特許第6184108号(P6184108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184108光触媒溶液、多機能塗料溶液、光触媒を定着させた基材、光触媒と多機能性成分の紛体を定着させた多機能基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184108
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】光触媒溶液、多機能塗料溶液、光触媒を定着させた基材、光触媒と多機能性成分の紛体を定着させた多機能基材
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20170814BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20170814BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170814BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170814BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C09D183/00
   C09D185/00
   C09D7/12
   C09D5/16
   B05D7/24 301A
   B01J35/02 J
   B01J21/06 M
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-15005(P2013-15005)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-144436(P2014-144436A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】512055640
【氏名又は名称】株式会社フィルコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100129539
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 康志
(72)【発明者】
【氏名】前島 武人
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−219215(JP,A)
【文献】 特開2009−209250(JP,A)
【文献】 特開2008−031297(JP,A)
【文献】 特開2006−312730(JP,A)
【文献】 国際公開第00/030747(WO,A1)
【文献】 特開2005−060532(JP,A)
【文献】 特開2001−277216(JP,A)
【文献】 特開2004−305947(JP,A)
【文献】 特開2006−307206(JP,A)
【文献】 特開2009−172854(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1421494(CN,A)
【文献】 特開2000−239573(JP,A)
【文献】 特開2005−103543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/00
B01J 21/06
B01J 35/02
C09D 5/16
C09D 7/12
C09D 185/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に塗布し、乾燥させて光触媒を薄膜状に定着させるための光触媒溶液であって、
溶液中でコロイドゾルとなっている光触媒と、前記基材表面の濡れ性を向上させる界面活性成分と、前記光触媒と基材表面とを連結する定着促進成分と、無機質成分の液中分散を促進しさらに薄膜に硬さを付与する分散性促進成分と、を含有しており、
前記界面活性成分が、アセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物であり、
前記定着促進成分が、チタネート系カップリング剤,及びシランカップリング剤の少なくとも1種以上であり、
前記分散性促進成分が、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物であることを特徴とする光触媒溶液。
【請求項2】
前記光触媒溶液は更に、親水性の向上及び結合性を補助する親水性向上成分を含有しており、
前記親水性向上成分が、アニオン系コロイダルシリカ,カチオン系コロイダルシリカ,及び珪酸アルカリの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項に記載の光触媒溶液。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の光触媒溶液に、消臭成分,抗菌成分,防カビ成分,無光触媒,及び固体の光触媒の中から選択される1種以上の機能性成分の粉体を含有させて成ることを特徴とする多機能塗料溶液。
【請求項4】
疎水性又は撥水性の表面を有し、この表面に前記請求項1又は2に記載の光触媒溶液が塗布され、乾燥されて薄膜状に光触媒が定着されていることを特徴とする、光触媒を定着させた基材。
【請求項5】
疎水性又は撥水性の表面を有し、この表面に前記請求項に記載の多機能塗料溶液が塗布され、乾燥されて薄膜状に光触媒と機能性成分の粉体が定着されていることを特徴とする多機能基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性又は撥水性の基材表面に光触媒を定着させることのできる光触媒溶液、光触媒と多機能成分の粉体を定着させることのできる多機能塗料溶液、光触媒を定着させた基材、光触媒と多機能性成分の紛体を定着させた多機能基材に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、酸化チタン(TiO),酸化チタンとシリカの複合物であるチタニア−シリカ(TiO・SiO)、酸化タングステン等(WO,WO等)に代表される機能性触媒である。光触媒は、例えば基材表面に定着させることによって、防汚,親水化,殺菌などの種々の機能を発揮する。基材表面に光触媒を薄膜状に定着させる方法の一つとして、光触媒を含有する溶液(以下、光触媒溶液と称す)を基材表面に塗布し、乾燥させる方法がある。
【0003】
光触媒溶液は、光触媒の微粒子を分散させたゾル溶液であり、水溶液系及び溶剤系の物がある。光触媒溶液の塗布により光触媒を定着させる方法は、工程的,コスト的に見て有用である。その反面、水溶液系の場合、疎水性及び撥水性の基材表面に塗布できないか、或いは塗布できても定着が困難という問題がある。また、溶剤系であっても、疎水性及び撥水性が強い面に対しては、塗布できないか、或いは塗布できても定着が困難という問題がある。
【0004】
例えば特許文献2に例示されている工事現場用の仮囲いパネルや防音パネルなどは、撥水性表面を有する基材の一つであり、光触媒溶液を塗布する方法では、実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒を定着させることが困難である。そのため、現在市場に流通している仮囲いパネル等は、概ね焼き付け塗料に予め光触媒成分を配合しておくか、光触媒フィルムを貼り付ける方法で製作されたものである。焼き付け塗料を利用する場合、塗料ごとに決まっている温度で加温処理しなければならないという問題がある。また、光触媒フィルムの場合、太陽光の紫外線で光触媒フィルムの劣化が光触媒塗料膜に比べ比較的速く進行する欠点やフィルムを新たに追加した分、コスト高になるという問題がある。
【0005】
そのため、疎水性や撥水性の基材表面に対しても塗布することができ、さらに実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒を定着できる光触媒溶液の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2913257号公報
【特許文献2】特開2008−291617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、疎水性や撥水性の基材表面に対しても塗布することができ、さらに実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒を定着できる新規な光触媒溶液、及び光触媒を定着させた基材を提供することにある。
【0008】
本発明は、前記光触媒溶液の多機能化を図るべく、疎水性や撥水性の基材表面に対しても塗布することができ、さらに実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒と多機能成分の紛体を定着できる新規な多機能塗料溶液、及び光触媒と多機能成分の紛体を定着させた多機能基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が要旨とするところは、以下の通りである。
(1)本発明の光触媒溶液は、基材表面に塗布し、乾燥させて光触媒を薄膜状に定着させるための光触媒溶液であって、溶液中でコロイドゾルとなっている光触媒と、前記基材表面の濡れ性を向上させる界面活性成分と、前記光触媒と基材表面とを連結する定着促進成分と、を含有しており、前記界面活性成分が、アルキルベンゼンスルホン酸塩,ジアルキルスルホコハク酸塩,及びアセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物の少なくとも1種以上であり、前記定着促進成分が、ウレタン樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョン,チタネート系カップリング剤(チタンラクテート),及びシランカップリング剤の少なくとも1種以上であることを特徴とする。
(2)前記光触媒溶液は更に、無機質成分の液中分散を促進し、さらに薄膜に硬さを付与する分散性促進成分を含有しており、前記分散性促進成分が、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物,及びポリカルボン酸型高分子界面活性剤の少なくとも1種以上であることを特徴とする。
(3)前記光触媒溶液は更に、親水性の向上及び結合性を補助する親水性向上成分を含有しており、前記親水性向上成分が、アニオン系コロイダルシリカ,カチオン系コロイダルシリカ,及び珪酸アルカリの少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0010】
(4)本発明の多機能塗料溶液は、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒溶液に、消臭成分、抗菌成分、防カビ成分、無光触媒(CT触媒)、及び固体の光触媒の中から選択される1種以上の機能性成分の粉体を含有させて成ることを特徴とする。
【0011】
(5)本発明の光触媒を定着させた基材は、疎水性又は撥水性の表面を有し、この表面に前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒溶液が塗布され、乾燥されて薄膜状に光触媒が定着され親水性を呈することを特徴とする。
【0012】
(6)本発明の多機能基材は、疎水性又は撥水性の表面を有し、この表面に前記(4)に記載の多機能塗料溶液が塗布され、乾燥されて薄膜状に光触媒と機能性成分の粉体が定着され概ね親水性を呈することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光触媒溶液によれば、溶液中でコロイドゾルとなっている光触媒と、前記基材表面の濡れ性を向上させる界面活性成分と、前記光触媒と基材表面とを連結する定着促進成分と、を含有しており、さらに界面活性成分が、アルキルベンゼンスルホン酸塩,ジアルキルスルホコハク酸塩,及びアセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物の少なくとも1種以上であり、前記定着促進成分が、ウレタン樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョン,チタネート系カップリング剤(チタンラクテート),及びシランカップリング剤の少なくとも1種以上であることにより、疎水性や撥水性の基材表面に対しても塗布することができ、さらに実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒を定着させることが可能である。
【0014】
また、本発明によれば、光触媒,界面活性成分及び定着促進成分を含有する光触媒溶液を塗布して光触媒を定着させたことにより、光触媒活性を極力低下させることがなく基材表面への定着性が高く、高硬度に光触媒が定着した基材(例えば、工事用仮囲いパネルや防音パネル)を提供することが可能である。従って、スプレー塗装や刷毛塗りなどの塗布法が可能であり、自動塗布機にも対応可能である。また、塗布後は高温加熱することなく自然乾燥で光触媒薄膜を形成できる。さらに屋外で太陽光が当たれば膜形成の速度が上昇する。このようにして光触媒が定着した基材は、その優れた光触媒機能を長期に亘って維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の効果を確認するために行った試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態による光触媒溶液について、詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定されることはない。
【0017】
[光触媒溶液]
本実施形態による光触媒溶液は、光触媒粒子のコロイドゾル溶液であり、配合成分として界面活性成分,定着促進成分,分散性促進成分,親水性向上成分,及び機能性成分を含有している。配合成分のうち、界面活性成分と分散性促進成分が必須の成分であり、分散性促進成分,親水性促進成分及び機能性成分は任意の成分である。
【0018】
光触媒
本実施形態の光触媒溶液は、光触媒のコロイドゾル溶液になっていればよく、光触媒の基質の種類は限定されない。水溶液系及び溶剤系のいずれでもよいが、水溶液系の方が好ましい。光触媒の基質の好ましい一例は、酸化チタン(TiO),酸化チタンとシリカの複合物であるチタニア−シリカ(TiO・SiO)、酸化タングステン等(WO,WO等)の単独または2種以上の混合物である。可視光応答活性の高い触媒を選ぶのが好ましい。さらに、光触媒の基質の結晶性の有無は問わない。例えばアモルファス型,アナターゼ型,又はブルッカイト型のいずれでもよい。好ましい一例としては、後述する実施例の結果からも分かるように、アモルファス型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、アモルファス型チタニア−シリカ、アナターゼ型チタニア−シリカを挙げることができる。なお、チタニア−シリカ水溶液は、特許2913257号に開示されている方法に従って製造されたものが好ましい。
【0019】
但し、ゾル溶液の透明性を重視する場合は、光触媒の基質粒子の大きさは重要である。基材の種類・色或いは用途等に応じて光触媒溶液又は塗膜の透明性を要求する場合、少なくとも平均粒子径が100nm以下であることが望ましく、50nm以下がさらに望ましい。80〜90nmのあたりに透明度を左右する境界領域があるからである。また、溶液中の光触媒成分の濃度は、例えば0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1〜3質量%である。光触媒の基質或いはそのゾル溶液は、市販されているものを用いてもよく、製造してもよい。さらに、界面活性成分等の配合成分は、光触媒のゾル溶液に直接的に添加してもよく、溶液状のものを混合してもよい。
【0020】
界面活性成分
本実施形態の光触媒溶液は、必須の配合成分1として、界面活性成分を含有している。この界面活性成分は、本発明者らの試行錯誤の結果、塗布時に基材表面の濡れ性を向上させる良好な効果が確認された潤滑浸透性の強いアルキルベンゼンスルホン酸塩,ジアルキルスルホコハク酸塩,又はアセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物である。光触媒溶液には、これらの物質の中から選択される1種以上を配合することができる。従って、本実施形態の光触媒溶液は、配合成分1を含有することにより、疎水性又は撥水性の基材表面で液がはじかれるのを抑制でき、該基材表面に塗ることを可能にした。
【0021】
界面活性成分の配合量は、未添加状態の光触媒溶液の質量に対して、0.15質量%以上、好ましくは0.2質量%以上となるようにする。一方で、添加し過ぎに因る不具合発生を抑えることのできる量として、0.5質量%以下であることが好ましい。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩は、アルキルベンゼンスルホン酸塩よりも湿潤浸透性が大きく、0.175質量%辺りから有用な効果が出るが0.5質量%を超えると泡立ち易く、粘度が大きくなる。アセチレン系ジアルコールポリエーテル化物は、ジアルキルスルホコハク酸塩よりも濡れ性は高く泡立ちも少ないが、量が多過ぎると粘度が上がりやはり泡立ち易くなる。そのため、上限は0.5質量%が適当である。
後述する他の配合成分2〜5にも言えることだが、配合成分は出来るだけ量を少なくてその効果を発揮させるのが望ましい。つまり、配合することにより目的の効果が発揮される具体的な物質の選定と、その適量を見出したことに、本実施形態の技術的意義がある。
【0022】
好ましい一例として、アルキルベンゼンスルホン酸塩とジアルキルスルホコハク酸塩は花王株式会社の製品,アセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物はエアープロダクツ
ジャパン株式会社の製品が、界面活性成分としての良好な作用・効果を発揮する。
【0023】
定着促進成分
本実施形態の光触媒溶液は、必須の配合成分2として、定着促進成分を含有している。この定着促進成分は、本発明者らの試行錯誤の結果、光触媒と基材表面を連結するのに良好な効果が確認されたウレタン樹脂エマルジョン,アクリル樹脂エマルジョン,チタネート系カップリング剤(チタンラクテート),又はシランカップリング剤である。光触媒溶液には、これらの物質の中から選択される1種以上を配合することができる。従って、本実施形態の光触媒溶液は、配合成分2を含有することにより、疎水性又は撥水性の基材表面に光触媒薄膜を強固に定着させることを可能にした。これに対し、配合成分2を含まない溶液は、一見すると塗布できた場合でも擦ると直ぐに膜が剥がれてしまう。また、配合成分2は、溶質の無機成分をよく包含し、薄膜の平滑性に寄与する効果もある。その結果、光触媒薄膜の透明性が向上する。
【0024】
定着促進成分が光触媒と基材表面を連結する作用は、樹脂エマルジョンとカップリング剤とで異なる。樹脂エマルジョンの場合、接着剤としての作用が働いて光触媒成分と基材表面を連結する。詳しいメカニズムは定かでないが、有機面に対しては表面張力や表面エネルギーが関係する 物理接触・物理吸着で連結し、一部は一種の化学結合(配位結合)をしており、無機粒子に対しては物理的に粒子を包み込んでいると推測する。
【0025】
一方、カップリング剤の場合、無機及び 有機と連結できる個々の官能基を両端に持つことで、有機面と無機面を化学的に連結する作用がある。実際の試験結果でも、カップリング剤による連結効果は顕著であることを確認した。とりわけ、チタニア系、チタニアシリカ系の光触媒に対しては、チタネート系のカップリング剤の連結効果が大きい。
【0026】
定着促進成分の配合量も、未添加状態の光触媒溶液の質量に対して、0.15質量%以上、好ましくは0.2質量%以上となるようにする。さらに、添加し過ぎに因る不具合発生を抑えることのできる量として、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
好ましい一例として、ウレタン樹脂エマルジョンは楠本化成株式会社の製品、アクリル樹脂エマルジョンは東亜合成株式会社の製品が、定着促進成分としての良好な作用・効果を発揮する。
【0028】
分散性促進成分
本実施形態の光触媒溶液は、任意の配合成分3として、分散性促進成分を含有している。この分散性促進成分は、本発明者らの試行錯誤の結果、無機質成分の液中の分散を促進し、さらに薄膜の硬さを向上させる良好な効果が確認されたナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、又はポリカルボン酸型高分子界面活性剤である。光触媒溶液には、これらの物質の中から選択される1種以上を配合することができる。配合成分3を含有しなくとも疎水性又は撥水性の基材表面に塗布はできるが、配合成分3を配合することによって薄膜の硬度を高めることが可能になる。添加の有無によって相対的に1H硬度が高くなることを確認している。
【0029】
分散性促進成分の配合量も、未添加状態の光触媒溶液の質量に対して、0.15質量%以上、好ましくは0.2質量%以上となるようにする。さらに、添加し過ぎに因る不具合発生を抑えることのできる量として、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0030】
好ましい一例として、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物及びポリカルボン酸型高分子界面活性剤は、花王株式会社の製品が、分散性促進成分としての良好な作用・効果を発揮する。
【0031】
親水性促進成分
本実施形態の光触媒溶液は、任意の配合成分4として、親水性向上成分を含有している。この親水性向上成分は、本発明者らの試行錯誤の結果、光触媒以外の無機成分として、薄膜の親水化機能の向上及び結合性を補助する良好な効果が確認されたアニオン系コロイダルシリカ、カチオン系コロイダルシリカ、珪酸アルカリである。光触媒溶液には、これらの物質の中から選択される1種以上を配合することができる。その結果、本実施形態の光触媒溶液は、配合成分4を含むことによって、光触媒が活性化しない無光状態でも基材表面の親水性を維持して防汚効果を維持することが可能である。さらに、バインダーとしての作用によって結合性を補助し、光触媒薄膜の定着性や硬度を高めることが可能である。また、配合成分4は、固形分の増量剤としても使用できる。
【0032】
親水性向上成分は、どの割合でも配合することができるが、配合量が増えるに伴って相対的に薄膜中の光触媒濃度が下がるので、薄膜の光触媒機能が低下しない量に止めるのが好ましい。そのような配合量の一例として、未添加状態の光触媒溶液の質量に対して、0.1〜15質量%、好ましくは0.5〜5質量%とする。
【0033】
[多機能塗料溶液]
次に、多機能塗料溶液の実施形態について説明する。本実施形態の多機能塗料溶液は、前述の光触媒溶液に種々の機能性成分(配合成分5)を配合することによって、液及び薄膜の多機能化(特に、薄膜の性能向上)を実現した物である。より具体的には、機能性成分を配合して薄膜を形成したときに、透明性のある薄膜で、耐候性、密着性、膜硬度が高く、その機能を長く持続することができる一方で光触媒の機能が低下することが極力抑えられた配合を目的とする。機能性成分の一例として、例えば銅や銀等の抗菌・防カビ成分、消臭成分、無光触媒(CT触媒)、固体の光触媒を挙げることができる。固体の光触媒の一例として、昭和電工株式会社製のアパタイトチタニアやブルッカイト(高活性)酸化チタン,石原産業株式会社製の高活性酸化チタン(STシリーズ)等を挙げることができる。多機能塗料溶液は、これら機能性成分の中から目的等に応じて任意に選択される物の紛体を添加して成る。機能性成分を加えた多機能塗料溶液は、内装用光触媒溶液として使用でき、大変有効である。
【0034】
光触媒と機能性成分の紛体を含有する多機能塗料溶液も、前述の必須の配合成分1及び2を含有することによって、疎水性や撥水性の基材表面に対しても塗布することができ、さらに実用化に至るのに必要な定着性および硬度に光触媒と多機能成分の紛体を定着させることが可能である。さらに、配合成分3及び4を添加することで、各成分の作用・効果を得ることが可能である。
【0035】
なお、配合成分1のアセチレン系ジアルコールポリエーテル化物との組合せでは、抗菌・防カビ成分、消臭成分、無光触媒成分の粉体をよく包含し、透明感と塗膜中での固定が良好な結果が得られた。但し、アセチレン系ジアルコールのポリエーテル化物の量が多いと機能低下の恐れがある。従って、配合成分1の量の上限を、0.5質量%以下にすることが必要である。
【0036】
本実施形態の光触媒溶液/多機能塗料溶液は、疎水性又は撥水性の基材表面に塗布できる有用な溶液である。疎水性又は撥水性であるかの判定は、水接触角によって行うのが一般的である。すなわち、水接触角が40°〜90°のときを疎水性と定義し、水接触角が90°以上を撥水性と定義する。疎水性又は撥水性の基材表面とは、主として有機物を材料にして製作された基材の表面(有機面)であるが、疎水性の基材表面には無機物を材料にして製作された基材表面(無機面)も含む。有機面の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、PET、ポリカーボネート、ポリウレタン、フッ素樹脂等がある。また、無機面の具体例としては、ステンレス、アルミニウム、銅等を代表とする光沢のある金属面がある。但し、本実施形態の光触媒溶液/多機能塗料溶液は、塗布対象が必ずしも疎水性又は撥水性の基材表面に限定されることはなく、親水性の基材表面に光触媒を定着させるために用いてもよい。基材は、一例として工事現場用の仮囲いパネルや防音パネル等であるが、これに限定されることはない。
【0037】
基材表面に光触媒溶液/多機能塗料溶液を塗布する方法は、特に限定されることはなく、公知の塗布方法を採用することができる。一例として、スプレー塗装や刷毛塗りなどの手作業も可能であり、ロールコーター、スピンコーター、スリットコーター等の自動塗布機を用いることもできる。塗布量は、膜厚の目標値などに応じて種々設定し得るが、一例として単位面積あたりの液量が20g/m〜40g/mとなるようにする。塗膜の厚みは、80nm〜130nmであることが好ましい。溶液の塗布後、例えば自然乾燥させることによって光触媒薄膜/多機能性薄膜にすることができる。
【実施例】
【0038】
続いて、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
本試験では、フッ素樹脂製基板、ポリウレタン製基板、ポリカーボネート製基板、ポリエチレン製基板、ポリエチレンテレフタレート製基板、及びステンレスSUS304製基板(表面を鏡面処理)に、光触媒溶液を塗布し、自然乾燥によって薄膜にした。光触媒溶液は、アモルファス型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、アモルファス型チタニア−シリカ、及びアナターゼ型チタニア−シリカを用いた。光触媒濃度は、各々1質量%とした。
【0039】
評価方法として、塗布時の濡れ性、薄膜の定着性(密着/剥離),硬さ(鉛筆硬度)及び親水性を評価した。各項目の評価基準は、試験結果と共に図1に示す。さらに各評価結果に基づいた総合評価を行った。図1の結果から、配合成分1と2の両方を含む必要があることは明らかでる。それ故、配合成分1と2を必須成分とする。そして、配合成分3と4を含むことで総合評価が良好になることが図1の結果で確認できる。さらに、図1の試験結果によれば、基材の材料が違っても、濡れ性等の各評価が同様になっている。すなわち、本発明の光触媒溶液は、基板の材質によって性能が左右されず、安定した機能を発揮することができる。なお、記載は省略するが、アクリル樹脂やポリプロピレンでも同様の結果であった。
【0040】
以上、本発明の具体的な実施形態に関して説明したが、本発明の範囲を逸脱しない限り様々な変形が可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって自明なことである。従って、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
図1