(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インライン膜厚計で測定される、前記フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形において、下記ピークBの個数がフィルム幅1000mm当たり12個以下である請求項1に記載の高分子圧電フィルム。
ピークB:ピーク高さが1.5μm以上、かつ、ピーク傾きが0.00008以上
カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0014】
<高分子圧電フィルム>
本実施形態の高分子圧電フィルムは、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5〜15.0である。
そして、インライン膜厚計で測定される、フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形において、ピークAの個数がフィルム幅1000mm当たり20個以下である。
ここで、ピークAとは、ピーク高さが1.5μm以上、かつ、ピーク傾きが0.000035以上であるピークを表す。また、ピーク傾きとは、ピーク高さをピーク間距離で徐した値であり、絶対値で表したものである。なお、ピークの詳細については後述する。
【0015】
高分子圧電フィルムを一軸延伸すると、厚みムラが生じやすい傾向がある。厚みムラが生じると、フィルムの表面には、厚みムラに起因して、うねりが発生し、例えば、デバイス等に適用した場合に、外観(目視、クロスニコル下等)が悪化するという問題が生じる。そのため、外観上の問題の改善が求められる場合がある。
【0016】
フィルムの厚みムラを減少させることにより、うねりの発生が抑制されると考えられ、それによって、外観上の問題は改善されると考えられる。しかしながら、厚みムラを改善するために、例えば、厚みムラを表す一つの指標である、厚みの標準偏差や、最大厚みと最小厚みとの差を平均厚みで除した割合(以下、厚みR%ともいう)の数値を小さくするようにフィルムを製造しても、外観上の問題を改善することは十分ではなかった。さらに、本発明者らによる検討によれば、圧電性のバラつきを十分に抑えることは困難であった。
厚みの標準偏差や厚みR%は、フィルムの厚み全体の平均的な情報であり、これらの数値を単に低く抑えるのみでは、外観上の問題や圧電性のバラつきを低減することは困難であることから、うねりは、フィルムの急激な厚みの変化に起因していると推測される。
【0017】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、うねりの発生や、圧電性のバラつきを発生させると考えられる、急激な厚みの変化を抑えるために、厚みのピークの高さと、そのピークの傾きに着目した。そして、厚みのピークが特定の条件になるように、フィルムを製造することで、高分子圧電フィルムの厚みムラが減少し、外観上の問題が改善され、圧電性のバラつきが低減された高分子圧電フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本実施形態に係る高分子圧電フィルムは、上記構成により、高分子圧電フィルムの厚みムラが減少し、圧電性のバラつきが低減された高分子圧電フィルムを提供することができる。
【0019】
〔光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)〕
高分子圧電フィルムとしては、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む。
ヘリカルキラル高分子(A)は、重量平均分子量が5万〜100万であり光学活性を有するヘリカルキラル高分子である。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
ヘリカルキラル高分子(A)は、上記の「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」のうち、重量平均分子量が5万〜100万である高分子である。
【0020】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0021】
ヘリカルキラル高分子(A)は、高分子圧電フィルムの圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。特に、好ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0022】
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
【0023】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0024】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0026】
上記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0027】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、ならびに、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0028】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれら多価カルボン酸の無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
【0029】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【0030】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
【0031】
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び米国特許4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
【0032】
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0033】
(重量平均分子量)
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、前述のとおり5万〜100万である。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、高分子圧電フィルムの機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形)によって高分子圧電フィルムを得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0034】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電フィルムの強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0035】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
【0036】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ヘリカルキラル高分子(A)を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0037】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0038】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeo
TM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
【0039】
高分子圧電フィルムは、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
高分子圧電フィルム中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、圧電定数をより高める観点から、高分子圧電フィルムの全量に対し、80質量%以上が好ましい。
【0040】
〔安定化剤(B)〕
高分子圧電フィルムは、更に、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
【0041】
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号の段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0042】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成社製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1(商品名)、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0043】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0044】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0045】
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、250〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤(B)がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0046】
高分子圧電フィルムが安定化剤(B)を含有する場合、上記高分子圧電フィルムは、安定化剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
高分子圧電フィルムが安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0047】
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
【0048】
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−3)を示す。
【0050】
以下、上記安定化剤B−1〜B−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤B−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤B−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤B−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0051】
〔その他の成分〕
高分子圧電フィルムは、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;安定化剤(B)以外の安定化剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号の段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
【0052】
〔高分子圧電フィルムの物性〕
高分子圧電フィルムは、圧電定数が大きいこと(好ましくは、25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d
14が1pC/N以上であること)が好ましい。更に、高分子圧電フィルムは、透明性、縦裂強度(即ち、特定方向についての引裂強さ。以下同じ。)に優れることが好ましい。
【0053】
〔圧電定数(応力−電荷法)〕
高分子圧電フィルムの圧電定数は、次のようにして測定される値をいう。
まず、高分子圧電フィルムを、高分子圧電フィルムの延伸方向(例えばMD方向)に対して45°なす方向に150mm、45°なす方向に直交する方向に50mmにカットして、矩形の試験片を作製する。次に、昭和真空SIP−600の試験台に得られた試験片をセットし、Alの蒸着厚が約50nmとなるように、試験片の一方の面にAlを蒸着する。次いで試験片の他方の面にも同様にしてAlを蒸着する。以上のようにして、試験片の両面にAlの導電層を形成する。
【0054】
両面にAlの導電層が形成された150mm×50mmの試験片(高分子圧電フィルム)を、高分子圧電フィルムの延伸方向(例えばMD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、120mm×10mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとする。
【0055】
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットする。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9Nとの間を往復するように周期的に力を加える。このとき印加力に応じてサンプルに発生する電荷量を測定するため、静電容量Qm(F)のコンデンサーをサンプルに並列に接続し、このコンデンサーCm(95nF)の端子間電圧Vmを、バッファアンプを介して測定する。発生電荷量Q(C)は、コンデンサー容量Cmと端子間電圧Vmとの積として計算する。圧電定数d
14は下式により計算される。
d
14=(2×t)/L×Cm・ΔVm/ΔF
t:サンプル厚(m)
L:チャック間距離(m)
Cm:並列接続コンデンサー容量(F)
ΔVm/ΔF:力の変化量に対する、コンデンサー端子間の電圧変化量比
【0056】
圧電定数は高ければ高いほど、高分子圧電フィルムに印加される電圧に対する前記フィルムの変位が大きくなり、また、逆に高分子圧電フィルムに印加される力に対し発生する電圧が大きくなり、高分子圧電フィルムとしては有用である。
具体的には、25℃における応力−電荷法で測定した圧電定数d
14は1pC/N以上が好ましく、3pC/N以上がより好ましく、4pC/N以上がさらに好ましい。また、圧電定数の上限は特に限定されないが、後述する透明性などのバランスの観点からは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(光学活性高分子)を用いた高分子圧電フィルムでは、50pC/N以下が好ましく、30pC/N以下がより好ましい。
また、同様に、透明性とのバランスの観点からは、共振法で測定した圧電定数d
14が15pC/N以下であることが好ましい。
【0057】
なお、本明細書中において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)、すなわち、延伸方向であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
また、本明細書において、フィルムの主面とは、高分子圧電フィルムの表面の中で、最も面積の大きい面をいう。
【0058】
〔透明性(内部ヘイズ)〕
高分子圧電フィルムの透明性は、内部ヘイズを測定することにより評価することができる。
高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、13%以下でことがさらに好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。また、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下がさらに好ましく、1.0%以下が特に好ましい。高分子圧電フィルムの前記内部ヘイズの下限値は特に限定はないが、下限値としては、例えば0.01%が挙げられる。
ここで、高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、高分子圧電フィルムの外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの高分子圧電フィルムに対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
【0059】
〔規格化分子配向MORc〕
規格化分子配向MORcは、ヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標である「分子配向度MOR」に基づいて定められる値である。
ここで、分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。すなわち、高分子圧電フィルム(例えば、フィルム状の高分子圧電材料)を、周知のマイクロ波透過型分子配向計(マイクロ波分子配向度測定装置ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に高分子圧電フィルムの面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、高分子圧電フィルムをマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0°〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0060】
規格化分子配向MORcは、基準厚さtcを50μmとしたときの分子配向度MORであって、下記式により求めることができる。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:高分子圧電フィルムの厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0061】
高分子圧電フィルムは、規格化分子配向MORcが3.5〜15.0である。4.0〜15.0であることが好ましく、4.0〜10.0であることがより好ましく、4.0〜8.0であることがさらに好ましい。
規格化分子配向MORcが3.5以上であれば、延伸方向に配列する光学活性高分子の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、より高い圧電性を発現することが可能となる。
規格化分子配向MORcが15.0以下であれば、縦裂強度が更に向上する。
また、高分子圧電フィルムと中間層との密着性をより向上させる観点からは、規格化分子配向MORcは、7.0以下であることが好ましい。
【0062】
規格化分子配向MORcは、例えば、高分子圧電フィルムが延伸フィルムである場合には、延伸前の加熱処理条件(加熱温度及び加熱時間)や、延伸条件(延伸温度及び延伸速度)等によって制御されうる。
【0063】
なお、規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)をフィルムの厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)がポリ乳酸系高分子であり、かつ、高分子圧電フィルムの複屈折率Δnを測定波長550nmで測定した場合、規格化分子配向MORcの好ましい範囲の下限である2.0は、複屈折率Δn 0.005に変換できる。また、後述する、高分子圧電フィルムの規格化分子配向MORcと結晶化度との積の好ましい範囲の下限である40は、高分子圧電フィルムの複屈折率Δnと結晶化度との積が0.1に変換することができる。
【0064】
〔結晶化度〕
高分子圧電フィルムの結晶化度は、DSC法によって求められるものである。
本実施形態にかかる高分子圧電フィルムの結晶化度は、20%〜80%である。結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電フィルムの圧電性が高く維持される。結晶化度が80%以下であることにより、高分子圧電フィルムの透明性が高く維持され、また、結晶化度が80%以下であることにより、延伸時に白化や破断がおきにくいので、高分子圧電フィルムを製造しやすい。
従って、高分子圧電フィルムの結晶化度は20%〜80%であるが、上記結晶化度は、好ましくは25%〜70%であり、より好ましくは30%〜50%である。
【0065】
〔規格化分子配向MORcと結晶化度との積〕
高分子圧電フィルムの規格化分子配向MORcと結晶化度との積は40〜700であることが好ましく、より好ましくは75〜680、さらに好ましくは90〜660、さらに好ましくは125〜650、特に好ましくは150〜350である。上記の積が40〜700の範囲にあれば、高分子圧電フィルムの圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、後述する圧電素子として好適に用いることができる。
本実施形態にかかる高分子圧電フィルムでは、例えば、高分子圧電フィルムを製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、上記の積を上記範囲に調整することができる。
【0066】
〔フィルムの厚み〕
高分子圧電フィルムの膜厚には特に制限はないが、10μm〜400μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、20μm〜100μmが更に好ましく、20μm〜80μmが特に好ましい。但し、高分子圧電フィルムが複数層からなる多層膜の場合には、上記膜厚は多層膜全体における厚さを表す。
【0067】
高分子圧電フィルムの厚みは、インライン膜厚計(インライン厚み計測装置ともいう)を用いて計測される。一例としては、高分子圧電フィルムの製造において、MD方向(フィルムの流れる方向)に流れるフィルムに対してインライン膜厚計をTD方向(MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向)に移動させながら、フィルムの厚みを計測する方法が挙げられる。また、インライン膜厚計としては、市販の厚み測定装置を用いることができ、例えば、山文電気社製のレーザー式非接触インライン厚み計測装置NSM−RMが挙げられる。
また、インライン膜厚計で測定されるフィルムの厚みの生データにノイズが多く含まれる場合は、生データに対して各種ノイズ除去処理を施しても良い。このような処理として、移動平均法やフーリエ変換/逆フーリエ変換による高周波成分の除去などが挙げられる。
なお、厚みの計測方法や、計測装置について一例を挙げたが、これらに限定されるものではない。
【0068】
〔厚みのピーク〕
本実施形態の高分子圧電フィルムは、ピークAの個数が幅1000mm当たり20個以下である。ピークAとは、ピーク高さが1.5μm以上、かつ、ピーク傾き(すなわち、前記ピーク高さをピーク間距離で徐した値)が0.000035以上であるピークを表す。また、高分子圧電フィルムの厚みムラをより減少させる点から、ピークAの個数は、15個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、8個以下がさらに好ましく、5個以下がさらに好ましく、3個以下がさらに好ましく、0個であることが最も好ましい。
前述のように、フィルム表面のうねりは、厚みの急激な変化に起因していると推測される。ピークAの個数が上記範囲であれば、高分子圧電フィルムの厚みムラが減少されるとともに、外観上の問題が改善され、そのうえ、圧電性のバラつきが低減される。
【0069】
また、高分子圧電フィルムは、厚みムラをより減少させる点から、ピークBの個数が幅1000mm当たり12個以下であることが好ましい。ピークBとは、ピーク高さが1.5μm以上、かつピーク傾きが0.00008以上であるピークを表す。
ピークBの個数は、高分子圧電フィルムの厚みムラをより減少させる点から、10個以下がより好ましく、8個以下がさらに好ましく、5個以下がさらに好ましく、3個以下がさらに好ましく、0個であることが最も好ましい。ピークBの個数がこの範囲であると、高分子圧電フィルムの厚みムラがより減少されるとともに、外観上の問題がより改善され、そのうえ、圧電性のバラつきがより低減する。
【0070】
ここで、ピークBのピーク傾きは、ピークAのピーク傾きよりも大きいものであり、ピークBは、ピークAに包含されて測定されるものである。例えば、ピークAの個数が12個であり、ピークBの個数が8個であったとした場合、ピークAのうち、ピークBに該当するピークの個数は8個であることを表す。
【0071】
〔厚みのピークの測定〕
厚みのピークは、インライン膜厚計を用いて求める。
高分子圧電フィルムの厚みが計測される際に、インライン膜厚計により、フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形が検出される。
本実施形態において、この波形のうち、凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、この凸部の頂点を境に減少する凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との間(または、凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、この凹部の頂点を境に増加する凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との間)を一つのピーク単位とする。
そして、凸部(または凹部)の頂点に該当する厚さと、凹部(または凸部)の頂点に該当する厚さとの差を計測して、ピーク高さを算出する。
また、凸部(または凹部)の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、凹部(または凸部)の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との距離を計測して、ピーク間距離を算出する。そして、ピーク傾きを次式により算出し、ピーク傾きを絶対値で表す。
[式]:|ピーク傾き|=(ピーク高さ)/(ピーク間距離)
【0072】
以下、図面を参照し、本実施形態の高分子圧電フィルムの厚みのピークの一例について説明する。
高分子圧電フィルムの厚さをインライン膜厚計により測定すると、例えば、
図1に示すような、高分子圧電フィルムの幅方向の位置と、高分子圧電フィルムの厚さとの関係を表す波形が検出される。
なお、
図1において、P1は第1のピーク、P2は第2のピーク、P3は第3のピーク、H1はピーク高さ、H2はピーク高さ、H3はピーク高さ、L1はピーク間距離、L2はピーク間距離、及び、L3はピーク間距離をそれぞれ表す。
【0073】
図1で示される波形において、第1のピークP1は、凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、この凸部の頂点を境に減少する凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との間の領域(すなわち、四角で囲まれた領域)を示す。また、第2のピークP2は、凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、この凹部の頂点を境に増加する凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との間の領域(すなわち、第1のピークに隣接した四角で囲まれた領域)を示す。さらに、第2のピークP2の右側に位置する四角で囲まれた領域は、第3のピークP3である。
なお、第1のピークP1〜第3のピークP3を例に挙げて説明するが、ピークを説明する便宜上、第2のピークP2と、第3のピークP3との間は離間している。しかし、本実施形態のピークは、第1のピークP1と第2のピークP2との関係のように、フィルムの幅方向の位置全域にわたって、連続したピーク単位を有しているものである。
【0074】
第1のピークP1において、ピーク高さH1は、凸部の頂点に該当する厚さと凹部の頂点に該当する厚さの差である。第3のピークP3のピーク高さH3も同様に算出される。また、第2のピークP2において、ピーク高さH2は、凹部の頂点に該当する厚さと凸部の頂点に該当する厚さの差である。
ここで、ピーク高さH1〜ピーク高さH3において、これらの値が1.5μm以上であって、後述するピーク傾きが特定の範囲内である場合には、ピークAまたはピークBに該当する。一方、1.5μm未満である場合には、ピークAまたはピークBに該当しないピークである。例えば、ピーク高さH3が1.5μm未満である場合には、第3のピークはピークAおよびピークBのいずれにも該当しないピークとなる。
【0075】
第1のピークP1において、ピーク間距離L1は、凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との距離を計測したものである。第3のピークP3のピーク間距離L3も同様に算出される。また、第2のピークP2において、ピーク間距離L2は、凹部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置と、凸部の頂点に該当するフィルムの幅方向の位置との距離を計測したものである。
【0076】
そして、ピーク傾きは、上記のように、ピーク高さをピーク間距離で除した値であり、例えば、第1のピークP1のピーク傾きは、ピーク高さH1/ピーク間距離L1で算出され、絶対値で表される。第2のピークP2のピーク傾き、第3のピークP3のピーク傾きも同様である。
ここで、第1のピークP1〜第3のピークP3において、ピーク高さH1〜ピーク高さH3が上記の特定の範囲内にあって、ピーク傾きが0.000035以上である場合には、ピークAに該当する。また、ピーク高さH1〜ピーク高さH3が上記の特定の範囲内にあって、ピーク傾きが0.00008以上である場合には、ピークBに該当する。一方、ピーク高さH1〜ピーク高さH3が上記の特定の範囲内にあっても、ピーク傾きがこれらの範囲外にあるもの、つまり、ピーク傾きが0.000035未満である場合には、ピークAおよびピークBのいずれにも該当しないピークとなる。
以上の方法により、ピークAまたはピークBに該当するピークの個数を測定する。なお、前述のとおり、ピークBは、ピークAに包含されて測定されるものである。
【0077】
〔厚みのピークの調整方法〕
高分子圧電フィルムの厚みのピークを調整する方法としては、ピークAの個数が前述した範囲を満足できれば特に限定されない。例えば、後述する高分子圧電フィルムの製造工程において、押出成形されたフィルム状のヘリカルキラル高分子(A)を含む組成物を、冷却ロールや、予備結晶化するためのキャストロール等に、静電気を利用して密着させる方法(静電密着法)等が挙げられる。静電密着法は、フィルム全面を密着させるワイヤーピンニング、フィルムの両端部のみ密着させるエッジピンニングが挙げられ、いずれか一方、又は両方を併用してもよい。
【0078】
ワイヤーピンニングを採用する場合、静電荷を印加する電極は、ワイヤー状、帯状、ナイフ状のいずれの形態でもよいが、厚みのピークをより調整しやすくする点で、ワイヤー状の電極が好ましい。電極の材質は、静電荷を印加できれば特に限定されないが、厚みのピークをより調整しやすくする点で、表面に金や白金等で被覆されているものが好ましい。
なお、一例として静電密着法を挙げたが、厚みのピークを調整する方法は、これに限定されるものではない。
【0079】
<高分子圧電フィルムの製造方法>
本実施形態の高分子圧電フィルムを製造する方法には特に制限はない。
例えば、高分子圧電フィルムの原料をフィルム状に成形する工程と、成形されたフィルムを延伸する工程と、を含む方法によって好適に製造することができる。例えば、国際公開第2013/054918号の段落0065〜0099に記載の製造方法が挙げられる。
【0080】
〔成形工程〕
成形工程は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含む組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)以上の温度に加熱してフィルム形状に成形する工程である。この成形工程により、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含むフィルムが得られる。
【0081】
なお、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)、及び、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度(Tg)は、それぞれ、示差走査型熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分の条件でヘリカルキラル高分子(A)の温度を上昇させたときの融解吸熱曲線から求めた値を指す。融点(Tm)は、吸熱反応のピーク値として得られる値である。ガラス転移温度(Tg)は、溶融吸熱曲線の屈曲点として得られる値である。
【0082】
上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を混合することにより製造することができる。
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)、安定化剤(B)、及びその他の成分は、それぞれ、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
上記混合は、溶融混練であってもよい。
具体的には、上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を溶融混練機〔例えば、東洋精機社製のラボプラストミル〕に投入し、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することにより製造してもよい。この場合、本工程では、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することによって製造された組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に維持した状態でフィルム形状に成形する。
溶融混練の条件としては、例えば、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、温度180℃〜250℃、混練時間5分間〜20分間、といった条件が挙げられる。
【0083】
本成形工程において、組成物をフィルム形状に成形する方法としては、押出成形法などの公知の方法が挙げられる。
【0084】
成形工程では、組成物を上記温度に加熱し成形してフィルムとし、得られたフィルムを急冷してもよい。急冷により、本工程で得られるフィルムの結晶化度を調整することができる。
ここで、「急冷」とは、押出した直後に少なくともヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tg以下に冷やすことをいう。
本実施形態では、フィルムへの成形と急冷との間に他の処理が含まれないことが好ましい。
【0085】
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノール又はメタノール、液体窒素などの冷媒にフィルムを浸漬する方法;蒸気圧の低い液体スプレーをフィルムに吹き付け、蒸発潜熱によりフィルムを冷却する方法;等が挙げられる。
また、連続的にフィルムを冷却するには、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールとフィルムとを接触させるなどして、急冷することもできる。
また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよい。
【0086】
例えば、押出成形法により得られたフィルムを、前述の静電密着法を利用して、上記手段で冷却された金属ロールに密着させることで、高分子圧電フィルムの厚みのピークを調整することができる。例えば、フィルム全面を密着させるワイヤーピンニングを採用する場合、電極の位置の調整や材質、印加電圧等により、厚みのピークを調整することができる。
【0087】
成形工程で得られるフィルム(即ち、後述の延伸工程に供されるフィルム)は、非晶状態のフィルムであってもよいし、予備結晶化されたフィルム(以下、「予備結晶化フィルム」ともいう)であってもよい。
ここで、非晶状態のフィルムとは、結晶化度が3%未満であるフィルムをいう。
また、予備結晶化フィルムとは、結晶化度が3%以上(好ましくは3%〜70%)であるフィルムを指す。
ここで、結晶化度は、高分子圧電フィルムの結晶化度と同様の方法によって測定される値を指す。
【0088】
成形工程で得られるフィルム(非晶状態のフィルム、又は、予備結晶化フィルム)の厚みは、最終的に得られる高分子圧電フィルムの厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは100μm〜800μm程度である。
【0089】
予備結晶化フィルムは、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含む非晶状態のフィルムを加熱処理して結晶化させることで得ることができる。
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱温度Tは特に限定されないが、製造される高分子圧電フィルムの圧電性や透明性など高める点で、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tgと以下の式の関係を満たし、結晶化度が3%〜70%になるように設定されることが好ましい。
Tg−40℃≦T≦Tg+40℃
(Tgは、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度を表す)
【0090】
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱時間は、最終的に得られる高分子圧電フィルムの、規格化分子配向MORcや結晶化度を考慮して適宜設定できる。
上記加熱時間は、5秒〜60分が好ましく、製造条件の安定化という観点からは、1分〜30分がより好ましい。加熱時間が長くなるに従い、上記規格化分子配向MORcが高くなり、上記結晶化度が高くなる傾向となる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を含む非晶状態のフィルムを予備結晶化する場合は、20℃〜170℃で、5秒〜60分(好ましくは1分〜30分)加熱することが好ましい。
【0091】
非晶状態のフィルムを予備結晶化するには、例えば、上記の温度範囲に調整されたキャストロールを用いることができる。この予備結晶化用のキャストロールに、前述の静電密着法を利用して、高分子圧電フィルムを密着させて、予備結晶化するとともに、厚みのピークを調整することができる。例えば、フィルム全面を密着させるワイヤーピンニングを採用する場合、電極の位置の調整や材質、印加電圧等により、厚みのピークを調整することができる。
【0092】
〔延伸工程〕
延伸工程は、成形工程において得られたフィルム(例えば予備結晶化フィルム)を主として1軸方向に延伸する工程である。本工程により、延伸フィルムとして、主面の面積が大きな高分子圧電フィルムを得ることができる。
なお、主面の面積が大きいとは、高分子圧電フィルムの主面の面積が5mm
2以上であることをいう。また、主面の面積が10mm
2以上であることが好ましい。
【0093】
また、フィルムを主として1軸方向に延伸することで、フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。
【0094】
フィルムの延伸温度は、1軸方向への延伸のように引張力のみでフィルムを延伸する場合、フィルム(又は、フィルム中のヘリカルキラル高分子(A))のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
【0095】
延伸処理における延伸倍率は、2倍〜30倍が好ましく、3倍〜15倍の範囲で延伸することがより好ましい。
【0096】
延伸工程において、予備結晶化フィルムの延伸を行なう場合には、延伸直前にフィルムを延伸しやすくするために予熱を行なってもよい。この予熱は、一般的には延伸前のフィルムを軟らかくし延伸しやすくするために行なわれるものであるため、前記延伸前のフィルムを結晶化してフィルムを硬くすることがない条件で行なわれるのが通常である。しかし、上述したように本実施形態においては、延伸前に予備結晶化を行なう場合があるため、前記予熱を、予備結晶化を兼ねて行なってもよい。具体的には、予備結晶化工程における加熱温度や加熱処理時間に合わせて、予熱を通常行なわれる温度よりも高い温度や長い時間行なうことで、予熱と予備結晶化を兼ねることができる。
【0097】
〔アニール工程〕
本実施形態の製造方法は、必要に応じ、アニール工程を有していてもよい。
アニール工程は、上記延伸工程において延伸されたフィルム(以下、「延伸フィルム」ともいう)を、アニール(熱処理)する工程である。アニール工程により、延伸フィルムの結晶化をより進行させることができ、より圧電性が高い高分子圧電フィルムを得ることができる。
また、主に、アニールによって延伸フィルムが結晶化する場合は、前述の成形工程における、予備結晶化の操作を省略できる場合がある。この場合、成形工程で得られるフィルム(即ち、延伸工程に供されるフィルム)として、非晶状態のフィルムを選択できる。
【0098】
本実施形態において、アニールの温度は、80℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜155℃あることがより好ましい。
【0099】
アニール(熱処理)の方法としては特に限定されないが、延伸されたフィルムを、加熱ロールへの接触、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱する方法;延伸されたフィルムを、加熱した液体(シリコーンオイル等)に浸漬することにより加熱する方法;等が挙げられる。
【0100】
アニールは、延伸フィルムに一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100MPa)を印加し、延伸フィルムがたるまないようにしながら行うことが好ましい。
【0101】
アニールの時間は、1秒〜5分であることが好ましく、5秒〜3分であることがより好ましく、10秒〜2分であることがさらに好ましい。アニールの時間が5分以下であると生産性に優れる。一方、アニールの時間が1秒以上であると、フィルムの結晶化度をより向上させることができる。
【0102】
アニールされた延伸フィルム(即ち、高分子圧電フィルム)は、アニール後に急冷することが好ましい。アニール工程で行われることがある「急冷」は、既述の成形工程で行われることがある「急冷」と同様である。
冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0103】
<高分子圧電フィルムの用途等>
本実施形態の高分子圧電フィルムは、スピーカー、ヘッドホン、タッチパネル、リモートコントローラー、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0104】
このとき、本実施形態の高分子圧電フィルムは、少なくとも2つの主面を有し、当該主面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、高分子圧電フィルムの少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IGZO、導電性ポリマー等が用いられる。
【0105】
また高分子圧電フィルムと電極を繰り返し重ねて積層圧電素子として用いることもできる。例としては電極と高分子圧電フィルムのユニットを繰り返し重ね、最後に電極で覆われていない高分子圧電フィルムの主面を電極で覆ったものが挙げられる。具体的にはユニットの繰り返しが2回のものは、電極、高分子圧電フィルム、電極、高分子圧電フィルム、電極をこの順で重ねた積層圧電素子である。積層圧電素子に用いられる高分子圧電フィルムはそのうち1層の高分子圧電フィルムが本実施形態の高分子圧電フィルムであればよく、その他の層は本実施形態の高分子圧電フィルムでなくてもよい。
また積層圧電素子に複数の本実施形態の高分子圧電フィルムが含まれる場合は、ある層の本実施形態の高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の光学活性がL体ならば、他の層の高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)はL体であってもD体であってもよい。高分子圧電フィルムの配置は圧電素子の用途に応じて適宜調整することができる。
【0106】
例えば、L体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む高分子圧電フィルムの第1の層が電極を介してL体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電フィルムと積層される場合は、第1の高分子圧電フィルムの一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電フィルムの一軸延伸方向(主たる延伸方向)と交差、好ましくは直交させると、第1の高分子圧電フィルムと第2の高分子圧電フィルムの変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0107】
一方、L体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む高分子圧電フィルムの第1の層が電極を介してD体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電フィルムと積層される場合は、第1の高分子圧電フィルムの一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電フィルムの一軸延伸方向(主たる延伸方向)と略平行となるように配置すると第1の高分子圧電フィルムと第2の高分子圧電フィルムの変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0108】
特に高分子圧電フィルムの主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが20%以下、全光線透過率が80%以上であることをいう。
【0109】
本実施形態の高分子圧電フィルムを用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
<実施例1>
ヘリカルキラル高分子(A)として、NatureWorks LLC社製ポリ乳酸(Ingeo4032D)を、原料として用意した。そして、この原料100質量部に対して、下記添加剤X(安定化剤(B))を1.0質量部添加してドライブレンドし原料を作製した。
作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながら幅2000mmのTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.5分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化フィルムを製膜した(成形工程)。
この際、Tダイから押し出されたヘリカルキラル高分子とキャストロールの接点近傍にワイヤ電極(タングステンワイヤ、φ=0.15mm)を、ワイヤ電極、ヘリカルキラル高分子(A)、キャストロールの順に配置した。ワイヤ電極の張力を15N、印加電圧を7kV、ワイヤ電極−ヘリカルキラル高分子(A)とキャストロールの接点間の距離を60mmに設定し、ヘリカルキラル高分子(A)側からキャストロールに向けて静電荷を付与し、ヘリカルキラル高分子(A)をキャストロールに密着させた。
得られた予備結晶化フィルムを70℃に加熱したロールに接触させて加熱しながらロールツーロールで、延伸速度1650mm/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸し、一軸延伸フィルムを得た(延伸工程)。
その後、一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理した後、50℃に設定したロールで急冷し、フィルム幅方向の両端部を均等にスリットして切り落とし、幅1000mmのフィルムとし、さらにロール状に巻き取ることで、フィルム状の高分子圧電フィルムを得た(アニール工程)。
【0112】
−添加剤X(安定化剤(B))−
添加剤Xとしては、ラインケミー社製Stabaxol P400(10質量部)、ラインケミー社製Stabaxol I(60質量部)、及び日清紡ケミカル社製カルボジライトLA−1(30質量部)の混合物を用いた。
上記混合物における各成分の詳細は以下のとおりである。
Stabaxol I … ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(分子量(=重量平均分子量):363)
Stabaxol P400 … ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(重量平均分子量:20000)
カルボジライトLA−1 … ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)(重量平均分子量:約2000)
【0113】
<比較例1>
ワイヤ電極−ヘリカルキラル高分子(A)とキャストロールの接点間の距離を45mmに設定した以外は実施例1と同様にして高分子圧電フィルムを得た。
【0114】
<実施例2>
ワイヤ電極−ヘリカルキラル高分子(A)とキャストロールの接点間の距離を75mmに設定した以外は実施例1と同様にして高分子圧電フィルムを得た。
【0115】
<実施例3>
ワイヤ電極を白金コートされたタングステンワイヤ(φ=0.15mm)に変更した以外は実施例2と同様にして高分子圧電フィルムを得た。
【0116】
〔ヘリカルキラル高分子(A)の物性測定〕
上記ヘリカルキラル高分子(A)について、以下の方法で光学純度を測定した。また、既述の方法で重量平均分子量及び分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
(光学純度)
上記高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)(ポリ乳酸)の光学純度を、以下のようにして測定した。
【0118】
まず、50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(上記高分子圧電フィルム)を秤り込み、ここに、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mL及び5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLを加え、サンプル溶液とした。
次に、このサンプル溶液が入った三角フラスコを温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
上記約5時間の撹拌後のサンプル溶液を室温まで冷却した後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。
次に、上記でかき混ぜたサンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、ここに下記組成の移動相を加え、25mLのHPLC試料溶液1を得た。
得られたHPLC試料溶液1をHPLC装置に5μL注入し、下記HPLC測定条件にてHPLC測定を行った。得られた測定結果から、ポリ乳酸のD体に由来するピークの面積とポリ乳酸のL体に由来するピークの面積とを求め、L体の量とD体の量とを算出した。得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。
その結果、光学純度は、97.0%eeであった。なお、下記表1において、「LA」はポリ乳酸を表す。
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・HPLC装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相の組成
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
(この移動相において、硫酸銅(II)、IPA、及び水の比率は、硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mLである。)
・移動相流量
1.0mL/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0119】
【表1】
【0120】
〔高分子圧電フィルムの物性測定〕
上記高分子圧電フィルムについて、以下の方法で、結晶化度、内部ヘイズ、厚み、厚みのピークを測定した。また、既述の方法で圧電定数(応力−電荷法)及び規格化分子配向MORcを測定した。結果を表2に示す。
なお、圧電定数は、測定データ内での最大値及び最小値から、その差Rを求めた。また、圧電定数の平均値から圧電定数の標準偏差σを求めた。
【0121】
(結晶化度)
高分子圧電フィルムを10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から結晶化度を得た。
【0122】
(内部ヘイズ)
以下の方法により、高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)を得た。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「信越シリコーン、型番:KF96−100CS」)のみを挟んだ積層膜を準備し、この積層膜の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定した。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコーンオイルで表面を均一に塗らした上記高分子圧電フィルムを挟んだ積層膜を準備し、この積層膜の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定した。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0123】
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行った。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0124】
(厚み測定)
フィルムの製造中、アニール工程後に設置された厚みを測定できる位置で、レーザー式非接触インライン膜厚計(山文電気社製、NSM−RM)を用いて、サンプリングピッチ1mm、測定幅1000mm、分解能0.2μm、センサー走行速度60mm/s、ノイズ除去処理として20回移動平均の条件にてフィルムの厚みを測定した。測定データ内での厚み最大値T
max(μm)及び最小値T
min(μm)から以下の式1に基づき、厚みの差Rを求めた。
[式1]・・R(μm)=T
max−T
min
また、厚みR及び厚み平均値T
Ave(μm)から、以下の式2に基づき、厚みムラR%を求めるとともに、フィルムの厚みの標準偏差σを求めた。
[式2]・・R%=(R/T
Ave)×100
【0125】
(ピークA及びピークBの個数測定)
前記インライン膜厚計による厚みの測定によって得られた、高分子圧電フィルムの幅方向の位置と高分子圧電フィルムの厚さとの関係を表す波形から、ピークAとピークBとの個数について、既述の方法により求めた。
ピークA:ピーク高さが1.5μm以上、かつピーク傾きが
0.000035以上。
ピークB:ピーク高さが1.5μm以上、かつピーク傾きが
0.00008以上
【0126】
(外観)
高分子圧電フィルムを目視及びクロスニコル下で観察した際の外観について、以下の基準で評価を行った。
目視 A:フィルムの透過像に歪みが見られない
B:フィルムの透過像にほとんど歪みが見られない
C:フィルムの透過像に歪みが見られる
クロスニコル下 A:位相差ムラに対応する色ムラがほとんど見られない
B:位相差ムラに対応する色ムラがあまり見られない
C:位相差ムラに対応する色ムラが見られる
【0127】
【表2】
【0128】
表2に示すように、ピークAの個数が20個以内の各実施例は、ピークAの個数が20個を超えている比較例1に比べて、厚みのバラつきが減少していることがわかる。
また、各実施例の圧電定数の最大値と最小値との差R、及び圧電定数の標準偏差σの値は、比較例1の圧電定数の各数値に比べて小さい。これにより、各実施例は、比較例1に比べて、圧電定数のバラつきが低減していることがわかる。
さらに、実施例1及び2と、比較例1とは、厚みの差R、厚みのバラつきR%、及び厚みの標準偏差σが同程度であるにもかかわらず、実施例1及び2の圧電定数のバラつきが、比較例1に比べて低減されている。このことから、厚み全体の平均的な情報(R、R%、σ)が小さくなるようにフィルムを製造しても、圧電定数のバラつきを低減することは困難である場合があることがわかる。同様に、実施例1及び2の外観は、比較例1に比べて優れていることから、厚み全体の平均的な情報(R、R%、σ)を小さくなるようにフィルムを製造しても、外観が改善され難い場合があることがわかる。
【0129】
2014年11月14日に出願された日本国特許出願2014−231857の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。