【実施例】
【0070】
実施例1:減数分裂期キネシンに関連する疾患または障害の治療のための治療標的の同定
本実施例において、RNAiスクリーニングを使用して、過剰な中心体をクラスター形成するのに必要とされる分子経路を包括的に画定した。特徴付けられた8つのショウジョウバエ細胞株のうち、ほぼ4倍体のS2細胞が、スクリーニングに最も適し、これは、細胞の50%超が、有糸分裂中に2つの極に有効にクラスター形成される過剰な中心体を含むためであった。ゲノム全体でのスクリーニングのスキームを
図1に図示し、これは、一次および二次スクリーニングのための詳細な手順を提供する。
【0071】
ショウジョウバエゲノムの約99%(約14,000個の遺伝子)を標的とする23,172個のdsRNAをスクリーニングして、S2細胞内において、そのノックダウンが多極性紡錘体(中心体のクラスター分離)につながる遺伝子を同定した。S2細胞を、4日間、dsRNAに曝露させ、有糸分裂像を、RNAi処理の最後の9時間の間、プロテアソーム阻害剤MG132を用いた処理によって強化させた。細胞をDNA、微小管(MT)、および中心体について染色し、画像を、ハイスループット自動顕微鏡を使用して、20倍対物レンズで得た。
【0072】
より具体的には、S2細胞を、0.25μgのdsRNA(dsRNAは、Drosophila RNAi Screening Center,DRSC,
http://flyrnai.orgで入手可能である)を事前に播いた384ウェルプレート内の無血清のシュナイダー培地において、1×10
4個の細胞/ウェルの密度で播いた。細胞を、室温(RT)で、40分間、無血清培地内でdsRNAとともにインキュベートし、次いで血清含有培地を添加し、タンパク質の喪失を可能にするように、3.5日間インキュベートした。中期−後期移行を阻止するために、該RNAi処理(3.5日間、RNAiで処理された細胞)の最後に、25μMのMG132、プロテオソーム阻害剤を添加し、さらに9時間インキュベートした(合計、約4日間のRNAiインキュベーション)。有糸分裂細胞の付着を促進するために、RNAiで処理された細胞を再懸濁し、コンカナバリンA(Con−A、0.25mg/ml)で事前にコーティングされた新たな384ウェルプレートに移し、これらのプレートを、1分間、1,000rpmで回転させた。細胞を、PBS(pH7.2)中の4%のパラホルムアルデヒド(PFA)内で固定し、PBS−トリトン0.01%(PBST)で透過処理し、PBST中の0.5%のSDSでインキュベートし、免疫染色に進むまで、4℃でPBST中に維持した。
【0073】
一次スクリーニングでは、該固定細胞を、MTおよび中心体について、それぞれFITC抗α−チューブリン(DMlA、1:300、Sigma)抗体およびマウス抗γ−チューブリン(GTU88、1:500)抗体を用いて染色した。Alexa Fluor568または594ロバ抗マウスIgGを、二次抗体(1:1000)として使用した。細胞を、DNAについて、PBST中のHoechst33342(1:5000、Invitrogen)を用いて染色し、4℃の同一溶液中で保存した。
【0074】
一次スクリーニングでは、細胞を、ImageXpress Micro(Molecular Devices、ICCB、倒立完全自動落射蛍光顕微鏡、レーザー自動焦点、測光CoolSNAP ESデジタルCCDカメラ装備、分析用MetaXpress)、または20倍空気対物レンズを使用した、Discovery−1(Molecular Devices、DRSC、自動フィルターおよびダイクロイックホイール、ならびに6個の対物レンズのターレット、高速レーザー自動焦点、ならびに複数のウェルプレートにおいて、1回の分析当たり最大8個の蛍光色素分子を測定可能)のうちのいずれか一方の自動顕微鏡を使用して、撮像した。自動焦点を、FITC(MT)上で実施し、画像を、3つのチャネル(Hoechst、Cy3、およびFITC)について単一焦点面から得た。
【0075】
二次スクリーニングは、96ウェルプレート(5×10
4個の細胞/ウェルに、1μgのdsRNA/ウェル)内で実施し、一次スクリーニングとほぼ同一の方法に従った。RNAiの最後に、細胞を、高分解能撮像のために、96ウェルガラス底プレート(Whatman)に移した。細胞を、有糸分裂細胞を同定するために、抗ウサギリン酸ヒストンH3およびAlexa Fluor660ロバ抗ウサギIgGを使用してさらに染色した。すべての中心体の撮像を保証するために、Zeiss Axiovert顕微鏡および1μmのステップサイズを有する40倍空気ELWD対物レンズ(Zeiss)を使用した、Slidebrookソフトウエア(Intelligent Imaging Inovations,Denver,CO)を用いて3D画像を撮影した。Zスタックの高さ(開始点および終了点)を、すべての701RNAi条件のために手動で調整した。
【0076】
約96,000個の画像の目視検査によって、それぞれのRNAi条件に対する多極性紡錘体の割合を記録した。スクリーニング結果を、以下の表1にまとめる。
【0077】
(表1)S2細胞におけるRNAiスクリーニング結果のまとめ
【0078】
95%の信頼区間を使用して、一次スクリーニングは、多極性紡錘体表現型に関連する701個の候補を同定した。表現型の強度、容易に同定可能な哺乳類ホモログの存在、およびわずかであるか、または全くない予想されたオフターゲット効果に基づくさらなる研究のために、292個の遺伝子を初期コホートとして選択した。また、紡錘体多極性が細胞質分裂不全の二次効果である場合があるため(Goshima,G.et al.(2007)Science
316:417−421)、以前、ショウジョウバエ細胞における細胞質分裂に必要であると判定された遺伝子の殆どを除外した(Echard,A.et al.(2004)Curr Biol
14:1685−1693、Eggert,U.S.et al.(2004)PLoS Biol
2:e379)。二次スクリーニングのために選択された292個の遺伝子のうち、133個は、中心体クラスター形成における真の役割を有することが確認された。確認された遺伝子の中で、同定された遺伝子の62%(133個の遺伝子のうち83個)は、哺乳類ホモログを有する一方、該遺伝子の33%(44個)は、周知の機能を有さない。中心体クラスター形成は、異なる効率で生じることができる。欠損の以下の分類を区別した:紡錘体周辺に散在した複数の中心体を有する二極性紡錘体、小さな多星状体の紡錘体、および大きな多極性紡錘体。
【0079】
該スクリーニングは、過剰な中心体の組織化を制御する機構における理解されていない複雑性を示唆する多様な範囲の細胞プロセスに関与する、紡錘体MTの束化を促進するいくつかの遺伝子、例えば、マイナス端方向性キネシンNcd(ヒトHSET)を含む遺伝子を同定した。該スクリーニングは、予想外のプロセスにおける遺伝子も同定した。SAC、アクチン、細胞極性および細胞接着に必要とされる遺伝子の発見により、多極性有糸分裂を抑制する機構が示唆された。以下に、多極性有糸分裂を抑制する3つの重複機構(SACを使用するタイミング機構、MT制御因子に依存する固有の極クラスター形成機構、ならびにアクチンおよび細胞接着を必要とする新規機構)を定義する実験を表す。
【0080】
実施例2:紡錘体形成チェックポイント(SAC)は、多極性有糸分裂を阻止する
SAC構成要素であるMad2、BubR1(ヒトBub1)およびCENP−Meta(ヒトCENP−E)は、中心体クラスター形成に必要である。
図2は、Mad2が中心体クラスター形成に必要であることを図示する。中心体クラスター形成の欠損は、EGFP、Mad2のRNAiのみ、および7時間のMG132の処理を加えたEGFPまたはMad2のRNAiの際に、S2細胞内で記録した。
図2のグラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±Sd、*p<0.05、***p<0.001、スチューデントのt検定)。
【0081】
図2に示す結果は、中心体クラスター形成のプロセスにおけるSACが果たす役割を示す。この必要条件は、MG132による処理が施されていない細胞において、さらにより明らかであり、これは、スクリーニングに使用されたMG132による短期処理により、紡錘体多極性へのSAC遺伝子RNAiの影響が部分的に遮蔽されたことを示す。該SACが多極性紡錘体または複数の中心体によって活性化されないことを示唆する、PtK1細胞における以前の研究を考慮すると、この知見は若干意外であった(Sluder,G.et al.(1997)J Cell Sci
110(Pt4);421−429)。
【0082】
低速度撮影の撮像は、多極性有糸分裂を阻止する上でのSACが果たす役割を支持した。中心小体およびMTが、GFP−SAS−6およびmCherryα−チューブリンで標識されているS2細胞において、中心体の増加数と、二極性紡錘体を形成するのに必要な延長された時間(2.7倍)との間の明確な相関関係が存在した。NEBDと後期開始との間の間隔を、2つまたは2つより多い中心体を有する細胞と比較して、測定した(GFP−Cid、Drosophila CENP−Aを用いて目視化)。2つの中心体を有する細胞に対して、複数の中心体を有する細胞は、後期開始において、著しい遅延を呈した(1.8倍)。その上、後期開始における該遅延は、Mad2RNAiによって消滅し、これらの細胞は、クラスター分離した中心体および不整列の動原体を伴って後期に突入した。SAC活性化をさらに示唆する、多極性後期前紡錘体は、二極性中期紡錘体に対して、BubRl集束(foci)の数において、大きな増加を有した。最後に、多極性有糸分裂を阻止するためのSACの必要条件は、MG132を用いた処理によって与えられた人工的な中期遅延によって、部分的に抑制することができる。これは、SACが多極性有糸分裂自体を監視しないことを示唆するのではなく、むしろ、異常な動原体付着または張力によって恐らく引き起こされるSAC活性化が、代償機構に対し複数の中心体を組織化するのに十分な時間を提供することを示唆する。
【0083】
実施例3:紡錘体固有の極クラスター形成力は、多極性有糸分裂を阻止する
S2細胞における以前の研究は、紡錘体極集束におけるMTモーターおよびMAPが果たす重要な役割を示した(Goshima,G.et al.(2005)J Cell Biol
171:229−240、Morales−Mulia,S.and Scholey,J.M.(2005)Mol Biol Cell
16:3176−3186)。実施例2 1に説明したスクリーニングは、一次スクリーニングにおける最大の的中として、Ncd、キネシン−14ファミリーメンバーを同定した。Ncdは、紡錘体極においてMTを束化する、マイナス端方向性モーターである(Karabay,A.and Walker,R.A.(1999)Biochemistry
38:1838−1849)。GFP−SAS−6標識によって、Ncdが複数の中心体をクラスター形成するのに必要であることが示された。ショウジョウバエダイニンは、該スクリーニングにおいて同定されなかった。これは、ダイニンの欠乏が中心体付着および紡錘体極の強い集束に影響を及ぼすにもかかわらず、S2細胞において、ダイニンの欠乏が多極性有糸分裂を有意には誘導しないためであると予想される(Goshima,G.et al.(2005)J Cell Biol
171:229−240)。該スクリーニングのさらなる検証から、極集束におけるMAP Aspの役割を確認した(Morales−Mulia,S.and Scholey,J.M.(2005)Mol Biol Cell
16:3176−3186、Wakefield,J.G.et al.(2001)J Cell Biol
153:637−648)。
【0084】
また、該スクリーニングは、紡錘体MTの固有の凝集性に寄与する様々な他の因子を同定した。中心体クラスター形成におけるBj1/RCC1(RanGEF)の必要条件が同定され、哺乳類細胞における多極性有糸分裂を阻止する上でのその役割と一致した(Chen,T.et al.(2007)Nat Cell Biol
9:596−603)。ADPリボシル化因子である、タンキラーゼおよびCG15925、推定ヒトPARP−16ホモログが果たす役割も同定された(Schreiber,V.et al.(2006)Nat Rev Mol Cell Biol
7:517−528)。タンキラーゼによるADPリボシル化は、MTモーターおよび他の紡錘体タンパク質を固定し得る静止マトリクスを提供することによって、紡錘体二極性に寄与すると考えられる(Chang,P.et al.(2005)Nat Cell Biol
7:1133−1139)。有糸分裂におけるPARP−16が果たす役割は、以前に説明されていない。
【0085】
実施例4:アクチン依存力は、紡錘体多極性を制御する
紡錘体MTの束化および組織化に寄与する可能性の高い遺伝子の他に、予期せずに、ホルミンForm3/INF2等のアクチン細胞骨格の組織化および制御に関与する遺伝子も同定した(Chhabra,E.S.and Higgs,H.N.(2006)J Biol Chem
281:26754−26767)。これらの遺伝子のノックダウンは、細胞質分裂不全を引き起こすことによる多極性有糸分裂の間接的な誘導をもたらすものではない。アクチン細胞骨格を破壊する小分子による短時間(2時間)の処理を使用する実験は、同様に、多極性有糸分裂を誘導する。
【0086】
より具体的には、2時間、ラトランクリン(40μMのLatA)、サイトカラシンD(20μM)を用いて細胞を処理し、中心体クラスター形成の欠損の割合を決定した。結果を
図3に示し、これは、S2細胞内の中心体クラスター形成のためのアクチン細胞骨格の必要条件を示す。グラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±SD、*p<0.05、**p<0.005、スチューデントのt検定)。
【0087】
さらに、S2細胞の生細胞撮像により、アクチンが複数の中心体の初期のクラスター形成に実際に必要であることが明らかになった。対照に対して(14.7±6.4分)、15個中13個のLatA処理された細胞内の中心体クラスター形成において、1.5倍の遅延があった(22.1±12.3分)。15個中残りの2個の細胞は、過剰な中心体をクラスター形成することが全くできなかった。LatA処理によって誘導された細胞周期の遅延は、LatA処理された細胞内のBubRlによる動原体の顕著な標識によって証明されるとおり、SACの活性による可能性が高い。
【0088】
次に、皮質収縮が中心体クラスター形成に必要であるかどうかを判定した。細胞膜を架橋し、それによって皮質収縮を全体的に阻害する、可溶性四価レクチンコンカナバリンA(Con−A)に、2時間、細胞を曝露させた(Canman,J.C.and Bement,W.M.(1997)J Cell Sci
110(Pt16):1907−1917)。Con−A処理後の中心体クラスター形成欠陥の割合を決定した。結果を
図3にも示し、これは、Con−A処理が中心体クラスター形成欠陥を誘導したことを示す。
【0089】
さらに、ミオシンに基づく収縮性を強化させることによって、紡錘体の多極性を抑制することができることが発見された。低濃度のカリクリンA(CA)は、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)を阻害し、その分布を変化させずにミオシンII活性を促進する(Gupton,S.M.and Waterman−Storer,C.M.(2006)Cell
125:1361−1374)。CAで処理された野生型S2細胞は、中心体クラスター形成欠陥において軽度の減少を有した(15%〜9%)。また、CA処理は、NcdのRNAiによって誘導された中心体クラスター形成欠陥を部分的に回復させた。したがって、過剰な中心体を有する細胞における、アクチンおよびアクチンに基づく収縮性は、有糸分裂が二極性となるかまたは多極性となるかに影響を与える。
【0090】
アクチンおよび固有の紡錘体の力が、協力して作用して、多極性有糸分裂を阻止するかどうかも判定した。実際に、NcdまたはBj1/RCC1欠失細胞におけるLatA処理は、紡錘体の多極性における組み合わせ的な増加をもたらした。この見解をさらに評価するために、低速度撮影の回転ディスク顕微鏡を使用して、Ncd欠失S2細胞における中心体の動作の軌道を画定した。対照細胞と比較して、Ncd欠失細胞における中心体は、移動性において著しい増加を呈し、動作の速度および範囲の両方も増加した。また、中心体動作の大部分は、紡錘体から離れ、かつ細胞皮質に向かって方向付けられた。Ncd欠失細胞における中心体の移動性は、LatAへの細胞の過度の曝露によって大幅に減少し、これは、これらの皮質の牽引力に対するアクチンの必要性を示す。したがって、皮質力は、固有の紡錘体の束化力と連携して、複数の中心体を組織化する。
【0091】
これらの結果は、紡錘体の多極性を制御する皮質力ジェネレーターの性質についての手がかりも提供する。MT+チップCLIP−190およびミオシンMyo10Aが、中心体クラスター形成に重要であることが発見された。ショウジョウバエMyo10Aは、独自のMyTH4−FERMドメインを介してMTに結合することができる、ヒトMyo15のホモログである。哺乳類MyTH4−FERM含有ミオシンのメンバーである、Myo10は、紡錘体の位置付けに必要であることが分かっている(Sousa,A.D.and Cheney,R.E.(2005)Trends Cell Biol
15:533−539、Toyoshima,F.and Nishida,E.(2007)EMBO J
26:1487−1498、Weber,K.L.et al.(2004)Nature
431:325−329)。他のショウジョウバエMyTH4−FERM含有ミオシンMyo7ではなく、Myo10AのRNAiは、細胞質分裂不全なく、中心体クラスター形成欠陥の2倍の増加を誘導した(Eggert,U.S.et al.(2004)PLoS Biol 2,e379)。また、Myo10Aのノックダウンは、細胞がLatAで同時に処理された場合に、紡錘体の多極性に対するさらなる効果を有さなかった。最後に、Myo10A欠失細胞の中心体の追跡により、LatA処理と同様の中心体動作に対する効果が明らかになり、Ncd欠失細胞に見られる広範囲の皮質方向性の動作と比較して、Myo10が欠失する細胞内では、中心体の無作為動作または大幅に減少された動作のみが検出された。それと共に、該データは、複数の中心体が、紡錘体に固有の力、および星状体MTに少なくとも部分的に作用するアクチン依存性皮質力によって、組合せ的に組織化されることを示す。
【0092】
実施例5:紡錘体の多極性に対する細胞の形状、細胞の極性、および接着の影響
該スクリーニングは、中心体クラスター形成のための細胞接着に関与する遺伝子である、カメ、ウニ網、Cad96Ca、CG33171、およびFit1の必要条件を同定した。タンパク質Fit1を含有するショウジョウバエFERMドメインは、高等真核動物において、細胞−マトリクス接着を制御する上で高度に保存された機能を有するように見える(Rogalski,T.M.et al.(2000)J Cell Biol
150:253−264、Tu,Y.et al.(2003)Cell
113:37−47)。該哺乳類Fit1ホモログ、Mig−2/ヒトPLEKHC1は、接着斑(FA)に局在し、かつ、インテグリンをアクチン細胞骨格に連結させることによる、インテグリン媒介細胞接着および細胞形状の調節に重要である(Tu,Y.et al.(2003)Cell
113:37−47)。未同定のCG33171タンパク質は、以前、細胞マトリクス接着の制御と結びつけられた、哺乳類Col18Aに対するホモロジーを有する(Dixelius,J.et al.(2002)Cancer Res
62:1944−1947、Wickstrom,S.A.et al.,(2004)J Biol Chem
279:20178−20185)。カメおよびウニ網含有フィブロネクチン3型ドメインは、細胞−細胞接着に関与する(Bodily,K.D.et al.(2001)J neurosci
21:3113−3125、Wei,S.Y.et al.(2005)Dev Cell
8:493−504)。また、後方/外側(lateral)極性遺伝子PAR−1(PAR−1/MARK/KIN1ファミリーメンバー)および頂端(apical)極性遺伝子であるCrumbsおよびCornettoを同定し、これらは、星状体MT機能、非対称的な細胞分裂、および上皮極性に重要である(Bulgheresi,S.et al.(2001)J Cell Sci
114:3655−3662、Munro,E.M.(2006)Curr Opin Cell Biol
18:86−94、Tepass,U.et al.(2001)Annu Rev Genet
35:747−784)。いくつかのこれらの遺伝子は、正常な間期細胞の形状および接着を維持するためのそれらの必要条件のために、以前に同定されている。実際、LatA処理またはMyo10喪失は、CG33171、Fit1、Crumbs、Cornetto、またはPAR−1タンパク質の喪失と組み合わされた場合、紡錘体の多極性の強化を呈さず、これは、これらの遺伝子が、アクチン細胞骨格を介した中心体クラスター形成に影響を与えることを示す。
【0093】
実施例6:多極性有糸分裂を阻止するための機構の保存
次に、S2細胞に認められるように、哺乳類の癌細胞が同様の機構を使用して、複数の中心体をクラスター形成するかどうかを判定した。これは、ヒトの癌に対するスクリーニングの妥当性を確立するものであり、かつ多極性有糸分裂に対する接着および細胞形状の影響を直接特性化することを可能にした、哺乳類の癌細胞を使用する技術のためのものである。その有効性において、いくつかの変動性が存在するが、過剰な中心体のクラスター形成は、哺乳類の細胞において共通して認められる。
【0094】
哺乳類の細胞における過度のアクチン崩壊の影響を判定するために、DMSO、LatA(5μM)、またはジヒドロサイトカラシンB(DCB)(10μM)を用いて、2時間、細胞株MCF−7、MDA−231、MMEDX 4N、およびN1E−115を処理した。MCF−7細胞株は、2つの中心体を含む一方、他の細胞株は、2つより多い中心体を含む。結果を
図4に示す。グラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±SD、*p<0.05、**p<0.005、***p<0.001、スチューデントのt検定)。
図4に図示するとおり、過度のアクチン崩壊は、正常な中心体の数を有する細胞内ではなく、複数の中心体を含む細胞株内の多極性紡錘体の頻度において著しい増加をもたらした。これらの多極性紡錘体は、過剰な中心体のクラスター分離から生じ、中心小体の分裂/断片化によるものではなかった。アクチンは、恐らく、星状体MT上の力を介した中心体の位置付けに影響を与えると考えられる。この見解に一致して、星状体MTを選択的に分解する(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol
7:947−953)低用量のノコダゾール処理は、特に過剰な中心体を有する細胞内において多極性紡錘体の頻度を増加させた。
【0095】
ショウジョウバエの細胞と哺乳類の細胞との共通点は、中心体クラスター形成のための遺伝的必要条件にまで及ぶ。これをさらに調査するために、以下のとおり、哺乳類HSET(Ncdホモログ)およびMyo10遺伝子を用いてsiRNA実験を実施した。ヒトHSET、ヒトMyo10、およびマウスMyo10に対するsiRNAの4つの異なるオリゴの混合されたプール(ON−TARGETプラスおよびSMARTプール)をDharmaconから購入した。マウスHSETに対するsiRNAをAmbionから購入した。非特異的なスクランブルsiRNAを対照として使用した(Ambion)。siRNAのオリゴ配列を以下の表2に示す。
【0096】
(表2)siRNAオリゴ配列
【0097】
製造業者の説明書に従って、50nMのsiRNA最終濃度を有する、リポフェクタミンRNAiMAX(Invitrogen)を用いて、細胞をトランスフェクトした。トランスフェクト後、3日間、細胞を分析/採取した(特に規定がないかぎり)。
図5および6は、MDA−231およびMCF−7細胞におけるsiRNAの3日後のHSET(
図5)またはMyo10(
図6)の喪失を示す、ウェスタンブロットの結果を示す。
図7は、HSETまたはMyo10のsiRNAでの処理の時点で、MCF−7またはMDA−231細胞内に多極性紡錘体を有する細胞の割合を示す棒グラフである。
図7に示す結果は、NcdホモログHSET(キネシン−14メンバー)およびMyo10のsiRNAが、特に、複数の中心体を含む細胞(即ち、MDA−231細胞)において、多極性の頻度を増加させたことを示す。S2細胞と同様に、Myo10で誘導された多極性は、細胞質分裂不全の結果ではない。
【0098】
最後に、皮質アクチン細胞骨格が、固有の紡錘体の極クラスター形成力とともに、中心体の組織化に影響を与えるかどうかを、アクチン崩壊剤LatAと組み合わせたHSETまたはMyo10のsiRNAの処理によって判定した。
図8に示すとおり、アクチンおよびHSETの両方の崩壊は、組み合わせ効果を有し、個々の処理に対して多極性紡錘体の頻度を増加させた。Myo10のsiRNAがLatA処理と組み合わされる場合は、そのような効果は認められなかった。したがって、同様の重複機構は、哺乳類の癌細胞およびショウジョウバエS2細胞において、多極性有糸分裂を阻止する。
【0099】
実施例7:間期細胞形状、接着、および多極性有糸分裂
細胞は、有糸分裂において丸まるが、それらは、強い細胞マトリクス接着部位に連結されたアクチン含有収縮繊維(RF)を保持することによって、それらの間期形状の記憶を保護する(Mitchison,T.J.(1992)Cell Motil Cytoskeleton
22:135−151、Thery,M.and Bornens,M.(2006)Curr Opin Cell Biol
18:648−657)。アクチン含有RFの間期接着パターンおよび分布が、有糸分裂中の紡錘体の配向に大きく影響を与えることは周知である(Thery,M.et al.(2007)Nature
447:493−496、Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol
7:947−953)。多極性有糸分裂を阻止することには、細胞マトリクス接着遺伝子およびアクチン制御の両方が必要であるという該スクリーニングからの所見は、これらの遺伝子産物が、収縮繊維(RF)の分布および/または組成物に影響を及ぼし、したがって、皮質力制御に影響を及ぼすことによって、協力的に作用して、過剰な中心体を組織化することができるという興味深い仮説を示唆する。
【0100】
様々な一連の証拠が、この仮説を支持する。第1に、生細胞撮像を使用して、間期細胞形状を、有糸分裂中の細胞分裂のパターンと相関させた。間期において細長い、または偏極形状と仮定したMDA−231(過剰な中心体を含む乳癌細胞)は、ほぼ均一に二極性分裂を行った。対照的に、間期において円形形状と仮定したMDA−231細胞は、多極性分裂の頻度の増加を有した。第2に、4倍体細胞BSC−1の厚いRFがDIC撮像によって容易に目視化される4倍体細胞BSC−1において、該RFの位置付けと、細胞が二極性(RFの二極性分布)または多極性分裂(RFの等方性分布)を行ったかどうかとにおける強い相関関係に注目した。第3に、RFは、ERMタンパク質エズリン等の特異的タンパク質を蓄積し、それらは、皮質の不均一性に関与し、それによって、星状体MT上において局所的な力発生に関与する。srcキナーゼ阻害剤PP2によるこの皮質の不均一性の崩壊(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol 7:947−953)はまた、MCF−7細胞内ではなく、MDA−231細胞内において多極性紡錘体を誘導した。第4に、有糸分裂の効率に対する細胞マトリクス接着の役割を評価するために、細胞を、細胞マトリクス付着の強度を変化させるために、異なる濃度のフィブロネクチン(FN)に播いた。接着斑(FA)ターンオーバー(30μg/ml)を阻害するFNの濃度は、MCF−7細胞ではなく、MDA−231細胞における多極性紡錘体の頻度を増加させた。また、この影響は、皮質の収縮性を増加させることによって、FAターンオーバーを促進するCAによって、逆転することができる(Gupton,S.L.and Waterman−Storer,C.M.(2006)Cell
125:1361−1374)。
【0101】
中心体クラスター形成において、細胞接着パターンおよびRF位置付けの役割を直接試験するために、FNのマイクロ接触プリンティングを使用して、細胞接着パターンを操作した(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol
7:947−953)。Y型またはO型微小パターン上に播いたMDA−231細胞は、対照と比較して、多極性紡錘体の著しい(3〜4倍)増加を有した。対照的に、H型微小パターン上に播いた細胞は、対象細胞に対して多極性紡錘体の頻度を抑制した(2%、対照の半分)。したがって、接着性接触のOおよびY配列は、多極性有糸分裂に細胞を偏らせる一方、接着性接触の二極性配列(H型)は、二極性有糸分裂を促進する。これらの知見は、間期細胞接着パターン、したがって、細胞形状が、特に、過剰な中心体を含むがん細胞における有糸分裂の忠実度に著しい影響を及ぼすことができることを示す。
【0102】
実施例8:中心体クラスター形成の崩壊は、癌細胞を選択的に死滅させることができる
原則として、中心体クラスター形成の崩壊は、大半の体細胞が、有糸分裂中に2つの中心体を含むため、複数の中心体を含む癌細胞の生存能力に対し選択的な影響を有することができる。この潜在的な治療戦略の評価に向けた第1のステップとして、異なる癌細胞株の、HSETのノックダウンに対する感度を決定した。
【0103】
HSETは、それが正常な細胞の細胞分裂に必須ではなく、かつキネンシンが小分子阻害に適しているため、特に興味深い治療標的である(Mayer,T.U.et al(1999)Science
286:971−974、Mountain,V.et al.(1999)J Cell Biol
147:351−366)。siRNAによるHSETの喪失は、複数の中心体を含むヒト癌細胞内の多極性紡錘体の増加につながる(
図7を参照、上記の実施例6にさらに説明されている)。中心体のクラスター分離の影響を判定するために、DIC顕微鏡を使用して、過剰な中心体を含む複数の細胞株内で細胞分裂を監視した。3つの独立したsiRNAを用いて確認された、ヒトHSETの喪失は、ほぼ100%の細胞が過剰な中心体を含むN1E−115細胞において、多極性後期の劇的な増加(88%)を誘導した(Spiegelman,B.M.et al.(1979)Cell
16:253−263)。同様の結果が、約50%の細胞が過剰な中心体を含むMDA−231細胞(HSET喪失後24%)、ならびに過剰な中心体を含む4倍体BJおよびNlH−3T3細胞を用いて得られた。対照的に、HSETノックダウンは、様々な2倍体対照細胞における細胞分裂に影響を及ぼさなかった。
【0104】
図9は、HSETのsiRNAの6日後の、細胞生存能力の損失およびN1E−115細胞のコロニー形成の阻害を図示する。
図9は、トランスフェクションの6日後の3つの独立した実験からの、対照およびHSET欠失(−HSET)細胞における相対細胞数(左側のパネル)、および4つの異なる領域における2つの独立した実験からの平均コロニー数(右側のパネル、面積=10mm
2)を示す。siRNA処理による、6日間のN1E−115細胞からのHSETの喪失は、90%以上、細胞生存率を著しく減少させ、生存細胞の多くは、老化することが示された。
【0105】
図10は、過剰な中心体を有する細胞の分率に比例する、様々な癌細胞株におけるHSET RNAi誘導性細胞死を図示する。棒グラフは、siRNAを用いたトランスフェクションの6日後の対照およびHSET欠失(−HSET)細胞における相対細胞数を示す。2つより多い中心体を有する細胞の割合を、以下のグラフに示す。当該グラフは、3つの独立した実験の平均を示す。すべてのグラフは、平均±SD(**p<0.005、***p<0.001、スチューデントのt検定)を示す。したがって、HSET喪失は、過剰な中心体を含む細胞の分率におおよそ比例する、様々な癌細胞株における細胞死を誘導した。対照的に、大抵2つの中心体を有する細胞の生存率は、HSETの非存在下で、わずかに減少しただけであった。したがって、中心体のクラスター分離は、過剰な中心体を有する細胞において細胞死を選択的に誘導することができる。
【0106】
配列表の概要