(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184223
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】冷却装置及び冷却システム
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20170814BHJP
B22D 11/124 20060101ALI20170814BHJP
B21B 1/46 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
B22D11/06 370A
B22D11/06 360B
B22D11/06 360C
B22D11/124 J
B21B1/46 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-154114(P2013-154114)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-24415(P2015-24415A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198329
【氏名又は名称】株式会社IHI機械システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松田 至康
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−061759(JP,A)
【文献】
実開平02−097939(JP,U)
【文献】
特開昭58−176061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B21B 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変態点以上の温度を有する帯状金属を変態点以下の温度となるまで冷却する冷却装置であって、
前記帯状金属を圧延する一対のロール部材と、前記一対のロール部材を互いに圧接させる押圧機構と、を備え、
前記ロール部材の内部には、ロール外周面を冷却する流体が流れる流路が形成され、
前記一対のロール部材に送り込まれる帯状金属の温度と一対のロール部材から送り出された帯状金属の温度との差を求め、その差を前記ロール部材の回転数に基づく帯状金属の通過時間で割ることにより冷却速度を算出し、該冷却速度に基づき押圧力の大きさを算出して前記押圧機構へ送信する制御手段を備えたことを特徴とした冷却装置。
【請求項2】
溶融金属を冷却ロールの外周面上に流下させ、一次冷却させて変態点以上の温度を有する帯状金属に凝固させる単ロール鋳造機と、
前記単ロール鋳造機からの変態点以上の温度を有する帯状金属を二次冷却する請求項1に記載の冷却装置と、を備えたことを特徴とした冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置
及び冷却システムに関する。詳細には、拡散変態点以上の帯状金属を冷却する冷却装置
及び冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
拡散変態点よりも高い温度にある金属を急冷し、変態点以下の温度とすると、変態時の原子拡散が十分に行えないため析出の少ない組織が現れ、特異な物性を有する金属が得られることが知られている。
【0003】
このような金属を製造する方法としては、例えば、高速回転する冷却ロールの外周面に溶融金属をノズルから流下させて冷却ロールの外周面上で凝固させて帯状とし、この帯状に凝固した変態点よりも高い温度の帯状金属に冷却ガスを噴きつけて変態点よりも低い温度まで急冷する方法が知られている。このような特殊な金属を形成する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−205148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このような特殊な金属は、析出する原子が拡散しやすい温度域にある時間をできるだけ短くすればするほど析出を抑えることが可能となる。このため、既存プロセスで製造される材料にはない組織を作り、特異な物性を発現させるには、拡散・析出が進行する温度域でのより高速な冷却速度が求められていた。
【0006】
しかしながら、例えば冷却ガスを噴きつけて急冷する方法では、抜熱能力に限界があるために冷却速度に限界があった。そのため、帯状金属の変態が進行する温度域において、より高速な冷却を実現する冷却装置
及び冷却システムが求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、変態点よりも高い温度になる帯状金属を、冷却ガスを噴きつける方法で変態点以下の温度まで急冷する従来の方法よりも高い冷却速度で冷却する冷却装置
及び冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、変態点以上の温度を有する帯状金属を変態点以下の温度となるまで冷却する冷却装置
であって、
前記帯状金属を圧延する一対のロール部材と、前記一対のロール部材を互いに圧接させる押圧機構と、を備え
、
前記ロール部材の内部には、ロール外周面を冷却する流体が流れる流路が形成され
、
前記一対のロール部材に送り込まれる帯状金属の温度と一対のロール部材から送り出された帯状金属の温度との差を求め、その差を前記ロール部材の回転数に基づく帯状金属の通過時間で割ることにより冷却速度を算出し、該冷却速度に基づき押圧力の大きさを算出して前記押圧機構へ送信する制御手段を備えたことを特徴としている。
【0010】
溶融金属を冷却ロールの外周面上に流下させ、一次冷却させて変態点以上の温度を有する帯状金属に凝固させる単ロール鋳造機と、前記単ロール鋳造機からの変態点以上の温度を有する帯状金属を二次冷却する前記冷却装置と、を備えたことを特徴とした冷却システムに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の冷却装置
及び冷却システムによれば、変態点以上の温度を有する帯状金属を、冷却ガスを噴きつける方法で変態点以下の温度となるまで急冷する従来の方法よりも、高い冷却速度で急冷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】鋳造ロールにより凝固された帯状金属を本発明の冷却装置で冷却する様子を示した図である。
【
図2】一次冷却を単ロール鋳造機で行い、二次冷却を冷却装置で行う冷却システムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態例(以下、実施例)を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、鋳造ロールにより凝固された帯状金属を本発明の冷却装置で冷却する様子を示した図である。
【0016】
一対の鋳造ロール1,1は、挟み込む方向に同期回転し、溶融金属2が上側の鋳造ロール1,1間に流し込まれる。この溶融金属2は、それぞれの鋳造ロール1の外周面上で冷却され、凝固殻が形成される。それぞれの鋳造ロール1の外周面に形成された凝固殻は、鋳造ロール1の回転によってロールキス点で接触を開始した後に重ね合わされて、帯状金属4となって連続的に冷却装置3に送り出される。
【0017】
冷却装置3は、双ロール法により帯状に一次冷却された帯状金属4を二次冷却する装置であり、鋳造ロール1,1の下流側である下方に配設される。この冷却装置3は、変態点以上の温度を有する帯状金属4が送り込まれる。そして、冷却装置3は、一対の冷却ロール5,5(ロール部材)と、この一対の冷却ロール5,5を互いに圧接させる油圧シリンダ6(押圧機構)と、一対の冷却ロール5,5に送り込まれる帯状金属4の温度を計測する入側温度計測手段7と、一対の冷却ロール5,5から送り出された帯状金属4の温度を計測する出側温度計測手段8と、油圧シリンダ6の押圧力を決定する制御手段10と、を備えている。
【0018】
冷却ロール5は、両端に中空のスタブ軸(不図示)が嵌め込まれ、このスタブ軸にロータリジョイント(不図示)が接続されている。また、冷却ロール5の内部には、その軸方向の一端から他端へスパイラル状に延び且つ周方向に等間隔に形成された冷却流路5aが複数形成されている。この冷却流路5aは、冷却ロール5の周方向に沿って複数形成され、冷却ロール5の軸方向に対して垂直に切断した断面が円形となっている。なお、冷却流路5aは、スパイラル状で説明したが軸に沿ったストレート状の冷却流路を複数形成しても良い。
【0019】
この冷却流路5aには、流体として冷却水が一パス形式で流される。すなわち、冷却水は、一方のロータリジョイントから一方のスタブ軸を通って冷却流路5aに流される。そして、冷却水は、冷却ロール5の軸方向の一方側から他方側へ抜熱しながら流され、他方のスタブ軸を通って他方のロータリジョイントから排水される。なお、冷却水を流す方法は、一方のロータリジョイントに戻るような二パス形式を採用しても良い。この冷却流路5aは、ロール外周面5bで帯状金属から奪った熱を冷却流路を流れる冷却水に移動させることでロール外周面5bを冷却する。
【0020】
一対の冷却ロール5,5は、送られてきた帯状金属4を圧延しながら冷却する。すなわち、一対の冷却ロール5,5は、ロール外周面5bが帯状金属4に圧接させられて帯状金属4を抜熱する。
【0021】
また、冷却ロール5の軸の傍らには、例えば、ロータリエンコーダ11が取り付けられており、冷却ロール5の回転数を計測する。ロータリエンコーダ11は、冷却ロール5の回転数を制御手段10に送信する。
【0022】
油圧シリンダ6は、制御手段10で算出された押圧力を一対の冷却ロール5,5のそれぞれに付与し、互いに圧接するように押し付けるようになっている。押圧力は、例えば、帯状金属4と冷却ロール5のロール外周面5bとの面圧が100MPa以上1000MPa以下となるように押圧する。
【0023】
入側温度計測手段7は、一対の冷却ロール5,5に送り込まれる帯状金属4の温度を計測し、制御手段10に送信する。出側温度計測手段8は、一対の冷却ロール5,5から送り出された帯状金属4の温度を計測し、制御手段10に送信する。
【0024】
制御手段10は、CPUを有し、冷却ロール5の回転数と、一対の冷却ロール5,5に送り込まれる帯状金属4の温度と、一対の冷却ロール5,5から送り出された帯状金属4の温度と、に基づき油圧シリンダ6の押圧力を決定する。
【0025】
また、制御手段10は、冷却ロール5の回転数に基づき帯状金属4の通過時間を算出する。そして、制御手段10は、一対の冷却ロール5,5に送り込まれる帯状金属4の温度と一対の冷却ロール5,5から送り出された帯状金属4の温度の差を求め、その差を通過時間で割ることにより冷却速度を算出する。そして、制御手段10は、冷却速度に基づき油圧シリンダ6へ送信する押圧力の大きさを算出して送信する。
【0026】
本発明の
冷却装置3によれば、帯状金属4は、冷却装置3の一対の冷却ロール5,5により、圧延されながら冷却される。また、冷却ロール5は、内部に形成された冷却流路5aにより、ロール外周面5bが所定温度以下に冷却されている。本発明の冷却装置3は、内部に冷却流路5aを有していることにより、例えば、外から水をかけてロール外周面5bを冷却する構成と比較し、冷却ロール5を均一に冷却できる。
【0027】
以上により、本発明の
冷却装置3は、変態点以上の温度を有する帯状金属4を、冷却ガスを噴きつける方法で変態点以下の温度まで急冷する従来の方法よりも均一に高い冷却速度で急冷することができる。
【0028】
次に、この
冷却装置3を用いて急冷することにより特殊な金属を形成する様子を、異方性を有した磁石材料を形成する態様で説明する。
【0029】
鋳造ロール1間に流し込まれる溶融金属2は、例えば、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)及びホウ素(B)を含んだ溶融金属2が用いられる。
【0030】
そして、この溶融金属2は、鋳造ロール1のロール外周面5b上で冷却され、帯状となって連続的に冷却装置3に送り出される。このとき、冷却装置3へ送り出された帯状金属4は、変態点以上の温度となっている。
【0031】
この帯状金属4は、冷却装置3の一対の冷却ロール5,5により、帯状金属4と冷却ロール5のロール外周面5bとの面圧が100〜1000MPaとなるように押圧される。また、冷却ロール5は、内部に形成された冷却流路5aにより、ロール外周面5bが所定温度以下に冷却されている。
【0032】
以上により、本発明の冷却装置3によれば、油圧シリンダ6が帯状金属4と冷却ロール5のロール外周面5bとの面圧を100〜1000MPaとなるように押圧することで10
5〜10
7℃/sの冷却速度で急冷することができ、その結果、異方性を有する磁石材料を形成することができる。
【0033】
図2を参照しながら、一次冷却を単ロール鋳造機21で行い、二次冷却を冷却装置3で行う冷却システム20について説明する。
図2は、一次冷却を単ロール鋳造機21で行い、二次冷却を冷却装置3で行う冷却システム20を示した図である。
【0034】
なお、この冷却システム20は、冷却装置3の上流側を単ロール鋳造機21にした点を除きその基本的構成が上記実施例と同様であるため、上記実施例と同様の構成には同一の符号を付し、上記実施例の説明と重複することになる説明を省略する。
【0035】
実施例の冷却システム20は、溶融金属2を一次冷却する単ロール鋳造機21と、溶融金属2を二次冷却する冷却装置3と、を備えている。単ロール鋳造機21は、溶融金属2が貯留される坩堝22と、坩堝22に貯留された溶融金属2を受けるタンディッシュ23と、タンディッシュ23から溶融金属2が供給される冷却鋳造ロール24と、を備えている。
【0036】
冷却鋳造ロール24は、タンディッシュ23から溶融金属2をロール外周面24a上に流下され、その溶融金属2をロール外周面24a上で一次冷却させて変態点以上の温度を有する帯状金属4に凝固させる。そして、冷却装置3は、単ロール鋳造機21からの変態点以上の温度を有する帯状金属4を、例えば、油圧シリンダ6が帯状金属4と冷却ロール5のロール外周面5bとの面圧を100〜1000MPaとなるように押圧しながら二次冷却する。
【0037】
以上により、本発明の冷却システム20によれば、変態点以上の温度を有する帯状金属4を、冷却ガスを噴きつける方法で変態点以下の温度まで急冷する従来の方法よりも均一に高い冷却速度で急冷することができることは勿論のこと、油圧シリンダ6が帯状金属4と冷却ロール5のロール外周面5bとの面圧を100〜1000MPaとなるように押圧することで10
5〜10
7℃/sの冷却速度で急冷することができる。
【0038】
なお、本発明の冷却装置及び冷却
システムは、上述の実施例にのみ限定されない。例えば、本発明の冷却装置3に送り込まれる変態点以上の温度を有する帯状金属4は、双ロール法、単ロール法で形成される態様で説明したがこれに限定されるものではない。
【0039】
例えば、帯状の金属を加熱炉で変態点よりも高い温度に加熱したのちに、本発明の冷却装置3で二次冷却するようにしても良い。
【0040】
また、冷却流路5aの断面を円形で説明したがこれに限定されるものではない。例えば、冷却ロール5の径方向に長軸が沿うような楕円形でも良い。このような断面形状を選択すれば、油圧シリンダ6から高い圧力が付与されても断面が円形の冷却流路と比較し破損し難くなる。
【0041】
本発明の冷却装置及び冷却
システムは、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
3 冷却装置
4 帯状金属
5 冷却ロール(ロール部材)
5a 冷却流路(流路)
5b ロール外周面
6 油圧シリンダ(押圧機構)
20 冷却システム
21 単ロール鋳造機
24 冷却鋳造ロール
24a ロール外周面(外周面上)