特許第6184613号(P6184613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184613基板中間体、貫通ビア電極基板および貫通ビア電極形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184613
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】基板中間体、貫通ビア電極基板および貫通ビア電極形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20170814BHJP
   H01L 23/522 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01L21/312 A
   H01L21/88 J
   H01L23/12 501P
   H01L23/14 R
【請求項の数】9
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-564845(P2016-564845)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2015084973
(87)【国際公開番号】WO2016098738
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-255013(P2014-255013)
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】茅場 靖剛
(72)【発明者】
【氏名】小野 昇子
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】和知 浩子
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156616(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/033172(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/137711(WO,A1)
【文献】 特表2014−523485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312
H01L 21/3205
H01L 21/768
H01L 23/12
H01L 23/14
H01L 23/522
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に、導電体が配置される孔を有する基板と、
前記孔の壁面に形成された密着層と、を備え、
前記密着層が、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)と、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体と、の反応物を含む、基板中間体。
【請求項2】
前記基板と前記密着層との間に、さらに絶縁層を備える、請求項1に記載の基板中間体。
【請求項3】
前記ポリマー(A)は、カチオン性官能基当量が27〜430である、請求項1または請求項2に記載の基板中間体。
【請求項4】
前記ポリマー(A)が、ポリエチレンイミンまたはポリエチレンイミン誘導体である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の基板中間体。
【請求項5】
前記多価カルボン酸化合物(B)が芳香環を有する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の基板中間体。
【請求項6】
前記反応物はアミド結合およびイミド結合の少なくとも一方を有する、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の基板中間体。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の基板中間体と、
前記孔に配置された前記導電体である電極と、を備える、貫通ビア電極基板。
【請求項8】
前記密着層と前記電極との間に、さらにバリア層を備える、請求項7に記載の貫通ビア電極基板。
【請求項9】
厚さ方向に孔を有する基板の前記孔の壁面上に、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)を含む膜を形成する第1工程と、
前記ポリマー(A)を含む膜上に、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体を付与する第2工程と、
前記第2工程後に、前記ポリマー(A)と前記多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体とを含む膜を、200℃〜425℃で加熱することで密着層を形成する工程と、
前記密着層が形成された前記孔に電極を形成する工程と、
を有する、貫通ビア電極形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板中間体、貫通ビア電極基板および貫通ビア電極形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子デバイス分野等の各種の技術分野において、ポリマーを含有する組成物を部材に付与することが行われている。
例えば、半導体装置の層間絶縁層に、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000のポリマーを含有する半導体用組成物を付与する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、半導体基板の表面の少なくとも一部に、カチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜600000の樹脂を含有する半導体用シール組成物を付与することで半導体用シール層を形成し、半導体基板の半導体用シール層が形成された面を、25℃におけるpHが6以下のリンス液で洗浄する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、例えば、半導体基板の少なくとも凹部の底面および側面に、カチオン性官能基を有し重量平均分子量が2000〜1000000であるポリマーを含有する半導体用シール組成物を付与し、少なくとも凹部の底面および側面に半導体用シール層を形成し、半導体基板の半導体用シール層が形成された側の面を、温度200℃以上425℃以下の条件で熱処理し、配線の露出面上に形成された半導体用シール層の少なくとも一部を除去する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、例えば、貫通ビア電極となる貫通ビア電極材が充填される孔を有し、前記孔の内周面に形成された自己組織化単分子膜と、この自己組織化単分子膜に吸着された、無電解めっきの触媒となる金属ナノ粒子と、を有してなる基板中間体、および、金属ナノ粒子を、ポリビニルピロドリン、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウム、クエン酸から選択された保護剤によりコーティングするが技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
さらに、例えば、TSV構造の一端を構成して第1濃度の不純物を含む第1貫通電極部と、TSV構造の他端を構成して前記第1濃度より更に大きい第2濃度の不純物を含む第2貫通電極部と、を備える集積回路素子、および、TSV構造を形成する段階にて、アミンまたは芳香族作用基からなるレベリング剤を含むメッキ組成物を使用する電気メッキ工程によって、基板上に導電膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
また、例えば、両面を貫通して形成される貫通孔を有する半導体基板と、貫通孔を覆うように設けられる電極パッドと、外部接続用端子と、貫通孔を通り電極パッドと外部接続用端子とを導通するための導電配線と、電極パッドと半導体基板とを絶縁するための第一絶縁膜と、導電配線と半導体基板とを絶縁するために貫通孔内部の表面上に設けられる第二絶縁膜と、を備える半導体装置において、第二絶縁膜にポリイミド、エポキシ樹脂、アクリル樹脂またはシリコーン樹脂からなる膜を用いる技術が知られている(例えば、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1:国際公開第2010/137711号
特許文献2:国際公開第2012/033172号
特許文献3:国際公開第2014/013956号
特許文献4:特開2012−216722号公報
特許文献5:特開2014−22743号公報
特許文献6:特開2007−305960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極として貫通電極が配置されるシリコンなどの基板について、基板の孔の壁面と、孔に配置される電極と、の密着性を向上させ、基板から電極である導電体が剥離することを抑制する必要がある。また、消費電力の増加、発熱に伴う素子の劣化を抑制するため、リーク電流を抑制し、基板と電極間を電気的に絶縁する必要がある。
【0005】
本発明の一形態は、基板の孔の壁面と、孔に配置される導電体と、の密着性を向上させることにより、導電体の剥離を抑制し、かつリーク電流を抑制することができる基板中間体、貫通ビア電極基板および貫通ビア電極形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 厚さ方向に、導電体が配置される孔を有する基板と、前記孔の壁面に形成された密着層と、を備え、前記密着層が、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)と、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体と、の反応物を含む、基板中間体。
【0007】
<2> 前記基板と前記密着層との間に、さらに絶縁層を備える、<1>に記載の基板中間体。
【0008】
<3> 前記ポリマー(A)は、カチオン性官能基当量が27〜430である、<1>または<2>に記載の基板中間体。
【0009】
<4> 前記ポリマー(A)が、ポリエチレンイミンまたはポリエチレンイミン誘導体である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の基板中間体。
【0010】
<5> 前記多価カルボン酸化合物(B)が芳香環を有する、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の基板中間体。
【0011】
<6> 前記反応物はアミド結合およびイミド結合の少なくとも一方を有する、<1>〜<5>のいずれか1つに記載の基板中間体。
【0012】
<7> <1>〜<6>のいずれか1つに記載の基板中間体と、前記孔に配置された前記導電体である電極と、を備える、貫通ビア電極基板。
【0013】
<8> 前記密着層と前記電極との間に、さらにバリア層を備える、<7>に記載の貫通ビア電極基板。
【0014】
<9> 厚さ方向に孔を有する基板の前記孔の壁面上に、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)を含む膜を形成する第1工程と、前記ポリマー(A)を含む膜上に、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体を付与する第2工程と、前記第2工程後に、前記ポリマー(A)と前記多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体とを含む膜を、200℃〜425℃で加熱することで密着層を形成する工程と、前記密着層が形成された前記孔に電極を形成する工程と、を有する、貫通ビア電極形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一形態は、基板の孔の壁面と、孔に配置される導電体と、の密着性を向上させることにより、導電体の剥離を抑制し、かつリーク電流を抑制する基板中間体、貫通ビア電極基板および貫通ビア電極形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示に係る貫通ビア電極基板の断面を模式的に示す概略断面図である。
図2】本開示に係る貫通ビア電極基板の断面を模式的に示す拡大断面図である。
図3】他の形態に係る貫通ビア電極基板の断面を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
〔基板中間体〕
本開示の基板中間体は、厚さ方向に、導電体が配置される孔を有する基板と、前記孔の壁面に形成された密着層と、を備え、前記密着層が、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)と、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体と、の反応物を含む。
本開示の基板中間体では、密着層がポリマー(A)に由来する反応物を含むことにより、基板と、孔に配置される導電体との密着性を向上させることができる。
さらに、密着層が多価カルボン酸化合物(B)に由来する反応物を含むことにより、リーク電流を抑制することができる。より詳細には、以下の理由によってリーク電流を抑制できると推測されるが、本発明は以下の理由によって限定されることはない。
ポリマー(A)はカチオン性官能基を有しているため、プロトン伝導によるリーク電流が発生するおそれがある。一方、本開示では、多価カルボン酸化合物(B)を付与し、ポリマー(A)のカチオン性官能基と多価カルボン酸化合物(B)のカルボキシル基とが反応して結合を形成することで、プロトン伝導が抑制され、リーク電流が抑制される。
また、本開示の基板中間体は、基板と密着層との間に、さらに絶縁層を備えていてもよい。
【0019】
[ポリマー(A)]
本開示の基板中間体では、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)を用いている。具体的には、ポリマー(A)は、基板中間体の密着層に含まれる反応物の生成に用いられる。
【0020】
本開示における「カチオン性官能基」は、正電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。
前記カチオン性官能基としては、窒素原子(1級窒素原子、2級窒素原子、3級窒素原子、または4級窒素原子)を含む官能基が好ましい。ここでいう「窒素原子を含む官能基」には、窒素原子1つのみから構成される官能基も含まれる。
【0021】
本開示のポリマー(A)は、3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を含む2以上のカチオン性官能基を有することが好ましい。
本開示において、3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を含む2以上のカチオン性官能基を有するポリマーとは、カチオン性官能基として3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を含む2以上のカチオン性官能基を有するポリマー(即ち、2つ以上のカチオン性官能基を有し、かつ、2つ以上のカチオン性官能基のうちの少なくとも1つが3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方であるポリマー)を意味する。
本開示のポリマー(A)は、カチオン性官能基として、3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方(特に好ましくは3級窒素原子)を2つ以上有するポリマーが好ましい。
【0022】
本開示のポリマー(A)は、カチオン性官能基として、1級窒素原子または2級窒素原子を含んでいてもよい。
本開示のポリマー(A)が1級窒素原子を含む場合には、前記ポリマー中の全窒素原子中に占める1級窒素原子の割合が33モル%以上であることが好ましい。本開示のポリマー(A)が1級窒素原子を含むと(特に、1級窒素原子の比率が33モル%以上であると)、ポリマー(A)と後述する絶縁層との濡れ性がより向上する。さらに、絶縁層が多孔質シリカである場合には、密着層の厚さの均一性がより向上することにより、シール性をより向上させることができる。
また、ポリマー(A)が1級窒素原子を含む場合、1級窒素原子以外にも2級窒素原子などの1級以外の窒素原子を共存させることが好ましい。これにより、密着層の厚さを適切な範囲に調整し易く、シール性をより向上させることができる。
【0023】
また、ポリマー(A)は、必要に応じて、アニオン性官能基、ノニオン性官能基などをさらに有していてもよい。
前記ノニオン性官能基は、水素結合受容基であっても、水素結合供与基であってもよい。前記ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、エーテル基(−O−)、等を挙げることができる。
前記アニオン性官能基は、負電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。前記アニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等を挙げることができる。
【0024】
ポリマー(A)は、1分子中に、3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を含む2以上のカチオン性官能基を有するものであることが好ましいが、絶縁体または導電体との密着性を向上させる観点から、カチオン密度が高いポリマーであることが好ましい。具体的には、カチオン性官能基当量が、27〜430であることが好ましく、43〜200であることがより好ましい。
さらに絶縁層の表面を公知の方法、例えば、国際公開第04/026765号パンフレット、国際公開第06/025501号パンフレットなどに記載の方法で疎水化処理した場合は、前記表面の極性基の密度が減少するので、43〜200であることもまた好ましい。
ここでカチオン性官能基当量とは、カチオン性官能基当たりの重量平均分子量を意味し、ポリマーの重量平均分子量(Mw)を、1分子に相当するポリマーが含むカチオン性官能基数(n)で除して得られる値(Mw/n)である。このカチオン性官能基当量が大きいほどカチオン性官能基の密度が低く、一方、カチオン性官能基当量が小さいほどカチオン性官能基の密度が高い。
【0025】
ポリマー(A)の重量平均分子量は、2000〜1000000であるが、2000〜600000であることが好ましく、10000〜200000であることが好ましく、20000〜200000であることがさらに好ましく、20000〜150000であることがより好ましい。
例えば、重量平均分子量が2000未満であると、絶縁層上の細孔直径よりもポリマー(A)の大きさが小さくなり、ポリマー分子が絶縁層上の細孔に入り込んで絶縁層の誘電率が上昇する場合がある。また、重量平均分子量が2000未満であると、ポリマー(A)が多点で吸着しない場合がある。
尚、重量平均分子量は、ポリマーの分子量測定に通常用いられるGPC装置を用いて測定される。
【0026】
本開示で用いるポリマー(A)は、さらに、分岐度が48%以上であるポリマーを少なくとも1種含むことが好ましく、3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を含む2以上のカチオン性官能基を有し、かつ分岐度が48%以上であるポリマーを少なくとも1種含むことがより好ましい。
分岐度が48%以上であると、このポリマーを含む密着層によって絶縁層を好適に保護できる。例えば、絶縁層へのプラズマ成分や金属成分の拡散をより効果的に抑制できる。かかる効果が得られる理由としては、分岐構造を有するポリマーの分子鎖同士が絡み合って分子鎖間の間隙が小さくなり、分子鎖間を金属成分やプラズマ成分などが透過するのを効率よく防ぐことができるため、と推定される。
かかる効果は、絶縁層が多孔質シリカなどの多孔質材料を含む場合に、より効果的に奏される。
【0027】
本開示において、「分岐度」は、下記式1によって求められる値を指す。
分岐度(%) = ((3級窒素原子の個数+4級窒素原子の個数)/(2級窒素原子の個数+3級窒素原子の個数+4級窒素原子の個数))×100 ・・・ 式1
従って、例えば、本開示のポリマーがポリアルキレンイミンである場合、直鎖状のポリアルキレンイミンは、3級窒素原子や4級窒素原子を有していないので分岐度0%のポリアルキレンイミンであり、末端を除いた骨格部分に含まれる全ての窒素原子が3級窒素原子である(即ち、最大限に分岐している)ポリアルキレンイミンは、分岐度100%のポリアルキレンイミンである。
【0028】
本開示において、「1級窒素原子」とは、水素原子2つおよび水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(例えば、1級アミノ基(−NH基)に含まれる窒素原子)、または、水素原子3つおよび水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
また、「2級窒素原子」とは、水素原子1つおよび水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(例えば、下記式(a)で表される官能基に含まれる窒素原子)、または、水素原子2つおよび水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
また、「3級窒素原子」とは、水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(即ち、下記式(b)で表される官能基である窒素原子)、または、水素原子1つおよび水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
また、「4級窒素原子」とは、水素原子以外の原子4つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
上記において、「水素原子以外の原子」としては特に限定はないが、例えば、炭素原子、ケイ素原子等が挙げられ、炭素原子が好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
式(a)および式(b)において、*は、水素原子以外の原子との結合位置を示す。
ここで、前記式(a)で表される官能基は、2級アミノ基(−NHR基;ここで、Rはアルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマー(A)の骨格中に含まれる2価の連結基であってもよい。
また、前記式(b)で表される官能基(即ち、3級窒素原子)は、3級アミノ基(−NR基;ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマー(A)の骨格中に含まれる3価の連結基であってもよい。
【0031】
ポリマー(A)の分岐度は48%以上であることが好ましいが、特に絶縁層が多孔質シリカである場合には、シール性をより向上させる観点からは、分岐度は55%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましい。
ポリマー(A)の分岐度の上限は特に限定はないが、ポリマー(A)が2級窒素原子を含む場合には、分岐度は100%未満となる。合成容易性の観点からは、ポリマー(A)の分岐度は95%以下であることが好ましい。
【0032】
ポリマー(A)の分岐度を48%以上に調整する方法には特に限定はないが、例えば、ポリマー(A)を合成する際のモノマーの重合条件自体によって調整する方法や、ポリマー(A)に含まれる1級窒素原子や2級窒素原子に対し、他の窒素含有化合物や、アルキル化合物を反応させることにより1級窒素原子や2級窒素原子から3級窒素原子や4級窒素原子を生成して分岐度を上昇させる方法が挙げられる。後者の方法の具体例については「ポリマー(A)の製造方法」として後述する。
【0033】
また、本開示で用いるポリマー(A)は、カチオン性官能基を有する構造単位(カチオン性官能基を有するモノマーに由来する構造単位)を有することが好ましい。この場合、ポリマー(A)の構造は、カチオン性官能基を有するモノマーが鎖状に重合して形成された構造であってもよいし、カチオン性官能基を有するモノマーが分岐状に重合して形成された構造であってもよい。
【0034】
本開示で用いるポリマー(A)が、カチオン性官能基を有する構造単位(以下、「特定構造単位」ということがある)を有するものである場合、前記カチオン性官能基は、特定構造単位において、主鎖の少なくとも一部として含まれていても、側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよく、さらに、主鎖の少なくとも一部および側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよい。
さらに前記特定構造単位がカチオン性官能基を2以上含む場合、2以上のカチオン性官能基は同一であっても異なっていてもよい。
また前記カチオン性官能基は、絶縁層上に存在するカチオン性官能基の吸着点(例えば、シラノール残基)間の平均距離に対する、特定構造単位の主鎖長の比(以下、「カチオン性官能基間の相対距離」ということがある)が、1.6以下となるように含まれていることが好ましく、0.08〜1.0となるように含まれていることがより好ましい。かかる態様であることでポリマーが絶縁層上に、より効率的に多点吸着しやすくなる。
【0035】
前記特定構造単位は、絶縁層への吸着性の観点から、分子量が30〜500であることが好ましく、40〜200であることがより好ましい。尚、特定構造単位の分子量とは、特定構造単位を構成するモノマーの分子量を意味する。
前記特定構造単位は、絶縁層への吸着性の観点から、カチオン性官能基間の相対距離が1.6以下であって、分子量が30〜500であることが好ましく、カチオン性官能基間の相対距離が0.08〜1.0であって、分子量が40〜200であることがより好ましい。
【0036】
前記特定構造単位(カチオン性官能基を有する構造単位)として、具体的には、以下に例示するカチオン性官能基含有モノマーに由来する単位構造が挙げられる。
前記カチオン性官能基含有モノマーとして、具体的には、アルキレンイミン、アリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム塩、ビニルピリジン、リジン、メチルビニルピリジン、p−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0037】
前記アルキレンイミンとしては、炭素数2〜12のアルキレンイミンが好ましく、炭素数2〜8のアルキレンイミンがより好ましい。
また、前記炭素数2〜12のアルキレンイミンとしては、炭素数2〜8の置換または無置換の環状アミンが好ましい。
前記炭素数2〜12のアルキレンイミンとして、具体的には、エチレンイミン(別名:アジリジン)、プロピレンイミン(別名:2−メチルアジリジン)、ブチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミン、トリメチレンイミン(別名:アゼチジン)、テトラメチレンイミン(別名:ピロリジン)、ペンタメチレンイミン(別名:ピペリジン)、ヘキサメチレンイミン、オクタメチレンイミン、等が挙げられる。中でも、エチレンイミンが特に好ましい。
【0038】
前記カチオン性官能基含有モノマーとしては、上記のうち、絶縁層への吸着性の観点や、絶縁層が多孔質シリカである場合のシール性の観点から、アルキレンイミン(好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンイミン)およびアリルアミンの少なくとも一方であることが好ましく、アルキレンイミン(好ましくは炭素数2〜4のアルキレンイミン、特に好ましくはエチレンイミン)がより好ましい。
【0039】
また、本開示で用いるポリマー(A)は、絶縁層への吸着性の観点や、絶縁層が多孔質シリカである場合のシール性の観点から、前記特定構造単位(カチオン性官能基を有する構造単位)として、炭素数2〜8(より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンに由来する構造単位であって3級窒素原子を含む構造単位を含むことが好ましい。
合成容易性の観点からは、本開示で用いるポリマー(A)は、前記「炭素数2〜8(より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンに由来する構造単位であって3級窒素原子を含む構造単位」に加え、炭素数2〜8(より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンに由来する構造単位であって2級窒素原子を含む構造単位を含むことがより好ましい。
【0040】
また、ポリマー(A)の分岐度を高めるために、ポリマー中の1級窒素原子および2級窒素原子の少なくとも一方に窒素含有化合物を反応させてカチオン性官能基を導入する場合、ポリマーに導入されるカチオン性官能基としては、以下に示すカチオン性官能基(「*」は、ポリマー骨格中の窒素原子との結合位置を示す)や、アミノプロピル基、ジアミノプロピル基、アミノブチル基、ジアミノブチル基、トリアミノブチル基、等を挙げることができる。
【0041】
【化2】
【0042】
ポリマー(A)に導入されるカチオン性官能基の中でも、カチオン性官能基当量を小さくしカチオン性官能基密度を大きくする観点から、アミノエチル基が好ましい。
【0043】
またポリマー(A)は、ノニオン性官能基を含む単位構造およびアニオン性官能基を含む単位構造の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
前記ノニオン性官能基を含む単位構造として、具体的には、ビニルアルコールに由来する単位構造、アルキレンオキシドに由来する単位構造、ビニルピロリドンに由来する単位構造等を挙げることができる。
【0044】
さらにアニオン性官能基を含む単位構造として、具体的には、スチレンスルホン酸に由来する単位構造、ビニル硫酸に由来する単位構造、アクリル酸に由来する単位構造、メタクリル酸に由来する単位構造、マレイン酸に由来する単位構造、フマル酸に由来する単位構造等を挙げることができる。
【0045】
本開示においてポリマー(A)が特定構造単位を2種以上含む場合、それぞれの特定構造単位は、含有するカチオン性官能基の種類または数、分子量等のいずれかが異なっていればよい。また前記2種以上の特定構造単位は、ブロックコポリマーとして含まれていても、ランダムコポリマーとして含まれていてもよい。
【0046】
またポリマー(A)は前記特定構造単位以外の構造単位(以下、「第2の構造単位」ということがある)の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ポリマー(A)が第2の構造単位を含む場合、ポリマー(A)は、特定構造単位と第2の構造単位とを含むブロックコポリマーであってもよいし、特定構造単位と第2の構造単位とを含むランダムコポリマーであってもよい。
前記第2の構造単位としては、前記特定構造単位を構成するモノマーと重合可能なモノマーに由来する構造単位であれば特に制限はない。例えば、オレフィンに由来する構造単位等を挙げることができる。
【0047】
また本開示で用いるポリマー(A)が、特定の構造単位を持たず、ポリマー(A)を構成するモノマーが分岐的に重合して形成されるランダムな構造を有するものである場合、前記カチオン性官能基は、主鎖の少なくとも一部として含まれていても、側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよく、さらに、主鎖の少なくとも一部および側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよい。
【0048】
本開示で用いるポリマー(A)として具体的には、ポリアルキレンイミン(例えば、炭素数2〜12(好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン、特に好ましくはポリエチレンイミン(PEI))、ポリアリルアミン(PAA)、ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリメチルピリジルビニル(PMPyV)、プロトン化ポリ(p−ピリジルビニレン)(R-PHPyV)、およびこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、ポリアルキレンイミン(例えば、炭素数2〜12(好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン、特に好ましくはポリエチレンイミン(PEI))またはその誘導体、ポリアリルアミン(PAA)などが好ましく、より好ましくはポリアルキレンイミン(例えば、炭素数2〜12(好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン、特に好ましくはポリエチレンイミン(PEI))またはその誘導体である。
【0049】
ポリエチレンイミン(PEI)は、一般にはエチレンイミンを通常用いられる方法で重合することにより製造することができる。重合触媒、重合条件なども、エチレンイミンの重合に一般的に用いられるものから適宜選択することができる。具体的には例えば、有効量の酸触媒、例えば塩酸の存在下に0〜200℃で反応させることができる。さらにポリエチレンイミンをベースにしてエチレンイミンを付加重合させてもよい。また本開示におけるポリエチレンイミンは、エチレンイミンの単独重合体であっても、エチレンイミンと共重合可能な化合物、例えばアミン類とエチレンイミンとの共重合体であってもよい。このようなポリエチレンイミンの製造方法については、例えば、特公昭43−8828号公報、特公昭49−33120号公報等を参照することができる。
また、前記ポリエチレンイミンは、モノエタノールアミンから得られる粗エチレンイミンを用いて得られたものであってもよい。具体的には例えば特開2001−2123958号公報等を参照することができる。
なお、ポリエチレンイミン以外のポリアルキレンイミンについても、ポリエチレンイミンと同様の方法により製造できる。
【0050】
上記のようにして製造されるポリエチレンイミンは、エチレンイミンが開環して直鎖状に結合した部分構造のみならず、分岐状に結合した部分構造、直鎖状の部分構造同士が架橋連結された部分構造等を有する複雑な骨格を有している。ポリエチレンイミン以外のポリアルキレンイミンについても、ポリエチレンイミンと同様の構造を有する。
かかる構造のカチオン性官能基を有するポリマーを用いることで、ポリマー(A)がより効率的に多点吸着される。さらにポリマー間の相互作用により、より効果的に被覆層が形成される。
【0051】
本開示で用いるポリマー(A)はポリアルキレンイミン誘導体(例えば、炭素数2〜12(好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数2〜4)のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミンの誘導体、特に好ましくはポリエチレンイミン誘導体)であることもまた好ましい。ポリアルキレンイミン誘導体としては、上記ポリアルキレンイミンを用いて製造可能な化合物であれば特に制限はない。具体的には、ポリアルキレンイミンにアルキル基(好ましくは炭素数1〜10のアルキル基)やアリール基を導入したポリアルキレンイミン誘導体、ポリアルキレンイミンに水酸基等の架橋性基を導入して得られるポリアルキレンイミン誘導体等を挙げることができる。
これらのポリアルキレンイミン誘導体は、上記ポリアルキレンイミンを用いて通常行われる方法により製造することができる。具体的には例えば、特開平6―016809号公報等に記載の方法に準拠して製造することができる。
【0052】
また、ポリアルキレンイミン誘導体としては、ポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させることにより、ポリアルキレンイミンの分岐度を向上させて得られた高分岐型のポリアルキレンイミンも好ましい。
高分岐型のポリアルキレンイミンを得る方法としては、例えば、骨格中に複数の2級窒素原子を有するポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させ、前記複数の2級窒素原子のうちの少なくとも1部をカチオン性官能基含有モノマーによって置換する方法や、末端に複数の1級窒素原子を有するポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させ、前記複数の1級窒素原子のうちの少なくとも1部をカチオン性官能基含有モノマーによって置換する方法、が挙げられる。
分岐度を向上するために導入されるカチオン性官能基としては、アミノエチル基、アミノプロピル基、ジアミノプロピル基、アミノブチル基、ジアミノブチル基、トリアミノブチル基等を挙げることができるが、カチオン性官能基当量を小さくしカチオン性官能基密度を大きくする観点から、アミノエチル基が好ましい。
高分岐型のポリアルキレンイミンを得る方法としては、例えば、後述する「ポリマー(A)の製造方法」の項で説明する方法を用いることができる。
【0053】
前記ポリエチレンイミンおよびその誘導体は、市販のものであってもよい。例えば、(株)日本触媒、BASF社等から市販されているポリエチレンイミンおよびその誘導体から、適宜選択して用いることもできる。
【0054】
またポリマー(A)は、水溶媒中における臨界ミセル濃度が1質量%以上であるか、実質的にミセル構造を形成しないポリマーであることもまた好ましい。ここで実質的にミセル構造を形成しないとは、常温の水溶媒中等の通常の条件下ではミセルを形成しない、すなわち臨界ミセル濃度が測定できないことをいう。かかるポリマーであることにより、厚さが分子レベルの薄いポリマー層(例えば、5nm以下)をより効果的に形成することができ、絶縁層の誘電率の上昇をより効果的に抑制することができる。さらに絶縁層と配線材料との密着性がより効果的に向上する。
【0055】
さらに本開示で用いるポリマー(A)は、重量平均分子量が2000〜1000000であって、カチオン性官能基当量が27〜430のポリエチレンイミンであることが好ましく、重量平均分子量が2000〜600000であって、カチオン性官能基当量が27〜430のポリエチレンイミンであることがより好ましく、重量平均分子量が10000〜150000であって、カチオン性官能基当量が27〜400のポリエチレンイミンであることが特に好ましい。かかる態様であることにより、絶縁層への金属成分やプラズマ成分の拡散がより効果的に抑制され、絶縁層と配線材料との密着性がより向上する。
【0056】
[ポリマー(A)の製造方法]
本開示で用いるポリマー(A)を製造する方法としては、例えば、原料ポリマーに、カチオン性官能基を有するモノマーを反応させる工程を有する製造方法が挙げられ、中でも、1級窒素原子および2級窒素原子の少なくとも一方を含む原料ポリマーに、カチオン性官能基を有するモノマーを反応させる工程を有する製造方法が好適である。
上記反応により、原料ポリマーに含まれる1級窒素原子および2級窒素原子の少なくとも一方から3級窒素原子および4級窒素原子の少なくとも一方を生成することができるので、特に、分岐度48%以上であるポリマー(A)を好適に得ることができる。
上記反応は、水やアルコール等の溶剤中で、原料ポリマーとカチオン性官能基を有するモノマーとを合わせ、加熱還流することにより行うことができる。
反応時間は適宜調整できるが、例えば、1時間〜24時間が好ましく、2時間〜12時間がより好ましい。
【0057】
上記方法における原料ポリマーとしては、1級窒素原子および2級窒素原子の少なくとも一方を含んでいることが好ましく、2級窒素原子を含む原料ポリマーがより好ましい。
2級窒素原子を含む原料ポリマーとしては、例えば、炭素数2〜12(好ましくは炭素数2〜8)のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン、ポリN−アルキルアミド、またはこれらの誘導体等が挙げられる。ここで、炭素数2〜12のアルキレンイミンの具体例については前述のとおりである。また、前記誘導体としては、例えば、アニオン性官能基が導入されたポリアルキレンイミン等が挙げられる。
【0058】
前記原料ポリマーの重量平均分子量としては、カチオン性官能基を有するモノマーとの反応により、重量平均分子量が2000〜1000000であるポリマー(A)を製造し得る重量平均分子量であれば特に限定はない。
例えば、前記原料ポリマーの重量平均分子量は、1000〜500000が好ましく、2000〜200000がより好ましく、5000〜150000が特に好ましい。
【0059】
また、上記の製造方法に用いるカチオン性官能基を有するモノマーとしては、例えば、窒素含有化合物が挙げられる。
また、上記の製造方法に用いるカチオン性官能基を有するモノマーにおけるカチオン性官能基は、反応条件下で安定な保護基と結合していることが好ましい。
これにより、カチオン性官能基モノマー同士が反応することを抑制できるため、より分岐度の高いポリマー(A)を製造することができる。
【0060】
前記保護基としては、一般的に用いられる保護基を用いることができる。
前記保護基としては、例えば、t−ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、フルオレニルカルボニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、フタロイル基、アリル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0061】
保護基と結合しているカチオン性官能基を有するモノマーとしては、保護基と結合している窒素原子を有する窒素含有化合物がより好ましい。
保護基と結合している窒素原子を有する窒素含有化合物として、具体的には、下記一般式(m−1)〜(m−3)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。
【0062】
【化3】
【0063】
上記式(m−1)〜(m−3)中、Rは保護基を表し、nは1〜4の整数を表す。
Rで表される保護基としては、一般的に窒素原子の保護基に用いられる官能基であれば何れでも良いが、例えば、t−ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、フルオレニルカルボニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、フタロイル基、アリル基、ベンジル基が好ましい。
【0064】
保護基と結合している窒素原子を有する窒素含有化合物(モノマー)としては、上記一般式(m−1)で表される化合物が更に好ましく、上記一般式(m−1)で表される化合物であってnが1である化合物(保護化アジリジン)が特に好ましい。
また、本開示のポリマーを製造する方法としては、2級窒素原子を含む原料ポリマー(例えば、炭素数2〜12のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン)に、上記一般式(m−1)で表される化合物を反応させる工程を有する製造方法が特に好ましい。
【0065】
また、ポリマー(A)の製造方法は、必要に応じ、ポリマーに導入された、保護基を有するカチオン性官能基を脱保護する工程など、その他の工程を有していてもよい。
【0066】
[多価カルボン酸化合物(B)]
本開示の基板中間体では、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)を用いている。具体的には、多価カルボン酸化合物(B)は、基板中間体の密着層に含まれる反応物の生成に用いられる。
【0067】
多価カルボン酸化合物(B)としては、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物であれば特に限定されず、さらに芳香環を有する芳香族カルボン酸であってもよく、芳香環にカルボキシル基が結合した芳香族カルボン酸であってもよく、炭素鎖にカルボキシル基が結合した脂肪族カルボン酸であってもよく、芳香環および炭素鎖にカルボキシル基が結合したカルボン酸であってもよい。
【0068】
芳香環としては、芳香族性を示す環構造であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などのベンゼン系芳香環などが挙げられる。例えば、環構造がベンゼン環の場合、ビフェニル構造、ベンゾフェノン構造、ジフェニルエーテル構造などであってもよい。
【0069】
中でも、多価カルボン酸化合物(B)としては、芳香族カルボン酸が好ましく、3価以上の芳香族カルボン酸がより好ましく、3価または4価の芳香族カルボン酸がさらに好ましい。3価以上の芳香族カルボン酸を用いることにより、より高い耐熱性(400℃以上)を得ることができる。
【0070】
3価以上の芳香族カルボン酸としては、例えば、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、4,4’−オキシジフタル酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0071】
多価カルボン酸化合物(B)の誘導体を基板中間体の密着層に含まれる反応物の生成に用いてもよい。多価カルボン酸化合物(B)の誘導体としては、多価カルボン酸化合物(B)の全部または一部が、無水化されている多価カルボン酸化合物(B)、エステル化されている多価カルボン酸化合物(B)などが挙げられる。
【0072】
<基板>
基板は、厚さ方向に、導電体が配置される孔(貫通孔)を有する。この基板は、前記孔に導電体である電極が配置あるいは形成されることにより、貫通電極(TSV(Through silicon via))を有する貫通ビア電極基板となる。
本開示で用いられる基板としては、特に限定されず、例えば、シリコンウエハ等の半導体基板、ガラス基板、石英基板、ステンレス基板、プラスチック基板等が挙げられる。基板の形状も特に制限されず、板状、皿状等のいずれであってもよい。
【0073】
本開示で使用する基板は、厚さ方向に孔を有しているが、この孔は貫通孔でなくてもよい。基板の孔が貫通孔でない場合には、孔に導電体である電極を配置あるいは形成した後に、基板の孔が形成されている面とは反対側を、孔が露出するまで研磨またはエッチングすることで、基板に貫通孔が形成され、貫通電極を有する貫通ビア電極基板となる。
【0074】
<密着層>
密着層は、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)と、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体と、の反応物を含む層である。また、密着層は、基板の孔の壁面に形成され、孔の壁面と導電体とを密着させる層である。
【0075】
密着層が、上記反応物を含む層であるため、基板と配線材料である導電体との密着性が向上し、さらに、密着層のリーク電流を抑制することができる。また、密着層の厚さを調整でき、薄く均一な層とすることができる。
【0076】
密着層に含まれる上記反応物は、アミド結合およびイミド結合の少なくとも一方を有することが好ましく、イミド結合を有することがより好ましい。
【0077】
密着層に含まれる上記反応物が、アミド結合およびイミド結合の少なくとも一方を有しているかどうかは、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)で、アミド結合およびイミド結合の振動ピークの有無を確認することで判断できる。イミド結合は、1770cm−1、1720cm−1の振動ピークの存在で判断すればよく、アミド結合は、1650cm−1、1520cm−1の振動ピークの存在で判断すればよい。
【0078】
密着層の厚さとしては、特に限定されず、例えば、1層の厚さが0.5nm〜100nmであればよく、好ましくは1nm〜30nmであればよい。
また、後述するように、密着層が複数層になる場合、1層の厚さが0.5nm〜100nmであればよく、好ましくは1nm〜30nmであればよい。さらに、密着層を複数有する場合には、密着層の合計の厚さは、密着層1層の厚さ×層数となる。
【0079】
<絶縁層>
本開示の基板中間体は、基板と密着層との間に、さらに絶縁層を備えていることが好ましい。絶縁層としては、絶縁性を有し、密着層から剥離しない層であれば特に限定されず、有機高分子膜、酸化膜、窒化膜のいずれであってもよい。例えば、SiO、メソポーラスシリカ、ナノポーラスシリカ等の酸化膜、シリコンナイトライド等の窒化膜、ベンゾチクロブテン、シリコーン、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ノルボルネン等の有機高分子膜、またはそれらを2種類以上含む複合材料により形成される複合膜等が挙げられる。例えば、多孔質シリカ、ポリマー、シリカとポリイミドとの複合材料などの多孔質材料により形成されていてもよい。
多孔質シリカなどの多孔質材料を含む絶縁層における細孔半径(ポア半径)には特に限定はないが、ポリマー(A)による細孔被覆性の効果をより効果的に奏する観点から、前記細孔半径は、0.5nm〜3.0nmか好ましく、1.0nm〜2.0nmがより好ましい。
【0080】
絶縁層は、多孔質シリカを含み、表面に多孔質シリカに由来するシラノール残基を有することが好ましい。この場合、前記シラノール残基が、ポリマー(A)部分に含まれるカチオン性官能基と相互作用し、ポリマー(A)による細孔被覆性がより向上する。
【0081】
前記多孔質シリカとしては、半導体装置の絶縁層に通常用いられる多孔質シリカを特に制限なく用いることができる。例えば、WO91/11390パンフレットに記載されたシリカゲルと界面活性剤等とを用いて、密封した耐熱性容器内で水熱合成する有機化合物と無機化合物との自己組織化を利用した均一なメソ細孔を持つ酸化物や、Nature誌、1996年、379巻(703頁)またはSupramolecular Science誌、1998年、5巻(247頁等)に記載されたアルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とから製造される多孔質シリカ等を挙げることができる。
また、前記多孔質シリカとしては、国際公開第2009/123104号パンフレット(段落0009〜0187)や国際公開第2010/137711号パンフレット(段落0043〜0088)に記載された、多孔質シリカ(例えば、特定のシロキサン化合物を含む組成物を用いて形成された多孔質シリカ)を用いることも好ましい。
【0082】
本開示の基板中間体が絶縁層を備える場合、基板、絶縁層および密着層の構成例は以下のとおりである。
構成例1;基板/絶縁層/密着層
構成例2:基板/密着層1(第1密着層)/絶縁層/密着層2(第2密着層)
構成例1、2では、それぞれ密着層、密着層2が、後述の導電体である電極と接着する。また、構成例2のように、密着層を複数(2層以上)設けてもよい。このとき、複数の密着層(例えば、密着層1および密着層2)は、同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0083】
なお、密着層に絶縁性を付与することにより、密着層が絶縁層を兼ねていてもよい。密着層に絶縁性を付与するために、ポリマー、シリカとポリイミドとの複合材料などの絶縁性を有する材料が密着層に添加されていてもよい。
【0084】
絶縁層の厚さとしては、特に限定されず、例えば、50nm〜20μmであればよく、好ましくは100nm〜10μm、より好ましくは200nm〜10μm、さらに好ましくは0.5μm〜10μm、特に好ましくは1μm〜5μmであればよい。
【0085】
〔貫通ビア電極基板〕
本開示の貫通ビア電極基板は、厚さ方向に孔を有する前記基板と、この孔に配置された導電体である電極と、電極と孔の壁面との間に形成された前記密着層と、を備える。つまり、本開示の貫通ビア電極基板は、前述の基板中間体と、基板の孔に配置された導電体である電極と、を備える。
【0086】
<電極>
電極は、前記基板の孔に配置される導電体である。導電体としては、電気伝導性を有する部材であれば特に限定されず、例えば、導電性シリコン、導電性高分子、通常用いられる導体金属などを用いてもよい。導体金属としては、Cu、Al、Ni、Fe、Sn、Cr、Pt、Zn、Mg、Ta、Ti、Mn、Co、W、Ruなどの金属元素が挙げられ、導体金属以外にもN、Oなどの非金属元素が含まれていてもよい。
【0087】
導体金属を含む導電体としては、銅を主成分として含むことが好ましい。
ここで、主成分とは、含有比率(原子%)が最も高い成分を指す。
前記含有比率は50原子%以上が好ましく、80原子%以上がより好ましく、90原子%以上がさらに好ましい。
【0088】
<バリア層>
電極と密着層の間に、バリア層を設けてもよい。バリア層を設けることで、密着層または絶縁層への金属成分の拡散をより効果的に抑制することができる。バリア層としては、窒化チタン等のチタン化合物や窒化タンタル等のタンタル化合物、ルテニウム化合物、またはマンガン化合物からなる層であることが好ましい。
また、バリア層の厚さは、特に限定されないが、1nm〜100nmであればよい。
また、バリア層は、ポリイミド膜であってもよい。ポリイミド膜の成膜方法は特に限定されないが、気相重合等で成膜できる。ポリイミド膜の厚さは、特に限定されないが、100nm〜500nmであればよい。
【0089】
本開示の貫通ビア電極基板がバリア層を備える場合、基板、絶縁層、密着層、バリア層および電極の構成例は以下のとおりである。
構成例1:基板/絶縁層/密着層/バリア層/電極
構成例2:基板/密着層1/絶縁層/密着層2/バリア層/電極
【0090】
〔貫通ビア電極形成方法〕
以下、本開示の貫通ビア電極形成方法について説明する。本開示に係る貫通ビア電極形成方法は、厚さ方向に孔を有する基板の前記孔の壁面上に、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)を含む膜を形成する第1工程と、前記ポリマー(A)を含む膜上に、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体を付与する第2工程と、前記第2工程後に、前記ポリマー(A)と前記多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体とを含む膜を、200℃〜425℃で加熱することで密着層を形成する工程と、前記密着層が形成された前記孔に電極を形成する工程と、を有する。
【0091】
厚さ方向に孔を有する基盤の孔の壁面上に密着層を膜として形成し、その後、銅などの導電体を密着層が形成された孔に設けて電極を形成する。これにより、基板と導電体との密着性に優れている。
【0092】
(工程1)
まず、厚さ方向に孔を有する基板の前記孔の壁面上に、カチオン性官能基を有し、重量平均分子量が2000以上1000000以下であるポリマー(A)を含む膜を形成する(第1工程)。
ポリマー(A)を含む膜を孔の壁面上に形成するには、ポリマー(A)を含む組成物Aを孔の壁面上に付与すればよい。
【0093】
組成物AのpHは、2〜12であることが好ましく、7〜11であることがより好ましい。
また、組成物AのpHを酸性よりに調整するため、組成物Aは少なくとも1種の酸を含有していてもよい。
【0094】
酸としては特に制限はなく、例えば、モノカルボン酸化合物が挙げられる。
モノカルボン酸化合物としては、脂肪族モノカルボン酸化合物(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸等)、芳香族モノカルボン酸化合物(例えば、安息香酸、ピコリン酸、サリチル酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸等)が挙げられる。
【0095】
組成物Aは、ポリマー(A)に加えて必要に応じて溶媒を含むことができる。
溶媒としては、ポリマー(A)が均一に溶解し、ミセルを形成しにくい溶媒であれば特に限定されない。例えば、水(好ましくは、超純水)、水溶性有機溶剤(例えば、アルコール類等)等を挙げることができる。本開示においては、ミセル形成性の観点から、水、または水と水溶性有機溶剤との混合物を溶媒として用いることが好ましい。また溶媒の沸点は特に制限されないが、210℃以下であることが好ましく、160℃以下がさらに好ましい。溶媒の沸点が前記範囲であることで、低い温度で溶媒を容易に除去できる。
組成物の成分については、例えば国際公開第2010/137711号パンフレットや国際公開第2012/033172号パンフレットに記載の組成物の成分を適宜参照することもできる。
【0096】
組成物A中のポリマー(A)の濃度は、0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.25質量%〜10質量%であることがより好ましい。
【0097】
工程1の前に、基板の孔の壁面上に前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、酸素プラズマ処理、オゾンUV処理等が挙げられる。前処理を施すことにより、処理された面と組成物Aとの接触角を低減させることができる。
【0098】
また、工程1の後に、余分な組成物を除去するために、水等で洗浄してもよく、溶剤を除去するために、70℃〜125℃で加熱してもよい。
【0099】
(工程2)
前述のように形成したポリマー(A)を含む膜上に、1分子中にカルボキシル基を2つ以上有する多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体を付与する(第2工程)。
多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体を、ポリマー(A)を含む膜上に付与するには、多価カルボン酸化合物(B)を含む組成物Bを、ポリマー(A)を含む膜上に付与すればよい。
多価カルボン酸化合物(B)としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、トリカルバリリル酸等のトリカルボン酸、リンゴ酸、酒石酸等のオキシジカルボン酸、クエン酸等のオキシトリカルボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノカルボン酸、などの酸が挙げられる。
前記酸は、1分子内に、上記のポリマー(A)との間で加熱により結合を形成する官能基であるカルボキシル基を有する。これにより、特にプラズマ処理(例えば、プラズマクリーニング、プラズマCVD)を行う場合において、ポリマー(A)を含む密着層のプラズマ耐性を向上させることができる。
この酸において、1分子内のカルボキシル基の数は、2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましい。
密着層が上述したポリアルキレンイミン(好ましくはポリエチレンイミン)を含む場合は、カルボキシル基が、ポリアルキレンイミン中の1級アミノ基および2級アミノ基(イミノ基)の少なくとも一方と反応して、アミド結合やイミド結合が形成される。
ポリマー層のプラズマ耐性を向上させるという観点から好ましい酸は、具体的には、ナフタレンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、オキシジフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸などの多価カルボン酸が挙げられ、ナフタレンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、オキシジフタル酸、ピロメリット酸が好ましい。
【0100】
組成物B中の多価カルボン酸化合物(B)の濃度は、0.1ミリモル/リットル〜200ミリモル/リットルであることが好ましく、0.3ミリモル/リットル〜150ミリモル/リットルであることがより好ましい。
【0101】
また、多価カルボン酸化合物(B)に加えて必要に応じて溶媒を含むことができる。
組成物Bの溶媒としては、多価カルボン酸化合物(B)を溶解するものであれば特に限定されないが、多価カルボン酸化合物(B)の溶解度が高い酸が好ましい。多価カルボン酸化合物(B)として価数の高いカルボン酸が組成物Bに多く含まれている場合には、溶媒は水、エタノールなどが好ましい。また、多価カルボン酸化合物(B)がエステル化や無水化された誘導体が組成物Bに多く含まれている場合には、溶媒はイソプロピルアルコール(IPA)などが好ましい。
【0102】
また、組成物Bは、導電体の酸化を抑制するという観点から、還元剤や還元作用がある化合物を含むことも好ましい。還元剤や還元作用がある化合物として、たとえばホルマリンが挙げられる。
【0103】
また、組成物Bは、ポリマー(A)中の炭素−炭素結合等の解裂を防止し、絶縁層からのポリマー(A)の脱離を抑制する観点から、酸化性化合物(例えば、過酸化水素、硝酸)の含有量が10質量%以下であることが好ましく、酸化性化合物を含まないことがさらに好ましい。
【0104】
また、組成物Bは、イオン強度が0.003以上であることが好ましく、0.01以上であることが好ましい。
イオン強度が0.003以上であると、ポリマー(A)をより溶解させ易い一方、絶縁層とポリマー(A)との相互作用を大きく損ねることがない点で好ましい。
また、イオン強度の上限については特に限定はなく、イオン性化合物が溶解できる濃度のイオン強度であればよい。
なお上記イオン強度は、下記式で表されるものである。
イオン強度=1/2×Σ(c×Z
(cは塗布液に含まれるイオン性化合物のモル濃度、Zは塗布液に含まれるイオン性化合物のイオン原子価を表す)
【0105】
また、イオン強度を調整するために、前述した酸や、有機塩基(アンモニア、ピリジン、エチルアミンなど)などのイオン性化合物を必要に応じて添加することもできる。
さらに、金属元素イオンを捕捉するポリマー(例えばポリエチレンイミン)を添加してもよい。
【0106】
また、組成物Bは、25℃におけるpHが6以下(好ましくは5以下)であることも好ましい。
また、この場合の組成物BのpHの下限には特に限定はないが、pHは1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
pHが1以上であれば、絶縁層の溶解をより低減できるので、絶縁層に付着したポリマーをより好適に維持できる。
前記塗布液のpHは、1〜6が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜4が特に好ましい。
【0107】
また、組成物B(特に25℃におけるpHが6以下の組成物B)は、多価カルボン酸化合物(B)以外にも少なくとも1種類の酸を含むことも好ましい。
前記酸としては特に限定はないが、絶縁層を汚染または破壊しにくいものが好ましい。具体的には、前記酸としては、ギ酸、酢酸等のモノカルボン酸、ヒドロキシ酪酸、乳酸、サリチル酸等のオキシモノカルボン酸、バルビツール酸などの有機酸、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸を挙げることができる。
【0108】
また、前記酸としては、1分子内に、活性種(例えば、ラジカル、イオン、電子等のプラズマ活性種)を遮蔽する部位を有する酸も好ましい。これにより、特に、プラズマ処理(例えば、プラズマクリーニング、プラズマCVD)を行う場合において、ポリマー(A)を含む密着層のプラズマ耐性を向上させることができる。
前記活性種を遮蔽する部位としては特に限定されないが、具体的には共役系を有する官能基が好ましく、具体的には、芳香族基、ケイ素原子などが挙げられる。
【0109】
また、工程2の後に、余分な組成物を除去するために、水等で洗浄してもよい。
【0110】
(工程3)
次に、工程2(第2工程)後に、ポリマー(A)と多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体とを含む膜を、温度200℃〜425℃で加熱することで密着層を形成する。具体的には、工程1後に得られた膜に含まれるポリマー(A)と、多価カルボン酸化合物(B)またはその誘導体と、が加熱により反応して反応物が得られ、その反応物を含む密着層が形成される。その結果、カチオン性官能基由来のリーク電流を抑制することができ、かつ多価カルボン酸化合物(B)に起因する導電体の腐食を抑制することができる。
前記温度は、ポリマー(A)を含む組成物Aが付与される、基板の孔の壁面の温度を指す。前記温度は、250℃〜400℃が好ましく、300℃〜400℃がより好ましい。
【0111】
また、工程3にて加熱が行われる圧力(加熱時に膜が曝される雰囲気の圧力)には特に制限はないが、絶対圧17Pa超大気圧以下が好ましい。
前記絶対圧は、1000Pa以上大気圧以下がより好ましく、5000Pa以上大気圧以下が更に好ましく、10000Pa以上大気圧以下が特に好ましい。
【0112】
工程3における加熱は、炉やホットプレートを用いた通常の方法により行うことができる。炉としては、例えば、アペックス社製のSPX−1120や、光洋サーモシステム(株)製のVF−1000LPを用いることができる。
また、本工程における加熱は、大気雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)雰囲気下で行ってもよい。不活性ガス雰囲気下の場合には、窒素ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0113】
工程3における加熱の時間については特に制限はないが、例えば1時間以下であり、30分間以下が好ましく、10分間以下がより好ましく、5分間以下が特に好ましい。加熱の時間の下限には特に制限はないが、例えば0.1分間とすることができる。
【0114】
工程3にて加熱する際に、工程2後に得られた膜に紫外線(UV)を照射してもよく、例えば、波長172nm エキシマUV(14mW/cm)などを照射してもよい。UV照射により、密着層のアミド結合またはイミド結合の形成が促進されることが推測される。紫外線を照射する際は、工程3の加熱と同時に、つまり、加熱しながらUV照射することが好ましい。
【0115】
(工程4)
密着層を形成後、密着層が形成された孔に電極を形成する。形成方法は、通常のTSVで行われる方法を用いればよく、例えば、メタルCVD法、スパッタリング法または電解メッキ法により銅を付着させて電極を形成し、必要に応じてCMP処理を施すことにより、基板上に付着した電極を平滑化してもよい。
【0116】
(絶縁層の形成)
絶縁層を基板と密着層との間に設ける場合、工程1の前に基板の孔の壁面上に絶縁層を形成し、その後に工程1〜4を行う。例えば、多孔質シリカなどを含む多孔質シリカ形成用組成物を壁面に付与した後、加熱および紫外線照射を行うことで絶縁層を形成してもよい。
【0117】
(バリア層の形成)
バリア層を密着層と電極との間に設ける場合、工程3の後にバリア層を形成し、その後に工程4を行う。バリア層を形成する方法としては、特に限定されず、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD)、電気化学気相成長法(ECD)、スパッタリング技術などの通常行われる方法が挙げられる。
【0118】
なお、貫通ビア電極の形成に用いる基板は、厚さ方向に孔を有しているが、この孔は貫通孔であってもよく、貫通孔でなくてもよい。前記基板の孔が貫通孔でない場合には、電極を形成した後に、基板の孔が形成されている面とは反対側を、孔が露出するまで研磨またはエッチングすることにより、基板に貫通孔を形成することができる。
【0119】
本開示に係る貫通ビア電極形成方法により、例えば、図1、2に示す貫通ビア電極基板を形成することができる。図1は、本開示に係る貫通ビア電極基板の断面を模式的に示す概略断面図であり、図2は、図1の丸で囲んでいる部分の拡大断面図である。
本形態に係る貫通ビア電極形成方法により、基板1、絶縁層4、密着層3および電極2がこの順に形成された貫通ビア電極基板10を得ることができる。
【0120】
また、本開示に係る貫通ビア電極形成方法により、図1、2に示す貫通ビア電極基板の代わりに、例えば、図3に示す貫通ビア電極基板を形成してもよい。図3は、他の形態に係る貫通ビア電極基板の断面を模式的に示す拡大断面図である。
本形態に係る貫通ビア電極形成方法により、基板11、第1密着層15、絶縁層14、第2密着層13、バリア層16および電極12がこの順に形成された貫通ビア電極基板20を得ることができる。
【0121】
前述の組成物A、または組成物Bを孔の壁面上に付与する方法としては、特に制限はなく、通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ディッピング法(例えば、米国特許第5208111号明細書参照)、スプレー法(例えば、Schlenoffら、Langmuir, 16(26), 9968, 2000や、Izquierdoら、Langmuir, 21(16), 7558, 2005参照)、スピンコート法(例えば、Leeら、Langmuir, 19(18), 7592, 2003や、J. Polymer Science, part B, polymer physics, 42, 3654, 2004参照)などを用いることができる。
【0122】
[その他の成分]
本開示で用いる組成物A、および組成物Bは、ナトリウムおよびカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であることが好ましい。ナトリウムおよびまたはカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であれば、トランジスタの動作不良など半導体装置の電気特性に不都合が発生することを抑制できる。
【0123】
さらに組成物A、および組成物Bは、絶縁層を腐食や溶解させる化合物を含有しないことが好ましい。具体的には例えば、特に絶縁層の主材がシリカなどの無機化合物である場合、フッ素化合物等が組成物中に含まれると、絶縁層が溶解して絶縁性が損なわれ、比誘電率が増加する場合がある。
【0124】
組成物A、および組成物Bは、ポリマー(A)以外の成分としては、210℃以下、好ましくは160℃以下の沸点を有する化合物か、250℃まで加熱しても分解性を有さない化合物のみを含むことが好ましい。
なお前記「250℃まで加熱しても分解性を有さない化合物」とは、25℃で測定した質量に対する、250℃、窒素雰囲気下で1時間保持した後の質量の変化が50%未満の化合物のことをいう。
【0125】
組成物Aは、動的光散乱法で測定された平均粒子径が150nm以下であることが好ましい。
平均粒子径が150nm以下であると、電極との密着性がより向上し、絶縁層への金属成分やプラズマ成分の拡散がより抑制される。
本開示において平均粒子径は、大塚電子社製ELSZ−2を用いた動的光散乱法により測定され、キュムラント平均粒径として得られる。測定条件は、例えば溶液濃度0.1%から1.0%、温度23から26℃において、積算回数70回、繰り返し回数3回などの条件により行われる。必要に応じてNaClなどの電解質を添加することで安定した測定を行うことができる。
【0126】
前記平均粒子径は、電極との密着性をより向上させ、絶縁層への金属成分やプラズマ成分の拡散をより抑制する観点から、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが更に好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。
【0127】
組成物AのpHには特に制限はないが、ポリマー(A)の絶縁層への吸着性の観点から、pHが絶縁層の等電点以上であることが好ましい。また、組成物AのpHは、前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲であることが好ましい。組成物AがかかるpHであることにより、絶縁層とポリマー(A)との静電相互作用により、ポリマー(A)が絶縁層上により効率的に吸着する。
【0128】
前記絶縁層の等電点は、絶縁層を構成する化合物が示す等電点であり、例えば、絶縁層を構成する化合物が多孔質シリカの場合、等電点は、pH2〜4付近(25℃)となる。
また、前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲とは、組成物AのpHが、カチオン性官能基を含むポリマーのpK以下であることをいう。例えば、カチオン性官能基を含むポリマーがポリアリルアミンである場合、pKは8〜9であり、ポリエチレンイミンである場合、pKは7〜12である。
すなわち、組成物AのpHは、絶縁層を構成する化合物種類と、ポリマーの種類とに応じて適宜選択することができ、例えば、pH2〜12であることが好ましく、pH7〜11であることがより好ましい。
尚、pH(25℃)は通常用いられるpH測定装置を用いて測定される。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、「水」としては、超純水(Millipore社製Milli−Q水、抵抗18MΩ・cm(25℃)以下)を使用した。
【0130】
以下のようにしてポリエチレンイミン1を合成し、次いで、得られたポリエチレンイミン1を含む組成物Aを調製した。詳細を以下に説明する。
【0131】
<ポリエチレンイミン1の合成>
(変性ポリエチレンイミン1の合成)
下記反応スキーム1に従い、ポリエチレンイミンを出発物質とし、変性ポリエチレンイミン1を合成した。なお、下記反応スキーム1および反応スキーム2におけるポリマー構造は模式的に表した構造であり、3級窒素原子および2級窒素原子の配置や、後述するBoc化アミノエチル基により置換される2級窒素原子の割合については、合成条件により種々変化するものである。
【0132】
【化4】

【0133】
上記反応スキーム1の詳細な操作は以下の通りである。
MP−Biomedicals社製ポリエチレンイミン(50%水溶液)61.06gをイソプロパノール319mL中に溶解し、N−t−ブトキシカルボニル(本実施例において、t−ブトキシカルボニル基を「Boc」ともいう)アジリジン102g(710mmol)を加え、3時間加熱還流を行い、ポリエチレンイミンにBoc化アミノエチル基が導入された構造の変性ポリエチレンイミン1を得た。薄層クロマトグラフィー(TLC)で原料のN−Bocアジリジンがなくなったことを確認し、少量サンプリングしてH−NMRで構造を確認した。H−NMRより、ポリエチレンイミンに対するBoc化アミノエチル基の導入率は95%と算出された。
〜変性ポリエチレンイミン1のNMR測定結果〜
H−NMR(CDOD);δ3.3−3.0(br.s,2),2.8−2.5(
Br.s,6.2),1.45(s,9)
【0134】
(ポリエチレンイミン1の合成)
上記変性ポリエチレンイミン1を出発物質とし、下記反応スキーム2に従ってポリエチレンイミン1を合成した。
【0135】
【化5】


【0136】
上記反応スキーム2の詳細な操作は以下の通りである。
上記変性ポリエチレンイミン1のイソプロパノール溶液に12N塩酸124mLをゆっくり加えた。得られた溶液を、ガスの発生に注意しながら50℃で4時間加熱撹拌した。ガスの発生と共に、反応系内にガム状の反応物が生成した。ガスの発生が終了した後に冷却し、冷却後、このガム状の反応物から分離した溶媒を除き、メタノール184mLで3回洗浄した。洗浄後の反応物を水に溶解し、陰イオン交換高分子で塩素イオンを取り除き、ポリエチレンイミン1(高分岐ポリエチレンイミン1)を58g含有する水溶液を得た。
〜ポリエチレンイミン1のNMR測定結果〜
H−NMR(DO);δ2.8−2.4(br.m)
13C−NMR(DO);δ(積分比) 57.2(1.0),54.1(0.38
),52.2(2.26),51.6(0.27),48.5(0.07),46.7(
0.37),40.8(0.19),38.8(1.06).
【0137】
上記ポリエチレンイミン1について、重量平均分子量、分子量分布、カチオン性官能基(1級窒素原子、2級窒素原子、3級窒素原子、および4級窒素原子)当量、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)、4級窒素原子の量(mol%)、分岐度(%)をそれぞれ測定した。
その結果、重量平均分子量は40575、分子量分布は17.47、カチオン性官能基当量は43、1級窒素原子の量は46mol%、2級窒素原子の量は11mol%、3級窒素原子の量は43mol%、4級窒素原子の量は0mol%、分岐度は80%であった。
【0138】
ここで、カチオン性官能基当量は、カチオン性官能基1つに対する分子量の値であり、ポリマー構造より算出することができる。
また、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)、4級窒素原子の量(mol%)、および分岐度(%)は、ポリマーサンプル(ポリエチレンイミン1)を重水に溶解し、得られた溶液について、ブルカー製AVANCE500型核磁気共鳴装置でシングルパルス逆ゲート付デカップリング法により、80℃で13C−NMRを測定した結果より、それぞれの炭素原子が何級のアミン(窒素原子)に結合しているかを解析し、その積分値を元に算出した。帰属については、European Polymer Journal, 1973, Vol. 9, pp. 559などに記載がある。
【0139】
重量平均分子量および分子量分布は、分析装置Shodex GPC−101を使用しカラムAsahipak GF−7M HQを用い測定し、ポリエチレングリコールを標準品として算出した。また展開溶媒は酢酸濃度0.5mol/L、硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用いた。ただし、Mark-Houwink-Sakurada式で知られているように、分岐度が大きくなるとGPCの検量線も変わることから、得られた重量平均分子量および分子量分布はあくまでポリエチレングリコール換算の数値である。
【0140】
ここで、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)、および4級窒素原子の量(mol%)は、それぞれ、下記式A〜Dで表される量である。また、分岐度は、下記式Eにより求めた。
1級窒素原子の量(mol%) = (1級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数+4級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式A
2級窒素原子の量(mol%) = (2級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数+4級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式B
3級窒素原子の量(mol%) = (3級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数+4級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式C
4級窒素原子の量(mol%) = (4級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数+4級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式D
分岐度(%) = ((3級窒素原子の量(mol%)+4級窒素原子の量(mol%))/(2級窒素原子の量(mol%)+3級窒素原子の量(mol%)+4級窒素原子の量(mol%))×100 ・・・ 式E
【0141】
<組成物Aの調製>
上記で得られたポリエチレンイミン1(重量平均分子量40575、カチオン性官能基当量43)の水溶液に、水を加えて混合し、組成物Aを得た。
組成物Aでは、組成物中のポリエチレンイミン1の濃度が0.25質量%となるように、水を加えて混合した。また、組成物AのpHは9.5であった。ここでいうpHは、25℃の組成物Aについて測定された値である(以下、同様である)。ここで、組成物AのpHはアズワン社製pHメーター(KR5E)をpH標準液で校正後、測定液にpHメーターを浸漬して値が自動的に安定したところでpH値を読み取った値とした。
【0142】
<組成物A’の調製>
次に、上記で得られたポリエチレンイミン1を同質量のポリエチレンイミン2(MP Biomedicals社製ポリエチレンイミン)に変更し、ポリエチレンイミン2を水と混合させて組成物A’を得た。組成物A’のpHは9.5であった。
また、上記ポリエチレンイミン2について、上記高分岐ポリエチレンイミン1と同様にして、重量平均分子量、分子量分布、カチオン性官能基(1級窒素原子、2級窒素原子、3級窒素原子、4級窒素原子)当量、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)、4級窒素原子の量(mol%)、分岐度(%)をそれぞれ測定した。
その結果、重量平均分子量は130774、分子量分布は16.55、カチオン性官能基当量は43、1級窒素原子の量は32mol%、2級窒素原子の量は38mol%、3級窒素原子の量は30mol%、4級窒素原子の量は0mol%、分岐度は44%であった。
【0143】
<組成物A’’の調製>
次に、組成物中のポリエチレンイミン2の濃度が0.5質量%となるように、水を加えて混合した以外は、組成物A’と同様にして、組成物A’’を得た。組成物A’’のpHは9.5であった。
【0144】
得られた組成物A、組成物A’および組成物A’’について、ナトリウムの含有量およびカリウムの含有量をそれぞれ、誘電結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により測定したところ、いずれも検出限界以下(<1質量ppb)であった。
【0145】
<多価カルボン酸液の調製>
まず、多価カルボン酸化合物(B)として、ピロメリット酸、4,4’−オキシジフタル酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸を準備し、それぞれ水と混合して多価カルボン酸液B−1、B−2、多価カルボン酸液B’−1、B’−2および多価カルボン酸液B’’とした。より具体的には、ピロメリット酸濃度、4,4’−オキシジフタル酸濃度および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸濃度が0.388ミリモル/リットルとなるように、それぞれを水と混合して多価カルボン酸液B−1、B’−1、B’’を調製した。
また、ピロメリット酸濃度、4,4’−オキシジフタル酸濃度および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸濃度が0.4ミリモル/リットルとなるように、それぞれを水と混合して多価カルボン酸液B−2、B’−2を調製した。
多価カルボン酸液B−1、B−2、多価カルボン酸液B’−1、B’−2および多価カルボン酸液B’’のpHは、ともに3.4であった。
【0146】
<絶縁層(Low−k膜)付きシリコンウエハの作製>
(前駆体溶液の調製)
77.4gのビストリエトキシシリルエタンと70.9gのエタノールとを室温下で混合攪拌した後、1mol/Lの硝酸80mLを添加し、50℃で1時間撹拌した。次に、20.9gのポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルを280gのエタノールで溶解した溶液を滴下混合した。混合後、30℃で4時間撹拌した。得られた溶液を25℃、30hPaの減圧下、105gになるまで濃縮した。濃縮後、1−プロピルアルコールと2−ブチルアルコールを体積で2:1に混合した溶液を添加し、前駆体溶液1800gを得た。
【0147】
(多孔質シリカ形成用組成物の調製)
前駆体溶液472gに、ジメチルジエトキシシラン3.4gおよびヘキサメチルジシロキサン1.8gを添加し、25℃で1時間撹拌し、多孔質シリカ形成用組成物を得た。この時のジメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンの添加量は、ビストリエトキシシリルエタンに対してそれぞれ10モル%、5モル%であった。
【0148】
(絶縁層の形成)
上記多孔質シリカ形成用組成物1.0mLをシリコンウエハ表面上に滴下し、2000rpmで60秒間回転させて、シリコンウエハ表面に塗布した後、窒素雰囲気下、150℃で1分間、次いで、350℃で10分間加熱処理した。その後、172nmエキシマランプを装備したチャンバー内で350℃まで熱処理し、圧力1Paで出力14mW/cmにより、紫外線を10分間照射することにより、絶縁層(多孔質シリカ膜)を得た。
以上により、上記絶縁層(以下、「Low−k膜」または「Low−k」ともいう)付きシリコンウエハを得た。
【0149】
得られた絶縁層のポア半径は、1.6nmであった。
また、得られた絶縁層の弾性率は、8.8GPaであった。
【0150】
上記ポア半径は、トルエンの脱離等温線から計算により求めた。ここで、トルエン脱離等温線測定は、以下の手法により行った。
【0151】
<トルエン脱離等温線測定>
トルエン脱離等温線測定は、Low−k膜表面におけるトルエン吸着測定により行った。
トルエン吸着測定は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)を用いて行った。
測定方法は、M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391に記載の手法に従って行った。
具体的には、温度範囲23〜26℃において、試料(Si/Low−k)の入ったサンプル室を5mTorrまで排気した後、トルエンガスをサンプル室に十分にゆっくり導入した。各圧力において、Low−k膜の屈折率をエリプソメーター装置によりその場測定した。この操作を、サンプル室内圧力がトルエンの飽和蒸気圧に達するまで繰り返した。同様に、サンプル室内雰囲気を徐々に排気しつつ、各圧力にて屈折率の測定を行った。以上の操作により、Low−k膜へのトルエンの吸着および脱離による屈折率変化を求めた。更に、ローレンツ−ローレンツ式を用いて、屈折率の相対圧力特性からトルエンガス吸着脱離等温線を求めた。
上記トルエンガス吸着脱離等温線は、トルエン相対圧(P/P;ここで、Pはトルエンの室温での分圧を表し、Pはトルエンの室温での飽和蒸気圧を表す。)と、トルエン吸着量の体積分率(Low−k膜全体の体積に対するトルエンの室温での吸着体積の比率;単位は「%」)と、の関係を示す等温線である。トルエン吸着量の体積分率は、ローレンツ−ローレンツ式を用いてLow−k膜の屈折率に基づいて求めた。
上記トルエンガス吸着脱離等温線に基づき、トルエン相対圧(P/P)が1.0であるときのトルエン吸着量の体積分率(%)を求め、得られた値に基づき、ポア半径を計算した。
ポア半径の計算は、 M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391 に記載された手法に従って、ケルビン式を用いて行った。
また、弾性率は、ナノインデンテーター(Hysitron社、Triboscope)により、膜厚の1/10以下の押し込み深さで常法により測定した。
【0152】
〔実施例1〜5、比較例1、2〕
<シリコンウエハ/Low−k膜/密着層/電極(Cu膜)の積層体1の作製>
(組成物の付与)
上記で得られたLow−k膜付きシリコンウエハのLow−k膜面に、組成物Aまたは組成物A’を付与した。具体的には、上記で得られたLow−k膜付きシリコンウエハを、スピンコーターの上にのせ、Low−k膜面に、組成物Aまたは組成物A’を10秒間一定速度で1.0mL滴下し、13秒間保持した後、このシリコンウエハを2000rpmで1秒間回転させ、さらに600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。
なお、比較例1では、組成物の付与を行わなかった。
【0153】
次に、乾燥させたシリコンウエハをホットプレート上に、シリコンウエハ面とホットプレートが接触するように置き、大気雰囲気下で、100℃のソフトベーク温度で60秒間ソフトベーク(加熱処理)し、ポリマー層を形成した。
ここでいうソフトベーク温度は、シリコンウエハ表面の温度である。
【0154】
(多価カルボン酸液の付与)
ポリマー層が形成されたシリコンウエハ面に、多価カルボン酸液B−1、多価カルボン酸液B’−1または多価カルボン酸液B’’を付与した。具体的には、上記シリコンウエハを、スピンコーターを用いて600rpmで回転させながら、ポリマー層上に、多価カルボン酸液B−1、多価カルボン酸液B’−1または多価カルボン酸液B’’を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下し、次いで、超純水(液温22℃)を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下して洗浄処理を行った。次いで、試料を4000rpmで60秒間回転させ乾燥させた。
なお、比較例1、2では、多価カルボン酸液の付与を行わなかった。
【0155】
(熱処理)
次に、洗浄処理を行った後のシリコンウエハについて、以下の条件で熱処理(ハードベーク処理)を行った。まず、上記シリコンウエハを炉(アペックス社製のSPX−1120)に入れ、この試料のポリマー層が形成された側に対し、窒素ガス(N)雰囲気中、圧力10000Paの条件下で、350℃の熱処理を2分間施し、密着層を形成した。上記温度は、シリコンウエハのポリマー層が形成された側の表面温度である。
以上により、Low−k膜付きシリコンウエハと密着層とが積層された構造の積層体を得た。
【0156】
(電極の形成)
前記熱処理により得られた積層体の密着層上に、スパッタリングにより銅膜(厚さ100nm)を成膜し、電極を形成した。これにより、シリコンウエハ/Low−k膜/密着層/電極(Cu膜)がこの順に積層された積層体1を得た。
【0157】
<碁盤目試験>
電極が形成された積層体1における密着性評価のため、以下のような碁盤目試験を行った。具体的には、積層体1のCu膜側表面に、2mm角の正方形マスを5×5個カッターで形成後、スコッチテープ(3M No.56)を貼り付けた後、一気に引きはがし、剥がれずに残ったマスの数を計測した。
結果を表1に示す。
【0158】
<シリコンウエハと密着層との積層体2の作製>
シリコンウエハ(低抵抗シリコン基板。抵抗率 0.02Ω・cm以下)を準備し、このシリコンウエハに、絶縁層および電極を形成しないこと以外は前述と同様の処理を施し、シリコンウエハ上に密着層を形成し、シリコンウエハと密着層とが積層された構造の積層体2(シリコンウエハ/密着層)を得た。
【0159】
<積層体2における密着層の厚さ評価>
得られた積層体2(シリコンウエハ/密着層)の密着層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して常法により測定した。
結果を表1に示す。
【0160】
<シリコンウエハと密着層との積層体3の作製>
シリコンウエハ(低抵抗シリコン基板。抵抗率 0.02Ω・cm以下)を準備し、このシリコンウエハに、絶縁層および電極を形成しないこと、組成物Aまたは組成物A’の付与およびソフトベークを3回繰り返した以外は前述と同様の処理を施し、シリコンウエハ上に密着層を形成し、シリコンウエハと密着層とが積層された構造の積層体3(シリコンウエハ/密着層)を得た。
【0161】
<架橋構造>
得られた積層体3(シリコンウエハ/密着層)の密着層に含まれる反応物の架橋構造をFT−IR(フーリエ変換赤外分光法)で測定した。用いた分析装置は以下のとおりである。
〜FT−IR分析装置〜
赤外吸収分析装置(DIGILAB Excalibur(DIGILAB社製))
〜測定条件〜
IR光源:空冷セラミック、 ビームスプリッター:ワイドレンジKBr、 検出器:ペルチェ冷却DTGS、 測定波数範囲:7500cm−1〜400cm−1、 分解能:4cm−1、 積算回数:256、 バックグラウンド:Siベアウエハー使用、 測定雰囲気:N(10L/min)、 IR(赤外線)の入射角:72°(=Siのブリュースター角)
〜判断条件〜
イミド結合は1770cm−1、1720cm−1の振動ピークの存在で判断した。アミド結合は1650cm−1、1520cm−1の振動ピークの存在で判断した。
結果を表2に示す。なお、架橋構造の測定は、実施例1〜5、比較例2における積層体3について行った。
【0162】
<積層体3における密着層の厚さ評価>
得られた積層体3(シリコンウエハ/密着層)の密着層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して常法により測定した。
結果を表2に示す。なお、密着層の厚さ評価は、実施例1〜4、比較例2における積層体3について行った。
【0163】
<比誘電率の測定>
得られた積層体3(シリコンウエハ/密着層)における密着層の比誘電率を測定した。
比誘電率は、水銀プローブ装置(SSM5130)を用い、25℃、相対湿度30%の雰囲気下、周波数100kHzにて常法により測定した。
結果を表2に示す。なお、比誘電率の測定は、実施例1〜4、比較例2における積層体3について行った。
【0164】
<リーク電流密度>
次に、電気特性評価のため、以下のようにリーク電流密度を測定した。具体的には、得られた積層体3(シリコンウエハ/密着層)の密着層面に水銀プローブを当て、測定された電界強度1MV/cmの値をリーク電流密度とした。
結果を表2に示す。なお、リーク電流密度の測定は、実施例1〜4、比較例2における積層体3について行った。
【0165】
各実施例および比較例における碁盤目試験、密着層膜厚、リーク電流密度、比誘電率の結果は表1、2に示すとおりである。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】
【0168】
実施例1、2では、Low−k膜と電極との間に剥がれがなく、密着性が良好であり、かつ、リーク電流を抑制することができた。実施例3、4では、リーク電流を抑制することができた。実施例5では、リーク電流について評価できなかったが、Low−k膜と電極との間に剥がれがなく、密着性が良好であった。
【0169】
一方、比較例1では、Low−k膜と電極との密着性が不十分であり、比較例2では、リーク電流を抑制することができず、ショートが発生した。
【0170】
〔実施例6、7、比較例3〕
<シリコンウエハ/Low−k膜/密着層/電極(Cu膜)の積層体4の作製>
(組成物の付与)
組成物Aまたは組成物A’の代わりに組成物A’’を用い、かつソフトベーク温度を100℃から125℃に変更したこと以外は積層体1におけるポリマー層の形成と同様に、Low−k膜付きシリコンウエハのLow−k膜面に、ポリマー層を形成した。
【0171】
(多価カルボン酸液の付与)
多価カルボン酸液B−1、多価カルボン酸液B’−1又は多価カルボン酸液B’’の代わりに多価カルボン酸液B−2または多価カルボン酸液B’−2を用いたこと以外は積層体1の作製と同様に、ポリマー層が形成されたシリコンウエハ面に、多価カルボン酸液の付与、洗浄、乾燥を行った。
比較例3では、多価カルボン酸液の付与を行わなかった。
【0172】
(熱処理)
次に、洗浄処理を行った後のシリコンウエハについて、熱処理条件を圧力10000Pa、温度350℃、熱処理時間2分間から、圧力30000Pa、温度380℃、熱処理時間10分間にそれぞれ変更した以外は積層体1の作製における熱処理と同様に、熱処理(ハードベーク処理)を行った。
【0173】
(電極の形成)
積層体1の作製と同様に、前記熱処理により得られた積層体の密着層上に電極を形成し、シリコンウエハ/Low−k膜/密着層/電極(Cu膜)がこの順に積層された積層体4を得た。
【0174】
<碁盤目試験>
積層体1と同様に、積層体4について碁盤目試験を行った。結果を表3に示す。
【0175】
<熱処理後の碁盤目試験>
上記で得られた積層体4(シリコンウエハ/Low−k膜/密着層/電極(Cu膜))について、以下の条件で熱処理を行った。まず、上記積層体4を炉(アペックス社製のSPX−1120)に入れ、この試料のポリマー層が形成された側に対し、窒素ガス(N)雰囲気中、圧力30000Paの条件下で、300℃の熱処理を10分間施した。上記温度は、シリコンウエハのポリマー層が形成された側の表面温度である。
熱処理後の積層体4について、積層体1と同様に碁盤目試験を行った。
結果を表3に示す。
【0176】
<シリコンウエハと密着層との積層体5の作製>
シリコンウエハ(低抵抗シリコン基板。抵抗率 0.02Ω・cm以下)を準備し、このシリコンウエハに、絶縁層および電極を形成しないこと以外は前述と同様の処理を施し、シリコンウエハ上に密着層を形成し、シリコンウエハと密着層とが積層された構造の積層体5(シリコンウエハ/密着層)を得た。
【0177】
<積層体5における密着層の厚さ評価>
得られた積層体5(シリコンウエハ/密着層)の密着層の厚さ(nm)を、積層体2と同様に測定した。
結果を表3に示す。
【0178】
【表3】
【0179】
実施例6、7(特に、実施例7)では、熱処理後もLow−k膜と電極との密着性が良好であり、比較例3は熱処理前後ともにLow−k膜と電極との密着性が不十分であった。
【0180】
2014年12月17日に出願された日本国特許出願2014−255013の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3