特許第6184472号(P6184472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6184472-フライスドリル工具 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184472
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】フライスドリル工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20170814BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B23C5/10 Z
   B23C3/00
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-500905(P2015-500905)
(86)(22)【出願日】2013年3月20日
(65)【公表番号】特表2015-510845(P2015-510845A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2013055797
(87)【国際公開番号】WO2013139844
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年2月3日
(31)【優先権主張番号】102012006087.4
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012009328.4
(32)【優先日】2012年5月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597099025
【氏名又は名称】マパル ファブリック フュール プラツィジョンズベルクゼウグ ドクトル.クレス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(74)【代理人】
【識別番号】100160668
【弁理士】
【氏名又は名称】美馬 保彦
(72)【発明者】
【氏名】クレンツァー,ウルリヒ
【審査官】 永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−198010(JP,A)
【文献】 特開昭63−047007(JP,A)
【文献】 特開昭57−107718(JP,A)
【文献】 特開2000−334615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具シャフト(3)を備えており、前記工具シャフトが、
中心軸(5)と、
フライスドリル工具(1)の端部(11)の正面の領域に配置された切削領域(17a)を有し、少なくとも一つの幾何的に規定された荒削り切刃(7;7';7'')と、
少なくとも一つの幾何的に規定された仕上げ削り切刃(13;13';13'')と、を有しており、
前記少なくとも一つの荒削り切刃(7;7';7'')及び前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13;13';13'')が、それぞれ切屑溝(9;9';9'';15';15'')を有し、
前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13)の前記切屑溝(15)が、前記少なくとも一つの荒削り切刃(7)の前記切屑溝(9)とは反対方向にねじれているライスドリル工具において、
前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13)は、フライスドリル工具(1)の端部(11)とは反対側にある後方側に面した切削領域(19a)を有することを特徴とするフライスドリル工具。
【請求項2】
前記少なくとも一つの荒削り切刃(7)が、前記フライスドリル工具(1)の周面領域内にある切削領域(17b)を有することを特徴とする請求項1に記載のフライスドリル工具。
【請求項3】
前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13)の中心軸(5)に対する径方向の間隔が、前記少なくとも一つの荒削り切刃(7)の径方向の間隔より大きいことを特徴とする求項1または2に記載のフライスドリル工具。
【請求項4】
前記荒削り切刃(7)のうち少なくとも2つの荒削り切刃(7)は、ペアで配置されており、前記仕上げ削り切刃(13)のうち少なくとも2つの仕上げ削り切刃(13)は、ペアで配置されていることを特徴とする求項1〜3のいずれか一項に記載のフライスドリル工具。
【請求項5】
径方向の反対の前記少なくとも2つの前記荒削り切刃(7)は、ペアで配置され、径方向の反対の前記少なくとも2つの仕上げ削り切刃(13)は、ペアで配置されていることを特徴とする請求項に記載のフライスドリル工具。
【請求項6】
前記少なくとも一つの荒削り切刃(7;7';7'')が、正の軸方向すくい角を有することを特徴とする求項1〜5のいずれか一項に記載のフライスドリル工具。
【請求項7】
被加工材に対して前記フライスドリル工具が移動する後退方向に対して、前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13;13';13'')が、正の軸方向すくい角を有することを特徴とする求項1〜6のいずれか一項に記載のフライスドリル工具。
【請求項8】
穴拡げ工具として形成されていることを特徴とする求項1〜7のいずれか一項に記載のフライスドリル工具。
【請求項9】
求項1〜7のいずれか一項に記載のフライスドリル工具による、被加工材の切削加工方法であって、下記のステップ、すなわち
回転しながら螺旋軌道上を移動する前記フライスドリル工具が、好ましくは不動の被加工材に進入し、少なくとも一つの荒削り切刃により前記被加工材を加工するステップ、
回転しながら螺旋軌道上を移動する前記フライスドリル工具が、加工された穴から後退し、少なくとも一つの仕上げ削り切刃により前記被加工材を加工するステップ
を有する方法。
【請求項10】
前記フライスドリル工具が進入する際と後退する際の螺旋軌道の半径が同じ大きさであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記フライスドリル工具が進入する際の螺旋軌道の半径が、穴から後退する際の螺旋軌道の半径より小さいことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つの荒削り切刃(7)及び前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13)が、中心軸(5)の方向に測定される軸方向の間隔(A)をあけて配置されており、前記間隔が、被加工材を加工する際にフライスドリル工具(1)が進む螺旋軌道のスパイラルピッチ以上であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つの荒削り切刃(7)及び前記少なくとも一つの仕上げ削り切刃(13)が、中心軸(5)の方向に測定される軸方向の間隔(A)をあけて配置されており、前記間隔が、前記フライスドリル工具(1)によって加工される被加工材の厚さ以上であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に基づくフライスドリル工具に関する。請求項10の前提部分に基づく特徴を有する方法も本発明の対象である。
【背景技術】
【0002】
オービタルドリル加工とも言うオービタルフライス加工の際に、フライスドリル工具を使用することは、工具の直径に関係なく、穴の直径を規定の範囲内で作製できるという利点を有している。つまり、一つの同じ工具で様々な穴直径を作製することができ、これは、工具を準備するための費用を減らし、且つ工具交換のための費用を少なくする。オービタルフライス加工のもう一つの利点は、ドリル加工に比べて小さな送り力しか必要ないことにあり、これにより、オービタルフライス加工は不安定な薄い部材の加工に非常によく適している。その一方で、これに関してはプロセス時間が比較的長く、また工具の耐用期間全体にわたって狭い穴公差を達成するのが難しいという欠点が明らかである。さらに、とりわけ直径の小さいフライスドリル工具では、穴を加工する際の押退けが強いことが欠点である。それゆえ送り量を比較的小さく保たなければならず、これは、非常に長い加工時間、すなわち比較的高い作製費用を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって本発明の課題は、これらの欠点を回避するフライスドリル工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するため、請求項1に記載の特徴を備えた、つまり工具シャフトと、それぞれ切屑溝を有する少なくとも一つの幾何的に規定された荒削り切刃及び少なくとも一つの幾何的に規定された仕上げ削り切刃とを備えた上述の種類のフライスドリル工具を提供する。このフライスドリル工具は、荒削り切刃と仕上げ削り切刃の切屑溝が反対方向にねじれていることを特徴とする。これにより、荒削り加工の場合だけでなく仕上げ削り加工の場合も、正の軸方向すくい角が生じ、この正の軸方向すくい角が、良好な切屑の流れ及び小さな切削力をもたらす。これにより、被加工材を加工する際のフライスドリル工具の押退けが軽減され、したがって狭い穴公差を実現することができる。そのうえ、加工時間を比較的短くし、且つ作製費用を低下させる。
【0005】
フライスドリル工具の好ましい一つの例示的実施形態では、少なくとも一つの荒削り切刃と少なくとも一つの仕上げ削り切刃が、互いに対して軸方向の間隔をあけて配置されている。この間隔は、被加工材を加工する際にフライスドリル工具が進む螺旋軌道のスパイラルピッチ以上である。オービタルフライス加工では、フライスドリル工具は被加工材を加工するため、回転し、それに加えて螺旋軌道上を移動する。したがって、荒削り切刃と仕上げ削り切刃の間の軸方向の間隔は、螺旋軌道のスパイラルピッチ以上、つまり螺旋の一回りごとのフライスドリル工具の軸方向の送り量以上であるように選択される。
【0006】
フライスドリル工具の好ましい一つの例示的実施形態では、少なくとも一つの荒削り切刃と少なくとも一つの仕上げ削り切刃が、互いに対して軸方向の間隔をあけて配置されており、この間隔が、フライスドリル工具によって加工される被加工材の厚さ以上である。つまり、加工すべき被加工材に向かってフライスドリル工具を移動させ、且つ生じる又は加工された穴に進入させることができ、その際、少なくとも一つの荒削り切刃が被加工材に食い込む。荒削り切刃は、仕上げ削り切刃が被加工材に食い込む前に被加工材を加工した。つまり、仕上げ削り切刃による被加工材の加工は、荒削り切刃が被加工材に食い込むことなく、規定通りに行うことができる。
【0007】
フライスドリル工具のさらなる形態は従属請求項から明らかである。
【0008】
課題を解決するため、請求項11の特徴を有する方法も提案する。この方法は、フライスドリル工具が進入する際には被加工材が少なくとも一つの荒削り切刃によって加工され、後退する際には少なくとも一つの仕上げ削り切刃によって加工されることを特徴とする。荒削り切刃と仕上げ削り切刃に割り当てられた切屑溝が反対方向にねじれていることにより、荒削り加工の場合も仕上げ削り加工の場合も、荒削り切刃及び仕上げ削り切刃で、正の軸方向すくい角が生じることを保証している。これは、切削力を小さくし、且つ切屑の流れを良好にし、すなわちこのフライスドリル工具は、従来の工具より切れ味が良く、且つ「鋭い」。
【0009】
方法の実施形態は、これに属する従属請求項から明らかである。
【0010】
以下に、本発明を図面に基づいてより詳しく説明する。図面は、フライスドリル工具の前方部分を側面図で示す一つの図だけを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フライスドリル工具の前方部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つまり図は、断絶した工具シャフト3を備えたフライスドリル工具1の前端部を示しており、この工具シャフトは、直接的に又はここでは図示されていない保持シャフトを介して、駆動装置と連結することができ、この駆動装置は、被加工材において穴を加工するため、また場合によっては作製するため、フライスドリル工具1をその中心軸5の周りで回転させ、且つ螺旋軌道上を移動させる。
【0013】
フライスドリル工具1は、少なくとも一つの、ここでは二つの好ましくは向かい合っている荒削り切刃7及び7'を有しており、荒削り切刃7及び7'にはそれぞれ一つの切屑溝9、9'が割り当てられている。フライスドリル工具1はさらに、少なくとももう一つの、好ましくは二つの好ましくはペアで向かい合っている荒削り切刃を有しており、これらの荒削り切刃のうちここでは荒削り切刃7''だけが明らかである。荒削り切刃7''は、それに割り当てられた切屑溝9''を有している。好ましくは直径上で向かい合っている荒削り切刃にも切屑溝が割り当てられている。
【0014】
フライスドリル工具1ではさらに、先端11に対して中心軸5の方向に測定される軸方向の間隔をあけて配置された少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が設けられている。ここで図示した例示的実施形態では、好ましくは仕上げ削り切刃13に向かい合って、仕上げ削り切刃13'が設けられている。この例示的実施形態はさらに、二つのさらなる好ましくは向かい合っている仕上げ削り切刃を有しており、これらの仕上げ削り切刃のうちここでは観察者に面した仕上げ削り切刃13''を認識することができる。これに関連し、直径上で向かい合っているさらなる仕上げ削り切刃は、フライスドリル工具のいわば裏側に配置されており、ここでは見えていない。
【0015】
つまり、ここで説明されるフライスドリル工具1には、荒削り切刃及び仕上げ削り切刃が設けられている。これに関しここでは、通常どおり、荒削り切刃が被加工材の大まかな加工、つまり前加工に用いられ、仕上げ削り切刃が精密加工、つまり仕上げ削り加工に用いられることを出発点とする。
【0016】
仕上げ削り切刃13、13'、及び13''には、また図には示されていない仕上げ削り切刃にも、各々の切屑溝が割り当てられており、これらの切屑溝のうちここでは仕上げ削り切刃13''に割り当てられた切屑溝15''及び仕上げ削り切刃13'に割り当てられた切屑溝15'が明らかである。仕上げ削り切刃にはすくい面が割り当てられており、これらのすくい面のうち、図ではすくい面16'が観察者に面している。仕上げ削り切刃13''のすくい面16''はちょうど覆い隠されており、仕上げ削り切刃13に割り当てられたすくい面は観察者の反対側にある。
【0017】
図を観察すると、ここで図示した工具は、端部11を上から見た場合に反時計回りに回ることが分かり、つまり図で中心軸15の右にある荒削り切刃7'は、フライスドリル工具1が回転すると図平面から出て観察者に向かって移動し、その一方でこれに向かい合っている荒削り切刃7は図平面の中へと移動していく。これに対応することが、仕上げ削り切刃13'及び13に当てはまる。したがって、フライスドリル工具1が回転すると、仕上げ削り切刃13''は右から左に移動する。
【0018】
図に基づく表現から、荒削り切刃7、7'、7''に割り当てられた切屑溝9、9'、及び9''が、また図では見えていない荒削り切刃の切屑溝も、右にねじれており、その一方で仕上げ削り切刃に割り当てられており、ここでは切屑溝15及び15''が認識可能な切屑溝のねじれは、ねじれ方向が逆であることが分かる。荒削り切刃並びに仕上げ削り切刃13、13'、及び13''は、正の径方向すくい角を有しており、これは仕上げ削り切刃13''で特に明らかに認識でき、すなわちこれに関連するすくい面16''は、仕上げ削り切刃13''に対して後方に落ち込んでいる。
【0019】
さらに、図では仕上げ削り切刃13、13'、及び13''だけが見えているが、すべての仕上げ削り切刃は、これに関連する切屑溝が左にねじれているので正の軸方向すくい角αを有しており、このすくい角αは、ここでは図において仕上げ削り切刃13''に基づいて明らかになっており、すなわち仕上げ削り切刃13''は補助線HLと一致しており、この補助線は、中心軸5に対して反時計回りに旋回しており、中心軸と共に軸方向すくい角αを挟んでいる。仕上げ削り切刃13''は、中心軸に対して反時計回りに旋回しているので、仕上げ削り加工の際に生じる軸方向すくい角は正と称される。
【0020】
荒削り切刃に割り当てられたすべての切屑溝が右にねじれているので、荒削り加工の際の、図では荒削り切刃7、7'、7''だけが見えている荒削り切刃の軸方向すくい角は正である。
【0021】
荒削り切刃7は、またそのほかの荒削り切刃7'、7''及び図では認識できない、向かい合っている関連の荒削り切刃も、フライスドリル工具1の端部11の正面の領域内に配置されている切削領域17aを有しており、さらにフライスドリル工具1の周方向に向いている切削領域17bを有している。
【0022】
仕上げ削り切刃は、フライスドリル工具1の端部11とは反対側にある切削領域19a及び周方向に向いている切削領域19bを有している。
【0023】
以下では、フライスドリル工具1の機能及びとりわけここで説明される種類のフライスドリル工具1による被加工材の切削加工方法をより詳しく取り上げる。
【0024】
ここでは図示されていない被加工材を加工する際、フライスドリル工具1はその中心軸5の周りで回転する。このフライスドリル工具は、図では下にある正面から見ると反時計回りに回り、したがって右回りである。これに対応して、少なくとも一つの荒削り切刃9の切屑溝9は右にねじれている。左回りのフライスドリル工具1は、それに対応して、少なくとも一つの荒削り切刃7に割り当てられた左にねじれた切屑溝を有している。
【0025】
同時に、フライスドリル工具1は、被加工材を加工する際に螺旋軌道上を移動する。少なくとも一つの荒削り切刃7により被加工材を前加工するため、フライスドリル工具1をその中心軸の方向に進め、これは、図では矢印Vによって示唆されている。フライスドリル1は、矢印Vの方向での送り運動と呼ばれるこの進行の際には、穴の中へと移動する。この場合、フライスドリル工具1は、穴拡げ工具として設計することができる。ただし、端部11の領域内の切刃が相応の形態であれば、フライスドリル工具1で穴を拡げるだけではなく穴の容積全体を作製することも可能である。
【0026】
矢印Vの方向での送り運動では、少なくとも一つの荒削り切刃7の切削領域17aが被加工材に食い込む。さらに、周方向に向いている切削領域17bが、被加工材、詳しくは穴の内壁を加工する。荒削り切刃によって除去された切屑は、少なくとも一つの荒削り切刃7、7'、7''の少なくとも一つの切屑溝9、9'、9''を通って加工領域から排出され、したがって切屑が被加工材の表面を損傷させること、又はフライスドリル工具1の破損を引き起こし得る切屑詰まりが生じることはない。
【0027】
フライスドリル工具1は、矢印Vに基づく中心軸の方向に、軸方向の距離Aにわたって送られ、この距離は、少なくとも一つの荒削り切刃7と少なくとも一つの仕上げ削り切刃13の間の中心軸5の方向に測定される間隔に相当する。間隔Aは、フライスドリルの第1の好ましい例示的実施形態では、フライスドリル工具1によって加工される被加工材の厚さにほぼ相当する。
【0028】
この第1の例示的実施形態の第1の実施形態では、少なくとも一つの荒削り切刃7が中心軸5に対し、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13の中心軸に対する径方向の間隔と同じ径方向の間隔をあけている。このように形成されたフライスドリル工具1が被加工材の加工に用いられる場合、フライスドリル工具1は、その中心軸5の方向の矢印Vの方向に、加工された被加工材から少なくとも一つの荒削り切刃7が好ましくは完全に出ていくまで、螺旋軌道上を進められる。被加工材の厚さにほぼ相当する間隔Aにより、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13は、少なくとも一つの荒削り切刃7による荒削り加工が終わってから初めて、被加工材に生成された穴の内壁に食い込む。フライスドリル工具1は、少なくとも一つの仕上げ削り切刃7が出ていった後、さらに矢印Vの方向に、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13も被加工材から出ていくまで送られる。フライスドリル工具1のこの実施形態では、少なくとも一つの荒削り切刃7と少なくとも一つの仕上げ削り切刃13の径方向の間隔が同じなので、矢印Vの方向へのこのさらなる送り運動の際、理想的な場合には、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13は切屑を除去しない。フライスドリル工具1は荒削り加工の際、少なくとも一つの荒削り切刃7に作用する切削力により、加工された穴に対して内側に変位されるので、フライスドリル工具1は、少なくとも一つの荒削り切刃7が被加工材から出ていく際に少し外側に弾み、したがって少なくとも一つの仕上げ削り切刃13は、さらなる送り運動の際に非常に細かい切屑を穴壁から除去する。この切屑の厚さはフライスドリル工具1の外側への移動量に依存しており、この外側への移動量は通常、厳密には予測できない。したがって、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が、矢印Vの方向に被加工材から出ていった後、フライスドリル工具1を移動させる螺旋軌道の半径を少し拡大させ、続いてフライスドリル工具をその中心軸5に沿って反対方向に、つまり矢印Rに沿って進める。これでこの後退運動の際には、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が、生成された穴表面に食い込む。このとき、切削領域19aも切削領域19bも、穴壁から切屑を除去する。第1の実施形態による穴表面の仕上げ削り加工を開始する前に、螺旋軌道の半径を、荒削り加工の半径に対して十分の数ミリメートルだけ、好ましくは2/10mm〜5/10mm拡大させる。したがって、矢印Rの方向でのフライスドリル工具1の後退運動の際には、穴壁から非常に薄い切屑が除去され、この非常に薄い切屑は、フライスドリル工具1の非常に小さな変位しか引き起こさない。これにより、非常に高い穴品質を達成することができる。それだけでなく、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13に割り当てられた切屑溝15の逆のねじれ方向により、正の軸方向すくい角が生じ、且つ小さな切削力しか生じず、これも、被加工材を加工する際にフライスドリル工具1を押し退ける力を軽減することに寄与する。
【0029】
フライスドリル工具1の上述の第1の例示的実施形態の一変形実施形態では、少なくとも一つの仕上げ削り切刃の中心軸5に対する径方向の間隔が、少なくとも一つの荒削り切刃7の中心軸5に対する径方向の間隔より少し大きい。この場合、間隔は少なくとも一つの荒削り切刃7の間隔より十分の数ミリメートル、好ましくは9/10〜5/10mm大きい。
【0030】
この実施形態を使用する場合、フライスドリル工具1は、被加工材の荒削り加工中は矢印Vの方向に送られ、それも、被加工材の加工を開始した後、少なくとも一つの荒削り切刃と少なくとも一つの仕上げ削り切刃の間の軸方向に測定される間隔に相当する距離Aだけ送られる。荒削り加工が終了し、少なくとも一つの荒削り切刃7が被加工材から矢印Vの方向に出ていった後、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が被加工材に食い込む前に、螺旋軌道の半径を、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が被加工材に接触することなく少なくとも一つの仕上げ削り切刃13も被加工材から出ていくまでフライスドリル工具1が前加工された被加工材の穴を通って矢印Vの方向に通り抜け得る程度に小さくする。その後、螺旋軌道の半径を再び当初の値に拡大する。続いて、加工された穴から、フライスドリル工具1をその中心軸5に沿って反対の方向に、つまり矢印Rの方向に出し、これにより、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が穴壁に食い込む。少なくとも一つの仕上げ削り切刃13によって除去された薄い切屑は、フライスドリル工具1の第1の実施形態による被加工材の加工の場合のように、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13に割り当てられた切屑溝15を介して加工領域から排出される。
【0031】
両方の実施形態の場合、フライスドリル工具1は、少なくとも二つの、ペアで配置された好ましくは向かい合っている荒削り切刃及び/又は仕上げ削り切刃を備えていることが好ましい。とりわけ、図から明らかなようにそれぞれ四つの、ペアで互いに向かい合っている荒削り切刃7及び仕上げ削り切刃13が設けられており、この四つの荒削り切刃と四つの仕上げ削り切刃は互いに対し、中心軸5の方向に測定される軸方向の間隔Aをあけて配置されており、この間隔は、加工すべき被加工材の厚さに相当する。
【0032】
フライスドリル工具1の両方の実施形態に共通しているのは、少なくとも一つの荒削り切刃及び少なくとも一つの仕上げ削り切刃に割り当てられており、反対に方向づけられている切屑溝により、仕上げ削り加工の際に発生し、フライスドリル工具1に作用する変位力が、明らかに軽減されていることである。
【0033】
フライスドリル工具1の第2の例示的実施形態では、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が、フライスドリル1の先端11の領域内に配置されている少なくとも一つの荒削り切刃7に対し、軸方向に、つまり中心軸5の方向に見て、加工すべき被加工材の厚さに関係ない間隔だけ後ろにある。つまりこの間隔は、図に示したような間隔Aより小さくてもよい。好ましいのは、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が、中心軸5の方向に見て、少なくとも一つの荒削り切刃の後端に配置されることである。
【0034】
特に好ましいのは、荒削り切刃と仕上げ削り切刃の間の軸方向の間隔Aが、被加工材を加工する際にフライスドリル工具1が進む螺旋軌道のスパイラルピッチ以上であることであり、このスパイラスピッチという概念は、螺旋の一回りごとの軸方向の送り量のことである。
【0035】
ここでも、第1の例示的実施形態及び説明した両方の実施形態の場合のように、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が、少なくとも一つの荒削り切刃7によって生成又は加工された穴から出ていく際に、穴壁から薄い切屑を除去し、穴を定められた寸法へと加工し終える。
【0036】
フライスドリル工具1の先端11の領域内に設けられた少なくとも一つの荒削り切刃7は、被加工材に、全容積フルに加工することにより穴を生成するように形成することができる。つまり、このように形成されたフライスドリル工具1は、フルドリル(Vollbohrer)の代わりに使用することができる。ただし、存在する穴を拡げることしかできないように、少なくとも一つの荒削り切刃7を形成することも考えられる。
【0037】
フライスドリル工具1の第2の例示的実施形態により穴を生成又は加工するには、フライスドリル工具を最初に、図に示した矢印Vの方向に被加工材に向かって移動させ、そして被加工材の中に進入させ、これによりこの送り運動中に、少なくとも一つの荒削り切刃7によって荒削り加工が行われる。少なくとも一つの仕上げ削り切刃13は、少なくとも一つの荒削り切刃7の後ろに好ましくは直接続いているので、矢印Vの方向への送り運動の際、少なくとも一つの仕上げ削り切刃は、理想的な場合には、穴壁から切屑を除去しない。荒削り加工の後、加工された材料が少し跳ね返っている場合に、少なくとも一つの仕上げ削り切刃11によって加工されるということはあり得る。
【0038】
少なくとも一つの荒削り切刃7も少なくとも一つの仕上げ削り切刃13も工具から矢印Vの方向に出ていった後、フライスドリル工具1の送り運動を逆にし、矢印Rの方向に後退させる。
【0039】
その際、フライスドリル工具を同一の螺旋軌道上で移動させることができる。この場合、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13が穴壁から切屑を除去する。なぜならフライスドリル工具1は、荒削り加工中は穴の内側へと押しやられており、少なくとも一つの荒削り切刃7が加工された穴から出ていった後に弾み返る可能性があるからである。矢印Rの方向への後退運動、つまり後ろ側への移動の際には、少なくとも一つの仕上げ削り切刃13により、穴の最終加工及び精密加工が実施され、すなわち穴壁から細かく薄い切屑が除去され、このとき生じる切削力は、フライスドリル工具1の押退けがほとんど生じないほど、並びに所望の穴品質及び所定の穴直径が達成されるほど小さい。
【0040】
矢印Rに基づく中心軸5の方向へとフライスドリル工具1を反対方向に移動させる際に少なくとも一つの仕上げ削り切刃13により、生成された穴表面の仕上げ削り加工を実施するため、矢印Vの方向への送り運動中に、少なくとも一つの荒削り切刃7も少なくとも一つの仕上げ削り切刃13も出ていった後で、螺旋軌道の半径を少し、好ましくは2/10mm〜5/10mm拡大することもできる。
【0041】
フライスドリル工具1の構造について、並びに荒削り加工工程及び仕上げ削り加工工程における工具の切削加工方法についての説明から、両方の例示的実施形態及びすべての実施形態に関して明らかなのは、少なくとも一つの荒削り切刃7には切屑溝9が、及び少なくとも一つの仕上げ削り切刃13には切屑溝15が割り当てられており、切屑溝15のねじれが切屑溝9のねじれとは反対に方向づけられているということである。この反対方向のねじれにより、被加工材の荒削り加工の際に少なくとも一つの荒削り切刃7が正の軸方向すくい角を有すること、及び被加工材の仕上げ削り加工中には少なくとも一つの仕上げ削り切刃13にもこれが当てはまることが保証されており、仕上げ削り切刃は、図で仕上げ削り切刃13''に関して示されているように、フライスドリル工具1の中心軸5と共に、正の軸方向すくい角αを挟んでいる。これに関し、フライスドリル工具1が複数の荒削り切刃7及び複数の仕上げ削り切刃13を有する場合にはすべての切刃が正の軸方向すくい角を有することを指摘しておく。
【0042】
この正の軸方向すくい角によって達成されるのは、被加工材の荒削り加工及び仕上げ削り加工の際に切削力を小さくし、切刃によって除去された切屑の、それぞれの切屑溝内での良好な切屑の流れを保証することである。これにより、フライスドリル工具1は、非常に優れた切削特性を示し、従来の工具より切れ味が良い。これは、ここで説明した種類のフライスドリル工具1により繊維複合材料を加工する際に、繊維が最適に断ち切られ、加工された穴の内部に飛び出さないことにも寄与する。
【0043】
つまり、ここで説明した種類のフライスドリル工具の優れた切削特性は、金属、プラスチック、又はその類似物から成る被加工材を加工する場合だけでなく、とりわけ繊維複合材料を加工する際にも生じる。
【0044】
ここで説明したフライスドリル工具1を用いれば、両方の例示的実施形態で、矢印Vの方向での送り運動の際には工具の荒削り加工が実施され、矢印Rの方向での後退運動の際には仕上げ削り加工が実施される。フライスドリル工具1のここで説明した幾何形状により、従来の工具を使用するのに比べて穴品質が明らかに高くなる。さらに、荒削り加工中の工具の押退けは、その後、仕上げ削り加工の際に補われるので、より大きな送り量を実現することができる。
図1