特許第6184145号(P6184145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184145電気化学式センサの診断方法及び電気化学式センサの診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184145
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】電気化学式センサの診断方法及び電気化学式センサの診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20170814BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20170814BHJP
   G01N 27/407 20060101ALI20170814BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20170814BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   G01N27/26 391Z
   G01N27/416 371G
   G01N27/407
   G01N27/02 Z
   G01N27/22 Z
【請求項の数】16
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-62368(P2013-62368)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2013-228379(P2013-228379A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-70078(P2012-70078)
(32)【優先日】2012年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤
(72)【発明者】
【氏名】野中 英正
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
(72)【発明者】
【氏名】中山 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤森 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】宇高 利浩
(72)【発明者】
【氏名】兼安 一成
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正文
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−158468(JP,A)
【文献】 特開2011−099717(JP,A)
【文献】 特開2004−219405(JP,A)
【文献】 特開2000−146908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/02−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法であって、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを検出し、
検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断する電気化学式センサの診断方法。
【請求項2】
前記診断をインピーダンスの容量成分の増加で行う場合に、前記界面異常診断周波数の交流として0.1Hzから10Hzの範囲内の周波数の交流を印加し、前記インピーダンスの容量成分を検出する請求項1記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項3】
前記診断をインピーダンスの増加で行う場合に、前記界面異常診断周波数の交流として0.1Hzから1.5Hzの範囲内の周波数の交流を印加し、前記インピーダンスを検出する請求項1記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項4】
前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあるか否かを診断するとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあるか否かを診断し、
前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあると診断するとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあると診断した状態で、
前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分が正常状態に於けるインピーダンスの容量成分より増加している、又はインピーダンスが正常状態に於ける基準インピーダンスより増加している場合に、
前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にあると診断し、当該異常状態にないと診断した場合に、検知対象ガスの検知が可能と診断する請求項1〜3の何れか一項記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項5】
インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響を受けていない正常状態にある可能性があると診断する請求項1〜4の何れか一項記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項6】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法であって、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出するに、
インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサが異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサが正常状態にある可能性があると診断する電気化学式センサの診断方法。
【請求項7】
前記低周波数側界面異常診断周波数が1.5Hz以下の周波数であり、前記高周波数側界面異常診断周波数が10Hz以上の周波数である請求項5又は6記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項8】
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲において、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する前記基準インピーダンスが一定値であり、
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが前記低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲において、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが低下するように設定されている請求項5〜7の何れか一項記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項9】
前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
前記高周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの抵抗成分が前記正常状態における基準インピーダンスの抵抗成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断する請求項1〜4の何れか一項記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項10】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断装置であって、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流電圧を印加したときに、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを検出する検出手段と、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
検出されたインピーダンスの容量成分と前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分とを比較、又は、検出されたインピーダンスと前記正常状態における基準インピーダンスを比較し、
検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より上昇した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより上昇した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断する診断手段を備えた電気化学式センサの診断装置。
【請求項11】
前記診断手段に、
前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあるか否かを診断する湿潤状態診断部を備えるとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあるか否かを診断する開放状態診断部を備え、
前記湿潤状態診断部が前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあると診断するとともに、前記開放状態診断部が前記拡散制御孔が正常な開放状態にあると診断した状態で、
前記診断手段に備えられる界面状態診断部が、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分が正常状態に於ける基準インピーダンスの容量成分より増加している、又はインピーダンスが正常状態に於ける基準インピーダンスより増加している場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にあると診断し、当該異常状態にないと診断した場合に、検知対象ガスの検知が可能と診断する請求項10記載の電気化学式センサの診断装置。
【請求項12】
前記湿潤状態診断部が、湿潤状態診断周波数としての10Hzから10000Hzの範囲内の周波数の交流を、前記検知極と前記対極との間に印加し、交流印加状態で求められるインピーダンスの増加に基づいて、湿潤状態の診断を行い、
前記開放状態診断部が、開放状態診断周波数としての10Hz以下の範囲内の周波数の交流を、前記検知極と前記対極との間に印加し、交流印加状態で求められるインピーダンス減少又はインピーダンスの抵抗成分の減少に基づいて、開放状態の診断を行う請求項11記載の電気化学式センサの診断装置。
【請求項13】
前記検出手段が、前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記診断手段が、前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に対応する基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響を受けていない正常状態にある可能性があると診断する請求項10〜12の何れか一項記載の電気化学式センサの診断装置。
【請求項14】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断装置であって、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流電圧を印加したときに、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスを検出する検出手段と、その検出手段の検出情報に基づいて電気化学式センサの異常状態を診断する診断手段とを備え、
前記検出手段が、前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記診断手段が、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に対応する基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサが異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサが正常状態にある可能性があると診断する電気化学式センサの診断装置。
【請求項15】
前記低周波数側界面異常診断周波数が1.5Hz以下の周波数であり、前記高周波数側界面異常診断周波数が10Hz以上の周波数である請求項13又は14記載の電気化学式センサの診断装置。
【請求項16】
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲において、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが一定値であり、
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが前記低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲において、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが低下するように設定されている請求項13〜15の何れか一項記載の電気化学式センサの診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガス等が反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法に関する。また、そのような診断方法を実施するための電気化学式センサの診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
警報装置等に搭載されるセンサの一つとして、例えば、一酸化炭素を検知するCOセンサがある。また、このCOセンサの検知方式として電気化学式のものが知られている。電気化学式センサは、一般に、電解質溶液又は固体電解質を検知極及び対極で挟み込んで構成される。
この電気化学式センサの検知原理を、一酸化炭素を検知するCOセンサを例に挙げて説明する。
【0003】
COセンサの検知極に一酸化炭素が接触すると、下記(1)に示すように、検知極では一酸化炭素と水とが反応して二酸化炭素を生成するとともにプロトン(H+)及び電子(e-)が発生する。
CO + H2O → CO2 + 2H+ + 2e- ・・・ (1)
上記(1)の反応は、拡散制御孔等がある条件下では、測定雰囲気中において一酸化炭素が拡散する速度に依存した拡散律速反応である(酸素と一酸化炭素が共存する検知極の混成電位付近においては一酸化炭素の酸化反応は拡散律速となる。)。
【0004】
また、検知極で発生したプロトン(H+)は電解質を通過して対極の側へ移動する。さらに、検知極で発生した電子(e-)は外部回路を通過して対極へと移動し、下記(2)に示すように、対極に導入される酸素及び電解質中の水と反応し、水酸基(OH-)を生成する。尚、検知極には酸素も存在するので、一般的には一酸化炭素の約半分は検知極の酸素で酸化され、残りの半分が対極の酸素で酸化される。
1/2・O2 + H2O + 2e- → 2OH- ・・・ (2)
【0005】
このように上記反応に伴って検知極側から対極側へと外部回路を流れる電子の電気的特性を、例えば、短絡電流値として検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる、又は、検知極、対極を開路状態としてその開路電圧を検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる。
【0006】
ところで、測定雰囲気を構成するガスの分子に対して一酸化炭素の分子が多い場合(すなわち、一酸化炭素濃度が高い場合)では、検知極に供給されるCO分子の絶対数が多くなる。そうすると、検知極側での上記(1)の反応が追いつかなくなる虞がある。
【0007】
そこで、上記のCOセンサに代表される電気化学式センサでは、検知極側に上側導電疎水膜を介して拡散制御板が設けられる。この拡散制御板には、測定雰囲気を構成するガスの分子及び検知対象ガスの分子の通過量を制御するための拡散制御孔が形成されている。これにより、拡散制御孔を通過する検知対象ガスの分子の数は、拡散律速反応が進行する程度にまで確実に低減される。その結果、検知極において上記(1)の反応が追いつかないという不都合を生じることはない。ただし、この場合、拡散制御孔、上側導電疎水膜、検知極、電解質層、対極等を健全な状態に維持しておくことが重要である。
【0008】
従来、電気化学式センサ自体の正常・異常を診断する方法として、電源をオフした後に再度オンした際のセンサの出力ピークや出力ボトムの有無から、電気化学式センサの健全性を診断する方法が提唱されている(例えば、特許文献1を参照)。
さらに、発明者等は、電気化学式センサ自体の正常・異常を診断する方法として、その「検知極と対極間における導電性の低下」、「拡散制御孔の閉塞等の理由によるガス拡散性の低下」を、電極間のインピーダンスを用いて診断することを提案している。「検知極と対極間における導電性の低下」は、高周波側のインピーダンスの上昇によりこの異常を見出すことができる(特許文献2)。一方、拡散制御孔の閉塞を中心とした「ガス拡散性の低下」は、低周波側のインピーダンスの低下により、又はインピーダンスの抵抗成分の低下により、この異常を見出すことができる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−279293号公報
【特許文献2】特開2011−099717号公報
【特許文献3】特開2011−158468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示の技術は、電源をオン・オフ操作した場合の出力挙動に基づいて、センサの異常を検出しようとする技術であるが、検出のための操作が煩雑であるとともに、検出に時間を要し、改善の余地がある。
特許文献2或いは特許文献3に記載の技術は、ともに、検知極と対極間のインピーダンス或いはその抵抗成分に基づいて異常を診断しようとするものであり、比較的簡単な装置構成で、センサの状態を診断できる。
【0011】
先にも示したように、特許文献2に開示の技術は、検知極と対極間における湿潤状態、例えば電解質層が充分に潤っておらず、むしろ乾燥状態にあることによる異常を診断する。特許文献3に開示の技術は、拡散制御孔の一部或いは全部が孔詰まりを起こし、検知対象ガスが過度に制限された状態で検知極に到達する、或いは検知極に到達しない状態を検出して、センサの異常を診断する。
【0012】
しかしながら、発明者らの検討では、上述の特許文献2、特許文献3が対象とする異常が存在しないにも拘らず、検知対象ガスの濃度を良好に検知できない電気化学的センサが出現することが判明した。即ち、検知極と対極間が充分な湿潤状態にあり、且つ、拡散制御孔に孔詰まりが発生しておらず検知対象ガスが検知極に必要量到達できる状態(これまで考えられていた異常がないとされる状態)で、なお正確に検知対象ガスの検知が行えない電気化学的センサが出現した。
【0013】
本発明は、このような異常に鑑みてなされたものであり、その目的は、検知極と対極間における湿潤状態に関する異常、拡散制御孔の一部若しくは全部の詰まりによる異常とは異なった要因による異常を合理的に推定することができる電気化学式センサの診断方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための、
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法の特徴手段は、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを検出し、
検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断することにある。
【0015】
後述するように、発明者らは、複数の電気化学式センサを対象として、検知極と対極との間、特に電解質層が良好な湿潤状態にあり、拡散制御孔に関しても、孔が完全な開放状態にある電気化学式センサで、基準濃度の検知対象ガスの濃度を電気化学式センサで検知した場合に、その出力が基準濃度に相当する出力を示さない電気化学式センサの異常原因を鋭意検討した。結果、このような異常を示す電気化学式センサにあっては、検知極又は対極を構成する電極触媒の表面に電解液が介在し、或いは、電解液の成分が析出していることが判明した。さらに、このような異常品の電気的特性(インピーダンスの容量成分又はインピーダンス)を正常品の電気的特性と比較した場合、特定の周波数範囲のインピーダンスの容量成分或いはインピーダンスに関して、正常品と異常品とで明確な差があることを見出した。即ち、異常品の電気的特性が、正常品の電気的特性に対して増加していることを見出した。
本発明において、「界面異常診断周波数」は、このような電気的特性に関して、正常品と異常品とが区別できる周波数を意味している。
【0016】
従って、検知極と対極との間に界面異常診断周波数の交流を印加して、検知極と対極との間のインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを検出し、検出されたインピーダンスの容量成分が正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断することができる。
【0017】
ここで、前記診断をインピーダンスの容量成分の増加で行う場合に、前記界面異常診断周波数の交流として0.1Hzから10Hzの範囲内の周波数の交流を印加し、前記インピーダンスの容量成分を検出することが好ましい。
後に図5に基づいて説明するように、0.1Hzから10Hzの範囲内の周波数の交流で検出されるインピーダンスの容量成分で、電極触媒が電解液の影響により異常状態にある異常品と、このような現象が発生していない正常品とを明確に区別できるためである。
即ち、記載の周波数範囲のインピーダンスの虚数部を求めることで、検出結果から、正常・異常の診断を良好に行える。
【0018】
さらに、前記診断をインピーダンスの増加で行う場合に、前記界面異常診断周波数の交流として0.1Hzから1.5Hzの範囲内の周波数の交流を印加し、前記インピーダンスを検出することが好ましい。
後に図6に基づいて説明するように、0.1Hzから1.5Hzの範囲内の周波数の交流で検出されるインピーダンスで、電極触媒が電解液の影響により異常状態にある異常品と、このような現象が発生していない正常品とを明確に区別できるためである。
即ち、記載の周波数範囲のインピーダンスを求めることで、この検出結果から、正常・異常の診断を良好に行える。
【0019】
これまで説明してきた、この種の電気化学式センサは、検知極と対極との間が正常な湿潤状態にあり、且つ拡散制御孔が完全に開放されている状態で、検知対象ガスをその濃度まで精度よく検知できる。
そこで、前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあるか否かを診断するとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあるか否かを診断し、前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあると診断するとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあると診断した状態で、
前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分が正常状態に於ける基準インピーダンスの容量成分より増加している、又はインピーダンスが正常状態に於ける基準インピーダンスより増加している場合に、
前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にあると診断し、当該異常状態にないと診断した場合に、検知対象ガスの検知が可能と診断することが好ましい。
【0020】
即ち、電気化学式センサの構造起因の異常要因である、水枯れ、拡散制御孔の閉塞の可能性を排除して、本発明に係る電極触媒に対する電解液の影響を診断することで、異常要因を特定することができるとともに、検知対象ガスの濃度を精度よく検知できる。
【0021】
また、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響を受けていない正常状態にある可能性があると診断することが好ましい。
【0022】
即ち、発明者らは、検知極又は対極を成す電極触媒における電解質層の電解液の影響による異常(以下、界面状態の異常と略記する場合がある)の原因について、鋭意検討した。そして、検知極や対極は、担体に触媒が担持されて構成されるものであるが、界面状態の異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合により現れるものであることを見出した。
説明を加えると、触媒そのものが電解液により被覆されると(即ち、反応表面積が低下して、触媒の反応活性が低下する)、インピーダンスの容量成分が増加し、担体表面が電解液により被覆されると(即ち、電導性が低下する)、インピーダンスの抵抗成分が増加する。
つまり、界面状態の異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合によるものであり、インピーダンスの容量成分の変化(増加)と抵抗成分の変化(増加)とに現れるという知見を得た。
【0023】
一方、交流を検知極と対極との間に印加したときの検知極と対極との間のインピーダンスは、抵抗成分と容量成分との複素和であり、高周波数側(例えば、10Hz以上)の周波数の交流を検知極と対極との間に印加した場合の両極間のインピーダンスは、略抵抗成分に等しく、低周波数側(例えば、1.5Hz以下)の周波数の交流を検知極と対極との間に印加した場合の両極間のインピーダンスは、略容量成分に等しい。
【0024】
そこで、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、検知極と対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、検知極と対極との間のインピーダンスを検出する。そして、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスを定めて、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスを基準インピーダンスと比較することにより、検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にあるか否かを診断する。
従って、インピーダンスの容量成分の変化に加えて、インピーダンスの抵抗成分の変化に基づいて、界面状態の異常を診断するので、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合による界面状態の異常を診断することができるようになり、界面状態が異常状態にある可能性があることを一層的確に診断することができる。
【0025】
また、上記目的を達成するための別の電気化学式センサの診断方法は、
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法であって、その特徴構成は、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出するに、
インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサが異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサが正常状態にある可能性があると診断することにある。
【0026】
この診断方法も、電気化学式センサの異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合によるものであり、インピーダンスの容量成分の変化と抵抗成分の変化とに現れるという知見に基づくものである。
【0027】
つまり、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、検知極と対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、検知極と対極との間のインピーダンスを検出する。そして、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンスを定めて、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスを基準インピーダンスと比較することにより、電気化学式センサが異常状態にある否かを診断する。
従って、インピーダンスの容量成分の変化に加えて、インピーダンスの抵抗成分の変化に基づいて、電気化学式センサの異常を診断するので、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合による電気化学式センサの異常を診断することができるようになり、電気化学式センサが異常状態にある可能性があることを的確に診断することができる。
【0028】
ここで、低周波数側界面異常診断周波数と高周波数側界面異常診断周波数とにより電気化学式センサの診断を行う場合に、前記低周波数側界面異常診断周波数が1.5Hz以下の周波数であり、前記高周波数側界面異常診断周波数が10Hz以上の周波数であることが好ましい。
【0029】
つまり、一対の電極間に印加する交流の周波数の領域が1.5Hz以下の場合は、一対の電極間のインピーダンスは一層容量成分に等しくなり、一対の電極間に印加する交流の周波数の領域が10Hz以上の場合は、一対の電極間のインピーダンスは一層抵抗成分に等しくなる。
そこで、低周波数側界面異常診断周波数として、1.5Hz以下の周波数を用い、高周波数側界面異常診断周波数として、10Hz以上の周波数を用いることにより、正常・異常の診断を良好に行える。
【0030】
ここで、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲において、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する前記基準インピーダンスが一定値であり、
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが前記低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲において、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが低下するように設定されていることが好ましい。
【0031】
後述するように、発明者らは、湿潤状態や開放状態に異常がない複数の電気化学式センサを対象にして、基準濃度の検知対象ガスの濃度を電気化学式センサで検知した場合に、その出力が基準濃度に相当する出力を示さない(即ち、感度が鈍化している)電気化学式センサについて、その異常原因を鋭意検討した。結果、このような異常を示す電気化学式センサにあっては、前述の湿潤状態や開放状態の異常以外の要因による電気化学式センサの異常(例えば、検知極又は対極を構成する電極触媒の表面に電解液が介在し、或いは、電解液の成分が析出している異常)が発生していることが判明した。
【0032】
さらに、このように感度が鈍化している異常品と感度が鈍化していない正常品とについて、低周波数側界面異常診断周波数と高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数の交流を検知極と対極との間に印加して、検知極と対極との間のインピーダンスを検出し、検出結果を前述の2次元の領域で比較することにより、正常品と異常品とに明確に分ける境界を見出した。
即ち、図10に示すように、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲においては、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが所定の一定値となる形態の境界で、正常品(感度安定品と記載)と異常品(感度低下品と記載)とに分かれる。また、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲においては、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低下する形態の境界で、正常品と異常品とに分かれることを見出した。
従って、このような境界に基づいて、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスを設定することにより、正常・異常の診断を一層良好に行える。
【0033】
また、前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記低周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
前記高周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの抵抗成分が前記正常状態における基準インピーダンスの抵抗成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断するようにしても良い。
【0034】
この診断方法も、電気化学式センサの異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合によるものであり、インピーダンスの容量成分の変化と抵抗成分の変化とに現れるという知見に基づくものである。つまり、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、検知極と対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、検知極と対極との間のインピーダンスを検出し、検出した両方の界面異常診断周波数のインピーダンスに基づいて診断することにより、検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にあるか否かを診断する。
従って、そのような異常状態にある可能性があることを一層的確に診断することができる。
【0035】
これまで説明してきた電気化学式センサの診断方法を実施する診断装置は、以下の構成とすることができる。
即ち、検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する診断装置であって、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流電圧を印加したときに、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを検出する検出手段と、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
検出されたインピーダンスの容量成分と前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分とを比較、又は、検出されたインピーダンスと前記正常状態における基準インピーダンスを比較し、検出されたインピーダンスの容量成分が前記正常状態における基準インピーダンスの容量成分より上昇した場合、又は検出されたインピーダンスが前記正常状態における基準インピーダンスより上昇した場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断する診断手段を備える。
【0036】
この診断装置では、先に検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にあることの診断要件となる、界面異常診断周波数の交流電圧を印加した時の検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分又はインピーダンスを、検出手段が検出する。
そして、診断手段は、検出されたインピーダンスの容量成分と正常状態における基準インピーダンスの容量成分とを比較、又は、検出されたインピーダンスと前記正常状態における基準インピーダンスを比較し、検出されたインピーダンスの容量成分が正常状態における基準インピーダンスの容量成分より上昇した場合、又は検出されたインピーダンスが正常状態における基準インピーダンスより上昇した場合に、検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断する。
【0037】
結果、これまで知られていなかった電解液の電極触媒への悪影響を、合理的な基準に基づいて診断することができる。
【0038】
この診断装置の場合も、前記診断手段に、
前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあるか否かを診断する湿潤状態診断部を備えるとともに、前記拡散制御孔が正常な開放状態にあるか否かを診断する開放状態診断部を備え、
前記湿潤状態診断部が前記検知極と前記対極との間が正常な正常湿潤状態にあると診断するとともに、前記開放状態診断部が前記拡散制御孔が正常な開放状態にあると診断した状態で、
前記診断手段に備えられる界面状態診断部が、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスの容量成分が正常状態に於ける基準インピーダンスの容量成分より増加している、又はインピーダンスが正常状態に於ける基準インピーダンスより増加している場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にあると診断し、当該異常状態にないと診断した場合に、検知対象ガスの検知が可能と診断する構成を採用することにより、電気化学式センサの構造起因の異常要因である、水枯れ、拡散制御孔の閉塞の可能性を排除して、本発明に係る電極触媒に対する電解液の影響を診断することで、異常要因を特定することができるとともに、検知対象ガスの濃度を精度よく検知できる。
【0039】
さらに、これまで説明してきた診断装置において、
前記湿潤状態診断部が、湿潤状態診断周波数としての10Hzから10000Hzの範囲内の周波数の交流を、前記検知極と前記対極との間に印加し、交流印加状態で求められるインピーダンスの増加に基づいて、湿潤状態の診断を行い、
前記開放状態診断部が、開放状態診断周波数としての10Hz以下の範囲内の周波数の交流を、前記検知極と前記対極との間に印加し、交流印加状態で求められるインピーダンスの減少又はインピーダンスの抵抗成分の減少に基づいて、開放状態の診断を行うことが好ましい。
この構成を採用すると、湿潤状態の診断及び開放状態の診断を、異なった周波数で、各目的に適合した診断手法で行うことができる。
【0040】
また、この診断装置においても、前記検出手段が、前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記診断手段が、前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に対応する基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、前記検知極又は前記対極を成す電極触媒が前記電解質層の電解液の影響を受けていない正常状態にある可能性があると診断する構成を採用しても良い。
【0041】
この診断装置も、電気化学式センサの異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合によるものであり、インピーダンスの容量成分の変化と抵抗成分の変化とに現れるという知見に基づくものである。
【0042】
つまり、検出手段は、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、検知極と対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、それらの間のインピーダンスを検出する。
そして、診断手段は、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスを基準インピーダンスと比較することにより、検知極又は対極を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にあるか否かを診断する。
従って、インピーダンスの容量成分の変化に加えて、インピーダンスの抵抗成分の変化に基づいて、界面状態の異常を診断するので、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合による界面状態の異常を診断することができるようになり、界面状態が異常状態にある可能性があることを一層的確に診断することができる。
【0043】
また、上記目的を達成するための別の電気化学式センサの診断装置は、
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断装置であって、その特徴構成は、
前記検知極と前記対極との間に界面異常診断周波数の交流電圧を印加したときに、前記検知極と前記対極との間に発生するインピーダンスを検出する検出手段と、その検出手段の検出情報に基づいて電気化学式センサの異常状態を診断する診断手段とを備え、
前記検出手段が、前記界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、前記検知極と前記対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、前記検知極と前記対極との間のインピーダンスを検出し、
前記診断手段が、
前記検知対象ガスの濃度検知を正常に行える状態を正常状態として、
前記低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、前記高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、前記正常状態に対応する基準インピーダンスより大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサが異常状態にある可能性があると診断し、
検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、前記基準インピーダンス以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサが正常状態にある可能性があると診断することにある。
【0044】
この診断装置も、電気化学式センサの異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合によるものであり、インピーダンスの容量成分の変化と抵抗成分の変化とに現れるという知見に基づくものである。
【0045】
つまり、検出手段は、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、検知極と対極との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、それらの間のインピーダンスを検出する。
そして、診断手段は、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスを基準インピーダンスと比較することにより、電気化学式センサが異常状態にあるか否かを診断する。
従って、インピーダンスの容量成分の変化に加えて、インピーダンスの抵抗成分の変化に基づいて、電気化学式センサの異常を診断するので、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合による電気化学式センサの異常を診断することができるようになり、電気化学式センサが異常状態にある可能性があることを的確に診断することができる。
【0046】
ここで、低周波数側界面異常診断周波数と高周波数側界面異常診断周波数とにより電気化学式センサの診断を行う場合に、前記低周波数側界面異常診断周波数が1.5Hz以下の周波数であり、前記高周波数側界面異常診断周波数が10Hz以上の周波数であることが好ましい。
【0047】
つまり、一対の電極間に印加する交流の周波数の領域が1.5Hz以下の場合は、一対の電極間のインピーダンスは一層容量成分に等しくなり、一対の電極間に印加する交流の周波数の領域が10Hz以上の場合は、一対の電極間のインピーダンスは一層抵抗成分に等しくなる。
そこで、低周波数側界面異常診断周波数として、1.5Hz以下の周波数を用い、高周波数側界面異常診断周波数として、10Hz以上の周波数を用いることにより、正常・異常の診断を良好に行える。
【0048】
ここで、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲において、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する前記基準インピーダンスが一定値であり、
前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが前記低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲において、前記高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って、前記低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが低下するように設定されていることが好ましい。
【0049】
前述のように、界面状態についての正常品と異常品との境界は、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲においては、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが所定の一定値となる形態の境界となり、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲においては、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低下する形態の境界となる。
従って、このような境界に基づいて、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスを設定することにより、正常・異常の診断を一層良好に行える。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】電気化学式センサの全体構成を示す縦断面図
図2】電気化学式センサの要部であるセンサ本体の縦断面図
図3】電気化学式センサを備えたCOガス濃度検知装置の全体構成を示す機能説明図
図4】第1実施形態に係る診断フローの一例を示す図
図5】第1実施形態に係る界面異常についての正常品及び異常品の周波数領域におけるインピーダンスの容量成分の変化を示す図
図6】第1実施形態に係る界面異常についての正常品及び異常品の周波数領域におけるインピーダンスの変化を示す図
図7】第1実施形態に係る界面異常についての正常品及び異常品の周波数領域におけるインピーダンスの抵抗成分の変化を示す図
図8】第1実施形態に係る界面異常についての正常品及び異常品の周波数領域におけるインピーダンス、インピーダンスの抵抗成分及びインピーダンスの容量成分の関係を示す図
図9】第1実施形態に係る湿潤異常、開放異常及び界面異常を診断するためのインピーダンスの領域を示す図
図10】第2実施形態に係る湿潤異常、開放異常及び界面異常を診断するためのインピーダンスの領域を示す図
図11】第2実施形態に係る診断フローの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。
【0052】
〔第1実施形態〕
先ず、第1実施形態を説明する。
〔電気化学式センサの構造と検知対象ガスの検知〕
図1は、電気化学式センサ100の全体構成を示す縦断面図である。図2は、電気化学式センサ100の要部であるセンサ本体10の縦断面図である。
【0053】
本第1実施形態の電気化学式センサ100は、一酸化炭素を検知対象ガスとしたCOセンサであり、その基本構造として、センサ本体10、水タンク20、フィルタ部30、ワッシャ40、及びガスケット50等を備える。
【0054】
センサ本体10は、図2に示すように、電解質層1の両側(上下面)に検知極としてのアノード極2と対極としてのカソード極3とが夫々接続された積層構造を有するセンサ手段11と、後述する上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5と、拡散制御板6(拡散制御手段の一例)とを備えている。
電解質層1は、後述するように、アノード極2での一酸化炭素の酸化反応に伴って発生するプロトン(H+)等のカチオンがカソード極3に移動する(あるいはカソード極3からOH-等のアニオンがアノード極2に移動する)際の媒質として機能し、例えば、濾紙等の基体に下記の化学式で示される芳香族スルホン酸塩(重合体)を含む電解液を含浸させて構成することができる。
【化1】
なお、電解質層1には、図示しない参照電極を介在させても構わない。この場合、電解質層1を上下二層に分割し、両層の間に参照電極を挟み込む。
【0055】
アノード極2は、一酸化炭素を二酸化炭素へと酸化する電極触媒であり、一般に白金触媒等が使用される。カソード極3も、実質的にアノード極2と同様の構成を有している。本第1実施形態では、アノード極、カソード極の膜厚はそれぞれ約0.05〜0.2mmに設定されている。
【0056】
アノード極2の上側及びカソード極3の下側には、上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5が夫々設けられる。この上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5は、アノード極2又はカソード極3での反応に関わるガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、及び酸素)を透過可能なガス透過膜で構成される。
【0057】
アノード極2の上側の上側導電疎水膜4の上方には、拡散制御板6が設けられる。この拡散制御板6は、外気に含まれる一酸化炭素がアノード極2に拡散律速で接触するように外気の流入量を制御する。具体的には、拡散制御板6には拡散制御孔6aが形成され、この拡散制御孔6aを経てアノード極2へと供給される外気及びCO分子の供給量が制御される。従って、外気に含まれる一酸化炭素の濃度が高く、仮にそのままの状態で一酸化炭素をアノード極2に導入すれば、過剰な一酸化炭素のためにアノード極2での酸化反応が追いつかなくなるような場合でも、拡散制御板6に設けた拡散制御孔6aの作用により、アノード極2ですべてのCOの酸化反応を完了させることができる。
なお、本第1実施形態では、拡散制御板6はステンレス等の金属からなる薄板で形成され、拡散制御孔6aは打ち抜き等の任意の方法で形成されている。
【0058】
また、センサ本体10のカソード極3の側の下方には、水タンク20が接続される。水タンク20は、その外壁21の一部にくびれ部22が形成され、そのくびれ部22に、中央部に孔部41が形成されたワッシャ40が係留されている。外壁21とワッシャ40とによって包囲される空間Xには、水又は水を吸収させた吸水性樹脂23が収容されている。空間Xに存在する水は、水蒸気の状態でワッシャ40の孔部41を通り、センサ本体10のカソード極3を通して電解質層1に供給される。
【0059】
一方、センサ本体10のアノード極2の側の上方には、フィルタ部30が設けられる。フィルタ部30は、第1通気孔31aが形成された上半部31に第2通気孔32aが形成された下半部32をかしめて中空部Yを形成し、その中空部Yに活性炭フィルタ33を充填した構成となっている。この構成において、外気に含まれる一酸化炭素は第1通気孔31aから侵入し、活性炭フィルタ33で不純物等が取り除かれた後、第2通気孔32aからセンサ本体10のアノード極2へと供給される。
フィルタ部30と水タンク20の外壁21との間には、水タンク20から蒸発した水蒸気が外部に漏出しないように、ガスケット50が設けられる。
【0060】
この電気化学式センサ100では、水タンク20の底面24及び上半部31の上面31bが電極端子として機能する。従って、フィルタ部30の上半部31及び下半部32、センサ本体10の拡散制御板6、ワッシャ40、ならびに水タンク20の外壁21は、金属等の導電性材料で構成される。
【0061】
図3に示すように、CO濃度検出装置1000は、これまで説明してきた電気化学式センサ100と、当該電気化学式センサ100から一酸化炭素の濃度を検出するための基本測定回路200と、電気化学式センサ100の診断を行うためのインピーダンス検出用電気回路400と、前記基本測定回路200及びインピーダンス検出用電気回路400からの出力を解析して一酸化炭素濃度及び本願の診断を行う解析装置としてのマイクロコンピュータ500とを備えて構成されている。
図3には、このマイクロコンピュータ500内に構築される解析手段を図面番号300で表している。
【0062】
基本測定回路200において、電気化学式センサ100のセンサ本体10から発生した微小な電流(短絡電流)は、オペアンプ201、抵抗202、及びコンデンサ203によって増幅処理及び変換処理がなされ、出力端子204から電圧Voutとして出力される。そして、この出力結果から、外気に含まれる一酸化炭素の濃度の検知が行われる。短絡電流は、電解質中をアノード極2からカソード極3に流れ、外部回路中をカソード極3からアノード極2へ流れる。通常、一酸化炭素濃度が増加するに従って、Voutは増加する。従って、このVoutの値に基づいて、一酸化炭素の濃度を検知することができる。
【0063】
図3に、基本測定回路200からの出力Voutに基づいて、COガス濃度を導出する機能部位をCO濃度導出手段310として示した。即ち、マイクロコンピュータ500内には、CO濃度導出手段310と出力手段320が設けられており、CO濃度導出手段310の電圧−CO濃度変換部310aにおいて、予め記憶部310bに記憶されているCO濃度変換情報(VoutをCO濃度に変換する指標情報)に基づいてVoutをCO濃度に変換して、出力手段320に引渡し、出力手段320によりCO濃度を出力できる。
【0064】
〔電気化学式センサの診断〕
発明者等の検討では、上述の電気化学式センサ100が正常に機能するためには、アノード極2とカソード極3との間(以下、単に「一対の電極2、3間」と呼ぶことがある)が、(1)適切な湿潤状態(一対の電極2、3間に存在する水の量が適正範囲となっている正常湿潤状態)にあり、(2)拡散制御6aに孔詰りが発生しておらず、一酸化炭素が適切に拡散制限を受けてアノード極2に到達する開放状態にあり、さらに(3)一対の電極2、3の何れか若しくはそれらの両方が電解液の影響を受け界面に異常を発生していない正常界面状態であることが必要である。即ち、電気化学式センサ100は、そのセンサ構造に起因する上記(1)(2)(3)に係る異常が発生していない状態で、大気中の一酸化炭素濃度に比例した出力が得られる(プラス電流が流れる)状態となる。
【0065】
以下、正常に一酸化炭素濃度を検知するために、CO濃度検出装置1000が適時実行する診断に関して、図3図4図5に基づいて説明する。
図3には、この診断機能を果たす診断手段330の構成を示している。図4は実行される診断フローを示しており、図5は、正常品と異常品とにおけるインピーダンスの容量成分の値の関係を示している。
本願に係るCO濃度検出装置1000は、診断に関し、ハード側の機器として、一対の電極2,3間のインピーダンスを検出するためのインピーダンス検出用電気回路400を備えており、このインピーダンス検出用電気回路400により計測される検出情報(所定周波数の電圧を一対の電極間にかけた状態で検出される電流)に基づいてインピーダンスを求める検出手段340、診断手段330を備えている。これら検出手段340、診断手段330は、マイクロコンピュータ500に以下に説明する検出機能を果たす検出ソフトを及び診断機能を果たす診断ソフトを格納して構築される。
【0066】
診断手段330には、診断部として、一対の電極間が正常な正常湿潤状態にあるか否かを診断する湿潤状態診断部330aと、拡散制御孔6aが正常な開放状態にあるか否かを診断する開放状態診断部330bと、電極触媒が電解液の影響を受けず界面が正常な状態(正常界面状態)にあり、電極触媒が正常にその反応性を発揮し得るかどうかを診断する界面状態診断部330cが設けられている。
【0067】
さらに、上述の検出手段340及び診断手段330を、各診断目的に適合して働かせるための情報を記憶する記憶部350が設けられており、この記憶部350には、上記の診断手段における各部の診断を可能とするための情報がそれぞれ記憶されている。即ち、診断に当っては、電気化学式センサ100の電気的特性としての、一対の電極2,3間のインピーダンス|Z|、インピーダンスの抵抗成分(実数部ReZ)、インピーダンスの容量成分(虚数部|ImZ|)を使用するが、後述するように、診断目的に従って、使用する交流の周波数が異なり、さらに、インピーダンス|Z|、インピーダンスの抵抗成分ReZ、容量成分|ImZ|のいずれを使用するかも異なる。
また、各診断部330a,330b,330cでの診断は、正常品が本来示す電気的特性の範囲に対して、検出される電気的特性が、その範囲内に収まっているか(正常)、逸脱するか(異常)を判断することとなるが、各診断目的に対応した正常と判断する電気的特性の範囲が必要となる。
【0068】
そこで、記憶部350には、各目的に対応した情報(使用する交流の周波数、電気的特性としてどの特性を使用して診断するかの別、正常と診断する電気的特性の範囲)が記憶されている。即ち、図3にも示すように、湿潤状態診断情報Ia、開放状態診断情報Ib、及び界面状態診断情報Icが記憶されている。
【0069】
湿潤状態診断情報Iaとしては、交流の周波数、この周波数の交流を一対の電極間に印加した場合の正常と診断できるインピーダンス|Z|の許容範囲が記憶されている。
【0070】
開放状態診断情報Ibとしては、交流の周波数、この交流を一対の電極間に印加した場合の正常と判断できるインピーダンス|Z|及びインピーダンスの抵抗成分ReZの許容範囲が記憶されている。
【0071】
界面状態情報Icとしては、交流の周波数、この交流を一対の電極間に印加した場合の正常と判断できるインピーダンス|Z|及びインピーダンスの容量成分|ImZ|の許容範囲が記憶されている。
【0072】
検出手段340は、診断において各診断部330a,330b,330cが、当該機能部位が目的とする診断を行なうための情報を生成する。
即ち、検出手段340に、各診断部330a,330b,330cの目的に適合したセンサの電気的特性を検出する。この検出に際しては、検出手段340は、各目的に適合した周波数の交流を、インピーダンス検出用電気回路400を働かせて、一対の電極2,3間に印加し、印加に伴って発生する電流から電気的特性(インピーダンス|Z|、インピーダンスの抵抗成分ReZあるいは容量成分|ImZ|の何れか或いは複数)を検出する。そして、その結果を各診断部330a,330b,330cに送る。
【0073】
具体的な測定は、センサ手段11のアノード極2側をインピーダンス検出用電気回路の第1極400a(インピーダンス検出用電気回路400は所謂ポテンショスタッドと同様の電気機器構成とされるためポテンショスタッドの試験極に相当する極である)に接続すると共に、カソード極3側をインピーダンス検出用電気回路の第2極400b(ポテンショスタッドの参照極に相当)及び第3極400c(ポテンショスタッドの対極に相当)に接続して、定電圧(例えば、0Vを中心に±20mV)で設定周波数の交流電圧を印加する。そして、得られる電流値の波形から、インピーダンス値|Z|、位相差Φを算出し、インピーダンスの抵抗成分ReZと、容量成分|ImZ|とを得る。
【0074】
各診断部330a,330b,330cには、検出手段340から各診断目的に適合した検出情報が送られてくるため、各診断部330a,330b,330cは記憶手段350に記憶されている情報に基づいて、検出情報が正常範囲に収まっているか、正常範囲を逸脱しているかどうかを比較する。
【0075】
以下、各診断に関してさらに詳細に説明する。
(1) 正常湿潤状態の診断
この診断は、具体的には、周波数10Hz以上10000Hz以下の周波数範囲内にある交流で、例えば10Hz(湿潤異常診断周波数の一例)の交流を一対の電極2,3間に印加し、この印加状態で、電極間のインピーダンス|Z|を検出する。そして、このインピーダンス|Z|が、正常湿潤状態のセンサが示す基準インピーダンス|Z|sに対して、所定の許容範囲内(例えば5〜250Ω)にある場合に、一対の電極間(電解質層を含む)は、正常湿潤状態にあると診断する。
基準インピーダンス|Z|sに対して、所定の許容範囲を超える状態でインピーダンス|Z|が増加している場合は、正常湿潤状態から一対の電極2,3間(特に電解質層1)が水枯れを起こし、良好な湿潤状態を維持できない状態になりつつあると診断する。このような状況は、所謂、水枯れ傾向にある場合に起こる。
【0076】
(2) 拡散制御孔の開放状態の診断
この診断は、具体的には、周波数10Hz以下の周波数範囲内にある交流で、例えば2Hz(開放異常診断周波数の一例)の交流を電極2,3間に印加し、この印加状態で、電極2,3間のインピーダンス|Z|又はインピーダンスの抵抗成分ReZを検出する。周波数の下限は特に限定するものではないが、0.1Hz以上が実用的である。そして、このインピーダンス|Z|が正常である開放状態にあるセンサが示す基準インピーダンス|Z|sに対して、所定の許容範囲内(例えば25〜35Ω)にある場合に、又はこのインピーダンスの抵抗成分ReZが開放状態のセンサが示す基準インピーダンスの抵抗成分ReZsに対して、所定の許容範囲内(例えば5〜20Ω)にある場合に、拡散制御6aは、その拡散制限機能を良好に発揮できる開放状態にあると診断する。
一方、基準インピーダンス|Z|sに対して、所定の許容範囲を超える状態でインピーダンス|Z|が減少している場合は、又は、基準インピーダンスの抵抗成分ReZsに対して、所定の許容範囲を超える状態でインピーダンスの抵抗成分ReZが減少している場合は、拡散制御孔6aの一部又は全部が孔詰まりを発生しており、拡散制御孔6aは、その拡散制限機能を良好に発揮できない閉塞状態にあると診断する。
【0077】
(3) 界面状態の診断
以下、本願の特徴である、界面状態の診断に関して説明する。発明者らは、電極2,3を構成する電極触媒に電解質層1から電解液が到達することにより、電極触媒の反応性が阻害され、異常が発生しているのではないかと考えている。
このような異常要因は、これまで認識されてこなかった事象であり、当然に、その診断手法も知られていなかった。
【0078】
〔新たに見出された異常要因〕
発明者らは、15個の電気化学式センサ100を50、60、70℃の恒温槽内にそれぞれ所定時間(例えば、2000時間)保管し、これら電気化学式センサ100を所定の時間ごとに(例えば、100〜200時間ごとに)複数回、恒温室外に取り出して、取り出す毎に室温(例えば、20℃程度)で恒温槽外に所定時間(例えば、24時間)保管した。そして、恒温槽外で20℃程度となった各電気化学式センサ100の感度(雰囲気中に300ppmの一酸化炭素が存在する際の出力値)を測定した。
【0079】
上記検証の結果、上記恒温槽内での保管が約2000時間経過した後の複数の電気化学式センサ100のうちのいくつかは、正常なセンサの出力値(雰囲気中に300ppmの一酸化炭素が存在する際の出力電流)に対する出力値の比が、同様の濃度の一酸化炭素が存在するにも拘らず減少していた。そこで、出力値が所定の正常値を示すセンサを正常品と、その出力値が正常値より低下しているセンサを異常品として分類した。
この分類に従って、正常品と異常品との、インピーダンスの容量成分|ImZ|を比較したところ、特定の周波数範囲で、異常品のインピーダンスの容量成分|ImZ|の値が、正常品のそれよりも増加していた。具体的には、例えば、図5に示すように、印加する交流周波数を1Hzとした場合、インピーダンスの容量成分|ImZ|の値が20〜30Ω増加していた。
【0080】
図5は、一対の電極間に定電圧(0Vを中心に±20mV)の交流電圧を、周波数を0.1Hzから10Hzまで変化させながら印加し、周波数ごとに得られる電流値の波形から、インピーダンスの容量成分|ImZ|を、正常品と異常品(図上「性能低下品」とも記載)とについて求めた結果を示している。
図5からも判明するように、この周波数範囲では、周波数の増加とともに、インピーダンスの容量成分|ImZ|は低下するとともに、正常品と異常品との値を比較すると、同一の周波数で、異常品の虚数部の値|ImZ|が正常品の虚数部の値|ImZ|sに対して明確に増加している。このことは、電気的には、この周波数領域で容量成分が増加していることを意味している。図5には、10Hz近傍における正常品のインピーダンスの容量成分|ImZ|の値を示していないが、上述した傾向は、10Hz以下の範囲で変わることはなかった。
【0081】
さらに、これらの正常品及び異常品を分解して、異常の原因を確認したが、異常品にあっては、アノード極2又はカソード極3の電極触媒表面に電解液が存在したり、電解液の成分が析出していたのに対して、正常品では、このような現象は認められなかった。この異常原因の究明において、一対の電極2,3間は正常な湿潤状態とし(10Hzのインピーダンス|Z|は正常な値を示し、増加していない)、拡散制御6aは良好に開放状態にある(2Hzのインピーダンス|Z|は正常な値を示し、減少していない)ことを確認している。
したがって、発明者らは、電解液が何らかの理由により電極触媒の表面に到達した場合、この電解液が電極触媒の反応性に悪影響を与え、インピーダンスの容量成分|ImZ|が正常な範囲を超えて増加するものと理解している。
【0082】
以上より、界面状態診断部330cは、具体的には、周波数0.1〜10Hz以下の周波数範囲内にある交流で、例えば1Hz(界面異常診断周波数の一例)の交流を電極2,3間に印加し、この印加状態で、電極間のインピーダンスの容量成分|ImZ|を検出する。そして、このインピーダンスの容量成分|ImZ|が正常なセンサが示す基準インピーダンスの容量成分|ImZ|sの許容範囲内(例えば35〜50Ω)にある場合に、検知極2或は対極3の電極触媒は電解質層1の電解液の悪影響を受けていない正常界面状態にあると診断する。
一方、基準インピーダンスの容量成分|ImZ|sの許容範囲を超える状態でインピーダンスの容量成分|ImZ|が増加している場合は、検知極2或は対極3の電極触媒は電解質層の電解液の悪影響を受けている界面異常状態にあると診断する。
【0083】
〔診断対象〕
これまでも説明してきたように、電気化学式センサ100は、一酸化炭素の濃度を的確に検知するためには、一対の電極2、3間が、(1)適切な湿潤状態(一対の電極2、3間に存在する水の量が適正範囲となっている正常湿潤状態)にあり、(2)拡散制御孔6aに孔詰りが発生しておらず、一酸化炭素が適切に拡散制限を受けてアノード極2に到達する開放状態にある必要がある。しかしながら、これら要因が満たされたとしても電極触媒の反応性の低下が何らかの要因で起こった場合、一酸化炭素の濃度を精度よく検出できない。このような異常要因は、これまで説明してきたように、一対の電極2,3間におけるインピーダンスの容量成分|ImZ|の値が増加することを利用して、初めて確認できる。
【0084】
従って、本願に係るCO濃度測定装置では、一対の電極2、3間のインピーダンスを測定することにより、これまで説明したきた(1)(2)(3)の全ての異常要因に関して、正常な状態にあるセンサを使用して、一酸化炭素の濃度を良好に測定する。
【0085】
〔診断・一酸化炭素ガス検知〕
以下、第1実施形態に係る電気化学式センサ100の診断手順及び一酸化炭素検知に到る手順に関して、図4の診断・一酸化炭素ガス検知フローに基づいて説明する。
このフローは、センサ100の正常・異常を診断した後、全ての診断項目について正常と診断した状態で、一酸化炭素の濃度検知を開始するものである。
【0086】
1 診断開始に際しては、診断開始指令により、検出手段340が正常湿潤状態診断、開放状態診断及び界面状態診断の目的に、それぞれ適合した周波数(例えば、10Hz,2Hz,1Hz)の交流を一対の電極2,3間に印加する。このようにして交流を印加した状態で、一対の電極2,3間のインピーダンス|Z|、インピーダンスの抵抗成分ReZ及びインピーダンスの容量成分|ImZ|をそれぞれ検出する(ステップ1)。
この各診断目的の周波数の交流を一対の電極2,3間に印加する他、周波数変更を0.1Hzから10Hzの範囲で一対の電極2,3間に印加する構成としてもよい。このように連続的な周波数範囲で交流を印加する場合は、各診断目的に対して、検出手段340は、検出した連続的な周数範囲の電気的特性について、各診断目的の周波数(例えば、10Hz,2Hz,1Hz)の電気的特性値を、各診断部330a,330b,330cに引き渡せばよい。
2 上記検出手段340による検出を行った後に、湿潤状態診断部330a及び開放状態診断部330bが働いて、各診断部において、検出手段340の検出結果が、正常品の電気的特性の範囲内にあるか否かを判断する。そして、正常範囲内にある場合は、正常の診断を、正常範囲から外れている場合は異常の診断を実行する(ステップ2−1,2−2)。
3 湿潤状態診断部330aにより、一対の電極間が正常な湿潤状態にないと診断された場合は、水枯れ状態もしくは水枯れ状態になりつつある可能性があるとの診断結果を出力する(ステップ3−1)。
一方、開放状態診断部330bにより、拡散制御6aが正常な開放状態にないと診断された場合は、拡散制御6aの一部若しくは全部が水詰りを起こしている可能性があると出力する(ステップ3−2)。
4 湿潤状態診断部330a及び開放状態診断部330bの診断において、正常湿潤状態にあり、且つ開放状態にあると診断された場合に、先に説明した界面状態診断部330cが働き、界面状態診断の目的に応じた検出情報を検出手段340から取得する。そして、この検出情報が正常範囲か否かを判断し、正常範囲内に収まっている場合は、界面状態は正常であると診断し、正常範囲から外れている場合は界面異常がある可能性があると診断する(ステップ4)。
5 界面状態の診断の結果に基づいて、センサは正常である(ステップ5−1)若しくは界面は異常状態にある可能性がある(ステップ5−2)との診断をくだす。
6 最終的に、上記3の診断の全てにおいて、正常と診断した状態で、センサは正常であるとされ、CO濃度測定装置が目的とする一酸化炭素の濃度の検知を行う(ステップ6)。
7 そして、得られた診断結果若しくは一酸化炭素の濃度を出力する(ステップ7、8)
以上より、電気化学式センサ100が、その検出原理に基づいて保有する、様々な性能低下の要因を排除した正常な状態で、一酸化炭素の濃度を検知できる。また、上述の出力手段320により診断結果の出力を行うことができる。
【0087】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を説明するが、この第2実施形態は、電気化学式センサ100の診断手法の別の実施形態を説明するものであり、この診断手法を実行するマイクロコンピュータ500等を備えたCO濃度検出装置1000の基本的な装置構成は、上記の第1実施形態と同様である。従って、重複説明を避けるために、CO濃度検出装置1000の装置構成の説明については、上記の第1実施形態と異なる構成についての説明に止め、主として、電気化学式センサ100の診断手法について説明する。
【0088】
〔第1実施形態における診断手法の整理〕
上記第1実施形態で説明してきた診断(湿潤状態診断、開放状態診断及び界面状態診断)にあっては、基本的に、これら診断をおこなうのに、それぞれ診断に適合した特定単一の周波数における電気化学式センサ100のインピーダンスを使用して診断をおこなってきた。
この手法の具体例について整理して記載すると、
湿潤状態診断においては、周波数10Hzのインピーダンスが250Ωを超える場合に異常と判断し、5〜250Ωの範囲に収まっている場合に正常と判断する。
開放状態診断においては、周波数2Hzのインピーダンスの抵抗成分が5Ωより減少している場合に異常と判断し、5〜20Ωの範囲内に収まっている場合に正常と判断する。
界面状態診断においては、周波数1Hzのインピーダンスの容量成分が50Ωを超える場合に異常と判断し、35〜50Ωの範囲内に収まっている場合に正常と判断する。
【0089】
これら3種の診断を、その使用する周波数とインピーダンスの関係で、2次元的にマップ化すると、図9のようになる。ちなみに、図9(a)は、湿潤状態を診断するための周波数10Hzのインピーダンスと、開放状態を診断するための周波数2Hzのインピーダンスの抵抗成分との関係を示し、図9(b)は、湿潤状態を診断するための周波数10Hzのインピーダンスと、界面状態を診断するため周波数1Hzのインピーダンスの容量成分との関係を示す。
この図9からも判明するように、湿潤状態の判断は、高周波数側のインピーダンスが所定の許容範囲内に収まっているか否かの判断となっており、この診断で、一対の電極間(電解質層を含む)が測定に適した適切な湿潤状態にある(換言すると乾燥していない)かどうかが判ることとなる。
開放状態の判断は、低周波数側のインピーダンスの抵抗成分が所定の許容範囲内に収まっているか否かの判断となっており、この診断で、拡散制御孔6aが拡散制限機能を良好に発揮できるかどうかが判ることとなる。
界面状態の判断は、低周波数側のインピーダンスの容量成分が所定の許容範囲内に収まっているか否かの判断となっており、この診断で、アノード極2或いはカソード極3を成す電極触媒が電解質層の電解液の影響により異常状態にあるかどうかが判ることとなる。
【0090】
図9(a)において、ハッチングで示した領域が、湿潤状態及び開放状態のいずれもが正常な領域であり、ハッチングで示した領域外の領域が、湿潤状態及び開放状態のうちの少なくとも一方が異常な領域を示す。
また、図9(b)において、ハッチングで示した領域が、湿潤状態及び界面状態のいずれもが正常な領域であり、ハッチングで示した領域外の領域が、湿潤状態及び界面状態のうちの少なくとも一方が異常な領域を示す。
【0091】
〔複数の周波数におけるインピーダンス特性を使用した診断〕
さて、以上が、先に説明した第1実施形態の構成における診断手法の説明であるが、以下に、発明者らが新たに見出した異常について説明する。
本願で説明する第2実施形態は、この新たに見出した異常に関しても診断可能なものである。但し、この新たに見出した異常は、基本的に電解液の電極に対する影響を原因としており、これまで界面状態診断として説明した問題点に関して、新たな診断基準を追加するものである。
【0092】
図2に示すように、アノード極2やカソード極3は、微視的には(但し、図2では、アノード極2の微視的な表示は省略している)、担体(図2中において、符号αにて示す)に触媒(図2中において、符号βにて示す)が担持された構成となっている。ちなみに、触媒の例としては、例えば、白金(Pt)が挙げられ、担体の例としては、例えば、カーボン(C)が挙げられる。
【0093】
そして、触媒そのものが電解液により被覆されると(即ち、反応表面積が低下して、触媒の反応活性が低下する)、インピーダンスの容量成分が増加し、担体表面が電解液により被覆されると(即ち、電導性が低下する)、インピーダンスの抵抗成分が増加する。
即ち、上記の第1実施形態は、アノード極2或はカソード極3の界面状態の異常はインピーダンスの容量成分の変化(増加)に現れるという知見に基づくものである。
一方、本第2実施形態は、アノード極2或はカソード極3の界面状態の異常は、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合により現れる、即ち、インピーダンスの容量成分の変化(増加)と抵抗成分の変化(増加)とに現れるという知見に基づくものである。
【0094】
このような新知見に発明者らが到達するまでに検討した課題は、電気化学式センサ100の感度低下であり、一対の電極間(電解質層を含む)の状態としては、乾燥することなく正常な湿潤状態にあり、且つ、拡散制御孔6aに孔詰まり等が発生していず、検知対象ガスの拡散制限機能を良好に発揮できる多数の電気化学式センサ100について、その感度が安定しているかどうかである。
【0095】
ここで、感度とは、特定の検知対象ガス(具体的には一酸化炭素)の特定濃度(例えば、300ppm)を電気化学式センサ100が感知した場合に、本来出力すべき出力(基準出力)に対する実際の出力の割合を意味している。
そして、この課題の検討においては、80個の電気化学式センサ100を用いた。即ち、各電気化学式センサ100について、各種性能変化促進環境(高温環境、高湿環境等)中に3ヶ月から3年間放置した後に、一酸化炭素濃度の測定を行って、感度変動が一定の範囲内に収まっている電気化学式センサ100を「感度安定品」とし、感度が鈍化して一定の範囲内に収まっていない電気化学式センサ100を「感度低下品」として、分類した。
【0096】
ところで、一対の電極2,3間に交流電圧を印加したときの一対の電極2,3間のインピーダンス|Z|は、抵抗成分(実数部ReZ)と容量成分(虚数部|ImZ|)との複素和である。そして、図8を参照すると、高周波数側(例えば、10Hz以上)の周波数(以下、高周波数側界面異常診断周波数と記載する場合がある)の交流電圧を一対の電極間に印加した場合のインピーダンス|Z|は、略抵抗成分ReZに等しく、低周波数側(例えば、1.5Hz以下)の周波数(以下、低周波数側界面異常診断周波数と記載する場合がある)の交流電圧を一対の電極間に印加した場合のインピーダンス|Z|は、略容量成分|ImZ|に等しい。ちなみに、図8は、上記の第1実施形態において界面状態が正常であると診断した正常品と異常であると診断した異常品の夫々について、インピーダンス、インピーダンスの抵抗成分及びインピーダンスの容量成分の関係を、所定の周波数範囲において示す図である。
【0097】
そこで、「感度安定品」及び「感度低下品」夫々の電気化学式センサ100全てについて、高周波数側界面異常診断周波数の交流電圧を一対の電極2,3間に印加して、インピーダンス|Z|を検出すると共に、低周波数側界面異常診断周波数の交流電圧を一対の電極2,3間に印加して、インピーダンス|Z|を検出する。
【0098】
そして、検出結果を、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|と低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|とに基づいて、2次元的にマップ化すると、図10のようになる。
図10において、横軸が、高周波数側界面異常診断周波数の一例としての周波数1kHzでのインピーダンス|Z|(Ω)(抵抗成分ReZに略等しい)を示し、縦軸が、低周波数側界面異常診断周波数の一例としての周波数1Hzでのインピーダンス|Z|(Ω)(容量成分|ImZ|に略等しい)を示している。そして、「感度安定品」の位置を「◆」で、「感度低下品」の位置を淡黒の「■」で夫々示している。また、図10において、電気化学式センサ100を「感度安定品」と「感度低下品」とに分類する境界Bを太い破線で示した。
【0099】
この図10から判明するように、「感度安定品」と「感度低下品」との境界Bは、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス|Z|が0〜約11Ωの境界域で、低周波数側界面異常診断周波数1Hzでのインピーダンス|Z|が50Ωで一定となる形態の第1境界域B1と、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス|Z|が約11Ω以上の境界域で、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス|Z|が増加するに従って、低周波数側界面異常診断周波数1Hzでのインピーダンス|Z|が50Ωから漸次低下する形態の第2境界域B2との2境界域から成っている。
【0100】
ちなみに、第2境界域B2は、低周波数側界面異常診断周波数1Hzのインピーダンス(Ω)をY、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス(Ω)をXとすると、下記の数式(1)にて示す一次式で近似することができる。
Y=50−A(X−11)………(式1)
但し、Aは傾きであり、例えば、1.3程度である。
【0101】
第1境界域B1は、本願における第1実施形態で説明した界面状態診断(閾値を50Ωとする診断)に相当している。そして、図10を参照すると、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの閾値を50Ωとして界面状態診断を行った場合、感度の点から「感度低下品」が、正常品として分類されてしまう可能性があることを示している。
無論、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの閾値を40Ω程度にまで低下させた場合、第1実施形態の診断手法で、界面状態の診断を行うことができる。
【0102】
第2境界域B2は、上記の低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの閾値を50Ωに保った場合に、「感度低下品」であるにも拘らず正常品として分類されるのを回避するために必要となる境界域であり、先にも示したように、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス(Ω)が約11Ω以上の境界域で、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス|Z|が増加するに従って、低周波数側界面異常診断周波数1Hzでのインピーダンス(Ω)が50Ωから漸次低下する形態の境界域となる。
【0103】
図10に示す診断マップに基づいた診断について説明する。
この診断マップに基づいた診断においは、横軸にて示す高周波数側界面異常診断周波数の代表例である周波数1kHzでのインピーダンス(Ω)と、縦軸にて示す低周波数側界面異常診断周波数の代表例である周波数1Hzでのインピーダンス(Ω)との両方に基づいた診断を行うこととなる。
【0104】
界面状態診断は、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンスが0〜11Ωの範囲内で、低周波数側界面異常診断周波数1Hzのインピーダンスが50Ωを超える場合に異常と判断し、高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンスが11Ωを超える範囲で、低周波数側界面異常診断周波数1Hzのインピーダンスが50−A(X−11)Ω(但し、Xは高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス)を超える場合に異常と判断する。
【0105】
この理由は、以下に説明する知見に基づいて説明することができる。
即ち、アノード極2或はカソード極3の界面状態の異常は、上述のように、電解液の触媒そのものへの被覆と担体への被覆との複合により現れるものである。
つまり、界面状態の異常は、電解液の触媒そのものへの被覆の影響が支配的であるが、電解液の触媒そのものへの被覆の影響が大きくなくても、電解液の担体への被覆の影響がある程度大きければ、感度が低下して性能が低下すると考えられる。
【0106】
そして、電解液の触媒そのものへの被覆の影響は、インピーダンスの容量成分の増加、即ち、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの増加として現れ、電解液の担体への被覆の影響は、インピーダンスの抵抗成分の増加、即ち、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの増加として現れるので、界面状態診断を、先に説明した第1境界域B1及び第2境界域B2により良好に行うことができるのである。
【0107】
つまり、電気化学式センサ100が正常状態にある可能性があるかどうか(即ち、アノード極2又はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響を受けていない正常状態にある可能性があるかどうか)の診断は、以下の診断方法により行うことができる。
即ち、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数(例えば、1.5Hz以下)と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数(例えば、10Hz以上)との両方の界面異常診断周波数について、アノード極2とカソード極3との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、アノード極2とカソード極3との間のインピーダンスを検出する。
そして、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、正常状態に於けるインピーダンスである基準インピーダンス(即ち、上記の第1境界域B1及び第2境界域B2に相当する)より大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサ100が異常状態(即ち、アノード極2又はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響により異常状態)にある可能性があると診断し、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、基準インピーダンス(即ち、上記の第1境界域B1及び第2境界域B2に相当する)以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサ100が正常状態(即ち、アノード極2又はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響を受けていない正常状態)にある可能性があると診断する。
【0108】
そして、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲(例えば、約11Ω以下のインピーダンス範囲)において、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが一定値(例えば、50Ω)であり(即ち、上記の第1境界域B1に相当する)、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが低インピーダンス側の所定インピーダンス範囲より高い高インピーダンス範囲(例えば、約11Ωよりも高いインピーダンス範囲)において、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが増加するに従って、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスに対する基準インピーダンスが低下するように(即ち、上記の第2境界域B2に相当する)設定する。
【0109】
湿潤状態診断は、図10における縦方向の最も右側の一点鎖線で示す湿潤状態診断用閾値により行うことができる。即ち、周波数1kHzのインピーダンスが湿潤状態診断用閾値250Ω以下の場合に正常と判断し、湿潤状態診断用閾値250Ωを超える場合に異常と判断する。
即ち、上記第1実施形態では、湿潤状態診断用の交流電圧として、高周波数側の周波数の一例である10Hzの交流電圧を用いたが、図8に示すように、10Hz以上の高周波数側の周波数では、インピーダンスの値は略一定である。そこで、湿潤状態診断用の交流電圧として、先の界面状態診断用の高周波数側の周波数である1kHzの交流電圧を用いて、第1実施形態と同様の湿潤状態診断用閾値で、湿潤状態の診断を行うことができる。
【0110】
開放状態診断は、図10における縦方向の最も左側の一点鎖線で示す開放状態診断用閾値により行うことができる。即ち、周波数1kHzのインピーダンスの値(インピーダンスの抵抗成分と略同一)が開放状態診断用閾値5Ω以上の場合に正常と判断し、開放状態診断用閾値5Ωを下回る場合に異常と判断する。
即ち、開放状態の診断は、上記第1実施形態のように、周波数2Hzの交流電圧を用いることにより適切に判断できるのであるが、周波数1kHzの交流電圧を用いて、開放状態診断用閾値を5Ωに設定することにより診断することも可能であることを見出した。
【0111】
このような診断手法を採用することにより、高周波数側界面異常診断周波数の交流電圧と低周波数側界面異常診断周波数の交流電圧との2つの周波数の交流電圧を用いて、湿潤状態診断、開放状態診断及び界面状態診断の3つの診断を一挙に行うことができる。
【0112】
〔診断手法を実行するための診断装置の構成〕
次に、上述した診断手法を実行するための解析手段300について、説明する。
解析手段300の検出手段340が、界面異常診断周波数として、インピーダンスが主に容量成分からなる低周波数側界面異常診断周波数(この第2実施形態では、例えば、1Hz)と、インピーダンスが主に抵抗成分からなる高周波数側界面異常診断周波数(この第2実施形態では、例えば、1kHz)との両方の界面異常診断周波数について、アノード極2とカソード極3との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、アノード極2とカソード極3との間のインピーダンスを検出するように構成されている。
【0113】
そして、解析手段300の診断手段330(具体的には、界面状態診断部330c)が、低周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数に於けるインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に関して、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスの少なくとも一方が、正常状態に対応する基準インピーダンス(即ち、上記の第1境界域B1及び第2境界域B2に相当する)より大きい領域である異常領域に位置する場合に、電気化学式センサ100が異常状態(即ち、アノード極2又はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響により異常状態)にある可能性があると診断し、検出された両界面異常診断周波数のインピーダンスが、共に、基準インピーダンス(即ち、上記の第1境界域B1及び第2境界域B2に相当する)以下の領域である正常領域に位置する場合に、電気化学式センサ100が正常状態(即ち、アノード極2又はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響を受けていない正常状態)にある可能性があると診断するように構成されている。
【0114】
また、診断手段330(具体的には、湿潤状態診断部330a)が、高周波数側界面異常診断周波数(例えば、1kHz)に於けるインピーダンスが、250Ω以下の場合に湿潤状態が正常と判断し、250Ωを超える場合に湿潤状態が異常と判断するように構成されている。
さらに、診断手段330(具体的には、開放状態診断部330b)が、高周波数側界面異常診断周波数(例えば、1kHz)のインピーダンス(抵抗成分と略同一)が、5Ω以上の場合に開放状態が正常と判断し、5Ωを下回る場合に異常と判断するように構成されている。
【0115】
記憶部350には、湿潤状態診断情報Iaとして、湿潤状態診断用閾値である250Ωが記憶されている。
また、開放状態診断情報Ibとして、開放状態診断用閾値である5Ωが記憶されている。
さらに、界面状態診断情報Icとして、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの範囲に応じて、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスの閾値としての界面状態診断用閾値が記憶されている。
即ち、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが0〜11Ωの範囲に対応して、界面状態診断用閾値として、50Ωが記憶され、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが11Ω以上の範囲に対応して、界面状態診断用閾値を求めるための数式として、Y=50−A(X−11)の数式が記憶されている。
【0116】
〔診断・一酸化炭素ガス検知〕
以下、第2実施形態に係る電気化学式センサ100の診断手順及び一酸化炭素検知に到る手順に関して、図11の診断・一酸化炭素ガス検知フローに基づいて説明する。
このフローは、第1実施形態と同様に、センサ100の正常・異常を診断した後、全ての診断項目について正常と診断した状態で、一酸化炭素の濃度検知を開始するものである。
【0117】
診断開始に際しては、診断開始指令により、検出手段340が、低周波数側界面異常診断周波数(1Hz)の交流電圧を一対の電極2,3間に印加して、一対の電極2,3間のインピーダンス|Z|を検出し、並びに、高周波数側界面異常診断周波数(1kHz)の交流電圧を一対の電極2,3間に印加して、一対の電極2,3間のインピーダンス|Z|を検出する(ステップ#11)。
【0118】
上記検出手段340による検出を行った後に、湿潤状態診断部330a、開放状態診断部330b及び界面状態診断部330cが働いて、湿潤状態、開放状態及び界面状態の全てが正常であるかどうかを判断する(ステップ#12)。
即ち、湿潤状態診断部330aは、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが、250Ω以下の場合は湿潤状態が正常であると判断し、250Ωを超えている場合は湿潤状態が異常であると判断する。
また、開放状態診断部330bは、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが、5Ω以上である場合は開放状態が正常であると判断し、5Ωを下回る場合は開放状態が異常であると判断する。
【0119】
界面状態診断部330cは、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが11Ω以下のときは、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが、50Ω以下の場合は界面状態が正常であると判断し、50Ωを超える場合は界面状態が異常であると判断する。また、界面状態診断部330cは、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスが11Ωを超えるときは、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスYが、Y=50−A(X−11)(但し、Xは高周波数側界面異常診断周波数1kHzでのインピーダンス)にて決まるインピーダンス以下である場合は、界面状態が正常であると判断し、Y=50−A(X−11)にて決まるインピーダンスを超える場合は、界面状態が異常であると判断する。
【0120】
つまり、図10において、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスと低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスとにより決まる位置が、ハッチングにて示す領域内に位置する場合に、湿潤状態、開放状態及び界面状態の全てが正常であると判断することになる。
【0121】
湿潤状態、開放状態及び界面状態の全てが正常であると判断すると、センサは正常であると診断して、CO濃度測定装置が目的とする一酸化炭素の濃度の検出を行い、得られた一酸化炭素の濃度を出力する(ステップ#13〜15)。
【0122】
ステップ#12において、湿潤状態、開放状態及び界面状態の全てが正常であるかの判断が否の場合は、湿潤状態が異常であるか、開放状態が異常であるか、界面状態が異常であるかを判断する。
即ち、ステップ#16において、湿潤状態が異常か否かを判断して、湿潤状態が異常であると判断した場合は、水枯れ状態もしくは水枯れ状態になりつつある可能性があると診断する(ステップ#17)。
次に、ステップ#18において、開放状態が異常か否かを判断して、開放状態が異常であると判断した場合は、拡散制御孔6aの一部若しくは全部が水詰りを起こしている可能性があると診断する(ステップ#19)。
次に、ステップ#20において、界面状態が異常か否かを判断して、界面状態が異常であると判断した場合は、電極触媒の界面異常の可能性があると診断する(ステップ#21)。
そして、ステップ#16,18,20での診断結果を出力手段320により出力する(ステップ#22)。
【0123】
以上により、この第2実施形態においても、電気化学式センサ100が、その検出原理に基づいて保有する、様々な性能低下の要因を排除した正常な状態で、一酸化炭素の濃度を検知できる。また、上述の出力手段320により診断結果の出力を行うことができる。
【0124】
〔別実施形態〕
以下、電気化学式センサ100の別実施形態に関して説明する。
(1)界面状態のインピーダンスによる診断
上記の第1実施形態にあっては、界面状態診断部330cにおいて界面状態(電極触媒の反応性)を診断するのに、一対の電極2,3間におけるインピーダンスの容量成分|ImZ|を使用した。
即ち、一対の電極2,3間に印加する交流として、周波数0.1Hzから10Hzの交流を一対の電極2,3間に印加し、この印加状態において検出されるインピーダンスの容量成分|ImZ|が増加することを利用して、界面状態の診断を行うものとした。先にも説明したように、このような診断が可能となる理由は、正常品と異常品とを、周波数0.1Hzから10Hzまでのインピーダンスの容量成分|ImZ|が増加することで明確に区別できるためである。図5に示した検証品(15の電気化学的センサ)に関して、正常品と異常品とのインピーダンス|Z|を示したのが図6である。
この図からも判明するようにインピーダンス|Z|に関しては、正常品と異常品とは、0.1Hzから1.5Hzの周波数範囲で明確に区別できる。従って、これまで、インピーダンスの容量成分|ImZ|を対象として説明してきた診断方法と同様に、インピーダンスの容量成分|ImZ|に代えて、インピーダンス|Z|の増加を基準に界面状態の診断を行うこともできる。但し、この場合、使用できる交流の周波数は、0.1Hzから1.5Hzの範囲内となる。このように、インピーダンスの容量成分|ImZ|に代えて、インピーダンス|Z|を診断に使用する構成でも、界面異常診断周波数として1Hzを採用できる。
【0125】
インピーダンスに関連する電気的特性としては、インピーダンスの抵抗成分があり、電極触媒に対する電解液の影響を診断する場合に、このインピーダンスの抵抗成分も指標とすることが考えられるが、図7に示すように、インピーダンスの抵抗成分は、発明者らの検討によると、診断の指標とすることはできない。その理由は、図7に示すように、正常品と異常品とで、区別できないためである。
【0126】
さらに、これまで説明してきたように、電極触媒に対する電解液の影響は、インピーダンスの容量成分或いはインピーダンスそれ自体で診断可能であり、インピーダンスの抵抗成分では診断できないが、本願が、界面異常診断周波数と呼ぶ比較的低い側の周波数領域(0.1〜10Hzの周波数領域)では、図8に示すように、インピーダンスはインピーダンスの容量成分支配の電気的特性量となり、インピーダンスの抵抗成分の影響が減少するためであると理解される。この傾向は、図8(a)(b)に示すように、正常品の場合も異常品の場合も変わるところがない。
【0127】
(2) 界面状態独自の診断
上記の第1実施形態にあっては、正常湿潤状態の診断、拡散制御孔の開放状態の診断を行った後に、本願にいう界面状態の診断を行うものとしたが、これらの診断にあっては、実質的に一対の電極間に印加する交流の周波数が異なるとともに、診断に使用する電気的特性が異なり、その変化傾向(増加か減少か)も異なるため、界面状態の診断を単独で行うことも可能である。この場合、これまでも示してきたように、例えば、印加する交流周波数として1Hzの交流を採用し、この周波数の交流に対するインピーダンスの容量成分|ImZ|あるいはインピーダンス|Z|を導出して、その値が正常範囲か否かを判断することが界面状態の診断を良好に行うことができる。
【0128】
(3) 上記の第2実施形態において、低周波数側界面異常診断周波数は、1.5Hz以下の周波数で、適宜変更設定可能であり、高周波数側界面異常診断周波数は、10Hz以上の周波数で、適宜変更設定可能である。
【0129】
(4) 高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|は、略抵抗成分ReZに等しく、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|は、略容量成分|ImZ|に等しい。そこで、界面状態を診断するのに用いる情報としては、以下のように変更可能である。即ち、上記の第2実施形態においては、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|と、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|とを用いたが、例えば、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|の抗成分ReZと、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス|Z|の容量成分|ImZ|とを用いても良い。
【0130】
(5) 「感度安定品」と「感度低下品」とに分ける境界Bにおける第1境界域B1と第2境界域B2との転換点である高周波数側界面異常診断周波数でのインピーダンス(第2実施形態では、例えば11Ω)、第1境界域B1を特定するための低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンス(第2実施形態では、例えば50Ω)、及び、第2境界域B2を特定するための近似式(Y=50−A(X−11))における傾きA(第2実施形態では、例えば1.3)の夫々は、上記の第2実施形態において例示した値に限定されるものではなく、診断対象の電気化学式センサ100の特性等に応じて、適宜設定することができる。
【0131】
(6)以上説明してきた、電気化学式センサの診断機能部位(インピーダンス検出用電気回路400、診断手段330、検出手段340、記憶部350、及び出力手段320)で、換言すると、これまで説明してきたCO濃度検出装置1000におけるCO濃度導出手段310を除いた機能部位で、本願に係る電気化学式センサの診断装置は構成できる。
【0132】
(7) 上記の第1及び第2の各実施形態では、電気化学式センサ100を診断するにあたり、当該電気化学式センサ100が設置される対象は特定しなかったが、設置対象を検知対象ガスの濃度検知の高信頼性が要求されるガス警報器とすることができる。すなわち、検知対象ガスの濃度を正確に表すことができない状態にあることを簡単且つ確実に知ることができる本願の電気化学式センサ100の診断方法を有効に利用することにより、より高信頼性を担保した警報器を構成することができる。
【0133】
(8) 界面異常診断周波数として、低周波数側界面異常診断周波数と高周波数側界面異常診断周波数との両方の界面異常診断周波数について、アノード極2とカソード極3との間に両方の界面異常診断周波数の交流を印加して、アノード極2とカソード極3との間のインピーダンスを検出して、界面状態を診断するに当たっては、上記の第2実施形態のように、低周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスを一方の指標とし、高周波数側界面異常診断周波数のインピーダンスを他方の指標として定義される2次元の領域に基づいて診断する診断方法に限定されるものではない。
即ち、低周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの容量成分が正常状態における基準インピーダンスの容量成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、アノード極2はカソード極3を成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断し、高周波数側界面異常診断周波数を印加された状態で検出されるインピーダンスについて、検出されたインピーダンスの抵抗成分が正常状態における基準インピーダンスの抵抗成分より増加した場合、又は検出されたインピーダンスが正常状態における基準インピーダンスより増加した場合に、アノード極2はカソード極3成す電極触媒が電解質層1の電解液の影響により異常状態にある可能性があると診断しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、検知極と対極間における湿潤状態に関する異常、拡散制御孔の一部若しくは全部の詰まり以外の異常要因を合理的に推定することができる電気化学式センサの診断方法を確立することができた。
【符号の説明】
【0135】
1 電解質層
2 アノード極(検知極)
3 カソード極(対極)
6 拡散制御板(拡散制御手段)
6a 拡散制御孔
11 センサ手段
100 電気化学式センサ
200 基本測定回路
310 CO濃度導出手段
320 出力手段
330 診断手段
330a湿潤状態診断部
330b開放状態診断部
330c界面状態診断部
340 検出手段
350 記憶部
400 インピーダンス検出用電気回路
1000CO濃度検出装置
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