【実施例1】
【0015】
まず、本発明であるスパッタリング装置の全体の概要について説明する。
図1は、スパッタリング装置の正面図であり、
図2は、スパッタリング装置の平面図であり、
図3は、スパッタリング装置の側面図である。また、
図4は、スパッタリング装置の一部を透過させた正面図であり、拡張ポート500を接続した状態を示すために、収納ポート310の左半分を透過させたものである。
【0016】
図1〜4に示すように、スパッタリング装置100は、真空チャンバ200内でスパッタ源400又はスパッタ源410に設置されたターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を堆積させる装置である。なお、スパッタリング装置100は、複数のターゲットから任意に選択可能なマルチターゲット式であり、さらに複数のスパッタ源により同時にスパッタリングすることが可能である。基板は、操作者がマニピュレータ210を操作することにより、例えば、薄膜を塗布する面を下向きにした状態で、真空チャンバ200内に設置されれば良い。
【0017】
真空チャンバ200は、内部を真空にするための容器であり、真空ポンプを利用して真空状態が作り出される。真空チャンバ200は、少なくとも、スパッタ源400、収納ポート300等を備え、拡張ポート500等を有しても良い。なお、スパッタ源410、収納ポート310のように2組又はそれ以上設けるようにしても良い。本実施例においては、2組の場合とする。
【0018】
スパッタ源400、410は、真空チャンバ200内にマグネトロン放電を利用する等して高電圧をかけるための電極である。スパッタ源400、410の電極は、ターゲットと分離しており、ターゲットに電極を当接させた上で、RF(高周波)やDC(直流)等を印加する。スパッタ源400、410は、例えば、基板の下方に基板に対してターゲットが傾斜するようにして設置される。なお、スパッタ源400及びスパッタ源410で種類の異なるターゲットを同時にスパッタリングして混合比率を変えた成膜しても良いし、一方のみでスパッタリングしても良い。
【0019】
収納ポート300、310は、複数のターゲットと、それらを横に並べて配置したターゲットテーブルを収納するためのスペースである。収納ポート300は、スパッタ源400に対して直交するように配置され、収納ポート310は、スパッタ源410に対して直交するように配置されれば良い。なお、収納ポート300と収納ポート310とが平行となるように配置した場合、スパッタ源400とスパッタ源410とがお互い反対側に延びるようにすれば良い。
【0020】
拡張ポート500は、真空チャンバ200内にO(酸素)やN(窒素)等の反応性ガスを導入するためのプラズマ源などを接続するためのスペースである。拡張ポート500は、例えば、スパッタ源400とスパッタ源410の間など任意の位置に設ければ良い。
【0021】
次に、スパッタリング装置の内部の構造について説明する。
図5は、スパッタリング装置の収納ポートを
図1に記載のA−Aで切断した横断面図であり、
図6は、スパッタリング装置の収納ポートを
図2に記載のB−Bで切断した縦断面図であり、
図7は、スパッタリング装置の収納ポートを
図2に記載のC−Cで切断した縦断面図である。
【0022】
図5〜7に示すように、真空チャンバ200が有する収納ポート300、310は、筒状など内部が中空であり、内部には複数のターゲット360、370(例えば、各3個など)が並置されたターゲットテーブル340、350が配置される。
【0023】
ターゲット360、370は、基板に形成する薄膜の材料となる金属や化合物などである。種類の異なるターゲット360、370を真空一貫でスパッタリングして多層膜を成膜する。そのため、ターゲット360、370とスパッタ源400、410を分離して、複数のターゲット360、370をスパッタ源400、410に対して換装可能にする。スパッタ源400、410とターゲット360、370の組み合わせパターンは、自由に選択可能である。
【0024】
ターゲットテーブル340、350は、長方形状の板材又は枠材であり、幅はターゲット360、370より若干大きく、長さは任意でターゲット360、370を横に複数並べて配置可能である。ターゲットテーブル340、350は、ターゲット360、370が基板ホルダ600で保持される基板に対して斜め(40〜50度)を向くように、ターゲット360、370を保持する。また、ターゲットテーブル340、350は、収納ポート300、310内に設けたスライダ301、311に沿って、スパッタ源400、410と直交する方向にスライド移動可能に配置される。
【0025】
スライダ301、311は、例えば、2本の平行なレール状の部材を収納ポート300、310内に敷設する等して、ターゲットテーブル340、350を収納ポート300、310の内部で長手方向に移動させる。スライダ301、311でターゲットテーブル340、350をスライド移動させて、複数のターゲット360、370からスパッタ源400、410に当接させるターゲット360、370を1つ選択する。
【0026】
ターゲットテーブル340、350の表面に配置したターゲット360、370を覆うために、ターゲットテーブル340、350の上側に保護板320が配置される(
図5においてはターゲットテーブル350の保護板320は図示せず)。保護板320には、ターゲット360、370の形状に合わせた開口部321が1つ空けられる。
【0027】
保護板320の開口部321と、ターゲット360、370のうち選択された何れか一と、スパッタ源400、410とは、柱状のスパッタ源400、410の長手方向(軸方向)において一直線上に並ぶ。スパッタ源400、410は、ターゲット360、370が基板に対向する位置(0度)から一の方向に所定の角度(40〜50度)傾けた状態となるように配置する。なお、スパッタ源410は、スパッタ源400の反対側の方向に配置されれば良い。
【0028】
スパッタ源400、410には、電極401、411を軸方向に往復移動させるための移動機構が設けられ、電極401、411を軸方向に移動させることにより、選択された一のターゲット360、370に当接させ、又はターゲット360、370から離間させる。
【0029】
拡張ポート500には、プラズマ源501などが設置される。プラズマ源501は、O(酸素)やN(窒素)等の反応性ガスを導入するためのものであり、スパッタリング中やスパッタリング前後など目的に合わせて使用する。
【0030】
スパッタリングをする際は、真空チャンバ200内の基板ホルダ600で基板を支持し、真空チャンバ200内を真空にする。そして、真空チャンバ200内に、放電させるためのAr(アルゴン)等の不活性ガスを導入しておく。スパッタ源400、410に印加することで、イオン化した不活性ガス等がターゲット360、370に衝突し、ターゲット360、370の表面から材料が弾き飛ばされて基板の表面に付着することにより成膜される。
【0031】
次に、スパッタリング装置の動作について説明する。
図8は、スパッタリング装置のターゲットテーブルについて説明する図であり、
図9は、スパッタリング装置によるスパッタリングについて説明する図である。
【0032】
図8、9に示すように、真空チャンバ200内において、表面を下に向けた円板状の基板610を基板ホルダ600で支持し、その下方で2つのスパッタ源400、410がそれぞれ基板610に対して傾斜した状態で、スパッタリング装置を使用して基板610に薄膜を形成するものとする。なお、スパッタ源400から一の材料をスパッタリングし、スパッタ源410から他の材料をスパッタリングするようにしても良いし、スパッタ源400及びスパッタ源410で単一の材料をスパッタリングするようにしても良い。
【0033】
スパッタリングを行う前に、予めターゲットテーブル340にターゲット360、361、362(360等)を設置し、ターゲットテーブル350にターゲット370、371、372(370等)を設置する。なお、ターゲット360等、370等の枚数は、スパッタリングの条件に応じて2枚又はそれ以上設けるようにしても良い。本実施例においては、3枚の場合とする。なお、例として示したターゲット360等、370等は、円板状の中心部が薄膜の材料であり、周縁部が保持するための枠である。ターゲット360等、370等は、回転する基板610に対して対向している訳ではなく傾斜しているので、成膜分布を良くする点においては、基板610の径よりも大きくする必要はない。
【0034】
ターゲット360等、370等は、ターゲットホルダ341、342を周縁部に通すことにより、ターゲットテーブル340、350に保持される。ターゲットホルダ341、342は、例えば、ピン状の留具が用いられ、周縁部の四ヶ所程度を留められれば良い。なお、その際、ピンの軸部の長さの範囲で、ターゲット360等、370等のターゲットテーブル340、350からの高さを変動可能に留める。
【0035】
ターゲットテーブル340は、スパッタ源400と直交する方向に敷設されたスライダ301によりスライド移動し、ターゲット360、361、362のうち何れか一を選択してスパッタ源400の延長線上に持ってくる。ここでは、ターゲット360が選択されたとする。また、ターゲットテーブル341は、スパッタ源410と直交する方向に敷設されたスライダ311によりスライド移動し、ターゲット370、371、372のうち何れか一を選択してスパッタ源410の延長線上に持ってくる。ここでは、ターゲット372が選択されたとする。
【0036】
ターゲットテーブル340、350のスライド移動は、常にターゲット360等、370等の何れかが、位置ズレすることなくスパッタ源400、410の延長線上に来るように、ターゲット360等、370等の並置間隔で移動するように制御しても良い。
【0037】
図9に示すように、移動機構420によってスパッタ源410を、選択されたターゲット372に向けて移動させ、スパッタ源410とターゲット372とを当接させる。なお、スパッタ源400とターゲット360とを当接させるために、移動機構420によってスパッタ源400を、選択されたターゲット360に向けて移動させても良い。
【0038】
スパッタ源400、410は、ターゲットテーブル340、350の裏側に存在するので、ターゲットテーブル340、350の表側に配置されたターゲット360等、370等に当接させるために、ターゲットテーブル340、350にスパッタ源400、410を通すための貫通孔342、352を空けておく。貫通孔342、352は、少なくともターゲット360等、370等が存在する位置に、スパッタ源400、410の貫通する部分の形状及びサイズ(例えば、円柱状の場合は直径)で空ければ良い。
【0039】
ターゲットテーブル340、350を貫通したスパッタ源400、410は、ターゲット360等、370等に当接されるが、さらにターゲット360等、370等が持ち上がるようにスパッタ源400、410を押し込むことにより、ターゲット360等、370等とスパッタ源400、410との接合が離れないように維持される。
【0040】
基板ホルダ600で支持された基板610を回転させ、スパッタ源410の電極411に印加することにより、基板610に表面にスパッタリングを行う。さらに、スパッタ源400をターゲット360に当接させてスパッタ源400の電極401に印加して同時にスパッタリングしても良い。
【0041】
このように、基板610に対して斜めに配置したスパッタ源400、410に、複数のターゲット360等、370等を選択可能に取り付けたので、小さなターゲット360等、370等でも大面積の基板610に分布良く成膜できる。また、スパッタ源400、410の数量も増やさなくて済むので、コストを抑えることができる。さらに、ターゲットテーブル350、360は収納ポート300、310内に設置されるので、真空チャンバ200の容量が増大する訳ではなく、真空ポンプ等を強化しなくても済む。すなわち、極めて効率的かつ経済的である。
【0042】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、ターゲットテーブル340、350は、長方形状の板材に限られず、それぞれ両端を繋いだ環状にしてターゲット360等、370等を環上に配置しても良い。また、ターゲットテーブル340の端とターゲットテーブル350の端を繋いだ環状にしても良い。
【0043】
実施例においては、ターゲットテーブル340、350をスライド移動させ、スパッタ源400、410を往復移動させることでターゲット360等、370等とスパッタ源400、410とを当接させたが、スパッタ源400、410をターゲットテーブル340、350に沿って平行移動させても良いし、ターゲットテーブル340、350をスパッタ源400、410に向けて往復移動させても良い。
【0044】
ターゲット360等、370等が消耗した場合に、別のターゲットに選択を変えてスパッタリングを続行しても良い。その際、操作者にターゲット360の消耗を通知した上で未使用のターゲットの何れかを選択するように通知しても良いし、自動的に未使用のターゲットを選択するように制御しても良い。真空チャンバ200を大気に曝すことなく、真空チャンバ200内でターゲットを交換することができるので、効率的に作業することが可能である。