(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184664
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】除染装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20170814BHJP
B08B 1/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
G21F9/28 561A
G21F9/28 Z
G21F9/28 541A
B08B1/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-146472(P2012-146472)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-10041(P2014-10041A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】512171696
【氏名又は名称】株式会社アイ・クリエイトジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】野口 幸雄
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−310165(JP,A)
【文献】
特開2004−271183(JP,A)
【文献】
特開平11−142591(JP,A)
【文献】
特開2006−132993(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/143844(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00−9/36
B08B 1/00−1/04
5/00−13/00
B08B 3/00−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染対象に対して、媒体となる液体を介して断続的に超音波振動を伝えて、放射性物質を前記除染対象から除去することにより、除染を実施する除染装置であって、
振動体と、
前記振動体を振動させる超音波振動手段と、
前記振動体を取り囲むように、先端を前記除染対象に向け、当該先端が面を形成するようにして配設される複数のブラシ毛を備えたブラシ板と、
を備えたことを特徴とする除染装置。
【請求項2】
前記振動体の近傍には、前記ブラシ毛が配設されていない空間が形成されていることを 特徴とする請求項1に記載の除染装置。
【請求項3】
さらに、液体を供給可能な液体供給部を備えることを特徴とする請求項1または請求項 2に記載の除染装置。
【請求項4】
前記超音波振動手段が、超音波発信器からの電気信号を機械的振動エネルギーに変換す る振動子と、
前記振動子からの機械的振動エネルギーが伝達されるホーンと、
を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の除染装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染装置に関する。さらに詳しくは、超音波振動を利用した除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
未曾有の大災害となった東日本大震災は、同時に、福島県を中心とした放射能汚染を引き起こすことになり、夥しい量の放射性物質が日本列島に広く飛散し、そのほとんどは雨や雪により地上に降り積もることとなった。このようにして地上に降り積もった放射性物質は、とりわけ土壌や落ち葉等に堆積、また、屋根、壁、及びコンクリート等の床等に沈着し、強い放射線を発し続けており、放射性物質による汚染を除去する除染作業が急務となっている。特に、長期間に渡って堆積ないし沈着した放射性物質の除染は、悪条件下の作業を強いられることになる。
【0003】
土壌や屋根等の屋外における放射性物質の除染の方法としては、例えば、高圧水ジェット除染、あるいは高圧水の代わりにブラスト材等を吹き付けるブラスト除染や、ブラシやウエス等で拭き取る、いわゆるスクラビング方式による除染等が広く用いられている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、近年、超音波振動を利用した除染装置も提供されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−94796号公報
【特許文献2】特開平9−105795号公報
【特許文献3】特開平9−257994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した特許文献に開示されるような従来の除染装置は、装置が大がかりになり、操作も面倒な場合が多かった。また、除染も必ずしもしっかりとなされるとはいえず、そのため、コンパクトな構成で、簡便かつ確実に除染がなされる手段の提供が望まれていた。
【0006】
本発明の目的は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、構成がコンパクトであるとともに、放射性物質の除染を簡便かつ確実に実施することができる除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明に係る除染装置は、除染対象に対して、媒体となる液体を介して断続的に超音波振動を伝えて、放射性物質を前記除染対象から除去することにより、除染を実施する除染装置であって、振動体と、前記振動体を振動させる超音波振動手段と、前記振動体を取り囲むように
、先端を前記除染対象に向け、当該先端が面を形成するようにして配設される複数のブラシ毛を
備えたブラシ板と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る除染装置は、前記した本発明において、前記振動体の近傍には、前記ブラシ毛が配設されていない空間が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る除染装置は、前記した本発明において、さらに、液体を供給可能な液体供給部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る除染装置は、前記した本発明において、前記超音波振動手段が、超音波発信器からの電気信号を機械的振動エネルギーに変換する振動子と、前記振動子からの機械的振動エネルギーが伝達されるホーンと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る除染装置は、構成がコンパクトであるとともに、放射性物質の除染を簡便かつ確実に実施することが可能な除染装置となり、土壌、屋根、壁、及び床等の除染作業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る除染装置の一態様を示した斜視図である。
【
図3】
図2の除染装置を除染対象側から見た図である。
【
図4】
図2において、振動体の形状を変更した態様を示した断面図である。
【
図5】
図4の除染装置を除染対象側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る除染装置1の構成を図面に基づいて説明する。
【0014】
(I)除染装置1の構成:
図1は、本発明に係る除染装置1の一態様を示した斜視図、
図2は、
図1のA−A断面図、をそれぞれ示す。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る除染装置1は、除染対象に対して超音波振動により除染を実施するものであり、図示しない超音波発信器からの電気信号を機械的振動エネルギーに変換する振動子21と、振動子21からの機械的振動エネルギーが伝達されるホーン22とを超音波振動手段2として、かかるホーン22からの機械的振動エネルギーが伝達されて振動する振動体3と、振動体3の周囲に配設されるブラシ毛41を配設するブラシ板42からなるブラシ部4と、を基本構成として備える。
【0016】
超音波の発信源となる図示しない超音波発信器は、入力される50Hzあるいは60Hzの電気信号を、例えば、20kHzや35kHz、あるいは40kHzといった電気信号に変換・増幅するものである。超音波発信器に入力される電圧は、一般に100〜240Vとされるが、超音波発信器により、例えば1kV程度まで増幅された状態で、振動子21に入力・印加されることになる。
【0017】
超音波発信器からの電気信号は、振動子21に形成されている電極部212から、振動子21に入力される。振動子21は、超音波発信器からの電気信号を機械的振動エネルギーに変換するものであり、図示しないピエゾ圧電素子等の圧電素子を備える。
【0018】
振動子カバー211に内蔵される略円柱形状の振動子21が備える図示しないピエゾ圧電素子は、交流電圧の印加により寸法(厚さ)が変化する性質を有し、変化量は概ね数μmレベルであるが、大きなパワーとなる。このようなピエゾ圧電素子としては、例えば、用いる周波数の半分の波長(1/2波長)で共振するように、複数の圧電セラミック板等が搭載されるもの等を使用することができ、交流電圧が印加され、印加のOn/Offを繰り返すことにより、ピエゾ圧電素子に伸縮運動を発生させ、機械的振動エネルギーとなる。
【0019】
図2に示すように、振動子21とホーン22は振動子21に形成された凸部213をホーンの一端に形成された凹部223に嵌め込むことにより連結一体化されており、振動子21から発生された機械的振動エネルギーは、ホーン22に伝達されることになる。
【0020】
共鳴体であるホーン22は、本実施形態にあっては、
図2に示すような略円柱形状からなり、例えば、アルミニウム合金やチタン合金、鉄ないし鉄合金等を構成材料として形成することができ、求められる強度、コスト、耐摩耗性、使用される周波数等により適宜決定することができる。ホーン22に伝達された機械的振動エネルギーは、ホーン22の内部において増幅あるいは減衰されて振動体3に伝達される。
【0021】
除染対象と対向するようにして配置される振動体3は、凸部(ボス)31をホーン22の他端に形成された凹部224に嵌め込むことによりホーン22と連結一体化されており、ホーン22からの機械的振動エネルギーが伝達されることになる。かかる振動体3の機械的振動エネルギーが、液体等を媒体として除染対象に伝わり、放射性物質が堆積ないし沈着した除染対象から放射性物質を確実に除去することになる。かかる振動体3は、高硬度材料で構成されることが好ましく、例えば、SUS420J2等のSUS(ステンレス)材料、真鍮等を構成材料として形成することができる。
【0022】
なお、振動子21は振動子カバー211に内蔵され、かかる振動子カバー211はホーン22を内蔵するホーンシリンダ221とボルト51で締められて一体化されている。また、ボルト51の周囲にはシリンダカバー222が装着されている。また、ブラシ部4は、ブラシ毛41とかかるブラシ毛41を配設しているブラシ板42からなるが、ブラシ板42はホーン22を内蔵するホーンシリンダ221とボルト52で締められて一体化されている。このようにして超音波振動手段2を構成する各部材が一体化され、また、超音波振動手段2とブラシ部4が一体化されている。ホーン22の上下の振動運動の負荷を軽減するため、シリンダカバー222の下にはネジ53が介在される。
【0023】
ブラシ板42には、複数のブラシ毛41が先端を除染対象に向くように配設され、ブラシ部4を構成している。振動体3を取り囲むように、ブラシ毛41が先端411を除染対象に向けて配設されているので、除染作業時に隣接するブラシ毛41間に液体を保持することができ、確実に除染が行われることになる。ブラシ毛41は、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニル等の合成樹脂や、鉄、ステンレス、鋼等の金属材料から構成されるようにすればよい。また、太さや長さ等のサイズや本数は、除染対象の状態等に応じて適宜決定すればよい。なお、振動体3の先端は、ブラシ毛41の先端と面一(つらいち)とするか、除染対象側から見て振動体3の先端がブラシ毛の先端41より引っ込むように形成してもよい。
【0024】
図3は、
図2の除染装置1を除染対象側から見た図である。
図3に示すように、振動体3の近傍(概ね、振動体3の端から1.5cm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.5〜1.0cmの範囲。)には、ブラシ毛41を配設しないように空間Xが形成されている。このようにして振動体3の近傍にブラシ毛41を配設しないことにより、振動体3の近傍に空間Xを形成することができ、超音波振動における媒体として必要な液体を、振動体3の近傍のかかる空間に保持することが可能となるため、超音波振動による除染作業を効率よく実施することができる。
【0025】
本実施形態にあって、振動体3の形状は、
図2に示すように、断面視でボタン形状とされており、このような形状として、除染対象との接触面を小さくすれば、除染対象が平坦でなく、適当な段差が形成されている面や、波打った状態の面(例えば、瓦屋根等)に適した形状となり、これらの表面形状を有する除染対象から効率よく放射性物質を除去することができる。
【0026】
なお、振動体3の形状は、振動体3の超音波振動(機械的振動エネルギー)を効率よく除染対象に伝達できるように、除染対象の表面形状によって決定することができる。
図4は、
図2において、振動体3の形状を変更した態様を示した断面図であり、振動体3の形状を平坦として、
図2に示した振動体3の形状より面積を大きくした態様を示している。また、
図5は、
図3と同様、
図4の除染装置1を除染対象側から見た図である。
図4及び
図5に示した振動体3の形状は、除染対象が土壌や床等といった、比較的平坦な場合に適した形状である。
【0027】
なお、本実施形態に係る除染装置1は、ブラシ板42に液体供給部6となる孔が形成されている。液体供給部6は、液体タンクと連接されたホース(ともに図示せず)等を繋いで、液体タンクに溜められた所望の液体を、ホースを介して液体供給部6に流入させることにより除染対象に液体を供給可能とする。なお、除染時に使用可能な液体としては、水のほか、放射性物質の除染に通常用いられる液体を挙げることができ、例えば、界面活性剤やキレート剤を含んだ液体、洗剤等や、いわゆるRO水(逆浸透(Reverse Osmosis)膜を通過させた水)を使用するようにしてもよい。
【0028】
本実施形態に係る除染装置1を使用して除染作業を行うには、除染対象となる土壌、床、屋根等に、除染装置1の振動体3を除染対象と対向するようにして、図示しない超音波発生器を稼働させて電子信号を振動子21に印加する。そして、振動子21により電気信号を機械的振動エネルギーに変換して、かかる機械的振動エネルギーを振動子21からホーン22、ホーン22から振動体3に伝達して、振動体3から超音波振動(機械的振動エネルギー)を媒体である液体を介して除染対象に断続的に伝えることにより、堆積・沈着した放射性物質を除染対象から除去し、媒体の液体に混ぜこむ。その後、放射性物質を含んだ汚れた液体を、ブラシ部4を構成するブラシ毛41で除去するようにすればよい。
【0029】
なお、本実施形態の構成にあっては、継ぎ手取付部71がヒンジ72を介してブラシ板42に配設されている。継ぎ手取付部71の挿入部73に図示しない棒状の継ぎ手を挿入して、除染装置1を自在に動かして除染作業を実施することができる。
【0030】
(II)本発明の効果:
以上説明した本実施形態に係る除染装置1は、振動体3を超音波振動手段2により超音波振動させて除染作業を実施するに際し、除染対象と対向するように配置される振動体3を取り囲むように、先端411を除染対象に向けて配設される複数のブラシ毛41をブラシ板42に配設したブラシ部4とした構成であり、コンパクトでありながら、除染作業時に隣接するブラシ毛41間に液体を保持することができるため、放射性物質の除染を簡便かつ確実に実施することが可能となる。かかる除染装置1は、例えば、土壌、屋根、壁、及び床等の除染作業に利用することができる。
【0031】
(III)実施形態の変形:
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0032】
例えば、前記した実施形態では、
図1等に示すように、ブラシ板41に液体供給部6である孔を形成し、除染対象に液体を供給可能とした構成を示して説明したが、液体供給部6を形成せずに、媒体となる液体をホース等で外部から直接供給するようにしてもよい。
【0033】
また、前記した実施形態では、超音波振動手段2として、振動子21とホーン22を連接して、振動子21による機械的振動エネルギーを直接ホーン22に伝達する構成を示したが、振動子21とホーン22の間に図示しないブースターを介在させて、ブースターによって振動子21から伝達される振幅を増減させて、かかるブースターで振幅を調整した機械的振動エネルギーをホーン22に伝達するようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、土壌や屋根、床等の放射能汚染を除染する手段として有利に使用することができ、産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0035】
1 …… 除染装置
2 …… 超音波振動手段
21 …… 振動子
211 …… 振動子カバー
212 …… 電極部
213 …… 凸部
22 …… ホーン
221 …… ホーンシリンダ
222 …… シリンダカバー
223 …… 凹部
224 …… 凹部
3 …… 振動体
31 …… 凸部
4 …… ブラシ部
41 …… ブラシ毛
411 …… ブラシ毛の先端
42 …… ブラシ配設板
51 …… ボルト
52 …… ボルト
53 …… バネ
6 …… 液体供給部(孔)
71 …… 継ぎ手取付部
72 …… ヒンジ
73 …… 挿入部
X …… 空間