(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184512
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージング
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20170814BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20170814BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20170814BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
B32B17/10
C03C27/12 N
B32B7/02 103
B32B27/18 J
B32B27/18 A
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-545720(P2015-545720)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公表番号】特表2016-504217(P2016-504217A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】EP2013073575
(87)【国際公開番号】WO2014086555
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年7月28日
(31)【優先権主張番号】12195799.7
(32)【優先日】2012年12月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ユリウス メニヒ
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/036010(WO,A1)
【文献】
特表2009−534283(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/072950(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/010444(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0299328(US,A1)
【文献】
特表2009−534557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/10
B32B 7/02
B32B 27/18
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングであって、当該グレージングは少なくとも、
・外側パネル(1)、及び
・少なくとも1つの熱可塑性シート(12)によって平面的に前記外側パネル(1)と接合されている、電気的に切り替え可能な光学特性を有する機能素子(4)
を有し、ここで前記熱可塑性シート(12)は、少なくとも1種の発光材料(3)を含有し、
前記熱可塑性シート(12)は、前記発光材料(3)を0.1kg/m3〜20kg/m3含有し、
前記発光材料(3)は、励起最大値が350nm〜450nmの範囲にあり、
前記発光材料(3)は、前記熱可塑性シート(12)の全面にわたって均一に分布している、
前記グレージング。
【請求項2】
前記熱可塑性シート(12)が、紫外線防止剤を含有しない、請求項1に記載のグレージング。
【請求項3】
前記機能素子(4)が、少なくとも1種の有機材料を含有する、請求項1又は2に記載のグレージング。
【請求項4】
前記機能素子(4)が、2枚の担持シート(9、10)の間に平面的に配置されており、ここで前記担持シート(9、10)の一方が、少なくとも熱可塑性シート(12)によって、前記外側パネル(1)と接合されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項5】
前記外側パネル(1)とは対向していない熱可塑性シート(12)の表面にバリアシート(14)が配置されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項6】
前記熱可塑性シート(12)が、少なくともエチレンビニルアセテート(EVA)及び/又はポリビニルブチラール(PVB)を含有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項7】
前記発光材料(3)は、励起最大値が380nm〜420nmの範囲にある、請求項1から6までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項8】
前記発光材料(3)は、放射最大値が410nm〜600nmの範囲にある、請求項1から7までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項9】
前記発光材料(3)が、下記化学式:
R1−COO−Ph(OH)x−COO−R2
のヒドロキシアルキルテレフタレートを少なくとも1種含有し、
前記式中、
R1、R2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基又はアリル基であり、
Phはフェニル環であり、
OHはフェニル環に結合したヒドロキシ基であり、
xは1〜4の整数である、請求項1から8までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項10】
前記熱可塑性シート(12)が、前記発光材料(3)を1kg/m3〜7kg/m3含有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項11】
前記熱可塑性シート(12)は380nm〜410nmの波長範囲において、透過率が10%以下である、請求項1から10までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項12】
前記機能素子(4)が、SPD機能素子、PDLC機能素子、エレクトロクロミック機能素子、又はエレクトロルミネッセンス機能素子である、請求項1から11までのいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項13】
前記外側パネル(1)と、内側パネル(2)とから成る合わせガラスである、請求項1から12までのいずれか1項に記載のグレージングであって、前記機能素子(4)が、前記外側パネル(1)と、前記内側パネル(2)の間に平面的に配置されている、前記グレージング。
【請求項14】
電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングの製造方法であって、以下の工程a)〜c):
a)少なくとも1種の発光材料(3)を、熱可塑性シート(12)内に導入する工程、 前記熱可塑性シート(12)は、前記発光材料(3)を0.1kg/m3〜20kg/m3含有し、
前記発光材料(3)は、励起最大値が350nm〜450nmの範囲にあり、
前記発光材料(3)は、前記熱可塑性シート(12)の全面にわたって均一に分布しており、
b)少なくとも1つの外側パネル(1)、熱可塑性シート(12)、及び電気的に切り替え可能な光学特性を有する機能素子(4)を平面的に、この順序で重ねて配置する工程、及び
c)前記機能素子(4)を、前記熱可塑性シート(12)によって、外側パネル(1)と接合する工程、
を有する、前記製造方法。
【請求項15】
前記バリアシート(14)が、少なくともポリエチレンテレフタレート(PET)を含有する、請求項5に記載のグレージング。
【請求項16】
前記熱可塑性シート(12)の厚さが、0.2mm〜2mmである、請求項6に記載のグレージング。
【請求項17】
前記発光材料(3)が、前記熱可塑性シート(12)に内蔵されている、請求項6に記載のグレージング。
【請求項18】
前記発光材料(3)は、放射最大値が430nm〜500nmの範囲にある、請求項8に記載のグレージング。
【請求項19】
前記発光材料(3)が、ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである、請求項9に記載のグレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージング、当該グレージングの製造方法、及び前記グレージングにおける、発光材料含有熱可塑性シートの使用に関する。
【0002】
電気的に切り替え可能な機能素子を有するガラス類(特に合わせガラス)は公知である。機能素子の光学特性は、印加する電圧によって変えることができる。その例は、エレクトロクロミック機能素子であり、これは例えば、US 20120026573 A1、及びWO 2012007334 A1から公知である。別の例はSPD機能素子(懸濁粒子デバイス)であり、例えばEP 0876608 B1、及びWO 2011033313 A1から公知である。印加した電圧によって、エレクトロクロミック機能素子又はSPD機能素子を通過する可視光の透過性が制御できる。つまり、このような機能素子を有するガラス類は、電気的に調光できるため便利である。
【0003】
切り替え可能な機能素子の多くは、貯蔵安定性が限られている。これは特に、外部領域(例えば、機能素子が太陽光にさらされる建築物のファサード又は自動車分野)におけるガラス類での機能素子について当てはまる。紫外線のスペクトル部分、また太陽光線の可視光範囲の短波部分、特に約410nm未満の波長の光線によって、機能素子の老化につながる。この老化は例えば、美観的に問題となる機能素子の褪色又は変色につながり、これらは均一、又は不均一に起こり得る。この老化はまた、切り替え可能な機能性素子の機能性悪化につながることがあり、特に切り替え状態の間のコントラストが減少し得る。
【0004】
切り替え可能な機能素子を、紫外線、及び短波の可視光線から保護するための手法としてまず挙げられるのは、ガラス類に紫外線防止剤又は紫外線吸収剤を導入することであり、例えば被覆として導入するか、又はポリマーシートに内蔵させる。このような解決法は例えば、WO 2012/154663 A1から公知である。紫外線防止剤は、紫外線を、また短波の可視光範囲の光線を太陽光からフィルターカットする。これによって機能素子は確かに、老化から保護されるものの、ガラス類を通る光が明らかに黄色く変色する。このような変色は美観的に望ましくなく、特に自動車製造業者にとっては通常、受け入れがたい。このような紫外線防止剤はさらに、ガラス類を通過する可視光の透過性を低下させる。
【0005】
本発明の課題は、電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングであって、切り替え可能な機能素子を紫外線領域の光線、及び短波可視光範囲の光線から保護する作用を有するものを提供することである。ここでこのグレージングは、可視スペクトル領域で高い透過性を示すこと、またグレージングを通る光の変色が少ないことが望ましい。
【0006】
本発明の課題は本発明によれば、独立請求項1に記載の電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングによって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項から明らかである。
【0007】
電気的に切り替え可能な光学特性を有する本発明によるグレージングは、少なくとも以下の特徴:
・外側パネル、及び
・少なくとも1つの熱可塑性シートによって平面的に前記外側パネルと接合されている、切り替え可能な機能素子
を有し、ここで前記熱可塑性シートは、少なくとも1種の発光材料を含有する。
【0008】
本発明によるグレージング(又はパネル配置)では好ましくは、開放部(例えば自動車の開放部、又は建物の開放部)において、内部空間を外部環境から分離することが想定されている。ここで外側パネルは本発明の意味合いでは、組み込み位置で外部環境に面している。切り替え可能な機能素子は、外側パネルの内部空間側に配置されている。これはつまり外側パネルが外部環境と、切り替え可能な機能素子との間に配置されているということである。原則的に本発明によるグレージングはもちろん、建物の内部でも使用でき、特に紫外線に対する保護が必要な場所で使用できる。この場合に外側パネルは、紫外線源と、機能素子との間に配置されている。
【0009】
本発明の意味合いにおいて、電気的に切り替え可能な特性を有するグレージングとは、光学特性(例えば可視光の透過性)が2つの別の状態(例えば不透明な状態と、透明な状態)の間で切り替え可能なグレージングのみを言うのではない。これはまた、光学特性を連続的に制御可能なグレージングであるとも理解される。
【0010】
本発明によるグレージングは、少なくとも1種の発光材料を含有する熱可塑性シートを、少なくとも1種有する。発光材料を有する熱可塑性シートは、本発明によれば平面的に、外側パネルと、切り替え可能な機能素子との間に少なくとも配置されている。熱可塑性シートは、外側パネルと機能素子との間に配置されていない別の領域を有することができる。熱可塑性シートは例えば、機能素子を超えてはみ出していてよい。
【0011】
つまり、外部環境からグレージングを通った太陽光は、まず発光材料を有する熱可塑性シートに、続いて機能素子に達する。通常の熱可塑性シートは、特定の限界波長(熱可塑性材料によって異なる)未満の紫外線に対しては、透明では無い。このため、太陽光の紫外線部分の一部は、機能素子には達することなく、老化につながることはない。限界波長を上回る紫外線、また可視スペクトル領域の短波部分は、発光材料により吸収されるため、同様に機能素子の老化につながることはない(老化があったとしてもごく僅かである)。可視光領域の短波部分とは、本発明の意味合いでは特に、410nm以下の光線を言う。光線(特に380nm〜410nmの波長範囲の光線)から機能素子を保護することによって、機能素子の老化が明らかに減少することが判明した。
【0012】
しかしながら従来の紫外線防止剤とは異なり、光線エネルギーが、太陽光線から単純にフィルターカットされることはない。その代わりに発光材料が光線エネルギーの一部を、吸収した光線よりも波長が長い発光光線として、再度放射する。従来の紫外線防止剤と比較して、グレージングを通過した光の変色が僅かになる。また、可視光の透過性がより高くなる。これが、本発明の大きな利点である。
【0013】
電気的に切り替え可能な機能素子は、切り替え可能な光学特性を有する活性層を、少なくとも1つ有する。この活性層は、外部の透明な平面電極と、内部の透明な平面電極との間に、平面的に配置されている。ここで外部の平面電極は、外側パネルに対向しており、内部の平面電極は、外側パネルとは対向していない。平面電極と活性層は通常、外側パネルの表面に対して平行に配置されている。平面電極は外部電源と、それ自体公知の方法で電気的に接続されている。電気的な接触は、適切な接続ケーブル(例えば導電性シート)によって行われ、これは任意でいわゆる帯状導電体(バスバー)によって、例えば導電性材料のストリップ若しくは導電性インプリントによって、平面電極と接続されている。
【0014】
切り替え可能な機能素子、好ましくは切り替え可能な機能素子の活性層は、本発明の有利な構成において有機材料(例えば有機マトリックス)を少なくとも1種、含有する。このような活性層は、紫外線による老化に対して特に敏感である。発光材料を有する本発明による熱可塑性シートによって、このような機能素子は、特に効果的に、老化から保護される。
【0015】
本発明による熱可塑性シートは、熱可塑性ポリマーを少なくとも1種含有し、それは好ましくはエチレンビニルアセテート(EVA)、及び/又はポリビニルブチラール(PVB)であり、特に好ましくはポリビニルブチラールである。このような熱可塑性シートは、紫外線領域において透過性が僅かであり、発光材料の内蔵に良好に適している。熱可塑性シートはまた、例えば少なくともポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリアセテート樹脂、注型樹脂、アクリレート、フッ素化されたエチレン−プロピレン、ポリビニルフルオリド、及び/又はエチレン−テトラフルオロエチレンを含有することができる。
【0016】
熱可塑性シートの厚さは、好ましくは0.2〜2mm、特に好ましくは0.3mm〜1mm、例えば0.38mm、又は0.76mmである。このことは、グレージングの薄さ、外側パネルと機能素子との安定的な接合、及び紫外線と短波可視光からの保護という点で特に有利である。
【0017】
本発明の意味合いにおいて「発光材料」という用語は、特に発光顔料、及び発光色素を包含する。発光材料は例えば、有機及び/又は無機の発光化合物、イオン、凝集体、及び/又は分子から形成されていてよい。
【0018】
発光材料は好ましくは、局所励起の最大値が350nm〜450nmの範囲、特に好ましくは380nm〜420nmの範囲にある。これによって、紫外線領域と短波可視光領域における光線が、特に有利に吸収される。
【0019】
発光材料は好ましくは、局所放出の最大値が410nm〜600nmの範囲、特に好ましくは430nm〜500nmの範囲にある。これは、グレージングを通過する光の変色が僅かであるという点で、特に有利である。
【0020】
発光材料は好ましくは、下記式のヒドロキシアルキルテレフタレート:
R
1−COO−Ph(OH)
x−COO−R
2
を含有し、上記式中、R
1、R
2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基又はアリル基であり、Phはフェニル環であり、OHはフェニル環に結合したヒドロキシ基であり、xは1〜4の整数である。その一般構造式は、以下の通りである:
【化1】
【0021】
このような発光材料は、特に有利な吸収特性及び放射特性を有し、持続的に安定しており、熱可塑性シートに良好に内蔵できる。
【0022】
発光材料は好ましくは、ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートを含有する。その構造式は、以下の通りである:
【化2】
【0023】
これによって、特に良好な結果が得られる。
【0024】
発光材料はまた、例えばベンゾピラン、ナフトピラン、2H−ナフトピラン、3H−ナフトピラン、2H−フェナントピラン、3H−フェナントピラン、フォトクローム樹脂、クマリン、キサンチン、ナフタリン酸誘導体、オキサゾール、スチルベン、スチレン、ペリレン、ナフタルイミド、ナフタール、フェニル、キサンテン、ランタノイドを、好ましくはY
2O
3:Eu、YVO
4:Tm、Y
2O
2S:Pr、Gd
2O
2S:Tb、及び/又はこれらの混合物を、含有することができる。
【0025】
発光材料は好ましくは、熱可塑性シート内に内蔵されている。熱可塑性シートにおける発光材料の平均濃度は、好ましくは0.1kg/m
3〜20kg/m
3、特に好ましくは1kg/m
3〜7kg/m
3である。発光材料の濃度に関するこの範囲では、機能素子が老化から、特に効果的に保護される。
【0026】
発光材料は好ましくは、熱可塑性シートの全面にわたって均一に分布している。
【0027】
熱可塑性シートは好ましくは、紫外線防止剤を含有しない。本発明の意味合いにおいて紫外線防止剤とは、紫外線領域及び/又は短波可視光領域の光線を吸収し、吸収した光線のエネルギーを非放射的な形で、特に熱緩和で放出する材料であると理解される。紫外線防止剤を含有しない熱可塑性シートには特に、可視スペクトル領域における透過性が高く、グレージングを通した光の変色が僅かであるという利点がある。
【0028】
本発明によればもちろん、発光材料を有する熱可塑性シートを1つより多く、含有することもできる。
【0029】
本発明の1つの構成において切り替え可能な機能素子は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シート内に含有されている。多層シートは切り替え可能な機能素子を、第一の担持シートと、第二の担持シートとの間に平面的に有する。多層シートは記載順で、少なくとも担持シート、平面電極、活性層、さらなる平面電極、及びさらなる担持シートを有する。担持シートは、少なくとも熱可塑性シートによって、外側パネルと接合されており、ここで熱可塑性シートは、少なくとも発光材料を含有する。その利点は、グレージングが容易に製造できることにある。機能素子は担持シートによって損傷から、特に腐食から保護されて、有利である。
【0030】
担持シートは好ましくは、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)を含有する。このことは、多層シートの安定性という観点で、特に有利である。担持シートはまた例えば、エチレンビニルアセテート(EVA)、及び/又はポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリアセテート樹脂、注型樹脂、アクリレート、フッ素化されたエチレン−プロピレン、ポリビニルフルオリド、及び/又はエチレン−テトラフルオロエチレンを含有することができる。各担持シートの厚さは、好ましくは0.1mm〜1mm、特に好ましくは0.1mm〜0.2mmである。このように厚さが薄い担持シートによって、グレージング全体の厚さは、ほんの僅かしか増加しない。
【0031】
本発明の1つの構成においてグレージングは、外側パネル、及び内側パネル、並びに外側パネルと内側パネルの間に平面的に配置され、電気的に切り替え可能な光学特性を有する機能素子から成る合わせガラスである。内側パネルとは、組み込み位置で内部空間に面しているパネルを言う。
【0032】
本発明によるグレージングが合わせガラスである場合、1つの構成において、切り替え可能な機能素子を、内側パネルの内側表面に設ける。内側の表面は、内側パネルの表面と呼び、外側パネルの方を向いている。
【0033】
本発明によるグレージングが合わせガラスである場合、1つの構成において、切り替え可能な機能素子を、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シートとして作製する。多層シートは切り替え可能な機能素子を、第一の担持シートと、第二の担持シートとの間に平面的に有する。1つの担持シートは、少なくとも第一の熱可塑性シートによって外側パネルと、そして別の担持シートは、少なくとも第二の熱可塑性シートによって、内側パネルと接合されている。この際に少なくとも第一の熱可塑性シートは、発光材料を含有する。第二の熱可塑性シートは原則的に、同様に発光材料を含有することができる。第二の熱可塑性シートは好ましくは、発光材料を含有しない。その利点は、合わせガラスをコスト的に有利に製造できることにある。その利点は、合わせガラスを容易に製造できることにある。電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シートは、製造の際に容易に複合材に内蔵させることができ、これを従来の方法で積層して、合わせガラスにする。機能素子は、担持シートによって有利なことに損傷から、特に腐食から保護されており、また合わせガラス製造の前に比較的多数、作製することができ、このことは経済的、また方法技術的な理由から、望ましいことがある。
【0034】
電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シートは、1つの有利な構成において端部が封止されている。この端部封止により、熱可塑性シートの化学成分(例えば可塑剤)が、活性層に拡散してしまうことが防止される。これによって、切り替え可能な機能素子の老化が低減される。端部の封止は例えば、ポリアミド含有フィルム又はシートによって形成されており、この封止部は多層シートの側方端部の周囲を取り囲んでいる。
【0035】
機能素子は原則的に、それ自体が当業者に公知の、電気的に切り替え可能なあらゆる機能素子であり得る。本発明はもちろん特に、紫外線及び/又は短波可視光領域での照射のもとで老化する機能素子、特に有機材料を含有する機能素子との関連で有利である。
【0036】
本発明の有利な構成において、機能要素の活性層は、エレクトロクロミック的な活性層を有する。このような機能素子は、エレクトロクロミック機能素子として知られている。可視光の透過性は、活性層へのイオン内蔵度に依存しており、ここでイオンは例えば、活性層と平面電極との間にあるイオン貯蔵層によってもたらされる。透過性には、平面電極に印加する電圧(これによりイオンが移動する)によって影響を与えることができる。適切な機能層は例えば、少なくとも酸化タングステン、又は酸化バナジウムを含有する。エレクトロクロミック機能素子は例えば、WO 2012007334 A1、US 20120026573 A1、WO 2010147494 A1、及びEP 1862849 A1から公知である。
【0037】
本発明のさらなる有利な構成において、機能素子の活性層は、液晶(例えばポリマーマトリックスに内蔵された液晶)を含有する。このような機能素子は、PDLC型機能素子(高分子分散型液晶)として公知である。平面電極に電圧を印加しない場合、液晶は無秩序に配向するため、活性層を通った光の散乱が激しくなる。平面電極に電圧を印加する場合、液晶はある共通の方向に配向し、活性層を通った光の透過性は向上する。このような機能素子は例えば、DE 102008026339 A1から公知である。
【0038】
本発明のさらなる有利な構成では、機能素子が、発光性機能素子である。この際、活性層は発光材料を含有し、この発光材料は無機、又は有機(OLED)であってよい。電圧を平面電極に印加することによって、活性層の発光が励起される。このような機能素子は例えば、US 2004227462 A1、及びWO 2010112789 A2から公知である。
【0039】
本発明のさらなる有利な構成において、機能素子の活性層は、懸濁された粒子を含有し、ここで活性層を通る光の吸収は、平面電極に電圧を印加することによって変えることができる。このような機能素子は、SPD(suspended particle device:懸濁粒子デバイス)機能素子として、例えばEP 0876608 B1、及びWO 2011033313 A1から公知である。
【0040】
機能素子はもちろん、活性層と平面電極以外に、さらなるそれ自体公知の層を有することができ、それは例えば、バリア層、ブロック層、反射防止層、保護層、及び/又は平滑層である。
【0041】
機能素子の面積は、グレージングの面積に相当していてよい。そうすれば、切り替え可能な機能素子によってグレージングを均一に調光でき、有利である。グレージングは或いはまた、幅が例えば2mm〜20mmである周囲の端部領域(機能素子を備えないもの)を有することができ、これは特に、この端部領域が、固定要素、枠組み、又は印刷によって覆われている場合に当てはまる。グレージングが合わせガラスとして形成されている場合は特に、切り替え可能な機能素子は、中間層内部で腐食から保護されていることが有利である。
【0042】
内部及び/又は外部の平面電極は好ましくは、透明な導電層から構成されている。平面電極は好ましくは、少なくとも1種の金属、金属合金、又は透明導電性酸化物(TCO:transparent conducting oxide)を含有する。平面電極は例えば、銀、金、銅、ニッケル、クロム、タングステン、インジウムスズ酸化物(ITO)、ガリウム若しくはアルミニウムをドープした酸化亜鉛、及び/又はフッ素若しくはアンチモンをドープした酸化スズを含有することができる。平面電極は好ましくは、その厚さが10nm〜2μmであり、特に好ましくは20nm〜1μm、極めて特に好ましくは30nm〜500nmである。
【0043】
外側パネル、及び/又は任意の内側パネルは、好ましくは非強化ガラス、部分強化ガラス、若しくは強化ガラス、特に好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、若しくは透明プラスチック、特に好ましくは硬質透明プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、及び/又はこれらの混合物である。外側パネル及び/又は内側パネルは清澄、透明であってよく、例えば可視光スペクトル範囲における透過性が少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%であり得る。外側パネル及び/又は内側パネルは色調付け、又は着色されていてよく、例えば可視光スペクトル範囲における透過性が20%〜70%であり得る。
【0044】
外側パネルの厚さと、任意の内側パネルの厚さは、幅広く変えることができ、個々の事例における必要に応じて適合可能である。外側パネル及び/又は内側パネルは好ましくは、厚さが0.5mm〜15mm、特に好ましくは1mm〜5mm、極めて特に好ましくは1.5mm〜3mmであり、例えば1.6mm、1.8mm、又は2.1mmである。
【0045】
本発明によるグレージングの面積は、幅広く変えることができ、例えば100cm
2から20m
2である。グレージングの面積は好ましくは、400cm
2から6m
2であり、この面積は例えば、自動車のガラス類、また建造物や建造物用のガラス類で慣用である。グレージングは、任意の三次元形状を有することができる。グレージングは好ましくは、平らであるか、又は空間の一方向、若しくは複数の方向にやや湾曲、若しくは強度に湾曲している。
【0046】
外側パネルとは対向していない、発光材料を有する熱可塑性シート表面に、本発明の有利な構成では、バリアシートが配置されている。バリアシートは有利には、発光材料がグレージングの他のシートへと、拡散するのを防止する。バリアシートは好ましくは、グレージングを製造及び加工するための温度で、発光材料を拡散させるほど柔らかくはならないポリマーを少なくとも1種、含有する。バリアシートは例えば、少なくともPETを含有することができる。
【0047】
1つの有利な構成では、切り替え可能な機能素子と、外側パネルとの間に、赤外線保護層が配置されている。これによって機能素子は、太陽光の赤外線部分(これにより老化が起こり得る)から保護される。赤外線保護層は例えば、外側パネル上、又はポリマーシート上の被覆として施与されていてよい。
【0048】
外側パネル、内側パネル、及び/又は中間層のシートは、さらなる適切な、それ自体公知の被覆を有することができ、それは例えば、反射防止被覆、接着防止被覆、引掻防止被覆、光触媒被覆、又は熱線反射性被覆(Low-E被覆)である。
【0049】
発光材料を有する本発明による熱可塑性シートの透過性は、380nm〜410nmの波長範囲において、好ましくは10%以下である。
【0050】
本発明によるグレージングは好ましくは、ISO 13837 (AM 1,5)に従ったTUV値が、1%以下である。
【0051】
本発明の課題はさらに、電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングの製造方法によって解決され、この製造方法は少なくとも、以下の工程:
(a)少なくとも1種の発光材料を、熱可塑性シートの上、若しくは熱可塑性シートの中に施与、又は導入する工程、
(b)少なくとも1つの外側パネル、熱可塑性シート、及び切り替え可能な機能素子を平面的に、この順序で重ねて配置する工程、及び
(c)機能素子を熱可塑性シートによって、外側パネルと接合する工程、
を有するものである。
【0052】
発光材料は方法工程(a)において、溶剤とともに熱可塑性シートに塗布することができ、例えば吹き付け、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、及び/又はフレキソ印刷で塗布できる。溶剤は好ましくは、アルコール、ケトン、エステル、アミン、アミド、及び/又はこれらの混合物を含有する。溶剤は特に好ましくは、エタノール、テトラヒドロフラン、及び/又はベンジルアルコールを含有する。溶剤の大部分は、発光材料の塗布後、蒸発により失われる。塗布する発光材料の量は、熱可塑性シートの厚さによって調整する。熱可塑性シートの厚さが0.76mmの場合、好ましくは発光材料を0.1g/m
2〜15g/m
2、特に好ましくは1g/m
2〜5g/m
2、熱可塑性シート上に塗布する。熱可塑性シートを外側パネルと内側パネルとの間に積層する際、発光材料は好ましくは、熱可塑性シートに均一に分布している。この積層は好ましくは、120〜170℃の温度、10〜15barの圧力で、30分〜240分の時間にわたって行う。
【0053】
しかしながら発光材料は、熱可塑性シートの製造前に、熱可塑性出発材料と混合してもよい。この場合に発光材料は、熱可塑性出発材料とともに押出成形して、本発明による熱可塑性シートにし、こうして熱可塑性シートに導入される。
【0054】
方法工程(b)では機能素子を、例えば内側パネルに設けることができる。少なくとも内側パネル、熱可塑性シート、及び外側パネルは引き続き、記載した順で平面的に重ねて配置し、ここで機能素子を備える内側パネルの表面は、熱可塑性シートの方を向いている。
【0055】
或いはまた、機能素子は例えば、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シートとして作製することができ、ここで本来の機能素子は、第一及び第二の担持シートの間に配置されている。熱可塑性シートを外側パネル上に、多層シートを熱可塑性シート上に載せることができる。合わせガラスを製造する場合、少なくとも外側パネル、第一の熱可塑性シート、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シート、第二の熱可塑性シート、及び内側パネルを、記載の順に重ねて配置する。第一の熱可塑性シートは本発明によれば、発光材料を含有する。第二の熱可塑性シートは、発光材料を含有するか、又は発光材料を含有しない。
【0056】
切り替え可能な機能素子の平面電極の電気的接触は好ましくは、外側パネルと機能素子を接合して、本発明によるグレージングにする前に行う。
【0057】
方法工程(c)は好ましくは、熱、真空、及び/又は圧力の作用下で行う。積層のためには、それ自体公知の方法を使用することができ、それは例えばオートクレーブ法、真空吸引法、真空リング法、カレンダー法、真空積層法、又はこれらの組み合わせである。
【0058】
本発明によるグレージングは好ましくは、建築物、特に出入り口若しくは窓の領域において、又は陸上用、航空用、又は水上若しくは水中用の交通移動手段において、特に車両、船舶、及び自動車において、例えばリヤガラス、サイドガラス、及び/又はルーフガラスとして使用される。
【0059】
本発明によるグレージングは別のパネルと接合されて、遮蔽ガラス類になっていてよい。
【0060】
本発明はさらに、電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングにおける、少なくとも1種の発光材料を含有する熱可塑性シートの使用であって、切り替え可能な機能素子を、紫外線、及び短波可視領域(特に380〜410nmの波長領域)における光線から保護するための使用に関する。
【0061】
本発明を図面、及び実施例により、詳細に説明する。図面は概略的な説明であり、縮尺通りでは無い。図面によって、本発明が何ら制限されることは無い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】電気的に切り替え可能な光学特性を有する本発明によるグレージングの第一の構成による断面図を示す。
【
図2】本発明によるグレージングのさらなる構成による断面図を示す。
【
図3】本発明によるグレージングのさらなる構成による断面図を示す。
【
図4】本発明によるグレージングのさらなる構成による断面図を示す。
【
図5】切り替え可能な機能素子の老化を表により示し、紫外線照射及び可視光範囲の短波照射に対する保護がある場合と、無い場合である。
【
図6】従来の熱可塑性シートと、本発明による熱可塑性シートの透過性を表により示す。
【
図7】本発明による方法の実施例をフローチャートにより示す。
【0063】
図1は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する、本発明によるグレージングの配置構成の断面図を示す。グレージングは、外側パネル1を有し、(例えばショーウィンドーの)窓ガラス類として想定されている。外側パネルは、ソーダ石灰ガラスから成る。
【0064】
グレージングはさらに、切り替え可能な機能素子4を有する。機能素子4は活性層5を、外部平面電極6と、内部平面電極7との間に有する。平面電極6、7は、帯状導電体(図示せず)と、接続ケーブル(図示せず)によって、外部の電圧供給部と接続されている。機能素子4は、合わせガラス製造の際、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シート8として作製されていた。多層シート8は機能素子4を、第一の担持シート9と、第二の担持シート10との間に有する。担持シート9、10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から成り、その厚さは0.125mmである。機能素子は例えば、エレクトロクロミック機能素子、又はSPD機能素子である。
【0065】
第一の担持シート9は、ポリビニルブチラール(PVB)製の熱可塑性シート12によって、外側パネルと接合されている。ここで機能素子4は、外側パネル1の内側空間側に配置されている。これはつまり組み込み位置において、外側パネル1が外部環境に、そして多層シート8が構造物の内側空間に、面しているということである。熱可塑性シート12には発光材料3が、約3.9kg/m
3の濃度で内蔵されている。発光材料3は、ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである。
【0066】
図2は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する、本発明によるグレージングの配置構成の断面図を示す。このグレージングは、合わせガラスである。この合わせガラスは、外側パネル1を有し、この外側パネル1は中間層11によって、内側パネル2と接合している。合わせガラスは、建築物の窓用ガラス類の構成要素として想定されており、組み込み位置では、外側パネル1が外部環境に、そして内側パネル2が構造物内部空間に向くよう、配置されている。外側パネル1、及び内側パネル2は、ソーダ石灰ガラスから成り、その厚さは例えば1.6mmである。
【0067】
中間層11には、切り替え可能な機能素子4が内蔵されている。機能素子4は例えば、外部平面電極6と、内部平面電極7との間に、活性層5を有するPDCL機能素子である。或いは機能素子4は例えば、SPD機能素子であり得る。機能素子4は、外側パネル1に面した、内側パネル2の表面に配置されており、ここで内側パネル2の周囲端部領域は、機能素子4を備えていない。平面電極6、7は、帯状導電体(図示せず)と、接続ケーブル(図示せず)によって、外部の電圧供給部と接続されている。平面電極6、7は、インジウムスズ酸化物(ITO)から成り、その厚さは約100nmである。活性層5は液晶を含有し、この液晶は、ポリマーマトリックス内に内蔵されている。平面電極6、7に電圧を印加する場合、液晶はある共通の方向に配向し、液晶による光の散乱は低下する。よって活性層5の光学特性は、電気的に切り替え可能である。
【0068】
中間層11は、熱可塑性シート12によって形成されている。熱可塑性シート12は、発光材料3が内蔵されているポリビニルブチラール(PVB)から成る。熱可塑性シート12は、厚さが例えば0.76mmである。発光材料3は、ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである。発光材料3は、熱可塑性シート12において濃度が約3.9kg/m
3である。
【0069】
機能素子4を備えていない端部領域では、内側パネル2が、熱可塑性シート12によって直接、外側パネル1と接着されている。このため機能素子は、中間層11の内部で腐食から保護されており、有利である。
【0070】
図3は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する、本発明によるグレージングのさらなる配置構成の断面図を示す。このグレージングは、合わせガラスである。この合わせガラスは、外側パネル1を有し、この外側パネル1は中間層11によって、内側パネル2と接合している。この合わせガラスは、自動車のルーフガラスとして想定されており、組み込み位置では、外側パネル1が外部環境に、そして内側パネル2が自動車内部空間に向くよう、配置されている。外側パネル1、及び内側パネル2は、ソーダ石灰ガラスから成り、その厚さは2.1mmである。
【0071】
中間層11には、切り替え可能な機能素子4が内蔵されている。機能素子4は、外部平面電極6と、内部平面電極7との間に、活性層5を有するSPD機能素子である。平面電極6、7は、帯状導電体(図示せず)と、接続ケーブル(図示せず)によって、外部の電圧供給部と接続されている。平面電極6、7は、インジウムスズ酸化物(ITO)から成り、その厚さは例えば、約50nmである。活性層5は、樹脂中に懸濁された極性粒子を含有する。平面電極6、7によって印加される電圧に応じて、懸濁された粒子は、共通の空間方向に沿って配向する。粒子の配向によって、可視光の吸収性が低下する。よって合わせガラスを通った可視光の透過性が電気的に制御でき、便利である。
【0072】
機能素子4は、合わせガラス製造の際、電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シート8として作製されていた。多層シート8は機能素子4を、第一の担持シート9と、第二の担持シート10との間に有する。担持シート9、10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から成り、厚さは0.125mmである。
【0073】
多層シート8は、第一の熱可塑性シート12によって外側パネル1と、そして第二の熱可塑性シート13によって、内側パネル2と接合されている。第一の熱可塑性シート12は、ポリビニルブチラール(PVB)から成り、厚さは0.76mmである。第二の熱可塑性シート13は、エチレンビニルアセテート(EVA)から成り、厚さは0.38mmである。つまり中間層11は、第一の熱可塑性シート12、多層シート8(第一の担持シート9、外部平面電極6、活性層5、内部平面電極9、及び第二の担持シート10を備える)、並びに第二の熱可塑性シート13を有する。
【0074】
第一の熱可塑性シート12には発光材料3が内蔵されている。熱可塑性シート12は、厚さが例えば0.76mmである。発光材料3は、ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである。発光材料3は、熱可塑性シート12において濃度が約3.9kg/m
3である。発光材料3によって、熱可塑性シート12の透過性は、380〜410nmの波長範囲において10%未満である。
【0075】
合わせガラスを通る太陽光の光線部分(紫外線領域及び短波の可視光領域、特に波長が約410nm未満の光線)は、熱可塑性層12によって吸収される。よってこれらの光線部分は、機能素子4の老化にはつながらず、これによって機能素子4の貯蔵安定性が向上する点で、有利である。発光材料3を通じて吸収される光線エネルギーは、より波長が長い蛍光として、再度放出される。従来の紫外線防止剤を用いた場合と比べて、合わせガラスを通った光の変色が減少し、また合わせガラスの透過性が向上する。発光材料3を有する熱可塑性シート12によって、機能素子4は老化からより良好に保護され、このことは当業者には予測できず、また意想外なことであった。
【0076】
図4は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する、本発明によるグレージングのさらなる配置構成の断面図を示す。このグレージングは、合わせガラスである。外側パネル1、内側パネル2、第一の熱可塑性シート12、第二の熱可塑性シート13、及び多層シート8は、
図3と同様に形成されている。多層シート8は、外側パネル1及び内側パネル2よりも面積が小さく、ここで合わせガラスの周囲端部を透かしてみると、多層シート8を備えていない。つまり多層シート8は、合わせガラスの側方端部に対して延伸していない。よって多層シート8は、周辺雰囲気とは接しておらず、中間層11のシートによって側方端部領域が腐食から保護されており、有利である。多層シート8はさらに、周囲端部封止15を備えている。この端部封止15は、ポリイミドシートとして形成されており、このシートは多層シート8の側方端部を取り囲んでおり、側方端部から出発して、担持シート9、10の活性層5とは対向していない表面にわたって数ミリメートル、延伸している。端部封止によって、熱可塑性シート12、13の可塑剤及び他の接着剤成分が、活性層5へと拡散することが防止され、これによって機能素子4の老化が低減する。
【0077】
発光材料3を有する第一の熱可塑性シート12と、多層シート8との間に、バリアシート14が配置されている。バリアシート14はPETから成り、第一の熱可塑性シート12から、発光材料3が第二の熱可塑性シート13へと拡散するのを防止する。バリアシート14はさらに、赤外線保護被覆(図示せず)を備えている。これによって機能素子4は、太陽光の赤外線部分による老化から保護される。
【0078】
図5は、電気的に切り替え可能な光学特性を有する合わせガラスを用いた老化測定の図を示す。合わせガラスは、標準的なウェザロメーター(WOM)で試験した。ここでは合わせガラスに、キセノンアーク灯(この照射によって太陽光スペクトルをシミュレートする)を照射した。ここで外側パネル1は、光源の方を向くように配置した。照射後に、ΔEの値を測定した。ΔEの値により、合わせガラス(特に機能素子4の)の明度と変色が、WOM試験で得られる。よってΔEの値は、機能素子4の老化に対する基準となる。この値は、以下の式によって計算される:
【数1】
ここでL
*は明度、a
*、及びb
*は、L
*a
*b
*色空間の色座標である。Δは、WOM試験前、及びWOM試験後の各大きさの差分を表す。
【0079】
ΔEの値は、本発明による実施例、及び二つの比較例について測定し、
図5では、照射時間を横軸に取ってある。本発明による例は、
図3に記載の合わせガラスであった。第一の熱可塑性シート12には発光材料3が内蔵されていた。比較例1は実施例とは、第一の熱可塑性シート12が異なっていた。比較例1における熱可塑性シート12は、エチレンビニルアセテート(EVA)から成っており、その厚さは0.38mmであり、発光材料3を含有していなかった。比較例2における合わせガラスは、比較例1とまったく同様に形成されていた。ただし、照射の際に比較例2では、紫外線に対して、また500nm未満の波長を有する可視光領域に対して透明では無い光学フィルターが、照射源と合わせガラスとの間に配置されている。
【0080】
図5から分かるように、紫外線及び短波可視光領域における光線から合わせガラスを保護することにより、機能素子4の老化が明らかに僅かになる。比較例2におけるΔEの値は、あらゆる観察時間において、比較例におけるものよりも明らかに少ない。本発明による例におけるΔEの値は、比較例2のΔEの値とほぼ同一直線上にある。つまり、発光材料3を有する本発明による熱可塑性シート12によって、紫外線、及び短波可視光領域における光線から、光学フィルターと同程度、効果的に保護される。この結果は当業者には予測不能であり、また意想外であった。
【0081】
図6は、EVA製の熱可塑性シート、PVB製の熱可塑性シート、及び内蔵された発光材料3を有する本発明による熱可塑性シート12の透過性を示す。本発明による熱可塑性シート12はPVBから成り、発光材料3としてのジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートを、約3.9kg/m
3の濃度で含有する。熱可塑性シートはそれぞれ、紫外線〜特定の波長に対する透過性が、ほぼ0%である。しかしながら波長が大きくなるにつれ、熱可塑性シートの透過性は最大約90%まで増加する。外側パネル1と、電気的に切り替え可能な光学特性を有する合わせガラスの切り替え可能な機能素子4との間に、熱可塑性シートが配置されている場合、透過した紫外線、また短波可視光領域における光線によって、機能素子4は老化し得る。グラフからも分かるように、PVB製のシートは、EVA製のシートよりも、紫外線スペクトル領域の透過性が低い。発光材料をシートに内蔵させると、紫外線領域、及び短波可視光領域において透過した光線部分は、さらに減少する。表1には、380nm、390nm、400nm、及び410nmにおけるシートの透過性がまとめてある。電気的に切り替え可能な光学特性を有する合わせガラスの熱可塑性シート12として、発光材料を有するPVBシートを用いることにより、切り替え可能な機能素子4の老化を、効果的に減少させることができる(
図5参照)。この結果は当業者には予測不能であり、また意想外であった。
【表1】
【0082】
図7は、電気的に切り替え可能な光学特性を有するグレージングを製造するための、本発明による方法の実施例を示す。この実施例により、
図3に記載の本発明による合わせガラスにつながる。まず溶剤中の発光材料3を、第一の熱可塑性シート12の表面に施与する。ここで熱可塑性シート12における発光材料3の濃度は、例えば3g/m
2である。第二の熱可塑性シート13を、内側パネル2に載せる。多層シート8を電気的に接触させ、第二の熱可塑性シート13に載せる。第一の熱可塑性シート12を、多層シート8に載せる。外側パネル1を、第一の熱可塑性シート12に載せる。続いてこの積層体を、温度、圧力、及び/又は真空の作用下で積層させて合わせガラスにする。
【符号の説明】
【0083】
(1)外側パネル
(2)内側パネル
(3)発光材料
(4)電気的に切り替え可能な光学特性を有する機能素子
(5)機能素子4の活性層
(6)機能素子4の外部平面電極
(7)機能素子4の内部平面電極
(8)電気的に切り替え可能な光学特性を有する多層シート
(9)多層シート8の担持シート
(10)多層シート8の担持シート
(11)中間層
(12)熱可塑性シート
(13)熱可塑性シート
(14)バリアシート
(15)端部封止