特許第6184496号(P6184496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184496熱水蒸気分解によるオレフィンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184496
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】熱水蒸気分解によるオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 4/04 20060101AFI20170814BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20170814BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20170814BHJP
   C10G 51/06 20060101ALI20170814BHJP
   C10G 9/36 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C07C4/04
   C07C11/04
   C07C11/06
   C10G51/06
   C10G9/36
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-525778(P2015-525778)
(86)(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公表番号】特表2015-524451(P2015-524451A)
(43)【公表日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】EP2013002348
(87)【国際公開番号】WO2014023418
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】12005783.1
(32)【優先日】2012年8月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009659
【氏名又は名称】リンデ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット グンター
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター シュテファニー
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−528820(JP,A)
【文献】 特表2015−524505(JP,A)
【文献】 特表2015−524506(JP,A)
【文献】 特表2003−525971(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0099398(US,A1)
【文献】 特表2009−511657(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0194900(US,A1)
【文献】 米国特許第06743961(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0223754(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 4/02
C07C 11/04、11/06
C10G 9/36
C10G 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素投入物を熱水蒸気分解によって、炭化水素投入物を少なくとも1つの分解炉(2)において少なくとも一部を転化することによって転化して、少なくともエチレンおよびプロピレンを含む少なくとも1つのオレフィン含有生成物流を得る方法であって、炭化水素投入物が、分解炉(2)において温和な分解条件下で転化され、温和な分解条件が、分解炉の出口でプロピレンがエチレンに対して0.85〜1.6kg/kgの比で存在することを意味し、炭化水素投入物が、炭素数が多くとも5の炭化水素を主に含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)に、炭化水素投入物として、生成物流から得られ、炭素数が多くとも5の炭化水素を主に含む1つまたは複数の再循環留分(P、T)を供給することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、再循環留分(P、T)が、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)に炭化水素投入物として供給される場合に、ジオレフィンを実質的に含まないことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)に、炭化水素投入物として飽和炭化水素を主に供給することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法であって、炭化水素投入物が、分解炉(2)において、分解炉の出口で1.2kg/kgまでのプロピレン/エチレン比をもたらす温和な分解条件下で転化されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法であって、炭化水素投入物が、さらなる分解炉(1)において通常的分解条件下で転化され、通常的分解条件が、分解炉の出口でプロピレンがエチレンに対して、0.25〜0.85kg/kgの比で存在することを意味し、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)に関するプロピレン/エチレン比が、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)に関するプロピレン/エチレン比の値より常に大きな値を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、分解炉(1)及び分解炉(2)に関するプロピレン/エチレン比の値が、少なくとも0.1kg/kg異なることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項から7のいずれかに記載の方法であって、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)に使用される炭化水素投入物の組成が、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)に使用される炭化水素投入物の組成と異なることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項から8のいずれかに記載の方法であって、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)に、生成物流から分離、再循環され、炭素数が少なくとも6の炭化水素を主に含む少なくとも1つの留分(U)が供給されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項から9のいずれかに記載の方法であって、新たな投入物が使用され、この投入物が、少なくとも1つの第1の、および少なくとも1つの第2の新たな投入物留分(B1、B2)に分留され、第1の新たな投入物留分(B1)の少なくとも一部が通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)中に、第2の新たな投入物留分(B2)の少なくとも一部が温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)中に導入されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項から10のいずれかに記載の方法であって、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)における転化に関する分解炉出口温度が、680℃〜820℃の間であり、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)における転化に関する分解炉出口温度が、800℃〜1000℃の間であり、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)の分解炉出口温度が、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)の分解炉出口温度より、少なくとも10℃高いことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項から11のいずれかに記載の方法であって、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)において1kgの炭化水素投入物につき0.3〜1.5kgの水蒸気が、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)において1kgの炭化水素投入物につき0.15〜0.8kgの水蒸気が使用されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の方法であって、炭素数が2または3の炭化水素を主に含む少なくとも1つの留分(V)が、生成物流から得られ、気体状投入物のための分解炉(3)において少なくとも一部が転化されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の方法であって、温和な分解条件下で転化させる分解炉(2)中に導入される新たな投入物(BL)が、天然ガス凝縮物または/ならびに鉱油精製装置からの1つもしくは複数のカット、ならびに/または合成および/もしくは生物起源炭化水素、ならびに/またはこれらから誘導される混合物を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、通常的分解条件下で転化させる分解炉(1)または/および新たな投入物の分留装置(7)に使用される新たな投入物(B)が、天然ガス凝縮物ならびに/または原油留分、ならびに/または合成および/もしくは生物起源炭化水素、ならびに/またはこれらから誘導される混合物を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素投入物を熱水蒸気分解により少なくともエチレンおよびプロピレンを含む少なくとも1つのオレフィン含有生成物流に転化する方法に関するものであり、少なくとも1つの分解炉における炭化水素投入物の少なくとも部分的な転化を伴う。
【背景技術】
【0002】
熱水蒸気分解は、古くからの石油化学的処理である。熱水蒸気分解における一般的な目標化合物は、エチレン(エテンとも呼ばれる)であり、これは多くの化学合成のための重要な出発化合物である。
【0003】
熱水蒸気分解に使用される投入物は、エタン、プロパンもしくはブタンおよび対応する混合物などの気体、または液状炭化水素、例えば、ナフサ、ならびに炭化水素混合物でよい。
【0004】
熱水蒸気分解で使用される特定の装置および反応条件に関して、ならびに進行する反応および精製技術の詳細に関して、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry.6th ed.Weinheim:Wiley−VCH,2005中のジンマーマン,Hおよびワルズル,RによるEthylene;およびUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry.6th ed.Weinheim:Wiley−VCH,2005中のイリオン,W.Wおよびノーウィルス,O.S.によるOil Refiningなどの参考著作中の該当論文が参照される。オレフィンを調製するための方法も、例えば、米国特許第3714282(A)号および米国特許第6743961(B1)号に開示されている。
【0005】
さらに、ここで米国特許出願公開第2008/0194900号も言及されるべきであり、これには、芳香族を含むナフサ投入物を水蒸気分解するための方法が開示されており、ここで、芳香族は、熱水蒸気分解に先立って、前処理されたナフサ投入物から水蒸気分解装置での芳香族抽出により除去され、芳香族抽出で得られるラフィネートが、6〜8個の炭素を有する炭化水素と一緒に分解炉中に導入される。
【0006】
熱水蒸気分解には、分解炉が使用される。分解炉は、急冷装置、および形成された生成混合物を処理するための下流デバイスと一緒になって、対応するオレフィン製造用大型プラントに統合され、それらのプラントは本出願の文脈で、「水蒸気分解装置」と呼ばれる。
【0007】
熱水蒸気分解における重要なパラメーターは、分解条件を決定する分解過酷度である。分解条件は、炭化水素および水蒸気の温度、滞留時間および分圧によって、特に影響される。投入物として使用される炭化水素混合物の組成、および使用される分解炉の設計も、分解条件に影響を及ぼす。これらの因子の相互的影響のため、分解条件は、分解ガスにおけるプロピレン(プロペンとも呼ばれる)/エチレン比によって規定されるのが通常である。
【0008】
投入混合物および分解条件に従って、熱水蒸気分解は、従来の目標化合物であるエチレンのみならず、時には、対応する生成物流から分離できる相当な量の副生成物も生じさせる。これらの副生成物としては、低級アルケン、例えば、プロピレンおよびブテン、さらにはジエン、例えば、ブタジエン、さらには芳香族、例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが挙げられる。これらは比較的高い経済価値を有し、それゆえ、高価値製品としてのそれらの形成は望ましい。
米国特許出願公開第2008/194900号(A1)から、ナフサを水蒸気分解する方法では、水蒸気分解の生成物からリサイクルプロパン又はリサイクルC5ストリームが通常からいくつかの分解条件の下で再び分解することが知られている。
米国特許第6743961(B2)には、原油が蒸発及び分解ユニットの組みあわせで部分的に蒸発されることでオレフィンを製造する方法が開示されている。形成された蒸気と残留した液体は、異なる分解条件下で分解される。
米国特許出願公開第2004/209964号(A1)の方法では、フィッシャー−トロプス法で生成物流を分別することが提案されている。異なる鎖長の炭化水素が異なる分解条件下で分解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3714282号明細書
【特許文献2】米国特許第6743961号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明が取り組む課題は、炭化水素から熱水蒸気分解によってオレフィン含有生成物の混合物を得る手段を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この背景に対して、本発明は、炭化水素投入物を熱水蒸気分解によって少なくともエチレンおよびプロピレンを含む少なくとも1つのオレフィン含有生成物流に転化する方法を提案し、この方法は、少なくとも1つの分解炉における炭化水素投入物の少なくとも部分的な転化を伴い、独立請求項に記載の特徴を有する。好ましい形態は、従属請求項および後に続く説明の主題である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、既知のオレフィン製造法の概略図を示す。
図2図2は、とりわけ有利な形態での本発明による方法の本質的ステップの概略図を示す。
図3】本発明のとりわけ有利な形態の本質的ステップを、やはり概略的方式で示す。
図4】本発明のとりわけ有利な形態の本質的ステップを、やはり概略的方式で示す。
図5】本発明のとりわけ有利な形態の本質的ステップを、やはり概略的方式で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、炭化水素投入物が、分解炉において温和な分解条件下で転化され、温和な分解条件が、分解炉の出口でプロピレンがエチレンに対して0.85〜1.6kg/kgの比率で存在することを意味し、炭化水素投入物が、炭素数が多くとも5の炭化水素を主に含む方法が提案される。
【0014】
分解炉は、本発明の文脈において、分解条件が規定されている分解装置を意味すると解される。1つの統合型分解炉中に2つ以上に細区分された分解炉が存在することが可能である。その場合、分解炉セルと呼ばれることが多い。統合型分解炉の一部を形成する複数の分解炉セルは、一般に、独立の輻射ゾーンおよび共通の対流ゾーン、さらには共通の排煙口を有する。これらの場合において、各分解炉セルを、独自の分解条件で稼働させることができる。したがって、各分解炉セルは、1つの分解装置であり、それゆえ、本明細書中では、1つの分解炉と呼ばれる。その場合、統合型分解炉は、複数の分解装置を有する、あるいは換言すれば、それは、複数の分解炉を有する。1つの分解炉セルのみが存在するなら、これが分解装置であり、それゆえ分解炉である。分解炉を組み合わせて、例えば同一投入物を供給される群を形成することができる。分解炉群内の分解条件は、一般に、同一であるか、類似している。
【0015】
典型的な組成の炭化水素、例えば、ナフサの温和な分解条件下での熱分解は、非常に多量の熱分解ガソリンを生じさせ、その大きな量のため対処するのが非常に困難である。これは、温和な分解条件下での分解炉における投入物の転化が比較的より低いことの結果である。しかし、温和な条件下での分解の場合には、典型的に利用されている通常的分解条件下での分解の場合よりプロピレン/エチレン比が大きいので、温和な分解条件が望ましい。
【0016】
本発明による方法は、投入物および分解条件が互いに調和されるので、分解炉を温和な分解条件下で稼働させることを可能にする。投入物と分解条件との調和を介してのみ、前記段落に記載の不都合を回避することが可能である。示したこれらの不都合および解決策は、本発明の文脈において認識される。
【0017】
したがって、本発明による方法は、本発明による方法を使用しない従来のプラントに比べて、新たな投入物に関してより多くのプロピレンが形成されるような方式で、水蒸気分解プラントを稼働させることを可能にする。
【0018】
第2の分解炉における分解条件に関して選択されるプロピレン/エチレン比が大きいほど、新たな投入物に関してより多くのプロピレンが形成される。このことは、本発明の文脈において有利である。しかし、プロピレン/エチレン比が大きいほど、供給原料の転化がより低く、それゆえ、プロピレン/エチレン比の値は、技術的および経済的上限によって制約される。請求項中で指定される限界内において、一方で、本発明の利点が達成され、他方で、水蒸気分解装置が、工業的文脈で制御可能であり、経済的に実現可能な方式で稼働することができることが保証される。
【0019】
温和な条件下で転化させる分解炉において分解条件に関して指定された限界内で主要生成物として価値のあるエチレンおよびプロピレンを形成する、工業的および経済的に有利な水蒸気分解が可能である。
【0020】
用語「主に」は、本出願の文脈において、投入物または留分が、もっぱら指定された炭素数を有する炭化水素からなることはなく、他の炭素数を有する炭化水素およびその他の不純物も、指定された炭素数の炭化水素と一緒に存在していてもよいことを明確にするために使用される。生成物流、出発流、および/もしくは留分の分離および処理、ならびに/または新たな投入物の分留は、生成物流中または留分中に成分の残留物を常に残している。その他の不純物も消えずに残り、それゆえ、処理された生成物流または留分流は、常に残留物を含む。分離および処理に付随する費用および不都合は、達成されるべき純度と共に極度に高い度合まで高まるので、経済的因子が、流の中に存在できる残留物の比率を決定する。この比率のレベルは、経済的考察により比較検討すべきである。不必要な炭化水素およびその他の不純物の比率に関するおおよその指針値は、一般に、40重量%を超えず、生成物流中および/または留分中に存在できる値である。通常、20重量%以下の最大値が実際に達成される。理想的には、10重量%の最大値が達成される。これらの言及は、すべての処理プラントに、すなわち水蒸気分解装置のみならず鉱油精製装置にもそのまま適用される。したがって、温和な条件下で転化させる分解炉中に導入される炭化水素投入物は、炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素を、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%含む。再循環留分、および新たな投入物の分留から得られる留分(後記参照)も、望ましい炭化水素を、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%含む。
【0021】
本発明のとりわけ有利な形態において、温和な分解条件下で転化させる分解炉には、炭化水素投入物として、生成物流から得られ、炭素数が多くとも5の炭化水素を主に含む1つまたは複数の留分が供給される。このような留分を再循環すると、第2の分解炉に適した投入物の量が増加するか、このような留分が、温和な分解条件下で転化させる分解炉に適した炭化水素投入物を構成する。炭素数が4の炭化水素を含む留分、および炭素数が5の留分も、水蒸気分解装置における生成物流の処理で得られ、これらの留分を、価値ある生成物を分離した後に、直接的にまたはさらなる処理ステップの後に再循環することができる。
【0022】
本発明の有利な形態において、再循環留分は、それらが、温和な分解条件下で転化させる分解炉に炭化水素投入物として供給される場合、ジオレフィンを実質的に含まない。ジオレフィンは、分解炉中で不都合な効果を有する。この目的に関して、ジオレフィンは、主に上流の転化プロセスまたは分離ステップによって、第2の分解炉中に再循環される留分から除去される。除去は、再循環される留分の分離に先行するか、その後に続く。
【0023】
分離および処理に必要な手順は、当業者にとって公知である。これらの手順は、水蒸気分解装置における生成物流および留分流を分離および処理のための通常的な手段である。
【0024】
とりわけ有利には、温和な分解条件下で転化させる分解炉に、炭化水素投入物として、飽和炭化水素が主に供給される。飽和炭化水素は熱水蒸気分解にとりわけ適している。
【0025】
有利には、炭化水素投入物は、分解炉において、分解炉の出口で1.2kg/kgまでのプロピレン/エチレン比をもたらす温和な分解条件下で転化される。
【0026】
有利な形態において、炭化水素投入物は、さらなる分解炉において通常的分解条件下で転化され、通常的分解条件とは、分解炉の出口でプロピレンがエチレンに対して0.25〜0.85kg/kg、好ましくは0.3〜0.75kg/kg、より好ましくは0.4〜0.65kg/kgでの比率で存在することを意味し、温和な分解条件下で転化させる分解炉に関するプロピレン/エチレン比は、通常的分解条件下で転化させる分解炉に関するプロピレン/エチレン比の値より大きな値を常に有する。より詳細には、プロピレン/エチレン比の値は、本発明の利点を特定の度合まで達成するために、少なくとも0.1kg/kg、好ましくは少なくとも0.15kg/kg、より好ましくは少なくとも0.2kg/kg異なる。
【0027】
したがって、とりわけ有利には、水蒸気分解装置は、通常的分解条件下で転化させる少なくとも1つの分解炉を有する。この水蒸気分解装置中に導入される投入物は、温和な分解条件下で転化させる分解炉にとって不都合である炭化水素を含む。存在する新たな投入物が、請求項1で指定される条件に合致しない炭化水素の混合物である場合、通常的分解条件下で転化させる少なくとも1つの分解炉が存在すると、温和な分解条件下で転化させる分解炉を稼働させることが経済的に有利になる。
【0028】
したがって、とりわけ有利には、通常的分解条件下で転化させる分解炉に使用される炭化水素投入物の組成は、温和な分解条件下で転化させる分解炉に使用される炭化水素投入物の組成と異なる。
【0029】
通常的分解条件下で転化させる分解炉は、長鎖炭化水素の転化に非常に良好な適合性を有するので、通常的分解条件下で転化させる分解炉には、生成物流から分離、再循環され、炭素数が少なくとも6の炭化水素を主に含む少なくとも1つの留分が供給される。循環の結果として特定の炭化水素は再循環留分中で富化されるので、再循環留分の場合には、炭素数が6の炭化水素を早い段階に通常的分解条件下で転化することが望ましい。しかし、これらの留分を、温和な分解条件下で転化させる分解炉中に再循環することも可能である。
【0030】
とりわけ有利な形態において、新たな投入物が使用され、それは、少なくとも1つの第1の、および少なくとも1つの第2の新たな投入物留分に分留され、第1の新たな投入物留分は、少なくとも一部、有利には全部が通常的分解条件下で転化させる分解炉中に、第2の新たな投入物留分は、少なくとも一部、有利には全部が温和な分解条件下で転化させる分解炉中に導入される。新たな投入物を分留すると、とりわけ温和な分解条件下で転化させる分解炉に関して、本発明の利点を顕著な方式で達成できる投入物を利用可能であるという効果を達成することができる。
【0031】
ここで、前述の投入物(炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素から構成される再循環留分、新たな投入物留分、および新たな投入物)が、温和な分解条件下で転化させる分解炉のための投入物としてとりわけ適していることが、再び強調されるべきである。本発明の利点を得るために、ここで提案された投入物を、温和な分解条件下で転化させる分解炉中に個別的にまたは混合物として導入することができる。したがって、使用される炭化水素投入物は、炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素から構成される1つもしくは複数の再循環留分、または新たな投入物留分、または別の投入物でよい。炭素数が多くとも6の炭化水素から構成される再循環留分と新たな投入物留分、または再循環留分と別の投入物、または炭素数が多くとも6の炭化水素から構成される新たな投入物留分と別の投入物、または温和な分解条件下で転化させる分解炉のための炭化水素投入物としてすべての可能な投入物の混合物を使用することも可能である。
【0032】
初めに説明したように、熱水蒸気分解操作におけるプロピレン/エチレン比は、影響を与える多くの様々な要因に由来し、中でも、分解炉出口温度、すなわち使用した反応器コイルを出ていく生成物流の温度(コイル出口温度)は、重要な役割を演じる。温和な分解条件下で転化させる分解炉における転化に関する分解炉出口温度は、有利には680℃〜820℃の間、好ましくは700℃〜800℃の間、さらに好ましくは710℃〜780℃の間、より好ましくは720℃〜760℃の間である。通常的分解条件下で転化させる分解炉における転化に関する分解炉出口温度は、有利には800℃〜1000℃の間、好ましくは820℃〜950℃の間、より好ましくは840℃〜900℃の間である。同一時点で、通常的分解条件下で転化させる分解炉における転化に関する分解炉出口温度は、温和な分解条件下で転化させる分解炉の分解炉出口温度より、少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃高い。
【0033】
温和な分解条件下で転化させる分解炉において、通常的分解条件下で転化させる分解炉におけるより低い水蒸気希釈を使用することも可能である。これは、必要とされる希釈用水蒸気の量を低減し、エネルギーを節約する。しかし、第2の分解炉におけるより低い水蒸気希釈は、本発明の重要な利点が立証されるために必須ではない。有利には、通常的分解条件下で転化させる分解炉では、1kgの炭化水素投入物につき0.3〜1.5kgの水蒸気が、温和な分解条件下で転化させる分解炉では1kgの炭化水素投入物につき0.15〜0.8kgの水蒸気が使用される。
【0034】
生成物流中に存在する特に炭素数が2〜3の飽和炭化水素を、有利には気体状投入物のための分解炉における熱水蒸気分解によって転化することも有利には可能である。この目的のため、気体状飽和炭化水素を、生成物流から得て、気体状投入物のための分解炉中に再循環し、転化する。
【0035】
有利には、温和な分解条件下で転化させる分解炉中に導入される新たな投入物は、天然ガス凝縮物または/および鉱油精製装置からの1つまたは複数のカット、ならびに/または合成および/もしくは生物起源の炭化水素、ならびに/またはこれらから誘導される混合物を含む。
【0036】
通常的分解条件下で転化させる分解炉に使用される新たな投入物、または/および新たな投入物の分留装置に使用される新たな投入物は、気体もしくは気体留分、例えば、エタン、プロパンもしくはブタン、ならびに対応する混合物および凝縮物、または液状炭化水素および炭化水素混合物でよい。これらの気体混合物および凝縮物は、特に、いわゆる天然ガス凝縮物(液状天然ガス、NGL)を含む。液状炭化水素および炭化水素混合物は、例えば、いわゆる原油のガソリン留分に由来することができる。このような粗製ガソリンまたはナフサ(NT)およびケロシンは、35℃〜210℃の間の沸点を有する好ましくは飽和化合物の混合物である。しかし、本発明は、原油処理からの、中間留分、常圧残渣油、および/またはこれらから誘導される混合物を使用する場合においても有利である。中間留分は、軽質暖房油およびディーゼル油、ならびに重質暖房油を製造するための出発原料として使用できる、いわゆる軽質および重質ガス油を含む。存在する化合物は、180℃〜360℃の沸点を有する。それらは、好ましくは、主に飽和化合物であり、熱水蒸気分解操作で転化され得る。さらに、公知の蒸留分離プロセスにより得られる留分および対応する残渣油を使用することも可能であるが、それらから、例えば水素化(水素化処理)または水素化分解によって誘導された留分を使用することもできる。例は、軽質、重質および真空ガス油(常圧ガス油、AGO、または真空ガス油、VGO)、ならびにまた言及した水素化法によって処理された混合物および/または残渣油(水素化処理真空ガス油、HVGO、水素化分解装置残渣油、HCR、または未転化油、UCO)である。
より詳細には、使用される新たな投入物は、天然ガス凝縮物および/もしくは鉱油留分ならびに/またはこれらから誘導される混合物である。
【0037】
したがって、有利には、本発明は、通常的分解条件下で転化される炭化水素投入物用の新たな投入物としての炭化水素投入物として600℃までの沸点範囲を有する炭化水素混合物の使用を包含する。この全範囲内で、様々な沸点範囲を有する、例えば、360℃まで、または240℃までの沸点範囲を有する炭化水素混合物を使用することも可能である。ここで、分解炉における反応条件は、それぞれの場合に使用される炭化水素混合物に調和させる。
【0038】
しかし、例えば、本発明を、類似の特性を有する任意の望ましい新たな投入物、例えば生物起源の、または/および合成の炭化水素と共に、有利に使用することもできる。
【0039】
とりわけ有利な形態での本発明による方法を、本質的な処理ステップを概略的方式で示すプロセスフロー図を参照して詳細に説明する。より確実な理解のために、まず既知のプロセスを、図1を参照して説明する。
【0040】
図1は、既知のオレフィン製造法の概略図を示す。図2は、とりわけ有利な形態での本発明による方法の本質的ステップの概略図を示し、図3、4および5は、本発明のとりわけ有利な形態の本質的ステップを、やはり概略的方式で示す。図中、対応する要素は、同一の参照数字を有する。
【0041】
既知の方法に関する図1の概略プロセスフロー図100は、分解炉1を含み、その中に、炭化水素投入物として、新たな投入物A(例えばナフサ)ならびに再循環留分SおよびPが導入される。分解炉1において、炭化水素投入物は、対流および輻射ゾーンで加熱され転化される。分解炉に、水蒸気、通常的には、1kgの炭化水素につき0.5〜1kgのプロセス水蒸気が添加される。生成物流Cは、分解炉1から出現し、この流れは、分解炉からの出口で単刀直入に分解生成物流とも呼ばれる。分解炉からの出口で、この分解生成物流は、通常、840℃〜900℃の間の温度を有する。プロピレン/エチレン比は、一般に、0.35〜0.6kg/kgである。第1の急冷(示さない)に次いで、生成物流は、処理装置4において処理される。処理装置から次の留分が本質的留分E〜Nとして得られ:Eは水素、Fは廃棄液、Gはメタン、Hはエチレン、Iはプロピレン、Lは炭素数が4の気体状炭化水素、Mは熱分解ガソリン、およびNは熱分解油である。炭素数が4の気体状炭化水素Lは、炭素数が4の炭化水素を処理するために利用されるC4処理装置5においてさらに処理される。このようなC4処理装置5は、炭素数が4の留分を、ブタジエンOを除去することができるような方式でさらに処理する。炭素数が4のその他の炭化水素は、分解炉1中に再循環される留分Pを構成する。炭素数が5以上の炭化水素を含む熱分解ガソリンMは、熱分解ガソリン処理装置6においてさらに処理され、芳香族Qおよび炭素数が例えば9を超える炭化水素Rが除去される。炭素数が5以上のその他の炭化水素は、留分Sとして分解炉1中に再循環される。処理装置4、また、C4処理装置5および熱分解ガソリン処理装置6は、生成物流または生成物留分をさらに処理するために、種々の処理ステップ、例えば、圧縮、凝縮および冷却、乾燥、蒸留および分留、抽出、ならびに水素化を実行するのに役立つ通常的な装置を含む。この処理ステップは、オレフィンプラントで通常的であり、当業者にとって公知である。
【0042】
次いで、図2の概略プロセスフロー図10は、本発明による方法の本質的ステップを示す。新たな投入物BLは、温和な分解条件下で転化させる分解炉2中に導入される。分解炉2を出る生成物流Xは、有利には700℃〜800℃の間の温度を有する。そこでのプロピレン/エチレン比は、有利には0.7〜1.5kg/kgの間である。生成物流Xは、処理装置4中でさらに処理される。さらなる処理方法および処理装置4における処理は、公知であり、先ほど説明したばかりである。したがって、処理装置4も、先ほど説明したように、生成物留分E〜Nをもたらす。生成物留分LおよびMも、先ほど説明したように、特定の処理装置5および6においてさらに処理される。図1に記載の方法と対照的に、炭素数が4の炭化水素を含む留分Pは、有利には、分解炉2中に再循環される。熱分解ガソリン処理装置6において、前述の留分QおよびRに加えて、留分Tが得られる。炭素数が5の炭化水素を含む留分Tは、有利には、温和な分解条件下で転化させる分解炉2中に再循環される。
【0043】
次いで、図3の概略プロセスフロー図10は、とりわけ有利な形態の本発明による方法、およびその本質的な処理ステップを示す。ここには、通常的分解条件下で転化させる分解炉1、温和な分解条件下で転化させる分解炉2に加えて、有利には新たな投入物の分留装置7も存在する。次いで、新たな投入物B(例えばナフサ)を新たな投入物の分留装置7において分留し、第1の新たな投入物留分B1を分解炉1に導入し、第2の新たな投入物留分B2を分解炉2中に導入する。新たな投入物を分留する方法ついては、オレフィンプラントおよび精製装置から公知のように、炭化水素流を分離および処理するための通常的な方法が使用される。当業者は、これらの方法、およびその利用方法を熟知している。さらに留分Uは分解炉1に再循環され、さらに留分TおよびPは、分解炉2に再循環される(さらなる詳細については後記参照)。さらに、温和な分解条件下で転化させる分解炉2には、炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素から構成されるさらなる投入物BLが、新たな投入物として供給される。前に述べた特性を有する分解生成物流Cが、同様に、分解炉1から出現する。分解生成物流Xが、分解炉2から出現する。分解生成物流Xは、有利には700℃〜800℃の間の温度である。そこでのプロピレン/エチレン比は、有利には、0.7〜1.5kg/kgの間である。生成物流CおよびXは、処理装置4においてさらに処理され、適切な箇所で混合され共通の生成物流を与える。さらなる処理方法および処理装置4における処理は、公知であり、先ほど説明したばかりである。したがって、処理装置4も、先ほど説明したように、生成物留分E〜Nをもたらす。生成物留分LおよびMも、先ほど説明したように、特定の処理装置5および6においてさらに処理される。図1に記載した方法とは対照的に、炭素数が4の炭化水素を含む留分Pもまた、分解炉1中ではなく、分解炉2中に有利に再循環される。熱分解ガソリン処理装置6において、前に述べた留分QおよびRに加えて、留分TおよびUが得られる。炭素数が5の炭化水素を含む留分Tは、分解炉2中に有利に再循環され、一方、炭素数が6以上、特に6〜9の間の炭化水素を含む留分Uは、分解炉1中に有利に再循環される。図3において、分解炉に対して種々の投入物が導入される。これらは、次いで、第2の炭化水素投入物を形成する。種々の投入物の列挙は、決定的ではないこと、より詳細には、第2の分解炉に関して図3に示した投入物、B2、BL、TおよびPは、常にすべてが分解炉2中に導入されることを必要とするわけではなく、代わりに、多くの場合、温和な分解条件下で転化させる分解炉2中に可能な投入物のいくつか、例えば、炭素数が5の炭化水素から構成される再循環留分T、および炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素から構成される新たな投入物BL、または例えば炭素数が5および4の炭化水素を含む再循環留分TおよびP、ならびにLPG BLを導入することで十分であることを言及すべきである。要するに、第2の分解炉中への投入物としては、次の物:B2、BL、T、P、B2+BL、B2+T、B2+P、BL+T、BL+P、T+P、B2+BL+T、B2+BL+P、B2+P+T、BL+P+TまたはB2+BL+P+Tがあり得る。
【0044】
本発明のとりわけ有利な形態は図4にも示される。図4は、図3に示したと同様の概略プロセスフロー図を有する。この図は、留分Vが投入物として導入される気体状投入物のための分解炉3で補足されている。留分Vは、同じく処理装置4中で得られる炭素数が2または3の気体状飽和炭化水素を含む。
【0045】
図5も、本発明の有利な形態を示す。図5は、新たな投入物の分留装置が存在しないことを除けば、図3と同一の概略プロセスフロー図を含む。ここで、新たな投入物は、新たな投入物Bとして第1の分解炉1に添加され、炭素数が多くとも6、好ましくは多くとも5の炭化水素から構成される新たな投入物BLは、第2の分解炉2に添加される。さらなる処理ステップは、図2および3に関する図面の説明中に既に説明されている。
【符号の説明】
【0046】
1 分解炉(通常の分解条件)、2 分解炉(温和な分解条件)、3 気体状投入物のための分解炉、4 処理装置、5 C4処理装置、6 熱分解ガソリン処理装置、7 新たな投入物の分留装置、10 既知プロセスのための概略プロセスフロー図、100 とりわけ有利な形態の本発明によるプロセスのための概略プロセスフロー図、A,B,BL 新たな投入物、B1,B2 新たな投入物留分、C,D,X 生成物流、E〜V 生成物留分。
図1
図2
図3
図4
図5