(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、カラオケ歌唱は高齢者の健康施設での機能回復を目指す治療にも効果的であることが注目されている。特に、高齢者の歌唱を促す意味で歌唱採点機能を備えるカラオケ装置での歌唱に対して高齢者の特性を加味した採点処理を行うことが望まれる。
【0003】
従来、カラオケ装置に関して、特に高齢者等に対処させたものとして、例えば特許文献1に記載されているようなカラオケ目次本の技術が開示されている。特許文献1には、施設現場において歌い易いおすすめの演奏テンポや歌唱キーがあることから、高齢者や脳障害や身体の機能障害などの治療が行えるカラオケ目次本として、カラオケ楽曲毎のおすすめの演奏テンポ表示部や歌唱キー表示部を印刷することが開示されている。
【0004】
一方、カラオケ装置で歌唱者の歌唱を分析して採点し、採点値を報知する技術が広く知られている。例えば、特許文献2には、歌唱音声信号のサンプリングデータと採点基準データとを採点対象区間を通して比較した結果に基づいた得点数値を含む得点データを生成するもので、その際に、採点基準データとして声量、音程、テンポなど複数の採点比較項目を規定して各比較項目について個別に得点を算出する技術が記載されている。また、特許文献3には、歌唱におけるロングトーン(安定した同一ピッチで長く歌唱すること)を検出して当該ロングトーン歌唱の影響を加えて評価するための技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高齢者は、一般的に心肺機能も衰えているもので、若い頃からカラオケを楽しんできた人であっても、年齢と共に肺活量も落ちていることから、歌唱採点機能を備えるカラオケ装置で歌唱しても声量の衰えによってそれだけで採点結果が悪くなるという事態を招き、これによって、特に高齢者の歌唱に対するモチベーションも低下させてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題に鑑みなされたもので、肺活量の低下した利用者に対しても肺活量要素を加味した歌唱採点をしてカラオケ歌唱の促進を図るカラオケ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明では、利用者の歌唱を採点する機能を備えるカラオケ装置であって、少なくとも、利用者の実測された肺活量を入力させる入力手段と、利用者によるカラオケ歌唱を採点する採点手段と、を有し、前記採点手段は、少なくとも、歌唱の音量レベルを検出して声量得点として評価する声量評価手段と、歌唱のロングトーンを検出してロングトーン得点として評価するロングトーン評価手段と、前記声量評価手段で評価された声量得点及び前記ロングトーン評価手段で評価されたロングトーン得点に対し、前記入力手段により入力された肺活量に基づいて上記声量得点及び上記ロングトーン得点を補正する補正手段と、前記補正手段で補正した声量補正得点及びロングトーン補正得点を加味した歌唱採点値を算出する採点演算手段とを備える構成とする。
【0009】
請求項2の発明では、前記補正手段は、前記入力手段により入力された肺活量と任意値の基準肺活量、又は、前記入力手段で利用者の属性としての性別及び身長を入力させて当該属性に基づいて算出した当該利用者の所定年齢時での予測肺活量とする基準肺活量との関係に応じて、前記声量得点と前記ロングトーン得点とを補正する構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少なくとも利用者の実測された肺活量を入力させる入力手段と、利用者によるカラオケ歌唱を採点する採点手段と、を有し、採点手段において、声量評価手段が歌唱の音量レベルを検出して声量得点として評価すると共に、ロングトーン評価手段が歌唱のロングトーンを検出してロングトーン得点として評価し、補正手段が、上記声量得点及びロングトーン得点に対し、上記入力された肺活量に基づいて、例えば当該肺活量と当該利用者の属性(例えば性別、身長)より、例えば属性に基づいて算出した当該利用者の所定年齢時での予測肺活量である基準肺活量又は性別や身長に無関係な任意値の基準肺活量との関係に応じて当該声量得点及び上記ロングトーン得点を補正し、採点演算手段が当該補正された声量補正得点及びロングトーン補正得点を加味した歌唱採点値を算出する構成とすることにより、歌唱採点処理において肺活量の低下した利用者に対しても肺活量要素を加味した歌唱採点とすることが可能となって、特に肺活量が低下した高齢者等に対するカラオケ歌唱の満足感を向上させ、カラオケ歌唱の促進を図ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図により説明する。
図1に、本発明に係るカラオケ装置のブロック構成図を示す。
図1(A)において、カラオケ装置11は、主要装置としてのカラオケ本体12に、有線又は無線で外部接続されるものとして、表示部13、ミキシングアンプ14、マイク15、スピーカ16、入力手段を含む遠隔入出力端末17が接続される。
【0013】
上記表示部13は、通常の楽曲選曲表示やカラオケ演奏時の背景映像等を表示するもので、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、その他種々のディスプレイを採用することができる。上記ミキシングアンプ14は、カラオケ本体12より送られてくる音楽演奏信号に、マイク15からの音声信号をミキシングし、増幅してスピーカ16より出力する。また、ミキシングアンプ14は、マイク15からの音声信号をスルーさせた出力端子が設けられ、当該出力端子は後述のカラオケ本体12のA/D変換部(29)に接続される。
【0014】
上記遠隔入出力端末17は、図示しない端末送受信部により、カラオケ本体12に対して有線方式ないし無線方式(IR方式やブルートゥース(登録商標)機構のピコネット接続方式など)を利用してデータ授受を行うためのもので、少なくとも選曲楽曲登録手段17Aを適宜備える。この選曲楽曲登録手段17Aは楽曲を検索させ、選曲させるテーブルを備えると共に、選曲画面上で選曲者(利用者)の属性を入力させるプログラムであり、選曲された楽曲は、後述のカラオケ本体12における予約待ち行列(41)に登録される。
【0015】
また、選曲画面上で利用者の属性(後述する)項目を有して、少なくとも利用者の実測された肺活量を入力させる入力手段とさせている。当該入力手段としては、この遠隔入出力装置17からではなく、図示しない操作パネルからの入力としてもよい。なお、選曲画面については
図2(A)で説明する。
【0016】
上記カラオケ本体12は、バス20、中央制御部21、ROM22、RAM23、映像表示制御手段24、音楽演奏制御部25、音源(シンセサイザ)26、送受信部27、採点手段28、A/D変換部29及び記憶部30を備える。上記RAM23には予約待ち行列41及び利用者情報42の記憶領域が形成され、記憶部30には、楽曲DB43及び映像DB44が記憶される。なお、上記各構成について、本発明の要旨と直接関連しない要素部分であっても、従前のカラオケシステムにおいても大部分が適用可能であることを示すために、構成要素の全体を説明する。
【0017】
上記中央制御部21は、このシステムを統括的に処理制御する物理的なCPUであり、ROM22に記憶されているプログラムに基づくアルゴリズム処理を行う。上記RAM23は、予約待ち行列41及び利用者情報42の記憶領域が形成される他に、上記種々のプログラムを展開、実行させるための作業領域としての役割をなすもので、例えば半導体メモリで構成され、仮想的にハードディスク上に構築される場合をも含む概念である。
【0018】
上記映像表示制御手段24は、演奏時に、映像DB44より抽出された背景映像及び楽曲DB43より抽出された楽曲の歌詞データを表示部13に出力するプログラム乃至電子回路である。上記音楽演奏制御部25は、例えばシーケンスプログラムを備え、楽曲コードで楽曲DB43より抽出された音符データに従って音源(シンセサイザ)26を駆動するもので、当該音源26の出力は演奏信号としてミキシングアンプ14に出力される。上記送受信部27は、遠隔入出力端末17との間で有線方式ないし無線方式(IR方式やブルートゥース(登録商標)機構のピコネット接続方式など)を利用してデータ授受を行うためのもので、そのための電子回路及びプログラムである。
【0019】
上記採点手段28は、マイク15からの音声信号がミキシングアンプ14をスルーしてA/D変換部29でデジタル変換された音声信号に対して楽曲データに含まれる歌唱採点するためのリファレンスデータに基づいてピッチ及び他要素の一例としての抑揚の採点処理を行うと共に、声量やロングトーンの評価を行い、また、当該声量やロングトーンの評価を補正して全体の採点演算を行うプログラムである。具体的には、
図1(B)に示すように、ピッチ評価手段51、声量評価手段52、ロングトーン評価手段53、他要素評価手段54、補正手段55及び採点演算手段56を適宜備える。これらの採点処理は、それぞれを所定の歌唱区間毎に採点し、各歌唱区間の採点結果を集計した得点となる。
【0020】
なお、採点手段28における声量得点やロングトーン得点の補正は、主に高齢者を対象とするもので、ここでの高齢者を例えば65歳以上とし、65歳未満の場合には当該補正処理は行われない。
【0021】
上記ピッチ評価手段51は、カラオケ歌唱の音声信号のピッチやテンポとリファレンスデータのピッチデータとを比較してピッチ得点として評価するプログラムであり、前述の特許文献2に記載されているように従前から知られている最も主要な採点要素である。上記声量評価手段52は、歌唱における音声信号の音量レベルを検出して声量得点として評価するプログラムである。上記ロングトーン評価手段53は、歌唱のロングトーンを検出し、リファレンスデータと比較によってロングトーン得点として評価するプログラムであり、例えば前述の特許文献3に記載されている手法を適用することができる。
【0022】
上記他要素評価手段54は、ここでは、例えば抑揚を採点評価要素とし、リファレンスデータとの比較で他要素得点(抑揚得点)として評価するプログラムであり、従前より知られている技術を適用することができる。なお、他要素として、他にビブラート、走り、ため、こぶし、しゃくり、フォール、シャウトなどの歌唱技法データがある。
【0023】
上記補正手段55は、声量評価手段52で評価された声量得点及びロングトーン評価手段53で評価されたロングトーン得点に対し、遠隔入出力装置17より入力された肺活量に基づいて声量得点及びロングトーン得点を補正するプログラムである。具体的には、遠隔入出力装置17より入力された肺活量と当該利用者の属性より算出した基準肺活量との関係に応じて、声量得点とロングトーン得点とを補正するものであり、より具体的には、遠隔入出力装置17で利用者の属性としての性別、身長及び年齢を入力させ、基準肺活量を、当該属性に基づいて算出した当該利用者の所定年齢時での予測肺活量とするものである。
【0024】
ここで、基準肺活量(予測肺活量)について簡単に説明すると、予測肺活量は以下の式によって計算する(奈良信雄著『看護師のための検査値・数式事典』(2009年、秀和システム)p.294)。なお、本発明においては、一例として年齢30歳のときの予測肺活量を用いることとしている。これは、本人が若くて元気だった頃の肺活量を予測し、現在の実測された肺活量との比に基づいて、声量得点及びロングトーン得点を補正するためである。
男性:予測肺活量(mL)=(27.63−0.112×年齢)×身長
女性:予測肺活量(mL)=(21.78−0.101×年齢)×身長
【0025】
また、上記補正手段55の補正処理で使用される補正係数を算出するための補正値を、例えば、声量得点に対しては2倍とし、ロングトーン得点に対しては3倍としている。これは、適宜設定できるものであるが、本実施形態では、肺活量の衰えは声の大きさよりも息継ぎなく長く発声する方により影響するであろうとの観点に基づいている。また、当該採点要素の最高点を考慮して決定される。これらの詳細は
図3で説明する。
【0026】
上記採点演算手段56は、補正手段で補正した声量補正得点及びロングトーン補正得点を、ピッチ得点、抑揚得点に加味した全体の歌唱採点値を算出して、映像表示制御手段24に送出して表示部13で表示させるプログラムである。
【0027】
図1(A)に戻り、上記記憶部30に記憶されている楽曲DB43は、楽曲毎に、音符データ、歌詞データ、歌唱採点のためのリファレンスデータなどを格納する。演奏に関して、具体的には、楽曲ID、曲名及びアーチストID(アーチスト名)が関連付けられた楽曲テーブルを有し、楽曲毎に、楽曲IDで管理される所定データ形式のカラオケ楽曲の音符データ(例えば、MIDI(登録商標)形式の音符データ)等で構成される楽曲データ(ファイル)について楽曲コードをファイル名としてそれぞれ格納したデータベースである。上記記憶部30に記憶されている映像DB44は、楽曲毎に応じた背景映像データについて楽曲コードをファイル名としてそれぞれ格納したデータベースである。
【0028】
ここで、
図2に、
図1の楽曲予約の説明図を示す。
図2(A)は、遠隔入出力端末17の楽曲選曲に際しての画面を一例として示したもので、曲名などの他にキー設定やテンポ設定を可能とすると共に、利用者(選曲者)の属性、一例として年齢、性別、身長、当該利用者の実測された肺活量を入力する項目が設けられ、本発明における肺活量を加味した歌唱採点をさせるものとして当該入力を条件とする。
【0029】
カラオケ本体12では、送受信部27において、遠隔入出力端末17からの上記利用者の属性情報を含む選曲情報信号を受信することにより、当該選曲楽曲をRAM23の予約待ち行列41に順番に記憶する。また、
図2(B)に示すように、RAM23の利用者情報42に、利用者の上記属性情報(年齢、性別、身長、肺活量)を当該予約楽曲IDに関連付けて記憶する。この予約楽曲が演奏されるときに、採点手段28が利用者情報42を参照して採点処理を実行するものである。
【0030】
そこで、
図3に、
図1における採点手段の採点処理の説明図を示す。まず、採点手段28は、演奏楽曲の対応する利用者(選曲者)を、利用者情報42を参照して年齢が高齢者(例えば65歳以上)と特定した場合には補正手段55による補正処理を行い、高齢者でなければ(65歳未満)補正処理は行われない(
図3(A)の破線)。ここでは、利用者(選曲者)が利用者情報42において70歳であるとして補正処理を行うものとし、また、予約楽曲が演奏されて終了した時点(所定の歌唱区間毎の採点処理については説明を省略する)のものとして説明する。
【0031】
図3(A)において、ピッチ評価手段51によるピッチ得点が採点処理演算手段56に入力され、他要素(抑揚)評価手段54による抑揚得点が採点処理演算手段56に入力される。一方、声量評価手段52による声量得点が補正手段55に入力され、ロングトーン評価手段53によるロングトーン得点が採点処理演算手段56に入力される。
【0032】
ここで、歌唱採点の結果点数は、100点を最高点として、その振り分けは、一例として、
図3(B)に示すように、ピッチ最高得点を40点、声量最高得点を20点、ロングトーン最高得点を20点、抑揚最高得点を20としている。従って、補正手段55による声量得点及びロングトーン得点の補正後の得点は上記最高得点を超えない範囲で、すなわち上記したように補正処理で使用される補正係数を算出するための補正値を、一例として声量得点に対しては2倍とし、ロングトーン得点に対しては3倍としている。
【0033】
そこで、
図3(C)に示すように、声量評価手段52による実際の声量得点が6.0点であり、ロングトーン評価手段53による実際のロングトーン得点が3.5点であるとし、ピッチ得点は30.0点、抑揚得点は8.0点とする。
【0034】
補正手段55は、まず、利用者(歌唱者)の基準肺活量を算出する。当該基準肺活量は、この70歳の利用者が30歳のときの予測肺活量としている。このときの基準肺活量は、上記男性の予測肺活量算出式を用いて、
基準肺活量=(27.63−0.112×30)×170.0
=4,125.9(mL)
となる。
【0035】
この基準肺活量を用いた声量補正係数は(入力された実測の肺活量2,750mL)、
声量補正係数=(4,125.9/2,750)×2
≒3.0
となり、声量得点の補正した得点は、
声量補正得点=6.0×3.0
=18.0
となる。
【0036】
また、基準肺活量を用いたロングトーン補正係数は(入力された実測の肺活量2,750mL)、
ロングトーン補正係数=(4,125.9/2,750)×3
≒4.5
となり、ロングトーン得点の補正した得点は、
ロングトーン補正得点=3.5×4.5
=15.75
となる。
【0037】
従って、ピッチ得点、声量得点、ロングトーン得点、抑揚得点の合計点は、補正前では47.5点であるところの、声量及びロングトーンの補正後では71.5点となるものである。
【0038】
このように、歌唱採点処理において肺活量の低下した利用者に対しても肺活量要素を加味した歌唱採点とすることが可能となって、特に肺活量が低下した高齢者等に対するカラオケ歌唱の満足感を向上させ、カラオケ歌唱の促進を図ることができるものである。なお、本実施形態では基準肺活量として利用者本人の若い頃の予測肺活量を用いたが、より構成を簡単にするために、性別や身長に関係なく3,500mLなどの固定した数値を用いてもよい。
【0039】
また、利用者の現在の実測された肺活量と基準肺活量との比較には、比ではなく差や、その他の関数式や予め準備された比較テーブルを用いてもよい。さらに、本実施形態では声量得点及びロングトーン得点を補正したが、ビブラートなどその他の抑揚表現の得点を補正するよう構成してもよい。さらにまた、息継ぎの回数やタイミングに基づく採点機能がある場合には、それらの点数を補正するよう構成してもよい。