(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まっており、例えば自動車業界においても燃費向上等を目的とした軽量化が進んでいる。この軽量化のニーズに対応し、自動車の熱交換器用アルミクラッド材(ブレージングシート等ともいわれる。)の薄肉化及び高強度化の検討が盛んに行われている。上記クラッド材としては、犠性材(例えばAl−Zn系)、芯材(例えばAl−Si−Mn−Cu系)、及び接合材となるろう材(例えばAl−Si系)からなる三層構造を有するものが一般的であり、高強度化を図るべく、上記芯材へマグネシウム(Mg)添加、つまりMg
2Si析出による強化の検討が進められている。
【0003】
また、熱交換器等の組み立ての際のクラッド材の接合には、フラックスろう付け法が広く採用されている。このフラックスとは、ろう付け性を高めるものであり、一般的にはKAlF
4を主成分として含むもの等が用いられている。
【0004】
しかし、マグネシウム含有アルミニウム合金からなる芯材を備えるクラッド材は、上記従来のフラックスを用いた場合、ろう付け性が低下し、十分な接合が行われないという不都合がある。この原因は、ろう付けのための加熱時に、芯材中のマグネシウムがろう材表面のフラックス中へ拡散し、このマグネシウムとフラックス成分とが反応して高融点化合物(KMgF
3及びMgF
2)が形成されることで、フラックス成分が消費されるためといわれている。このため、マグネシウム含有アルミニウム合金用のフラックス及びこのようなフラックスを用いて接合されてなるアルミニウム複合材の開発が自動車用の熱交換器等の軽量化を進めるために必要とされている。
【0005】
このような中、マグネシウム含有アルミニウム合金を芯材とするクラッド材のろう付け性を向上させるフラックスとして、従来のフラックス成分に(1)CsFを添加したものや(特開昭61−162295号公報参照)、(2)CaF
2、NaF又はLiFを添加したもの(特開昭61−99569号公報参照)が検討されている。
【0006】
しかし、上記(1)のCsFが添加されたフラックスは、Csが非常に高価であるため大量生産等には不向きであり、実用性が低い。一方、上記(2)のCaF
2等が添加されたフラックスによれば、これらの化合物の添加により、フラックスが低融点化するため、フラックスの流動性は向上する。しかし、このフラックスにおいても、フラックスとマグネシウムとは従来どおり反応するため、ろう付け性が十分には向上しない。また、一般的には、フラックスの塗布量を増加させることでろう付け性が高まることが知られているが、塗布量の増加は高コスト化の要因となる。このようなことから、低コストで優れたろう付けを可能とするフラックス、及びこのようなフラックスを用いて十分にろう付け(接合)され、低コスト化や大量生産への対応等を可能とするアルミニウム複合材の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材に対し良好なろう付けがなされているアルミニウム複合材及びこのアルミニウム複合材を備える熱交換器、並びに上記ろう付けに好適に用いることができるフラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ろう付けの際、アルミニウム合金からフラックスへ拡散するマグネシウムを反応させ、高融点化合物であるKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を生成させることで、高融点化やろう付けに必要なフラックス中の成分の消費等を抑え、ろう付け性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、
マグネシウムを含有するアルミニウム合金材と、
フラックスを用いたろう付けにより形成され、上記アルミニウム合金材を接合している接合材と
を備えるアルミニウム複合材であって、
上記接合材がKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を含有することを特徴とする。
【0011】
当該アルミニウム複合材によれば、このようにろう付けにより形成され、アルミニウム合金材を接合している接合材にKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が存在することから、ろう付けの際、フラックスの高融点化や必要なフラックス中の成分の消費等が抑えられている。従って、当該アルミニウム複合材は、接合された部分において十分なろう付けがなされており、強度等を高めることができる。また、当該アルミニウム複合材によれば、このようにろう付け性に優れるフラックスを用いているため、使用されるフラックスの量も低減することができることなどにより、低コスト化や大量生産への対応等を可能とする。なお、この接合材は、アルミニウム合金材同士を接合していてもよいし、アルミニウム合金材と他の材料とを接合していてもよい。
【0012】
上記接合材における全マグネシウム含有化合物に対するKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物の存在量としては、2質量%以上が好ましい。上記化合物の含有量をこのようにすることで、より十分なろう付けを確保し、接合された部分の強度等をより高めることができる。
【0013】
上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が、ナトリウム及びカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ素とを含有するとよい。このような化合物がフラックスの高融点化や必要成分の消費等を効果的に抑制すると考えられ、ろう付け性等を更に高めることができる。
【0014】
上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が、KMgAlF
6及び/又はNaMgF
3であることが好ましい。上記接合材に上記化合物が存在することで、より十分なろう付けが達成できる。
【0015】
上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が、上記アルミニウム合金材に含有されるマグネシウムと、上記フラックスに含有される成分との反応生成物であることが好ましい。当該アルミニウム複合材によれば、このようにマグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が生成されていることで、ろう付けに必要なフラックス成分の消費及び高融点化合物の生成が抑えられており、より優れたろう付けが達成されている。
【0016】
本発明の熱交換器は当該アルミニウム複合材を備える。当該熱交換器は、上述のようにアルミニウム合金材が良好にろう付けされている。
【0017】
本発明のフラックスは、
マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付け用フラックスであって、
マグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を生成する成分を含むことを特徴とする。
【0018】
当該フラックスは、マグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を生成する成分を含むため、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けの際、マグネシウムが上記成分と反応し、KMgF
3及びMgF
2の生成を抑えることができる。従って、当該フラックスによれば、マグネシウムのフラックス中への拡散による高融点化やろう付けに必要なフラックス成分の消費等を抑えることができ、ろう付け性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のアルミニウム複合材は、アルミニウム合金材を接合している接合材にKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が存在するため、ろう付け性が良好である。従って、当該アルミニウム複合材は、高い強度と軽量化との両立や、低コスト化等を図ることができ、例えば自動車の熱交換器等として用いることができる。また、本発明のフラックスによれば、ろう付けの際、高融点化やろう付けに必要なフラックス成分の消費等を抑え、ろう付け性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のアルミニウム複合材及びフラックスの実施の形態について、適宜図面を参照にしながら詳説する。
【0022】
〔アルミニウム複合材〕
図1のアルミニウム複合材1は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材2及び接合材3を備える。上記アルミニウム複合材1は、
図2に示す状態のアルミニウム合金材2を備えるクラッド材10を加熱することによりろう付けされているものである。なお、上記クラッド材10は、1枚のシートが折り曲げられているものであってもよいし、異なる複数枚のシートからなるものであってもよい。まず、
図2のクラッド材10について詳説する。
【0023】
上記クラッド材10は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材2(芯材)及びこのアルミニウム合金材2の表面に積層されるろう材4を有する。このろう材4の表面には、フラックス層5が積層されている。
【0024】
上記アルミニウム合金材2は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる。当該アルミニウム複合材1は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材2を備えることで、高強度化や軽量化等を図ることができる。
【0025】
上記アルミニウム合金材2(アルミニウム合金)におけるマグネシウムの含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.0質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。上記アルミニウム合金材2におけるマグネシウム含有量が上記上限を超えると、十分なろう付けがされない場合がある。なお、上記アルミニウム合金材2中のマグネシウムの含有量の下限としては、特に限定されず、例えば0.01質量%である。
【0026】
上記ろう材4は、特に限定されず、従来のクラッド材に備わる公知のものを用いることができる。上記ろう材4としては、後述するフラックス中の[A]フラックス成分の融点より10℃以上100℃以下高い融点を有するものが好ましい。具体的には、Al−Si合金を挙げることができ、より好適にはSi含有量が5質量部以上15質量部以下であるAl−Si合金を挙げることができる。これらのAl−Si合金(ろう材)には、ZnやCuなどの他の成分が含有されていてもよい。
【0027】
上記フラックス層5は、フラックスから形成される層である。このフラックスの詳細については後述する。このフラックス層5の形成方法としては特に限定されないが、例えば粉末状、スラリー状又はペースト状のフラックスをろう材4表面へ塗布する方法等を挙げることができる。
【0028】
上記フラックス層5を形成するフラックスの積層量の下限としては特に限定されないが、0.5g/m
2が好ましく、1g/m
2がさらに好ましい。フラックスの積層量を上記下限以上とすることで、十分なろう付け性を発揮させることができる。一方、フラックスの積層量の上限としては、100g/m
2が好ましく、60g/m
2がより好ましく、20g/m
2がさらに好ましく、10g/m
2が特に好ましい。フラックスの積層量を上記上限以下とすることで、ろう付け性を維持しつつ、フラックスの使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0029】
上記クラッド材10のサイズは、特に限定されず、公知のサイズを適用することができる。例えば、上記クラッド材10の厚さとしては、例えば0.1mm以上2mm以下とすることができる。また、上記クラッド材10の製造方法も特に限定されず、公知の方法で製造することができる。
【0030】
図2に示すように、クラッド材10の表面側(それぞれに積層されたフラックス層5の表面)同士を接触させた状態で加熱することで、
図1に示すようにアルミニウム合金材2同士がろう付け(接合)されたアルミニウム複合材1が得られる。具体的には、加熱により、クラッド材10のろう材4及びフラックス層5が溶融し、冷却に伴ってこれらが固化することで接合材3(ろう部分)が形成される。この接合材3によりアルミニウム合金材2が接合されている。
【0031】
上記加熱は、アルミニウム合金材2(アルミニウム合金)の融点より低くかつフラックス中の後述する[A]フラックス成分の融点より高い温度(例えば580℃以上615℃以下)で行う。この加熱の際の昇温速度としては、例えば10〜100℃/min程度である。また、加熱時間は、特に限定はされないが、ろう付け性を阻害するマグネシウムの拡散量を低減するためには短い方が好ましい。この加熱時間は、例えば5〜20分程度である。
【0032】
また、上記加熱の際は公知の環境条件とすればよく、好ましくは不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。この加熱の際の酸素濃度としては、酸化を抑制する観点から1,000ppm以下が好ましく、400ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましい。また、この加熱の際の環境の露点としては、−35℃以下であることが好ましい。
【0033】
上記接合材3は、上述のようにろう材4とフラックス層5とが一旦溶融した後、硬化することで形成される。上記接合材3には、KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が存在する。このように接合材3にKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が存在するということは、ろう付けの際にアルミニウム合金材2から拡散されるマグネシウムが[A]フラックス成分と反応して生じるKMgF
3及びMgF
2の生成が抑えられているということとなる。すなわち、当該アルミニウム複合材1においては、ろう付けの際、KMgF
3及びMgF
2が生成することによるフラックスの高融点化や必要なフラックス成分の消費等が抑えられている。従って、当該アルミニウム複合材1は、接合されている部分において十分なろう付けがなされており、強度等を高めることができる。また、当該アルミニウム複合材1によれば、このようにろう付け性に優れるフラックスを用いているため、使用されるフラックスの量も低減することができること等により、低コスト化や大量生産への対応等を可能とする。
【0034】
なお、上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物の存在箇所は上記接合材3の表面であることが好ましい。
【0035】
上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が、上記アルミニウム合金材2に含有されるマグネシウムと、上記フラックスに含有される成分との反応生成物であることが好ましい。当該アルミニウム複合材1によれば、このようにマグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が生成されていることで、ろう付けに必要なフラックス成分の消費及び高融点化合物の生成が抑えられており、より優れたろう付けが達成されている。
【0036】
上記接合材3(好ましくはこの接合材の表面)における全マグネシウム含有化合物に対するKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物の存在量(好ましくは生成量。以下同様。)の下限としては、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。このような存在量(生成量)とすることで、より十分なろう付けを確保し、接合されている部分の強度等をより高めることができる。なお、この存在量(生成量)の上限としては、特に限定されないが、90質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0037】
上記接合材3における化合物の存在量(生成量)は、詳細には実施例にて示す方法にて、接合材3の表面をX線回折法(XRD)により測定して求めた値である。
【0038】
上記KMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物としては、KMgAlF
6、NaMgF
3、LiMgF
3、LiMgAlF
6、NaMgAlF
6、Na
2MgAlF
7、MgCrF
6、MgMnF
6、MgSrF
4、MgSnF
6、MgTiF
6、MgVF
4等を挙げることができる。
【0039】
これらの中でも、ナトリウム及びカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ素とを含有する化合物(例えば、KMgAlF
6、NaMgF
3、NaMgAlF
6、Na
2MgAlF
7等)が好ましい。このような化合物がフラックスの高融点化等を効果的に抑制すると考えられ、ろう付け性等を更に高めることができる。
【0040】
これらの中でも、さらにKMgAlF
6及びNaMgF
3であることが好ましい。上記接合材3に上記化合物が存在することで、より十分なろう付けが達成できる。
【0041】
上記接合材3における全マグネシウム含有化合物に対するKMgAlF
6の存在量(生成量)の下限としては、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましい。KMgAlF
6の存在量(生成量)が上記下限以上であることで、さらに十分なろう付けが確保され、接合部分の強度等をより高めることができる。この化合物の存在量(生成量)の上限としては、特に限定されないが、90質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0042】
上記接合材3における全マグネシウム含有化合物に対するNaMgF
3の存在量(生成量)の下限としては、2質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。NaMgF
3の存在量(生成量)が上記下限以上であることで、さらに十分なろう付けが確保され、接合されている部分の強度等をより高めることができる。この化合物の存在量(生成量)の上限としては特に限定されないが、80質量%が好ましい。
【0043】
当該アルミニウム複合材1は、具体的には、ラジエータ、エバポレータ、コンデンサ等の自動車用熱交換器やその他の金属機器等の構成部材として用いられる。上記熱交換器は、当該アルミニウム複合材1を備えていること以外は、公知の熱交換器と同様である。これらの熱交換器は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材を備えるクラッド材が用いられていることで高強度化及び薄肉化が図られている。また、これらの熱交換器は、ろう付け性が良好であり、強固にろう付けされている。
【0044】
〔フラックス〕
本発明のフラックスは、[A]フラックス成分に加え、[B]マグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を生成する成分を含有する。
【0045】
当該フラックスは、上記[B]成分を含むため、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けの際、マグネシウムが上記[B]成分と反応し、KMgF
3及びMgF
2の生成を抑えることができる。従って、当該フラックスによれば、マグネシウムのフラックス中への拡散による高融点化やろう付けに必要な[A]フラックス成分の消費等を抑えることができ、ろう付け性を向上させることができる。
【0046】
[A]フラックス成分
[A]フラックス成分は、通常のろう付け用フラックスに含まれるフラックス成分であればよく、特に限定されるものではない。この[A]フラックス成分は、ろう付け時の加熱昇温過程において、ろう材の成分より先に溶融し、アルミニウム合金材表面の酸化膜を除去し、また、アルミニウム合金材表面を覆ってアルミニウムの再酸化を防止する機能を発揮する。
【0047】
[A]フラックス成分は、通常KAlF
4を主成分として含み、その他、KF、K
2AlF
5等の他のフッ化物や、K
2(AlF
5)(H
2O)等の水和物などを挙げることができる。
【0048】
[A]フラックス成分におけるKAlF
4の含有率は、特に限定されないが、50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましい。
【0049】
[A]フラックス成分の存在形態としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分を含む粒子の状態が好ましく、[B]成分を含まない粒子(例えば、[A]フラックス成分のみからなる粒子)の状態がさらに好ましい。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。[A]フラックス成分と[B]成分とを含む粒子を用いた場合、[B]成分の存在により、[A]フラックス成分が高融点化する場合がある。そこで、[A]フラックス成分と[B]成分とをそれぞれ別の粒子とすることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、その結果、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0050】
[B]成分
[B]成分は、マグネシウムとの反応によりKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物を生成する成分である限り特に限定されない。
【0051】
上記[B]成分としては、AlF
3、TiF
3、CeF
3、BaF
2、NaF、LiF、CsF、CaF
2等のK(カリウム)を含まないフッ化物を挙げることができる。[B]成分は、これらの化合物を1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、XF
3(但し、XはAl,Ti又はCeである。)で表される化合物が好ましく、AlF
3がさらに好ましい。さらには、XF
3とNaF及び/又はLiFとを混合して用いることがより好ましい。
【0052】
なお、例えば、上記AlF
3は、Mg等と反応してKMgAlF
6等を形成すると考えられる。上記NaFは、Mg等と反応してNaMgF
3等を形成すると考えられる。上記LiFは、Mg等と反応してLiMgAlF
6等を形成すると考えられる。また、上記NaF及びLiFは、低融点化剤としても機能する。
【0053】
[B]成分の含有量の上限としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、200質量部が好ましく、100質量部がより好ましく、60質量部がさらに好ましい。[B]成分の含有量が上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の含有量が低下し、ろう付け性が低下するおそれがある。
【0054】
[B]成分の含有量の下限も、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、1質量部が好ましく、2質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。[B]成分の含有量が上記下限未満であると、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0055】
[B]成分の存在形態としては、特に限定されないが、[B]成分を含む粒子の状態が好ましく、[A]フラックス成分を含まない粒子(例えば、[B]成分のみからなる粒子)の状態がさらに好ましい。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。上述したように[A]フラックス成分と[B]成分とをそれぞれ別の粒子とすることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0056】
なお、当該フラックスには、本発明の効果を阻害しない範囲で[A]フラックス成分及び[B]成分以外の成分が含有されていてもよい。
【0057】
当該フラックスの状態としては、特に限定されないが、通常、粉末状である。但し、その他、固形状やペースト状などであってもよい。
【0058】
当該フラックスの製造方法としては、特に限定されず、[A]フラックス成分
、[B]成分及び必要に応じて他の成分を適当な割合で混合する。この混合の方法としては、例えば(1)それぞれ粉末状の成分を単に混合し、粉末状のフラックスとして得る方法、(2)それぞれ粉末状の各成分を混合してルツボ等で加熱溶融した後、冷却し固形状又は粉末状のフラックスとして得る方法、(3)それぞれ粉末状の各成分を水等の溶媒中に懸濁させペースト状又はスラリー状のフラックスとして得る方法などを挙げることができる。上述のように、[A]フラックス成分を含む粒子と、[B]成分を含む粒子とを含有させるためには、(1)及び(3)の方法が好ましい。
【0059】
〔他の実施形態〕
本発明のアルミニウム複合材、熱交換器及びフラックスは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、当該アルミニウム複合材は、フラックス層が積層されたクラッド材を加熱して得られるもの以外に、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金材等を、ろう材及びフラックスを用いて接合したものであってもよい。また、クラッド材とクラッド材以外の金属板材等とを接合したものであってもよい。
【0060】
また、上記クラッド材は、上記層構造のもの以外に、ろう材/芯材/ろう材(三層両面ろう材)や、ろう材/芯材/中間層/ろう材(四層材)などの三層以上の構造を有するものであってもよい。また、上記クラッド材は、上記芯材の他方の面に積層され、芯材より電位が卑な犠牲材をさらに備えているものでもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1〜14及び比較例1]
[A]フラックス成分100質量部と、表1に記載の種類及び質量部の[B]成分とを100mLのイオン交換水に添加し、懸濁させることで各フラックスを得た。なお、[A]フラックス成分としては、KAlF
4を80体積%及びK
2(AlF
5)(H
2O)を20体積%含む粒子状のものを用いた。[B]成分としては、それぞれ粒子状のAlF
3、NaF及びLiFを用いた。
【0063】
クラッド材として、犠牲材と、マグネシウム含有量0.4質量%のアルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の表面に積層されるろう材(JIS4045、クラッド率10%)とからなるものを用意した。このクラッド材の厚さは0.4mmである。上記クラッド材の表面(ろう材表面)に、得られた上記各フラックスを5g/m
2(固形分換算)で塗布して乾燥させることで、フラックス層を積層させた。なお、このように懸濁状のフラックスを塗布し、イオン交換水を乾燥除去することで、粉末状の各成分が均一に塗布できるようにした。
【0064】
軽金属溶接構造協会規格(LWS T8801)に準じた以下の方法で、フラックス層を積層させた上記各クラッド材をろう付けし、実施例1〜14及び比較例1の各アルミニウム複合材を得た。具体的な方法を
図3を参照にしつつ、以下に示す。下板11として、クラッド材をフラックス層を上面にして静置した。この下板の上面に、上板12として、板厚1.0mmの3003Al合金(母材)を立てて配置した。なお、下板11と上板12の一端との間にはSUS製の棒状のスペーサー13を挟み、下板11と上板12の一端との間に隙間を設けた。
【0065】
上述の状態でろう付け(間隙充填試験)を実施した。具体的には、露点−40℃、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下で、600℃で15分加熱することで、下板11と上板12とのろう付けを行った。室温から600℃までの平均昇温速度は50℃/minとした。このようにすることで、ろう材及びフラックスが溶融し、その後硬化して下板11と上板12との間にフィレット14(接合材)が形成された。
【0066】
[評価]
(1)フィレット形成長さ
ろう付け加熱により形成されたフィレット14の長さ(フィレット形成長さL)を測定し、ろう付け性の指標とした。フィレット形成長さLが長いほど、ろう付け性に優れる。評価結果(フィレット形成長さ)を表1に示す。
(2)接合材(ろう部分)の成分及び存在量
ろう付け加熱により形成されたフィレット14(接合材;ろう部分)の表面を以下の方法にて分析し、存在する成分の存在量を求めた。各存在量を表1に示す。なお、加熱前のろう材及びフラックス中にはMg含有化合物は存在しないため、これらのMg含有化合物は全て芯材中のマグネシウムと反応して生成されたもの(生成物)であると考えられる。
1.フィレット14の表面をリガク社製水平型X線回折装置SmartLabを使用し定量分析した。
2.上記定量分析で得られたXRDスペクトルにおけるアルミニウム合金由来のピーク(Al及びSi)を除外し、生成された各化合物の存在量比[質量%]を求めた。
3.上記生成された化合物中、全Mg含有化合物(KMgF
3、KMgAlF
6、MgF
2、NaMgF
3及びLiMgAlF
6)に対する各Mg含有化合物の存在量を下記式(1)を用いて算出した。
【0067】
W
KMgF3=100×W
KMgF3,XRD/(W
KMgF3,XRD+W
KMgAlF6,XRD+W
MgF2,XRD+W
NaMgF3,XRD+W
LiMgAlF6,XRD) ・・・(1)
【0068】
ここで、W
KMgF3はKMgF
3の存在量[質量%]であり、W
KMgF3,XRD、W
KMgAlF6,XRD、W
MgF2,XRD、W
NaMgF3,XRD及びW
LiMgAlF6,XRDは、それぞれ上記2.で求められたKMgF
3、KMgAlF
6、MgF
2、NaMgF
3及びLiMgAlF
6の存在量比[質量%]である。
なお、上記式(1)はKMgF
3の存在量[質量%]を求める式であり、他の化合物の存在量も同様に算出した。
【0069】
【表1】
【0070】
また、接合材の存在成分と、フィレット形成長さとの関係を
図4〜6に示す。
図4は、全Mg含有化合物に対するKMgF
3及びMgF
2以外のMg含有化合物の存在量(質量%)とフィレット形成長さ(mm)との関係を示す図である。
図5は、全Mg含有化合物に対するKMgAlF
6の存在量(質量%)とフィレット形成長さ(mm)との関係を示す図である。
図6は、全Mg含有化合物に対するNaMgF
3の存在量(質量%)とフィレット形成長さ(mm)との関係を示す図である。
【0071】
表1及び
図4に示されるように、実施例の各アルミニウム複合材は、接合材(フィレット)にKMgF
3及びMgF
2以外のマグネシウム含有化合物が存在し、フィレット形成長さが長く、ろう付け性に優れていることがわかる。
【0072】
特に、
図5及び
図6に示されるように、全Mg含有化合物に対するKMgAlF
6及びNaMgF
3の存在量とフィレット形成長さとの相関は高く、これらの化合物の存在量(生成量)が多いほど、ろう付け性が高まっていることがわかる。