特許第6184579号(P6184579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許6184579電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体
<>
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000006
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000007
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000008
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000009
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000010
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000011
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000012
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000013
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000014
  • 特許6184579-電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184579
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20170814BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H05K9/00 M
   H05K9/00 V
   B32B9/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-241156(P2016-241156)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2017-112373(P2017-112373A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2017年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-243395(P2015-243395)
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】山形 一斗
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】宇井 丈裕
(72)【発明者】
【氏名】請井 博一
(72)【発明者】
【氏名】北川 祐矢
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
【審査官】 久松 和之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−283577(JP,A)
【文献】 特開2004−319788(JP,A)
【文献】 特開2000−243146(JP,A)
【文献】 特開平11−73119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムからなる誘電体層と、誘電体層の一方の面に酸化インジウムスズを主成分とする抵抗層と、誘電体層の他方の面に上記抵抗層より低いシート抵抗を有する導電層とを有する電磁波吸収体であって、上記抵抗層の酸化インジウムスズに含まれる酸化スズが20〜40重量%であることを特徴する電磁波吸収体。
【請求項2】
上記抵抗層が酸化インジウムスズ以外の成分を含有する請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
上記抵抗層の酸化インジウムスズ以外の成分が、酸化ケイ素、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項2記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
上記導電層が酸化インジウムスズからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
上記導電層の酸化インジウムスズに含まれる酸化スズが5〜15重量%である請求項4記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
上記導電層がアルミニウム、銅およびそれらの合金の少なくとも一つからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
上記抵抗層のシート抵抗が300〜500Ω/□の範囲に設定された請求項1〜6のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
上記抵抗層の厚みが20〜100nmの範囲に設定された請求項1〜7のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
上記誘電体層が、比誘電率2.0〜20.0の高分子フィルムからなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
上記誘電体層の高分子フィルムが、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる請求項1〜9のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
上記誘電体層と抵抗層との間および誘電体層と導電体層との間の少なくとも一方に、コート層が設けられた請求項1〜10のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項12】
上記コート層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ニオブ、スズ・シリコン酸化物およびアルミニウム含有酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる請求項11記載の電磁波吸収体。
【請求項13】
上記コート層の厚みが5〜100nmの範囲に設定された請求項11または12記載の電磁波吸収体。
【請求項14】
さらに粘着層を備え、上記粘着層が上記導電層の外側に設けられた請求項1〜13のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の電磁波吸収体を備えた電磁波吸収体付成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波障害を防止するための電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波(波長が1〜10mm程度、周波数が30〜300GHz)や準ミリ波の領域の電磁波が情報通信媒体として利用が進んでいる。例えば、自動車の技術分野では、障害物を検知して自動でブレーキをかけたり、周辺車両の速度や車間距離を測定して自車の速度や車間距離を制御したりする、衝突予防システムにおける利用が進んでいる。このようなシステムが正常に動作するには、誤認防止のため、不要な電磁波をできるだけ受信しないようにすることが重要である。したがって、これらのシステムの性能を担保する目的で、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体を用いることが望ましい。
【0003】
上記電磁波吸収体には、その電磁波吸収の原理により様々なタイプのものがある。例えば、電磁波反射層と、λ/4(λは対象とする電磁波の波長)の厚みを有する誘電体層と、抵抗薄膜層と、を設けたタイプ(以下「λ/4型」とする)のものは、材料が比較的安価であり、設計が容易であるため、低コストで作製できることが知られている。このようなλ/4型の電磁波吸収体として、例えば、特許文献1には、入射角度の広い領域にわたって機能するという優れた特性を発揮する電磁波吸収体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−198179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものは、入射角度の広い領域にわたって優れた特性を発揮するものの、全自動運転の技術開発が進み、衝突予防システムの信頼性をより一層高める必要があることから、この優れた電磁波吸収体の性能を、さらに長期間にわたって保持できるようにすることが強く望まれている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その性能を長期間にわたり保持することのできる、λ/4型の電磁波吸収体およびそれを備えた電磁波吸収体付成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、高分子フィルムからなる誘電体層と、誘電体層の一方の面に酸化インジウムスズ(以下「ITO」とする)を主成分とする抵抗層と、誘電体層の他方の面に上記抵抗層より低いシート抵抗を有する導電層とを有する電磁波吸収体であって、上記抵抗層のITOに含まれる酸化スズ(以下「SnO2」とする)が20〜40重量%である電磁波吸収体を第1の要旨とする。
【0008】
なかでも、上記第1の要旨の電磁波吸収体のうち、抵抗層がITO以外の成分を含有する電磁波吸収体を第2の要旨とし、上記第1および第2の要旨の電磁波吸収体のうち、上記抵抗層のITO以外の成分が、酸化ケイ素、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一つである電磁波吸収体を第3の要旨とし、上記第1〜3の要旨の電磁波吸収体のうち、導電層がITOからなる電磁波吸収体を第4の要旨とし、上記第4の要旨の電磁波吸収体のうち、導電層のITOに含まれるSnO2が5〜15重量%である電磁波吸収体を第5の要旨とし、上記第1〜3の要旨の電磁波吸収体のうち、導電層がアルミニウム(以下「Al」とする)、銅(以下「Cu」とする)およびそれらの合金の少なくとも一つからなる電磁波吸収体を第6の要旨とする。また、上記第1〜6の要旨の電磁波吸収体のうち、抵抗層のシート抵抗が300〜500Ω/□の範囲に設定された電磁波吸収体を第7の要旨とし、上記第1〜7の要旨の電磁波吸収体のうち、抵抗層の厚みが20〜100nmの範囲に設定された電磁波吸収体を第8の要旨とする。さらに、上記第1〜8の要旨の電磁波吸収体のうち、誘電体層が、比誘電率2.0〜20.0の高分子フィルムからなる電磁波吸収体を第9の要旨とし、上記第1〜9の要旨の電磁波吸収体のうち、誘電体層の高分子フィルムが、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる電磁波吸収体を第10の要旨とする。
【0009】
また、上記第1〜10の要旨の電磁波吸収体のうち、誘電体層と抵抗層との間および誘電体層と導電体層との間の少なくとも一方に、コート層が設けられた電磁波吸収体を第11の要旨とし、上記第11の要旨の電磁波吸収体のうち、コート層が、酸化ケイ素(SiO2,SiO)、窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ニオブ(Nb25)、スズ・シリコン酸化物(STO)およびアルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる電磁波吸収体を第12の要旨とし、上記第11および第12の要旨の電磁波吸収体をのうち、コート層の厚みが5〜100nmの範囲に設定された電磁波吸収体を第13の要旨とする。さらに、上記第1〜13の要旨の電磁波吸収体のうち、さらに粘着層を備え、上記粘着層が上記導電層の外側に設けられた電磁波吸収体を第14の要旨とし、第1〜14の要旨の電磁波吸収体を備えた電磁波吸収体付成形体を第15の要旨とする。
【0010】
本発明者らは、衝突予防システムの信頼性をより一層高める必要があるという課題に着目し、電磁波吸収体の低コスト化を図るだけでなく、その優れた性能を長期にわたって保持することを目指して鋭意研究を行った。その結果、λ/4型の電磁波吸収体を、高分子フィルムからなる誘電体層の一方の面に、ITOを主成分とする抵抗層を有し、他方の面に、上記抵抗層より低いシート抵抗を有する導電層を有する積層体とし、上記抵抗層のITOに20〜40重量%のSnO2を含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達するに至った。
【0011】
なお、本発明の抵抗層のSnO2含有量は、例えば、X線光電子分光法(XPS)や、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定することができる。
【0012】
また、本発明の抵抗層および導電層のシート抵抗は、例えば、接触式(4端針法)や非接触式(渦電流法)の抵抗測定法によって測定することができる。
【0013】
本発明において「主成分」とは、その材料の特性に影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、材料全体の50重量%以上であり、全体が主成分のみからなる場合も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電磁波吸収体は、高分子フィルムからなる誘電体層の一方の面に、ITOを主成分とする抵抗層を有し、他方の面に、上記抵抗層より低いシート抵抗を有する導電層を有する、λ/4型の電磁波吸収体である。よって、対象とする周波数に合わせた設計が容易であり、しかも比較的安価な材料を使用することができるため、低コストで製造することができる。また、上記抵抗層のITOに含まれるSnO2が20〜40重量%であるため、非晶質構造が極めて安定であり、経時的あるいは環境的変化が加えられても、抵抗層のシート抵抗の変動を15%未満に収めることができ、電磁波吸収効果を長期に渡って発揮させることができる。
【0015】
なかでも、上記抵抗層が主成分であるITOに加えてITO以外の成分を含有すると、抵抗層の耐久性を高めることができ、抵抗層のシート抵抗値をより長期間にわたって精度よく保つことができる。とりわけITO以外の成分として、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛を用いると、上記効果を一層高めることができるため好ましい。
【0016】
そして、上記導電層がITOからなると、透明な電磁波吸収体を供することができ、透明性を必要とする部位への適用が可能となるだけでなく、透明な電磁波吸収体を透して取り付け予定部位を確認できるため、位置決め精度を高め、施工性の改善を図ることができる。
【0017】
さらに、上記導電層のITOに含まれるSnO2が5〜15重量%であると、アニール処理によってITOを安定な多結晶構造とすることが容易であり、導電層が抵抗層の1/5以下である低いシート抵抗値を有し、電磁波吸収体の性能をより長期間にわたって保持することができる。
【0018】
一方、上記導電層がAl、Cuおよびそれらの合金の少なくとも一つからなると、シート抵抗値をより容易に下げることができるため、全反射に近い反射を実現でき、電磁波吸収体の吸収能をより高めることができる。
【0019】
また、上記抵抗層のシート抵抗が300〜500Ω/□の範囲に設定されていると、電磁波を効果的に減衰させることができる。
【0020】
上記抵抗層の厚みが20〜100nmの範囲に設定されていると、所望のシート抵抗を有する抵抗層を厚み精度の高い状態で形成することができるため、電磁波吸収効果をより均一に有する電磁波吸収体とすることができる。
【0021】
上記誘電体層が、比誘電率2.0〜20.0の高分子フィルムからなると、誘電体層を制御しやすい厚みに設定することができるため、電磁波吸収効果をより均一に有する電磁波吸収体とすることができる。
【0022】
上記誘電体層の高分子フィルムが、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた少なくとも一つからなると、コストと寸法精度のバランスのとれた使い勝手のよい電磁波吸収体とすることができる。
【0023】
上記誘電体層と抵抗層との間および誘電体層と導電体層との間の少なくとも一方に、コート層が設けられていると、誘電体層中の成分が、抵抗層または導電体層中に拡散することを防止することができるため、抵抗層または導電体層のシート抵抗が、誘電体層中の成分による影響を受けることがなく、長期間にわたって安定性した値を保持することができる。
【0024】
なかでも、上記コート層が、SiO2、SiN、Al23、AlN、Nb25、STOおよびAZOからなる群から選ばれた少なくとも一つからなると、誘電体層中の成分が、抵抗層または導電体層中に拡散することをより確実に防止することができるため、長期間にわたって高い吸収能を保持することができるようになる。
【0025】
上記コート層の厚みが5〜100nmの範囲に設定されていると、抵抗層または導電体層のシート抵抗の安定性と耐久性がとりわけ優れるようになる。
【0026】
さらに粘着層を備え、上記粘着層が上記導電層の外側(誘電体層側の反対側)に設けられた電磁波吸収体であると、他の部材(被取り付け部材)への取り付けが容易になるだけでなく、電磁波吸収体の取り付け位置を固定することにより、優れた電磁波吸収能を安定して維持することが可能となる。
【0027】
また、これらの電磁波吸収体を備えた電磁波吸収体付成形体は、常に決まった位置に電磁波吸収体が正確に配置されることになるため、優れた電磁波吸収能をより安定して発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態の一つである電磁波吸収体の断面図である。
図2】上記電磁波吸収体にコート層を設けた場合を説明する図である。
図3】上記電磁波吸収体に粘着層を設けた場合を説明する図である。
図4】(I),(II)はいずれも上記電磁波吸収体の製法を説明する図である。
図5】上記電磁波吸収体の製法を説明する図である。
図6】本発明の他の実施の形態である電磁波吸収体の断面図である。
図7】上記電磁波吸収体にコート層を設けた場合を説明する図である。
図8】上記電磁波吸収体にコート層を設けた場合の他の例を説明する図である。
図9】(I),(II)はいずれも図6に示す他の実施の形態の電磁波吸収体の製法を説明する図である。
図10図6に示す他の実施の形態の電磁波吸収体の製法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0030】
本発明の電磁波吸収体は、例えば、図1に示すように、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有する積層体からなっている。そして、上記誘電体層Bは、樹脂層b2、樹脂層b1、樹脂層b2がこの順に積層された積層フィルムからなっている。なお、図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み、大きさ等とは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0031】
この電磁波吸収体は、吸収の対象とする波長(周波)の電磁波(λO)が入射すると、抵抗層A表面での反射(表面反射)による電磁波と、導電層C表面での反射(裏面反射)による電磁波とが干渉するように設定されているλ/4型の電磁波吸収体である。なお、λ/4型の電磁波吸収体においては、下記式(1)に示すように、誘電体層Bの厚み(t)と比誘電率(εr)とで吸収の対象とする電磁波(λO)の波長(周波)を決定することが知られている。すなわち、誘電体層Bの材料および厚みを適宜設定することにより、吸収の対象とする波長(周波)の電磁波を設定することができる。上記電磁波吸収体の各構成について、以下に順に説明する。
[式1]
【0032】
<抵抗層A>
抵抗層Aは、対象とする波長(周波)の電磁波を電磁波吸収体の表面近傍で反射させるために配置されるものである。この抵抗層Aは、ITOを主成分としており、ITO中のSnO2の重量%濃度は20〜40重量%であり、より好ましくは25〜35重量%のSnO2を含有することである。上記抵抗層Aは、ITOに含まれるSnO2の量が上記範囲内であるため非晶質構造が極めて安定であり、高温多湿の環境下においても抵抗層Aのシート抵抗の変動を抑えることができる。なお、汎用されるITOは、通常、5〜15重量%のSnO2を含有するものであり、本発明の抵抗層Aで用いるものとは異なっている。5〜15重量%のSnO2を含有するITOでは、アニール処理を行わずに非晶質膜として形成した場合には300〜500Ω/□の抵抗層を容易に得ることができるが、加熱や加湿熱など環境変化によって結晶化し、抵抗値が大きく変動するために電波吸収体の抵抗層として利用することはできない。また、5〜15重量%のSnO2を含有するITOをアニール処理によって多結晶構造化させた場合は長期的な安定性を有するが、一方、導電性が高くなりすぎる。したがって、汎用されるITOを多結晶構造化して300〜500Ω/□の抵抗層Aを得ようとすると、その厚みを10nm以下の極薄膜にする必要がある。厚みが10nm以下の極薄層を、設定された通りの厚みに、均一な状態で形成することは極めて困難であるため、抵抗値の制御が極めて困難となる。
【0033】
上記抵抗層AはITO以外の成分を含有していてもよく、このような成分としては、例えば、酸化ケイ素 、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等があげられる。このようなITO以外の成分は抵抗層Aに含まれる場合、ごく微量であることが好ましく、例えば、ITO 100重量部に対し、0.5〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5重量部である。抵抗層AがITO以外の成分を含有していると、シート抵抗値を変化させずに抵抗層Aの厚みを増加させることができるため、抵抗層Aの耐久性を高めることができる。したがって、抵抗層Aのシート抵抗値をより長期間にわたって精度よく保つことができる。
【0034】
そして、抵抗層Aのシート抵抗は300〜500Ω/□の範囲に設定されることが好ましく、より好ましくは350〜450Ω/□の範囲である。抵抗層Aのシート抵抗が上記範囲内であると、電磁波を効果的に減衰させることができるためである。
【0035】
また、抵抗層Aの厚みは、20〜100nmの範囲であることが好ましく、25〜60nmの範囲であることがより好ましい。厚みが厚すぎても、逆に薄すぎても、経時的あるいは環境的変化が加えられた際の、シート抵抗値の信頼性が低下する傾向がみられるためである。
【0036】
<誘電体層B>
誘電体層Bは、樹脂層b2、樹脂層b1、樹脂層b2がこの順に積層された積層フィルムからなっている(図1参照)。また、樹脂層b2は必ずしも設けなくてもよく、すなわち、誘電体層Bは単層フィルムからなっていてもよい。ただし、樹脂層b1を一定の厚みに形成することの容易性や、抵抗層Aおよび導電層Cの形成のし易さから、樹脂層b1の両側に樹脂層b2を設けることが好ましい。誘電体層Bが複層からなる場合の比誘電率(εr)は、それぞれの層の比誘電率を測定し、得られた各比誘電率にその層の誘電体層全体に対する厚みの割合を乗じ、これらを加算することにより算出することができる。
【0037】
〔樹脂層b1〕
上記樹脂層b1は、吸収の対象とする電磁波(λO)の波長(周波)を決定するのに重要な役割を有するものであり、吸収の対象とする電磁波(λO)の波長(周波)に合わせ、所定の比誘電率(εr)を有する樹脂組成物を、硬化後に所定の厚み(t)となるように形成し、硬化させたものである。樹脂層b1に用いる樹脂組成物としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましく、とりわけ、成型性と比誘電率の点から、EVAを用いることが好ましい。また、ウレタン、アクリル、アクリルウレタンを用いると、樹脂層b1の厚みをより薄くできるため、電磁波吸収体全体の薄膜化を図ることができる。なお、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0038】
上記樹脂層b1の厚みは、50〜2000μmであることが好ましく、100〜1000μmであることがより好ましい。薄すぎると厚み寸法精度の確保が困難であり、厚すぎると材料コストが高くなるためである。
【0039】
〔樹脂層b2〕
上記樹脂層b2は、抵抗層Aまたは導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板であり、上記樹脂層b1を形成する際に、その厚みを厳密に制御するための補助材として用いられるものである。このような樹脂層b2の材料としては、抵抗層Aまたは導電層Cの形成に用いる蒸着やスパッタ等の高温に耐えうるものであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)等があげられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましく用いられる。また、樹脂層b2は、樹脂層b1の両側において同じ材料からなっていてもよいし、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。
【0040】
上記樹脂層b2の厚みは、10〜125μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましい。薄すぎると、抵抗層Aを形成する際にシワや変形が起こりやすいためであり、厚すぎると、電磁波吸収体としての屈曲性が低下するためである。また、樹脂層b1の両側において同じ厚みであってもよいし、それぞれ異なる厚みであってもよい。
【0041】
<導電層C>
導電層Cは、対象とする波長(周波)の電磁波を電磁波吸収体の裏面近傍で反射させるために配置されるものである。また、この導電層Cのシート抵抗は、抵抗層Aのシート抵抗より充分に低く設定されている。これらのことから、導電層Cの材料としては、例えば、ITO、Al、Cu、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびこれらの金属の合金があげられる。なかでも、透明な電磁波吸収体を供することができ、透明性が必要とされる部位への適用が可能となるだけでなく、施工性の改善を図ることができる点から、ITOを用いることが好ましく、なかでも5〜15重量%のSnO2を含有するITOが好ましく用いられる。一方で、シート抵抗値をより容易に下げることができ、ノイズをより低減することができる点から、Al、Cuまたはそれらの合金が好ましく用いられる。また、導電層Cの厚みは、20〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると導電層Cに応力やクラックが入り易くなり、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られ難くなるためである。また、導電層Cのシート抵抗は、抵抗層Aのシート抵抗の1/500〜1/5であることが好ましく、1/200〜1/15であることがさらに好ましい。
【0042】
この構成によれば、抵抗層Aが、20〜40重量%のSnO2を含有するITOを主成分としているため、電磁波吸収体に経時的あるいは環境的変化が加えられても、抵抗層Aのシート抵抗の変動を概ね15%未満に収めることができ、ターゲットとする波長(周波数)の電磁波を長期に渡って吸収することができる。
【0043】
なお、上記実施の形態では、電磁波吸収体が、抵抗層A、誘電体層B、導電層Cの積層体からなっているが、電磁波吸収体にはこれらの層以外の層を設けてもよい。すなわち、抵抗層Aの外側、導電層Cの外側、抵抗層Aと誘電体層Bの間、誘電体層Bと導電層Cの間に他の層を設けるようにしてもよい。
【0044】
例えば、抵抗層Aの外側にコート層を設けると、抵抗層Aの耐久性、耐候性を高めることができる。また、図2に示すように、抵抗層Aと誘電体層Bとの間にコート層Eや、誘電体層Bと導電体層Cとの間にコート層E’を設けると、誘電体層B中の成分が、抵抗層Aまたは導電体層C中に拡散することを防止することができる。これにより、抵抗層Aおよび導電体層Cのシート抵抗が、誘電体層B中の成分による影響を受けることがなくなり、長期間にわたって高い吸収能を保持することができるようになる。なお、コート層E、E’は、抵抗層Aと誘電体層Bとの間および誘電体層Bと導電体層Cとの間において同じ材料からなっていてもよいし、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。また、この効果を得るために、コート層E,E’を、抵抗層Aと誘電体層Bとの間および誘電体層Bと導電体層Cとの間の両方に設ける必要はなく、どちらか一方だけに設けてもよい。しかし、とりわけ抵抗層Aと誘電体層Bとの間にコート層E設けることが好ましい。もちろん、抵抗層Aとコート層Eとの間、導電体層Cとコート層E’との間にも他の層を設けてもよい。
【0045】
上記コート層E,E’の材料としては、例えば、SiO2、SiN、Al23、AlN、Nb25、STO、AZO等を用いることができ、なかでもAIN、AZOを用いると、抵抗層Aまたは導電体層Cの耐久性をより高めることができるため、好適である。
【0046】
上記コート層E,E’の厚みは、5〜100nmの範囲であることが好ましく、10〜50nmの範囲であることがより好ましい。厚みが薄すぎると抵抗層Aまたは導電体層Cの耐久性向上の効果が乏しくなるおそれがあり、厚みが厚すぎるとコート層E,E’にクラックが入りやすくなり、安定した耐久性向上効果を発揮できない傾向がみられるためである。
【0047】
また、上記他の層として、図3に示すように、導電層Cの外側(誘電体層側の反対側)に粘着層Fを設けてもよい。粘着層Fを設けると他の部材(被取り付け部材)への取り付けが容易になるだけでなく、電磁波吸収体の取り付け位置を固定することにより、優れた電磁波吸収能を安定して維持することが可能となる。もちろん、導電層Cと粘着層Fとの間にも他の層を設けることができる。
【0048】
上記粘着層Fの材料としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等の粘着剤を用いることができる。また、エマルション系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いることもでき、被取り付け部材の材質や形状によって適宜選択することができる。なかでも、長期にわたる粘着力を発揮し、取り付けの信頼性が高い点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0049】
本発明の実施の形態に示す電磁波吸収体(図1参照)は、例えば、つぎのようにして製造することができる。
【0050】
まず、図4(I)に示すように、フィルム状に成形された樹脂層b2の上に抵抗層Aを形成する。また、図4(II)に示すように、上記とは別のフィルム状に成形された樹脂b2の上(図4(II)では下)に導電層Cを形成する。上記抵抗層Aおよび導電層Cは、スパッタ、蒸着等により形成することができる。なかでも、抵抗値や厚みを厳密に制御できる点から、いずれもスパッタを用いることが好ましい。
【0051】
つぎに、図5に示すように、導電層Cが形成された樹脂層b2の、導電層Cが形成された反対面に、樹脂層b1を形成する樹脂組成物を塗布、印刷、押出成形等を行う。そして、上記樹脂組成物の上に、抵抗層Aが形成された樹脂層b2の、抵抗層Aが形成された反対面を重ね、樹脂組成物の厚みを調整したのち、これを硬化させて樹脂層b1とする。これにより、図1に示す、抵抗層A、誘電体層B(樹脂層b2、樹脂層b1および樹脂層b2からなる複合フィルム)、導電層Cがこの順で積層された電磁波吸収体を得ることができる。
【0052】
これによれば、樹脂層b1の厚みの制御が容易であるため、対象とする波長(周波)の電磁波を効果的に吸収する電磁波吸収体とすることができる。また、抵抗層Aおよび導電層Cを別々に形成することができるため、電磁波吸収体の製造にかかる時間を短縮することができ、低コストで製造することができる。
【0053】
なお、誘電体層Bを樹脂層b1のみで形成する場合には、例えば、まず、所定の厚みのフィルム状の樹脂層b1を用意し、このフィルム状の樹脂層b1に対して、一方の面に抵抗層Aを形成し、他方の面に導電層Cを形成すればよい。
【0054】
また、図2に示すように、抵抗層Aと誘電体層Bとの間にコート層Eを設ける場合には、例えば、図4(I)において、予め樹脂層b2の上にコート層Eを塗布等により形成し、そのコート層Eの上に抵抗層Aを形成すればよい。そして、誘電体層Bと導電体層Cとの間にコート層E’を設ける場合も同様に、図4(II)において、予め樹脂層b2の上にコート層E’を塗布等により形成し、そのコート層E’の上に抵抗層Cを形成すればよい。
【0055】
さらに、図3に示すように、粘着層Fを設ける場合には、例えば、図1の電磁波吸収体を作製した後、導電層Cの外側(誘電体層側の反対側)に、上記粘着剤または接着剤を塗布等することにより形成することができる。
【0056】
つぎに、本発明の他の実施の形態を説明する。図6は、本発明の他の実施の形態の電磁波吸収体である。上記他の実施の形態では、誘電体層Bが樹脂層b1単層からなり、この誘電体層Bの一方の面に直接抵抗層Aを有し、他方の面に直接導電層Cを有している。なお、図6において、符号Dは、抵抗層Aおよび導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板となる樹脂層である。それ以外の部分は、上記実施の形態と同様であり、上記実施の形態と同様の効果を奏する。この効果に加え、樹脂層Dが、それぞれ抵抗層Aおよび導電層Cのコート層の役割を果たし、外部からこれらの層を保護することができるため、耐久性が高められている。このような樹脂層Dの材料としては、抵抗層Aまたは導電層Cの形成に用いる蒸着やスパッタ等の高温に耐えうるものであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)等があげられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましく用いられる。また、樹脂層Dは、抵抗層A側および導電層C側の両側において同じ材料からなっていてもよいし、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。
【0057】
なお、図6に示す他の実施の形態の電磁波吸収体においても、上記実施の形態と同様に、各層の間に他の層を設けてもよい。具体的には、先の実施の形態に示したものと同様であり、同様の効果を奏する。例えば、樹脂層Dの外側、抵抗層Aと誘電体層B(樹脂層b1)の間、誘電体層B(樹脂層b1)と導電層Cの間に他の層を設けてもよい。他の層には、コート層E,E’、粘着層Fが含まれるが、それ以外の層であってもよい。図7に、抵抗層Aと誘電体層B(樹脂層b1)との間にコート層Eを設け、誘電体層B(樹脂層b1)と導電層Cの間にコート層E’を設けた例を示す。この例においても、誘電体層B中の成分が、抵抗層Aおよび導電体層C中に拡散することが効果的に防止される。また、図8に、さらに、抵抗層Aと樹脂層Dとの間にコート層Eを設け、導電層Cと樹脂層Dとの間にコート層E’を設けた例を示す。この例においては、抵抗層Aおよび導電体層Cを確実に保護することができるため、それぞれのシート抵抗の変動を長期間にわたって防止することができ、さらに信頼性を高めることができる。
【0058】
図6に示す他の実施の形態の電磁波吸収体は、例えば、つぎのようにして製造することができる。
【0059】
すなわち、まず、図9(I)に示すように、フィルム状に成形された樹脂層Dの上(図9(I)では下)に抵抗層Aを形成する。また、図9(II)に示すように、上記とは別のフィルム状に成形された樹脂層Dの上に導電層Cを形成する。上記抵抗層Aおよび導電層Cは、スパッタ、蒸着等により形成することができる。なかでも、抵抗値や厚みを厳密に制御できる点から、いずれもスパッタを用いることが好ましい。
【0060】
つぎに、図10に示すように、導電層Cが形成された樹脂層Dの、導電層Cが形成された面に、樹脂層Bを形成する樹脂組成物を塗布、印刷、押出成形等を行う。そして、上記樹脂組成物の上に、抵抗層Aが形成された樹脂層Dの、抵抗層Aが形成された面を重ね、上記樹脂組成物の厚みを調整したのち、これを硬化させて樹脂層B(樹脂層b1)とする。これにより、図6に示す、樹脂層D、抵抗層A、誘電体層B(樹脂層b1)、導電層C、樹脂層Dがこの順で積層された電磁波吸収体を得ることができる。この方法によると、樹脂層Bが樹脂層b1単層からなるにも関わらず、誘電体層B(樹脂層b1)の厚みを一定の厚みに形成することが容易であるため、吸収の対象とする電磁波の波長(周波)を正確に設定できる。また、抵抗層Aおよび導電層Cの抵抗値を厳密に制御することが可能となるため、優れた電磁波吸収能を長期間維持することが可能な電磁波吸収体を製造することができる。
【0061】
なお、図7に示すように、抵抗層Aと誘電体層Bとの間にコート層Eを設ける場合には、例えば、図9(I)において、抵抗層Aの上にコート層Eをスパッタや化学蒸着(CVD)、塗布等により形成しておけばよい。そして、誘電体層Bと導電体層Cとの間にコート層E’を設ける場合も同様に、図9(II)において、導電層Cの上にコート層E’をスパッタやCVD、塗布等により形成すればよい。
【0062】
また、図8に示すように、さらに樹脂層Dと抵抗層Aとの間にもコート層Eを設ける場合には、例えば、図9(I)において、予め樹脂層Dの上にコート層EをスパッタやCVD、塗布等により形成し、そのコート層Eの上に抵抗層Aを形成すればよい。そして、導電体層Cと樹脂層Dとの間にコート層E’を設ける場合も同様に、図9(II)において、予め樹脂層Dの上にコート層E’をスパッタやCVD、塗布等により形成し、そのコート層E’の上に抵抗層Cを形成すればよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<試験例1〜10>
まず、本発明の実施例および比較例の説明の前に、本発明の電磁波吸収体における抵抗層Aの信頼性を、下記の〔信頼性評価1〕および〔信頼性評価2〕に記載の指標にしたがって評価した。これらの評価は各試験例についてn=5で行い、その平均を各試験例の評価とした。各試験例の評価(信頼性評価1および信頼性評価2)を後記の表1に合わせて示す。
【0065】
〔信頼性評価1〕
試験例1〜10のうち、試験例1〜6は、フィルム状の基材(三菱化学ポリエステル社製PET:三菱ダイアホイル)上に、抵抗層を表1に示す材料を用いてスパッタにより形成した。試験例7〜10は、上記フィルム状の基材の上に表1に示す材料を用いて抵抗層を形成し、さらに表1に示す材料を用いてその上にコート層を形成した。そして、これらの試験片を温度120℃の雰囲気下にそれぞれ所定時間(24時間、100時間、1000時間)加熱し、加熱後の抵抗層のシート抵抗の、加熱前の抵抗層のシート抵抗に対する変化をシート抵抗変動率(%)として算出し、下記の指標にしたがって評価した。
〇:シート抵抗変動率が10%未満
△:シート抵抗変動率が10%以上15%未満
×:シート抵抗変動率が15%以上
【0066】
〔信頼性評価2〕
抵抗層を評価する試験片を信頼性評価1の試験片と同様に作製した。そして、これらの試験片を、温度85℃,湿度85%の雰囲気下にそれぞれ所定時間(24時間、100時間、1000時間)置き、所定時間置いた後の抵抗層のシート抵抗の、所定時間置く前の抵抗層のシート抵抗に対する変化をシート抵抗変動率(%)として算出し、下記の指標にしたがって評価した。
〇:シート抵抗変動率が10%未満
△:シート抵抗変動率が10%以上15%未満
×:シート抵抗変動率が15%以上
【0067】
【表1】
【0068】
表1の結果から、抵抗層として、SnO2を20重量%含有するITOを用いた試験例2およびSnO2を30重量%含有するITOを用いた試験例3が、信頼性評価1および信頼性評価2のいずれも高い評価を示し、耐久性に優れていることがわかる。また、SnO2を20重量%含有するITOを抵抗層に用い、この抵抗層の上に下地コート層を設けた試験例7も同様に耐久性に優れていることがわかる。
【0069】
つぎに、図1に示す実施の形態に準じ、下記に示すとおり実施例1〜14および比較例1〜4を作製した。また、図7に示す実施の形態に準じ、後記に示すとおり実施例15〜34を作製した。これらの実施例1〜34および比較例1〜4の電磁波吸収体について、下記に示す指標に従い、初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量をそれぞれ測定し、評価した。そして、初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量の評価結果を下記の指標に当てはめ、電磁波吸収能の評価を行った。得られた結果を表2および表3に併せて示す。
【0070】
〔反射減衰量〕
JIS R 1679(電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)に準拠して、76GHzのミリ波に対する反射減衰量(dB)を測定し、下記の指標にしたがって評価した。なお、上記測定を各実施例、比較例についてn=5で行い、その平均を下記の指標に当てはめ、各実施例、比較例の評価とした。
◎:反射減衰量が30dB以上
〇:反射減衰量が20dB以上30dB未満
△:反射減衰量が10dB以上20dB未満
×:反射減衰量が10dB未満
【0071】
〔電磁波吸収能評価〕
◎:初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量の評価が、いずれも◎であり、電磁波吸収能が非常に優れるもの。
○:初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量の評価において、一方の評価が◎であり、もう一方の評価が○であるもの。あるいはいずれも○であり、電磁波吸収能が優れるもの。
△:初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量の評価において、一方の評価が◎もしくは○であり、もう一方の評価が△であるもの。あるいはいずれも△であり、ある程度の電磁波吸収能が得られるもの。
×:初期および温度120℃雰囲気下で1000時間経過後の反射減衰量の評価において、少なくとも一方に×があり、電磁波吸収能またはその信頼性に欠けるもの。
【0072】
<実施例1>
上記図1の実施の形態に示す方法に準じて、まず、PETからなるフィルム状の樹脂層b2(三菱化学ポリエステル社製:三菱ダイアホイル)の上に、シート抵抗430Ω/□となるよう30重量%のSnO2を含有するITOを用いて抵抗層Aを形成した。また、別のフィルム状の樹脂層b2(三菱化学ポリエステル社製:三菱ダイアホイル)の上に、10重量%のSnO2を含有するITOを積層し、上記ITOに対し、温度150℃で1時間のアニール処理を行い、多結晶構造化させて、シート抵抗が20Ω/□の導電層Cを形成した。この導電層Cが形成された樹脂層b2の、導電層Cが形成された面の反対面に、樹脂組成物(EVA組成物)を所定厚みにプレス成型したものを載せ、その上に、抵抗層Aが形成された面の反対面を合わせるよう先の樹脂層b2を重ね、上記樹脂組成物を硬化させて樹脂層b1とし、目的の電磁波吸収体を得た。このときの誘電体層Bの比誘電率は2.45であった。
【0073】
<実施例2,3、比較例1,2>
SnO2の配合量を表2に示す重量%に代えて抵抗層Aを形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0074】
<実施例4>
導電層Cをシート抵抗2Ω/□となるようAlを用いて形成し、抵抗層Aをシート抵抗380Ω/□となるよう形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0075】
<実施例5〜8>
表2に示すシート抵抗となるよう抵抗層Aを形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0076】
<実施例9〜11>
表2に示す材料を用いて誘電体層Bを形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。このときの誘電体層Bの比誘電率は、実施例9が2.45、実施例10が2.7、実施例11が2.55であった。
【0077】
<実施例12〜15>
抵抗層Aの厚みを表2に示す厚みに代えた以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0078】
<実施例16>
SnO2を30重量%含有するITOおよび2.5重量%のSiO2を用いて抵抗層Aを厚み50nmに形成し、誘電体層Bをアクリルを用いて形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0079】
<比較例3>
導電層Cをシート抵抗430Ω/□(抵抗層Aと同じシート抵抗)になるよう、30重量%のSnO2を含有するITOを用いて形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0080】
<比較例4>
導電層Cをシート抵抗600Ω/□となるようアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)を用いて形成した以外は、実施例1と同様にして目的の電磁波吸収体を得た。
【0081】
【表2】
【0082】
<実施例17>
つぎに、上記図7の実施の形態に示す方法に準じて、まず、PETからなるフィルム状の樹脂層D(三菱化学ポリエステル社製:三菱ダイアホイル)の上に、シート抵抗430Ω/□となるよう30重量%のSnO2を含有するITOを用いて抵抗層Aを形成し、この抵抗層Aの上にSiO2からなるコート層Eを厚み20nmに形成した。また、別のフィルム状の樹脂層D(三菱化学ポリエステル社製:三菱ダイアホイル)の上に、10重量%のSnO2を含有するITOを積層し、上記ITOに対し、温度150℃で1時間のアニール処理を行い、多結晶構造化させて、シート抵抗が20Ω/□の導電層Cを形成した。そして、この導電層Cの上にSiO2からなるコート層E’を厚み20nmに形成した。このコート層E’の上に、樹脂組成物(EVA組成物)を所定厚みにプレス成型したものを載せ、その上に、先の抵抗層Aが形成された樹脂層Dを、コート層Eが樹脂組成物に対峙するように重ね、上記樹脂組成物を硬化させて樹脂層B(b1)とし、目的の電磁波吸収体を得た。このときの誘電体層Bの比誘電率は2.45であった。
【0083】
<実施例18〜36>
実施例17に準じて、表3に示す構成となるように、それぞれ抵抗層A、誘電体層B、導電層C、コート層E,E’形成して、目的の電磁波吸収体を得た。なお、誘電体層Bにおいて、アクリルを用いた場合の比誘電率は2.55、ウレタンを用いた場合の比誘電率は2.7、SEPSを用いた場合の比誘電率は2.4、EPTを用いた場合の比誘電率は2.3、シリコーンを用いた場合の比誘電率は2.7であった。また、実施例26ではコート層E’を形成せず、樹脂層b2の上に直接Alを積層した。
【0084】
【表3】
【0085】
上記表2および表3の結果から、実施例1〜36は、いずれも良好な電磁波吸収能を有し、周囲の環境が変化してもその性能を長時間維持することがわかった。これは、前記表1の結果に示されたように、実施例1〜36の抵抗層Aは、加熱環境下においても長期間にわたって設定されたシート抵抗を保持するためである。とりわけ、コート層Eおよびコート層E’の少なくとも一方を備えている実施例17〜36は、極めて優れた電磁波吸収能を有することがわかる。一方、比較例1、2は、抵抗層Aの材料のITOに添加したSnO2の量が少ない、あるいは多いため、周囲の環境が変化した際、時間の経過とともに抵抗層Aの抵抗値が変化し、初期の優れた電磁波吸収能を長期間維持することができなかった。また、比較例3、4は、導電層Cのシート抵抗が抵抗層Aのシート抵抗と同じか、高くなっているため、充分な電磁波吸収能を得ることができなかった。
【0086】
なお、上記実施の電磁波吸収体は、不要な電波を吸収したい部材の任意の個所に取り付ける以外に、予め不要な電波を受信する可能性のある部材、例えば車体部材等に設置することで、常に決まった位置に電磁波吸収体を配置することができ、より安定した電磁波吸収能を発揮することができる。このような部材としては、例えば、バンパー、グリル、フェンダー、スポイラー、エンブレム、ブラケット、バンパービーム等の樹脂成形体あるいは金属成形体があげられる。したがって、本発明の電磁波吸収体を備えた形成体は、優れた電磁波吸収能をより安定して発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、不要な電磁波を吸収する性能を長期間にわたり保持することのできるため、自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダの電磁波吸収体に好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)やミリ波を用いた次世代移動通信システム(5G)においても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
A 抵抗層
B 誘電体層
C 導電層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10