【文献】
折り紙光学を利用した円筒構造物の圧潰特性に関する考察,自動車技術会論文集,日本,社団法人自動車技術会,2003年10月15日,VOL.34 No.4 October 2003,P145-149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち当該筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体以外の部分構造体における角度θは全てほぼ同一である、請求項1に記載の自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
当該筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち当該筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体から他方の端部に位置する部分構造体に向かうにつれて部分構造体における角度θが大きくなっていく、請求項1に記載の自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動車が衝突するときには必ずしも前方から衝突するわけではなく、斜めに衝突する場合もある。したがって、上述したような筒状構造体を、例えば自動車のフロントサイドメンバや、フロントサイドメンバの前方に配置されるクラッシュボックスとして用いる場合、衝突荷重は必ずしも筒状構造体の軸線方向に入力されるわけではなく、軸線方向に対して傾斜した方向から入力される場合もある。
【0008】
このように、軸線方向に対して傾斜した方向から荷重の入力が行われると、特許文献1〜4に記載の筒状構造体はその根本部分で折れ曲がる傾向にある。この様子を、
図1に示す。図示した例では、筒状構造体100はフロントサイドメンバ101の前方に配置されたクラッシュボックスとして用いられている。
図1(a)は荷重入力前の筒状構造体100を、
図1(b)は荷重入力後の筒状構造体100をそれぞれ示している。筒状構造体100はフロントサイドメンバ101の前方に固定されており、
図1(a)に矢印Xで示した方向の衝突荷重が入力される。このような衝突荷重が入力されると、
図1(b)に示したように、筒状構造体100は点Yで示した箇所にて折れ曲がる。
【0009】
このように筒状構造体100が折れ曲がってしまうと、もはや筒状構造体100によっては十分なエネルギの吸収を行うことはできない。その結果、筒状構造体に対して傾斜した方向から荷重の入力が行われると、筒状構造体100によって吸収されるエネルギの量は少ないものとなってしまう。このため、如何なる方向から荷重が加わっても同じように変形、圧潰する性質であるロバスト性の高い筒状構造体が必要とされている。
【0010】
また、筒状構造体100をクラッシュボックスとして用いた場合、筒状構造体100の圧潰時における反力変動が大きくなると、フロントサイドメンバの予期せぬ変形を招くか、或いは十分なエネルギの吸収を行うことができなくなる。すなわち、筒状構造体100の圧潰時における反力の最大値が大きくなると、クラッシュボックスに結合されたフロントサイドメンバに大きな荷重が加わってしまうことになり、フロントサイドメンバの予期せぬ変形を招くことになる。また、筒状構造体100によって吸収されるエネルギは反力の大きさに比例することから、筒状構造体100の圧潰時における反力の最小値が小さいと筒状構造体100によって吸収されるエネルギも小さくなる。
【0011】
そこで、上記問題に鑑みて、本発明の目的は、圧潰時における反力変動を抑制しつつロバスト性の高い筒状構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、筒状構造体の圧潰時における反力変動及びロバスト性に関して、種々の構成の筒状構造体について検討を行い、このうち、筒状構造体として、以下のような構成を有するものについても検討を行った。すなわち、連続して配置された複数の筒状の部分構造体を具備し、各部分構造体が互いに同一の六角形状の第一端部及び第二端部と、これら第一端部と第二端部との間に延びる側部とを有している筒状構造体であって、第一端部が第二端部に対して所定角度ねじれており、第一端部の各辺とこの辺に対応する第二端部の各辺との間に設けられた各部分側部には対角線上に谷折り線が形成されると共にこの部分側部の両側には六角形状の第一端部の角部とこの角部に対応する六角形状の第二端部の角部とを結んだ山折り線が形成されている筒状構造体について検討を行った。
【0013】
その結果、各部分側部の山折り線と第一端部が位置する平面及び二端部が位置する平面との間の角度を共にほぼθで同一とすると共に、筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体における角度θを適切な値とすることにより従来の筒状構造体に比べて筒状構造体の圧潰時における反力変動及びロバスト性を大幅に向上させることを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)連続して配置された複数の筒状の部分構造体を具備する筒状構造体において、各部分構造体は、多角形状の第一端部と、該第一端部とほぼ同一形状の多角形状であって前記第一端部の位置する平面とほぼ平行な平面上に位置する第二端部と、これら第一端部と第二端部との間に延びる側部とを有し、前記多角形状の第一端部は前記多角形状の第二端部に対して所定角度ねじれており、前記多角形状の第一端部の各辺と該第一端部の辺に対応する前記多角形状の第二端部の各辺との間には前記側部の一部である部分側部が設けられ、各部分側部には対角線上に谷折り線が形成されると共に該部分側部の両側には前記多角形状の第一端部の角部と該角部に対応する前記多角形状の第二端部の角部とを結んだ山折り線が形成され、各部分側部の山折り線と前記第一端部が位置する平面及び前記第二端部が位置する平面との間の角度は共にほぼθで同一であり、当該筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち当該筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体における角度θは、他の部分構造体における角度θよりも小さく且つ当該筒状構造体を構成する全ての部分構造体について前記角度θは20°以上60°以下である、
自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
【0015】
(2)当該筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち当該筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体以外の部分構造体における角度θは全てほぼ同一である、上記(1)に記載の
自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
【0016】
(3)当該筒状構造体を構成する複数の部分構造体のうち当該筒状構造体の一方の端部に位置する部分構造体から他方の端部に位置する部分構造体に向かうにつれて部分構造体における角度θが大きくなっていく、上記(1)に記載の
自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
【0017】
(4)前記各部分側部の平面状の部分には開口部が設けられる、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の
自動車用フレーム構造体用の筒状構造体。
【0018】
(5)
客室側の主フレームと、該主フレームに結合された上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の自動車用フレーム構造体用の筒状構造体を用いた自動車用フレーム構造体において、前記筒状構造体は、前記他の部分構造体よりも角度θが小さい部分構造体が設けられた筒状構造体の端部とは反対側の端部
が客室側の主フレームに結合される、
自動車用フレーム構造体。
【0019】
(6)
客室側の主フレームと、該主フレームに結合された上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の自動車用フレーム構造体用の筒状構造体を用いた自動車用フレーム構造体において、前記筒状構造体は、
前記他の部分構造体よりも角度θが小さい部分構造体が設けられた筒状構造体の端部とは反対側の端部が客室側の主フレームに結合され、サイドメンバ又はクラッシュボックスとして用いられる、
自動車用フレーム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、圧潰時における反力変動を抑制しつつロバスト性の高い筒状構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0023】
図2は、本発明の第一実施形態の筒状構造体の概略的な斜視図であり、
図3は、本発明の筒状構造体の概略的な側面図である。本発明の筒状構造体10は、
図2及び
図3に示したように、連続して配置された複数の筒状の部分構造体11〜14を具備する折紙構造となっている。図示した例では、筒状構造体10は4つの部分構造体11〜14を有しているが、複数の部分構造体を有していればいくつ有していてもよい。
【0024】
複数の部分構造体11〜14のうち
図2及び
図3において最も上方側の部分構造体11を例にとって説明する。部分構造体11は、それぞれ、
図2及び
図3において上方側に位置する上方端部11aと、
図2及び
図3において下方側に位置する下方端部11bとを具備する。下方端部11bは、上方端部11aが位置する平面とほぼ平行な平面上に位置する。
図2からわかるように、本実施形態では、上方端部11a及び下方端部11bはいずれも六角形状であるが、これら端部は互いにほぼ同一の多角形状であれば如何なる形状であってもよい。
【0025】
なお、部分構造体12〜14も、部分構造体11と同様に上方端部12a〜14a及び下方端部12b〜14bを具備する。また、隣り合う部分構造体のうち上側の部分構造体(例えば、11)の下方端部11bと、下側の部分構造体(例えば、12)の上方端部12aとは互いに同一の形状であり、これら端部11b、12a同士は結合されている。
【0026】
また、部分構造体11は、上方端部11aと下方端部11bとの間に延びる筒状の側部11cを具備する。側部11cは、上方端部11a及び下方端部11bの多角形の角数と同一の数の部分側部21を具備する。各部分側部21は、その上方側の端部が六角形状の上方端部11aの一つの辺に一致し、その下方側の端部が六角形状の下方端部11bの一つの辺に一致する。換言すると、側部11cの一部である部分側部21は、六角形状の上方端部11aの各辺と、この辺に対応する六角形状の下方端部11bの各辺との間に設けられたものであるといえる。したがって、各部分側部21は、六角形状の上方端部11aの各辺と、この辺に対応する六角形状の下方端部11bの各辺と、これら辺の一方側に位置するする角部同士を結んだ山折り線22と、これら辺の他方側に位置する角部同士を結んだ山折り線22とに囲まれた領域であるといえる。
【0027】
また、
図2及び
図3からわかるように、部分構造体11は、上方端部11aに対して下方端部11bが部分構造体11の軸線回りでねじられた構造となっている。このため、各部分側部21は、
図2及び
図3において鉛直に延びるのではなく、傾斜して延びている。各部分側部の両側には六角形状の上方端部11aの角部とこの角部に対応する六角形状の下方端部11bの角部とを結んだ山折り線22が形成されているが、部分側部21の傾斜に伴ってこれら山折り線22も傾斜せしめられる。加えて、各部分側部21には長い方の対角線上に谷折り線23が形成される。
【0028】
本実施形態では、隣り合う部分構造体では、上方端部に対する下方端部のねじり方向が逆向きとされる。例えば、
図2及び
図3において最も上方に位置する部分構造体11では、上方端部11aに対して下方端部11bは下方から見て反時計回りにねじられているのに対して、部分構造体11の下方に位置する部分構造体12では、上方端部12aに対して下方端部12bは下方から見て時計回りにねじられている。
【0029】
ここで、再び部分構造体11について考えると、部分構造体11の上方端部11aと下方端部11bとは互いにほぼ平行であることから、一つの部分側部21を構成する上方端部11aの辺と山折り線22との角度と、この側面を構成する下方端部11bの辺と山折り線22との角度とは、共に角度θ
11でほぼ同一である。この角度θ
11は、上方端部11aに対して下方端部11bが部分構造体11の軸線回りにねじられた角度に応じて変化する。上方端部11aに対する下方端部11bのねじり角度が大きくなるように部分構造体11が構成されている場合には、角度θ
11は小さくなり、逆に上方端部11aに対する下方端部11bのねじり角度が小さくなるように部分構造体11が構成されている場合には、角度θ
11は大きくなる。
【0030】
他の部分構造体12〜14も同様に構成されている。特に、上から二つ目の部分構造体12では、一つの部分側部21を構成する上方端部12aの辺及び下方端部12bの辺と山折り線22との角度はθ
12とされる。同様に、上から三つ目の部分構造体13及び上から四つ目の部分構造体14における端部の辺と山折り線22との角度は、それぞれθ
13、θ
14とされる。
【0031】
図4を参照して、上述した角度θ
11について再度説明する。
図4は、筒状構造体10のうち部分構造体11のみを抜き出して表した図である。特に、
図4(a)は、上方端部11aに対して下方端部11bがねじられていない角筒状である場合の部分構造体11を、
図4(b)は、
図2及び
図3に示した場合と同様な部分構造体11をそれぞれ示している。
【0032】
図4(a)に示したように、部分構造体11が上方端部11aに対して下方端部11bがねじられていない角筒状である場合、各部分側部21は矩形となっていると共に、対角線上には谷折り線は形成されていない(
図4(a)では便宜上、線23を図示しているが、これは単に対角線を示すものであって、谷折り線を示すものではない)。このとき、各部分側部21を画成する一方の稜線(山折り線)22とこの部分側部21を形成する上方端部11aの辺との角度、及び各部分側部21を画成する一方の稜線(山折り線)とこの部分側部21を形成する下方端部11bの辺との角度を、θ’(=90°)とする。
【0033】
この状態から、上方端部11aの中心O回りに、
図4(a)に矢印で示した方向に上方端部11aを角度αだけねじれさせると、部分構造体11は
図4(b)に示した形状となる。すなわち、下方端部11bに対して上方端部11aを角度αだけねじれされると、これに伴って、側部11cの形状が変化し、よって各部分側部21の形状が変化する。このような変化後において、
図4(a)における角度θ’に対応するのが、角度θ
11である。
【0034】
本実施形態では、このようにして定義される角度θ
11が、20°以上60°以下とされ、好ましくは20°以上55°以下とされ、より好ましくは20°以上50°以下とされる。加えて、本実施形態では、角度θ
11が角度θ
12〜θ
14よりも小さな角度とされる。
【0035】
加えて、本実施形態では、他の部分構造体12、13、14についても、角度θ
12、θ
13、θ
14が、20°以上60°以下とされ、好ましくは20°以上55°以下とされ、より好ましくは20°以上50°以下とされる。また、本実施形態では、角度θ
12、θ
13、θ
14は同一の角度とされる。
【0036】
以下では、まず、角度θ
11〜θ
14を20°以上60°以下とすることの効果について説明する。ところで、筒状構造体10の長手方向から筒状構造体10に荷重が加わった場合、すなわち
図2において矢印Aの方向に荷重が加わった場合、筒状構造体10の端部間の長さにおける変位(より詳細には、筒状構造体に荷重を加えるインパクターの変位)と、筒状構造体10からの単位質量あたりの反力との関係は、
図5の実線のようになる。
図5の実線からわかるように、変位と反力との関係は一定ではなく、変位の増大に伴って反力は増減を繰り返して変化する。このうち、一定の変位内において、単位質量あたりの反力の最も大きな値をFmax、単位質量辺りの最も小さな値をFminとする。
【0037】
また、筒状構造体10の長手方向に対して10°の角度から筒状構造体10に荷重が加わった場合、すなわち
図2において矢印Bの方向に荷重が加わった場合、筒状構造体10の端部間の長さにおける変位と、筒状構造体10からの単位質量あたりの反力との関係は、
図5の破線のようになる。
図5の破線からわかるように、長手方向に対して角度をもって荷重が加わった場合においても、
図5の実線と同様に、変位の増大に伴って反力は増減を繰り返して変化する。そして、この場合においても、一定の変位内において、単位質量あたりの反力の最も大きな値をFmax、単位質量あたりの最も小さな値をFminとする。
【0038】
ここで、筒状構造体10を自動車のフロントサイドメンバやクラッシュボックスとして用いた場合、Fmaxの許容値は決まっている。例えば、筒状構造体10をクラッシュボックスとして用いた場合、筒状構造体10に衝突荷重が加わったときには、クラッシュボックスの後方に配置されたフロントサイドメンバに伝達される荷重の最大値はFmaxとなる。このため、筒状構造体10に衝突荷重が加わったときのFmaxが許容値を超えて大きくなると、フロントサイドメンバに大きな荷重が加わってしまい、フロントサイドメンバの予期せぬ変形を招くことになる。このため、筒状構造体10は、衝突荷重が加わった際に反力の最大値Fmaxが或る許容値以下になるように設計することが必要となる。
【0039】
一方、筒状構造体10に衝突荷重が加わったときに筒状構造体10によって吸収されるエネルギは、単位質量あたりの反力を変位で積分した値に比例する。このため、筒状構造体10によって吸収されるエネルギを大きくするためには、筒状構造体10に変位が生じても単位質量あたりの反力を常に高く維持することが必要となる。
【0040】
ここで、筒状構造体10に変位が生じたときの反力変動を示す指標として、Fmin/Fmaxが挙げられる。このFmin/Fmaxが小さいと単位質量あたりの反力は大きく変動し、その結果、単位質量あたりの反力を変位で積分した値は小さくなる。逆に、Fmin/Fmaxが大きいと、単位質量あたりの反力の変動は小さく、その結果、単位質量あたりの反力を変位で積分した値は大きくなる。したがって、Fmin/Fmaxが大きいほど、筒状構造体10によって吸収されるエネルギは大きくなるといえる。
【0041】
表1は、筒状構造体10の各部分構造体11〜14における上方端部11a〜14a及び下方端部11b〜14bの辺と山折り線22との角度θ
11〜θ
14(以下、これらをまとめて「角度θ」という)と、Fmax、Fmin及びFmin/Fmaxとの関係を示している。なお、表1は、筒状構造体10の材料をJSC440W相当材、板厚を1.0mm、直径を約48.6mm、軸長を210mmとした場合を示している。
【表1】
【0042】
表1からわかるように、角度θが60°よりも大きいときには、Fmin/Fmaxは0.46となっている。これに対して、角度θが46.5°及び27°であるときには、Fmin/Fmaxは0.5以上となっている。ここで、筒状構造体10と同一の板厚の同一の材料から六角柱を作成した場合(すなわち、本発明のように折紙構造としていない場合)、Fmin/Fmaxを高める方法としては構造体の側面上に一定間隔でビードを設けることが挙げられる。このようなビードを設けた構造体では一般にFmin/Fmaxは0.5程度までしか高めることができない。これに対して、本発明の筒状構造体10では、角度θを60°
以下とすることで、Fmin/Fmaxを0.5以上とすることができる。したがって、本発明の筒状構造体10では、筒状構造体10に変位が生じたときの単位質量あたりの反力の最大値を低く維持しつつ、筒状構造体10によって吸収されるエネルギを大きなものとすることができる。
【0043】
なお、本発明の筒状構造体10では、角度θ
11〜θ
14を20°以上としている。これは、角度θ
11〜θ
14をこれ以上小さくすると、山折り線22の両側に位置する面間の角度及び谷折り線23の両側に位置する面間の角度が小さくなり、圧潰時に破断が生じる虞があるためである。このため、本発明の筒状構造体10では、角度θ
11〜θ
14を20°以上とすることで、破断を抑制するようにしている。
【0044】
次に、部分構造体11における角度θ
11を部分構造体12〜14における角度θ
12〜θ
14よりも小さな角度とすることの効果について説明する。上述したように、例えば、筒状構造体をクラッシュボックスとして用いた場合、自動車が衝突するときには常に衝突荷重が前方から、すなわち筒状構造体の軸線方向(
図2の矢印Aの向き)に入力されるわけではなく、傾斜した方向から、すなわち筒状構造体の軸線方向に対して傾斜した方向(例えば、
図2の矢印Bの向き)に入力される場合もある。
【0045】
筒状構造体10の全ての部分構造体11〜14についてその角度θ
11〜θ
14を同一にした場合、筒状構造体10に傾斜した方向から荷重の入力が行われると、筒状構造体10の根本に応力が集中する。この結果、筒状構造体10は根本で折れ曲がってしまい、結果的に十分に衝突エネルギを吸収することができなくなってしまう。
【0046】
この様子を
図6に示す。
図6は、
図1(b)に示したように、全ての部分構造体11〜14についてその角度θ
11〜θ
14を同一にした筒状構造体10にその軸線方向に対して傾斜した方向(図中に矢印Bで示した方向)に荷重を入力した場合に、筒状構造体10が変形していく様子を解析した結果を示している。図中の最も左側には、荷重負荷による筒状構造体10の全長における変位が30mmであるときの筒状構造体10の様子が示されており、そこから右にいくに連れて変位が60mm、90mm、120mm、150mmであるときの筒状構造体の様子が示されている。
【0047】
図6からわかるように、矢印Bで示した方向に荷重を入力した場合、筒状構造体10の両端に位置する部分構造体11、14は屈曲・圧潰するが、これら部分構造体11、14の間に位置する部分構造体12、13はあまり圧潰せずに残ってしまう。このため、部分構造体12〜14によっては十分なエネルギの吸収が行われず、結果的に、十分に衝突エネルギを吸収することができなくなってしまうことがわかる。
【0048】
これに対して、
図7は、部分構造体11における角度θ
11を部分構造体12〜14における角度θ
12〜θ
14よりも小さな角度とした筒状構造体10に、その軸線方向に対して傾斜した方向(図中に矢印Bで示した方向)に荷重を入力した場合に、筒状構造体10が変形していく様子を解析した結果を示している。
図6と同様に、図中の最も左側には、荷重負荷による筒状構造体10の全長における変位が30mmであるときの筒状構造体10の様子が示されており、そこから右にいくに連れて変位が60mm、90mm、120mm、150mmであるときの筒状構造体の様子が示されている。
【0049】
図7からわかるように、矢印Bで示した方向に荷重を入力した場合、他の部分構造体12〜14の角度θ
12〜θ
14よりも小さい角度θ
11を有する部分構造体11が圧潰する(図中の、変位が30mm及び60mmであるときを参照)。このとき、他の部分構造体12〜14はほとんど圧潰しない。一方の端部に配置された部分構造体11が圧潰すると、次に、圧潰した部分構造体11に隣接した部分構造体12及び部分構造体13が圧潰し始め(図中の、変位が90mmであるときを参照)、最後に、部分構造体14が圧潰し始めることになる。
【0050】
すなわち、本発明によれば、部分構造体11における角度θ
11が他の部分構造体12〜14の角度θ
12〜θ
14よりも小さいことにより、部分構造体11が最初に圧潰する。加えて、筒状構造体10の一部が圧潰すると、筒状構造体10の圧潰はそこから周りに広がっていくことから、部分構造体12、13、14の順に徐々に圧潰していくことになる。これにより、本発明によれば筒状構造体10は途中で折れてしまうことなく圧潰し、よって各部分構造体11〜14によって十分なエネルギの吸収が行われることになり、その結果、十分に衝突エネルギを吸収することができるようになる。
【0051】
図8は、
図6に示した筒状構造体の圧潰時における変位と単位質量あたりの反力との関係(図中の破線)及び
図7に示した筒状構造体の圧潰時における変位と単位質量あたりの反力との関係(図中の実線)を示す図である。
図8からわかるように、図中の破線(
図6に示した筒状構造体)ではFmaxが非常に大きく、その結果、Fmin/Fmaxが
小さいのに対して、図中の実線(
図7に示した筒状構造体)ではFmaxはそれほど大きくなく、その結果、Fmin/Fmaxも比較的
大きくなる。したがって、
図7に示した本発明の筒状構造体によれば、
図6に示した筒状構造体に対して、筒状構造体10に変位が生じたときの単位質量あたりの反力の最大値を低く維持しつつ、筒状構造体10によって吸収されるエネルギを大きなものとすることができるといえる。
【0052】
なお、上記実施形態では、部分構造体11についてのみ他の部分構造体12〜14よりも角度θ
11が小さいものとされており、他の部分構造体12〜14の角度θ
12〜θ
14は同一の角度とされている。しかしながら、他の部分構造体11〜14の角度θ
11〜θ
14は、角度θ
11から角度θ14に向かって徐々に大きくなるようにしてもよい。換言すると、一方の端部に位置する部分構造体11から他方の端部に位置する部分構造体14に向かうにつれて部分構造体における角度θが大きくなっていくように構成されてもよい。
【0053】
次に、
図9を参照して、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態における筒状構造体30の基本的な構成は、第一実施形態における筒状構造体の構成と同様である。ただし、本実施形態の筒状構造体30では、各部分側部21の平面状の部分には開口部が設けられている。
【0054】
図9からわかるように、第二実施形態の筒状構造体30も複数の筒状の部分構造体11〜14を具備する折紙構造となっており、各部分構造体11〜14は、六角形の上方端部11a〜14aと、六角形の下方端部11b〜14bと、側部11c〜14cとを具備する。側部11c〜14cは、複数の部分側部21を有し、各部分側部21の両側には山折り線22が形成されると共に部分側部21内には対角線上に延びる谷折り線23が形成される。
【0055】
加えて、本実施形態では、各部分側部21の平面状の部分、すなわち各部分側部21の山折り線22と谷折り線23とに囲まれた部分に開口部31が設けられる。本実施形態では、部分側部21の山折り線22と谷折り線23とに囲まれた全ての部分に開口部31が設けられているが、必ずしも全ての部分に開口部31が形成されている必要はない。例えば、一つの部分側部21には一つの開口部31が形成されるようにしてもよい。
【0056】
ここで、
図9に示したような折紙構造を持つ筒状構造体30では、衝突荷重が加わったとき等におけるエネルギの吸収は主に部分側部21の山折り線22及び谷折り線23近傍の領域によって行われる。換言すると、部分側部21の山折り線22と谷折り線23とに囲まれた平面状の部分によってはあまりエネルギの吸収が行われない。このため、部分側部21の平面状の部分に開口部を設けても、吸収されるエネルギに大きな変化はない。したがって、本実施形態によれば、衝突荷重が加わったとき等におけるエネルギの吸収量は維持しつつ、筒状構造体30を軽量化することができる。
【0057】
次に、このように構成された筒状構造体10、30の使用例について説明する。
図10は、筒状構造体10を用いた自動車用フレーム構造体を概略的に示す図である。
図10に示した例では、自動車用フレーム構造体40は、フロントサイドメンバ41と、フロントサイドメンバ41の車両後方側に位置すると共に車両の客室を画成する客室フレーム42とを具備する主フレーム43を備える。
図10に示した例では、筒状構造体10、30は、フロントサイドメンバ41の車両前方側に結合され、クラッシュボックスとして用いられる。特に、筒状構造体10は、他の部分構造体12〜14よりも角度θが小さい部分構造体11が設けられた筒状構造体の端部とは反対側の端部において、主フレーム43の前方、すなわちフロントサイドメンバ41の前方に結合される。
【0058】
図11は、筒状構造体10を用いた自動車用フレーム構造体の別の例を概略的に示す図である。
図11に示した例では、自動車用フレーム構造体40は、フロントサイドメンバとして用いられる筒状構造体10、30と、筒状構造体10、30の車両後方側に位置すると共に車両の客室を画成する客室フレーム42とを具備する。
図11に示した例では、筒状構造体10、30は、筒状構造体10は、他の部分構造体12〜14よりも角度θが小さい部分構造体11が設けられた筒状構造体の端部が車両の外側に、すなわち車両の前方側に向くように配置される。
【0059】
なお、本明細書において、「ほぼ」という用語が複数用いられている。この「ほぼ」という用語は、製造誤差等により値に変動が含まれてしまう場合を含むことを意味するものである。例えば、上方端部11aと下方端部11bとは互いにほぼ平行であって且つほぼ同一の多角形状とされているが、これは上方端部11aと下方端部11bとを互いが平行になるように且つほぼ同一の多角形状となるように製造した際に、製造誤差によって両者が平行から僅かにずれている場合や両者の形状が僅かに異なっているような場合を含むことを意味するものである。