備えており、
前記ブラケットは、前記ピボット軸に交差する固定方向から前記ケースに着脱可能に固定されており、
前記複数の締結部材を用いて前記ブラケットが前記ケースに固定されているときに、前記複数の締結部材は、間隔を空けて配置されており、前記固定方向に前記ブラケットを前記ケースに押し付けており、
前記固定方向から見て、前記複数の締結部材は、前記ショックアブソーバによって隠される領域から離れた位置に配置されている、自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項2】
前記ピボット軸は車幅方向に延びており、
前記ブラケットは、前記ピボット軸を角変位自在に支持するピボット孔を備えており、
前記固定方向は、前後方向である、
請求項1に記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項3】
ヘッドパイプフレームから後方に延びて前記ケースを支持するメインフレームを備えており、
前記メインフレームと前記ブラケットが個別に形成されている、請求項1又は2に記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項4】
前記ケースは、車幅方向に分割される分割面を有しており、
前記複数の締結部材を用いて前記ブラケットが前記ケースに固定されているときに、前記複数の締結部材は、前記ケースの前記分割面に対して両側に間隔を空けて配置されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項5】
前記ケースは、本体部分と、前記ブラケットを固定する固定部分とを有しており、
前記固定部分は、前記本体部分から前記ケースの中心に向かって前後方向に突出するように形成されている、請求項1〜のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項6】
記ブラケットは前記ショックアブソーバを支持するアブソーバ支持部を備えており、
前記ブラケットは、前後方向に延びる複数の締結部材によって着脱自在に固定されている、請求項1〜のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項7】
前記ブラケットは、前記ショックアブソーバのレバー比を調整するためのリンク機構を支持するリンク支持部を備えており、
前記アブソーバ支持部及び前記リンク支持部は、前記ブラケットの車幅方向の中心に対して一方に偏位している、請求項に記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項8】
ヘッドパイプフレームから後方に延びて前記ケースを支持する左右一対のメインフレームを更に備えており、
前記ブラケットは、前記メインフレームとは別体に形成されており、前記ケースに着脱可能に固定されると共に、前記左右一対のメインフレームに車幅方向から固定されている、請求項1〜のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項9】
前記ブラケットと前記ケースとが互いに当接する、前記締結部材ごとに設定される当接面は、単一の仮想平面上にすべて配置されている、
請求項1〜8のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項10】
前記ケースの後端面には、前記締結部材によって締結されるナット部分が形成されており、
前記ブラケットは、前記締結部材を挿通するための挿通孔が形成されている、
請求項1〜9のいずれか1つに記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【請求項11】
前記ブラケットの前記挿通孔は、前記ブラケットの頂点位置にそれぞれ配置され、上下方向及び左右方向に間隔を空けて配置されている、
請求項10に記載の自動二輪車のスイングアーム支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のスイングアームを支持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、自動二輪車のスイングアーム支持構造として、クランクケースに直接スイングアームを支持する構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−115226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の自動二輪車では、スイングアームを支持するためにクランクケースの剛性を高める必要があり、必要な剛性を確保するために、クランクケースの設計の自由度が制限される虞がある。
【0005】
そこで本発明は、ケースの剛性が過剰となるのを防ぐと共に、設計の自由度を向上できるスイングアーム支持構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自動二輪車のスイングアーム支持構造は、パワーユニットが収納されるケースと、車軸を支持するスイングアームを、ピボット軸を介して上下に揺動自在に支持するブラケットとを備えており、前記ブラケットは、前記ピボット軸に交差する固定方向から前記ケースに着脱可能に固定される。
【0007】
ケースとは別体にブラケットが形成されるので、ケースのピボット軸付近にブラケットから付与される応力が集中することを防ぐことができ、ケースでスイングアームを直接支持する場合に比べて、ケース剛性が過剰となることを防ぐことができる。またブラケットが、ピボット軸に交差する交差方向からケースに装着固定される。これによってケースのうちで、スイングアームに対向する面にブラケットの固定位置を配置することができる。したがって取付位置が比較的制限されるケース側面にブラケットの固定位置を配置する場合に比べて、ブラケットの固定位置の選択肢を増やすことができ、設計の自由度を向上することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスイングアーム支持構造は、ケースの剛性が過剰となることを防ぐとともに、設計の自由度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】斜め前方から見た自動二輪車の車体フレームの斜視図である。
図2】自動二輪車の車体フレームの側面図である。
図3】斜め後方から見た自動二輪車の車体フレームの斜視図である。
図4】斜め後方から見たクランクケース及びクランクケースに固定されたアームブラケットの斜視図である。
図5】斜め後方から見たクランクケースの斜視図である。
図6】アームブラケットの後面図である。
図7】後方から見たアームブラケットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1−3を参照して、自動二輪車の車体フレーム100を説明する。図1は、斜め前方から見た自動二輪車の車体フレーム100の斜視図である。図2は、自動二輪車の車体フレーム100の側面図である。図3は、斜め後方から見た自動二輪車の車体フレーム100の斜視図である。
【0011】
本実施形態の自動二輪車は、車体フレーム100、スイングアーム5、ショックアブソーバ6、リンク機構7、及び後部フレーム8を備えている。車体フレーム100は、ヘッドパイプフレーム1、2つのメインフレーム2、クランクケース3、及びアームブラケット4を備えている。アームブラケット4は、ピボット軸10を介してスイングアーム5を上下に揺動自在に支持している。スイングアーム5は後輪の車軸を支持する。スイングアーム5は、ショックアブソーバ6を介してアームブラケット4に弾性的に支持されている。ショックアブソーバ6の上端部は上支持軸11を介してアブソーバブラケット9に支持されている。アブソーバブラケット9は、アームブラケット4に固定されている。ショックアブソーバ6の下端部はリンク機構7に連結されている。リンク機構7は下支持軸12を介してアームブラケット4に支持され、アーム連結軸13を介してスイングアーム5に支持されている。後部フレーム8は、2つのメインフレームに固定されている。後部フレーム8はシートを支持する。
【0012】
ヘッドパイプフレーム1は、車体フレーム100の前端部に位置しており、操舵軸を支持している。2つのメインフレーム2は、ヘッドパイプフレーム1に溶接により固定されている。2つのメインフレーム2の一方は、ヘッドパイプフレーム1の右後端から後方に延びており、2つのメインフレーム2の他方は、ヘッドパイプフレーム1の左後端から後方に延びている。2つのメインフレーム2は、車幅方向DWにおいて間隔を空けて配置されており、ヘッドパイプフレーム1を介して連結されている。2つのメインフレーム2同士は直接に溶接連結されていない。すなわち、メインフレーム2の後部2aの弾性変形に抵抗するために溶接接続されるクロス部材が存在しない。
【0013】
リンク機構7は、スイングアーム5とショックアブソーバ6の下端部とを接続するためのものであって、互いに角変位可能に接続された複数のリンク部材によって、梃子構造が形成される。すなわち、リンク機構7は、ブラケット4との接続位置に支点が設定され、スイングアーム5との接続位置に力点が設定され、ショックアブソーバ6との接続位置に作用点が設定される。リンク部材の寸法を適宜設定することで、スイングアーム5の変位量、変位力を異ならせて、ショックアブソーバ6に伝えることができる。
【0014】
クランクケース3は、2つのメインフレーム2にボルトを用いて固定されている。このときクランクケース3は、2つのメインフレーム2を車幅方向DWで連結するクロス部材として機能している。
【0015】
アームブラケット4は、クランクケース3に固定方向DFから締結部材であるボルトを用いて着脱可能に固定されている。固定方向DFは、アームブラケット4がクランクケース3に取り付けられる方向を指しており、ピボット軸10と交差する方向である。固定方向DFは、本実施形態では後方から前方への方向を指している。2つのメインフレーム2の後部2aは、車幅方向DWからアームブラケット4にボルトを用いて固定されている。2つのメインフレーム2がヘッドパイプフレーム1及びクランクケース3のみに固定されているとき、2つのメインフレーム2の後部2aは、メインフレーム2同士が前後方向における中間部又は後端部でクロス部材により直接溶接固定される場合に比べて、車幅方向DWで撓みうる状態にある。このため、メインフレーム2がアームブラケット4にボルトを用いて固定されるときに、メインフレーム2は、組立て製造誤差を許容可能に変形し、大きな応力の発生が防がれる。
【0016】
メインフレーム2は、図示では省略しているが複数のパイプ材を組み合わせ溶接により固定することにより、形成されている。ヘッドパイプフレーム1及びメインフレーム2の材料は、鉄である。アームブラケット4は、型成形品を基に機械切削加工により形成され、本実施形態では切削前の型成形品は、ダイキャストによる鋳造品である。アームブラケット4は、ピボット軸10の車体フレーム100に対する位置を規定することから、精度が要求される部品である。アームブラケット4の切削前部品をダイキャストにより一体鋳造品に成形することにより、アームブラケット4の精度を確保しやすい。クランクケース3は、重力鋳造による鋳造品である。本実施形態ではクランクケース3は、クランクシャフトを収納する機能を有しており、アームブラケット4を介してスイングアーム5に掛かる荷重を受ける機能部品を兼ねる。
【0017】
メインフレーム2は、クランクケース3を上方から支持している。
【0018】
メインフレーム2の後部2aは、後方に突出するように湾曲しながら、上方から下方に向けて延びている。この湾曲部分に補強板21が固定されている。補強板21は、後部2aの湾曲形状に合わせた三角形形状又は円弧形状を有しており、ピボット軸10の周辺から上方に延びている。補強板21は、メインフレーム2を車幅方向DWで大型化することなく、メインフレーム2の強度を向上させている。
【0019】
図4−6を参照して、クランクケース3へのアームブラケット4の固定を説明する。図4は、斜め後方から見たクランクケース3及びクランクケース3に固定されたアームブラケット4の斜視図である。図4において、アームブラケット4はクランクケース3の後方に位置しており、ボルトを用いてクランクケース3に固定されている。
【0020】
図5は、斜め後方から見たクランクケース3の斜視図である。クランケース3は、本体部分31及び4つのナット部分(固定部分)32を有している。クランクケース3内において、ナット部分32は、本体31から前記固定方向DFに突出している部分が選ばれる。ナット部分32は、ボルトのネジ軸に噛み合うように形成されたネジ穴33を有している。ナット部分32のネジ穴33に、アームブラケット4を介して、ボルトが締結される。ネジ穴33の軸方向は、固定方向DFである。アームブラケット4がクランクケース3に取り付けられるとき、4つのナット部分32にそれぞれボルトが締結される。
【0021】
図4、5に示されるように、クランクケース3の車幅方向DWの側面ではなくクランクケース3の後端面にナット部分32が形成されるので、車幅方向DWにおいて、アームブラケット4の幅は、クランクケース3の幅よりも小さく形成されている。このことは、車体フレーム100の車幅方向DWの寸法が増大することを防止している。
【0022】
図6は、アームブラケット4の後面図である。アームブラケット4は、クランクケース3に固定するためのボルトを挿通するための4つの挿通孔41を有している。挿通孔41の軸方向も固定方向DFである。後方より見て、4つの挿通孔41は、四角形の頂点位置にそれぞれ配置されている。上下を基準に4つの挿通孔41を分けると、2つの挿通孔41が上側に配置されており、2つの挿通孔41が下側に配置されている。上下のそれぞれにおいて、2つの挿通孔41は車幅方向DWに間隔を空けて配置されている。2つの挿通孔41が車幅方向DWの中心よりも左側に配置されており、2つの挿通孔41が車幅方向DWの中心よりも右側に配置されている。左右のそれぞれにおいて、2つの挿通孔41は上下方向に間隔を空けて配置されている。このため、上下方向及び左右方向のそれぞれにおいて、アームブラケット4がクランクケース3に強力に固定されている。
【0023】
突出するナット部分32の代わりにケース3に貫通孔が形成されて、ボルト、ナットによりケース3両側から締め付けてブラケット4をケース3に固定してもよい。この場合、ケース3にネジ孔を形成して、ケース3内との連通を阻止するようにボルト穴に底部を形成することで、ケース内流体(オイル)が流出することを防ぐことができる。
【0024】
図1−4、7を参照して、アームブラケット4及びアブソーバブラケット9を説明する。図7は、後方から見たアームブラケット4の斜視図である。図7において、アームブラケット4は、挿通孔41の他に、フレーム孔42、ピボット孔43、下アブソーバ孔44、及びアブソーバネジ孔45を備えている。フレーム孔42、ピボット孔43、下アブソーバ孔44はいずれも、アームブラケット4を貫通し、車幅方向DWに延びている。アブソーバネジ孔45は、アームブラケット4に形成され、固定方向DFに延びている。
【0025】
図7に示されるフレーム孔42には、連結軸14が挿入される。連結軸14は車幅方向DWに延びており、フレーム孔42を通過して、2つのメインフレーム2及びアームブラケット4を連結している。なお、円筒部材15がメインフレーム2とアームブラケット4との間に配置されており、連結軸14は円筒部材15内に挿入されている。円筒部材15は、メインフレーム2とアームブラケット4との離間距離を調節する。
【0026】
図7に示されるピボット孔43には、ピボット軸10が挿入される。ピボット軸10は車幅方向DWに延びており、ピボット孔43を通過して、スイングアーム5をアームブラケット4に回転可能に連結している。図4、7において、ピボット孔43は、アームブラケット4において前側(固定方向DFの先端側)に配置されており、クランクケース3に近い位置に配置されている。上述したように、ピボット孔43には、スイングアーム5を支持するピボット軸10が挿入される。スイングアーム5も重量物であり、重量物の荷重の掛かる位置がクランクケース3に近づけられているので、自動二輪車の重心位置が安定した位置に保たれる。
【0027】
図7に示される下アブソーバ孔44には、下支持軸12が挿入される。下支持軸12は車幅方向DWに延びており、下アブソーバ孔44を通過して、リンク機構7の一端部をアームブラケット4に回転可能に連結している。
【0028】
リンク機構7とブラケット4とを接続する接続部分となる下アブソーバ孔44に近い位置(左下の挿通孔41)に、ブラケット4をケース3に固定するためのボルトの1つが配置される。このボルトは、リンク機構7から与えられる力をケース3に伝えるリンク隣接配置ボルトとなる。具体的には、リンク機構7がオフセットする側にリンク隣接配置ボルトが配置される。また下アブソーバ孔44がブラケットの端部、具体的には下端部に配置され、リンク隣接配置ボルトも下アブソーバ孔44が形成されるブラケット4の端部側、具体的には下端部に配置される。これによってリンク機構7からブラケット4に与えられる力をリンク機構7近くでケース3に伝えることができ、ブラケット4の剛性を低減することができる。
【0029】
ブラケット4は、上下に延びて上下に離れた一対の固定部分(挿通孔41の周辺部分)をそれぞれ連結する上下延在部分を有する。上下延在部分は、左右に間隔を開けて2つ配置される。ブラケット4は、上下延在部分を連結して左右方向に延びて、ピボット孔43が形成される左右延在部分が形成される。したがってブラケット4は少なくとも、H形状に形成される部分が存在する。固定方向に分割される上下型によってブラケット4が成形加工されることで、厚みを変化させることが容易であり、必要な強度を保ちつつ軽量化を図りやすい。ブラケット4は、少なくとも、左右方向中心に対して間隔をあけた2つの位置で固定される。本実施形態では、ブラケット4の左右方向両端位置でそれぞれ固定される。ピボット軸10から上下方向にずれた位置で固定される。本実施形態では、ピボット軸10に対して上下に間隔をあけた2つの位置で固定される。
【0030】
ブラケット4の左右方向幅をケースの左右方向幅よりも小さくすることで、スイングアーム5の左右方向幅を小さくすることができる。
【0031】
ショックアブソーバ6を固定する部分(45)とリンク機構7を固定する部分(44)が共にブラケット4の車幅方向DW中心に対して一方に偏位することで、車幅方向DWの他方の空間を有効利用することができる。
【0032】
アブソーバブラケット9は、挿通孔91及び挿通孔92を有している。挿通孔91は、アームブラケット4に固定するためのボルトを挿通するための孔である。アブソーバブラケット9は、アームブラケット4にボルトを用いて固定されている。ここで、ボルトは、挿通孔91を通過し、アブソーバネジ孔45に噛み合わせられており、ボルトを締結することによって、アブソーバブラケット9がアームブラケット4に固定される。また、挿通孔92は、上支持軸11を挿通するための孔である。上支持軸11は車幅方向DWに延びており、挿通孔92を通過して、ショックアブソーバ6の上端部をアームブラケット4に角変位可能に支持している。
【0033】
アブソーバブラケット9は、ボルトを用いて固定されるので、アームブラケット4に着脱可能である。ここで、ショックアブソーバ6のレバー比は、アブソーバブラケット9における挿通孔92の位置によって変更可能である。このため、挿通孔92の位置が異なる複数のアブソーバブラケット9を用意することにより、必要に応じて任意にレバー比を変更できる。
【0034】
アームブラケット4は、固定方向DFに形成される複数の凹部を有しており、隣り合う凹部の間にリブ46が形成されている。このため、アームブラケット4の重量を増大させることなく、アームブラケット4の強度が確保されている。
【0035】
ブラケット4にショックアブソーバ6、リンク機構7、スイングアーム5を組み立てたサブアッシを形成し、サブアッシをケース3に固定することで、それらを車体に順次組み立てる場合に比べて組立性を向上することができる。
【0036】
図6に示されるように、ブラケット4をケース3に固定するためのボルトは、ボルト挿入方向、すなわちブラケット4後方からブラケット4を見て、リンク機構7およびショックアブソーバ6で隠れる領域から離れた位置にそれぞれ配置される。言換えると、ショックアブソーバ6よりも車幅方向DW外側にそれぞれボルトが配置される。これによってショックアブソーバ6をブラケット4に固定した状態で、ブラケット4をケース3に固定するにあたって、ボルトがショックアブソーバ6と干渉することを防いで、組立作業を行うことができる。
【0037】
後輪と路面との間で生じる作用力(駆動力、制動力)は、車輪、スイングアーム5、ブラケット4を介してケース3に伝わる。上記作用力は、車体の前後方向に作用することになる。本実施例では、ボルトが前後方向に延びることで、作用力がボルトの軸方向に主に働く。これによって作用力がボルトの軸方向に垂直な方向に働く場合に比べて、ボルトの支持剛性を高めることができる。
【0038】
本実施形態に係る自動二輪車のスイングアーム支持構造は、上述の構成を有するので、次の作用、効果を有している。
【0039】
[1]スイングアーム支持構造は、パワーユニットが収納されるケース(3)と、車軸を支持するスイングアーム(5)を、ピボット軸(10)を介して上下に揺動自在に支持するブラケット(4)とを備えており、前記ブラケット(4)は、前記ピボット軸(10)に交差する固定方向(DF)から前記ケース(3)に着脱可能に固定される。
【0040】
ケースとは別体にブラケットが形成されるので、ケースのピボット軸付近にブラケットから付与される応力が集中することを防ぐことができ、ケースでスイングアームを直接支持する場合に比べて、ケース剛性が過剰となることを防ぐことができる。またブラケットが、ピボット軸に交差する交差方向からケースに装着固定される。これによってケースのうちで、スイングアームに対向する面にブラケットの固定位置を配置することができる。したがって取付位置が比較的制限されるケース側面にブラケットの固定位置を配置する場合に比べて、ブラケットの固定位置の選択肢を増やすことができ、設計の自由度を向上することができる。
【0041】
[2]スイングアーム支持構造は、ヘッドパイプフレーム(1)から後方に延びて前記ケース(3)を支持するメインフレーム(2)を備えており、前記メインフレーム(2)と前記ブラケット(4)が個別に形成されている。
【0042】
メインフレームとブラケットが個別に形成されているので、メインフレーム及びケースの形状に合わせて、ブラケットの形状を変更できる。このため、スイングアーム支持構造は、ブラケットの形状を変更することにより、異なる形状のメインフレーム及びケースに対応でき、製造の自由度が向上する。
【0043】
メインフレームにピボット軸が形成される場合に比べて、ブラケットを小型化することができ、車両を軽量化および小型化することができる。またブラケットとメインフレームとを異なる成形方法で形成することができ、利便性を向上することができる。たとえばメインフレームとブラケットとが一体成形される場合、両方を成形加工で一体形成する場合には、成形型が大きくなることで作業性が悪い。また両方を溶接接合で一体成形する場合には、製造誤差が生じやすい。本実施例では、パイプ体の溶接接合により、メインフレームを形成することで、成形型を用いる必要がなく、作業性を向上できる。またブラケットを型成形することで、溶接成形に比べて、ケースに対するピボット軸の位置ずれを防ぐことができる。またメインフレームをケースに固定する場合に生じるフレーム変形の影響を受けることなく、ブラケットをケースに固定することができ、ケースに対するピボット軸の位置ずれを防ぐことができる。
【0044】
[3]スイングアーム支持構造は、前記ブラケット(4)を前記ケースに固定する複数の締結部材を備えており、前記複数の締結部材を用いて前記ブラケット(4)が前記ケース(3)に固定されているときに、前記複数の締結部材は、間隔を空けて配置されており、前記固定方向(DF)に前記ブラケット(4)を前記ケース(3)に押し付ける。
【0045】
複数の締結部材は、ともに固定方向にブラケットをケースに押し付けて固定する。これによって、ブラケットは、ボルトの位置にかかわらず、同じ方向に押し付けられることになり、ボルト位置のずれに起因するブラケットのたわみを防ぐことができる。比較例として、クランクケースの車幅方向両側からボルトでそれぞれ固定する場合には、ブラケットとケースとの左右間の隙間をなくすために、ブラケットに変形させたり、隙間を埋めるスペーサをする必要がある。ブラケットを変形させる場合には、ピボット軸を精度よく配置できないし、スペーサを配置する場合には、作業性が悪い。これに対して上述したように、本実施例では、ボルトの押付け方向を同一とすることで、比較例のような状況を防ぐことができる。
【0046】
また好ましくは、ブラケットとケースとが互いに当接する、ボルトごとに設定される当接面は、単一の仮想平面上にすべて配置されることが好ましい。当接面が同一平面上に形成される場合、誤差の影響を受けにくい。言換えると、ブラケットは、ケースの左右方向両側位置で固定される場合に比べて、当接面を一つの共通面として形成することができる。これによってボルト締め付けによるブラケットの変形を抑えて、ピボット軸の位置ずれをさらに抑えることができる。
【0047】
また複数のボルトは、互いに間隔をあけて配置されており、たとえばクランクケースの分割面に対して両側にそれぞれボルト固定位置が配置されることで、クランクケースの分割を防ぐ補強部材としてブラケットを機能させることができる。また分割面に対して一方側にそれぞれボルト固定位置が配置されることで、ブラケットをクランクケースから取り外すことなく、クランクケースのうち一方を車体から取り外すことができる。
【0048】
[4]前記ブラケット(4)は、前記ピボット軸(10)を角変位自在に支持するピボット孔(43)を備えており、前記ブラケット(4)において、前記ピボット孔(43)を形成する部分と、前記ケース(3)に接触する面を形成する部分とが型成形品を基に形成されている。
【0049】
型成形品により形成することで、溶接形成した場合に比べた各部位での誤差を抑えることができるとともに、厚みの設定が容易となる。したがって、ケースとピボット軸との位置ずれを防ぐと共に、強度低下を抑えつつ軽量化を図ることができる。好ましくは、ブラケットとケースとが互いに当接面およびピボット孔は、型成形部品を基に、同一の基準位置に基づいて切削加工によって形成されることが好ましい。これによってケースに対するピボット軸の位置ずれをさらに抑えることができる。さらに型成形品は、重力鋳造品よりもダイキャスト鋳造品が用いられることが好ましい。
【0050】
[5]前記ケース(3)は、本体部分(31)と、前記ブラケット(4)を固定する固定部分(32)とを有しており、前記固定部分(32)は、前記本体部分(31)から前記固定方向(DF)に突出するように形成されている。
【0051】
このため、スイングアーム支持構造は、ケースの本体部分の強度が低下することを防止できる。
【0052】
このように本体部と固定部とでケースの厚みを異ならせることで、本体部によって内容物のケーシング機能として必要な厚みを持たせ、固定部によってブラケットの支持機能としての必要な厚みを持たせることができ、重量化を防ぎつつブラケットを支持することができる。本実施形態では、ケース内面において、本体部から固定部がケース中心に向かって固定方向に突出させることで、ケース外面とブラケットとを近づけることができ、当接面積を大きくすることができる。またたとえばケース内空間の仕切り壁、内部構造物の支持、冷却水の供給などの目的で、ケース中心に向かって車幅方向に直交する突出部分がケース本来の機能として形成される場合には、その突出部分をボルト固定用の固定部として兼用することで、ケーシングとしてのケース本来の剛性を維持しやすく、ケースの肉厚増加を抑えることができる。
【0053】
[6]スイングアーム支持構造は、前記スイングアーム(5)を前記ブラケット(4)に対して弾性的に支持するショックアブソーバ(6)を備え、前記ブラケット(4)は前記ショックアブソーバ(6)を支持するアブソーバ支持部(9)を備えている。
【0054】
ピボット軸とショックアブソーバとの両方をブラケットに支持させることで、ピボット軸とショックアブソーバ接続位置との位置関係を精度よく設定できる。本実施例では、さらにショックアブソーバ支持部が、ブラケットから着脱自在に構成されることで、支持位置が異なるショックアブソーバ支持部を用意することで、ショックアブソーバ指示部を変更するだけで、ショックアブソーバのレバー比を容易に調整することができる。
【0055】
[7]スイングアーム支持構造は、前記ブラケット(4)は、前記ショックアブソーバ(6)のレバー比を調整するためのリンク機構(7)を支持するリンク支持部(44)を備えている。
【0056】
ピボット軸とショックアブソーバとリンク機構のそれぞれをブラケットに支持させることで、ピボット軸、ショックアブソーバ接続位置、リンク機構接続位置との位置関係を精度よく設定できる。
【0057】
[8]スイングアーム支持構造は、前記スイングアーム(5)を前記ブラケット(4)に対して弾性的に支持するショックアブソーバ(6)を備えており、前記固定方向(DF)から見て、前記複数の締結部材は、前記ショックアブソーバ(6)によって隠される領域から離れた位置に配置される。
【0058】
ブラケットにショックアブソーバが取り付けられていても、ブラケットをケースに固定するための締結部材が固定方向で露出する。このため、スイングアーム支持構造は、ブラケットとショックアブソーバの取付順序に関係なく、ブラケットをケースに固定することができ、組立作業性を向上できる。
【0059】
[9]スイングアーム支持構造は、パワーユニットを収納するケース(3)と、車軸を支持するスイングアーム(5)をピボット軸(10)を介して上下に揺動自在に支持するブラケット(4)と、ヘッドパイプフレーム(1)から後方に延びて前記ケース(3)を支持するメインフレーム(2)とを備えており、前記ブラケット(4)は、前記メインフレーム(2)とは別体に形成されており、前記ケース(3)に着脱可能に固定される。
【0060】
ケースとは別体にブラケットが形成されるので、ケースのピボット軸付近にブラケットから付与される応力が集中することを防ぐことができ、ケースでスイングアームを直接支持する場合に比べて、ケース剛性が過剰となることを防ぐことができる。またブラケットがメインフレームと別体に形成されることで設計の自由度を向上することができる。例えばメインフレームにピボット軸が形成される場合に比べて、ブラケットを小型化することができ、車両を軽量化および小型化することができる。
【0061】
本実施形態に係るスイングアーム支持構造は、次の変形を適用できる。
【0062】
スイングアームは、ブラケットに形成されるピボット軸に対して上下方向に揺動変位する構造であるものに本発明を適用できる。たとえば前輪車軸よりも後方のケースに固定されるブラケットを用いて、ブラケットのピボット軸に対して上下方向に揺動変位するスイングアームに前輪車軸を支持させてもよい。この場合、ブラケットは、クランクケースを前方から後方に固定されることになる。
【0063】
またスイングアームは、ピボット軸まわりに角変位する構造でもよいが、他の構造が用いられてもよい。たとえばスイングアームを上下方向にほぼ平行に揺動させる構造を採用してもよい。具体的には、ブラケットに上下方向に間隔をあけた2つのピボット軸が設定され、各ピボット軸から平行リンクを形成する複数のアームが形成されて、複数のアームを介して車軸が支持されてもよい。
【0064】
本実施例では、クランクケースのうちの変速機ケースにブラケットが固定される構造であるが、車輪を駆動するための駆動源であるパワーユニットを収納するケースにブラケットが固定されればよい。たとえばシリンダブロックにブラケットが固定されてもよい。またクランクケースと変速機ケースとが別々に形成される場合には、変速機ケースにブラケットが固定されてもよい。また変速機が設けられない場合であれば、内燃機関が収納されるケースにブラケットが固定されてもよい。またメインフレームとブラケットとが一体的に形成される構造も本発明に含まれる。また駆動源として内燃機関以外を備える自動二輪車も本発明に含まれる。たとえば電動二輪車の場合、パワーユニットケースが、モータケースまたはバッテリケースのいずれかを含む場合、それらのケースにブラケットが固定される場合も本発明に含まれる。
【0065】
ショックアブソーバの両端がそれぞれアームブラケットとスイングアームとに接続されてもよい。またショックアブソーバがアームブラケットに接続されていなくてもよい。同様にリンク部材が用いられなくてもよい。ボルトの位置、数は、本実施例に限らず、適宜異ならせる場合も本発明に含まれる。後方から前方に向かう方向に固定方向が設定されたが、水平方向に対して斜め上下方向、前後方向に延びる鉛直面に対して斜め左右方向に向くように設定されてもよい。
【0066】
アブソーバブラケットは、一体成形されてもよい。これによってピボット軸とショックアブソーバとの位置関係のずれをより確実に防ぐことができる。
【0067】
メインフレームの形状は、他の形状でもよい。メインフレームは、パイプフレームの他、型成形法によって形成されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 ヘッドパイプフレーム
2 メインフレーム
3 クランクケース
4 アームブラケット
5 スイングアーム
6 ショックアブソーバ
10 ピボット軸
31 本体部分
32 固定部分
43 ピボット孔
44 アブソーバ孔
100 車体フレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7