特許第6184463号(P6184463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184463免疫グロブリンに親和性を有するタンパク質および免疫グロブリン結合性アフィニティーリガンド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184463
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】免疫グロブリンに親和性を有するタンパク質および免疫グロブリン結合性アフィニティーリガンド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170814BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20170814BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20170814BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20170814BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C07K14/195ZNA
   C12N1/21
   C12P21/02 C
   C07K1/22
【請求項の数】25
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-216735(P2015-216735)
(22)【出願日】2015年11月4日
(62)【分割の表示】特願2011-506069(P2011-506069)の分割
【原出願日】2010年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-25872(P2016-25872A)
(43)【公開日】2016年2月12日
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-71766(P2009-71766)
(32)【優先日】2009年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】村田 大
(72)【発明者】
【氏名】高野 昌行
(72)【発明者】
【氏名】赤木 隼也
(72)【発明者】
【氏名】井口 恵太
(72)【発明者】
【氏名】中野 喜之
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−075175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 14/195
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5に記載のプロテインAのCドメインに由来するアミノ酸配列において、
Cドメインの29位に対応するGlyを、Val、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Asp、Glu、His、Met、Cys、Asn、およびGlnからなる群から選択されるアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有し、
配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上のアミノ酸の配列同一性を示し、かつ、
該GlyをAlaに置換したアミノ酸配列を有するタンパク質に比べて、免疫グロブリンのFab領域に対する親和性が低下していること
を特徴とする、免疫グロブリンに親和性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記Cドメインの29位に対応するGlyを、Ile、Phe、Tyr、Trp、Glu、およびMetからなる群から選択されるアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する、請求項に記載のタンパク質。
【請求項3】
変異導入前のアミノ酸配列が、配列番号5に記載のアミノ酸配列である、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
変異導入前のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較してアルカリ性条件下での化学的安定性が向上していることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項5】
変異導入後のアミノ酸配列が、配列番号6〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のタンパク質を2個以上連結した、複数ドメインからなるタンパク質。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の、種類の異なるタンパク質を2種類以上連結した、複数ドメインからなるタンパク質。
【請求項8】
ドメインの数が2〜5個である、請求項またはに記載の複数ドメインからなるタンパク質。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のタンパク質、または、請求項のいずれか1項に記載の複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項10】
連結されているドメインを構成する塩基配列の配列同一性が90%以下であることを特徴とする、請求項に記載のDNA。
【請求項11】
請求項または10に記載のDNAを含むベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターを宿主に形質転換して得られる形質転換体。
【請求項13】
宿主がグラム陽性菌であることを特徴とする、請求項12に記載の形質転換体。
【請求項14】
グラム陽性菌がブレビバチルス属細菌であることを特徴とする、請求項13に記載の形質転換体。
【請求項15】
ブレビバチルス属細菌がブレビバチルス・チョウシネンシスであることを特徴とする、請求項14に記載の形質転換体。
【請求項16】
請求項1215のいずれか1項に記載の形質転換体、または、請求項または10に記載のDNAを用いた無細胞タンパク質合成系を用いる、請求項1〜のいずれか1項に記載のタンパク質、または、請求項のいずれか1項に記載の複数ドメインからなるタンパク質の製造方法。
【請求項17】
形質転換体の細胞内及び/又はペリプラズム領域内にタンパク質を蓄積すること、及び/又は、形質転換体の細胞外にタンパク質を分泌することを特徴とする、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜のいずれか1項に記載のタンパク質、または、請求項のいずれか1項に記載の複数ドメインからなるタンパク質をアフィニティーリガンドとして、水不溶性の基材からなる担体に固定化したことを特徴とする、アフィニティー分離マトリックス。
【請求項19】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に結合することを特徴とする、請求項18に記載のアフィニティー分離マトリックス。
【請求項20】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質が、抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体のいずれかである、請求項19に記載のアフィニティー分離マトリックス。
【請求項21】
抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体が、IgG、および、IgG誘導体のいずれかである、請求項20に記載のアフィニティー分離マトリックス。
【請求項22】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の分離における、請求項1821のいずれか1項に記載のアフィニティー分離マトリックスの使用。
【請求項23】
請求項1821のいずれか1項に記載のアフィニティー分離マトリックスを用いる免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の精製方法。
【請求項24】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質が、抗体、抗体誘導体、断片抗体、および断片抗体誘導体からなる群から選択されるいずれかである、請求項23に記載の精製方法。
【請求項25】
抗体、抗体誘導体、断片抗体、および断片抗体誘導体が、IgG、またはIgG誘導体である、請求項24に記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体に特異的に結合するタンパク質、および、該タンパク質を免疫グロブリン結合性アフィニティーリガンドとするアフィニティー分離マトリックス、および、該マトリックスを用いて抗体を分離精製または吸着除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、抗原と呼ばれる物質に特異的に結合する機能、および、他の生体分子や細胞と協同して抗原を有する因子を無毒化・除去する機能を有する。抗体という名は、このような抗原に結合するという機能を重視した名前であり、物質としては「免疫グロブリン」と呼ばれる。
【0003】
近年、遺伝子工学、タンパク質工学、および、細胞工学の発展に伴い、抗体医薬と呼ばれる、抗体の有する機能を利用した医薬品の開発が盛んに行われている。抗体医薬は、従来の医薬と比べて、標的分子に対してより特異的に働くために、副作用をより軽減させ、かつ、高い治療効果が得られることが期待されており、実際に様々な病態の改善に寄与している。
【0004】
一方、抗体医薬は、生体に大量に投与されることから、他の組換えタンパク質医薬品と比べた場合に、その純度が品質に与える影響は大きいと言われている。よって、純度の高い抗体を製造するために、抗体に対して特異的に結合する分子をリガンドとする吸着材料を利用する、アフィニティークロマトグラフィー等の手法が一般的に用いられている。
【0005】
抗体医薬として開発されているのは、基本的にモノクローナルIgG抗体であり、組換え培養細胞技術等を用いて大量に生産され、IgG抗体にアフィニティーを有するタンパク質を利用して精製されている。IgG抗体にアフィニティーを有する免疫グロブリン結合性タンパク質として、プロテインAがよく知られている。プロテインAは、グラム陽性細菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)によって生産される細胞壁タンパク質の1種であり、シグナル配列S、5つの免疫グロブリン結合性ドメイン(Eドメイン、Dドメイン、Aドメイン、Bドメイン、Cドメイン)、および、細胞壁結合ドメインであるXM領域から構成されている(非特許文献1)。抗体医薬製造工程における初期精製工程(キャプチャー工程)には、プロテインAがリガンドとして水不溶性担体に固定化された、アフィニティークロマトグラフィー用カラム(以下、プロテインAカラム)が一般的に利用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
プロテインAカラムの性能を改良するために、様々な技術開発がなされてきた。リガンドの側面からの技術開発も進んでいる。最初は天然型のプロテインAがリガンドとして利用されてきたが、タンパク質工学的に改変を加えた組み換えプロテインAをリガンドとして、カラムの性能を改良する技術も多数見られるようになった。
【0007】
代表的な組み換えプロテインAとしては、免疫グロブリン結合活性がないXM領域を除去した組み換えプロテインAが挙げられる(rProtein A Sepharose(商標)、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)。XM領域を除去した組み換えプロテインAをリガンドとしたカラムは、従来品よりもタンパク質の非特異吸着が抑えられるという利点があり、現在、工業的にも広く使用されている。
【0008】
その他に、プロテインAに1個のCysを変異導入した組み換えプロテインA(特許文献1)、または、複数のLysを変異導入した組み換えプロテインA(特許文献2)をリガンドとして利用する発明がある。これらの変異を導入して得られるプロテインAは、水不溶性担体への固定化において効果を示し、抗体のカラムへの結合容量や固定化リガンドのリーク低減で利点を有する。
【0009】
改変を加えた組み換えプロテインAとして、Bドメインに変異を導入した改変ドメイン(Zドメインと呼ばれる)をリガンドに利用する技術もよく知られている(特許文献3、非特許文献1、非特許文献4)。Zドメインは、Bドメインに対して、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入した改変ドメインである。なお、Zドメインでは、Bドメイン1位のAlaをValに置換する変異も同時に導入されているが、これは、遺伝子工学的に複数のドメインを連結したコード遺伝子を作製し易くすることを目的とした変異で、ドメインの機能に対して影響は及ぼさない(例えば、特許文献4には、Zドメイン1位のValをAlaに置換した変異体を用いた実施例がある)。
【0010】
Zドメインは、Bドメインよりもアルカリ耐性が高いことが知られており、アルカリ洗浄による繰返し使用に利点を有する。Zドメインをベースとして、Asnを他のアミノ酸に置換することによって更なるアルカリ耐性を付与したリガンドが発明され(特許文献5、特許文献6)、工業的使用も開始されている。
【0011】
Zドメインのもう1つの特徴としては、免疫グロブリンのFab領域への結合能が弱くなっていることが挙げられる(非特許文献5)。この特徴によって、結合した抗体を酸で解離する工程において、抗体が解離され易いという利点がある(非特許文献1、特許文献7)。
【0012】
Bドメインに由来するZドメインの他に、アルカリ耐性の高い改変プロテインA・リガンドとして、プロテインAのCドメインをベースとした研究が進められている(特許文献4)。これらのリガンドは、野生型Cドメインが本来有しているアルカリ耐性の高さを生かすことを特徴としており、Zドメインに代わる新しいベース・ドメインとして注目されている。しかし、我々がCドメインに関して検証した結果、Cドメインに結合した抗体を酸で解離する工程において、抗体が解離されにくいという欠点があることが判明した。非特許文献2や特許文献4において、Cドメインが免疫グロブリンのFab領域への結合能が強いことが示されており、この特徴が、抗体が酸で解離されにくい原因となっていると推測された。この欠点を改善するために、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入したCドメインを用いて、抗体酸解離特性を検証したところ、野生型のCドメインに比べれば改善が見られたが、まだ不十分であった。タンパク質レベルでの分子間相互作用解析の結果、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入したCドメインでは、免疫グロブリンのFab領域への結合能の低下が十分でないことが原因であることが分かった。
【0013】
このように、プロテインAの免疫グロブリン結合性ドメイン(E、D、A、B、および、Cドメイン)に対して、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入することの有用性は広く認知されている。実際に、1987年にこの「G29A」の変異が公開されてから、後に開発された改変プロテインAに関する先行技術においても、この「G29A」の変異が導入されている(特許文献2、特許文献4、特許文献6)。
【0014】
しかしながら、プロテインAの免疫グロブリン結合性ドメインの29位における公知の変異は29位のGlyをAlaに置換する「G29A」のみであり、この部位に対するAla以外のアミノ酸残基を導入する変異を示唆するものは知られていなかった。G29Aは、立体構造上の変化を最小にするべく、Glyの次に側鎖の小さいAlaが最も適していると考えて導入した変異であり、これまで、さらに大きな側鎖を有しているアミノ酸への置換は考慮されていなかった(非特許文献4)。したがって、立体構造上の変化がより大きくなり、本来の機能(免疫グロブリンへの結合能など)を損なう可能性のある、29位のGlyに対して、Alaよりも側鎖の大きなアミノ酸へ置換する変異が、Alaに置換する変異よりも優れた効果を示すかどうかは不明であった。29位のGlyをAlaに置換する変異が1987年に公開された(非特許文献4)にもかかわらず、今日までAla以外のアミノ酸に置換する変異が導入されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6399750号公報
【特許文献2】特開2007−252368号公報
【特許文献3】米国特許第5143844号公報
【特許文献4】特開2006−304633号公報
【特許文献5】欧州特許第1123389号公報
【特許文献6】国際公開第03/080655号公報
【特許文献7】米国公開第2006/0194950号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Hober S. 他 著、「J. Chromatogr. B」2007年、848巻、40−47頁
【非特許文献2】Low D. 他 著、「J. Chromatogr. B」、2007年、848巻、48−63頁
【非特許文献3】Roque A.C.A. 他 著、「J. Chromatogr. A」、2007年、1160巻、44−55頁
【非特許文献4】Nilsson B. 他 著、「Protein Engineering」、1987年、1巻、107−113頁
【非特許文献5】Jansson B. 他 著、「FEMS Immunology and Medical Microbiology」、1998年、20巻、69−78頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
既存の改変型プロテインAリガンドよりも優れた抗体酸解離特性を有する新規改変プロテインAリガンドを創出する改変技術の開発が、本発明が解決しようとする課題である。さらに、高いアルカリ耐性を有する新規改変プロテインAリガンドを創出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、数多くの組み換えプロテインA変異体を分子設計し、タンパク質工学的手法および遺伝子工学的手法を用いて、該変異体を、形質転換体から取得し、取得した該変異体の物性を比較検討することにより、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかのドメインに由来するアミノ酸配列において、1以上のGlyをAla以外のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有し、かつ、該GlyをAlaに置換したアミノ酸配列を有するタンパク質に比べて、免疫グロブリンのFab領域に対する親和性が低下していることを特徴とする、免疫グロブリンに親和性を有するタンパク質に関する。
【0020】
前記Glyが、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインで保存されているCドメインの29位に対応するGlyであることが好ましい。
【0021】
前記Cドメインの29位に対応するGlyが、Eドメインの27位のGly、Dドメインの32位のGly、Aドメインの29位のGly、Bドメインの29位のGly、および、Cドメインの29位のGlyであることが好ましい。
【0022】
前記Ala以外のアミノ酸が、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Asp、Glu、Arg、His、Lys、Met、Cys、Asn、Glnのいずれかのアミノ酸であることが好ましい。
【0023】
前記Ala以外のアミノ酸が、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Glu、Arg、Metのいずれかのアミノ酸であることが好ましい。
【0024】
前記変異導入前のアミノ酸配列が、配列番号5に記載のアミノ酸配列であることが好ましい。
【0025】
前記変異導入前のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較してアルカリ性条件下での化学的安定性が向上していることを特徴とすることが好ましい。
【0026】
前記変異導入後のアミノ酸配列が、配列番号6〜18に記載のアミノ酸配列であることが好ましい。
【0027】
本発明は、また、前記タンパク質を2個以上連結した、複数ドメインからなるタンパク質に関する。
【0028】
本発明は、また、前記の種類の異なるタンパク質を2種類以上連結した、複数ドメインからなるタンパク質に関する。
【0029】
前記タンパク質において、ドメインの数が2〜5個であることが好ましい。
【0030】
本発明は、また、前記タンパク質、または、前記複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNAに関する。
【0031】
前記DNAにおいて、連結されているドメインを構成する塩基配列の配列同一性が90%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明は、また、前記DNAを含むベクターに関する。
【0033】
本発明は、また、前記ベクターを宿主に形質転換して得られる形質転換体に関する。
【0034】
前記宿主はグラム陽性菌であることが好ましい。
【0035】
前記グラム陽性菌がブレビバチルス属細菌であることが好ましい。
【0036】
前記ブレビバチルス属細菌がブレビバチルス・チョウシネンシスであることが好ましい。
【0037】
本発明は、また、前記形質転換体、または、DNAを用いた無細胞タンパク質合成系を用いる、前記タンパク質、または、複数ドメインからなるタンパク質の製造方法に関する。
【0038】
前記製造方法において、形質転換体の細胞内および/またはペリプラズム領域内にタンパク質を蓄積すること、および/または、形質転換体の細胞外にタンパク質を分泌することが好ましい。
【0039】
本発明は、また、前記タンパク質、または、複数ドメインからなるタンパク質をアフィニティーリガンドとして、水不溶性の基材からなる担体に固定化したことを特徴とする、アフィニティー分離マトリックスに関する。
【0040】
前記アフィニティー分離マトリックスは、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に結合することが好ましい。
【0041】
前記免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質が、抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体のいずれかであることが好ましい。
【0042】
前記抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体が、IgG、および、IgG誘導体のいずれかであることが好ましい。
【0043】
本発明は、また、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の分離における、前記アフィニティー分離マトリックスの使用に関する。
【発明の効果】
【0044】
本発明のタンパク質は、既存の改変型プロテインA・リガンドよりも高いアルカリ耐性を有し、かつ、十分な抗体酸解離特性を有し、新規改変プロテインA・リガンドの創出につながる。該タンパク質を構成成分とする改変プロテインAリガンドを担体に固定化したアフィニティー分離マトリックスを用いることにより、抗体様分子、より具体的には、免疫グロブリンのFc領域を含む抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体を分離精製することが可能となる。
【0045】
プロテインA由来の、E、D、A、B、および、Cドメインは、互いに相同性の高いアミノ酸配列を有しており、これらのドメイン間で保存されているGlyをAla以外のアミノ酸に置換することにより、E、D、A、B、および、Cドメインのいずれのドメインを使用した場合であっても、共通して上述の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】スタフィロコッカス(Staphylococcus)のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインの配列比較表である。なお、−(ハイフン)はCドメインのアミノ酸残基と同じであることを示す。
図2】本発明の実施例9および比較例1に係る、C−G29V、C−G29W、C−wild、および、C−G29AのモノクローナルIgG−Fabに対する結合反応曲線を示した図である。
図3】本発明の実施例10および比較例1に係る、各種B−G29X、B−wild、および、B−G29Aの、アルカリ処理後の残存IgG結合活性(%)を示した図である。
図4】本発明の実施例11および比較例1に係る、各種C−G29X、C−wild、および、C−G29Aの、アルカリ処理後の残存IgG結合活性(%)を示した図である。
図5】本発明の実施例12に係る、5連結型C−G29Vのアミノ酸配列から逆翻訳して作成したDNA配列における、連結された各ドメインのDNA配列アライメント図である。
図6】本発明の実施例13および比較例2に係る、(A)5連結型C−G29V、および、(B)5連結型C−wild発現組換え菌の培養上清のSDS−PAGE分析結果を示した図である。
図7】本発明の実施例13および比較例2に係る、(A)5連結型C−G29V、および、(B)5連結型C−wild発現組換え菌のアガロース電気泳動による保持プラスミドの分析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明のタンパク質は、配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかのドメインに由来するアミノ酸配列において、1以上のGlyをAla以外のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有し、かつ、該GlyをAlaに置換したアミノ酸配列を有するタンパク質に比べて、免疫グロブリンのFab領域に対する親和性が低下していることを特徴とし、免疫グロブリンに親和性を有することを特徴とする。
【0048】
プロテインAは、免疫グロブリン結合性ドメインが5個つながった形で構成されるタンパク質である。複数の微生物がプロテインAを発現するが、プロテインAを発現する微生物として、例えば、スタフィロコッカス(Staphylococcus)が挙げられる。配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインは、免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができる免疫グロブリン結合性タンパク質であり、いずれのドメインも、免疫グロブリンのFc領域、Fab領域、および、Fab領域中の特にFv領域の、各々の領域に対して結合する。図1の配列比較表に示すように、プロテインA由来の、E、D、A、B、および、Cドメインは、互いに相同性の高いアミノ酸配列を有しており、Cドメインの29位のGly、さらに、26位〜39位までのアミノ酸残基に対応するアミノ酸配列は全てのドメインにおいて保存されている。
【0049】
ドメインに由来するアミノ酸配列は、変異を導入する前のアミノ酸配列のことを指し、例えば、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかの野生型アミノ酸配列が挙げられるが、野生型に限定されるものではない。Cドメインの29位に対応するGlyをAla以外のアミノ酸に置換する変異を除く、部分的なアミノ酸の置換、挿入、欠失、および、化学修飾により改変されたアミノ酸配列であっても、Fc領域への結合能を有しているタンパク質をコードする限り、変異を導入する前の、ドメインに由来するアミノ酸配列に含まれる。例えば、BドメインにA1VとG29Aという変異を導入したZドメインも、Bドメインに由来する配列であり、Zドメインの29位のAlaにGly以外のアミノ酸残基を導入して得られるタンパク質も、本発明のタンパク質に含まれる。
【0050】
なお、本発明において、「タンパク質」という用語は、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、断片化された、または、ペプチド結合によって連結されたポリペプチド鎖も、「タンパク質」という用語に包含される。また、「ドメイン」とは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、なんらかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なタンパク質の単位をいう。
【0051】
また、アミノ酸を置換する変異の表記について、置換位置の番号の前に、野生型、または、非変異型のアミノ酸を付し、置換位置の番号の後に、変異したアミノ酸を付して表記する。例えば、29位のGlyをAlaに置換する変異は、G29Aと記載する。
【0052】
Ala以外のアミノ酸に置換されるGlyの数は特に限定されるものではなく、Alaに置換したアミノ酸配列を有するタンパク質に比べて、免疫グロブリンのFab領域に対する親和性が低下し、かつ免疫グロブリンに親和性を有していればよい。
【0053】
変異を導入する前のタンパク質は、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかの野生型アミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の配列同一性を有し、Fc領域への結合能を有するタンパク質である。
【0054】
Ala以外のアミノ酸に置換されるGlyとしては、配列番号1〜5に示すプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかのドメインに存在するGlyであれば特に限定されないが、例えば、ドメイン間で保存されたGlyが挙げられ、具体的には、Cドメインの29位に対応するGlyが挙げられる。ここで「対応する」とは、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインを図1に示すようにアラインした時に、縦列に同じ位置となることをいう。
【0055】
Cドメインの29位に対応するGlyとしては、Eドメインの27位のGly、Dドメインの32位のGly、Aドメインの29位のGly、および、Bドメインの29位のGlyが挙げられる。これらのアミノ酸配列中のGlyの位置はN末端側のアミノ酸残基の挿入・欠失・付加により変化し得るが、該Gly残基の前後に保存されるアミノ酸配列から、当業者は本発明の変異を導入するアミノ酸残基を決めることができる。
【0056】
アミノ酸の置換は、元のアミノ酸を削除し、同じ位置に別のアミノ酸を追加する変異のことを意味する。追加される別のアミノ酸は特に限定されるものではなく、例えば、天然のタンパク質構成アミノ酸、タンパク質非構成アミノ酸、非天然アミノ酸が挙げられる。この中でも、遺伝子工学的生産の観点から、天然型アミノ酸を好適に用いることができる。
【0057】
置換により導入されるAla以外のアミノ酸としては、特に限定されないが、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Asp、Glu、Arg、His、Lys、Met、Cys、Asn、Glnのいずれかであることが好ましい。この中でも、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Asp、Glu、Arg、His、Metのいずれかであることがより好ましい。置換により導入されるAla以外のアミノ酸としては、アルカリ性条件下での化学的安定性が向上する点で、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Glu、Arg、Metのいずれかであることがさらに好ましく、Phe、Tyr、Trp、Metのいずれかであることが最も好ましい。
【0058】
上述のように、GlyをAla以外のアミノ酸に置換したアミノ酸配列からなるタンパク質としては、例えば、配列番号5に示すプロテインAのCドメインを構成するアミノ酸配列において、29位のGlyをAla以外のアミノ酸に置換して得られるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0059】
本発明のタンパク質において上述のアミノ酸置換変異が導入されている場合、GlyをAlaに置換する変異を導入したタンパク質に比べて、アルカリ性条件下での化学的安定性が向上する効果がある。特に、Cドメインを構成するアミノ酸配列に変異を導入して得られるタンパク質は、他のE、D、A、および、Bドメインに由来する場合に比べて、アルカリ性条件下での化学的安定性が高い。
【0060】
なお、タンパク質医薬をアフィニティーカラム等のクロマトグラフィー精製用カラムを用いて精製する際に、該カラムに残留する有機物等を洗浄するなどの目的でアルカリ性溶液が用いられる場合があり、本発明における「アルカリ性条件下」とは、この洗浄の目的を達成し得る程度のアルカリ性を指す。より具体的には、約0.05〜1.0Nの水酸化ナトリウム水溶液などが該当するが、これに限定されるものではない。
【0061】
「化学的安定性」とは、タンパク質がアミノ酸残基の化学変化などの化学修飾、および、アミド結合の転移や切断などの化学変性を受けず、タンパク質の機能を保持する性質を指す。本発明においては、タンパク質の機能保持とは、免疫グロブリンのFc領域への結合活性(化学変性を受けずに親和性を保持しているタンパク質の割合)を指すものである。すなわち、「化学的安定性」が高い程、アルカリ性溶液への浸漬処理の後も、免疫グロブリンのFc領域への結合活性が低下する度合いが小さい。
【0062】
例えば、同一モル濃度の、野生型および変異導入後のタンパク質の2種類のタンパク質について、各々を、0.5N水酸化ナトリウム溶液中で30℃、25時間処理した後の免疫グロブリンのFc領域に対する親和性が、各々の処理前の同一モル濃度のタンパク質が示した結合活性に対して、野生型のタンパク質が40%残存し、変異導入後のタンパク質が50%残存していれば、変異導入後のタンパク質は野生型のタンパク質に比べてアルカリ性条件下における安定性が高いと言える。野生型のタンパク質の残存結合活性が10〜40%になるようなアルカリ性溶液への浸漬処理によって、変異導入後のタンパク質の残存結合活性が、同一条件で処理した野生型のタンパク質の残存結合活性に比べて、5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上向上した場合、本発明でいう「化学的安定性」が向上したと言える。なお、本明細書中における「アルカリ耐性」という用語も、「アルカリ性条件下における化学的安定性」と同義である。
【0063】
置換変異を導入して得られるタンパク質は、プロテインAのE、D、A、BおよびCドメインのいずれかの野生型アミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のアミノ酸の配列同一性を示す。
【0064】
上述のタンパク質の具体例として、配列番号6〜18に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0065】
本発明のタンパク質は、単一のドメインのみからなるタンパク質であってもよいが、単量体タンパク質、単ドメインが好ましくは2個以上、より好ましくは2〜10個、さらに好ましくは2〜5個、連結された多量体タンパク質(複ドメイン型タンパク質)であってもよい。これらの多量体タンパク質は、単一の免疫グロブリン結合性ドメインの連結体であるホモダイマー、ホモトリマー等のホモポリマーであっても良いし、種類の異なる免疫グロブリン結合性ドメインの連結体であるヘテロダイマー、ヘテロトリマー等のヘテロポリマーであってもよい。
【0066】
本発明によって得られる単量体タンパク質の連結のされ方としては、1または複数のアミノ酸残基で連結する方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。連結するアミノ酸残基数に特に制限は無い。好ましくは、単量体タンパク質の3次元立体構造を不安定化しないものが良い。
【0067】
本発明のタンパク質、または複数ドメインからなるタンパク質は、タンパク質発現を補助する作用、または、精製を容易にする利点がある公知のタンパク質との融合タンパク質として取得することもできる。融合タンパク質の例としては、アルブミン、MBP(マルトース結合タンパク質)或いはGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)が融合したタンパク質を挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、DNAアプタマーなどの核酸、抗生物質などの薬物、PEG(ポリエチレングリコール)などの高分子が融合されている場合も、本発明で得られたタンパク質の有用性を利用するものであれば、本発明に包含される。
【0068】
本発明は、上記方法により得られたタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAにも関する。該DNAは、そのDNAを構成する塩基配列を翻訳して得られるアミノ酸配列が、該タンパク質を構成するものであればいずれでも良い。そのようなDNAは、通常用いられる公知の方法、例えば、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(以下、PCRと略す)法を利用して取得できる。また、公知の化学合成法で合成することも可能であり、さらに、DNAライブラリーから得ることもできる。当該DNAを構成する塩基配列は、コドンが縮重コドンで置換されていても良く、翻訳されたときに同一のアミノ酸をコードしている限り、本来の塩基配列と同一である必要性は無い。
【0069】
本発明のタンパク質をコードするDNAに部位特異的に変異を導入する方法としては、以下のように、組換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。
【0070】
すなわち、組換えDNA技術による変異の導入は、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子中において、変異導入を希望する目的の部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、それら制限酵素認識配列部分を前記制限酵素で切断し、変異導入を希望する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。
【0071】
また、PCRによる部位特異的変異の導入は、例えば、タンパク質をコードする二本鎖プラスミドを鋳型として、+および−鎖に相補的な変異を含む2種の合成オリゴプライマーを用いてPCRを行うダブルプライマー法により、行うことができる。
【0072】
また、本発明の単量体タンパク質(1つのドメイン)をコードするDNAを、意図する数だけ直列に連結することにより、多量体タンパク質をコードするDNAを作製することもできる。例えば、多量体タンパク質をコードするDNAの連結方法は、DNA配列に適当な制限酵素部位を導入し、制限酵素で断片化した2本鎖DNAをDNAリガーゼで連結することができる。制限酵素部位は1種類でもよいが、複数の異なる種類の制限酵素部位を導入することもできる。
【0073】
多量体タンパク質をコードするDNAを作製する方法は、これら連結する方法に限らない。例えば、プロテインAをコードするDNA(例えば、国際公開第WO06/004067号公報)に上記の変異導入法を適用することで作製することも可能である。また、多量体タンパク質をコードするDNAにおいて、各々の単量体タンパク質をコードする塩基配列が同一の場合には、宿主にて相同組み換えを誘発する可能性があるので、好ましくは連結されている単量体タンパク質をコードするDNAの塩基配列間の配列同一性が90%以下、より好ましくは85%以下であることが好ましい。
【0074】
ベクターは、前述したタンパク質、または、その部分アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNA、およびその塩基配列に作動可能に連結された宿主で機能しうるプロモーターを含む。通常は、前述したタンパク質をコードする遺伝子を含むDNAを、適当なベクターに連結もしくは挿入することにより得ることができる。遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pQE系ベクター(キアゲン社製)、pET系ベクター(メルク社製)、および、pGEX系ベクター(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)のベクターなどが挙げられる。
【0075】
ベクターとしては、形質転換の宿主としてブレビバチルス属細菌を使用する場合には、例えば、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、または、pHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pHT210(特開平6−133782号公報)、または、大腸菌とブレビバチルス属細菌とのシャトルベクターであるpNCMO2(特開2002−238569号公報)などが挙げられる。
【0076】
宿主となる細胞へ本発明のベクターを導入することにより形質転換体を得ることができる。宿主へのベクターの形質転換の方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、または、ポリエチレングリコール法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、ベクターを宿主で維持する方法としては、例えば、細胞内でゲノム(染色体)から独立してベクターの自律複製により維持する方法や、作製した遺伝子をゲノム(染色体)に組み込み、ゲノムの複製に依存して維持する方法などが挙げられる。
【0077】
宿主となる細胞については、特に限定されるものではないが、安価に大量生産する上では、好ましくは、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のバクテリア(真正細菌)を好適に使用しうる。より好ましくは、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のグラム陽性菌がよい。さらに好ましくは、プロテインAの大量生産への適応例(国際公開第WO06/004067号公報)が公知である、ブレビバチルス属細菌がよい。
【0078】
ブレビバチルス属細菌としては、限定されないが、Brevibacillus agri、B.borstelensis、B.brevis、B.centrosporus、B.choshinensis、B.formosus、B.invocatus、B.laterosporus、B.limnophilus、B.parabrevis、B.reuszeri、B.thermoruberが例示される。好ましくは、ブレビバチルス・ブレビス47株(JCM6285)、ブレビバチルス・ブレビス47K株(FERM BP−2308)、ブレビバチルス・ブレビス47−5Q株(JCM8970)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31株(FERM BP−1087)およびブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK株(FERM BP−4573)が例示される。生産量の向上などの目的に応じて、上記ブレビバチルス属細菌のプロテアーゼ欠損株、高発現株、または、芽胞形成能欠失株のような変異株(または、誘導株)を使用しても良い。具体的に挙げれば、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31由来のプロテアーゼ変異株であるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK(特開平6−296485号公報)や、芽胞形成能を有しないブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−SP3(国際公開第WO05/045005号公報)が使用できる。
【0079】
本発明のタンパク質は、形質転換体、または上記のDNAを用いた無細胞タンパク質合成系を利用して製造することができる。
【0080】
形質転換体を使用してタンパク質を製造する場合、タンパク質は、形質転換体の細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)、または、培養溶液(細胞外)に蓄積させて回収することができる。細胞内に蓄積すると、発現タンパク質の酸化を防ぐことができ、培地成分との副反応もない点で有利であり、ペリプラズム領域内に蓄積すると、細胞内プロテアーゼによる分解を抑えることができる点で有利である。一方、形質転換体の細胞外にタンパク質を分泌すると、菌体破砕や抽出の工程が不要となるため、製造コストが抑えられる点で有利である。
具体的方法として、タンパク質が培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)に蓄積される場合には、例えば、培養液から遠心分離、ろ過などの方法により菌体を採取し、次いで、この菌体を超音波破砕法、フレンチプレス法などにより破砕し、および/または、界面活性剤等を添加して可溶化することにより、細胞内に蓄積生産されたタンパク質を回収することができる。組換えタンパク質が分泌生産される場合には、培養終了後に、遠心分離、ろ過などの一般的な分離方法で、培養細胞と分泌生産されたタンパク質を含む上清を分離することにより生産された組換えタンパク質を回収することができる。
【0081】
本発明のタンパク質を無細胞タンパク質合成系により製造する場合、無細胞タンパク質合成系としては、細胞抽出液を使用してインビトロでタンパク質を合成する系であれば特に限定されず、例えば、原核細胞由来、植物細胞由来、高等動物細胞由来の合成系などを使用することができる。
【0082】
本発明のタンパク質は、前記した形質転換体を培地で培養し、他のタンパク質との融合タンパク質の形態で発現させ、該培養物から該融合タンパク質を採取し、該融合タンパク質を適切なプロテアーゼによって切断し、所望のタンパク質を採取することにより製造することもできる。
【0083】
本発明の形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。得られた形質転換体の培養に用いる培地は、該タンパク質を高効率、高収量で生産できるものであれば特に制限は無い。具体的には、グルコース、蔗糖、グリセロール、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸などの炭素源や窒素源を使用することが出来る。その他、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩等の無機塩類が必要に応じて添加される。栄養要求性の宿主細胞を用いる場合は、生育に要求される栄養物質を添加すればよい。また、必要であればペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシンなどの抗生物質が添加されても良い。
【0084】
大腸菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、特に限定されないが、例えば、LB培地(トリプトン 1%、酵母エキス 0.5%、NaCl 1%)、または、2xYT培地(トリプトン 1.6%、酵母エキス 1.0%、NaCl 0.5%)等が挙げられる。
【0085】
ブレビバチルス属細菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、特に限定されないが、例えば、TM培地(ペプトン 1%、肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.2%、グルコース 1%、pH 7.0)、または、2SL培地(ペプトン 4%、酵母エキス 0.5% 、グルコース 2%、pH 7.2)等が挙げられる。
【0086】
さらに、菌体内外に存在する宿主由来のプロテアーゼによる当該目的蛋白質の分解、低分子化を抑えるために、公知の各種プロテアーゼ阻害剤、すなわちPhenylmethane sulfonyl fluoride (PMSF)、Benzamidine、4−(2−aminoethyl)−benzenesulfonyl fluoride (AEBSF)、Antipain、Chymostatin、Leupeptin、Pepstatin A、Phosphoramidon、Aprotinin、Ethylenediaminetetra acetic acid (EDTA)、および/または、その他市販されているプロテアーゼ阻害剤を適当な濃度で添加しても良い。
【0087】
さらに、本発明のタンパク質を正しくフォールディングさせるために、例えば、GroEL/ES、Hsp70/DnaK、Hsp90、Hsp104/ClpBなどの分子シャペロンを利用しても良い。分子シャペロンは、例えば、共発現、または、融合タンパク質化などの手法で、本発明のタンパク質と共存させることができる。タンパク質の正しいフォールディングを目的とする場合には、正しいフォールディングを助長する添加剤を培地中に加える、および、低温にて培養するなどの手法も可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
タンパク質は、培養温度は15〜42℃、好ましくは20〜37℃で、通気攪拌条件で好気的に数時間〜数日培養することにより製造することができる。場合によっては、通気を遮断し嫌気的に培養してもよい。
【0089】
タンパク質の精製はアフィニティークロマトグラフィー、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0090】
得られた精製物質が目的のタンパク質であることの確認は、通常の方法、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウエスタンブロッティング等により行うことができる。
【0091】
本発明のタンパク質をアフィニティーリガンドとして、水不溶性の基材からなる担体に固定化することにより、アフィニティー分離マトリックスを得ることができる。ここで、「アフィニティーリガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から目的の分子を選択的に捕集(結合)する物質(官能基)を指す用語であり、本発明においては、免疫グロブリンに対して特異的に結合するタンパク質を指す。本明細書においては、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティーリガンド」と同意である。
【0092】
本発明に用いる水不溶性の基材からなる担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000(生化学工業株式会社製)、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S−1000(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、アクリレート系の担体であるToyopearl(東ソー株式会社製)、アガロース系の架橋担体であるSepharose CL4B(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、および、セルロース系の架橋担体であるCellufine(チッソ株式会社製)などを例示することができる。ただし、本発明における水不溶性担体は、例示したこれらの担体のみに限定されるものではない。
【0093】
また、本発明に用いる水不溶性担体は、本アフィニティー分離マトリックスの使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。担体の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
【0094】
リガンドの固定化方法については、例えば、リガンドに存在するアミノ基、カルボキシル基、または、チオール基を利用した、従来のカップリング法で担体に結合して良い。カップリング法としては、担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、および、過ヨウ素酸ナトリウムなどと反応させて担体を活性化し(あるいは担体表面に反応性官能基を導入し)、リガンドとして固定化する化合物とカップリング反応を行い固定化する方法、また、担体とリガンドとして固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられる。
【0095】
また、リガンドと担体の間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入しても良いし、担体にリガンドを直接固定化しても良い。したがって、固定化のために、本発明のタンパク質に対して、化学修飾しても良いし、固定化に有用なアミノ酸残基を加えても良い。固定化に有用なアミノ酸としては、側鎖に固定化の化学反応に有用な官能基を有しているアミノ酸が挙げられ、例えば、側鎖にアミノ基を含むLysや、側鎖にチオール基を含むCysが挙げられる。本発明の本質は、本発明においてタンパク質に付与した効果が、該タンパク質をリガンドとして固定化したマトリックスにおいても同様に付与されることにあり、固定化のためにいかように修飾・改変しても、本発明の範囲に含まれる。
【0096】
上記アフィニティー分離マトリックスは、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に結合するものであることが好ましい。アフィニティー分離マトリックスが結合する、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質としては、例えば、免疫グロブリンのFc領域を含む抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体が挙げられる。これらのタンパク質を、アフィニティーカラム・クロマトグラフィ精製法により分離精製することが可能となる。
【0097】
ここで「免疫グロブリンのFc領域を含む抗体」としては、例えば、IgGが挙げられる。「抗体誘導体」とはIgG誘導体のことを指し、例えば、ヒトIgGの一部のドメインを他生物種のIgG抗体のドメインに置き換えて融合させたキメラ抗体や、ヒトIgGのCDR部分を他生物種抗体のCDR部分に置き換えて融合させたヒト型化抗体が挙げられる。「断片抗体」としては、例えば、ヒトIgGのFc領域のみからなるタンパク質が挙げられる。「断片抗体誘導体」としては、例えば、ヒトIgGのFv領域とFc領域とを融合させた人工抗体が挙げられる。なお、これらの抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体を総称する名称として「抗体様分子」という表現を、明細書中で使用する。
【0098】
アフィニティー分離マトリックスを使用して、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を分離することができる。Fc領域を含むタンパク質(上述の抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体)の分離は、すでに市販品として存在するプロテインAカラムを用いたアフィニティーカラム・クロマトグラフィ精製法に準じる手順により達成することができる(非特許文献3)。すなわち、抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体を含有する緩衝液を中性となるように調整した後、該溶液を本発明のアフィニティー分離マトリックスを充填したアフィニティーカラムに通過させ、抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体を吸着させる。次いで、アフィニティーカラムに純粋な緩衝液を適量通過させ、カラム内部を洗浄する。この時点では所望の抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体はカラム内の本発明のアフィニティー分離マトリックスに吸着されている。次いで、適切なpHに調整した酸性緩衝液(該マトリックスからの解離を促進する物質を含む場合もある)をカラムに通液し、所望の抗体、抗体誘導体、断片抗体、および、断片抗体誘導体を溶出することにより、高純度な精製が達成される。
【0099】
本発明のアフィニティー分離マトリックスは、リガンド化合物や担体の基材が完全に機能を損なわない程度の、適当な強酸性、または、強アルカリ性の純粋な緩衝液(適当な変性剤、または、有機溶剤を含む溶液の場合もある)を通過させて洗浄することにより、再利用が可能である。
【0100】
一般的には、プロテインAを構成する各々のドメインは、Fab領域よりもFc領域に対してより強く結合する(非特許文献3)。したがって、本発明のタンパク質の「免疫グロブリンに対する親和性」は、本質的にはFc領域に対する親和性を指す表現であり、Fab領域に対する結合力のみが変化しても、免疫グロブリンに対する親和性の強さは大きく変化しない。本発明のタンパク質は、プロテインAの免疫グロブリン結合ドメインが有する、Fab領域への2次的な親和性が低下しており、免疫グロブリンとの相互作用における2次的な結合の影響を排除できるという効果を奏する。一方で、Fc領域への親和性は維持されているので、免疫グロブリン全体に対する親和性は維持されている。本発明のタンパク質が有する免疫グロブリンに対する親和性は、ヒト免疫グロブリンG製剤に対する親和性を後述のBiacoreシステムにより測定した時に、親和定数(KA)が10(M−1)以上であることが好ましく、10(M−1)以上であることがより好ましい。
【0101】
本発明のタンパク質の、免疫グロブリンに対する親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴原理を用いたBiacoreシステム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)などのバイオセンサーによって測定することができるが、測定方法はこれに限定されるものではない。
【0102】
測定条件としては、プロテインAが免疫グロブリンのFc領域に結合した時の結合シグナルが検出できれば良く、温度20〜40℃(一定温度)にて、pH6〜8の中性条件にて測定することで簡単に評価することができる。
【0103】
本発明のタンパク質が親和性を示す対象としては、例えば、Fab領域、および、Fc領域を不足なく含有する免疫グロブリン分子、および、その誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のタンパク質は、Fc領域側の一部分を含むタンパク質に対しても親和性を有し、結合対象は、Fc領域を完全に含むタンパク質である必要はない。抗体の立体構造はすでに既知であるので、タンパク質工学的に本発明のタンパク質が結合する領域の立体構造を保持した上で、Fab領域やFc領域にさらなる改変(断片化など)を施すことは可能であり、本発明のタンパク質はそれらの派生物にも結合しうる。本発明のタンパク質の例として、VH3サブファミリーに属するIgGのFab領域に対する親和性が、Cドメインの29位のGlyをAlaに置換する変異を導入したタンパク質に比べて低下していることを特徴とする、サブタイプが1、2、および、4であるIgGのFc領域に親和性を有するタンパク質が挙げられる。
【0104】
一方、免疫グロブリンのFab領域に対する親和性を測定する際に、結合相手として使用する免疫グロブリン分子は、Fab領域への結合が検出できれば特に限定はされないが、Fc領域を含む免疫グロブリン分子を用いるとFc領域への結合も検出されるので、Fc領域を除くように免疫グロブリン分子を断片化して得られるFabフラグメントまたはFvフラグメントを用いることが好ましい。
【0105】
本発明のタンパク質の、免疫グロブリンのFab領域への結合は、VH3サブファミリーに属するヒトIgG(モノクローナル抗体)を用いて確認することができる。さらには、Fab領域へのプロテインAの結合がすでに確認されている、VH3サブファミリーに属する免疫グロブリンのFabフラグメントがより好ましい。ヒトのVH生殖細胞遺伝子のほぼ半分がVH3サブファミリーに属し、実際にVH3サブファミリーに属するIgG抗体からなる医薬が市販中・開発中である。さらに、VH3サブファミリーに属する免疫グロブリンのFab領域への結合能が残っていることが、抗体の酸解離特性に悪影響を与えることは、すでに文献等によって公知の情報と言える(Ghose S.他、Biotechnology and bioengineering、2005年、92巻、6号)。
【0106】
親和性の違いは、同じ測定条件にて、同じ免疫グロブリン分子に対する結合反応曲線を得て、解析した時に得られる結合パラメータにて、Cドメインの29位に対応するGlyをAlaに置換する変異を導入したタンパク質と比較することで当業者が容易に検証することができる。ここで、親和性の違いを比較する両者の配列は、変異部位(Cドメインの場合は29位)以外の配列は同一である必要があり、例えば29位のGlyをAlaに置換したBドメイン変異体を比較対象とする場合、29位のGlyをAla以外のアミノ酸に置換したBドメイン変異体との比較が適切であり、例えば、29位のGlyをAla以外のアミノ酸に置換したCドメイン変異体との比較は不適切である。
【0107】
結合パラメータとしては、例えば、親和定数(KA)や解離定数(KD)を用いることができる(永田他 著、「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法」、シュプリンガー・フェアラーク東京、1998年、41頁)。本発明の各ドメインの変異体とFabの親和定数は、例えば、Biacoreシステムを利用して、センサーチップにVH3サブファミリーに属する免疫グロブリンのFabフラグメントを固定化して、温度25℃、pH7.4の条件下にて、各ドメイン変異体を流路添加する実験系で求めることができる。29位のGlyをAla以外に置換した変異体の親和定数(KA)は、29位のGlyをAlaに置換した変異体に比べて、好ましくは、1/2以下に低下した変異体を好適に用いることができ、より好ましくは1/5以下、さらにより好ましくは1/10以下に低下した変異体を好適に用いることができる。特に、29位のGlyをAlaに置換したCドメイン変異体のFabに対するKAは、通常1×10〜1×10(M−1)であるところ、29位のGlyをAla以外に置換したCドメイン変異体であって、KAが1×10(M−1)未満の変異体を本発明に好適に用いることができ、KAが0.5×10(M−1)以下の変異体をより好適に用いることができる。なお、上記のKAの測定においては、免疫グロブリンGをパパインによってFabフラグメントとFcフラグメントに断片化して得たFab、または、遺伝子工学的な手法によって得られた、免疫グロブリンGのFab領域のみを発現する生産系を用いて調製したFabを使用することができる。
【0108】
化学処理を行った後の免疫グロブリンに対する結合活性は、上記と同様に、表面プラズモン共鳴原理を用いたBiacoreシステム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)などのバイオセンサーによって試験することができるが、これに限定されるものではない。ただし、化学処理を行った後の結合活性(化学処理を行う前との比較)において、結合パラメータとして、親和定数(KA)、および、解離定数(KD)は不適切である(化学処理によって、タンパク質1分子の免疫グロブリンに対する結合能は変化しない)。化学処理を行った後のタンパク質の残存結合活性を求める場合には、例えば、タンパク質をセンサーチップに固定化し、タンパク質を化学処理する前と後で、同一濃度の免疫グロブリンを添加したときの、結合シグナルの大きさ、または、理論的最大結合容量(Rmax)という結合パラメータを用いるのが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、免疫グロブリンを固定化し、化学処理前後のタンパク質を添加する実験系でも可能である。
【0109】
アフィニティー分離マトリックスは、前述の免疫グロブリンのFab領域への結合能が低下しているという性質を有するため、抗体を酸性溶液で溶出する工程において、抗体を解離する特性に優れる。具体的には、より中性側の酸性溶出条件による溶出を可能とすることで、酸性条件下での抗体へのダメージを抑制する効果が得られる。より中性側の酸性溶出条件とは、具体的には、通常の酸性溶出条件であるpH2.0〜3.5程度に対し、pH3.0〜5.0程度のより中性側の酸性溶出条件のことであり、この条件下で溶出すると、抗体へのダメージが小さい(Ghose S. 他、Biotechnology and bioengineering、2005年、92巻、6号)。優れた抗体酸解離特性とは、より中性側の酸性溶出条件で解離される、抗体を酸性条件下で溶出させたときの溶出ピーク・プロファイルがよりシャープである、といった特性を指す。クロマトグラフィーの溶出ピーク・プロファイルがよりシャープになることで、より少ない容量の溶出液でより高濃度の抗体含有溶出液を回収可能とすることができる。
【0110】
また、酸性溶液によって抗体を解離する特性に優れ、かつ、アルカリ性条件下で化学的安定性の高い、該マトリックスを提供し得る。具体的には、マトリックスから夾雑物(宿主由来タンパク質、炭水化物、脂質、細菌、ウイルスなど)を除去し再利用するために行う水酸化ナトリウム水溶液(0.05M〜1M程度)による洗浄において、リガンド分子へのダメージがより少ないマトリックスの提供を可能とする。なお、再利用のための洗浄方法は水酸化ナトリウム水溶液での洗浄に限られないが、洗浄・殺菌効果が高く、より安価に実施可能な本手法が適用できる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で取得した各種タンパク質(ドメインが連結されていない単ドメイン型タンパク質)について、「ドメインを示すアルファベット−導入した変異(野生型ではWild)」の形で表記する場合がある。例えば、野生型Cドメインは「C−wild」、変異G29Vを導入したCドメイン変異体は「C−G29V」という形で表記する。また、本発明における、Cドメインの29位に対応するGlyをAla以外のアミノ酸に置換する変異を総称して「G29X」と表記し、例えば、Cドメインに本発明の変異を導入した各種Cドメイン変異体に関しては「C−G29X」と表記する。
【0112】
(実施例1)野生型Cドメイン(C−wild)をコードするDNAの調製
野生型プロテインAをコードする発現ベクターpNK3262NXを鋳型とし、配列番号19〜20のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wild(配列番号5)をコードするDNA断片(177bp)を増幅した。鋳型に用いたpNK3262NXは、すでに公知であるpNK3260の一部を改変したプロテインA発現ベクターであり、細胞壁結合ドメインXの一部などを除いた野生型プロテインAをコードしている(国際公開第WO06/004067号公報)。本実施例によって得られた、C−wildをコードする塩基配列を配列番号21に示した。なお、配列番号19〜20に示すオリゴヌクレオチドプライマーは、これを用いて増幅したDNAが、C−wildをコードする遺伝子の外側に、BamHI、および、EcoRIの制限酵素認識部位を有するように、また、C−wildのC末端側(Lys−58の後ろ)にCys残基を有するように設計した。
【0113】
得られたDNA断片は制限酵素BamHI、および、EcoRI(ともにTakara社製)により消化後、精製回収を行った。GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX−6P−1(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を、BamHI、および、EcoRIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォルフォターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。C−wildをコードする該DNA断片と該発現ベクターpGEX−6P−1をDNAリガーゼであるLigation High(TOYOBO社製)を用いて連結し、GST融合型C−wild発現プラスミドを構築した。
【0114】
前記操作により得られた、C−wildをコードする遺伝子を含む発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0115】
(実施例2)野生型Bドメイン(B−wild)をコードするDNAの調製
図1に示すように、B−wildのアミノ酸配列(配列番号4)は、C−wildにT23N、V40Q、K42A、E43N、I44Lの変異が導入されることで得られる配列である。よって、B−wildをコードするDNAは、C−wildをコードするDNA(配列番号21)にT23N、V40Q、K42A、E43N、I44Lの変異を導入することで調製した。実施例1で得られたC−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号22〜23に示すオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、クイックチェンジ法にてC−wildにT23Nの変異が導入されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むプラスミドを得た。さらに、得られたプラスミドを鋳型として、配列番号24〜25に示すオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、同様にクイックチェンジ法にてV40Q、K42A、E43N、I44Lの変異を導入し、B−wildをコードする遺伝子を含む、GST融合型B−wild発現プラスミドを得た。
【0116】
該発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。本実施例によって得られた、B−wildをコードするDNA配列を配列番号26に示した。
【0117】
なお、クイックチェンジ法は、DNAポリメラーゼのPfu Turbo、および、メチル化DNA(鋳型DNA)切断酵素DpnI(ともにStratagene社製)を用い、Stratagene社のプロトコルに従い実施した。
【0118】
(実施例3)Gly−29への変異の導入
実施例1で得たC−wild発現プラスミド、および、実施例2で得たB−wild発現プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号27〜52のプライマーを用い、クイックチェンジ法にて変異体をコードする各種遺伝子を得た。
【0119】
C−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号5のアミノ酸配列におけるGly−29が、Val、Leu、Ile、Tyr、Phe、Thr、Trp、Ser、Asp、Glu、Arg、His、または、Metに置換された、配列番号6〜18のいずれかに記載のCドメイン変異体(C−G29X)をコードする各種発現プラスミドを得た。同様に、B−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号4のアミノ酸配列におけるGly−29が、Val、Arg、Asp、または、Trpに置換された、配列番号53〜56のいずれかに記載のBドメイン変異体(B−G29X)をコードする各種発現プラスミドを得た。
【0120】
前記操作により得られた、配列番号6〜18、および、配列番号53〜56のいずれかをコードする遺伝子を含む、各々の発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101細胞の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0121】
配列番号27〜52のプライマーに関して、各々のプライマーがどの変異を導入するときに使用されたものかについて、表1に示した。
【0122】
【表1】
【0123】
(実施例4)DNAの配列確認
実施例1〜3で得られた、C−wild、各種C−G29X、B−wild、および、各種B−G29Xの各々の発現プラスミドDNA塩基配列の確認は、DNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて行った。BigDye Terminator v.1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて、付属のプロトコルに従い、各々のプラスミドDNAのシークエンシングPCR反応を行い、そのシークエンシング産物を精製し、配列解析に用いた。
【0124】
(実施例5)目的タンパク質の発現
実施例3で得られた、各種C−G29X/B−G29XをGST融合タンパク質として発現する、各々の形質転換体を、アンピシリンを含むLB培地にて、37℃で終夜培養した。該培養液(5mL)を、2×YT培地(200mL、アンピシリン含有)に接種し、37℃で約1時間培養した。終濃度0.1mMになるようIPTG(イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクシド)を添加し、さらに、37℃にて18時間培養した。
【0125】
培養終了後、遠心にて集菌し、EDTA(0.5mM)を含むPBS緩衝液5mLに再懸濁した。超音波破砕にて細胞を破砕し、遠心分離して上清画分(無細胞抽出液)と不溶性画分に分画した。
【0126】
pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに目的の遺伝子を導入するとGSTがN末端に付与された融合タンパク質として発現される。SDS電気泳動により分析したところ、各々の形質転換体培養液から調製した各無細胞抽出液のすべてについて、分子量約33,000の位置にIPTGにより誘導されたと考えられるタンパク質のバンドを確認した。
【0127】
(実施例6)目的タンパク質の精製
実施例5で得られた、GST融合タンパク質を含む各々の無細胞抽出液から、GSTに対して親和性のあるGSTrap FFカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにて、GST融合タンパク質を精製(粗精製)した。各々の無細胞抽出液をGSTrap FFカラムに添加し、標準緩衝液(20mM NaHPO−NaHPO、150mM NaCl,pH7.4)にてカラムを洗浄、続いて溶出用緩衝液(50mM Tris−HCl、20mM Glutathione、pH8.0)にて目的のGST融合タンパク質を溶出した。
【0128】
pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに遺伝子を導入すると、PreScission Protease(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)でGSTを切断することが可能なアミノ酸配列が、GSTと目的タンパク質の間に導入される。各々のGST融合タンパク質にPreScission Proteaseを添加し(GST融合タンパク質1mgに対して、PreScission Proteaseを2Unitの割合で添加した)、4℃にて16時間インキュベートした。
【0129】
GST切断反応を行った目的タンパク質を含む反応溶液から、Superdex 75 10/300 GLカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにて、目的のタンパク質を分取した。標準緩衝液にて平衡化したSuperdex 75 10/300 GLカラムに、各々の反応溶液を添加し、目的のタンパク質を、切断したGSTやPreScission Proteaseから分離精製した。
【0130】
これらの精製が完了した各種タンパク質溶液をトリシン−SDS電気泳動にて分析したところ、分子量約6,800の位置に目的のタンパク質と考えられるバンドを確認した。トリシン−SDS電気泳動による分析の結果、90%以上の高純度で存在すると考えられた。
【0131】
また、本実施例で得られる各々のタンパク質の一次配列に関しては、各種C−G29X/B−G29Xの配列に対して、N末端側にベクターpGEX−6P−1由来のGly−Pro−Leu−Gly−Serが付加され、C末端側にCys残基が付加された配列となる。
【0132】
なお、上記のカラムを用いたクロマトグラフィーによるタンパク質精製は、AKTAprime plusシステム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を利用して実施した。
【0133】
(実施例7)取得した各種C−G29X/B−G29Xの免疫グロブリンとの親和性の解析
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore 3000(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いて、取得した各種C−G29X/B−G29Xの免疫グロブリンとの親和性を解析した。本実施例では、ヒト血漿から分画したヒト免疫グロブリンG製剤(以後は、ヒトIgGと記する)を利用した。ヒトIgGをセンサーチップに固定化し、各種C−G29X/B−G29Xをチップ上に流して、両者の相互作用を検出した。ヒトIgGのセンサーチップCM5への固定化は、N−hydroxysuccinimide(NHS)、および、N−ethyl−N’−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochroride(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはEthanolamineを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケア・ジャパン株式会社製)。ヒトIgG溶液は、ガンマガード(バクスター社製)を標準緩衝液(20mM NaHPO−NaHPO、150mM NaCl、pH7.4)に1.0mg/mLになるよう溶解して調製した。ヒトIgG溶液を、固定化用緩衝液(10mM CHCOOH−CHCOONa、pH4.5)で100倍に希釈し、Biacore 3000付属のプロトコルに従い、ヒトIgGをセンサーチップへ固定した。また、チップ上の別のフローセルに対して、EDC/NHSにより活性化した後にEthanolamineを固定化する処理を行うことで、ネガティブ・コントロールとなるリファレンスセルも用意した。各種C−G29X/B−G29Xは、ランニング緩衝液(20mM NaHPO−NaHPO、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)を用いて、10〜1000nMの範囲で適宜調製し(各々について、異なるタンパク質濃度の溶液を3種類調製)、各々のタンパク質溶液を、流速20μL/minで30秒間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、30秒間)、および、添加終了後(解離相、60秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、50mM NaOH(15秒間)を添加してセンサーチップを再生した(センサーチップ上に残った添加タンパク質の除去が目的であり、固定化したヒトIgGの結合活性がほぼ完全に戻ることを確認した)。得られた結合反応曲線(リファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線)に対して、システム付属ソフトBIA evaluationを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、結合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)、親和定数(KA =kon/koff)、および、解離定数(KD=koff/kon)を算出した。表2に示したように、各種C−G29XのヒトIgGに対する結合パラメータは、C−wild(比較例1)と同程度であった。具体的には、ヒトIgGに対する解離定数は、いずれのC−G29Xに関しても、10−8Mオーダーであった。各種B−G29Xに関しても、同様の結果が得られた。
【0134】
【表2】
【0135】
(実施例8)ヒト化モノクローナル抗体由来Fabフラグメントの調製
本発明における「Fab領域への親和性」については、免疫グロブリンのFc領域を含まないFabフラグメントを用いて調べた。
【0136】
ヒト化モノクローナルIgG製剤を原料として、これをパパインによって、FabフラグメントとFcフラグメントに断片化し、Fabフラグメントのみを分離精製することで調製した。
【0137】
ヒト化モノクローナルIgG製剤のハーセプチン(中外製薬社製)を、パパイン消化用緩衝液(0.1M AcOH−AcONa、2mM EDTA、1mM システイン、pH5.5)に溶解し、Papain Agarose from papaya latexパパイン固定化アガロース、SIGMA社製)を添加し、ローテーターで混和させながら、37℃で約8時間インキュベートした。パパイン固定化アガロースから分離した反応溶液(FabフラグメントとFcフラグメントが混在)から、Resource Sカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を利用したイオン交換クロマトグラフィーにより、Fabフラグメント(以後、モノクローナルIgG−Fabと表記する)を分離精製した。具体的には、イオン交換用緩衝液A(50mM CHCOOH−CHCOONa, pH4.5)で、pH4.5になるよう希釈した反応溶液を、イオン交換用緩衝液Aにて平衡化したResource Sカラムに添加し、イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、イオン交換緩衝液Aとイオン交換緩衝液B(50mM CHCOOH−CHCOONa, 1M NaCl, pH4.5)を利用した塩濃度勾配(カラムに10カラムボリューム分の緩衝液を通液する際に、緩衝液Bの濃度を0%から50%に直線的に上げていく)にて、途中に溶出されるモノクローナルIgG−Fabを分取した。
【0138】
分取したモノクローナルIgG−Fab溶液を、Superdex 75 10/300 GLカラム(平衡化および分離には標準緩衝液を使用)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにて精製し、モノクローナルIgG−Fab溶液を得た。
【0139】
なお、実施例6と同様に、クロマトグラフィーによるタンパク質精製は、AKTAprime plusシステムを利用して実施した。
【0140】
(実施例9)取得した各種C−G29XのモノクローナルIgG−Fabとの親和性の解析
取得した各種Cドメイン変異体のIgG−Fabとの親和性の解析に関しても、実施例7と同様に、Biacore 3000を用いて実施した。
【0141】
実施例8で得たモノクローナルIgG−Fabを、センサーチップCM5に固定化し、各種C−G29Xを、チップ上に流して相互作用を検出した。リファレンスセルには、ヒト血清アルブミン(シグマ アルドリッチ社製)を固定化した。モノクローナルIgG−Fab、および、ヒト血清アルブミンの固定化方法は、実施例6と同様である。
【0142】
測定する各種C−G29Xは、ランニング緩衝液(20mM NaHPO−NaHPO、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)を用いて、各々について、4μM、8μM、16μM、32μM(場合によって32μMは未調製)の異なるタンパク質濃度の溶液を調製し、各々のタンパク質溶液を、流速20μL/minで30秒間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、30秒間)、および、添加終了後(解離相、60秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、10mM NaOHを30秒間添加して、センサーチップを再生した。測定は2回に分けて実施しており、2回とも測定を行ったC−G29A(比較例1)、および、C−G29Dにて実験間の整合性を確認した。解析の方法は、実施例7と同様である。ただし、解析時に結合パラメータの1種であるRmax値は、定数としてフィッティングを行った。Rmax値は、固定化した分子の全てに添加した分子が結合した時のシグナル量であり、同一の分子(モノクローナルIgG−Fab)を固定化した本実験系では、この値が大きく変わることはあり得ない。しかし、結合シグナルが非常に弱い場合には、Rmaxが極端に小さな値になるような間違ったフィッティングがなされるために、Rmax値を定数としたフィッティングを行った。
【0143】
図2に、C−G29V、および、C−G29WのモノクローナルIgG−Fabに対する結合反応曲線を例示した。一緒に例示したC−wild、および、C−G29AのモノクローナルIgG−Fabに対する結合反応曲線(比較例1、同一のタンパク質濃度)と比較して分かるように、C−G29Aでは、まだモノクローナルIgG−Fabとの結合シグナルが残っているが、例えば、C−G29Vでは、モノクローナルIgG−Fabとの結合シグナルがほぼ完全に消失していた。
【0144】
図2において、図示した結合反応曲線は、得られた結合反応曲線からリファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線である。3本の反応曲線は、下から順に、添加したタンパク質の濃度が4μM、8μM、16μMのときの反応曲線であり、各々を重ね合わせて表示した。縦軸は、結合レスポンス差(RU)であり、横軸は時間(秒)である。
【0145】
表3に、各種Cドメイン変異体のモノクローナルIgG−Fabに対する親和定数を示した。なお、N.D.は結合シグナルが検出できなかったことを示す。C−G29V、C−G29L、C−G29Y、C−G29F、C−G29T、C−G29W、C−G29D、C−G29E、C−G29R、C−G29H、および、C−G29Mは、C−G29Aよりも有意に低い親和定数を示した。また、C−G29Iは結合シグナルが検出できなかった。これは、C−G29Aよりも、モノクローナルIgG−Fabに対する結合が有意に弱いことを示すデータであった。
【0146】
【表3】
【0147】
(実施例10)各種B−G29Xのアルカリ耐性評価
各種B−G29Xのアルカリ耐性については、アルカリ性条件下で一定時間インキュベートする処理を行った後の、ヒトIgGに対する結合量の低下度合い(ヒトIgGに対する残存結合活性)を比較することで評価した。
【0148】
各種B−G29Xについて、アルカリ処理の前後におけるヒトIgGに対する結合量を、Biacore 3000を用いて測定した。アルカリ処理に関しては、26.2μMの各種Bドメイン変異体(10μL)に対して、最終濃度が0.5Mとなるように0.625M NaOHを一定量加えて、30℃にて20時間インキュベートした。その後、0.5M HCl(あらかじめpHが中性に戻ることを確認した一定容量)を各種処理溶液に対して添加することで中和し、ランニング緩衝液(20mM NaHPO−NaHPO、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)により2倍希釈して、アルカリ処理後の各種B−G29X溶液を調製した。アルカリ処理前の各種B−G29X溶液は、タンパク質濃度、溶液の組成が同じになるように、アルカリ処理時に加えるNaOH溶液、および、中和処理時に加えるHCl溶液を、あらかじめ混合させた溶液を、26.2μMの各種B−G29X(10μL)に対して加えることで、調製した。センサーチップの準備(ヒトIgGの固定化など)、測定時のランニング緩衝液、測定温度、チップの再生処理に関しては、実施例7と同じである。アルカリ処理前、および、処理後の各種B−G29X溶液を、流速20μL/minで150秒間センサーチップに添加した。添加時(結合相、150秒間)、および、添加終了後(解離相、210秒間)の結合反応曲線を順次観測した。解析方法は、実施例7と同様であるが、得られた結合パラメータの解釈について補足する。今回の解析方法では、アルカリ処理の前後でタンパク質濃度は同じであるが、ヒトIgGに対して結合活性があるタンパク質濃度は変わる。しかし、濃度を変数としてフィッティングすることは難しいので、濃度は処理前後で一定としてフィッティングを行った。このとき、IgGに対して結合活性があるタンパク質濃度の変化は、最大結合容量を示すパラメータRmaxに反映されるので、各々のB−G29Xのアルカリ処理前のRmaxに対するアルカリ処理後のRmaxの相対値(残存IgG結合活性[%])を算出し、比較することで、アルカリ耐性の評価を行った。
【0149】
図3に示すように、アルカリ処理後の残存IgG結合活性について、B−G29A(比較例1)が41.2%であったのに対し、B−G29Wは55.7%と有意に高く、B−G29AよりもB−G29Wの方が高いアルカリ耐性を示した。
【0150】
(実施例11)各種C−G29Xのアルカリ耐性評価
各種C−G29Xのアルカリ耐性に関しても、実施例10と同様の手法にて評価を行った。ただし、アルカリ処理時のインキュベートの時間が実施例10とは異なり、30℃にて25時間のインキュベートを行った。
【0151】
図4に示すように、アルカリ処理後の残存IgG結合活性について、C−G29A(比較例1)よりも、C−G29R、C−G29M、C−G29L、C−G29I、C−G29F、C−G29E、C−G29Y、C−G29Wの方が高かった。特に、C−G29M、C−G29F、C−G29Y、C−G29Wの残存IgG結合活性が高く、C−G29Aよりも高いアルカリ耐性を示した。
【0152】
(実施例12)5連結型C−G29VをコードするDNAの調製
C−G29Vを5連結したタンパク質のアミノ酸配列(配列番号57)から逆翻訳を行い、該タンパク質をコードする塩基配列を設計した。該タンパク質のコドン使用頻度が、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31株で大量に発現している細胞表層タンパク質であるHWP(Ebisu S.著、「J.Bacteriol.」、1990年、172号、1312−1320頁)のコドン使用頻度に近くなるように、かつ、5個の各ドメイン間での塩基配列の配列同一性が低くなるように考慮して、コドンを分配した。また、5連結ドメインをコードする配列の5’側にPstI、および、3’側にXbaIの制限酵素認識部位を作製した。DNA断片の作製はタカラバイオ社に依頼した。作製したDNA断片の配列を配列番号58に記した。
【0153】
5個の各ドメイン間での塩基配列の比較を図5に、各ドメイン間での塩基配列の配列同一性を百分率であらわしたものを表4に示した(各ドメインについてN末端側から順に1〜5の番号を付与した)。表4において、単ドメイン単位をコードする長さ174bpに対して、一致した塩基の数を、百分率で表示している。コドンを割り振った結果、最も高い組み合わせ(ドメイン2とドメイン5)でも塩基配列の配列同一性を85%以下にまで低下させた。
【0154】
作製した5連結型C−G29VをコードするDNA断片をPstIおよびXbaI(ともにTakara社製)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分画、精製した。一方、ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、PstIおよびXbaIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ(Takara社製)処理により脱リン酸化処理を行った。両者を混合後、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結して、5連結C−G29V発現プラスミドベクターpNK3262−C−G29Vを構築した。前記操作により得られたプラスミドベクターを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。形質転換は、公知の方法による電気導入法にて実施した(「Biosci.Biotech.Biochem.」、1997年、61号、202−203頁)。なお、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株は、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK株(特開平6−296485号公報)に変異処理をして得られたPhe・Tyr要求性株である。
【0155】
【表4】
【0156】
(実施例13)5連結型C−G29V発現組換え菌の目的タンパク質発現、および、保持するプラスミドベクターの解析
実施例12により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地(ポリペプトン 3%、酵母エキス 0.2%、グルコース 3%、硫酸マグネシウム 0.01%、硫酸鉄 0.001%、塩化マンガン 0.001%、塩化亜鉛 0.0001%)にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。
【0157】
培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析したところ、図6Aに示したように、5連結型C−G29Vとみられる分子量約33,000のバンドが存在した。5連結型C−wild(比較例2)を発現する組換え菌の培養上清を同様にSDS−PAGEにより解析したときに見られたような(図6B)、ドメイン数が減少したと考えられるタンパク質の存在を示すバンドは見られなかった。
【0158】
振盪培養により得られた菌体から、定法にてプラスミドを調製し、PstIおよびXbaIにより消化し、アガロースゲル電気泳動により解析したところ、図7Aに示したように、5連結C−G29VをコードするDNA断片に相当する約890bpの断片が存在した。5連結型C−wild発現組換え菌の保持するプラスミドベクター(比較例2)を同様に解析したときに見られたような(図7B)、コードされているドメイン数が減少したと考えられるサイズのDNA断片は存在しなかった。
【0159】
実施例2においては5連結した各ドメインをコードするDNA断片の配列は各々100%一致していたが、本実施例においては、コドンを変更した結果、ドメイン間での塩基配列の配列同一性は85%以下に低下した。そのために分子内での相同組換えが大幅に抑制されて、DNA断片の一部欠失が起こらず、プラスミドが安定化した。本実施例では、5連結型C−wildをコードするDNAを比較対象としている(比較例2)が、アミノ酸配列がC−wildである場合とC−G29Vである場合の比較ではなく、各ドメイン間でのコード塩基配列の配列同一性が100%一致している場合と配列同一性が85%以下に低下している場合の比較である。
【0160】
(実施例14)5連結型C−G29W、5連結型C−G29Yの作製
実施例13にて作製したプラスミドpNK3262−C−G29Vから、5連結したC−G29Vをコードする遺伝子を5分割し、各ドメインのVal−29を含むようにDNA断片を調製した。ドメイン1はPstIとNarI、ドメイン2はNarIとHindIII、ドメイン3はHindIIIとMluI、ドメイン4はMluIとBglII、ドメイン5はBglIIとXbaI(NarIのみTOYOBO社製、他はTakara社製)でそれぞれ消化し、アガロースゲルで分画精製して、各々のDNA断片を取得した(配列番号59〜63)。
【0161】
クローニングベクターpSL301(Invitrogen社製)を、各々のドメインをコードするDNA断片に使用したものと同じ2種類の制限酵素で消化し、上記のDNA断片と混合後、Ligation Highで連結して、5分割したDNA断片を有するプラスミドを構築した。各々のプラスミドについて、ドメインにつけた番号に対応させ、pSL301−V29−d1、pSL301−V29−d2、pSL301−V29−d3、pSL301−V29−d4、pSL301−V29−d5と表記する。
【0162】
pSL301−V29−d1、pSL301−V29−d2、pSL301−V29−d3、pSL301−V29−d4、pSL301−V29−d5を鋳型として、配列番号64〜73のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてクイックチェンジ法を実施し、各ドメインのVal−29がTrpに置換されたDNA断片(配列番号74〜78)を含むプラスミドpSL301−W29−d1、pSL301−W29−d2、pSL301−W29−d3、pSL301−W29−d4、pSL301−W29−d5を作製し、変異導入を確認の後、5個の断片を順次Ligation Highにより連結して、5連結型C−G29WをコードするDNA断片(配列番号79)を作製した。
【0163】
また、上記手法と同様に、配列番号80〜89のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、Val−29がTyrに置換されたDNA断片(配列番号90〜94)を含むプラスミドpSL301−Y29−d1、pSL301−Y29−d2、pSL301−Y29−d3、pSL301−Y29−d4、pSL301−Y29−d5を作製し、変異導入を確認の後、5個の断片を順次Ligation Highにより連結して、5連結型C−G29YをコードするDNA断片(配列番号95)を作製した。
【0164】
前記の操作により作製した、5連結型C−G29W(配列番号79)、および、5連結型C−G29Y(配列番号95)をコードするDNA断片をPstIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分画、精製した。一方、ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、PstIおよびXbaIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。両者を混合後、Ligation Highを用いて連結して、5連結型C−G29W発現プラスミドpNK3262−C−G29W、および、5連結型C−G29Y発現プラスミドpNK3262−C−G29Yを取得した。これらのプラスミドを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。
【0165】
前記操作により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析したところ、5連結型C−G29W、および、5連結型C−G29Yとみられる、各々の分子量が約33,000のバンドを確認した。
【0166】
(比較例1)野生型、および、G29A変異体に関する実験
実施例1で得られたC−Wild、および、実施例2で得られたB−wildの発現プラスミドを有する各々の形質転換体についても、実施例5〜6と同様の方法で、C−Wild、および、B−wildの精製タンパク質溶液を得た。また、配列番号96〜97のプライマーを用いて、実施例3と同様の手法にて、C−G29A、および、B−G29Aの発現プラスミドを有する各々の形質転換体を得た。C−G29Aのタンパク質配列を配列番号98に、B−G29Aのタンパク質配列を配列番号99に示す。実施例3と同様の方法で、コードDNAの塩基配列を確認し、実施例5〜6と同様の方法で、C−G29A、および、B−G29Aの精製タンパク質溶液を得た。C−wild、および、C−G29Aについては、各種C−G29Xと同様に、対照実験として、実施例7、9、11と同じ工程の実験を実施した。B−wild、および、B−G29Aについては、各種B−G29Xと同様に、対照実験として、実施例7、10と同じ工程の実験を実施した。
【0167】
(比較例2)5連結型C−wildに関する実験
野生型プロテインAをコードする発現ベクターpNK3262NXを鋳型とし、配列番号100および101のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wildの前半部分を増幅した。また、配列番号102および103のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wildの後半部分を増幅した。両PCR断片を精製後、混合して、配列番号100および103のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする部位にて両断片をオーバーラップさせ、これを鋳型として、配列番号101および102のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて2回目のPCRを実施した。前記の操作により、C−wildの前半と後半が入れ替わり、かつ、両端にHindIII認識部位が存在する配列番号104のDNA断片を作製した。得られたDNA断片をHindIII(Takara社製)により消化後、精製回収を行った。
【0168】
大腸菌のクローニングベクターであるpBluescriptII KS(−)(Stratagene社製)をHindIIIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ(Takara社製)処理により脱リン酸化処理を行った。Hind IIIにより消化した配列番号104のDNA断片を、DNAリガーゼであるLigation High(TOYOBO社製)を用いて連結し、プラスミドを構築した。得られたプラスミドを用いて大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。プラスミドDNAをHind IIIにより部分消化後、1箇所のみ切断されたDNA断片をアガロースゲルにより分画、精製して、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。HindIIIにより消化した配列番号104のDNA断片を、Ligation Highを用いて該プラスミドと連結し、同様にして大腸菌HB101の形質転換を行い、プラスミドDNAを調製して、配列番号104のDNA断片がHindIII部位にて2個タンデム連結したDNA断片が組み込まれたプラスミドDNAを取得した。
【0169】
前記操作により得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号105および106のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行った。なお、C−wildドメインのN末端側(Ala−1の前)にMet−Ala−Phe−Alaを付加するように、また、C末端側(Lys−58の後ろ)に終止コドンを有するように、さらに、ドメインをコードするDNA配列の5’側に、XhoIとNcoI、および、3’側にBamHIの制限酵素認識部位を有するように、配列番号105および106に示すオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。前記操作により、C−wildドメインをコードし、5’側に、XhoIとNcoI、中央付近にHindIII、3’側にBamHIの制限酵素認識部位が存在するDNA断片を増幅した。得られたDNA配列を配列番号107に示す。配列番号107のDNA断片を制限酵素XhoI、および、BamHI(ともにTakara社製)により消化後、精製回収を行った。
【0170】
大腸菌のクローニングベクターであるpBluescriptII KS(−)を、XhoI、および、BamHIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。配列番号107のDNA断片とpBluescriptII KS(−)をLigation Highを用いて連結し、大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0171】
前記の方法で作製した、C−wildをコードするDNA断片を含むプラスミドを、HindIIIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。これと配列番号104で示すDNA断片をLigation Highを用いて連結し、2個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築した。得られたプラスミドを用いて大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。抽出したプラスミドをHindIIIにより部分消化後、1箇所のみ切断されたDNA断片をアガロースゲルにより分画、精製して、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。これと配列番号104で示すDNA断片をLigation Highを用いて連結し、3個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築した。以下、同様にして、5個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築し、大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。該プラスミドをNcoI、および、BamHI(ともにTakara社製)により消化後、アガロースゲルにより分画し、精製回収して、5連結型C−wildをコードするDNA断片を調製した。
【0172】
ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、NcoI、および、BamHIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。先に調製した5連結型C−wildをコードするDNA断片をLigation Highを用いて連結し、5連結型C−wild発現プラスミドベクターpNK3262−C−wildを構築した。前記操作により得られたプラスミドベクターを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。
【0173】
前記操作により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析した。図6Bに示したように、5連結型C−wildの5量体とみられる分子量約33,000のバンドの他に、連結しているドメイン数が4個、3個、2個に減少したとみられるタンパク質の存在を示唆するバンドも確認できた。
【0174】
振盪培養により得られた菌体から、定法にてプラスミドを調製し、NcoIおよびBamHIにより消化し、アガロースゲル電気泳動により解析した。図7Bに示したように、5連結型C−wildをコードするDNA断片に相当する約890bpの断片の存在を示すバンドの他に、連結しているドメイン数が4個、3個、2個に相当するサイズのDNA断片の存在を示唆するバンドも確認できた。その電気泳動パターンは、SDS−PAGEによるタンパク質のバンドのパターンとよく一致していた。これらのDNA断片の配列を解析した結果、ドメイン単位での遺伝子の一部欠失が起こっていることがわかった。5連結型C−wildの各ドメインをコードするDNA断片の配列は各々100%一致しているため、プラスミド分子内での相同組換えを起こし易く、ドメイン数が減少したプラスミドベクターが生ずる結果、それぞれから翻訳されるタンパク質が混在してくると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]