【実施例】
【0111】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で取得した各種タンパク質(ドメインが連結されていない単ドメイン型タンパク質)について、「ドメインを示すアルファベット−導入した変異(野生型ではWild)」の形で表記する場合がある。例えば、野生型Cドメインは「C−wild」、変異G29Vを導入したCドメイン変異体は「C−G29V」という形で表記する。また、本発明における、Cドメインの29位に対応するGlyをAla以外のアミノ酸に置換する変異を総称して「G29X」と表記し、例えば、Cドメインに本発明の変異を導入した各種Cドメイン変異体に関しては「C−G29X」と表記する。
【0112】
(実施例1)野生型Cドメイン(C−wild)をコードするDNAの調製
野生型プロテインAをコードする発現ベクターpNK3262NXを鋳型とし、配列番号19〜20のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wild(配列番号5)をコードするDNA断片(177bp)を増幅した。鋳型に用いたpNK3262NXは、すでに公知であるpNK3260の一部を改変したプロテインA発現ベクターであり、細胞壁結合ドメインXの一部などを除いた野生型プロテインAをコードしている(国際公開第WO06/004067号公報)。本実施例によって得られた、C−wildをコードする塩基配列を配列番号21に示した。なお、配列番号19〜20に示すオリゴヌクレオチドプライマーは、これを用いて増幅したDNAが、C−wildをコードする遺伝子の外側に、BamHI、および、EcoRIの制限酵素認識部位を有するように、また、C−wildのC末端側(Lys−58の後ろ)にCys残基を有するように設計した。
【0113】
得られたDNA断片は制限酵素BamHI、および、EcoRI(ともにTakara社製)により消化後、精製回収を行った。GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX−6P−1(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を、BamHI、および、EcoRIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォルフォターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。C−wildをコードする該DNA断片と該発現ベクターpGEX−6P−1をDNAリガーゼであるLigation High(TOYOBO社製)を用いて連結し、GST融合型C−wild発現プラスミドを構築した。
【0114】
前記操作により得られた、C−wildをコードする遺伝子を含む発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0115】
(実施例2)野生型Bドメイン(B−wild)をコードするDNAの調製
図1に示すように、B−wildのアミノ酸配列(配列番号4)は、C−wildにT23N、V40Q、K42A、E43N、I44Lの変異が導入されることで得られる配列である。よって、B−wildをコードするDNAは、C−wildをコードするDNA(配列番号21)にT23N、V40Q、K42A、E43N、I44Lの変異を導入することで調製した。実施例1で得られたC−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号22〜23に示すオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、クイックチェンジ法にてC−wildにT23Nの変異が導入されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むプラスミドを得た。さらに、得られたプラスミドを鋳型として、配列番号24〜25に示すオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、同様にクイックチェンジ法にてV40Q、K42A、E43N、I44Lの変異を導入し、B−wildをコードする遺伝子を含む、GST融合型B−wild発現プラスミドを得た。
【0116】
該発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。本実施例によって得られた、B−wildをコードするDNA配列を配列番号26に示した。
【0117】
なお、クイックチェンジ法は、DNAポリメラーゼのPfu Turbo、および、メチル化DNA(鋳型DNA)切断酵素DpnI(ともにStratagene社製)を用い、Stratagene社のプロトコルに従い実施した。
【0118】
(実施例3)Gly−29への変異の導入
実施例1で得たC−wild発現プラスミド、および、実施例2で得たB−wild発現プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号27〜52のプライマーを用い、クイックチェンジ法にて変異体をコードする各種遺伝子を得た。
【0119】
C−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号5のアミノ酸配列におけるGly−29が、Val、Leu、Ile、Tyr、Phe、Thr、Trp、Ser、Asp、Glu、Arg、His、または、Metに置換された、配列番号6〜18のいずれかに記載のCドメイン変異体(C−G29X)をコードする各種発現プラスミドを得た。同様に、B−wild発現プラスミドを鋳型として、配列番号4のアミノ酸配列におけるGly−29が、Val、Arg、Asp、または、Trpに置換された、配列番号53〜56のいずれかに記載のBドメイン変異体(B−G29X)をコードする各種発現プラスミドを得た。
【0120】
前記操作により得られた、配列番号6〜18、および、配列番号53〜56のいずれかをコードする遺伝子を含む、各々の発現プラスミドを用いて、大腸菌HB101細胞の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0121】
配列番号27〜52のプライマーに関して、各々のプライマーがどの変異を導入するときに使用されたものかについて、表1に示した。
【0122】
【表1】
【0123】
(実施例4)DNAの配列確認
実施例1〜3で得られた、C−wild、各種C−G29X、B−wild、および、各種B−G29Xの各々の発現プラスミドDNA塩基配列の確認は、DNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて行った。BigDye Terminator v.1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて、付属のプロトコルに従い、各々のプラスミドDNAのシークエンシングPCR反応を行い、そのシークエンシング産物を精製し、配列解析に用いた。
【0124】
(実施例5)目的タンパク質の発現
実施例3で得られた、各種C−G29X/B−G29XをGST融合タンパク質として発現する、各々の形質転換体を、アンピシリンを含むLB培地にて、37℃で終夜培養した。該培養液(5mL)を、2×YT培地(200mL、アンピシリン含有)に接種し、37℃で約1時間培養した。終濃度0.1mMになるようIPTG(イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクシド)を添加し、さらに、37℃にて18時間培養した。
【0125】
培養終了後、遠心にて集菌し、EDTA(0.5mM)を含むPBS緩衝液5mLに再懸濁した。超音波破砕にて細胞を破砕し、遠心分離して上清画分(無細胞抽出液)と不溶性画分に分画した。
【0126】
pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに目的の遺伝子を導入するとGSTがN末端に付与された融合タンパク質として発現される。SDS電気泳動により分析したところ、各々の形質転換体培養液から調製した各無細胞抽出液のすべてについて、分子量約33,000の位置にIPTGにより誘導されたと考えられるタンパク質のバンドを確認した。
【0127】
(実施例6)目的タンパク質の精製
実施例5で得られた、GST融合タンパク質を含む各々の無細胞抽出液から、GSTに対して親和性のあるGSTrap FFカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにて、GST融合タンパク質を精製(粗精製)した。各々の無細胞抽出液をGSTrap FFカラムに添加し、標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl,pH7.4)にてカラムを洗浄、続いて溶出用緩衝液(50mM Tris−HCl、20mM Glutathione、pH8.0)にて目的のGST融合タンパク質を溶出した。
【0128】
pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに遺伝子を導入すると、PreScission Protease(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)でGSTを切断することが可能なアミノ酸配列が、GSTと目的タンパク質の間に導入される。各々のGST融合タンパク質にPreScission Proteaseを添加し(GST融合タンパク質1mgに対して、PreScission Proteaseを2Unitの割合で添加した)、4℃にて16時間インキュベートした。
【0129】
GST切断反応を行った目的タンパク質を含む反応溶液から、Superdex 75 10/300 GLカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにて、目的のタンパク質を分取した。標準緩衝液にて平衡化したSuperdex 75 10/300 GLカラムに、各々の反応溶液を添加し、目的のタンパク質を、切断したGSTやPreScission Proteaseから分離精製した。
【0130】
これらの精製が完了した各種タンパク質溶液をトリシン−SDS電気泳動にて分析したところ、分子量約6,800の位置に目的のタンパク質と考えられるバンドを確認した。トリシン−SDS電気泳動による分析の結果、90%以上の高純度で存在すると考えられた。
【0131】
また、本実施例で得られる各々のタンパク質の一次配列に関しては、各種C−G29X/B−G29Xの配列に対して、N末端側にベクターpGEX−6P−1由来のGly−Pro−Leu−Gly−Serが付加され、C末端側にCys残基が付加された配列となる。
【0132】
なお、上記のカラムを用いたクロマトグラフィーによるタンパク質精製は、AKTAprime plusシステム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を利用して実施した。
【0133】
(実施例7)取得した各種C−G29X/B−G29Xの免疫グロブリンとの親和性の解析
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore 3000(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いて、取得した各種C−G29X/B−G29Xの免疫グロブリンとの親和性を解析した。本実施例では、ヒト血漿から分画したヒト免疫グロブリンG製剤(以後は、ヒトIgGと記する)を利用した。ヒトIgGをセンサーチップに固定化し、各種C−G29X/B−G29Xをチップ上に流して、両者の相互作用を検出した。ヒトIgGのセンサーチップCM5への固定化は、N−hydroxysuccinimide(NHS)、および、N−ethyl−N’−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochroride(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはEthanolamineを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケア・ジャパン株式会社製)。ヒトIgG溶液は、ガンマガード(バクスター社製)を標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、pH7.4)に1.0mg/mLになるよう溶解して調製した。ヒトIgG溶液を、固定化用緩衝液(10mM CH
3COOH−CH
3COONa、pH4.5)で100倍に希釈し、Biacore 3000付属のプロトコルに従い、ヒトIgGをセンサーチップへ固定した。また、チップ上の別のフローセルに対して、EDC/NHSにより活性化した後にEthanolamineを固定化する処理を行うことで、ネガティブ・コントロールとなるリファレンスセルも用意した。各種C−G29X/B−G29Xは、ランニング緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)を用いて、10〜1000nMの範囲で適宜調製し(各々について、異なるタンパク質濃度の溶液を3種類調製)、各々のタンパク質溶液を、流速20μL/minで30秒間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、30秒間)、および、添加終了後(解離相、60秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、50mM NaOH(15秒間)を添加してセンサーチップを再生した(センサーチップ上に残った添加タンパク質の除去が目的であり、固定化したヒトIgGの結合活性がほぼ完全に戻ることを確認した)。得られた結合反応曲線(リファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線)に対して、システム付属ソフトBIA evaluationを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、結合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)、親和定数(KA =kon/koff)、および、解離定数(KD=koff/kon)を算出した。表2に示したように、各種C−G29XのヒトIgGに対する結合パラメータは、C−wild(比較例1)と同程度であった。具体的には、ヒトIgGに対する解離定数は、いずれのC−G29Xに関しても、10
−8Mオーダーであった。各種B−G29Xに関しても、同様の結果が得られた。
【0134】
【表2】
【0135】
(実施例8)ヒト化モノクローナル抗体由来Fabフラグメントの調製
本発明における「Fab領域への親和性」については、免疫グロブリンのFc領域を含まないFabフラグメントを用いて調べた。
【0136】
ヒト化モノクローナルIgG製剤を原料として、これをパパインによって、FabフラグメントとFcフラグメントに断片化し、Fabフラグメントのみを分離精製することで調製した。
【0137】
ヒト化モノクローナルIgG製剤のハーセプチン(中外製薬社製)を、パパイン消化用緩衝液(0.1M AcOH−AcONa、2mM EDTA、1mM システイン、pH5.5)に溶解し、Papain Agarose from papaya latexパパイン固定化アガロース、SIGMA社製)を添加し、ローテーターで混和させながら、37℃で約8時間インキュベートした。パパイン固定化アガロースから分離した反応溶液(FabフラグメントとFcフラグメントが混在)から、Resource Sカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を利用したイオン交換クロマトグラフィーにより、Fabフラグメント(以後、モノクローナルIgG−Fabと表記する)を分離精製した。具体的には、イオン交換用緩衝液A(50mM CH
3COOH−CH
3COONa, pH4.5)で、pH4.5になるよう希釈した反応溶液を、イオン交換用緩衝液Aにて平衡化したResource Sカラムに添加し、イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、イオン交換緩衝液Aとイオン交換緩衝液B(50mM CH
3COOH−CH
3COONa, 1M NaCl, pH4.5)を利用した塩濃度勾配(カラムに10カラムボリューム分の緩衝液を通液する際に、緩衝液Bの濃度を0%から50%に直線的に上げていく)にて、途中に溶出されるモノクローナルIgG−Fabを分取した。
【0138】
分取したモノクローナルIgG−Fab溶液を、Superdex 75 10/300 GLカラム(平衡化および分離には標準緩衝液を使用)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにて精製し、モノクローナルIgG−Fab溶液を得た。
【0139】
なお、実施例6と同様に、クロマトグラフィーによるタンパク質精製は、AKTAprime plusシステムを利用して実施した。
【0140】
(実施例9)取得した各種C−G29XのモノクローナルIgG−Fabとの親和性の解析
取得した各種Cドメイン変異体のIgG−Fabとの親和性の解析に関しても、実施例7と同様に、Biacore 3000を用いて実施した。
【0141】
実施例8で得たモノクローナルIgG−Fabを、センサーチップCM5に固定化し、各種C−G29Xを、チップ上に流して相互作用を検出した。リファレンスセルには、ヒト血清アルブミン(シグマ アルドリッチ社製)を固定化した。モノクローナルIgG−Fab、および、ヒト血清アルブミンの固定化方法は、実施例6と同様である。
【0142】
測定する各種C−G29Xは、ランニング緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)を用いて、各々について、4μM、8μM、16μM、32μM(場合によって32μMは未調製)の異なるタンパク質濃度の溶液を調製し、各々のタンパク質溶液を、流速20μL/minで30秒間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、30秒間)、および、添加終了後(解離相、60秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、10mM NaOHを30秒間添加して、センサーチップを再生した。測定は2回に分けて実施しており、2回とも測定を行ったC−G29A(比較例1)、および、C−G29Dにて実験間の整合性を確認した。解析の方法は、実施例7と同様である。ただし、解析時に結合パラメータの1種であるRmax値は、定数としてフィッティングを行った。Rmax値は、固定化した分子の全てに添加した分子が結合した時のシグナル量であり、同一の分子(モノクローナルIgG−Fab)を固定化した本実験系では、この値が大きく変わることはあり得ない。しかし、結合シグナルが非常に弱い場合には、Rmaxが極端に小さな値になるような間違ったフィッティングがなされるために、Rmax値を定数としたフィッティングを行った。
【0143】
図2に、C−G29V、および、C−G29WのモノクローナルIgG−Fabに対する結合反応曲線を例示した。一緒に例示したC−wild、および、C−G29AのモノクローナルIgG−Fabに対する結合反応曲線(比較例1、同一のタンパク質濃度)と比較して分かるように、C−G29Aでは、まだモノクローナルIgG−Fabとの結合シグナルが残っているが、例えば、C−G29Vでは、モノクローナルIgG−Fabとの結合シグナルがほぼ完全に消失していた。
【0144】
図2において、図示した結合反応曲線は、得られた結合反応曲線からリファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線である。3本の反応曲線は、下から順に、添加したタンパク質の濃度が4μM、8μM、16μMのときの反応曲線であり、各々を重ね合わせて表示した。縦軸は、結合レスポンス差(RU)であり、横軸は時間(秒)である。
【0145】
表3に、各種Cドメイン変異体のモノクローナルIgG−Fabに対する親和定数を示した。なお、N.D.は結合シグナルが検出できなかったことを示す。C−G29V、C−G29L、C−G29Y、C−G29F、C−G29T、C−G29W、C−G29D、C−G29E、C−G29R、C−G29H、および、C−G29Mは、C−G29Aよりも有意に低い親和定数を示した。また、C−G29Iは結合シグナルが検出できなかった。これは、C−G29Aよりも、モノクローナルIgG−Fabに対する結合が有意に弱いことを示すデータであった。
【0146】
【表3】
【0147】
(実施例10)各種B−G29Xのアルカリ耐性評価
各種B−G29Xのアルカリ耐性については、アルカリ性条件下で一定時間インキュベートする処理を行った後の、ヒトIgGに対する結合量の低下度合い(ヒトIgGに対する残存結合活性)を比較することで評価した。
【0148】
各種B−G29Xについて、アルカリ処理の前後におけるヒトIgGに対する結合量を、Biacore 3000を用いて測定した。アルカリ処理に関しては、26.2μMの各種Bドメイン変異体(10μL)に対して、最終濃度が0.5Mとなるように0.625M NaOHを一定量加えて、30℃にて20時間インキュベートした。その後、0.5M HCl(あらかじめpHが中性に戻ることを確認した一定容量)を各種処理溶液に対して添加することで中和し、ランニング緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)により2倍希釈して、アルカリ処理後の各種B−G29X溶液を調製した。アルカリ処理前の各種B−G29X溶液は、タンパク質濃度、溶液の組成が同じになるように、アルカリ処理時に加えるNaOH溶液、および、中和処理時に加えるHCl溶液を、あらかじめ混合させた溶液を、26.2μMの各種B−G29X(10μL)に対して加えることで、調製した。センサーチップの準備(ヒトIgGの固定化など)、測定時のランニング緩衝液、測定温度、チップの再生処理に関しては、実施例7と同じである。アルカリ処理前、および、処理後の各種B−G29X溶液を、流速20μL/minで150秒間センサーチップに添加した。添加時(結合相、150秒間)、および、添加終了後(解離相、210秒間)の結合反応曲線を順次観測した。解析方法は、実施例7と同様であるが、得られた結合パラメータの解釈について補足する。今回の解析方法では、アルカリ処理の前後でタンパク質濃度は同じであるが、ヒトIgGに対して結合活性があるタンパク質濃度は変わる。しかし、濃度を変数としてフィッティングすることは難しいので、濃度は処理前後で一定としてフィッティングを行った。このとき、IgGに対して結合活性があるタンパク質濃度の変化は、最大結合容量を示すパラメータRmaxに反映されるので、各々のB−G29Xのアルカリ処理前のRmaxに対するアルカリ処理後のRmaxの相対値(残存IgG結合活性[%])を算出し、比較することで、アルカリ耐性の評価を行った。
【0149】
図3に示すように、アルカリ処理後の残存IgG結合活性について、B−G29A(比較例1)が41.2%であったのに対し、B−G29Wは55.7%と有意に高く、B−G29AよりもB−G29Wの方が高いアルカリ耐性を示した。
【0150】
(実施例11)各種C−G29Xのアルカリ耐性評価
各種C−G29Xのアルカリ耐性に関しても、実施例10と同様の手法にて評価を行った。ただし、アルカリ処理時のインキュベートの時間が実施例10とは異なり、30℃にて25時間のインキュベートを行った。
【0151】
図4に示すように、アルカリ処理後の残存IgG結合活性について、C−G29A(比較例1)よりも、C−G29R、C−G29M、C−G29L、C−G29I、C−G29F、C−G29E、C−G29Y、C−G29Wの方が高かった。特に、C−G29M、C−G29F、C−G29Y、C−G29Wの残存IgG結合活性が高く、C−G29Aよりも高いアルカリ耐性を示した。
【0152】
(実施例12)5連結型C−G29VをコードするDNAの調製
C−G29Vを5連結したタンパク質のアミノ酸配列(配列番号57)から逆翻訳を行い、該タンパク質をコードする塩基配列を設計した。該タンパク質のコドン使用頻度が、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31株で大量に発現している細胞表層タンパク質であるHWP(Ebisu S.著、「J.Bacteriol.」、1990年、172号、1312−1320頁)のコドン使用頻度に近くなるように、かつ、5個の各ドメイン間での塩基配列の配列同一性が低くなるように考慮して、コドンを分配した。また、5連結ドメインをコードする配列の5’側にPstI、および、3’側にXbaIの制限酵素認識部位を作製した。DNA断片の作製はタカラバイオ社に依頼した。作製したDNA断片の配列を配列番号58に記した。
【0153】
5個の各ドメイン間での塩基配列の比較を
図5に、各ドメイン間での塩基配列の配列同一性を百分率であらわしたものを表4に示した(各ドメインについてN末端側から順に1〜5の番号を付与した)。表4において、単ドメイン単位をコードする長さ174bpに対して、一致した塩基の数を、百分率で表示している。コドンを割り振った結果、最も高い組み合わせ(ドメイン2とドメイン5)でも塩基配列の配列同一性を85%以下にまで低下させた。
【0154】
作製した5連結型C−G29VをコードするDNA断片をPstIおよびXbaI(ともにTakara社製)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分画、精製した。一方、ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、PstIおよびXbaIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ(Takara社製)処理により脱リン酸化処理を行った。両者を混合後、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結して、5連結C−G29V発現プラスミドベクターpNK3262−C−G29Vを構築した。前記操作により得られたプラスミドベクターを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。形質転換は、公知の方法による電気導入法にて実施した(「Biosci.Biotech.Biochem.」、1997年、61号、202−203頁)。なお、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株は、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK株(特開平6−296485号公報)に変異処理をして得られたPhe・Tyr要求性株である。
【0155】
【表4】
【0156】
(実施例13)5連結型C−G29V発現組換え菌の目的タンパク質発現、および、保持するプラスミドベクターの解析
実施例12により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地(ポリペプトン 3%、酵母エキス 0.2%、グルコース 3%、硫酸マグネシウム 0.01%、硫酸鉄 0.001%、塩化マンガン 0.001%、塩化亜鉛 0.0001%)にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。
【0157】
培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析したところ、
図6Aに示したように、5連結型C−G29Vとみられる分子量約33,000のバンドが存在した。5連結型C−wild(比較例2)を発現する組換え菌の培養上清を同様にSDS−PAGEにより解析したときに見られたような(
図6B)、ドメイン数が減少したと考えられるタンパク質の存在を示すバンドは見られなかった。
【0158】
振盪培養により得られた菌体から、定法にてプラスミドを調製し、PstIおよびXbaIにより消化し、アガロースゲル電気泳動により解析したところ、
図7Aに示したように、5連結C−G29VをコードするDNA断片に相当する約890bpの断片が存在した。5連結型C−wild発現組換え菌の保持するプラスミドベクター(比較例2)を同様に解析したときに見られたような(
図7B)、コードされているドメイン数が減少したと考えられるサイズのDNA断片は存在しなかった。
【0159】
実施例2においては5連結した各ドメインをコードするDNA断片の配列は各々100%一致していたが、本実施例においては、コドンを変更した結果、ドメイン間での塩基配列の配列同一性は85%以下に低下した。そのために分子内での相同組換えが大幅に抑制されて、DNA断片の一部欠失が起こらず、プラスミドが安定化した。本実施例では、5連結型C−wildをコードするDNAを比較対象としている(比較例2)が、アミノ酸配列がC−wildである場合とC−G29Vである場合の比較ではなく、各ドメイン間でのコード塩基配列の配列同一性が100%一致している場合と配列同一性が85%以下に低下している場合の比較である。
【0160】
(実施例14)5連結型C−G29W、5連結型C−G29Yの作製
実施例13にて作製したプラスミドpNK3262−C−G29Vから、5連結したC−G29Vをコードする遺伝子を5分割し、各ドメインのVal−29を含むようにDNA断片を調製した。ドメイン1はPstIとNarI、ドメイン2はNarIとHindIII、ドメイン3はHindIIIとMluI、ドメイン4はMluIとBglII、ドメイン5はBglIIとXbaI(NarIのみTOYOBO社製、他はTakara社製)でそれぞれ消化し、アガロースゲルで分画精製して、各々のDNA断片を取得した(配列番号59〜63)。
【0161】
クローニングベクターpSL301(Invitrogen社製)を、各々のドメインをコードするDNA断片に使用したものと同じ2種類の制限酵素で消化し、上記のDNA断片と混合後、Ligation Highで連結して、5分割したDNA断片を有するプラスミドを構築した。各々のプラスミドについて、ドメインにつけた番号に対応させ、pSL301−V29−d1、pSL301−V29−d2、pSL301−V29−d3、pSL301−V29−d4、pSL301−V29−d5と表記する。
【0162】
pSL301−V29−d1、pSL301−V29−d2、pSL301−V29−d3、pSL301−V29−d4、pSL301−V29−d5を鋳型として、配列番号64〜73のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてクイックチェンジ法を実施し、各ドメインのVal−29がTrpに置換されたDNA断片(配列番号74〜78)を含むプラスミドpSL301−W29−d1、pSL301−W29−d2、pSL301−W29−d3、pSL301−W29−d4、pSL301−W29−d5を作製し、変異導入を確認の後、5個の断片を順次Ligation Highにより連結して、5連結型C−G29WをコードするDNA断片(配列番号79)を作製した。
【0163】
また、上記手法と同様に、配列番号80〜89のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、Val−29がTyrに置換されたDNA断片(配列番号90〜94)を含むプラスミドpSL301−Y29−d1、pSL301−Y29−d2、pSL301−Y29−d3、pSL301−Y29−d4、pSL301−Y29−d5を作製し、変異導入を確認の後、5個の断片を順次Ligation Highにより連結して、5連結型C−G29YをコードするDNA断片(配列番号95)を作製した。
【0164】
前記の操作により作製した、5連結型C−G29W(配列番号79)、および、5連結型C−G29Y(配列番号95)をコードするDNA断片をPstIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分画、精製した。一方、ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、PstIおよびXbaIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。両者を混合後、Ligation Highを用いて連結して、5連結型C−G29W発現プラスミドpNK3262−C−G29W、および、5連結型C−G29Y発現プラスミドpNK3262−C−G29Yを取得した。これらのプラスミドを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。
【0165】
前記操作により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析したところ、5連結型C−G29W、および、5連結型C−G29Yとみられる、各々の分子量が約33,000のバンドを確認した。
【0166】
(比較例1)野生型、および、G29A変異体に関する実験
実施例1で得られたC−Wild、および、実施例2で得られたB−wildの発現プラスミドを有する各々の形質転換体についても、実施例5〜6と同様の方法で、C−Wild、および、B−wildの精製タンパク質溶液を得た。また、配列番号96〜97のプライマーを用いて、実施例3と同様の手法にて、C−G29A、および、B−G29Aの発現プラスミドを有する各々の形質転換体を得た。C−G29Aのタンパク質配列を配列番号98に、B−G29Aのタンパク質配列を配列番号99に示す。実施例3と同様の方法で、コードDNAの塩基配列を確認し、実施例5〜6と同様の方法で、C−G29A、および、B−G29Aの精製タンパク質溶液を得た。C−wild、および、C−G29Aについては、各種C−G29Xと同様に、対照実験として、実施例7、9、11と同じ工程の実験を実施した。B−wild、および、B−G29Aについては、各種B−G29Xと同様に、対照実験として、実施例7、10と同じ工程の実験を実施した。
【0167】
(比較例2)5連結型C−wildに関する実験
野生型プロテインAをコードする発現ベクターpNK3262NXを鋳型とし、配列番号100および101のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wildの前半部分を増幅した。また、配列番号102および103のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行い、C−wildの後半部分を増幅した。両PCR断片を精製後、混合して、配列番号100および103のオリゴヌクレオチドプライマーがアニーリングする部位にて両断片をオーバーラップさせ、これを鋳型として、配列番号101および102のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて2回目のPCRを実施した。前記の操作により、C−wildの前半と後半が入れ替わり、かつ、両端にHindIII認識部位が存在する配列番号104のDNA断片を作製した。得られたDNA断片をHindIII(Takara社製)により消化後、精製回収を行った。
【0168】
大腸菌のクローニングベクターであるpBluescriptII KS(−)(Stratagene社製)をHindIIIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ(Takara社製)処理により脱リン酸化処理を行った。Hind IIIにより消化した配列番号104のDNA断片を、DNAリガーゼであるLigation High(TOYOBO社製)を用いて連結し、プラスミドを構築した。得られたプラスミドを用いて大腸菌HB101(Takara社製)の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。プラスミドDNAをHind IIIにより部分消化後、1箇所のみ切断されたDNA断片をアガロースゲルにより分画、精製して、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。HindIIIにより消化した配列番号104のDNA断片を、Ligation Highを用いて該プラスミドと連結し、同様にして大腸菌HB101の形質転換を行い、プラスミドDNAを調製して、配列番号104のDNA断片がHindIII部位にて2個タンデム連結したDNA断片が組み込まれたプラスミドDNAを取得した。
【0169】
前記操作により得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号105および106のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行った。なお、C−wildドメインのN末端側(Ala−1の前)にMet−Ala−Phe−Alaを付加するように、また、C末端側(Lys−58の後ろ)に終止コドンを有するように、さらに、ドメインをコードするDNA配列の5’側に、XhoIとNcoI、および、3’側にBamHIの制限酵素認識部位を有するように、配列番号105および106に示すオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。前記操作により、C−wildドメインをコードし、5’側に、XhoIとNcoI、中央付近にHindIII、3’側にBamHIの制限酵素認識部位が存在するDNA断片を増幅した。得られたDNA配列を配列番号107に示す。配列番号107のDNA断片を制限酵素XhoI、および、BamHI(ともにTakara社製)により消化後、精製回収を行った。
【0170】
大腸菌のクローニングベクターであるpBluescriptII KS(−)を、XhoI、および、BamHIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。配列番号107のDNA断片とpBluescriptII KS(−)をLigation Highを用いて連結し、大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。
【0171】
前記の方法で作製した、C−wildをコードするDNA断片を含むプラスミドを、HindIIIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。これと配列番号104で示すDNA断片をLigation Highを用いて連結し、2個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築した。得られたプラスミドを用いて大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。抽出したプラスミドをHindIIIにより部分消化後、1箇所のみ切断されたDNA断片をアガロースゲルにより分画、精製して、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。これと配列番号104で示すDNA断片をLigation Highを用いて連結し、3個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築した。以下、同様にして、5個タンデムに連結したC−wildをコードするDNA断片を持つプラスミドを構築し、大腸菌HB101の形質転換を行い、定法によってプラスミドDNAを増幅および抽出した。該プラスミドをNcoI、および、BamHI(ともにTakara社製)により消化後、アガロースゲルにより分画し、精製回収して、5連結型C−wildをコードするDNA断片を調製した。
【0172】
ブレビバチルス属細菌用のプラスミドベクターであるpNK3262を、NcoI、および、BamHIにより消化後、精製回収し、さらに、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化処理を行った。先に調製した5連結型C−wildをコードするDNA断片をLigation Highを用いて連結し、5連結型C−wild発現プラスミドベクターpNK3262−C−wildを構築した。前記操作により得られたプラスミドベクターを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。
【0173】
前記操作により得られたブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。培養終了後、遠心にて菌体を分離し、上清5μLを定法によりSDS−PAGEで解析した。
図6Bに示したように、5連結型C−wildの5量体とみられる分子量約33,000のバンドの他に、連結しているドメイン数が4個、3個、2個に減少したとみられるタンパク質の存在を示唆するバンドも確認できた。
【0174】
振盪培養により得られた菌体から、定法にてプラスミドを調製し、NcoIおよびBamHIにより消化し、アガロースゲル電気泳動により解析した。
図7Bに示したように、5連結型C−wildをコードするDNA断片に相当する約890bpの断片の存在を示すバンドの他に、連結しているドメイン数が4個、3個、2個に相当するサイズのDNA断片の存在を示唆するバンドも確認できた。その電気泳動パターンは、SDS−PAGEによるタンパク質のバンドのパターンとよく一致していた。これらのDNA断片の配列を解析した結果、ドメイン単位での遺伝子の一部欠失が起こっていることがわかった。5連結型C−wildの各ドメインをコードするDNA断片の配列は各々100%一致しているため、プラスミド分子内での相同組換えを起こし易く、ドメイン数が減少したプラスミドベクターが生ずる結果、それぞれから翻訳されるタンパク質が混在してくると考えられる。