(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする、磁気ディスクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、磁気ヘッドの小型化、低浮上量化、磁気ディスクの高速回転化などに伴い、磁気ディスク用ガラス基板において低減すべき微小うねりの波長帯域が小さくなってきた。しかし、上記製造方法における研磨パッドの表面粗さRz(最大高さ)を、上述の数値範囲にした場合、従来の広い波長帯域を持つ、波長2μm〜4mmの微小うねりを低減することができるが、ガラス基板の波長50〜200μmの微小うねりを低減することはできなかった。このようなガラス基板における、波長2μm〜4mmの微小うねりの低減については、アルミニウム合金製基板においても同様の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、波長50〜200μmの微小うねりを低下することができる磁気ディスク用基板の製造方法と研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記従来の問題を解決すべく、研磨パッドの表面について詳細な検討を行った。
まず、本願発明者は、様々な研磨パッドの表面粗さRzを触針式の表面粗さ計で測り、測定したRzの中でRzの値が非常に小さい研磨パッドを選択して研磨を行った。しかし、ガラス基板の波長50μm〜200μmの微小うねりを小さくすることはできなかった。すなわち、触針式の表面粗さ計で測定した表面粗さRzの値は、波長50μm〜200μmの微小うねりを小さくするための指標とはならなかった。このため、ガラス基板の波長50μm〜200μmの微小うねりを低減するために、どのような研磨パッドを用いればよいか、不明であった。
そこで、本願発明者は、様々な研磨パッドの表面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて詳細に調査した。その結果、目的とする微小うねりの波長帯域である波長50μm〜200μmにおける研磨パッドの表面を観察可能な分解能で観察したところ、研磨パッドの表面状態に違いがあることに気がついた。具体的には、波長50〜200μmの微小うねりを低減できない研磨パッドの表面には、発泡ポアの開口の周囲にポアの壁の先端が縦方向に細かく裂けて表面が荒れた状態、すなわち、開口周りの壁の先端が荒れた状態、いわゆる“ささくれ”の形状が存在することを見出し、研磨パッドの最表層の表面形状が波長50〜200μmの微小うねりに影響を与えているのではないかと考えた。なお、上記の“ささくれ”状態は、開口周りの壁の先端が細かく裂けてあたかも表面が毛羽立った“毛羽立ち”の状態ともいえる。また、“局所的な毛羽立ちの乱れ”ともいえる。以降の説明では、上記開口周りの壁の先端の凹凸状態を“ささくれ”状態という。
そこで、この“ささくれ”について調査したところ、このような“ささくれ”による表面凹凸が多数存在する(“ささくれ”により開口周りの壁の先端が細かく裂けて多数できた片の凹凸が多い)かまたは“ささくれ”による大きな表面凹凸が存在して(“ささくれ”により開口周りの壁の先端が細かく裂けて多数できた片の凹凸が大きくなって)表面が凹凸を成している“ささくれ”状態の研磨パッドの表面と、“ささくれ”がないかまたはその程度が小さい研磨パッドの表面とを含めて、従来の触針式の表面粗さ計で研磨パッドの表面を測定した場合、測定結果から得られた表面粗さRzは、波長50〜200μmの微小うねりとの相関関係を見出せないことがわかった。触針式の表面粗さ計では、針(スタイラス)の先端のサイズは、測定対象の研磨パッドの表面の開口に針の先端が落ち込まないように開口径の2倍以上(例えば数十μmから数百μm)となっている。また、針を研磨パッドに押圧することによって測定が行われることから、針の先端は“ささくれ”の表面凹凸をつぶして測定したと考えられる。このことから、研磨に用いる研磨パッドの最表層の表面状態について、触針式の表面粗さ計では正確に測定できないことがわかった。
そこで、本願発明者は、研磨パッド最表層の表面状態を測定するためには、触針式の表面粗さ計のような接触式の方法ではなく、非接触式の方法を用いて表面粗さを測定することを思いつき、本願発明に至った。
【0008】
本発明の磁気ディスク用基板の製造方法及び研磨パッドは、以下の態様を有する。
【0009】
[態様1]
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記研磨パッドは、表面に複数の開口を有する発泡ポリウレタンの発泡樹脂層を有し、
前記研磨パッドの表面の撮像画像であって、撮像手段を用いて、前記研磨パッドの表面の最も高い位置に焦点を合わせたところから、高さ方向に5μmずつ焦点を下げながら、焦点が合う限り撮像を繰り返す方法によって、矩形領域を撮像の視野として得られた撮像画像から、1画素を0.37μm×0.37μmの矩形面として1600×1200画素分の矩形面の立体形状の情報を、前記研磨パッドの表面の立体形状の情報として得て、前記立体形状の情報から前記研磨パッドの表面の算術平均粗さRaを求めたとき、前記Raが0.5μm以下である、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【0010】
[態様2]
前記複数の開口の開口径の平均値は5〜20μmである、態様1に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0011】
[態様3]
前記発泡樹脂層は10μm以上600μm以下の深さの空孔を有する、態様1又は2に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0012】
[態様4]
前記研磨砥粒は、平均粒径が5nm以上50nm以下のコロイダルシリカである、態様1〜3のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0013】
[態様5]
態様1〜4のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする、磁気ディスクの製造方法。
【0014】
[態様6]
基板の表面を研磨する研磨処理に用いられる研磨パッドであって、
前記研磨パッドは、表面に複数の開口を有する発泡ポリウレタンの発泡樹脂層を有し、
撮像手段を用いて、前記研磨パッドの表面の最も高い位置に焦点を合わせたところから、高さ方向に5μmずつ焦点を下げながら、焦点が合う限り撮像を繰り返す方法によって、前記研磨パッドの表面の矩形領域を撮像の視野として得られた撮像画像から、1画素を0.37μm×0.37μmの矩形面として1600×1200画素分の矩形面の立体形状の情報を、前記研磨パッドの表面の立体形状の情報として得て、前記立体形状の情報から前記研磨パッドの表面の算術平均粗さRaを求めたとき、前記Raが0.5μm以下である、ことを特徴とする研磨パッド。
【0015】
[態様7]
前記発泡樹脂層における樹脂材料の100%引っ張りモジュラスは、200kgf/cm
2以下である、態様6に記載の研磨パッド。
【0016】
[態様8]
前記複数の開口の開口径の平均値は5〜20μmである、態様6又は7に記載の研磨パッド。
【0017】
[態様9]
前記発泡樹脂層は10μm以上600μm以下の深さの空孔を有する、態様6〜8のいずれか1つに記載の研磨パッド。
【0018】
[態様10]
前記基板の表面を、コロイダルシリカを研磨砥粒として含むスラリーとともに研磨する研磨処理に用いられる、態様6〜9のいずれか1つに記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0019】
上述の磁気ディスク用基板の製造方法及び研磨パッドでは、基板の波長50μm〜200μmの微小うねりを低下することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び研磨パッドについて詳細に説明する。なお、本発明の磁気ディスク用基板は、ガラス基板の他にアルミニウム合金基板にも適用できるが、以降の説明では磁気ディスク用ガラス基板を本実施形態として用いて説明する。
本実施形態では、磁気ディスクに用いる磁気ディスク用ガラス基板は、円板形状であって、中心部分が同心円形状にくり抜かれたリング状を成し、リングの中心を回転軸として回転する。磁気ディスクは、磁気ディスク用ガラス基板に磁性層等を積層して得られる。したがって、磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸を精度良く管理することは重要である。本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法では、ガラス基板の主表面の研磨により、ガラス基板の主表面における波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを低減することができ、好ましくは研磨前の0.6nm以下の二乗平均平方根粗さRqを0.06nm以下に低減することができる。このとき、研磨に用いる研磨パッドは、表面に複数の開口を有する発泡樹脂層を有する。この研磨パッドの表面の、以下に説明する算術平均粗さRaが0.5μm以下である。算術平均粗さRaは、研磨パッドの表面の撮像画像から、この研磨パッドの表面の立体形状の情報を得て、この情報から求められる。この立体形状の情報は、発泡樹脂層の空孔を囲む壁の先端に形成される凹凸形状の情報を含む。
なお、本明細書でいう波長50〜200μmの微小うねりや波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqや算術平均粗さRaを含めた表面粗さの定義は、いずれもJIS B 0601:2001に準拠する。
【0022】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一例を以下説明する。
先ず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクを成形する。次に、このガラスブランクを適宜加工して、中心部分に孔のあいた、エッジ部が面取り加工されたリング形状(円環状)のガラス基板を作製する。これにより、ガラス基板が生成される。この後、主表面について研磨処理を行うことによって、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを低減することができる。例えば、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを0.06nm以下に低減することができる。研磨処理は、必要に応じて、複数の処理に分けて行ってもよい。また、必要に応じて、主表面の研削や、端面(面取り部含む)の研磨や、化学強化を行ってもよい。このとき各処理の順序は適宜決定してよい。
以下、各処理について、説明する。
【0023】
(a)ガラスブランク成形処理
ガラスブランクの成形では、例えばフロート法が用いられる。ガラスブランクの成形処理では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、溶融ガラスを連続的に流し入れることで例えば上述した組成の板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状(例えば平面視四角形状)の板状のガラスブランクが切り出される。
また、板状のガラスブランクの成形は、フロート法の他に、例えばプレス成形法を用いることもできる。さらに、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの公知の製造方法で作られた板状ガラスに対し、適宜形状加工を行うことによって磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラスブランクが切り出される。
【0024】
(b)形状加工処理
次に、形状加工処理では、ガラスブランク成形処理後、公知の加工方法を用いて円孔を形成することにより円形状の貫通孔があいたディスク状のガラス基板を作る。その後、さらに面取りを実施してもよい。また、板厚調整や平坦度低減などの目的で、主表面の研削を実施してもよい。
【0025】
(c)第1研磨処理
次に、ガラス基板の主表面に第1研磨処理が施される。第1研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。具体的には、ガラス基板を、両面研磨装置に装着される保持部材(キャリア)に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。第1研磨処理は、例えば主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸の調整を目的とする。なお、表面凹凸についてさらに低減したり、より精密な調整を行うために、第1研磨処理を複数の研磨処理に分けて実施してもよい。
【0026】
第1研磨処理では、上定盤、下定盤、インターナルギヤ、キャリア、太陽ギヤを備え、遊星歯車機構を有する公知の両面研磨装置を用いて、研磨スラリーを与えながらガラス基板が研磨される。第1研磨処理では、研磨砥粒(遊離砥粒)を含んだ研磨スラリーが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウムやジルコニア、コロイダルシリカの砥粒等(粒子サイズ:直径0.3〜3μm程度)が用いられる。両面研磨装置では、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂製のポリッシャ)が取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研磨する。
【0027】
(d)化学強化処理
ガラス基板は適宜化学強化することができる。化学強化液として、例えば硝酸カリウムや硝酸ナトリウム、またはそれらの混合物を300℃〜500℃に加熱して得られる溶融液を用いることができる。そして、ガラス基板を化学強化液中に例えば1時間〜10時間浸漬する。
ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層にあるガラス組成中のリチウムイオンやナトリウムイオンが、それぞれ化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオンやカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板が強化される。
化学強化処理を行うタイミングは、適宜決定することができるが、化学強化処理の後に研磨処理を行うようにすると、表面の平滑化とともに化学強化処理によってガラス基板の表面に固着した異物を取り除くことができるので特に好ましい。化学強化処理は、必ずしも行う必要はない。
【0028】
(e)第2研磨(最終研磨)処理
次に、化学強化処理後のガラス基板に第2研磨処理が施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば0.5μmから10μm程度である。
第2研磨処理では、遊離砥粒を含むスラリーを用いて研磨が行われる。遊離砥粒としてコロイダルシリカが好適に用いられる。コロイダルシリカの平均粒径は、5nm以上50nm以下であることが、ガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを低減する点で、好ましい。平均粒径が50nmより大きいと、波長50〜200μmの微小うねりを十分に低減できない虞がある。また、表面粗さを十分に低減できない虞がある。一方、平均粒径が5nm未満だと、研磨レートが極端に下がり生産性が低下する虞がある。
なお、本実施形態において、上記平均粒径とは、光散乱法により測定された粒度分布における粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径(累積平均粒子径(50%径)や、D50とも呼ぶ)を言う。
図1(a)、(b)は、第2研磨に用いる研磨装置10の概略構成図である。第1研磨にも同様の装置を用いることができる。
【0029】
研磨装置10は、
図1(a)、(b)に示すように、下定盤12と、上定盤14と、インターナルギヤ16と、キャリア18と、研磨パッド20と、太陽ギヤ22と、インターナルギヤ24と、容器26と、を備える。
研磨装置10は、上下方向から、下定盤12と上定盤14との間にインターナルギヤ16を挟む。インターナルギヤ16内には、研磨時に複数のキャリア18が保持される。
図2(b)には、5つのキャリア18が示されている。下定盤12及び上定盤14には、研磨パッド20が平面的に接着されている。下定盤12及び上定盤14は、下定盤12及び上定盤14の備える回転軸中心の周りに回転(自転)するように構成されている。
【0030】
図2に示されるように、下定盤12上の研磨パッド20にガラス基板Gの下側の主表面が当接し、上定盤14上の研磨パッド20にガラス基板Gの上側の主表面が当接するように、キャリア18が配置される。このような状態で研磨を行うことにより、円環状に加工されたガラス基板Gの両側の主表面を研磨することができる。
【0031】
図1(b)に示されるように、各キャリア18に設けられた円形状の孔に、円環状のガラス基板Gが保持される。一方、ガラス基板Gは、下定盤12の上で、外周にギヤ19を有するキャリア18に保持される。キャリア18は、下定盤12に設けられた太陽ギヤ22、インターナルギヤ24と噛合する。太陽ギヤ22を
図1(b)に示される矢印方向に回転することにより、各キャリア208はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、ガラス基板Gは、研磨パッド20を用いて研磨される。研磨時、ガラス基板Gは、例えば0.002〜0.02MPaで押圧されて研磨される。研磨に用いるスラリーは、
図1(a)に示すように上定盤14に供給され、下定盤12に流れて外部容器に回収される。
【0032】
なお、第2研磨で用いる遊離砥粒の種類、粒径、粒径のばらつきや、研磨パッド20に用いる樹脂の硬度、後述するような研磨パッド20表面のポアの開口径などは、第1研磨から適宜変更される。本実施形態では、少なくとも最終の研磨処理において、研磨後のガラス基板の波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqが0.06nm以下となるように、研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaを調整することが好ましい。
なお、ガラス基板Gの表面凹凸をさらに低減したり、より精密な調整を行うために、それぞれの研磨処理をさらに複数の研磨処理に分けて実施してもよい。その際、それぞれの研磨処理においては、遊離砥粒の種類、粒径、粒径のばらつきや、研磨パッドに用いる樹脂の硬度、研磨パッド表面のポアの開口径などを適宜調節することが好ましい。
第2研磨の後、ガラス基板Gは洗浄され、磁気ディスク用ガラス基板が作製される。
【0033】
(研磨パッド)
次に、第2研磨に用いる研磨パッド20について以下詳細に説明をする。
研磨パッド20は、表面に複数の開口を有する発泡樹脂製であり、例えば発泡ポリウレタン製である。研磨パッド20の表面の開口の直径は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。開孔径が5μmより小さい場合、液滴形状を成した小さな空孔を多数有する構造の発泡材料の中にスラリーを溜めたり、溜めたスラリーを適度に供給したりすることが難しくなり、研磨レートが低下して研磨できなくなる。一方、開口の直径が20μmより大きい場合、研磨パッド20の表面粗さが大きくなって波長50〜200μmの微小うねりを低減できなくなる。
研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaは0.5μm以下である。この算術平均粗さRaは、具体的には、研磨パッド20の表面の撮像画像から研磨パッド20の表面の立体形状の情報を得て、この情報から求められる。この撮影画像を用いた光学式測定については後述する。研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaの下限は特に制限されないが、例えば0.1μmである。Raが0.1μm未満となると、研磨レートが低下して生産性が悪化する場合がある。
このような研磨パッド20を用いた研磨を通して、ガラス基板Gの主表面における、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを低減することができる。好ましくは、二乗平均平方根粗さRqを0.06nm以下に低減することができる。この場合、第2研磨処理を行う前のガラス基板Gにおける波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqは0.6nm以下であることが好ましい。第2研磨処理を行う前のガラス基板Gの上記Rqが、0.6nmより大きいと、Rqを0.06nm以下に研磨するために取代が増加し、生産性が悪化する場合がある。また、主表面上の最外周部の形状において落ち込み(ロールオフ)が大きくなる場合がある。
また、本件の研磨パッドを用いた研磨処理は、化学強化処理された主表面に対して行なうことが好ましい。化学強化処理後のガラス基板の主表面には、圧縮応力層が形成されているため、研磨処理を実施した場合に研磨パッドの“ささくれ”によって圧縮応力の開放が局所的に乱れることによって微小うねりや粗さが十分に低減できない場合がある。本件研磨パッドは、研磨パッドの表面の算術平均粗さRaが0.5μm以下になるように“ささくれ”が抑制されているため、微小うねりや粗さを良好に低減することができる。
第2研磨後におけるガラス基板Gの表面粗さの算術平均粗さRaは、0.2nm以下、好ましくは0.15nm以下となっている。ここで、表面粗さの算術平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、1μm×1μmの測定エリアに対して256×256画素の分解能で測定したときの値である。
研磨パッドの表面粗さの算術平均粗さRaと研磨処理後のガラス基板の主表面における波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqとの間には、後述するように相関がある。このため、表面粗さの算術平均粗さRaが異なる複数の種類の研磨パッドを予め備えておき、基板の主表面において所望の微小うねりを達成するために、上記複数の種類の研磨パッドの中から適宜選択される。この場合、研磨処理後の基板の主表面における、50μm以上200μm以下の波長の微小うねりの二乗平均平方根粗さRqと、研磨処理に用いた研磨パッド表面の算術平均粗さRaとの関係を予め求めておき、基板の主表面において所望の微小うねりを達成する研磨パッド表面の算術平均粗さRaを有する研磨パッドを、上記関係を用いて選定し、選定した研磨パッドを研磨処理に用いることが好ましい。
【0034】
研磨パッド20は発泡樹脂製(発泡樹脂層)であるので、表面にポア開口を有する。このため、遊離砥粒を含んだスラリーを上記開口から研磨パッド20の内部の空洞に進入させることができ、研磨を効率よく行うことができる。しかし、研磨処理を何度も実施すると、研磨レートが低下して研磨効率が悪化する場合がある。このような場合、研磨パッド20をドレス処理することにより研磨レートの回復が図られる。一方で、研磨パッド20の表面、すなわち、発泡樹脂層の空孔(ポア)を囲む壁の先端はドレス処理により強制的に削られるため、“ささくれ”状態となり、細かな凹凸が生じる要因となる。波長50〜200μmの微小うねりを低減できない研磨パッド20の表面の形状を走査型電子顕微鏡で観察したところ、多数の発泡ポアの開口の周りの樹脂部分の先端が“ささくれ”状態になっていることがわかった。そして、“ささくれ”状態の先端部分は薄く膜状になっていることがわかった。このような“ささくれ”状態の先端の剛性は、極めて低く、僅かな力で曲がり易い。この“ささくれ”状態は、ドレス処理時にダイヤモンド砥粒によって研磨パッドの表層が引きちぎられることにより形成されると考えられる。このような“ささくれ”状態となって表面が凹凸を成している表面状態を、触針式の表面粗さ計では測定できない。触針式の表面粗さ計では、針(スタイラス)の先端のサイズは、測定対象の研磨パッド20の表面の開口に針の先端が落ち込まないように開口径の2倍以上(例えば数十μmから数百μm)となっている。また、針を研磨パッドに押圧することによって測定が行われる。このため、針の先端は“ささくれ”状態を押さえて測定することになる。したがって、触針式の表面粗さ計で得られた測定結果から“ささくれ”状態を含んだ表面凹凸を測定できない。そのため、本実施形態は、撮影画像を用いた光学式測定を用いる。この光学式測定により得られた研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaを低くすることにより、ガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりを低減することができる。好ましくは、ガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを0.06nm以下に低減することができる。この場合、研磨前のガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqは、0.6nm以下であることが好ましい。
【0035】
なお、研磨パッド20に用いる発泡樹脂層における樹脂材料のモジュラス(引っ張り応力)は、200kgf/cm
2以下であることが、微小スクラッチを発生させず波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを、効率よく0.06nm以下に低減する点で好ましい。ここで、上記モジュラスは100%モジュラスである。なお、モジュラスを100kgf/cm
2以下にすると、ガラス基板G上に微小なスクラッチが発生することを防止できるので、100kgf/cm
2以下にすることはさらに好ましい。一方、50kgf/cm
2より小さくすると、研磨レートの低下によって生産性が低下する虞れが出てくる。しかも、上記モジュラスを50kgf/cm
2より小さくすると、ガラス基板のガラス主表面の外周端面近傍の領域において、ガラス主表面は外周端面に向かって曲面形状になだらかに傾斜して平滑の程度が乱れる場合がある。このようなガラス主表面の外周端面近傍の領域における平滑の乱れは、記憶容量の増大のために、ガラス主表面の全面に磁性層を形成してガラス主表面の外周端面近傍まで磁気情報の記録や読み取りを正確に行う点で好ましくない。したがって、上記モジュラスの下限は、特に制限はないが、例えば50kgf/cm
2である。樹脂材料の引っ張りモジュラスは、引張り試験機(テンシロン試験機)により測定される。
また、ドレス処理前の研磨パッド20の表面粗さの算術平均粗さRa’は、0.8μm以下であることが好ましい。この算術平均粗さRa’は、先端曲率半径が数十から数百μmのスタイラスを用いて触針式の表面粗さ測定機を用いて測定される。ドレス処理前のRa’を0.8μm以下にすることにより、ドレス処理後においても、研磨パッドの表面の撮像カメラを用いて測定される算術平均粗さRaを、容易に0.5μm以下にすることができる。これは、研磨パッド表面の粗さが小さいほど、安定してドレス処理を行うことができるからである。すなわち、研磨パッドの全面に対してドレス処理によるムラを生じさせることがない。
【0036】
研磨パッド20は、未使用(過去1度も研磨に使用していない)で新品の状態では、独立発泡系の発泡樹脂製であるため、表面には開口がない。このため、研磨の使用開始前に、ドレス処理を行って表面を
図3に示す点線Xに沿って削ることにより、表面に複数の開口、例えば、直径5〜20μmで、深さ10〜600μmの開口を有する孔が現れるようにする。すなわち、研磨においては、開口径(直径)が5μm以上20μm以下である研磨パッドを使用することが好ましい。開口径が5μm未満だと、研磨レートが低くなり、生産性が低下する場合がある。他方、開口径が20μmより大きいと、50〜200μmの波長帯域の微小うねりが低下できない場合がある。また、空孔(ポア)の深さが10μm以上600μm以下である研磨パッドを使用することが好ましい。深さが10μm未満だと、研磨レートが低くなり、生産性が低下する場合がある。他方、深さが600μmより大きいと、気孔が連続状に形成されたナップ層の厚みが増すことにより、研磨パッド20の圧縮変形量が増加し、基板の最外周部において局所的に高い圧力がかかりやすくなり、ロールオフ量が大きくなる場合がある。なお、開口の直径や空孔(ポア)の深さは、研磨パッドの表面または断面をSEMで観察することにより測定できる。
本実施形態の研磨パッド20の表面の立体形状の情報は、研磨に使用される表面状態の情報であることが好ましい。
以上が研磨パッド20の説明である。
【0037】
(研磨パッドの表面測定)
図4は、本実施形態で行う研磨パッド20の表面の立体形状を測定する方法を説明する図である。
【0038】
上述したように、従来の研磨で用いる研磨パッドは、ガラス基板の波長2μm〜4mmの微小うねりを低減するために、触針式の表面粗さ計を用いて測定した研磨パッドの表面粗さRzを20μm以下とした。この場合、算術平均粗さRa’は凡そ3.0μm以下となるが、触針式の表面粗さ計では、上述したような表面が“ささくれ”状態であるとき、この“ささくれ”による表面凹凸は測定されない。このために、本実施形態では、触針式の表面粗さ計に代えて、撮影画像を用いた光学式測定により得られる算術平均粗さRaを測定する。
【0039】
具体的には、撮像カメラ40を用いて、500倍の倍率で、600μm×450μmの矩形領域を撮影の視野として、1画素を0.37μm×0.37μmの矩形面として表面を撮影する。このとき、研磨パッド20の表面の最も高い位置に焦点を合わせたところで撮像を開始し、高さ方向に5μmずつ撮影カメラ40の位置を移動して、焦点が撮像画像中のいずれかの画素に合うまで撮影を繰り返す。そして、焦点がどの画素にも合わなくなったときに撮像を終了する。
撮像カメラ40は、例えばCCDカメラを用いることができる。これを光学式顕微鏡と組み合わせて用いてもよいし、それらが一体となった装置でもよい。
【0040】
このようにして5μmの間隔で撮像して得られた撮像画像のそれぞれについて、画像処理装置42に送られ画像処理が行われる。画像処理装置42では、画素毎に研磨パッド20の表面の立体形状の情報を得る。この立体形状の情報は、発泡樹脂層の空孔を囲む壁の先端に形成される凹凸形状、すなわち、“ささくれ”状態の情報を含む。具体的には、画像処理装置42は、得られた5μm間隔の撮像画像の画像データから、各画素の高さ方向の位置の情報を算出する。画像データから、各画素の高さ方向の位置の情報を算出する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。一例として、5μm間隔の撮像画像の画像データから、各画素の焦点の合うときの高さ方向の位置(合焦点位置)の情報を求めることにより、高さ方向の位置の情報を算出する。この場合、5μm毎に合焦点位置は求められるので、好ましくは、5μm間隔で得られた画素周辺の高さ方向の位置の情報を内挿補間して5μm未満の位置として細かく位置情報を算出することができる。
【0041】
画像処理装置42は、コンピュータにより構成され、上記画像処理は、コンピュータのメモリに記憶されているソフトウェアを呼び出して実行することにより動作する。ソフトウェアは、上記処理が適切に実行可能なものであれば、市販のソフトウェアでもオリジナルのソフトウェアでもよい。
【0042】
このような画像処理により得られる3次元の研磨パッド20の表面の立体形状の情報は、従来の触針式の表面粗さ計を用いた測定と異なり、発泡樹脂の表面の“ささくれ”状態による表面の凹凸を再現することができる。画像処理装置42は、この3次元の研磨パッド20の表面の立体形状の情報を用いて、画像処理装置42は算術平均粗さRaを算出する。
【0043】
作製される磁気ディスク用ガラス基板の波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqは、表面形状測定機を用いて、ガラス基板の主表面の半径14mm〜31.5mmの領域について求められる。具体的には、半径方向の測定ピッチを0.01mmとし、円周方向1周における測定領域を1024として表面形状が測定される。表面形状測定機としては、レーザードップラー・バイブロメータ(LDV:Laser Doppler Vibrometer)を用いることができる。この測定装置は、表面粗さからうねりまでの幅広い波長帯域の測定が可能である。波長50μm〜200μmの微小うねりは、波長50μm〜200μmに対応するバンドパスフィルタを用いてフィルタリングしたデータを用いて求められる。
【0044】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法では、第2研磨に用いる研磨パッド20は、ドレス処理後、ガラス基板Gの研磨を行う。1つの研磨パッド20は、複数回の第2研磨処理に用いられる。1回の第2研磨処理とは、ガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりのRqを0.06nm以下に低減する1回の処理である。
研磨パッド20は、このようなガラス基板Gの第2研磨処理の回数が増えるに従って、研磨レートが低下する。このため、研磨レートが許容範囲以下になった場合、研磨パッド20はドレス処理される。このドレス処理は、表面に開口が形成されていない新品の研磨パッド20に対して最初に行なう初回のドレス処理と別の条件で行うことが好ましい。このドレス処理は、最初に行なうドレス処理と区別して説明する場合、2回目以降のドレス処理という。初回のドレス処理と2回目以降のドレス処理を区別せずに総称していうときは、単にドレス処理という。2回目以降のドレス処理では、初回のドレッシングよりも研磨パッドの表面に“ささくれ”が生じ易いため、別の条件で行うことが好ましい。これは、ドレス処理前の状態でも既に多数の開口が生じているためと考えられる。
なお、ドレス処理後の研磨パッドの表面の算術平均粗さRaが0.5μmを超える場合、研磨パッド20の表面は遊離砥粒と馴染んだとしても、ガラス基板Gの50μm〜200μmの微小うねりのRqを0.06nm以下に低減することはできない。一方、上記撮像カメラを用いる方法によるドレス処理後の研磨パッドの表面の算術平均粗さRaが0.5μm以下である場合、ガラス基板Gの50〜200μmの微小うねりのRqを0.06nm以下に低減することができる。
【0045】
本明細書でいうドレス処理は、
図1(a),(b)及び
図2に示す研磨装置10を用い、ガラス基板Gの代わりに基板の両面に例えばダイヤモンド砥粒を付着した研磨材を貼り付けたドレッサを用いる。研磨液の代わりに、例えば水を供給すればよい。研磨パッド20の初回のドレス処理による表面の“ささくれ”を抑制する点から、さらには、研磨パッド20の2回目以降のドレス処理による表面の“ささくれ”を抑制する点から、ドレッサに用いる砥粒の平均粒径、粒径分散、砥粒を固定する樹脂材料、ドレス処理時の定盤の荷重、回転数、遊星歯車の自転・公転その他の条件を適宜調整することが好ましい。
【0046】
ドレス処理に用いるダイヤモンド砥粒の粒径は10〜30μmのものを用いることが好ましい。粒径が小さい方が研磨パッド表面の “ささくれ”の抑制に効果があるものの、粒径が10μmより小さいと、研磨パッドの除去レートが低下してドレス処理作業に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。他方、粒径が30μmより大きいと、“ささくれ”による表面凹凸が大きくなり、あるいは“ささくれ”による表面凹凸数が増えて研磨パッド表面のRaを十分に低減できない場合がある。
【0047】
また、ドレス処理時の定盤による荷重は、研磨処理時よりも小さくすることが好ましい。具体的には、研磨パッドにかかる圧力を0.001〜0.005MPaとすることが好ましい。ドレス処理時の荷重が研磨処理時よりも小さい方が、研磨パッド表面の“ささくれ”の増大の抑制に効果があるものの、研磨パッドにかかる圧力が0.001MPa未満である場合、研磨パッドの除去レートが低下してドレス処理に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。他方、研磨パッドにかかる圧力が0.005MPaより大きい場合、“ささくれ”による表面凹凸が大きくなり、あるいは“ささくれ”による表面凹凸数が増えて、研磨パッド表面のRaを十分に低減できない場合がある。
【0048】
また、ドレッサと研磨定盤(研磨パッド)との相対速度は、研磨処理時の1.5〜3倍とすることが好ましい。相対速度は高い方が研磨パッド表面の“ささくれ”の抑制に効果があるものの、ドレス処理時の相対速度が研磨処理時の3倍より高い場合、研磨パッドの表面への水の供給が追いつかず、均一にドレス処理が行えない場合がある。他方、ドレス処理時の相対速度が1.5倍未満の場合、ダイヤモンド砥粒が研磨パッド表面に食い込みすぎて、“ささくれ”を抑制できない場合がある。
また、ドレス処理時の荷重を小さく、かつ、研磨パッドとの相対速度を高く調整することで、“ささくれ”の発生をさらに良好に防止しつつ、ドレス処理することができる。
【0049】
また、ドレス処理の実施直後に、上定盤を上昇させる際は、回転する上定盤とキャリア(ドレッサ)の少なくとも一方の移動(回転)を維持させながら上昇させることが好ましい。こうすることで、ドレス処理後、上定盤を上昇させる際に上定盤に僅かに発生する揺れによって研磨パッド表面に “ささくれ”が発生することを防止することができる。したがって、上定盤を上昇させる際は、上定盤とキャリア(ドレッサ)の少なくとも一方を移動(回転)させながら上昇させることが、研磨パッド20の算術平均粗さRaを0.5μm以下にする点で好ましい。
ドレス処理する際は、上記の諸条件を適宜調整し、さらに組み合わせて行えばよい。
【0050】
また、研磨パッド20をドレス処理するとき、ドレス処理前の研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaと、ドレス処理前のこの研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下にするためのドレス処理の条件(ドレス処理時間、定盤の荷重、回転数等の条件)との対応関係を予め求めておき、ドレス処理する前の研磨パッドの表面の算術平均粗さRaの計測結果の情報と上記対応関係を用いて、上記ドレス処理の条件を定めて、ドレス処理を行う。これにより、“ささくれ”による研磨パッド20の表面形状の乱れを抑制することができる。
【0051】
また、2回目以降のドレス処理については、研磨装置10を用いることなく、洗浄液を霧粒にして噴射させて研磨パッド20に吹き付けるドレス処理を行うこともできる。具体的には、縦長で、その中央部が前方に向けて拡開した吐出口を有するノズルを研磨パッドの全面に移動させ、粒径が1μm以上300μm以下である洗浄液の霧粒を生み出し、この霧粒を10m/秒以上500m/秒以下の速度で研磨パッド20に衝突させる。このとき、各種の条件を適宜調整することによって、研磨パッドの表面に新たな“ささくれ”状態を生じさせることなく、発泡ポアの内部に溜まった研磨砥粒を良好に除去することができる。このドレス処理方法は、研磨処理に使用された後の研磨パッドに対して適用することが好ましい。このようにすることで、ダイヤモンドドレッサによるドレス処理を複数回実施することによる研磨パッド表面の“ささくれ”状態の程度の進行を抑制することができ、2回目以降のドレス処理後の研磨処理により得られるガラス基板の微小うねりの悪化を防止できる。
また、2回目以降のドレス処理では、上述したダイヤモンド砥粒などの砥粒を用いたドレス処理と、洗浄液を霧粒にして噴射させて研磨パッド20に吹き付けるドレス処理を併用することが好ましい。このようなドレス処理は、ダイヤモンド砥粒などの砥粒を用いて行うドレス処理に比べてソフトに行うことができるため、ドレス処理後の研磨パッド20の“ささくれ”状態の程度が進むことを抑制することができる。
このように、本実施形態の第2研磨に用いる研磨パッド20は、初回及び2回目以降のドレス処理後のものであり、研磨パッド20の表面の撮像画像から、この研磨パッド20の表面の立体形状の情報を得たとき、この情報から求められる研磨パッド20の表面の算術平均粗さRaは0.5μm以下である。
本実施形態では、ガラス基板を用いて説明したが、上述したようにガラス基板の他にアルミニウム合金基板に適用することもできる。ガラス基板はアルミニウム合金基板よりも剛性が高い(硬い)ため、ガラス基板を用いる場合、生産性を高めるために研磨パッド20のモジュラスを高くして研磨レートを向上させることが好ましい。一方、研磨パッド20の高いモジュラスによって、アルミニウム合金基板の場合に比べて“ささくれ”の表面凹凸の先端の剛性は高くなる傾向となるので、アルミニウム合金基板と比べて微小うねりは悪化し易く、また微小スクラッチの発生が生じ易い。このため、本願発明の研磨処理は、ガラス基板に対して適用することとが好ましい。
【0052】
[実施例]
本実施形態の研磨パッドの撮影画像を用いた光学式測定方式(本実施形態方式)の効果と、第2研磨における研磨パッドの効果を調べるために、研磨パッドを種々代えて第2研磨を行った。用いたガラス基板Gは、2.5インチサイズの磁気ディスク用ガラス基板とした。研磨前のガラス基板Gの表面凹凸は、光学式表面形状測定機を用いて測定した。主表面の波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqは0.1〜1.0nmであった。
研磨パッドは、
図3に示すように液滴形状をした空孔を多数有する構造の発泡を表層部分に有するポリウレタン樹脂製であり、
図1(a),(b)に示す研磨装置10を用いて予めドレス処理した。ドレス処理では、ダイヤモンド砥粒のドレッサを用い、上記の処理条件を適宜調整した。このため、研磨パッドのいずれも、ドレス処理により、表面に複数の開口が形成された。液滴形状をした空孔を多数有する構造の発泡を用いることで、ガラス基板に接触する部分の開口を小さくすることができ、研磨後のガラス基板の表面粗さや波長50〜200μmの微小うねりを低減することができる。また、球型の形状や深さ方向で径が変わらない形状の発泡構造よりも発泡の内部に研磨剤を多く蓄えることができるので、研磨剤を安定供給して研磨レートを長時間高く維持することができる。ここでは、開口径(直径)の平均値が15μmの研磨パッドを使用した。
【0053】
ガラス基板Gの研磨では、
図1(a),(b)に示す研磨装置10を用いてガラス基板Gに0.01MPaの圧力をかけ、平均粒径が30nmであるコロイダルシリカの研磨砥粒を含むスラリーをガラス基板Gに供給しつつ研磨した。研磨の取り代は5μmとした。
一方、研磨パッドの表面は、例1〜4では触針式の表面粗さ計を用いて算術平均粗さRa’(従来方式)を求めるとともに、例5〜8では本実施形態の光学式測定による撮影画像を用いて、算術平均粗さRa(実施形態方式)を求めた。
さらに、研磨後のガラス基板Gの表面凹凸を、前述の光学式の表面形状測定機を用いて測定して波長50〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを求めた。
【0054】
下記表1、表2に、種々の研磨パッドを用いて研磨したときの研磨直前の研磨パッドの表面の算術平均粗さRa、Ra’と、この研磨パッドを用いて第2研磨処理をしたときのガラス基板の微小うねりの二乗平均平方根粗さRq、Rq’を示す。例1〜4では、波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRq’と波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを求めた。例5〜8では、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを求めた。なお、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さをRqと表し、波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さをRq’と表している。また、従来方式による研磨パッド表面の算術平均粗さをRa’と表し、本実施形態方式による研磨パッド表面の算術平均粗さをRaと表している。
波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRq’は、特開2002−92867号公報に記載された公知の多機能表面解析装置を用いて測定した。この装置では、光を分割してテスト面と基準面の両方に反射させ、その光を再結合したときの干渉縞から波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRq’を計算して得る。測定領域は、ガラス基板の中周付近における約500μm×約600μmの矩形領域(約25万ピクセル)を選択した。
【0057】
表1より、従来方式による研磨パッドの表面粗さは、ガラス基板表面の波長2μm〜4mmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRq’とは相関があるものの、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqとは相関がないことがわかる。このため、従来方式による研磨パッドの表面粗さを小さくしても波長50μm〜200μmの微小うねりを低減することはできない。
他方、表2より、本実施形態方式による研磨パッドの表面の算術平均粗さRaは、ガラス基板表面の波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqと相関があることがわかる。そして、研磨パッドの表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下にすることで、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqが、算術平均粗さRaが0.75μmの場合に対して大きく低下することがわかった。特に、研磨パッドの表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下にすることで、波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを0.06nm以下と極めて小さくすることができることがわかった。
例5〜8によって得られた磁気ディスク用ガラス基板のガラス主表面には、ガラス主表面に近いほうから順に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層を、スパッタ法及び蒸着法を用いて形成して磁気ディスクを製造した。製造した磁気ディスクを、DFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載した磁気ヘッド(DFHヘッド)とともにHDD(ハードディスクドライブ装置)に組み込んで浮上耐久性試験を行った。フェムトスライダを有する磁気ヘッドを用い、スライダ面の浮上量は9nm、磁気ヘッド素子部のバックオフ量(磁気ヘッド素子部と磁気ディスク表面との間隙)は1nmに設定した。HDDは80℃、湿度80%の恒温槽に入れ、30日間ランダムシークさせた。評価後、磁気ヘッドを取り出し、スライダ面の汚れを光学顕微鏡で評価した。その結果、例5〜7の磁気ディスクを用いた場合は特に汚れは見られなかったが、例8の磁気ディスクを用いた場合は素子部の周辺に磁気ディスク回転方向に対応する向きに擦れ跡が観察された。
上記結果より、微小うねりRqを0.06nm以下とすることによって、DFHヘッドを用いて素子部を磁気ディスクに極めて近づけた状態であっても浮上特性が良好であることが確認できた。
【0058】
研磨パッドの表面の撮像画像について、上述した実施形態方式により、この研磨パッドの表面の立体形状の情報を得たとき、この情報から求められる研磨パッドの表面の算術平均粗さRaは0.5μm以下であることは重要である。
このように、本実施形態方式の効果、及び研磨パッドの表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下にする効果を確かめることができた。
【0059】
次に、研磨パッドの樹脂を種々変更してモジュラス(100%モジュラス)を変えた研磨パッドを用意し、第2研磨を行った。いずれの研磨パッドも本実施形態方式による研磨パッドの算術平均粗さRaが0.5μm以下であった。それぞれ1000枚ずつ第2研磨処理を行った後、ガラス基板を洗浄し、光学式表面解析装置を用いて主表面上に存在する微小スクラッチの数をカウントし、10段階でレベル判定した。レベルが小さいほど微小スクラッチが少なく良好である。レベルに関しては、具体的には、予め定めた基準となるガラス基板について微小スクラッチの数をカウントし、このときのカウント数を100%として、その微小スクラッチのレベルをレベル10と定めたときに、下記例9〜14における微小スクラッチのカウント数が基準となるガラス基板の微小スクラッチの数の0〜10%である場合のレベルをレベル1と定め、11〜20%である場合のレベルをレベル2と定め、21〜30%である場合のレベルをレベル3と定め、同様にしてレベル9(81〜90%)までそれぞれ定めた。下記表3には、その結果を示す。
【0061】
例9〜14ではいずれも、第2研磨後のガラス基板Gの波長50μm〜200μmの微小うねりの二乗平均平方根粗さRqは、0.06nm以下であったが、微小スクラッチの発生レベルに差が見られた。例9〜14では、第1研磨やそれ以前の加工処理により主表面に残存したキズを除去するような条件としたため、この微小スクラッチは第2研磨において研磨パッドが突発的にガラス基板の表面を傷つけることにより発生したと考えられる。レベルが5より大きい場合、第2研磨の生産安定性が悪い恐れがあることを意味する。したがって、モジュラスを200kgf/cm
2以下とすると、生産安定性がよくなるので好ましい。また、モジュラスを130kgf/cm
2以下とするとさらに好ましい。モジュラスを70kgf/cm
2以下とするとより一層好ましい。一方、モジュラスを50kgf/cm
2以下としたところ、研磨パッドの摩耗が速くなり、生産効率が低下した。
【0062】
以上、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法及び研磨パッドについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。