(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184427
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】アンカーボルトと金属プレートとの固定構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
E01D19/04
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-8294(P2015-8294)
(22)【出願日】2015年1月20日
(65)【公開番号】特開2016-132927(P2016-132927A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】509199007
【氏名又は名称】株式会社川金コアテック
(73)【特許権者】
【識別番号】592173124
【氏名又は名称】日本ファブテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 禎史
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 吉政
(72)【発明者】
【氏名】三輪 拓也
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−246418(JP,A)
【文献】
特開2005−330788(JP,A)
【文献】
特開2010−275779(JP,A)
【文献】
特開2007−291760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00〜 24/00
E02D 27/00〜 27/52
E04H 9/00〜 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋設された複数本のアンカーボルトと、前記コンクリート構造物の表面に設置される金属プレートとの固定構造であって、
内周に形成された雌ねじ部の一方の半部に前記アンカーボルトの先端部がねじ込まれ、前記コンクリート構造物に埋め込まれる筒状のカプラーと、
前記コンクリート構造物側に向けて径が漸減するように前記金属プレートを貫通して設けられたテーパー孔に嵌合され、該テーパー孔の内周に適合した外周テーパ面を有するとともに、前記金属プレートの表面側端部内周に拡径した段付き部を有するテーパーリングと、
前記テーパーリングの内方に嵌合されて先端部が前記雌ねじ部の他方の半部にねじ込まれ、後端部に前記段付き部に係合するフランジを有するフランジ付きボルトと
を備えてなることを特徴とするアンカーボルトと金属プレートとの固定構造。
【請求項2】
前記テーパーリングの内周と前記フランジ付きボルトの外周との間に、内径中心と外径中心とが偏心した偏心リングが嵌合されていることを特徴とする請求項1記載のアンカーボルトと金属プレートとの固定構造。
【請求項3】
前記コンクリート構造物は橋梁における下部構造であり、前記金属プレートは上下部構造間に支承を設置するためのベースプレートであることを特徴とする請求項1又は2記載のアンカーボルトと金属プレートとの固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンカーボルトと金属プレートとの固定構造に関し、より詳細には、例えば、橋梁において下部構造に埋め込まれたアンカーボルトと、上下部構造間に設置される支承を取り付けるためのベースプレートとの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁において上下部構造間に設置される支承は、その下沓が下部構造に設置されたベースプレート上に載置・固定されている。そして、ベースプレートは下部構造に埋め込まれたアンカーボルトに固定されている。
【0003】
従来、ベースプレートは支承の下沓から四周に張り出すように、下沓よりも大きく作られている。そして、このベースプレートの張出部からアンカーボルトの上端部が貫通突出し、突出部分にナットを取り付けることによりベースプレートがアンカーボルトに固定されている。したがって、ベースプレートはナットを取り外すことにより簡単に取り替えることができる。
【0004】
しかしながら、上記のようなベースプレートの固定構造は、支承の設置スペースが大きくなり、またベースプレートも大きいのでコスト高となる。そこで、これを回避するためにベースプレートの大きさを下沓とほぼ同じ大きさとして、張出部の無いコンパクトなものとした固定構造も知られている。この場合、アンカーボルトの上端部はベースプレートに設けたねじ孔に、ベースプレートの表面から突出しないように取り付けられる。しかしながら、このような固定構造だと、ベースプレートの取り替え時には、アンカーボルト周囲のコンクリートを斫らなければならず、取り替えが簡単ではない。
【0005】
このようなことから、上記コンパクト化を図ったベースプレートの固定構造において、ベースプレートを簡単に取り替えることができるようにした技術が提案されている(特許文献1参照)。この固定構造は、ベースプレートに設けた貫通孔にフランジ付きナットを嵌め込み、このナットにアンカーボルトの上端部を螺着したものである。この固定構造によれば、治具を用いてナットを回転させることにより、ナットがアンカーボルトから離脱するので、ベースプレートを容易に取り替えることができる。
【0006】
しかしながら、この従来のものに関しては、次のような問題点を指摘することができる。すなわち、アンカーボルトに螺着されるナットは外周が直円筒形なので、製作誤差等によって貫通孔の内周との間にガタが生じやすい。その結果、複数本あるアンカーボルトとベースプレートとの間での力の伝達が不均一となり、支承に上揚力が作用したときベースプレートが変形するおそれがある。また、取り替え時に、新たなベースプレートの貫通孔と既存のアンカーボルトの芯がずれていると、ナットをアンカーボルトに螺着することができず、ベースプレートの取付けが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−275779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、複数本あるアンカーボルトと金属プレートとの間での力の伝達を均一にすることができ、金属プレートの変形を防止することができる固定構造を提供することにある。
この発明の別の目的は、取り替えに供される新たな金属プレートの孔と既存のアンカーボルトとの芯にずれがあったとしても、金属プレートをアンカーボルトに固定することができる固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、コンクリート構造物に埋設された複数本のアンカーボルトと、前記コンクリート構造物の表面に設置される金属プレートとの固定構造であって、
内周に形成された雌ねじ部の一方の半部に前記アンカーボルトの先端部がねじ込まれ、前記コンクリート構造物に埋め込まれる筒状のカプラーと、
前記コンクリート構造物側に向けて径が漸減するように前記金属プレートを貫通して設けられたテーパー孔に嵌合され、該テーパー孔の内周に適合した外周テーパ面を有するとともに、前記金属プレートの表面側端部内周に拡径した段付き部を有するテーパーリングと、
前記テーパーリングの内方に嵌合されて先端部が前記雌ねじ部の他方の半部にねじ込まれ、後端部に前記段付き部に係合するフランジを有するフランジ付きボルトと
を備えてなることを特徴とするアンカーボルトと金属プレートとの固定構造にある。
【0010】
上記固定構造において、前記テーパーリングの内周と前記ボルトの外周との間に、内径中心と外径中心とが偏心した偏心リングが嵌合されている構成を採用することができる。
【0011】
上記固定構造において、例えば、前記コンクリート構造物は橋梁における下部構造であり、前記金属プレートは上下部構造間に支承を設置するためのベースプレートである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、複数本あるアンカーボルトと金属プレートとの間での力の伝達を均一にすることができ、金属プレートの変形を防止することができる。
また、この発明によれば、取り替えに供される新たな金属プレートの孔と既存のアンカーボルトとの芯にずれがあったとしても、金属プレートをアンカーボルトに固定することができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明による固定構造が適用される橋梁における支承の設置状態を示し、橋軸方向にみた部分断面図である。
【
図2】この発明による固定構造の実施形態を示す断面図である。
【
図4】フランジ付きボルトの取付け・取り外しに用いる治具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、この発明による固定構造が適用される橋梁における支承の設置状態を示し、橋軸方向にみた部分断面図である。支承としてはゴム支承50が示されている。ゴム支承50は上部構造51である桁(図示の例は鋼桁)と、下部構造52であるコンクリート製の橋脚(又は橋台)との間に設置される。
【0015】
ゴム支承50は周知のものであって、上沓53、下沓54及び上下沓53,54間に配置されるゴム沓55とを備えている。ゴム沓55は厚肉の上下部鋼板56,57と、これらの間に交互に積層して配置されるゴム層58及び薄肉の内部鋼板59とからなっている。上部鋼板56は上沓53に,また下部鋼板57は下沓54に複数のボルト60によりそれぞれ固定されている。
【0016】
上部構造51の下面にはソールプレート61が溶接等により固定されている。このソールプレート61には中央部にせん断キー62の嵌合孔63が設けられ、この嵌合孔63には上沓53に取り付けられたせん断キー62の上端部が嵌合している。このせん断キー62が嵌合した状態で、上沓53は複数のセットボルト64により上部構造51(鋼桁のフランジ)に固定される。
【0017】
また、下沓54には中央部にせん断キー65の嵌合孔66が設けられ、この嵌合孔66にゴム沓55の下部鋼板57に取り付けられたせん断キー65が嵌合している。下沓54は、下部構造52の上面に設置された下沓54とほぼ同じ大きさのベースプレート1に複数のボルト67により固定されている。このベースプレート1は、下部構造52に埋め込まれた複数本のアンカーボルト2に固定されている。なお、上述の上沓53,下沓54、ソールプレート61及びベースプレート1等はいずれも鋼製で矩形のものである。
【0018】
図2,
図3はアンカーボルト2とベースプレート1との固定構造を示し、
図2は断面図、
図3は平面図である。固定構造は、筒状のカプラー3と、テーパ−リング4と、フランジ付きボルト5と、偏心リング12とを備える。
【0019】
カプラー3は、その上端面が下部構造52の上面とほぼ面一となるように下部構造52に埋め込まれる。カプラー3の内周には雌ねじ部6が形成されている。カプラー3の下半部にアンカーボルト2の上端部に形成した雄ねじ部7がねじ込まれている。アンカーボルト2は下部構造52のコンクリート施工時にカプラー3を装着した状態で、下部構造52に埋め込まれる。
【0020】
ベースプレート1には下部構造52側に向けて径が漸減するテーパー孔8が、ベースプレート1を貫通して設けられている。このテーパー孔8にテーパーリング4が嵌合され、テーパーリング4はテーパー孔8の内周に適合する外周テーパー面4aを有している。このテーパーリング4は、テーパー孔8に嵌合した状態で、その上端面がベースプレート1の表面とほぼ面一となる。テーパーリング4には上端部内周(ベースプレート1の表面側端部内周)に拡径した段付き部9が形成されている。
【0021】
フランジ付きボルト5は、先端部に雄ねじ部10を有し、後端部にフランジ11を有している。このフランジ付きボルト5はテーパーリング4の内方に嵌合され、その先端部10がカプラー3の上半部にねじ込まれる。このフランジ付きボルト5をカプラー3にねじ込んだ状態で、フランジ11がテーパーリング4の段付き部9に係合し、フランジ11の上端面とテーパーリング4の上端面とが面一となる。
【0022】
偏心リング12は、フランジ付きボルト5の軸部外周とテーパーリング4の内周との間には嵌合されている。この偏心リング12は、
図3に示すように、その内径中心と外径中心とがδだけ偏心している。
【0023】
図4はフランジ付きボルト5をカプラー3にねじ込む、あるいはカプラー3から取り外すときに使用する治具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。治具20は六角ナット21の下端にフランジ22を溶接等により固着して形成される。フランジ22の下面には複数の突起23(図示例では4つ)が設けられている。一方、フランジ付きボルト5のフランジ11の上面には突起23に対応して複数の凹部24が設けられている(
図2,
図3参照)。フランジ付きボルト5の取付け・取り外し時には、治具20の突起23をフランジ11の凹部24に嵌め込み、ナット21にレンチを掛けてボルト5を回転させる。
【0024】
上記のような固定構造によれば、フランジ付きボルト5をカプラー3にねじ込むと、フランジ11がテーパーリング4を下方に押し付ける。その結果、テーパーリング4はクサビ作用により外周テーパー面4aがテーパー孔8の内周に押し付けられ、ベースプレート1に密着する。これにより、複数本あるアンカーボルト2とベースプレート1との間での力の伝達を均一にすることができ、ベースプレート1の変形を防止することができる。
【0025】
ベースプレート1の取り替え時には、
図1に示したボルト64及びボルト67を取り外し、上部構造51をジャッキアップして、ゴム支承50をソールプレート61及びベースプレート1間から水平方向に引き出す。これによりベースプレート1が露出する。そして、フランジ付きボルト5を取り外して既存のベースプレート1を撤去し、新たなベースプレート1をテーパーリング4及びフランジ付きボルト5を用いて、カプラー3を介して既存のアンカーボルト2に固定する。
【0026】
このとき、ベースプレート1に複数設けられるテーパー孔8の加工誤差により、テーパーリング4の内径中心とカプラー3の内径中心(アンカーボルト2の芯)とが偏心してしまうおそれがある。しかしながら、この発明ではフランジ付きボルト5の外周とテーパーリング4の内周との間に偏心リング12が嵌合されるので、この偏心リング12を適宜回転させることにより偏心リング12の内径中心をカプラー3の内径中心と一致させることができる。すなわち、フランジ付きボルト5を偏心リング12を通してカプラー3にねじ込むことができる。
【0027】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、この発明を橋梁において支承を設置するためのベースプレートとアンカーボルトとの固定構造に適用したが、これに限るものではなく、この発明はコンクリート構造物に埋め込まれたアンカーボルトとコンクリート構造物の表面に設置される金属プレートとの固定構造一般に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1:ベースプレート
2:アンカーボルト
3:カプラー
4:テーパーリング
5:フランジ付きボルト
6:雌ねじ部
8:テーパー孔
9:段付き部
11:フランジ
12:偏心リング