(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184595
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】食品を保存する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3409 20060101AFI20170814BHJP
A23L 3/005 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
A23L3/3409
A23L3/005
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-520149(P2016-520149)
(86)(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公表番号】特表2016-524897(P2016-524897A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2014066176
(87)【国際公開番号】WO2015018682
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年4月4日
(31)【優先権主張番号】PD2013A000228
(32)【優先日】2013年8月7日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516039424
【氏名又は名称】ネクスト エスアールエル
【氏名又は名称原語表記】NECST S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランゾリン,エンリコ
(72)【発明者】
【氏名】ベレモ,ルチアーノ
(72)【発明者】
【氏名】カッシ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ミチェロン,ニコラ
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−322745(JP,A)
【文献】
特開平10−045177(JP,A)
【文献】
特開2000−142815(JP,A)
【文献】
特開2004−201640(JP,A)
【文献】
特開2003−235473(JP,A)
【文献】
特開平02−002323(JP,A)
【文献】
米国特許第02214419(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−3/54
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理された食品を保存する方法であって、
前記調理された食品が、
大気圧で、且つ58℃〜72℃の範囲の所定温度で、且つ少なくとも24時間を超える保存期間にわたって、制御された雰囲気を有する保存チャンバー内に維持され、且つ前記保存チャンバー内に存在する酸素を前記保存チャンバー内に導入された他の非酸化性ガスで少なくとも部分的に置換することによって前記保存チャンバー内の酸素分圧が10kPa未満に維持される
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記保存チャンバー内に保存される前記調理された食品に抗酸化剤が加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保存期間中、前記保存チャンバー内の酸素分圧が100Pa未満に維持される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保存期間中、前記保存チャンバー内の酸素濃度を測定し、為された測定に従って、所定の酸素分圧と関連付けられた酸素濃度を回復する、請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記保存チャンバー内に収容される食品の種類や量、前記保存チャンバーの容積、および食品の酸素放出速度の関数として、初期濃度に対する酸素濃度の回復レベルを計算する、請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
酸素置換ガスが、窒素および/または二酸化炭素および/または酸化窒素である、請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記保存期間中、前記非酸化性ガスの導入と同時または他の時点で、前記保存チャンバー内に水蒸気を導入、または前記保存チャンバー内に水蒸気を発生させる、請求項1から請求項6までの何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記制御された雰囲気と温度を有する前記保存チャンバー内で、保存工程前に食品に調理が施される、請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主クレームである請求項1の序文に記載された特徴を有する、食品を高温保存する方法に関する。当該食品は調理または予備調理されてもよい。場合によっては、当該食品が調理され、当該方法によって規定されるように保存されてもよい。
【背景技術】
【0002】
本発明は、調理または予備調理を施された食品および食糧をある期間にわたって保存する特定の分野に関し、特に、排他的ではないが、例えばレストランや食堂等での公衆ケータリング、スーパーマーケット、公衆ケータリングサービス、および軍用ケータリングの食糧において使用される食品保存プロセスに適用可能である。
【0003】
現在、調理または予備調理された食品の保存は、必要な保存時間に応じて様々な方法で実行される。
【0004】
第一の保存手順では、必要な保存期間が数日または数週間に及ぶ場合、食品は冷凍される。
【0005】
第二の保存手順では、必要な保存期間が数日の場合、食品は冷蔵される(例えば、4℃で)。
【0006】
他の手順では、必要な保存期間が数時間の場合、食品は温度を維持する設備で高温状態で保存される(例えば、70℃で)。また、他の手順では、調理済み食品が即座にまたは調理から数時間以内に消費される場合、周囲温度で保存が実行される。
【0007】
調整された雰囲気中で食品を保存する、例えば、軽く処理された商品(例えば焼いた野菜等)を直ぐに使用できる状態に維持しつつ冷蔵庫で数日間保存する既知の手順もある。
【0008】
冷凍および冷蔵する最初の2つの手順での低温流通(cold chain)の利用には多くの問題がある。第一の制限は、食品を提供する前に比較的高温にする必要があるため、かなりの時間を必要とすることである。
【0009】
また、この場合、食品は最初に冷却され、その後に提供される温度に戻さなければならないため、この手順では多くの処理が必要となり、その結果としてコストが高くなる。
【0010】
低温流通を利用する保存では、(特に冷凍プロセスでの)熱的および機械的ストレス、並びに(低減されるが、排除はされない)細菌作用の結果、頻繁に、食品の官能特性(organoleptic characteristic)も大なり小なり損なわれる。
【0011】
また、低温流通は、温度低下、保存、提供温度への再生という3つの必須段階のために、高い比エネルギー要件(specific energy requirement)も有している。
【0012】
保存が周囲温度および/または調整雰囲気で実行される、上述の最後の2つの手順の温度では、細菌作用および官能特性の劣化が非常に速いため、保存期間も数時間に限定される。
【0013】
多くの場合、例えば、サイクルが通常週1回のケータリング等においては、理想的な保存期間は数日である。
【発明の概要】
【0014】
本発明の主な目的は、約1週間以上の保存期間にわたって官能特性が変化しないように維持または向上させながら、調理または予備調理された食品の微生物的、物理的、および化学的変化の防止または遅延させるように設計された、調理または予備調理された食品の高温保存方法を提供することである。他の目的は、例えば、表面を再びサクサクにするために、食品の表面的特徴の品質を、当該食品がテーブルに提供される前に急速に回復させることができる保存方法を工夫することである。
【0015】
また、他の目的は、保存機器からテーブルに食品を提供するまでに必要な時間を数分へと短縮することである。
【0016】
また、他の目的は、調理から提供までのプロセス全体に対して、制限された量の比エネルギーを必要とする、食品の高温保存方法を提供することである。
【0017】
また、他の目的は、食品を低温で調理し、調理したのと同じ機器内に保持することである。
【0018】
本明細書の用語「高温」とは、細菌作用による食品の劣化を防止するために、米国FDAフードコードに示された摂氏57.2度(華氏135度)を意味している。
【0019】
約1週間以上または数日間の食品の高温保存の調査または研究に関して、関連する先行技術の技術文献は見あたらない。
【0020】
これらおよび他の目的は以下に明らかにされ、添付の特許請求の範囲に基いた、考案された本発明の食品の高温保存方法によって達成される。
【0021】
本発明の特徴および利点は、指針として非限定的方法で提供される、以下の本発明の実施の形態の好ましい実施例の詳細な説明から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の保存方法では、好適な調理ユニット、または特定の温度で高温保存に使用される機器で調理または予備調理の工程を受けた食品は、調理または予備調理された食品を保存チャンバーに入れたままで保存工程に供される。
【0023】
したがって、他の機器で調理または予備調理された食品を保存するために保存チャンバーを単独で使用することや、特定の食品の場合、調理工程と保存工程の両方のために当該保存チャンバーを使用することが可能である。
【0024】
当該保存チャンバーは制御された雰囲気を有するチャンバーであり、保存方法では、特性の主な組合せに応じて、少なくとも24時間を超える保存期間、57.2℃〜90℃の範囲で選択された所定温度でチャンバーに食品を維持する。このチャンバーの酸素分圧は10kPa未満に維持される。
【0025】
好ましくは、保存温度は58℃〜72℃の範囲の所定値を有するように選択される。前述の範囲内の値の選択は、保存される食品の種類(例えば肉,魚,野菜の種類等)に応じて変えてもよい。例えば、野菜は、肉の保存に指定される温度よりある程度低い温度でより良好に保存される。前述の保存温度では、食品への細菌作用は実質的に無視することができ、官能特性の劣化は、主に、
・ 化学反応(例えば酸化等)および熱が作用する条件下で食品内の化合物に影響を及ぼす酸化以外の化学変化反応と、
・ 物理的プロセス、例えば食品の特に表面への水蒸気(湿度)の分圧効果に起因する。
【0026】
食品の官能特性に対して最も大きな影響を有する物理的プロセスは、水分の蒸発と食品の特に表面への水分の拡散によって引き起こされる。例えば、保存している間に食品の表面が本来のパリッとした新鮮さ(original crispness)を失うかもしれない。食品を提供する前に新鮮さを回復させるために、高温での急速な加熱処理が必要である。この加熱処理は、当該方法の主要な特徴に影響を及ぼさないので、本発明の方法において提供することができる。
【0027】
食品中の化合物に影響を及ぼす酸化以外の化学変化反応は、前述の保存温度では非常に遅く、したがって、その影響を無視することができる。実際、赤味肉として説明される(すなわち、高い結合組織の)肉の場合、この温度での数日間の保存によってコラーゲンタンパク質の糊化が促進され、結果として肉の柔らかさが増すので、このような保存によって肉の品質が向上する。
【0028】
したがって、前述の保存温度で生じる全ての化学反応の中でも、酸化は官能特性の劣化の主な原因である。
【0029】
したがって、数日の保存期間の達成が必要な場合、食品が保存される、制御された雰囲気のチャンバー内の酸素の排除または酸素濃度の減少は必須である。
【0030】
本発明の方法によって提供される、酸化を減少または排除する技術を以下で確認することができる。
・ それは、他の非酸化性ガス、例えば窒素および/または水蒸気および/または二酸化炭素および/または酸化窒素等による酸素の置換である。窒素は、調理された食品に対して化学的に中性で、安価で、入手が容易という利点を有し、水蒸気は、食品が保存されるチャンバー内に窒素を導入する前または導入した後に発生させることができる。
【0031】
非酸化性ガスは、例えばシリンダーから、または(典型的には、窒素、二酸化炭素、および水蒸気を含有するガスの混合物を生じる)空気と炭化水素または他の炭素化合物との燃焼の結果として得ることができる。また、保存される食品の乾燥を防止するために、非酸化性ガスがチャンバー内に導入される前に加湿を実施してもよい。
・ 得るべき酸素濃度に従った、高真空度または低真空度の達成と、
・ 空気を水蒸気で置換することによる、保存温度での水飽和圧における食品の保存である。例えば65℃で、飽和圧は0.25barである。明確には、保存期間中、水蒸気で飽和された環境に置かれても不可逆変化を受けない全ての食品に対して行うことができる。
【0032】
他の非酸化性ガスによる酸素の置換に関して、本発明の方法の好ましい実施の形態では、制御された雰囲気の保存チャンバーは、少なくとも24時間を超える保存期間中、大気圧で、57.2℃〜90℃、好ましくは58℃〜72℃の範囲の所定温度に維持され、チャンバー内に存在する酸素をチャンバー内に導入された窒素で少なくとも部分的に置換することによってチャンバー内の酸素分圧が10kPa未満に維持される。当該窒素は、例えばシリンダーから供給することによって保存チャンバー内に導入することができる。
【0033】
一次近似において、簡単化のため、チャンバー内に存在する空気が通常の重量百分率、すなわち21%の酸素と79%の窒素のみで構成され、大気圧が大雑把な推定において約100kPaと仮定し、これらガスが実質的に理想気体として振る舞うと仮定すると、各ガスの分圧は夫々21kPa(酸素)および79kPa(窒素)と考えられる。これらの条件に基づいて、本発明の方法によれば、酸素の濃度が10%に、窒素の濃度が90%に近づき、それによって、夫々酸素が10kPaおよび窒素が90kPaの分圧を生じるまで、保存チャンバー内に窒素を導入することによって、酸素は、窒素で部分的に置換される。このように実質的に大気圧で生じる当該置換プロセスは、所望の値の酸素分圧(10kPa未満)が達成されるまで継続される。
【0034】
上記で説明した技術の効率を向上させるため、
・ 食品に酸化防止剤を添加する工程と、
・ 食品が保存されるチャンバー内に、酸素と反応する物質を導入し、化学的プロセス(反応)または物理的プロセス(例えば吸収と吸着)の何れかによって酸素濃度を低下させる工程、を実行してもよい。
【0035】
絶対的に最適な酸素濃度は存在しない。なぜならば、最適な酸素濃度は、
・ 所望の保存期間、
・ 保存温度、
・ 相対湿度、および
・ 許容可能と考えられる官能特性の保持の程度、に依存するからである。
【0036】
保存された調理済み食品の官能特性を実質的に劣化させることなく、肉,魚,野菜をベースとする料理に対して約1週間の保存期間を達成するために、本発明の方法によって、好都合には以下の条件が提供される。
・ 数ppm(体積百分率)(数十Pa(パスカル)の分圧に相当する)から数十ppm(数百Pa(場合によりそれ以上、すなわち数千Pa以上)に相当する)までの範囲の酸素濃度;幾つかの例外(特定の野菜(例えば豆等))を除いて、明確に酸素濃度が低いほど、結果としての保存は良好である。
・ 57.2℃〜90℃、好ましくは58℃〜72℃の範囲の温度である。
・ 飽和に近い非常に高い相対湿度で、特に閉鎖された保存環境において、湿度平衡が達成された後、食品中の水分の蒸気圧は、保存チャンバー内の蒸気の分圧に等しくなり、結果として食品の表面からの水分の蒸発を防止することができる。必要な場合、官能特性への悪影響を避けるために、保存期間の開始時に、液体の水および/または水蒸気を、例えば非酸化性ガスの導入と同時に添加してもよい。それによって、湿度平衡状態に急速に達して食品の表面からの水分の蒸発を防止することができる。
【0037】
最適な酸素濃度が規定されている場合、時間経過を超えるべきではない。またはどのような場合でも所定の範囲内に維持されることは重要であり、さもなければ酸化プロセスの速度は増加し、それによって官能特性の劣化が進行する。
【0038】
最後に、(数日間続く)保存期間中、保存環境(保存される食品の体積に適合した体積の閉鎖環境)の酸素濃度を増加させる速度で、酸素が食品から放出されることが実験的に見出された。多くの場合、この増加を無視することはできず、初期濃度状態の回復を必要とする。したがって、保存機器は、好ましくは初期酸素濃度を回復するためのシステムを備えるべきである。
【0039】
初期酸素濃度を回復するためのこのシステムは、例えば、
・ 自動的(すなわち、酸素の濃度を測定するための装置と、その濃度を測定の関数として復元するシステムに基づいている)、
・ 食品の種類や量、保存機器の容積、酸素放出速度を考慮した計算に基づいている。
【0040】
このように、本発明の方法は食品の調理と保存に適用することができ、すなわち当該食品は保存チャンバー内で調理される。これは、特に比較的低温で調理された食品(例えば、多くの種類の魚や特定の野菜)に関している。食品が当該保存機器で調理される場合、当該食品は、調理済みまたは予備調理済み食品について説明された手順に従って実行され、(酸素濃度と温度の制御、必要であれば湿度の制御を伴って)何日間かチャンバー内に保持することができる。
【0041】
この場合、調理は、所定の保存温度または他の温度で、酸化性ガスの存在下または不在下で、水蒸気の導入および/または生成を伴ってまたは伴わずに行うことができる。調理時間を短縮するために、調理温度は、好適には保存チャンバーで確立される保存温度より高いレベルに設定してもよい。
【0042】
したがって、本発明は、既知の解決策と比較して、記述した利点を提供しつつ、提案された目的を達成する。
【0043】
本発明による高温保存方法の主要な利点は、食品の官能特性を維持しつつ、当該調理済みまたは予備調理済み食品の微生物的、物理的、化学的変化を防止または遅らせつつ、調理済みまたは予備調理済み食品を、24時間を超える保存期間、好都合には数日間の保存することができる。これによって、食品を提供する前に食品の表面特徴の品質に急速に回復することができ、結果として、保存機器からテーブルへと食品を提供するために必要な時間を数分に短縮するという利点と、保存プロセスのために必要な比エネルギーを抑えるという利点を伴っている。