特許第6184712号(P6184712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184712
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/46 20060101AFI20170814BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H02P5/46 C
   H02P27/08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-59403(P2013-59403)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-187747(P2014-187747A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年9月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−076752(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0235617(US,A1)
【文献】 特開2012−176634(JP,A)
【文献】 特開2010−016981(JP,A)
【文献】 特開平01−318598(JP,A)
【文献】 特開2009−130990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモータと、これらモータを駆動する単一の駆動電源と、前記複数のモータのモータコイルへの通電時間をPWM駆動方式で制御する制御装置とを備えたモータ駆動装置において、
前記制御装置は、前記モータへ電流を流すPWM信号を、モータ毎に異なる位相とする位相ずらし手段を有し、
前記制御装置は複数の演算装置を有し、前記制御装置は、
前記複数の演算装置が正常時に、これら複数の演算装置によりそれぞれ互いに位相の異なるPWM信号で各モータを駆動させる正常時駆動制御手段と、
前記複数の演算装置のうちいずれか一つの演算装置が異常時に、前記異常時の演算装置で駆動していたモータを、他の演算装置により駆動させる異常時駆動制御手段と、
を有するモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ駆動装置において、前記モータは、自動車に搭載されるモータであるモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載のモータ駆動装置において、前記モータは、電気自動車の車輪を駆動するモータであるモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置において、前記位相ずらし手段は、PWM信号の位相のずれ時間Δtを、PWM信号の1周期twを前記制御装置で駆動する前記モータの数nで除した、Δt=tw/nとするモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、複数のモータを単一の駆動電源で駆動する電気自動車等に適用されるモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右の車輪をそれぞれ駆動するモータを単一の駆動電源で駆動する電気自動車が提案されている(特許文献1)。これらのモータを制御する制御装置は、例えば、駆動電源の直流電力をモータの駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータと、このインバータを制御するPWMドライバとを有する。前記インバータは、複数の半導体スイッチング素子を有し、前記PWMドライバは、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように単一の駆動電源から複数のモータを、PWM方式で同時に駆動する場合、駆動電源と制御装置との間の銅損は、駆動電源がモータ毎にそれぞれ設けられる場合に比較して、PWMによる通電時間が重なるほどに増加する課題がある。駆動電源−制御装置(インバータ)間の損失要因として、駆動電源の内部抵抗、ハーネスの抵抗等がある。
【0005】
この発明の目的は、駆動電源と制御装置との間の損失を低減することができるモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のモータ駆動装置6は、複数のモータ4と、これらモータ4を駆動する単一の駆動電源7と、前記複数のモータ4のモータコイルへの通電時間をPWM駆動方式で制御する制御装置8とを備えたモータ駆動装置6において、前記制御装置8は、前記モータ4へ電流を流すPWM信号を、モータ毎に異なる位相とする位相ずらし手段10aを有する。
【0007】
駆動電源7と制御装置8との間の通電経路L1においては、一定電圧に対して電流がパルス波状に分割され、制御装置8とモータ4との間の通電経路L2では電圧がパルス波状に分割される。
この発明の構成によると、制御装置8の位相ずらし手段10aが、モータ4へ電流を流すPWM信号をモータ毎に異なる位相とすることで、パルス波状の電流を同一時間で重なりが少なくなるように均すことができる。すなわち、位相ずらし手段10aは、一のモータ4へ電流を通電させる通電時間と、他のモータ4へ電流を通電させる通電時間とをずらし、これらモータ4へ流す電流を足し合わせた波形図において、電流値が大きくなることを抑制し得る。このように、電流の通電時間のいわゆるオーバーラップを回避することができる。これにより、駆動電源7と制御装置8との間の通電経路L1の損失を低減することができる。通電経路L1の損失は、例えば、通電時間に対しては単純な比例関係であり、電流値に対しては電流値の2乗に比例するからである。したがって、位相ずらし手段10aがモータ4へ電流を流す通電時間をずらすことにより、駆動電源7と制御装置8との間の損失を低減することができる。
【0008】
前記モータ4は、自動車に搭載されるモータ4であっても良い。この場合、自動車に搭載される駆動電源であるバッテリ7と制御装置8との間の損失を低減できる。このため、自動車の電費または燃費の向上を図り、航続距離を延ばすことが可能となる。
前記モータ4は、電気自動車1の車輪を駆動するモータ4であっても良い。車輪を駆動するモータ4は、各電装機器のモータよりも出力が大きい。この場合、バッテリ7と制御装置8との間の損失を低減する影響が大きくなり、電気自動車1の電費の向上を図り、航続距離をより延ばすことが可能となる。
前記位相ずらし手段10aは、PWM信号の位相のずれ時間Δtを、PWM信号の1周期twを前記制御装置8で駆動する前記モータ4の数nで除した、Δt=tw/nとするものであっても良い。このように位相のずれ時間Δtを規定して、一のモータ4へ電流を通電させる通電時間と、他のモータ4へ電流を通電させる通電時間とをずらすことで、パルス波状の電流をできるだけ同一時間で重ならないように均すことができる。前記のような簡単な演算式で位相をずらすことができるため、演算処理負荷を低減することもできる。
【0009】
前記制御装置8は、単一の演算装置10と、駆動する複数のモータ4それぞれに接続されるスイッチング素子11とを有するものとしても良い。この場合、モータ駆動装置の全体構造を簡素化でき、製造コストの低減を図ることができる。
【0010】
前記制御装置8は複数の演算装置10を有し、前記制御装置8は、前記複数の演算装置10が正常時に、これら複数の演算装置10によりそれぞれ互いに位相の異なるPWM信号で各モータ4を駆動させる正常時駆動制御手段21と、前記複数の演算装置10のうちいずれか一つの演算装置10が異常時に、前記異常時の演算装置10で駆動していたモータ4を、他の演算装置10により駆動させる異常時駆動制御手段22とを有する。一つの演算装置10が異常と判定された場合であっても、異常と判定されていない他の正常な演算装置10によりモータ4を駆動させることができる。この場合、例えば、制御装置8が単一の演算装置を有するものよりも制御系が複雑化するものの冗長性を持たせることができる。
【0011】
前記モータ4は、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータ4と車輪用軸受と減速機5とを含むインホイールモータ部3を構成するものであっても良い。
前記モータ4は、車両に搭載された電動ブレーキ装置のパッド駆動用モータであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明のモータ駆動装置は、複数のモータと、これらモータを駆動する単一の駆動電源と、前記複数のモータのモータコイルへの通電時間をPWM駆動方式で制御する制御装置とを備えたモータ駆動装置において、前記制御装置は、前記モータへ電流を流すPWM信号を、モータ毎に異なる位相とする位相ずらし手段を有し、前記制御装置は複数の演算装置を有し、前記制御装置は、前記複数の演算装置が正常時に、これら複数の演算装置によりそれぞれ互いに位相の異なるPWM信号で各モータを駆動させる正常時駆動制御手段と、前記複数の演算装置のうちいずれか一つの演算装置が異常時に、前記異常時の演算装置で駆動していたモータを、他の演算装置により駆動させる異常時駆動制御手段とを有するため、駆動電源と制御装置との間の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の第1の実施形態に係るモータ駆動装置を搭載した電気自動車における構成部品の配置構成を概略示す図である。
図2】(A)は、同モータ駆動装置の回路の基本構成を概略示す図、(B)は、同モータ駆動装置の回路構成例を概略示す図である。
図3】同モータ駆動装置の制御系のブロック図である。
図4】(A)は、駆動電源と制御装置との間の電圧および電流の波形図、(B)は、駆動電源とモータとの間の電圧および電流の波形図である。
図5】同モータ駆動装置のモータ駆動時の電圧電流波形を示す波形図である。
図6】(A)は、複数のモータへの通電時間をずらした波形図であり、(B)は、これら複数のモータへ流す電流を足し合わせた波形図である。
図7参考提案例に係るモータ駆動装置の回路構成例を概略示す図である。
図8】(A)は、従来例に係り、複数のモータへの通電時間を同一にした波形図であり、(B)は、これら複数のモータへ流す電流を足し合わせた波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態に係るモータ駆動装置を図1ないし図6と共に説明する。以下の説明は、モータ駆動装置の制御方法についての説明をも含む。
図1は、この実施形態のモータ駆動装置を搭載した電気自動車における構成部品の配置構成を概略示す図である。同図1に示すように、この電気自動車1は、駆動輪となる左右の後輪2,2のそれぞれにインホイールモータ部3,3を配置し、これらのインホイールモータ部3,3で移動駆動される。なお電気自動車に代えて燃料電池車であっても良い。
【0015】
インホイールモータ部3,3は、例えば、モータ4と、このモータ4の回転を減速する減速機5と、図示外の車輪用軸受とを有し、一部または全体が車輪内に配置される。この実施形態に係るモータ駆動装置6は、複数(この例では2つ)のモータ4と、これらのモータ4を駆動する単一の駆動電源7と、前記複数のモータ4のモータコイルへの通電時間をPWM駆動方式で制御する制御装置8とを備えている。
【0016】
図2(A)は、このモータ駆動装置6の回路の基本構成を概略示す図であり、図2(B)は、同モータ駆動装置6の回路構成例を概略示す図である。図2(B)に示すように、モータ4は、例えばUVWの3相のモータコイルを有するステータ4aと、永久磁石で構成されるロータ4bとを有する同期モータである。モータ駆動装置6の制御装置8は、例えば、平滑回路9と、複数の演算装置10,10と、駆動する複数のモータ4,4それぞれに接続される複数のスイッチング素子11とを有する。なお制御装置8の一部に、各スイッチング素子11を冷却する図示外の冷却器を設けても良い。
【0017】
駆動電源7から供給される直流電力は、平滑回路9で平滑化されて、複数のモータ4に対応するスイッチング素子11にそれぞれ入力される。モータ駆動装置6では、インホイールモータ部3,3の駆動の際に大電流を制御するため、入力段にコンデンサからなる平滑回路9が必要となる。モータ駆動回路部11であるスイッチング素子11は、例えば、スイッチングトランジスタ等の複数の駆動素子からなり、平滑回路9を経て入力される直流電力を、演算装置10による前記駆動素子の断続制御で三相交流電力に変換してモータ4に供給する。なおこの例では、モータ毎に対応する演算装置10,10が設けられているが、この例に限定されるものではない。
【0018】
演算装置10では、モータ4に設けられる位相検出器12で検出されるロータ4bの回転位相に基づき、前記モータ駆動回路部の駆動素子の断続制御のタイミングが決められる。また演算装置10は、演算装置同士で通信する機能、および車両に配置されこの車両の各電装機器を統括して制御する上位制御手段であるECU13(図3)と通信する機能を有する。
図3は、このモータ駆動装置の制御系のブロック図である。同図3に示すように、車体には、ECU13と、複数のインバータ装置14を含む制御装置8と、駆動電源7であるバッテリと、モータ4とが搭載されている。ECU13は、自動車全般の統括制御を行い、各インバータ装置14に指令を与える上位制御手段であり、相互にコントロール・エリア・ネットワーク(略称CAN)等で接続されている。
【0019】
各インバータ装置14は、ECU13の指令に従って各モータ4をそれぞれ制御する。ECU13は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。ECU13と各インバータ装置14の弱電系とは、互いに共通のコンピュータや共通の基板上の電子回路で構成されていても良い。
ECU13のトルク配分手段(図示せず)は、アクセル開度の信号と、減速指令と、旋回指令とから、左右の車輪駆動用のモータ4,4に与える加速・減速指令をトルク値として生成し、各インバータ装置14へ出力する。バッテリ7は、モータ4の駆動、および車両全体の電気系統の電源として用いられる。
【0020】
このモータ駆動装置は、左右のモータ4,4を協調制御する左右輪協調駆動制御手段15を有する。この例では、左右輪協調駆動制御手段15は、ECU13に設けられる演算装置状態報告手段16と、各インバータ装置14にそれぞれ設けられる、異常確認報告手段17と、駆動制御手段18とを有する。各駆動制御手段18は、異常判定手段19と、制御方法切替手段20と、正常時駆動制御手段21と、異常時駆動制御手段22と、演算装置10とを有する。複数の演算装置10のいずれもが正常時には、正常時駆動制御手段21は、ECU13から与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して前記演算装置10に電流指令を与える。正常時駆動制御手段21は、モータ4に流す電流値を得て、電流フィードバック制御を行う。また、正常時駆動制御手段21は、モータ4のロータの回転角を角度センサ(図示せず)から得て、ベクトル制御を行う。
【0021】
異常判定手段19は、電流検出センサ23で計測したモータ駆動回路部から出力される電流を電流検出回路部26より取得し、演算装置に異常が発生したか否かを判定する。この異常判定手段は、例えば、モータ印加電圧に対して、モータ駆動回路部11から出力される3相(U,V,W相)の出力電流の少なくともいずれか1つが定められた閾値範囲以内にあるか否かを判定する。例えば、実験、シミュレーション等により、モータ印加電圧に対する出力電流の基準値を求めておき、この出力電流に例えば安全係数を見込んだ値を前記閾値とする。異常判定手段19は、例えば、モータ駆動回路部11から出力される3相(U,V,W相)の出力電流の少なくともいずれか1つが定められた閾値範囲を外れたと判定したとき、前記演算装置10を異常と判定し、3相(U,V,W相)の出力電流の全てが閾値範囲内と判定したとき、前記演算装置10を正常と判定する。
【0022】
異常判定手段19により前記演算装置10が正常と判定されたとき、正常時駆動制御手段21により、前記演算装置10を用いてモータ駆動回路部11の各駆動素子を断続制御する。異常判定手段19により前記演算装置10が異常と判定されたとき、異常時駆動制御手段22により、他の演算装置10を用いて前記モータ駆動回路部11の各駆動素子を断続制御する。
異常確認報告手段17は、異常判定手段19により演算装置10が異常と判定したときに、ECU13に異常発生情報を出力する手段である。ECU13は、異常確認報告手段17から出力された異常発生情報を受けて、例えば、運転席の表示装置24に異常を知らせる表示を行わせると同時に、正常な演算装置側のインバータ装置14における異常確認報告手段17に対し、もう一方の演算装置10の異常を出力する。
【0023】
図2(A)に示す駆動電源7と制御装置8との間の通電経路L1においては、図4(A)に示すように、一定電圧に対して電流がパルス波状に分割され、図2(A)に示す制御装置8とモータ4との間の通電経路L2では、図4(B)に示すように、電圧がパルス波状に分割される。
図3に示すように、各演算装置10は、駆動電源7と制御装置8との間の通電経路における電流の通電時間のいわゆるオーバーラップを回避するため、モータ4へ電流を流すPWM信号を、モータ毎に異なる位相とする位相ずらし手段10aを有する。この位相ずらし手段10aは、PWM信号の位相のずれ時間Δtを、PWM信号の1周期twをこの制御装置8で駆動するモータ4の数n(この例ではn=2)で除した、Δt=tw/nとしている。位相ずらし手段10aは、例えば、一方のモータ用の駆動素子における、各位相検出器25で検出される各オン動作の開始の時間、つまり立上がり時間を基準にして、他方のモータ用の駆動素子における、各オン動作の開始の時間をずれ時間Δtずらす。
【0024】
図5は、このモータ駆動装置のモータ駆動時の電圧電流波形を示す波形図である。前記各演算装置(図3)は、PWM制御によりモータ駆動回路部の駆動素子をオンオフさせて正弦波状の電流を、モータのステータのコイルに流す。
図6(A)は、複数のモータへの通電時間t1,t2をずらした波形図であり、図6(B)は、これら複数のモータへ流す電流を足し合わせた波形図である。
ここで図8(A)は、従来例に係り、複数のモータへの通電時間t1,t2を同一にした波形図であり、図8(B)は、これら複数のモータへ流す電流を足し合わせた波形図である。
駆動電源と制御装置との間の通電経路の損失は、例えば、通電時間に対しては単純な比例関係であり、電流値に対しては電流値の2乗に比例する。
したがって、図6(A),(B)に示すように、位相ずらし手段10a(図3)がモータへ電流を流す通電時間をずらすことにより、パルス波状の電流を同一時間で重なりが少なくなるように均すことができる。位相ずらし手段10aは、一のモータ4へ電流を通電させる通電時間と、他のモータ4へ電流を通電させる通電時間とをずらし、これらモータ4へ流す電流を足し合わせた波形図において、電流値が大きくなることを抑制し得る。このように、電流の通電時間のいわゆるオーバーラップを回避することができる。これにより、駆動電源と制御装置との間の損失を低減し得る。例えば、通電時間50%以下のDCモータの場合、駆動電源と制御装置との間の銅損は50%となる。
また、モータ4は、自動車に搭載されるモータ4であるため、自動車に搭載される駆動電源であるバッテリ7と制御装置8との間の損失を低減できる。このため、自動車の電費の向上を図り、航続距離を延ばすことが可能となる。
【0025】
図3に示す位相ずらし手段10aは、いずれか一方の演算装置10の異常、正常にかかわらず、複数のモータ4への通電時間をずらす。いずれか一方の演算装置10に異常が発生した場合であっても、他方の演算装置10の位相ずらし手段10aにより、各モータ4へ電流を流す通電時間をずらす。なおこの実施形態では、各オン動作の開始の時間を基準にして複数のモータ4への通電時間をずらしているが、この例に限定されるものではない。例えば、各オン動作時間の中心を基準にして複数のモータ4への通電時間をずらしても良い。
【0026】
制御装置8は複数の演算装置10を有し、制御装置8は、正常時駆動制御手段21と、異常時制御手段22とを有するため、一つの演算装置10が異常と判定された場合であっても、他の正常な演算装置10によりモータ4を駆動させることができる。この場合、例えば、制御装置8が単一の演算装置を有するものよりも制御系が複雑化するものの冗長性を持たせることができる。
【0027】
図7は、参考提案例に係るモータ駆動装置の回路構成例を概略示す図である。同図7に示すように、制御装置8Aは、単一の演算装置10と、駆動するモータ4それぞれに接続されるスイッチング素子11とを有するものであっても良い。演算装置10は、PWM制御によりモータ駆動回路部の駆動素子をオンオフさせて正弦波状の電流を、各モータ4のステータ4aのコイルに流す。この場合において、演算装置10の位相ずらし手段10aは、各モータ4毎に電流値の位相をずらしている。この場合、演算装置10を共有化することができるため、第1の実施形態よりもモータ駆動装置の全体構造を簡素化でき、製造コストの低減を図ることができる。
車両が、前左右車輪および後左右車輪のいずれか一方を前記インホイールモータ部で駆動し、他方を内燃機関で駆動するハイブリッド車であっても良い。
各実施形態および参考提案例では、モータ駆動装置を車輪駆動用のモータに適用しているが、例えば、車両に搭載された電動ブレーキ装置のパッド駆動用モータや、電装機器駆動用のモータに適用しても良い。

【符号の説明】
【0028】
1…電気自動車
2…後輪(駆動輪)
4…モータ
6…モータ駆動装置
7…駆動電源
8…制御装置
10…演算装置
10a…位相ずらし手段
11…スイッチング素子
21…正常時駆動制御手段
22…異常時駆動制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8