(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るコンパクトディスク型マイクロチップを用いた分析装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<1.分析装置の概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るコンパクトディスク型マイクロチップを用いた分析装置の概略図を示す。
【0021】
この実施の形態に係るコンパクトディスク型マイクロチップを用いた分析装置(以後、単に、「分析装置」という)1は、試料の分析に用いられると共に自転させた際の遠心力を利用して中心から径方向外側に送液可能な装置である。分析装置1は、コンパクトディスク型マイクロチップ(以後、適宜、「CD型マイクロチップ」という。)2と、CD型マイクロチップ2の分析部に向けて発光する光源としての有機エレクトロルミネセンス(以後、単に、「有機EL」という)13を含む発光装置4と、上記分析部から受光する受光部16を含む受光装置5と、を備える。分析装置1は、好ましくは、CD型マイクロチップ2を回転駆動する第一回転機構3を、さらに備える。なお、
図1では、受光部16は、上記分析部を挟んで有機EL13と対向配置されるように描かれているが、かかる位置に限定されることなく、有機EL13と同様、CD型マイクロチップ2の下方に配置されていても良い。また、発光装置4、受光装置5および次に述べる制御装置6は、図中、宙に浮いているように描かれているが、現実に宙に浮いているわけではなく、配置箇所を問わない意味に解釈される。
【0022】
受光装置5は、好ましくは、制御装置6と接続されていて、受光に基づく情報を制御装置6の制御の下、コンピュータに送信可能となっている。第一回転機構3は、駆動部としてのモータ10およびそれに接続される回転軸11を備える。回転軸11は、CD型マイクロチップ2の略中心に接続可能な構造を有する。このため、モータ10を起動して回転軸11を所定の方向に回転させることにより、CD型マイクロチップ2を回転させることができる。
【0023】
発光装置4は、少なくとも有機EL13を含み、この実施の形態では電源12を好適に備える。また、発光装置4は、有機EL13よりCD型マイクロチップ2側に、順に、有機EL13からの光をフィルタリングするためのバンドパスフィルター14、半球レンズ15を好適に備える。電源12としては、定電流電源を好適に用いることができる。バンドパスフィルター14は、特定範囲の波長のみを透過させるためのフィルターであって、例えば、Omega Optical製の励起フィルター(560AF55)を用いることができる。バンドパスフィルター14を用いると、有機EL13の発光スペクトルの半値幅が広くて試料の蛍光と重なりバックグラウンド信号が増加するのを有効に防止できる。半球レンズ15は、有機EL13からの光を集光させるためのレンズである。有機EL13の詳細については、後述する。
【0024】
受光装置5は、少なくとも受光部16を含み、この実施の形態では、受光部16よりCD型マイクロチップ2側に、バンドパスフィルター17を好適に備える。受光部16としては、CCDカメラ、光電子増倍管(PMT)、フォトダイオード(PD)、有機フォトダイオード(OPD)などを例示でき、特に、その中でもCCDカメラを好適に例示できる。以後、特に言及しない限り、受光部16としてCCDカメラを用いる例で説明する。CCDカメラは、制御装置6側のメモリに格納されるCCDカメラ用ソフトウェアによって、受光に基づく信号の記録および解析を可能とし、例えば、Mightex社製のCCDカメラ(TCN−1304−U)を用いることができる。また、バンドパスフィルター17は、試料からの蛍光スペクトルの特定範囲の波長のみを透過させるためのフィルターであって、例えば、Omega Optical製の蛍光フィルター(645AF75)を用いることができる。
【0025】
上記構成の分析装置1を用いると、CD型マイクロチップ2の分析部に集められた試料に対して有機EL13から照光し、試料からの受光による情報から試料の分析を行うことができる。ここで、重要なのは、有機EL13という面発光手段の好適な一例を用いている点にある。有機EL13から、面内光強度の均一性に優れた光を分析部内の試料にあてることができるので、分析部内の照光位置を厳密に設定しなくても、再現性の高い分析が可能となる。また、分析装置1に第一回転機構3を備えるので、CD型マイクロチップ2を回転し、試料を分析部に移動させるのを完了した後に有機EL13を発光させて分析を行うことができるのみならず、CD型マイクロチップ2を回転させながら有機EL13を発光させ、試料の移動による分析値の経時変化を調べることもできる。
【0026】
<2.CD型マイクロチップの構造>
図2は、
図1のCD型マイクロチップの平面図および側面図を示す。
【0027】
この実施の形態にて用いられるCD型マイクロチップ2は、試料の分析に用いられ、それを自転させた際の遠心力を利用して中心から径方向外側に送液可能な構造を持つ。CD型マイクロチップ2は、中央に穴25を有する円板形状のマイクロチップであり、平面視にて8個の略扇形状のブロック30に分割されている。各ブロック30は、同一形状の流路構造を有する。このため、CD型マイクロチップ2を用いて同時にN=8までの分析を行うことができる。ただし、ブロック30は、8個に限定されず、少なくとも1個あれば、その数を問わない。CD型マイクロチップ2は、好適には、共に透光性材料から成る第一ディスク34と第二ディスク35とを積層して成る。この実施の形態では、第一ディスク34は、ポリジメチルシロキサン(シリコーン樹脂の一種)から構成されている。しかし、第一ディスク34を構成する材料として、上記のシリコーン樹脂に代えて、他の透光性を有する材料を選択することもできる。当該材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、あるいはガラスを用いることができる。
【0028】
また、この実施の形態では、第二ディスク35は、ポリカーボネート樹脂から構成されている。しかし、第二ディスク35を構成する材料として、ポリカーボネート樹脂に代えて、他の透光性を有する材料を選択することもできる。当該材料としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、あるいはガラスを用いることができる。本願において、「透光性」とは、有色であるか無色であるかおよび光の透過率の多寡を問わず、光を透過させることができる意味に広義に解釈される。
【0029】
図3は、
図2のCD型マイクロチップ中の1つのブロックの平面図(3A)、当該平面図におけるA−A線断面図(3B)および同平面図におけるB−B線断面図(3C)を、それぞれ示す。
【0030】
CD型マイクロチップ2は、少なくとも試料を貯留するための1または2以上の貯留部41,42,43,44,45(以後、「貯留部41等」という)と、貯留部41等より径方向外側に配置され、貯留部41等から送られてきた試料の分析場となる分析部46、および貯留部41等と分析部46とを繋ぐ送液用の流路48を、少なくとも備える。より好ましくは、この実施の形態では、CD型マイクロチップ2の各ブロック30は、(3A)に示すように、その内部に、5つの貯留部41等と、1つの分析部46と、1つの廃液部47と、複数本の送液用の流路48とを備える。流路48は、各貯留部41等同士の間、各貯留部41等と分析部46および廃液部47との間、分析部46と廃液部47との間をそれぞれ繋いでいる。貯留部41等は、少なくとも測定対象の試料を貯留するための領域であって、薄厚の略円柱形状の空間である。この実施の形態では、貯留部41等は同一の形状を有するが、それらの一部または全部が互いに異なる形状を有していても良い。この実施の形態では、貯留部41等は、CD型マイクロチップ2の径方向外側から内側に向かって、貯留部41、貯留部42、貯留部43、貯留部44、貯留部45の順に配置されている。このため、CD型マイクロチップ2を自転させた際に、回転数を上げるに従い、径方向最も外側の貯留部41から最初に送液し、次に貯留部42から、その次に貯留部43から、その次に貯留部44から、最後に径方向最も内側の貯留部45からそれぞれ送液することができる。
【0031】
ただし、貯留部41等の内の一部あるいは全部を、CD型マイクロチップ2の中央から同じ距離に配置することもできる。これによって、互いに分離して貯留していた溶液を同時に送液し、分析部46にて混合させることができる。また、貯留部41等には、測定対象の試料のみならず、洗浄液、抗体を含む溶液、各種試薬を含む溶液といった他の溶液を貯留することができる。さらに、貯留部41等を5個とせずに、少なくとも1個あれば、その数を問わない。なお、以後、「径方向」は、CD型マイクロチップ2の径方向を意味する。
【0032】
分析部46は、貯留部41等より径方向外側に配置される領域であって、貯留部41等から送られてきた試料等の溶液に照光するための領域である。分析部46を貯留部41等より径方向外側に配置するのは、CD型マイクロチップ2を自転させた際の遠心力を利用して分析部46に送液させるためである。廃液部47は、分析部46あるいは貯留部41等から、最終的に廃棄する液体を集める領域である。廃液部47を分析部46より径方向外側に配置すると、測定後にCD型マイクロチップ2を回転し、全ての溶液を廃液部47に集めることができる。ただし、廃液部47は、分析部46より径方向内側あるいは分析部46と径方向同一の距離に設けても良い。その場合には、測定者が、CD型マイクロチップ2を傾けて、手動にて溶液を廃液部47に集めることができる。さらに、廃液部47は、CD型マイクロチップ2にとって必須の領域ではなく、設けなくても良い。その場合には、測定後に、貯留部41等あるいは分析部46から廃液すると良い。かかる意味では、流路48は、最低限、貯留部41等から分析部46までを繋ぐものであれば良い。貯留部41等の径方向内側および径方向外側の各流路48は、好適には、貯留部41等に極めて近い場所に、各流路48を少し太くした拡径部49を1個ずつ備える。拡径部49は、一種のバルブの機能を有する。拡径部49の径を変えることにより、貯留部41等から溶液が流れ出すときの回転数を変えることが可能である。ただし、拡径部49は必須の構成ではなく、設けなくても良い。
【0033】
(3B)に示すように、流路48は、CD型マイクロチップ2の厚さ方向の内部に形成されている。貯留部45は、流路48と同様、CD型マイクロチップ2の厚さ方向の内部に形成されており、かつその上面に開口部50を有する。(3B)に明示されていないが、他の貯留部41,42,43,44も、その上面に開口部50を備える。開口部50は、貯留部41等に溶液(試料も含む)を供給するために、好適に形成されている。開口部50は、貯留部41等に溶液を供給後、好適には、フィルム等(不図示)によって覆われる。CD型マイクロチップ2を自転させて測定を行う際に、貯留部41等から溶液が飛び出し、あるいは外部から塵や埃が入るのを防止する必要からである。貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48は、この実施の形態では、第一ディスク34における第二ディスク35の対向面から内方に窪む凹部によって形成されているが、第二ディスク35側の凹部によって形成し、あるいは第一ディスク34側と第二ディスク35側の各凹部を合わせて形成しても良い。また、第一ディスク34側に、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48の内のいずれか一部を形成する凹部を備え、第二ディスク35側に当該一部以外を形成する凹部を備えても良い。すなわち、CD型マイクロチップ2は、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48の内の少なくとも1つを、面内方に窪む凹部として形成した第一ディスク34と、第一ディスク34と積層することによって貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48を形成可能な第二ディスク35とを積層して成る。ただし、凹部形成の工程をより簡易化するためには、第一ディスク34および第二ディスク35のいずれか一方に、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48用の各凹部を形成する方が好ましい。第一ディスク34に、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48用の各凹部を形成する場合、第一ディスク34の厚さおよび凹部の深さに何らの限定は無いが、一例を挙げるならば、第一ディスク34の厚さを1〜3mmの範囲に、凹部の深さを20〜80μmの範囲にそれぞれ設定することができる。また、第二ディスク35の厚さについても何らの限定もないが、一例を挙げるならば、1〜3mmの範囲に設定できる。
【0034】
(3C)に示すように、廃液部47は、前述の貯留部45と同様、CD型マイクロチップ2の厚さ方向の内部に形成され、その上面に開口部51を有する。開口部51は、廃液時を除き、好適にはフィルム等(不図示)によって常時覆われる。なお、この実施の形態では、分析部46および流路48は、第一ディスク34と第二ディスク35とを積層した後には閉鎖空間となり、それ専用の開口部を備えていないが、分析部46および流路48の少なくともいずれか一方に開口部を備えても良い。測定の際に、CD型マイクロチップ2の上面の全部あるいは各ブロック30の上面をフィルム等(不図示)にて覆うようにし、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48の全てに開口部を備えても良い。
【0035】
第一ディスク34および第二ディスク35は、共に透光性である。したがって、CD型マイクロチップ2の第一ディスク34側から分析部46に入った光は、分析部46および第二ディスク35を透過する。ただし、第一ディスク34の分析部46の少なくとも入光窓および出光窓を透光性にする限り、他の部分を遮光性にすることもできる。
【0036】
<3.CD型マイクロチップの製造方法>
図4は、
図2のCD型マイクロチップの製造工程の一例を示す。
図5および
図6は、
図2のCD型マイクロチップの製造過程を示す。
【0037】
ステップ101
まず、第一ディスク34を製造するのに必要となる、平面視にて円形の平板60を準備する(5A)。平板60としては、例えば、シリコンウェハを好適に用いることができる。この実施の形態では、直径6インチのシリコンウェハを好適に用いる。
【0038】
ステップ102
次に、平板60の片面上に、ネガ型フォトレジストを供給し、スピンコート等の手段にて均一な厚さの塗膜61を形成する(5B)。ネガ型フォトレジストとしては、例えば、エポキシ樹脂系のカチオン重合体、オキセタン樹脂系のカチオン重合体等を用いることができる。この実施の形態では、露光部分の架橋を促進させる性質のネガ型フォトレジストを好適に用いるが、これとは逆に露光部分を溶解除去可能なポジ型フォトレジストを用いても良い。ただし、CD型マイクロチップ2の第一ディスク34の構成材料としては、化学薬品への耐性、機械的強度および耐熱性に優れるネガ型フォトレジスト、特に、SU−8(化薬マイクロケム製)を用いる方がより好ましい。平板60に塗膜61を形成後、100℃前後で加熱してネガ型フォトレジスト内の有機溶媒を除去し、その後、室温まで冷却するのが好ましい。
【0039】
ステップ103
次に、ネガ型フォトレジストの塗膜61上に、フォトマスク62を配置する(5C)。フォトマスク62と塗膜61とは、例えば、真空クランプ等を用いて密着固定するのが好ましい。フォトマスク62は、CD型マイクロチップ2の流路領域を透光領域とする一方、当該流路領域以外を遮光領域としたものである。なお、ポジ型フォトレジストにて塗膜61を形成した場合には、フォトマスク62の透光領域と遮光領域は、先の構成の逆になる。
【0040】
ステップ104
次に、フォトマスク62の上から紫外線(UV)を照射する(5C)。この実施の形態では、好適にライトボックス(サンハヤト製、LIGHT BOX BOX−W9B)を用いて、紫外線を約1分間照射する。
【0041】
ステップ105
次に、露光した領域の硬化後、塗膜61付きの平板60からフォトマスク62を外し、現像液を用いて紫外線の非照射領域の未硬化レジストを除去する(5D)。未硬化レジストの除去に先立ち、塗膜61付きの平板60を100℃前後で加熱し、露光した領域の固定を強化する処理を行っても良い。なお、現像液としては、例えば、ディベロッパー(化薬マイクロケム製、SU−8 Developer)を好適に用いることができる。未硬化レジストの除去後、塗膜61付きの平板60を、イソプロパノール(IPA)等の有機溶媒を用いて洗浄し、さらには200℃前後で加熱して有機溶媒を完全に除去しても良い。このような処理を経て、CD型マイクロチップ2用の流路領域64を突出させ、流路領域外63を窪ませた形態のテンプレートが完成する。
【0042】
ステップ106
次に、テンプレート上に、液状ポリマー65を塗布する(5E)。液状ポリマー65としては、硬化後に第一ディスク34となる材料を用いる。当該材料としては、例えば、ポリアルキルシロキサン、より好ましくはポリジメチルシロキサンを主剤とするものを用いることができる。より具体的には、ポリジメチルシロキサンの主剤(東レ・ダウコーニング製、SILPOT184 W/C BASE)と、その硬化剤(東レ・ダウコーニング製、SILPOT184 W/C CURING AGENT)を重量比にて10:1で混合したプレポリマーを、液状ポリマー65として好適に用いることができる。液状ポリマー65をテンプレート上に塗布する際、第一ディスク34を高精度に成形する観点から、テンプレートと略同一の底面の円柱空間を持つ型枠内にテンプレートを入れて、その上から液状ポリマー65を流し込む方が好ましい。
【0043】
ステップ107
次に、液状ポリマー65を硬化する(5E)。硬化に先立ち、常圧下若しくは減圧下にて液状ポリマー65内の脱気を行うのが好ましい。硬化の際には、液状ポリマー65が熱硬化型の樹脂であれば、加熱を行うのが好ましい。例えば、ポリジメチルシロキサンを用いた場合には、50〜70℃にて加熱するのが好ましい。一方、室温硬化型の液状ポリマー65を用いる場合には、加熱を要しない。
【0044】
ステップ108
次に、硬化した流路形成済みの透光性ポリマー34’をテンプレートから外す(5F)。
【0045】
ステップ109
次に、流路形成済みの透光性ポリマー34’の貯留部41等および廃液部47に、それぞれ開口部50および51を形成すると共に、面内中央に穴25aを形成する(5G)。こうして、第一ディスク34が完成する。
【0046】
ステップ110
次に、第二ディスク35を製造するのに必要となる、平面視にて円形の透光性の平板35を準備する。平板35としては、例えば、好ましくはポリカーボネート樹脂製のものを用いることができる。
【0047】
ステップ111
次に、平板35の面内中心に、穴25bを形成する(6A)。
【0048】
ステップ112
次に、第一ディスク34と平板(第二ディスク)35とを貼り合わせる(6B)。貼り合わせる際には、接着剤、両面テープ、嵌め込み等の如何なる手段を用いても良い。こうして、CD型マイクロチップ2が完成する。
【0049】
上述の工程における開口部50,51および穴25a,25bをそれぞれ形成する各工程を、上述の各工程と異なる順に行うこともできる。例えば、第一ディスク34と第二ディスク35とを貼り合わせた後に、開口部50,51および穴25(穴25aと穴25bとを連結した状態のもの)を形成しても良い。
【0050】
上述のステップ101〜109までの第一ディスク34を作製する工程に代えて、以下の製造方法を用いても良い。シリコーン樹脂をCD型に成形し、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48の各位置を、レーザー光等を用いて貫通して第一ディスク34を作製する。その後、第一ディスク34を構成する分割片を第二ディスク35に固着するようにしても良い。また、貯留部41等、分析部46および廃液部47のみをレーザー光等を用いて貫通領域にし、流路48を凹状に加工しても良い。さらには、貯留部41等、分析部46、廃液部47および流路48の各位置を、レーザー等を用いて凹状に加工しても良い。
【0051】
<4.CD型マイクロチップの送液原理>
図7は、
図2のCD型マイクロチップを用いた送液原理を説明する図を示す。
【0052】
CD型マイクロチップ2の中心から異なる距離に位置する貯留部41,42,43に、それぞれ、溶液71,72,73を入れた後、CD型マイクロチップ2を自転させる、その回転数を増加させていくと、CD型マイクロチップ2の中心から最も遠い貯留部41から、次に遠い貯留部42、最も近い貯留部43の順に、溶液71,72,73を分析部46に導くことができる。かかる遠心力Fを利用した送液の原理について、以下に説明する。
【0053】
CD型マイクロチップ2を角速度ωで回転させたとき、CD型マイクロチップ2の中心から距離Rにある貯留部41,42,43にかかる遠心力F
cは、次の式(1)で表すことができる。
F
c=Rω
2ρπr
2h・・・式(1)
ここで、rは、貯留部41,42,43の出口の形状をある円の一部をなす孤と仮定したときの円換算半径である。ρは、溶液71,72,73の密度である。hは、溶液71,72,73の遠心方向における深さである。
一方、表面張力によって引き起こされる溶液71,72,73を貯留部41,42,43に留めおく力F
sは、次の式(2)で表すことができる。
F
s=2πrγcosθ・・・式(2)
ここで、θは、接触角である。γは、表面張力である。
F
c>F
sのときに、溶液71,72,73は貯留部41,42,43から出口に向かって流れ出し、このときの角速度ωは、式(3)で表すことができる。
ω=(2γ|cosθ|/Rρrh)
1/2・・・式(3)
したがって、このときの回転周波数f(単位:rpm)は、式(4)で表すことができる。
f=(60/2π)・(2γ|cosθ|/Rρrh)
1/2・・・式(4)
【0054】
式(4)から明らかなように、CD型マイクロチップ2の中心から貯留部41,42,43までの距離(R)が異なれば、溶液71,72,73が貯留部41,42,43から流れ出す回転数も異なる。したがって、回転数を段階的に上げることにより、中心から最も遠い貯留部41から順に溶液を分析部46に送ることができる。
【0055】
<5.有機ELの構成>
図8は、
図1の有機ELの斜視図を示す。
【0056】
有機EL13は、ガラス等の透明基板81上に、5本の幅狭の電極82を配置し、4本の電極82上に有機層83、さらにその上に電極84を配置した積層構造を有する。電極82は、好ましくは導電性に優れた透明電極、特に好ましくはITO膜から成る電極である。電極84は、好ましくは金属層であり、特に好ましくはアルミニウム薄膜から成る電極である。有機層83は、この実施の形態では、MoO
3、TPD、Ir(ppy)
3:CBP、Bphen、Alq
3、LiFを順に積層したものであるが、当該積層構造は一例にすぎず、陰極および陽極の間に電圧を印加することにより各々から電子と正孔を注入し、その注入された電子と正孔が発光層で結合して、発光層の発光材料を励起でき、その励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生することができる限り、いかなる層の組み合わせでも良い。
【0057】
以下に、好適な有機EL13の作製例につき説明する。
【0058】
まず、ITO電極の作製を行う。一様にITOが成膜されたガラス基板をガラスカッターで30mm角に切り取り、シカクリーンLX−II、純水、IPAの順に、超音波洗浄機を用い、それぞれ超音波洗浄する。約70℃のインキュベーター内で基板を乾燥させた後、暗室内にて、基板のITO表面上にポジ型フォトレジストPMERをスピンコートし、約20分間放置した後に約85℃のホットプレートで約15分間仮焼する。次に、ITO電極のパターンを描画したフォトマスクを基板の上に被せ、バキュームクランプで固定した後に、露光機を用いて約3分間露光する。次に、基板を現像液に浸して現像し、純水で十分すすいだ後に、約85℃のホットプレートで約15分間焼成する。次に、この基板を、よう化水素酸(濃度55.0〜58.0%)に約30分間浸して、レジストのない部分のITOを除去し、純水で十分にすすいだ後にアセトンとIPAによってレジストを除去する。次に、シカクリーン、純水(好ましくは2回)、アセトン、IPAの順にそれぞれ約10分間超音波洗浄を行い、新しいIPAに基板を浸し、常温で保存する。
【0059】
次に、有機薄膜蒸着装置内に、有機材料及び金属材料をセットする。次に、IPAに浸して約200℃のホットプレート上で煮沸洗浄したITO電極基板を基板ホルダにセットし、グローブボックス内に搬入する。これをグローブボックスから有機薄膜蒸着装置の有機蒸着室内に移送し、真空引きを行う。装置内の圧力が1.0×10
−4Pa以下であることを確認後、基板ホルダを有機室の上部にあるマスクにセットし、MoO
3、TPD、6wt%−Ir(ppy)
3:CBP、Bphen、Alq
3、LiFの順に蒸着する。その後、基板ホルダを有機蒸着室から金属蒸着室へと移送し、金属蒸着室上部にあるマスクにセットし、Alを蒸着する。全ての蒸着が終了した後、蒸着室内の気圧を大気圧に戻し、グローブボックス内に基板ホルダを搬入する。
【0060】
次に、上記工程にて作製した有機EL13の封止を行う。紫外線防止フィルムを貼った封止用ガラスに、乾燥剤を装着し、紫外線硬化樹脂を用いて、作製した有機EL13に貼り合せる。紫外線硬化樹脂の硬化は、グローブボックス内でブラックライトをデバイスに約2分間照射することにより行う。こうして封止処理が終了する。
【0061】
<6.分析方法>
図9は、
図1の分析装置を用いた代表的な分析の流れを示し、1つはCD型マイクロチップを回転し、回転を停止してから分析を行う方法(9A)を、もう1つはCD型マイクロチップを回転しながら分析を行う方法(9B)を、それぞれ示す。
【0062】
(1)試料供給後に分析する方法の流れ
ステップ201(試料供給ステップ)
(9A)に示すように、まず、CD型マイクロチップ2の貯留部41等に試料等を供給する。ここで、試料等は、「少なくとも試料」の意味に解釈され、試料のみ、あるいは試料の他に洗浄液等の他の種類の溶液をも含み得る。
【0063】
ステップ202
次に、試料等を入れた貯留部41等の開口部50を、フィルム等を用いてカバーする。ここで、廃液部47の開口部51を同時にカバーしても良い。フィルム等のカバー手段は、貯留部41等の専用カバーでも良く、あるいはブロック30毎のカバーでも良く、さらにはCD型マイクロチップ2の表面全部を覆うカバーでも良い。なお、このステップは、必須のステップではなく、省略することもできる。例えば、貯留部41等に注射針等を用いて溶液を注入する場合には、開口部50が非常に小さいので、分析時に溶液が容易に飛び出さない可能性もある。そのような場合には、必ずしも開口部50を塞がなくても良い。
【0064】
ステップ203(送液ステップ)
次に、モータ10につながる回転軸11にCD型マイクロチップ2をセットし、モータ10を回転させる。貯留部41等が1個のみの場合には、送液は一回の操作で行われる。しかし、CD型マイクロチップ2に貯留部41等を径方向の距離を変えて5個備える場合には、このステップでは、モータ10の回転数を5水準に変えながら、径方向外側の貯留部41から送液を開始し、続いてその径方向内側の貯留部42から送液を行う。具体的には、モータ10を所定回転数にて回転させて径方向最も外側にある貯留部41から送液を行い、続いて回転数を上げてその径方向内側にある貯留部42から送液を行い、さらに回転数を上げてその径方向内側にある貯留部43から送液を行い、さらに回転数を上げてその径方向内側にある貯留部44から送液を行い、さらに回転数を上げてその径方向内側にある貯留部45から送液を行う。
【0065】
ステップ204(回転停止ステップ)
分析に必要な送液を終了し、分析部46に分析用の試料が存在する状況になったことを確認し、モータ10をオフにし、CD型マイクロチップ2の回転を停止させる。
【0066】
ステップ205(照光ステップ)
次に、有機EL13を発光させ、分析部46に照光する。
【0067】
ステップ206(測定ステップ)
次に、試料等を照光した結果生じる試料由来の蛍光を受光部16にて受光し、測定を行う。
【0068】
(2)試料供給と併行して分析する方法の流れ
ステップ201〜203は、前述の流れと共通する。
【0069】
ステップ210(照光ステップ)
ステップ203に続き、CD型マイクロチップ2を回転させながら、有機EL13を発光させ、分析部46の試料を照光する。この場合、分析部46は、CD型マイクロチップ2の回転1回あたり、1回のみ有機EL13の位置に来る。このため、断続的な照光による分析になる。ただし、後述するように、有機EL13も、CD型マイクロチップ2の回転に合わせて回転させ、常に分析部46の試料を照光するようにしても良い。
【0070】
ステップ211(測定ステップ)
次に、試料等を照光した結果生じる試料由来の蛍光を受光部16にて受光し、測定を行う。
【0071】
<7.発光装置・受光装置同期回転型の分析装置>
(1)下方発光型
図10は、
図1の分析装置の変形例であって、発光装置と受光装置をCD型マイクロチップの回転と同期させて回転可能であって、かつ発光装置をCD型マイクロチップの下方に配置するタイプの分析装置の概略図(10A)およびその簡易構成図(10B)をそれぞれ示す。
【0072】
(10A)に示す分析装置1aは、
図1の分析装置1の変形例であって、発光装置4をCD型マイクロチップ2の下方に位置するターンテーブル90に配置して成る。(10A)では、受光装置5もターンテーブル90に配置されているが、CD型マイクロチップ2を挟んでターンテーブル90の反対側に配置されていても良い。この変形例に係る分析装置1aは、CD型マイクロチップ2の回転に同期して発光装置4と受光装置5を回転可能としている点で、
図1の分析装置1と異なる。
【0073】
回転軸11およびモータ10は、CD型マイクロチップ2を回転駆動する駆動部であって、第一回転機構3の主要部を構成する。ターンテーブル90、回転軸11およびモータ10は、有機EL13をCD型マイクロチップ2と同期させて回転可能とする駆動部であって、第二回転機構の主要部を構成する。また、同時に、ターンテーブル90、回転軸11およびモータ10は、受光部16をCD型マイクロチップ2と同期させて回転可能とする駆動部であって、第三回転機構の主要部をも構成する。ここでは、回転軸11およびモータ10は、第一回転機構、第二回転機構および第三回転機構に共通する駆動部である。すなわち、ここでは、第一回転機構と、第二回転機構と、第三回転機構とは、共通の駆動部を有する。しかし、第一回転機構、第二回転機構および第三回転機構のそれぞれに若しくはそれらの内の2つの機構に共通するモータおよびそれに接続される回転軸を設けても良い。また、ターンテーブル90は、第二回転機構および第三回転機構に共通する構成要素であるが、第二回転機構および第三回転機構は、それぞれ別個のターンテーブルを備えていても良い。さらに、発光装置4全体をターンテーブル90に配置することに限定されず、少なくとも有機EL13をターンテーブル90に配置する限り、発光装置4の構成要素内のどの要素をターンテーブル90に配置しても良い。同様に、受光装置5全体をターンテーブル90に配置することに限定されず、少なくとも受光部16をターンテーブル90に配置する限り、受光装置5の構成要素のどの要素をターンテーブル90に配置しても良い。
【0074】
また、本願において「同期させて回転可能」とは、回転数の変更の可否を問わず、少なくとも2つの回転対象物が同一回転数にて回転できることを意味する。(10A)に示す分析装置1aは、1つの回転軸11に、CD型マイクロチップ2と、ターンテーブル90とを接続しているので、分析部46、有機EL13および受光部16を回転軸11から同一距離に固定することにより、分析部46、有機EL13および受光部16が回転軸11からの径方向および長さ方向の両距離において相対的に位置ずれを生じない条件下で分析可能とする。この結果、再現性の高い分析が可能となる。加えて、CD型マイクロチップ2と有機EL13と受光部16とが一体で回転可能な構成とすることにより、複雑な配線を解消し、装置全体のコンパクト化をも実現できる。さらに、CD型マイクロチップ2を回転させながら分析を行うことができるので、反応の過程をリアルタイムに測定できると共に、操作の自動化も可能となる。測定が終了した際には、CD型マイクロチップ2を交換するだけで次の測定を開始できるようにもなる。また、有機EL13を配置したターンテーブル90上にCD型マイクロチップ2を配置して分析を行うので、CD型マイクロチップ2のセットが極めて簡単になる。
【0075】
(10B)は、(10A)の分析装置1aの構成をよりわかりやすく説明するためのブロック図であり、(10A)において省略されている構成も示す。ダイクロイックミラー91は、有機EL13からの光の方向を半球レンズ15側に変化させる構成要素である。アンプ92は、受光部16と接続されており、受光部16からの信号を増幅する構成要素である。データ処理器93は、アンプ92にて増幅された信号に基づき分析若しくは分析前のデータ処理を行う構成要素である。メモリ94は、データ処理器93によって処理されたデータを格納可能な構成要素であり、ターンテーブル90から着脱容易なカード型のメモリチップなどでも良い。バッテリー95は、発光装置4および受光装置5に共通する着脱自在な電力供給源である。なお、商用電源を用いる場合には、バッテリー95を使用せず、外部から電源12を経由して発光装置4および受光装置5を駆動することができる。
【0076】
このような構成の分析装置1aを用いると、有機EL13からダイクロイックミラー91にて反射させて半球レンズ15を通して集光された光は、分析部46内の試料に照光される。試料は、この光を受けて蛍光する。試料からの光は、CCDカメラ等に代表される受光部16に入り、アンプ92で増幅される。データ処理器93は、その増幅された光信号を基にデータ処理を行う。
【0077】
(2)上方発光型
図11は、
図10の分析装置とは異なる変形例であって、発光装置と受光装置をCD型マイクロチップの回転と同期させて回転可能であって、かつ有機ELをCD型マイクロチップの上方に配置するタイプの分析装置の概略図(11A)およびその簡易構成図(11B)をそれぞれ示す。
【0078】
(11A)に示す分析装置1bは、(10A)の分析装置1aとは異なるさらなる変形例であって、有機EL13をCD型マイクロチップ2の上方に配置して成る。(11A)では、受光部16をCD型マイクロチップ2の下方に配置しているが、有機EL13と同じ側に配置しても良い。この変形例に係る分析装置1bは、分析装置1aと同様、CD型マイクロチップ2の回転に同期して発光装置4と受光装置5を回転可能としている点で、
図1の分析装置1と異なる。
【0079】
電源12を除く発光装置4の大部分の構成要素は、CD型マイクロチップ2の上方の第一ターンテーブル96に配置されている。一方、電源12を含む受光装置5の全ての構成要素は、CD型マイクロチップ2の下方の第二ターンテーブル97に配置されている。第一ターンテーブル96、回転軸11およびモータ10は、有機EL13をCD型マイクロチップ2と同期させて回転可能とする駆動部であって、第二回転機構の主要部を構成する。また、第二ターンテーブル97、回転軸11およびモータ10は、受光部16をCD型マイクロチップ2と同期させて回転可能とする駆動部であって、第三回転機構の主要部を構成する。回転軸11およびモータ10は、第一回転機構、第二回転機構および第三回転機構に共通する駆動部である。すなわち、ここでは、第一回転機構と、第二回転機構と、第三回転機構とは、共通の駆動部を有する。しかし、第一回転機構、第二回転機構および第三回転機構のそれぞれに若しくはそれらの内の2つの機構に共通するモータおよびそれに接続される回転軸を設けても良い。さらに、発光装置4全体を第一ターンテーブル96に配置しても良い。また、電源12を第一ターンテーブル96に配置し、受光部16を少なくとも含む受光装置5の一部を第二ターンテーブル97に配置しても良い。
【0080】
分析装置1bは、1つの回転軸11に、CD型マイクロチップ2と、第一ターンテーブル96と、第二ターンテーブル97とを接続しているので、分析装置1aと同様、分析部46、有機EL13および受光部16を回転軸11から同一距離に固定することにより、分析部46、有機EL13および受光部16が回転軸11からの径方向および長さ方向の両距離において相対的に位置ずれを生じない条件下で分析可能とする。この結果、再現性の高い分析が可能となる。加えて、CD型マイクロチップ2と有機EL13と受光部16とが一体で回転可能な構成とすることにより、複雑な配線を解消し、装置全体のコンパクト化をも実現できる。さらに、CD型マイクロチップ2を回転させながら分析を行うことができるので、反応の過程をリアルタイムに測定できると共に、操作の自動化も可能となる。測定が終了した際には、CD型マイクロチップ2を交換するだけで次の測定を開始できるようにもなる。
【0081】
(11B)は、(11A)の分析装置1bの構成をよりわかりやすく説明するためのブロック図であり、(11A)において省略されている構成も示す。分析装置1bは、分析装置1aと異なり、受光部16と有機EL13とを分析部46を挟んで対向配置させている。分析装置1bのその他の構成要素は、分析装置1aのそれらと共通する。かかる構成の分析装置1bを用いると、有機EL13からの光を半球レンズ15にて集光させ、分析部46内の試料に照光することができる。試料は、この光を受けて蛍光する。試料からの光は、CCDカメラ等に代表される受光部16に入り、アンプ92で増幅される。データ処理器93は、その増幅された光信号を基にデータ処理を行う。
【0082】
<8.CD型マイクロチップを用いた蛍光検出システムの性能評価>
図12は、
図3のCD型マイクロチップ内の1つのブロックに形成された5つの貯留部にそれぞれ濃度と体積を変化させて蛍光試薬を導入する条件(12A)と、当該条件下で蛍光検出システムの性能評価を行った結果(12B)とを示す。
【0083】
蛍光試薬であるレゾルフィンをモデル試薬として用い、有機EL13とCD型マイクロチップ2とを備える分析装置1を用いた蛍光検出システムの性能評価を行った。CD型マイクロチップ2の貯留部41(「No.1」という)、貯留部42(「No.2」という)、貯留部43(「No.3」という)、貯留部44(「No.4」という)および貯留部45(「No.5」という)に、濃度と体積の異なるレゾルフィン水溶液を導入した。具体的には、貯留部41には、濃度10μMのレゾルフィン水溶液を25μL導入し、貯留部42には、濃度20μMのレゾルフィン水溶液を20μL導入し、貯留部43には、濃度40μMのレゾルフィン水溶液を15μL導入し、貯留部44には、濃度80μMのレゾルフィン水溶液を10μL導入し、貯留部45には、濃度160μMのレゾルフィン水溶液を5μL導入した。各水溶液の導入後、CD型マイクロチップ2を回転させて濃度の異なるレゾルフィン水溶液を順次分析部46に導入した。その後、CD型マイクロチップ2の回転を停止し、有機EL13から半球レンズ15で集光した励起光を分析部46の中心に照射し、これによって生じた蛍光をCCDカメラで検出した。このとき、有機EL13の電流密度は21mA/cm
2、CCDカメラからの信号の積分時間は500msとした。その結果、レゾルフィン濃度と蛍光強度との関係をプロットしたグラフ(12B)は、回帰式y=134.24X+1333.5、相関係数R
2=0.993の良好な直線性を示した。これは、蛍光強度を測定することにより、レゾルフィンの濃度を一義的に特定できることを意味する。また、このシステムにおけるレゾルフィンの検出限界(S/N=3)は9.9μMと見積もられた。
【0084】
<9.イムノグロブリンAの蛍光検出方法>
図13は、
図1の分析装置を用いて、唾液に含まれるストレスマーカーと位置付けられるイムノグロブリンAの蛍光検出方法を説明するための図であり、検出機構(13A)と、各貯留部からの送液に従って変化する分析部の様子(13B)とを、それぞれ示す。
【0085】
(13A)は、有機EL13を用いた照光直前の分析部46内の状況、および基質溶液104中の基質と過酸化水素がHRPの存在下で反応し、蛍光物質が生成する反応式を示す。CD型マイクロチップ2の分析部46に、予め、抗イムノグロブリンA抗体(抗IgA抗体)100を吸着させ(13Bの(a))、次に、抗IgA抗体100の吸着していない部分にブロッキング試薬(以後、「BSA」という)101を吸着させ(13Bの(b))、その状態で、次に、イムノグロブリンA(IgA)102を分析部46に導入して、抗IgA抗体100とIgA102とを結合させ(13Bの(c))、次に、HRP標識抗IgA抗体103を分析部46に導入する(13Bの(d))。最後に、基質溶液104を分析部46に送液する(13Bの(e))。この結果、抗IgA抗体100にIgA102が結合し、その上にHRP標識抗IgA抗体103が結合し、その周囲に基質溶液104が存在する環境が分析部46内に形成される。かかる環境下では、(13A)の反応式に示すように、基質溶液104中の基質と過酸化水素がHRPの存在下で反応し、蛍光物質が生成する。有機EL13からの励起光を分析部46に照光すると、当該蛍光物質の存在に起因した蛍光が分析部46から発せられる。ここで、抗IgA抗体は、IgAに特異的に結合する抗体であり、この抗原抗体反応において、抗IgA抗体は抗体、IgAは抗原となる。
【0086】
<10.イムノグロブリンAの測定>
図14は、
図1の分析装置を用いたイムノグロブリンAの測定方法(14A)および測定結果(14B)をそれぞれ示す。
【0087】
以下の方法は、分析部46において抗原と抗体の特異的結合に基づく物質の検出に関連する。予め、分析部46の内壁に抗IgA抗体100を固定化し、BSA101でブロッキング処理を行った。この段階では、分析部46に、試料中の抗原と結合可能な抗体が少なくとも配置されていることになる。なお、BSA101を用いたブロッキング処理は、試料中に含まれる共存タンパク質の非特異的な吸着を防ぐために必要な処理であるが、必須の処理ではない。次に、CD型マイクロチップ2の貯留部41、貯留部42、貯留部43、貯留部44および貯留部45に、下記1)、2)、3)、4)および5)の液体を導入した。
1)0.1Mリン酸緩衝液(pH=7.4)で希釈した0〜1800ng/mLのIgA溶液(IgA102を含む溶液)25μL
2)Tris−HCl緩衝液(洗浄液110)20μL
3)Tris−HCl緩衝液で希釈した5μg/mLのHRP標識抗IgA抗体溶液(HRP標識抗IgA抗体103を含む溶液)15μL
4)Tris−HCl緩衝液(洗浄液110)10μL
5)0.1Mリン酸緩衝液(pH=7.4)で希釈した1mMH
2O
2を含む0.1mMのAmplex(登録商標)Red溶液(基質溶液104)5μL
【0088】
次に、CD型マイクロチップ2上にマイクロプレート用シーリングフィルム(1−6774−02、アズワン社製)を貼り付け、全ての貯留部41等を密閉した。次に、CD型マイクロチップ2を回転させ、その回転数を段階的に上げていくことにより、貯留部41等中の各溶液を、順次、分析部46に導入した。なお、IgA102を含む溶液とHRP標識抗IgA抗体103を含む溶液とを分析部46に導入した後については約10分間、また、基質溶液104を導入した後については約3分間、それぞれ、CD型マイクロチップ2を静置して抗原−抗体反応および酵素−基質反応のための反応時間を確保した。酵素−基質反応により生成した蛍光物質111(レゾルフィン)の蛍光強度は、有機EL13を備える分析装置1を用いて測定した。この際、有機EL13の電流密度は21mA/cm
2、受光部(CCDカメラ)16からの信号の積分時間は500msとした。
【0089】
上記蛍光強度の測定結果(14B)に示すように、IgA102の濃度が増加するに従って、蛍光強度が増加する検量線が得られることがわかった。このシステムにおけるIgAの検出限界(S/N=3)は、35.9ng/mLと見積もられた。ヒトの唾液中にはIgAが110〜220μg/mL程度含まれ、ストレスによりその濃度が上昇することが知られている。したがって、分析装置1,1a,1bによる分析システムを用いると、ヒトの客観的なストレス評価を行うことができると考えられる。
【0090】
96穴マイクロプレートを用いる従来から公知のELISA法では、試薬の添加、洗浄などの煩雑な操作が必要である。しかし、本実施の形態では、CD型マイクロチップ2に試料溶液をセットして回転させるだけで測定できるので、操作が非常に簡便になる。また、従来のELISA法では,抗IgAとIgAの反応に60分、IgAとHRP標識抗IgAの反応に60分、酵素反応に30分の計150分を要する。しかし、CD型マイクロチップ2を用いる方法では、抗IgAとIgAの反応に10分、IgAとHRP標識抗IgAの反応に10分、酵素反応に3分の計23分で測定可能であり、分析に要する時間を約6分の1 に短縮できた。また、有機EL13を用いる蛍光分析システムのサイズと重量は、それぞれ約200mm×275mm×100mmおよび1.9kgであり、市販のマイクロプレートリーダー(TECAN製,SPECTRA FLUOR,480mm×440mm×280mm,28kg)と比較して、大幅な小型化と軽量化を達成することができた。かかるシステムは、オンサイトでの環境計測、ベッドサイドでの医療検査を飛躍的に革新する可能性をもっているものと考えられる。